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最高裁判所第一小法廷判決平成22年07月15日

【事案】

1.上告補助参加人(以下「参加人」という。)の株主である被上告人が,参加人の取締役である上告人らに対し,上告人らが,Aの株式を1株当たり5万円の価格で参加人が買い取る旨の決定をしたことにつき,取締役としての善管注意義務違反があり,会社法423条1項により参加人に対する損害賠償責任を負うと主張して,同法847条に基づき,参加人に連帯して1億3004万0320円及び遅延損害金を支払うことを求める株主代表訴訟である。

2.事実関係の概要

(1) 参加人は,Aを含む傘下の子会社等をグループ企業として,不動産賃貸あっせんのフランチャイズ事業等を展開し,平成18年9月期時点で,連結ベースで総資産約1038億円,売上高約497億円及び経常利益約43億円の経営規模を有していた。

(2) Aは,主として,備品付きマンスリーマンション事業を行うことなどを目的として平成13年に設立された会社であり,設立時の株式の払込金額は5万円であった。Aの株式は,発行済株式の総数9940株の約66.7%に相当する6630株を参加人が保有していたが,参加人が,上記(1)の事業の遂行上重要であると考えていた上記フランチャイズ事業の加盟店等(以下「加盟店等」という。)もこれを引き受け,保有していた。

(3) 参加人は,機動的なグループ経営を図り,グループの競争力の強化を実現するため,完全子会社に主要事業を担わせ,参加人を持株会社とする事業再編計画を策定し,平成18年5月ころ,同計画に沿って,関連会社の統合,再編を進めていた。Aについては,参加人の完全子会社であるBに合併して不動産賃貸管理業務等を含む事業を担わせることが計画された。

(4) 参加人には,社長の業務執行を補佐するための諮問機関として,役付取締役全員によって構成され,参加人及びその傘下のグループ各社の全般的な経営方針等を協議する経営会議が設置されている。平成18年5月11日に開催された経営会議には,上告人Y1が代表取締役として,上告人Y2及び同Y3が取締役として出席し,AとBとの合併に関する議題が協議された。そして,その席上,@ 参加人の重要な子会社であるBは,完全子会社である必要があり,そのためには,AもBとの合併前に完全子会社とする必要があること,A Aを完全子会社とする方法は,参加人の円滑な事業遂行を図る観点から,株式交換ではなく,可能な限り任意の合意に基づく買取りを実施すべきであること,B その場合の買取価格は払込金額である5万円が適当であることなどが提案された。参加人から,上記提案につき助言を求められた弁護士は,基本的に経営判断の問題であり法的な問題はないこと,任意の買取りにおける価格設定は必要性とバランスの問題であり,合計金額もそれほど高額ではないから,Aの株主である重要な加盟店等との関係を良好に保つ必要性があるのであれば許容範囲である旨の意見を述べた。
 協議の結果,上記提案のとおり1株当たり5万円の買取価格(以下「本件買取価格」という。)でAの株式の買取りを実施することが決定され(以下「本件決定」という。),併せて,当時参加人との間で紛争が生じており買取りに応じないことが予想された株主については,株式交換の手続が必要となる旨の説明がされ,了承された。

(5) 参加人は,Aを完全子会社とするために実施を予定していた株式交換に備え,監査法人等2社に株式交換比率の算定を依頼した。提出された交換比率算定書の一つにおいては,Aの1株当たりの株式評価額が9709円とされ,他の一つにおいては,類似会社比較法による1株当たりの株主資本価値が6561円ないし1万9090円とされた。

(6) 参加人は,平成18年6月9日ころから同月29日までの間に,本件決定に基づき,参加人以外のAの株主のうち,買取りに応じなかった1社を除く株主から,株式3160株を1株当たり5万円,代金総額1億5800万円で買い取った(以下,これらの買取りを「本件取引」と総称する。)。

