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最高裁判所第一小法廷判決平成22年06月17日

【事案】

1.新築建物を購入した被上告人らが,当該建物には構造耐力上の安全性を欠くなどの瑕疵があると主張して,その設計,工事の施工等を行った上告人らに対し,不法行為に基づく損害賠償等を求める事案。

2.事実関係の概要等

(1) 上告人Y1は,上告人Y2との間で,鉄骨造スレート葺3階建ての居宅である第1審判決別紙物件目録記載2の建物(以下「本件建物」という。)の建築を目的とする請負契約を締結した。その工事の施工は上告人Y2が,その設計及び工事監理は上告人Y3及び上告人Y4が行い,本件建物は平成15年5月14日までに完成した。

(2) 被上告人らは,平成15年3月28日,上告人Y1から,代金3700万円で,持分を各2分の1として本件建物及びその敷地を購入した。被上告人らは,同年5月31日,本件建物の引渡しを受け,以後これに居住している。

(3) 本件建物には,柱はり接合部に溶接未施工の箇所や,突合せ溶接(完全溶込み溶接)をすべきであるのに隅肉溶接ないし部分溶込み溶接になっている箇所があるほか,次のような構造耐力上の安全性にかかわる重大な瑕疵があるため,これを建て替えざるを得ない。

ア.1階及び2階の柱の部材が小さすぎるため,いずれも柱はり耐力比が制限値を満たしていない上,1階の柱については応力度が許容応力度を超えている。

イ.2階の大ばりの部材が小さすぎるため,応力度が許容応力度を超えている。

ウ.2階及び3階の大ばりの高力ボルトの継ぎ手の強度が不足している。

エ.外壁下地に,本来風圧を受けない間仕切り壁の下地に使用される軽量鉄骨材が使用されているため,暴風時などに風圧を受けると,大きなたわみを生じ,外壁自体が崩壊するおそれがある。

オ.基礎のマットスラブの厚さが不足しており,その過半で応力度が許容応力度を超えている。

3.原審は,上告人らの不法行為責任を肯定した上,本件建物の建て替えに要する費用相当額の賠償責任を認めるなどして,被上告人らの請求を各1564万4715円及び遅延損害金の支払を求める限度で認容すべきものとした。

【判旨】

1.所論は,被上告人らがこれまで本件建物に居住していたという利益や,被上告人らが本件建物を建て替えて耐用年数の伸長した新築建物を取得するという利益は,損益相殺の対象として,建て替えに要する費用相当額の損害額から控除すべきであるというのである。

2(1) 売買の目的物である新築建物に重大な瑕疵がありこれを建て替えざるを得ない場合において,当該瑕疵が構造耐力上の安全性にかかわるものであるため建物が倒壊する具体的なおそれがあるなど,社会通念上,建物自体が社会経済的な価値を有しないと評価すべきものであるときには,上記建物の買主がこれに居住していたという利益については,当該買主からの工事施工者等に対する建て替え費用相当額の損害賠償請求において損益相殺ないし損益相殺的な調整の対象として損害額から控除することはできないと解するのが相当である。
 前記事実関係によれば,本件建物には,2(3)のような構造耐力上の安全性にかかわる重大な瑕疵があるというのであるから,これが倒壊する具体的なおそれがあるというべきであって,社会通念上,本件建物は社会経済的な価値を有しないと評価すべきものであることは明らかである。そうすると,被上告人らがこれまで本件建物に居住していたという利益については,損益相殺ないし損益相殺的な調整の対象として損害額から控除することはできない。

(2) また,被上告人らが,社会経済的な価値を有しない本件建物を建て替えることによって,当初から瑕疵のない建物の引渡しを受けていた場合に比べて結果的に耐用年数の伸長した新築建物を取得することになったとしても,これを利益とみることはできず,そのことを理由に損益相殺ないし損益相殺的な調整をすべきものと解することはできない。

3.原審の判断は,以上と同旨をいうものとして是認することができる。論旨は採用することができない。

【宮川光治補足意見】

 建物の瑕疵は容易に発見できないことが多く,また瑕疵の内容を特定するには時間を要する。賠償を求めても売主等が争って応じない場合も多い。通常は,その間においても,買主は経済的理由等から安全性を欠いた建物であってもやむなく居住し続ける。そのような場合に,居住していることを利益と考え,あるいは売主等からの賠償金により建物を建て替えると耐用年数が伸長した新築建物を取得することになるとして,そのことを利益と考え,損益相殺ないし損益相殺的な調整を行うとすると,賠償が遅れれば遅れるほど賠償額は少なくなることになる。これは,誠意なき売主等を利するという事態を招き,公平ではない。重大な欠陥があり危険を伴う建物に居住することを法的利益と考えること及び建物には交換価値がないのに建て替えれば耐用年数が伸長するなどと考えることは,いずれも相当でないと思われる。

