政府公表資料等情報

第13回司法修習委員会平成20年9月3日

※意見交換部分のみ抜粋

1.第15回幹事会に現れた議論の整理等

高橋宏志委員長 まず,6月に実施された第15回幹事会の結果について,木村幹事長から御報告をお願いしたい。

木村光江幹事長 幹事会では,まず,3月の委員会(第12回)以降の「司法修習の状況」及び「法曹養成をめぐる動き」について,事務当局から報告がされた。
 次に,司法研修所の各上席教官(民事裁判,刑事裁判,検察,民事弁護及び刑事弁護)である幹事から,5月28日及び6月2日の二回に分けて開催された平成20年度司法修習生指導担当者協議会(いわゆる指担協)における分科協議の概要について報告を受けた上で,「分野別実務修習における指導の在り方」及び「選択型実務修習の実情と問題点」について,意見交換が行われた。
 それでは,幹事会の議論の状況について,本日の意見交換のテーマでもある「分野別実務修習における指導の在り方」「法科大学院教育と新司法修習の具体的な役割分担」「選択型実務修習の実情と問題点」の三点に整理して報告したい。

【分野別実務修習における指導の在り方】

(1) 法科大学院教育を踏まえた分野別実務修習の指導の在り方の検討

 指担協において,特に,民事裁判及び刑事裁判の分科協議では,あらかじめ教官室が作成したペーパーに基づいて議論をし,いずれも賛同を得られたとのことである。他の科目にも当てはまる内容を持っていると思われるので, その骨子を簡単に紹介したい。
 すなわち,法科大学院教育は,実体法,手続法に関する法理論教育が中心であり,法科大学院における実務基礎教育は,その法理論が具体的な問題解決の場面でどのような意味や役割を持っているのかを認識させ,これによって理論と実務の橋渡しをしながら法制度の体系的な理解を一層深めさせることを目指すものであり,従来の前期修習と同様の実務教育が目的とされているものではない。要件事実や事実認定等に関する教育も,実体法と手続法が交錯する実務の場面で,法理論が実際にどのように展開されているかを認識させて,その法理論の立体的な理解を得させることに主眼があり,基本的な事柄の教育が予定されているにすぎない。このような理解を前提に, 実務修習地における分野別実務修習の指導の内容や方法についても,法科大学院教育の内容や程度を踏まえた見直しがされるべきであって,前期修習を経た従来の修習生に対する実務修習とは異なる配慮や工夫をしていくべきであるし,法曹資格取得後の継続教育との役割分担を明確にし,修習生の増加等へ実効的に対応して法曹の質を確保するという観点からも,法律文書作成の重視という形式面から,事実上や法律上の問題点に関するそれぞれの立場からの判断及びその思考過程といった実質面に指導の重点をシフトさせていく必要がある,というものである。
 このような考え方は,「議論の取りまとめ」の基本的考え方をより明晰な形で整理し,基本的な指導の方向性を明らかにしようという趣旨であると理解されるところであり,多くの幹事からも支持を得た。他方で,後に触れるように,従来の前期修習に相当する教育は法科大学院に委ねられているという考え方が一部に根強くあることを指摘する幹事もあった。
 実質的に考えてみると,この委員会で議論してきた新しい司法修習と,法学教育の内容いかんを問わないで旧司法試験で選抜されてきた者を対象とした,法廷実務家を養成する課程であった従来の司法修習とは,その理念や目標を異にするものであると考えられる。法曹養成の基本思想や修習開始に至るまでのプロセスが従来の制度とは 異なる以上,分野別実務修習のスタート時点において想定される標準的な修習生の資質や水準も,おのずと異なってくると考えられる。
 いずれにせよ,幹事会においては,改めて法科大学院教育を踏まえて分野別実務修習の具体的な指導内容等を見直していく必要性自体に異論はみられなかった。

(1)の検討にあたり考慮すべき事項

 新61期の修習生を受け入れた弁護士の幹事から,自らの経験談を踏まえつつ,

@ 従来のように,修習生を指導担当者と一緒に行動させているだけでは,修習生が経験することができる事件に限りや偏りが生じてくるので,分野別実務修習の実を挙げるためには,修習生に取り扱わせる事件を厳選するなど,教える側にも工夫が必要になってきているが,それでも,民事保全事件等,2箇月では進行中の事件を経験させるのが困難なものが想定される,