(7) その後,参加人とAとの間で株式交換契約が締結され,Aの株式1株について,参加人の株式0.192株の割合をもって割当交付するものとされた。

3.原審は,上告人らの善管注意義務違反の有無について次のとおり判断して,上告人らに対し参加人に連帯して1億2640万円及び遅延損害金の支払を命ずる限度で,被上告人の請求を認容した。
 本件買取価格は,Aの株式1株当たりの払込金額が5万円であったことから,これと同額に設定されたものであり,それより低い額では買取りが円滑に進まないといえるか否かについて十分な調査,検討等がされていないこと,既にAの発行済株式の総数の3分の2以上の株式を保有していた参加人において,当時の状態を維持した場合と比較してAを完全子会社とすることが経営上どの程度有益な効果を生むかという観点から検討が十分にされていないこと,本件買取価格の設定当時のAの株式の1株当たりの価値は株式交換のために算定された評価額等から1万円であったと認めるのが相当であること等からすれば,本件買取価格の設定には合理的な根拠又は理由を見出すことはできず,上告人らは,取締役としての善管注意義務に違反して,その任務を怠ったものである。

【判旨】

1.原審の上記判断は是認することができない。その理由は次のとおりである。
 前記事実関係によれば,本件取引は,AをBに合併して不動産賃貸管理等の事業を担わせるという参加人のグループの事業再編計画の一環として,Aを参加人の完全子会社とする目的で行われたものであるところ,このような事業再編計画の策定は,完全子会社とすることのメリットの評価を含め,将来予測にわたる経営上の専門的判断にゆだねられていると解される。そして,この場合における株式取得の方法や価格についても,取締役において,株式の評価額のほか,取得の必要性,参加人の財務上の負担,株式の取得を円滑に進める必要性の程度等をも総合考慮して決定することができ,その決定の過程,内容に著しく不合理な点がない限り,取締役としての善管注意義務に違反するものではないと解すべきである。
 以上の見地からすると,参加人がAの株式を任意の合意に基づいて買い取ることは,円滑に株式取得を進める方法として合理性があるというべきであるし,その買取価格についても,Aの設立から5年が経過しているにすぎないことからすれば,払込金額である5万円を基準とすることには,一般的にみて相応の合理性がないわけではなく,参加人以外のAの株主には参加人が事業の遂行上重要であると考えていた加盟店等が含まれており,買取りを円満に進めてそれらの加盟店等との友好関係を維持することが今後における参加人及びその傘下のグループ企業各社の事業遂行のために有益であったことや,非上場株式であるAの株式の評価額には相当の幅があり,事業再編の効果によるAの企業価値の増加も期待できたことからすれば,株式交換に備えて算定されたAの株式の評価額や実際の交換比率が前記のようなものであったとしても,買取価格を1株当たり5万円と決定したことが著しく不合理であるとはいい難い。そして,本件決定に至る過程においては,参加人及びその傘下のグループ企業各社の全般的な経営方針等を協議する機関である経営会議において検討され,弁護士の意見も聴取されるなどの手続が履践されているのであって,その決定過程にも,何ら不合理な点は見当たらない。
 以上によれば,本件決定についての上告人らの判断は,参加人の取締役の判断として著しく不合理なものということはできないから,上告人らが,参加人の取締役としての善管注意義務に違反したということはできない。

2.以上と異なる見解の下に,本件決定についての上告人らの判断に参加人の取締役としての善管注意義務違反があるとして被上告人の請求を一部認容した原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決中,上告人ら敗訴部分は破棄を免れない。そして,以上説示したところによれば,同部分に関する被上告人の請求は理由がないから,同部分について被上告人の請求を棄却した第1審判決は正当であり,同部分についての被上告人の控訴は棄却すべきである。

 

最高裁判所第二小法廷判決平成22年07月16日

【事案】

1.社団たる医療法人(以下「社団医療法人」という。)の増資に当たり被上告人らが出資を引き受けたことについて,これにより被上告人らは著しく低い価額の対価で利益を受けたものであり,相続税法(平成15年法律第8号による改正前のもの)9条所定のいわゆるみなし贈与に当たるとして,上告人が,被上告人らに対し,それぞれ贈与税の決定及び無申告加算税の賦課決定(以下,これらを併せて「本件各処分」という。)をしたことから,被上告人らが,上告人は上記出資の評価を誤ったものであり,みなし贈与に当たらないなどとして,本件各処分の取消しを求めている事案。