 

最高裁判所第三小法廷判決平成22年06月29日

【事案】

1.権利能力のない社団であるAを債務者とする金銭債権を表示した債務名義を有する上告人が,第1審判決別紙物件目録記載の各不動産(以下「本件不動産」という。)は,Aの構成員全員に総有的に帰属しており,本件不動産の登記名義人である被上告人は,民事執行法(以下「法」という。)23条3項所定の「請求の目的物を所持する者」に準ずる者であると主張し,上記債務名義につき,被上告人を債務者として本件不動産を執行対象財産とする法27条2項の執行文(以下「本件執行文」という。)の付与を求める事案。

2.原審は,権利能力のない社団を債務者とする金銭債権を表示した債務名義を有する債権者が,当該社団の構成員全員に総有的に帰属する不動産(以下「構成員の総有不動産」という。)に対して強制執行をしようとする場合において,上記不動産につき,当該社団の代表者がその登記名義人とされているときは,法23条3項の規定を拡張解釈して,上記債権者は,上記債務名義につき,上記代表者を債務者として構成員の総有不動産を執行対象財産とする執行文の付与を求めることができると解するのが相当であるが,本件不動産の登記名義人である被上告人は,そもそもAの構成員でなく,その代表者でないから,上告人は本件執行文の付与を求めることはできないとして,上告人の請求を棄却すべきものとした。

【判旨】

1.権利能力のない社団を債務者とする金銭債権を表示した債務名義を有する債権者が,構成員の総有不動産に対して強制執行をしようとする場合において,上記不動産につき,当該社団のために第三者がその登記名義人とされているときは,上記債権者は,強制執行の申立書に,当該社団を債務者とする執行文の付された上記債務名義の正本のほか,上記不動産が当該社団の構成員全員の総有に属することを確認する旨の上記債権者と当該社団及び上記登記名義人との間の確定判決その他これに準ずる文書を添付して,当該社団を債務者とする強制執行の申立てをすべきものと解するのが相当であって,法23条3項の規定を拡張解釈して,上記債務名義につき,上記登記名義人を債務者として上記不動産を執行対象財産とする法27条2項の執行文の付与を求めることはできないというべきである。その理由は,次のとおりである。
 権利能力のない社団の構成員の総有不動産については,当該社団が登記名義人となることはできないから(最高裁昭和45年(オ)第232号同47年6月2日第二小法廷判決・民集26巻5号957頁参照),権利能力のない社団を債務者とする金銭債権を表示した債務名義を有する債権者が,構成員の総有不動産に対して強制執行をしようとする場合,債務名義上の債務者と強制執行の対象とする上記不動産の登記名義人とが一致することはない。そうであるにもかかわらず,債務名義上の債務者の所有財産につき,当該債務者をその登記名義人とすることができる通常の不動産に対する強制執行と全く同様の執行手続を執るべきものと解したならば,上記債権者が権利能力のない社団に対して有する権利の実現を法が拒否するに等しく,かかる解釈を採ることは相当でない。上記の場合において,構成員の総有不動産につき,当該社団のために第三者がその登記名義人とされているときは,登記記録の表題部に債務名義上の債務者以外の者が所有者として記録されている不動産に対する強制執行をする場合に準じて,上記債権者は,上記不動産が当該社団の構成員全員の総有に属することを確認する旨の上記債権者と当該社団及び上記登記名義人との間の確定判決その他これに準ずる文書を添付して,当該社団を債務者とする強制執行の申立てをすることができると解するのが相当である(民事執行規則23条1号参照)。
 これに対し,法23条3項の規定は,特定物の引渡請求権等についての強制執行の場合を予定しているものであるし,法27条2項に規定する執行文付与の手続及び執行文付与の訴えにおいて,強制執行の対象となる財産が債務名義上の債務者に帰属するか否かを審理することも予定されていないことからすると,法23条3項の規定を金銭債権についての強制執行の場合にまで拡張解釈することは許されないものというべきである。

2.以上によれば,上告人は本件執行文の付与を求めることはできないから,上告人の請求を棄却すべきものとした原審の判断は,結論において是認することができる。論旨は,採用することができない。