A 刑事弁護に関しては,量刑のみが問題となる国選弁護事件を一件取り扱うだけで十分な刑事弁護修習といえるか問題があり,事実関係に争いがある事件については,公設事務所や刑事を専門に扱う法律事務所に行かせるなどする必要がある,

などの問題提起がされた。

 刑事事件に関しては,別の幹事からも,生の刑事事件を経験しないまま修習を終えた者が相当いるなど,多くの指導担当弁護士が修習生に適切な素材を提供できていないのではないかという意見がみられた。指担協でも,刑事事件に限らず,指導に適切な修習記録の提供を求める声があったようである。
 これに対しては,被告事件の国選弁護を一件も受任できないというのは大都市に特有の問題であって,一般化はできないのではないかという指摘もされ,日本弁護士連合会司法修習委員会と司法研修所の民事弁護・刑事弁護教官室との間で,記録作成への協力の在り方を含めて,分野別実務修習をより充実させる観点からの意見交換が始まっていることの紹介もされた。
 なお,来年5月に施行される裁判員裁判との関係では,刑事裁判修習において,連日的開廷への対応と合同修習とをどのように折合いをつけるか,裁判体の評議の傍聴をどのように考えるかという新たな問題も出てきているようである。
 以上のような意見や指摘等を踏まえて,私なりにポイントを二項目に整理してみたい。

○修習に適した事件が乏しい場合を念頭に置いた工夫等

 幹事会では,弁護実務修習における民事保全・民事執行事件や,刑事(被疑・被告)事件を念頭に置いて議論がされた。
 指担協では,従来書かせていたような法律文書の形式にとらわれず,法律文書のコア部分とでもいうべき内容,例えば,依頼者への報告文書のようなもので相手方の言い分や証拠に言及し整理した上で,今後の見通しを検討し文書化させるトレーニングを行うことを通じて,弁護士として最低限身に付けるべきことを修得させるための工夫をしたり,修習生を別の法律事務所に派遣して適切な事件の修習をさせたり,修習生の指導に適切と考えられる記録をあらかじめストックしておくといったような運用上の工夫が紹介されていたようである。
 ただ,刑事事件については,別途配慮が必要な点があると考えられる。刑事弁護に関する実務修習は,指導担当弁護士に被告事件の国選弁護人を引き受けてもらうのが基本という実情であるようであるが,来年5月には,裁判員法の施行と同時に,被疑者国選弁護の対象となる事件の範囲が大幅に拡大され,刑事弁護の在り方自体に抜本的な変容が見込まれる。その中で,従来のような刑事弁護実務修習の指導の在り方もまた,根本的な見直しをせざるを得ない状況にあると考えられる。

○個別修習と合同修習の役割分担

 「議論の取りまとめ」にあるとおり,新しい司法修習においては,できる限り合同修習の部分を圧縮し,臨床教育としてより重要な個別修習に集中して指導を行うことが基本となる。各科目の上席教官である幹事からの報告によれば,各分野とも,概ねこれに沿った方向での指導が行われているようであり,各地の実情を踏まえ,(1)修習冒頭のイントロダクション,(2)修習の節目節目における修習生の到達度を確認するための起案等のカリキュラムを中心として,従来型の修習に比べると,合同修習はより厳選されてきている傾向にあるようであるが,このような方向性に対しては,一部で(広い意味での)合同修習拡充論も出てきているようである。

(3) (1)及び(2)を踏まえた指導指針の明確化の検討

 これは,幹事会で正面から議論となったわけではないが,今まで報告してきた点を踏まえて分野別実務修習の指導の在り方を見直すこととなった場合には,修習生が全国どこの実務修習地に配属されても実務のミニマムスタンダードを修得する機会を与える観点から,実務修習地の指導担当者向けに,見直し後の指導の指針を明確にし,周知するための検討が必要になってくると考えられる。