2.事実関係等の概要

(1)ア.医療法人A会(以下「本件法人」という。)は,Bによって昭和30年に設立された社団医療法人であり,後記オの増資がされる直前の平成10年3月末時点での職員数は255人であった。X2はBの長女で,X1はX2の夫,X3とX4はX1とX2の子である。

イ.本件法人は,定款で,出資社員は退社した場合その出資額に応じて払戻しを請求することができ,また本件法人が解散した場合における残余財産は,所定の手続を経て,出資額に応じて社員に帰属させる旨を定めていた。また,本件法人は,定款で,その財産を基本財産と運用財産とに分け,退社した社員に対する払戻しは,まず運用財産から支弁し,不足のあるときには基本財産を処分して支弁する旨定めていた。
 なお,社団医療法人が定款を定める際の指針として作成されたいわゆるモデル定款(昭和25年8月9日医発第521号各都道府県知事あて厚生省医務局長通知「医療法の一部を改正する法律の施行について」に添付された定款)においても,社団医療法人に出資した社員(以下「出資社員」という。)は退社時に出資額に応じた払戻しを請求することができ,また当該法人の解散時にも出資額に応じた残余財産の分配を受けることができる旨の条項が置かれている。

ウ.本件法人の出資金額は,定款で1口当たり5万円と定められているところ,X1は,昭和63年5月,本件法人の理事長であったBから,その有する本件法人の出資のうち10口を代金1億1497万円余で譲り受け,同年6月,Bに替わって本件法人の理事長に就任した。

エ.本件法人は,平成9年8月に出資の払戻し等について定款を変更し,出資社員が退社時に受ける払戻し及び本件法人解散時の残余財産分配は,いずれも運用財産についてのみすることができ,解散時の残余財産のうちの基本財産は国又は地方公共団体に帰属するとの定めを置くとともに,これらの払戻し等に係る定款の定めの変更はできない旨の条項を置いた(以下,変更後の定款を「新定款」という。)。もっとも,基本財産と運用財産の各範囲に係る定款の定めは,上記条項による変更禁止の対象となっていない。

オ.本件法人の平成10年5月時点での総出資口数は110口であり,そのうち98口をBが,12口をX1が有していたところ,同月の定時社員総会で,出資口数を90口増加して200口とし(以下,この増資を「本件増資」という。),増資分すべてを被上告人らに対して割り当てることが可決され,X1とX2が各23口,X3とX4が各22口を割り当てられることとなった。被上告人らは1口当たり5万円の出資金額(被上告人ら合計で450万円)を払い込み,その結果,Bが本件法人の出資口数のうち98口を,被上告人らがその余の合計102口をそれぞれ有することとなった。

カ.本件増資当時における本件法人の財産全体の評価は7億円余であった。その内訳をみると,基本財産の評価は24億円余であったが,運用財産については,これに属する資産がある一方で多額の負債が計上されていたため,運用財産全体としては17億円余の債務超過となっていた。

(2)ア.持分の定めのある社団医療法人の出資については,「財産評価基本通達」(昭和39年4月25日付け直資56,直審17(資)国税庁長官通達。以下「評価通達」という。)の194−2(平成11年課評2−2,課資2−202による改正前のもの)が,その評価を取引相場のない株式の評価方法に準じて行うものとし,従業員数が100人以上の社団医療法人に係る出資の評価については,当該法人の年利益金額及び純資産価額を類似業種のそれと所定の方法で比較した上,類似業種の株価に比準して評価する方法(以下「類似業種比準方式」という。)等を採ることとしている。

イ.上告人は,本件増資により被上告人らが取得した本件法人の出資につき,本件法人の前記(1)カの財産全体の評価を前提として,類似業種比準方式により評価し,その評価を1口当たり379万円余と算出した。そして,被上告人らが,1口当たり5万円の対価で上記出資を取得したことは,著しく低い価額の対価で利益を受けた場合に当たるとして,上記出資の評価から同対価を控除した額を被上告人らが贈与により取得したものとし,平成13年6月,被上告人らに対して,本件各処分をした。