【田原睦夫補足意見】

 私は,本件事案の処理との関係において法廷意見に賛成するものであるが,本件に関連する法的諸論点については,従前,詰めた論議がさほどなされていなかったことにかんがみ,以下の諸点について若干の意見を補足的に述べる。

1.法23条3項の拡張解釈の可否について

 権利能力のない社団を名宛人とする金銭債権を表示した債務名義に基づいて,その構成員の総有に属し,その所有権に係る登記名義が社団のために代表者等の名義となっている不動産に対して強制執行をする場合には,法23条3項を拡張解釈して,登記名義人を名宛人とする執行文を取得して行うことができるとする見解が,これまで学説上有力であった。
 ところで,法23条3項は,法廷意見にて指摘するとおり,特定物の引渡請求権等についての強制執行の場合に関する規定であって,同項を金銭債権についての強制執行の場合にも類推適用し得ると解することは,条文の趣旨から大きく外れるものであるところ,上記の有力説が主張されたのは,構成員の総有不動産に対して強制執行をなすにつき他に適切な方法がないとの理由によるものであった。
 しかし,法廷意見で述べるとおりの方法により,権利能力のない社団を名宛人とする金銭債権を表示した債務名義に基づいて,構成員の総有不動産に対する強制執行をなし得る以上,法23条3項を同条本来の規定の趣旨を大きく離れて拡張して解釈する上記有力説の見解は,実務上採用するべきでないと考える。
 また,上記の執行手続における本来の執行債務者は権利能力のない社団であるにもかかわらず,上記有力説によれば,その執行債務者は登記名義人とならざるを得ないのであって,金銭債権の執行手続としては異例の形態となるのに加えて,その執行手続中に,当該登記名義人を本来の名宛人とする債務名義を有する第三者が配当加入してきた場合に,それを排除することが極めて困難である等,付随する様々な問題が生じ得るのであって,それらの困難な問題を抱えてまで上記有力説を採用すべき必要はないものというべきである。

2.構成員の総有不動産の登記名義人と金銭債権に基づく強制執行手続について

 金銭債権を表示した債務名義に基づいて不動産に対する強制執行を申し立てるに際しては,本来,執行債務者と当該不動産の権利に関する登記名義人とが一致していることが必要とされる。ところで,権利能力のない社団は,社団自体が権利の主体となれない以上,構成員の総有不動産に係る権利の登記は,社団を代表する者の氏名等でなされることになる(前掲最高裁昭和47年6月2日第二小法廷判決参照)ところ,かかる不動産に対しても,権利能力のない社団を名宛人とする金銭債権を表示した債務名義でもって強制執行をすることができてしかるべきである。その場合に如何なる要件が整えばその強制執行をすることができるかが本件で問われている。
 そこで,以下では,登記名義人と権利能力のない社団との関連性が,証明力の強い文書(債務名義,当該社団の規約等,後記3を参照)により明確に認められる場合と,その関係が必ずしも明らかではない場合とに分けて考察することとする。

(1) 登記名義人が権利能力のない社団の代表者である等その関連性が債務名義,当該社団の規約等から明らかな場合

 執行対象不動産が,構成員の総有不動産であることが当該権利能力のない社団との関係で証明され,かつ,その登記名義人と権利能力のない社団との関連性が文書により明確に証明される場合には,登記手続上それ以上の証明の方法が存しないことからして,執行対象不動産の登記名義人と執行債務者の名義とが一致している場合に準じて執行手続を行うことが許されると考える。
 具体的には,登記名義が権利能力のない社団の代表者名義の場合,権利能力のない社団を構成する者の全員の共有名義の場合,権利能力のない社団の規約等に定められた手続により登記名義人となるべき者とされた者の名義の場合(最高裁平成3年(オ)第1724号同6年5月31日第三小法廷判決・民集48巻4号1065頁参照)等である。
 かかる場合には,当該不動産が権利能力のない社団の構成員の総有に属するものであることが証明される以上,当該登記名義人はその執行手続を受忍すべき立場にあるといえる。また,このような登記名義人と権利能力のない社団との関連性を示す証明力の強い文書が提出されている以上,当該登記名義人が権利能力のない社団との関連性を争う場合(例えば,権利能力のない社団との関係では,当該不動産が当該社団の構成員の総有に属することを確認する確定判決等があり,かつ,当該社団と登記名義人との上記のような関連性を示す文書が存するにもかかわらず,当該登記名義人がその固有財産であることを主張する場合等)に,当該登記名義人に第三者異議の訴えを提起する負担を負わせても衡平に反するものでないというべきである。