【法科大学院教育と新司法修習の具体的な役割分担】

 幹事会では,この委員会で取りまとめた「議論の取りまとめ」の中の,新しい司法修習の前提となる法科大学院の実務導入教育の内容について議論がされた。

(1) 「議論の取りまとめ」が想定していたもの

 幹事の多くは,法科大学院において期待される実務基礎教育の内容は,従来の前期修習に求められていた内容とはおのずから異なるものであるという考え方であったが,一部の弁護士会や法科大学院の実務家出身の教員は,前期修習を肩代わりするような教育が「議論の取りまとめ」により法科大学院に委ねられているという考え方をとっており,修習の現場に混乱が生じている旨指摘する幹事もいた。
 このように異なる考え方が出てきたのは,「議論の取りまとめ」を一見すると,文言上趣旨が異なるように読まれる部分があったことによるものと思われる。

(2) (1)を踏まえた法科大学院における実務基礎教育の在り方

 今の議論と密接に関連する各論的な点であるが,法科大学院と司法修習との間の役割分担を踏まえつつ,具体的にどのような実務基礎教育を法科大学院教育の段階で行うべきかということが問題となる。
 幹事会の場ではこの点まで議論が及ばなかったので,本日の御議論を踏まえて,さらに議論を深めていく必要があると考えているが,実務を意識した法理論教育と,法律実務教育への導入部分の双方が「理論と実務との架橋」を担うのであり, 「理論と実務の架橋」を実現するためには,実務基礎教育だけではなく,法理論教育との役割分担も考える必要があろう 。
 中教審大学分科会法科大学院特別委員会及びその下に置かれた第2ワーキンググループでは,別途,法科大学院修了者の質を確保するという観点から,法律基本科目と共に,実務基礎科目の在り方を含めた議論が始まっていると聞いているが,分野別実務修習の段階から実りある修習をするために必要な資質や能力はどのようなものかという観点からも,議論する必要があると思われる。

【選択型実務修習の実情と問題点】

 選択型実務修習に関しては,大きく二点について議論があった。
 一つは,新61期におけるA班・B班の2班制と選択型実務修習プログラムの在り方についてである。
 各地の実務修習指導担当者からは,新61期の修習生は,新60期よりも選択型実務修習プログラムへの応募が低調であるという声が多く聞かれるようである。幹事会では,その原因等について意見交換がされ,二回試験や就職活動を考える修習生が増えてきているのではないかという指摘や,選択型実務修習が形骸化するおそれが現実化し始めているのではないかという意見があった。
 他方,選択型実務修習で弁護士会をホームグラウンドと定めたのは,2箇月の分野別実務修習(弁護修習)を補充し,深めるきっかけとするという意味もあったのであり,例えば,ホームグラウンドの弁護士事務所を基本としながら,他の弁護士事務所でも短い期間修習して弁護士業務の在り方を比較しながら理解を深めるといったように,選択型実務修習の趣旨に適うと考えられるケースもあり得るのであるから,二回試験対策のためにホームグラウンドにとどまるのは論外としても,いずれにせよ,しばらくの間は,修習の実績や動向を見守っていく必要があるという指摘がされた。
 もう一つは,三庁会合同で提供するプログラムの在り方についてである。
 幹事会では,特に模擬裁判プログラムについて,応募者が足りずに中止を余儀なくされたものがあり,弁護士会では,模擬裁判等を選択必修化すべきであるという意見が出てきているとの紹介があった。指担協における弁護分科協議においても,模擬裁判プログラムへの応募者を確保するために様々な働きかけをするなど,各地で苦労があるようである。
 他方,選択型実務修習における参加型プログラムの在り方については,集合修習における民事共通演習,刑事共通公判演習や,法科大学院における臨床系科目としての模擬裁判等との切り分けを意識したものとする必要があるという意見もあった。
 幹事会における議論の状況等の報告は以上である。

2.分野別実務修習における指導の在り方

大橋正春委員 従来,刑事弁護では,無罪事件の弁論要旨が書けるということを教育の基本方針としていたが,実務修習中に無罪事件にあたることは非常に少ないし,2箇月の間に無罪事件が完結することもあり得ない。そのような中で基本方針を変えるのか,あるいは基本方針を変えずに修習の方法を検討するのか,検討が必要であろう。

酒巻匡委員 確かに修習期間の短縮によって事件に関与する機会が減るかもしれないが,刑事弁護において適切な事件が得られないというのは,過去からずっと存在していた問題ではなかろうか。