3.原審は,上記事実関係等の下において,次のとおり判断して,被上告人らの請求を認容すべきものとした。
 社団医療法人の出資については,当該出資について出資社員が有する権利の内容に即してその評価をする必要があるところ,当該内容は専ら定款により定まるものと解される。そして,本件法人の新定款では,その財産が基本財産と運用財産に明確に区分され,出資社員が退社した際の払戻しや本件法人の解散時における出資社員に対する財産の分配は,いずれも運用財産のみからされることになっている。本件法人の出資について出資社員が有するこのような権利内容を考慮すると,その評価の前提となる資産価値は,運用財産を基準とすべきであって,本件では,基本財産と運用財産とを本件法人のように区別しない業者を標本とする類似業種比準方式により出資の評価をする前提を欠く。そして,前記のとおり,運用財産が債務超過であること等を踏まえて,本件法人の出資の時価について評価すると,本件増資時点における本件法人の出資1口当たりの評価額は出資金額である5万円を上回るものではなく,被上告人らが著しく低い価額の対価で利益を受けたとはいえない。

【判旨】

1.原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

(1) 相続税法22条は,贈与等により取得した財産の価額を当該財産の取得の時における時価によるとするが,ここにいう時価とは当該財産の客観的な交換価値をいうものと解され,本件法人の出資についても,この観点からその価額が評価されるべきである。
 ところで,医療法人は,相当の収益を上げ得る点で一般の私企業とその性格を異にするものではなく,その収益は医療法人の財産として内部に蓄積され得るものである。そして,出資社員に対する社団医療法人の財産の分配については,剰余金の配当を禁止する医療法(平成18年法律第84号による改正前のもの)54条に反しない限り,基本的に当該法人が定款で定め得るのであって(同法44条,56条),出資社員が出資額に応じて退社時の払戻しや解散時の残余財産分配を受けられる旨の定款の定めがある場合,これに基づく払戻し等の請求が権利濫用になるなどといった特段の事情のない限り,出資社員は,総出資額中に当該出資社員の出資額が占める割合に応じて当該法人の財産から払戻し等を受けられることとなる(最高裁平成20年(受)第1809号同22年4月8日第一小法廷判決・民集64巻3号登載予定参照)。標準的な出資の権利内容を示したモデル定款は,出資社員は出資額に応じて払戻し等を受け得るとするが,その対象となる財産を限定してはおらず,多くの社団医療法人がこれに準じた定款を定めていることがうかがわれるところである。上記権利内容は,自治的に定められる定款によって様々な内容となり得る余地があるものの,その変更もまた可能であって,仮にある時点における定款の定めにより払戻し等を受け得る対象が財産の一部に限定されるなどしていたとしても,客観的にみた場合,出資社員は,法令で許容される範囲内において定款を変更することにより,財産全体につき自らの出資額の割合に応じて払戻し等を求め得る潜在的可能性を有するものである。また,定款の定めのいかんによって,当該法人の有する財産全体の評価に変動が生じないのはいうまでもない。
 そうすると,持分の定めのある社団医療法人の出資は,定款の定めのいかんにかかわらず,基本的に上記のような可能性に相当する価値を有するということができる。
 評価通達194−2は,以上のような持分の定めのある社団医療法人及びその出資に係る事情を踏まえつつ,出資の客観的交換価値の評価を取引相場のない株式の評価に準じて行うこととしたものと解される。そうすると,その方法によっては当該法人の出資を適切に評価することができない特別の事情の存しない限り,これによってその出資を評価することには合理性があるというべきである。