(2) 登記名義人が権利能力のない社団の旧代表者である等,現在の登記名義人と権利能力のない社団との関連性が債務名義等からは明らかでない場合

 権利能力のない社団を名宛人とする金銭債権を表示した債務名義でもって,構成員の総有不動産を執行対象財産として強制執行をする以上,その執行手続の明確さの観点からして,当該不動産の登記名義人と当該権利能力のない社団との関連性が(1)で述べたように具体的に明らかにされることが望ましくはある。
 ところで,登記名義人が権利能力のない社団の旧代表者であったり,権利能力のない社団が構成員の総有不動産であることを対抗することができる第三者である場合等には,当該社団の現在の代表者等当該社団において登記名義人となるべき立場にある者は,自らの登記名義への移転登記手続を求めることができる(前掲最高裁昭和47年6月2日第二小法廷判決参照)。そして,執行債権者が,権利能力のない社団を名宛人とする金銭債権を表示した債務名義に基づく強制執行の申立てに当たって,登記名義人と執行債務者たる権利能力のない社団との関連性を明確に示すことができない不動産を執行対象として選択するのは,他に適切な執行対象財産が存しない場合であるから,執行債権者は,当該権利能力のない社団に代位して(権利能力のない社団自体に登記請求訴訟の原告適格が認められないとするならば,さらに,当該権利能力のない社団において登記名義人たることが定められている者を代位して),当該権利能力のない社団において登記名義人たることとされる名義人への移転登記手続を請求し,その移転登記手続を経たうえで,(1)に述べた方法により執行手続をなすことが望ましいとはいえる。
 しかし,執行対象不動産が,権利能力のない社団との関係でその構成員の総有に属することが認められ,また,当該登記名義人との関係においても当該事実が証明度の高い文書によって認められる場合には,執行裁判所において執行債務者と登記名義人との具体的な関連性を認定することができるのであって,かかる場合に,当該不動産に対して強制執行手続を開始しても,登記名義人を始め,当該不動産に係る利害関係人の権利を侵害するおそれは小さいものということができるところから,(1)の場合に準じて,当該不動産に対して強制執行手続を開始することができるものと解することができる。そして,かかる当該登記名義人が,権利能力のない社団との関連性を争う場合には,当該登記名義人に第三者異議の訴えを提起する負担を負わせても,関係者間の衡平を害するものではないということができるのである。
 私は,以上に述べたところからして,法廷意見の見解を肯定することができると考える。

3.証明文書の意義について

 権利能力のない社団を名宛人とする金銭債権を表示した債務名義に基づいて,構成員の総有不動産に対する強制執行を申し立てるに際しては,当該不動産が執行債務者たる権利能力のない社団との関係において,当該社団の構成員の総有に属することが証明されるとともに,当該不動産の登記名義人との関係においても,その事実が文書によって証明される必要がある(民事執行規則23条1号,2号イ参照)。
 その具体例としては,権利能力のない社団及び登記名義人との関係で,それぞれを名宛人とする確定した確認判決や判決理由中の判断(いずれか一方を名宛人とするものであっても,例えば,債権者代位による権利能力のない社団の代表者名義への移転登記手続請求の認容判決のように,当該不動産が構成員の総有不動産であることが判決理由中から明らかな場合等を含む。),和解調書,当該不動産が権利能力のない社団の構成員の総有に属することを記載した公正証書,登記名義人を構成員の特定の者(個人又は一定の役職者等)とすることを定めた規約(公正証書又はそれに準ずる証明度の高い文書による。)などが考えられる。

4.保全手続について

 構成員の総有不動産の登記名義人が,2(1)にて検討したように,権利能力のない社団の代表者である等,権利能力のない社団との関連性が明らかな場合には,当該不動産がその構成員の総有に属することを証明して仮差押えの申立てをすることができることに問題はない。
 しかし,2(2)にて検討したように現在の登記名義人と権利能力のない社団との関連性を文書によって直ちには立証することが困難な場合に,その登記名義人を相手方として仮差押えの申立てをすることは,実務上はその立証手段の点からして中々困難であり,かかる場合には,2(2)に述べたような債権者代位権に基づく処分禁止の仮処分手続の方が,実務上親和性があるといえる。かかる観点からも,2(2)で述べたような代位訴訟が肯定されてしかるべきであると考える。

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