豊岡拓也幹事 問題の背景として,一つは,司法修習生の増加により指導担当者も増やしていることから,あまり刑事事件を扱わない指導担当者も加わったことと,もう一つは,修習期間の短縮化,この二点があろうかと思う。
 修習期間の問題はやむを得ないとしても,弁護士会では,いわゆる里子のような制度で,刑事をあまり扱わない指導担当者の場合には,刑事を扱う弁護士のところへ修習生を送り出して刑事事件を体験してもらうなど,対策はとっているようである。
 そもそも無罪事件は数が少ないし,従前の修習期間でも無罪事件に触れる機会は少なかったわけで,従来に比べてそれほど極端に状況は変わっていないと思う。

酒巻委員 やはり司法修習の核心は臨床の実務教育の部分だと思うので,記録ではなく,生の実際の事件を体験する修習の在り方を基本的に維持し,それを修習生がどこでも均等に体験できるよう努力していただきたい。

大橋委員 従来は,前期修習で実務を理論的に教えて,実務修習では実務を実務的に教えて,最後に実務を理論的に教えていた。
 最初に実務を理論的に教える段階で,刑事であれば無罪事件を議論させていた。無罪を争うことに意味があるのではなく,無罪事件における事実の認定,あるいは証拠の評価という,法律家として行うべきことに意味があるとしてやっていたと思う。
 実務を理論的に教えるという部分を,どこまで誰がやるかということが問われていると思う。

高橋委員長 裁判員裁判の場合,修習期間はあまり障害にならなくなるだろうか。

酒巻委員 裁判員裁判は,公判が始まれば迅速だが,複雑な事件であれば,公判前整理手続に,かなりの期間を要すると思われる。裁判員裁判の重要な部分は,おそらく公判前整理手続であり,刑事裁判の集合修習段階では,既に公判前整理手続の場面を想定して随分と力を入れておられると承知している。実務修習の間に,実際の公判前整理手続の過程に修習生が法曹三者いずれかの立場で関与し,それを踏まえた上で公判に立ち会うことができれば,これらが相俟って教育的にとてもいいことではないかと思う。

河合健司幹事 現在,新61期A班の集合修習において,争点整理演習と題して,公判前整理手続に関する演習を三教官室合同で実施している。初めての試みで,昨年から1年間かけて準備して,実質的には丸二日かけて争点の整理をやって,最終的に証人尋問という形で終わるプログラムである。
 これは,裁判員裁判を踏まえて,新しい刑事裁判に対応できる法曹養成が緊急の課題ということで取り入れた。
 修習生は,既に実務修習において,公判前整理手続を実際に傍聴して肌で感じてきているので,それを踏まえた演習ということで,これは集合修習の成果ではないかと思っている。

高橋委員長 個別修習と合同修習の役割分担について,個別修習のほうが重要だという理解になっているのかどうか,いかがなものか。

林道晴幹事 期間の問題もあるので,個別修習を基本にする方向性が「議論の取りまとめ」で確認されて,実務の指導においても,バリエーションはあるかもしれないが,その方向性はどこでも異論ないと思う。
 合同修習の機能を厳選していく場合,何を合同修習の名のもとでやるのかという点について,現在,試行錯誤が始まっているところと感じており,修習の現場で苦労している声も聞きながら議論していく必要があると思う。
 一方,導入教育的なものを組み込んだらどうかという声もあるし,また修習生の評価の関係で,一定のものは合同修習が必要ではないかという声もあるので,そのあたりの議論がポイントになりつつあると感じている。

吉戒修一委員 個別修習のばらつきを少なくし,修習の中身の平準化を図るという意味で,司法研修所教官の出張講義と共通記録による起案といった方策がとられていると聞いているが,その実施状況はいかがなものか。

林幹事 民事裁判,刑事裁判は,第1クール,第2クールの冒頭に半分ずつ修習生を集めて,導入起案という司法研修所が作成した起案をやらせて,それを教官が見た上で,講評ということで第1クール,第2クールの前半部分に出かけていって,修習生と議論している。一方,各クール,第1クールから第4クールまであるが,後半に,実務修習を支援するという形で,問研起案と称する起案を,民事裁判,刑事裁判それぞれやらせて,講評ということで教官が出張している。
 検察等は,第1クールに,民事弁護,刑事弁護,検察の三教官でチームを組んで出かけていき,弁護は,修習開始前に与えられた事前課題について教官が目を通した上で,講評を兼ねて講義をする形になっており,検察は,導入的な講義をしていると聞いている。一方,検察は,それとは別に各クールで教官が出かけていき,その後に起案的な課題を与えていると聞いている。