(2) これを本件についてみると,本件法人は,もともと退社時の払戻しや解散時の残余財産分配の対象となる財産を本件法人の財産全体としていたところ,これを変更し,新定款において,上記払戻し等の対象となる財産を運用財産に限定したものである。
 新定款においては,上記払戻し等に係る定めの変更を禁止する旨の条項があるが,社団法人の性格にかんがみると,法令において定款の再度変更を禁止する定めがない中では,このような条項があるからといって,法的に当該変更が不可能になるものではないから上記結論を左右するものではない。また,基本財産と運用財産の範囲に係る定めは変更禁止の対象とされていないから,運用財産の範囲が固定的であるともいえない。そうすると,本件においては,本件増資時における定款の定めに基づく出資の権利内容がその後変動しないと客観的に認めるだけの事情はないといわざるを得ず,他に評価通達194−2の定める方法で新定款の下における本件法人の出資を適切に評価することができない特別の事情があることもうかがわれない。
 したがって,本件において,新定款下での本件法人の出資につき,基本財産を含む本件法人の財産全体を基礎として評価通達194−2の定める類似業種比準方式により評価することには,合理性があるというべきである。
 そして,上記の方式に基づく評価によれば,上告人が上記出資の評価を1口当たり379万円と算定したことに違法はなく,これによれば,被上告人らは,本件増資に係る出資の引受けにより,著しく低い価額の対価で利益を受けたということができる。

2.以上と異なる原審の前記判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,本件各処分に違法はないとした第1審の判断は是認することができるから,被上告人らの控訴を棄却すべきである。

【古田佑紀補足意見】

 定款において持分の払戻しが制限されている場合のその価額の評価についてすべての資産を基礎とすることは相当でないとする原審の説示には共感を感じる面もないではない。例えば,持分権者が何らかの事情により脱退して払戻しを受ける場合に,定款において払戻しを受けることができる資産が制限されているときはその制限を超えて払戻しを受けることができないことは明らかである。このような場合,持分取得の時点で全資産をもって持分価額評価の基礎として課税がされれば,持分権者が持分の処分により実際に取得できる利益からみて不相応に高額の課税がされた結果になる可能性がある。その観点からすれば,持株数に応じた資産に対する権利が当然の前提となる会社と同様に全資産を評価の基礎とする評価方法が本件のような法人について妥当するかは疑問があり,定款変更の可能性があるということをもって直ちにその合理性を認めることには困難があるように思われるのである。
 しかしながら,本件のような法人の持分については,取引その他の処分がなされることが必ずしも予定されず,少数の持分権者が長期にわたって保有して法人を支配する場合が多く,その処分によって価値の実現を図ることは稀であると思われるのである。そうすると,このような持分については,定款により定められた払戻しの範囲ではなく,法人の全資産に応じた保有価値によって評価することが合理的であると思われる。定款により加えられた払戻しの制限によって課税の基礎となる持分の評価額が定まるとすれば,客観的な資産価値がほぼ同じ法人であるにもかかわらず,持分権者の意思により法人ごとに税額に差が生じることとなり,課税の公平を欠く結果になるといわざるを得ない。私は,法廷意見がこのような趣旨をいうものと理解するものである。

【須藤正彦補足意見】

 私は法廷意見の結論に賛成するものであるが,社団医療法人の企業価値(事業価値)という観点から,以下の点を補足しておきたい。

(1) 社団医療法人は,法人税法上,会社などとともに普通法人と分類されているところ(同法2条9号,5号ないし7号),営利を目的とするか否かの点を除けば,日々の会計処理や会計年度ごとに事業報告書,財産目録,貸借対照表,損益計算書等の作成をし(医療法51条参照),従業員を雇用し,適切な組織管理を行いつつ,適宜の利益を稼得して財務の健全性の維持を図り継続反復して業務を行うことが予定されているという面において会社と異なるところはない。社団医療法人は,このように継続して事業を行う主体(事業体)といえるから,会社に企業価値(事業価値)が認められるように,社団医療法人もまた企業価値(事業価値)が認められ,それが,当該社団医療法人(の事業)の時価としての客観的交換価値であるといえる。しかも,この社団医療法人の企業価値(事業価値)は,事業を対象とするものである以上,当然のことながら,現在の財産状態,過去の経営成績や将来の収益見通し,具体的には,貸借対照表や損益計算書などの数値(以下,「経営指標」という。組織管理の在りようや経営者,従業員の資質等の定性的要素が加味されることもあろう。)などを基にして算出され得るもので,それ自体は,利益剰余金の配当が禁止されること(医療法54条),あるいは,当該社団医療法人内部の規則等で出資持分の払戻しや残余財産の分配が制約されるということ,いわんや内部的に基本財産と運用財産とをどのように仕訳けするかということによっては左右されないというべきである。
 しかして,社団医療法人中持分の定めのある社団医療法人においては,一般に,その出資持分は,一身専属的なものではなく,法令上又は定款上で一定の制限下にあるものの譲渡や相続が可能であるから,そこで出資持分の全部を一括して譲渡するという方法によりこの社団医療法人(の事業)そのものを譲渡することが可能であり,かつ実務上もそのようになされている。その際の譲渡の対価は,当然のことながら当該社団医療法人の企業価値(事業価値)による。

(2) しかるところ,出資持分の定めがある社団医療法人の場合には,一般的にいって,出資社員が同法人を細分化された割合的単位たる出資持分の口数において共同所有しているといえるから,結局,社団医療法人の企業価値(事業価値)も出資社員が出資持分の口数の割合において分有するということができる。その場合,当該社団医療法人の出資持分1口当たりの時価たる客観的交換価値は,上記によって算出される企業価値(事業価値)全体を出資持分の口数で除した金額にほかならない。しかも,この出資持分の客観的交換価値のいかんは,当該出資持分に定款などで何らかの制約が付されている場合であっても,社団医療法人の出資持分による支配の全部又は一部が確定的にはく奪されるなどの特別の事情がない限り基本的に左右されることはないというべきである。けだし,その場合であっても,出資社員への出資持分の払戻しや残余財産分配が法令上可能である以上は,出資社員のみが当該出資によってその企業価値(事業価値)の全体を分有する(いわば,当該社団医療法人の企業価値(事業価値)のすべてが出資持分に化体する。)という基本的構造は変わらないし,定款によって,出資持分の払戻しや残余財産分配請求権について制約条項が規定され,同時に,その条項の変更を禁止する条項(変更禁止条項)が規定されていても,定款そのものの変更権がはく奪されているものでない限りは,任意のときに法令で許容される範囲内において定款を変更してそれらの制約を取り除くことができることにより,結局,上記基本的構造が変わるとはいえないからである。しかも,以上のことは,他ならぬ出資社員自身や出資持分の譲受人など関係者からもよく認識されているというべきである。