酒巻委員 出張講義について,法律家を養成する全体の大きなシステムの中での位置づけ,あるいは教官の方々の意図は,どのようなものか。
 分野別実務修習は,私の理解では,生の事件を扱う臨床教育であり,法曹養成の全課程の中で初めて実務の実際に接し,かつ本物の実務家になるにあたって最終段階の最も重要な部分だと思う。そこで起案訓練,生の事件ではない起案を,あえて重ねてやらなければならないのかどうか,真剣に意味を考えておく必要があるような気がしている。

田村幸一幹事 確かに,実務修習の中で,個別修習を主体的にやらなくてはいけないと思うが,一方,個別的な修習だけでは,ばらつきということも考えざるを得ず,現に修習生からも実務庁からも合同修習を求める声があるのが実情である。
 民事裁判では,一つは,平準化を図るという意味もあるし,ある程度共通の課題を課すことによって個々の修習生の問題点を把握し,それを踏まえたきめの細かい指導をするという面もあるので,導入起案と問研起案は,それなりに意味があると思っている。
 教官が現地に出張するのは,正直に言うと教官にとっての負担は重いが,修習生と直に話をして,直接指導ができるという面で,意味は大きいのではないかと思っている。

野々上尚幹事 検察修習では,個別修習,集合修習という言葉にあまり馴染みがない。
 実務修習も従前から大部屋でやっており,修習生がいる中で事件の被疑者や参考人がいて,取調べを他の修習生も見て勉強していくという過程で生の事件を扱っている。臨床的な教育という意味で個別修習ではあるが,集団の形で行われている。
 そこで,臨床的な教育と研修所での教育をどのようにリンクさせるかであるが,実務を理論的に教えるということで,犯人であるかどうかの認定,あるいは法令の適用をする能力という意味でも,大学や法科大学院と違う点は,生の記録で前提となる事実を認定しながら,我流ではなく,オーソドックスな法律家として通用するような手法でこれを行い得る能力を身に付けさせたいと思っている。
 この点,「実務修習における個別体験を,法的問題の解決手続の全体的な構造の中に体系付けて整理することよって,汎用性をもった知識,技法として身に付けさせる」ことが重要であり,これは実務修習地だけではなく,ある程度全体の教育の中でやらないといけないという意味で,研修所の教官が出張していく余地が一つあるかと思う。
 もう一つ,修習の最終段階では,起案という形で習得させる,あるいは試験という形でチェックしているわけで,修習生に修習の最後の到達点のイメージを与えるために,集合修習では実務修習で培った能力が試される,あるいは,それを試すことになるということを説明してあげる責任もあると思う。
 それらを踏まえて出張講義を行っているところである。

卜部忠史幹事 民事弁護では,事前課題として起案をさせて,出張講義は1回,2時間にも満たない講義時間ではあるが,実務を理論的に教えるということで,起案することに意味があるのではなく,具体的な記録から訴訟物を把握して,それを要件事実に分けて,それを具体的な事実としてどのように構成していくかという手法を見せて,集合修習における教育のイメージを持たせるということが一つの目的である。
 また,実務修習の間に,実定法や基本的な要件事実の勉強をしてほしい,弁護教官室が配布している保全・執行等の白表紙も勉強してほしいということで,実務修習の勉強方法の指針を与えるということも出張講義の目的の一つと意識している。

豊岡幹事 刑事弁護では,事前課題として,無罪事件の弁論要旨(簡略版)を修習生に書かせた上で,出張講義を行っている。
 教官限りで聞いているところでは,弁論要旨を学生のときに書いた経験がある修習生がいる一方,刑事弁護に関してはほとんど手をつけていない修習生も見られるなど,法科大学院の講義内容に非常にばらつきがあるようなので,集合修習のまとめの段階でどのような勉強をするのかというイメージを早い段階で植えつけさせるという意味で,課題を与えて講義を行っている。
 東京,大阪のような大規模単位弁護士会では,我々に代わって講義を行うということも可能かとは思うが,地方の単位弁護士会では,弁護士業務とは違った場面もあって,なかなか難しいと聞いているので,そのお手伝いの意味もあるかと思う。
 刑事の科目では,当事者としての立場の違いが尖鋭化して現れるが,法科大学院では,いわゆる弁護士という立場を重視した形の教育は行われていない。当事者の立場で活動していくという部分を早期に認識してもらう,その立場で個別修習の実を上げてもらう。そういう位置づけにおいて,成果はそれなりに上がっていると思う。