(3) これを本件についてみるに,記録によれば,本件社団医療法人は,病院と精神障害者社会復帰施設福祉ホームを経営して,患者への施療保護,病院退院後の精神障害者への住宅の提供を目的とし,本件増資の平成10年5月30日当時,病院,福祉ホームを運営し,従業員255名を雇用し,直近の同年3月31日現在の決算では資産45億円余,負債38億円,純資産7億円余とされていたことが認められる。同法人は,持分の定めのある社団医療法人であり,その出資持分は社員(被上告人らがその地位にある。)において本件増資後計200口を所有し,かつ,その出資持分は,定款上,社員総会の承認を要するものの譲渡が可能とされ,一定の条件の下に相続も可能とされている。既に述べたところからも明らかなとおり,本件社団医療法人にも企業価値(事業価値)が認められるところ,被上告人ら出資社員は,本件増資時におけるその全体の企業価値(事業価値)を出資口数の割合で分有しているから,その時点における被上告人らの出資持分の1口当たりの客観的交換価値は,それを200で除した金額である。
 なるほど,本件定款では,出資持分の払戻しや残余財産分配請求権は運用財産のみによることとされ,かつ,この点についての定款条項の変更は禁止する旨の条項(変更禁止条項)が置かれ,一見,出資社員は基本財産については価値を享受し得ないがごとき外観を呈している。しかしながら,上記変更禁止規定自体を定款変更によって廃止することが法的には可能というべきであり,それどころか基本財産と運用財産との仕訳けは何らの制約もなく行うことができるようになっているのであるから,本件社団医療法人の出資持分の時価は,あくまで前記経営指標等によって算定される企業価値(事業価値)を基にするものであり,それら出資持分の払戻しや残余財産分配請求権を制約する規定や変更禁止規定,いわんや基本財産と運用財産との仕訳け状況によって基本的に左右されるものではない。しかも,そのことは,出資社員である被上告人らや本件出資持分を譲り受けるであろう者など関係者によって認識されているというべきである。したがって,本件増資当時の被上告人らの本件出資持分の時価を,運用財産の評価がマイナス17億円であるゆえをもって,出資金額たる5万円を上回ることはない(結局ゼロ程度とするのであろう。)と判示する原判決は,上記の出資持分について制約する定款規定と仕訳けに依拠するのみで,本件社団医療法人の企業価値(事業価値)が,経営指標(例えば,前記のとおり,増資時直近の純資産額が7億円余である。直前期の法人税の課税所得が約1億5000万円であることもうかがわれる。)等を基にして算定され,被上告人らはこのようにして算定された企業価値(事業価値)をそれぞれの出資持分の割合において分有しているという事実を看過しているといわざるを得ず,したがってそのような評価は本件出資持分の客観的交換価値から著しくかい離しているとの感がある(実際,原判決のこの時価の算定によれば,本件社団医療法人の出資持分全部の時価は,出資持分1口当たりの金額5万円を上回らない金額に口数の200を乗じた1000万円を上回らない金額,あるいはゼロ又はそれに近い金額で譲渡されるということになろうが,それは,現実離れした対価金額との感を免れない。なるほど,退社社員は,運用財産によってのみ出資持分の払戻しを受けるから,本件社団医療法人の運用財産がマイナスであるときは,計算上1円も払戻しを受けないということになる。だが,仮に退社しようとする社員がいるとしても,同人は,本件社団医療法人の出資持分の前記の意味での客観的交換価値を認識しているから,例えば1円の払戻しも受けないままに(あるいは僅少額の払戻しを受けて)出資持分を手放す(退社する)などということは,これまた現実にはほとんど考えられない。)。いわんや,本件定款その他よりして,基本財産と運用財産との仕訳けは何らの制約もなく行うことができることがうかがわれるのであって,そのことに照らすと,たやすく変わり得る仕訳けに依存して客観的な交換価値の評価を行うという点においても相当でないといえよう。

(4) そこで,本件出資持分の時価を導き出すべき本件社団医療法人自体の企業価値(事業価値)であるが,この場合,もちろん,それは,前記経営指標等を厳密に精査してこれを基にして算定することがより望ましいには違いないが,その算定自体が実は不確実な将来予測を前提とするものであるがゆえに具体的な算定方法となると確としたものが成立しているとはいい難く,他方において,大量,迅速,簡素な徴税費用による処理を求められる課税実務には,そのような経営指標等を基にして算出される企業価値(事業価値)から出資持分の時価評価を導き出すというような複雑な算定方法は適切でもないし可能でもないであろう。しかも,課税の公平性の確保という要請は最大限に満たされなければならないから,財産評価基本通達によるとの運用には特別の事情がない限り合理性が認められるというべきである。
 しかるところ,同通達194−2などによれば,医療法人の出資は「取引相場のない株式」の評価に準じて評価するものとされ,本件出資持分の評価は,本件社団医療法人が従業員100人以上であるということで類似業種比準方式による評価がなされる。既に述べたとおり,会社と社団医療法人との間では多くのかつ重要な点で共通の性質が認められる上,この評価方法では,本件出資持分1口当たりの年利益金額や純資産価額を基礎にし,かつ一定の掛け目(70%)が乗じられており,その一方で,このような評価方法を上回る適切な評価方法を他に見いだし得ない以上,特別の事情がない限り,これによって処理することはやむを得ないというべきである。

(5) 以上のとおり,本件出資持分1口について上告人が時価を379万円余と評価したことには不合理はなく,相続税法22条に反しない。これを1口当たり5万円の対価で取得したことをもって,被上告人らが著しく低い価額の対価で利益を受けたとしてみなし贈与税を課することに誤りはなく,よって,上告人が本件各処分を行ったことに違法はない。被上告人らの本件各処分取消しの請求は棄却されるべきである。

 

最高裁判所第二小法廷判決平成22年07月16日

【事案】

1.@ 第1審判決別紙物件目録記載の建物部分(以下「本件建物部分」という。)を上告人に賃貸した被上告人が,被上告人と上告人との間における賃貸借は借地借家法(以下,単に「法」という。)38条所定の定期建物賃貸借であり,期間の満了により終了したなどと主張して,上告人に対し,本件建物部分の明渡し及び賃料相当損害金の支払を求める訴えと,A 上告人が,法38条2項所定の書面(以下「説明書面」という。)の交付及び説明がなく,上記賃貸借は定期建物賃貸借に当たらないと主張して,被上告人に対し,本件建物部分につき賃借権を有することの確認を求める訴えとが併合審理されている事案。

2.事実関係の概要

(1) 被上告人は,平成15年10月29日,上告人との間で,「定期賃貸借建物契約書」と題する契約書を取り交わし,期間を同年11月16日から平成18年3月31日まで,賃料を月額20万円として,本件建物部分につき賃貸借契約(以下「本件賃貸借」という。)を締結した。

(2) 本件賃貸借について,平成15年10月31日,定期建物賃貸借契約公正証書(以下「本件公正証書」という。)が作成された。本件公正証書には,被上告人が,上告人に対し,本件賃貸借は契約の更新がなく,期間の満了により終了することについて,あらかじめ,その旨記載した書面を交付して説明したことを相互に確認する旨の条項があり,その末尾には,公証人役場において本件公正証書を作成し,被上告人代表者及び上告人に閲覧させたところ,各自これを承認した旨の記載がある。

(3) 被上告人は,期間の満了から約11か月を経過した平成19年2月20日,上告人に対し,本件賃貸借は期間の満了により終了した旨の通知をした。

3.原審は,上記事実関係の下で,説明書面の交付の有無につき,本件公正証書に説明書面の交付があったことを確認する旨の条項があること,公正証書の作成に当たっては,公証人が公正証書を当事者に読み聞かせ,その内容に間違いがない旨の確認がされることからすると,本件において説明書面の交付があったと推認するのが相当であるとした上,本件賃貸借は法38条所定の定期建物賃貸借であり期間の満了により終了したと判断して,被上告人の請求を認容し,上告人の請求を棄却した。

【判旨】

1.原審の上記認定は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 前記事実関係によれば,本件公正証書には,説明書面の交付があったことを確認する旨の条項があり,上告人において本件公正証書の内容を承認した旨の記載もある。しかし,記録によれば,現実に説明書面の交付があったことをうかがわせる証拠は,本件公正証書以外,何ら提出されていないし,被上告人は,本件賃貸借の締結に先立ち説明書面の交付があったことについて,具体的な主張をせず,単に,上告人において,本件賃貸借の締結時に,本件賃貸借が定期建物賃貸借であり,契約の更新がなく,期間の満了により終了することにつき説明を受け,また,本件公正証書作成時にも,公証人から本件公正証書を読み聞かされ,本件公正証書を閲覧することによって,上記と同様の説明を受けているから,法38条2項所定の説明義務は履行されたといえる旨の主張をするにとどまる。
 これらの事情に照らすと,被上告人は,本件賃貸借の締結に先立ち説明書面の交付があったことにつき主張立証をしていないに等しく,それにもかかわらず,単に,本件公正証書に上記条項があり,上告人において本件公正証書の内容を承認していることのみから,法38条2項において賃貸借契約の締結に先立ち契約書とは別に交付するものとされている説明書面の交付があったとした原審の認定は,経験則又は採証法則に反するものといわざるを得ない。

2.以上によれば,原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな違法がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,その余の点について判断するまでもなく,原判決は破棄を免れない。そこで,更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。

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