高橋委員長 旧司法試験では,どういう法学教育を受けてきたかは全く問われなかったが,現在は,法科大学院があって,司法修習があって,法曹資格を得た人の継続教育もあって,これら全体を見た上で,しかし司法修習から見れば,法科大学院が前にある。これが制度の上で大きな違いであるから,旧司法試験のときと現在とでは,修習の在り方はおのずから違うはずではないかという点が一つあるが,そのような理解でよろしいか。
 もう一つ,旧来は,どちらかと言えば法廷実務家を想定した修習が行われていたが,法科大学院ができて法曹の多様性が強く主張される現在では,法廷実務家だけではない法律家というものも念頭に置かなければいけない。そういう視点で,実務修習の在り方を原点に立って見直していかなければいけないという理解でよろしいか。

大橋委員 全く異論はないが,現在の制度では,法廷実務家以外の者を明示的に教育の対象としているのは民事弁護科目しかないであろう。
 他の科目において,例えば,法廷実務家を養成しないための民事裁判科目はどういう形で行われるかということを,検討しなくてはいけないことになるのか。

高橋委員長 御指摘のとおりで,従来は,どちらかと言うと文章を書かせることが中心であったが,今後は法律文書の作成の重視という観点ではなく,事実や法律の問題点をそれぞれの立場から把握して判断していく実務的な思考過程を鍛える,そういう方向に変わっていくのではないかという問題提起であるが,その点はいかがか。

田村幹事 現在の民事裁判科目は,多くは弁護士になるという前提で,民事裁判という形を通じてはいるが,そこで養成する目標は,民事の法律実務に携わる者にとって共通の基盤となる能力を養成しようという形でやっており,法廷の技術的なことは,どちらかというと二の次でやっている。

河合幹事 刑事裁判科目も全く同様で,裁判官教育という従前の方針は全く改めて,法曹に共通する能力を養うという前提で,刑事事件を通じてではあるが,そのような汎用性のある能力を養うという教育に,ほぼ変わってきている。

高橋委員長 法科大学院制度ができて法律家の多様性というものも出てきて,その中で実務修習をもう一回原点に立ち返って眺めてみようという原理的なものにプラスして,例えば,適切な事件が少ないことにどう対応していくか,時間の短い中で個別修習をどう充実させていくかについて,もう一回原点に立ち返って見直すべきものがあるのかどうか,見直しの試みをしてみたいということでよろしいか。

出席委員全員 了承

高橋委員長 そうすると,そこで指導指針ができ上がったとすれば,指導指針の明確化を検討し,明確化ができたならば,それを各地の指導担当者に周知しなければいけない。新しい理念のもとの新しい実務修習というものに全国各地で頭を切り替えていただくために,周知徹底を図らなければいけない。この点もよろしいか。

出席委員全員 了承

3.法科大学院教育と司法修習の具体的役割分担

高橋委員長 前提として,法科大学院における実務基礎教育の内容は,従来の司法研修所の前期修習とは性質がおのずから違うものであって,法科大学院に前期修習そのものの前倒しをするものではないと理解していたが,この点について,特に「議論の取りまとめ」に関与された方々のお考えはいかがであろうか。

鎌田薫委員 出発点で考えていたことと,実際に法科大学院での教育を経験したこととを踏まえると,法科大学院で法律に関する基本的な素養を身に付けさせると同時に,従来の前期修習の内容も法科大学院で引き受けることは,現実的にできないと思う。
 法科大学院では,将来実務に従事してスキルを発展させていく土台となる基礎的な体力を養成するということで,従来よりは,はるかに実務を意識した教育を行っているが,従前の前期修習に代わるということは当初から予定していなかったと理解している。

酒巻委員 実際の法科大学院での教育も踏まえると,法科大学院の教育の基本部分は,法理論教育が中心であり,理論の部分を基本に立ち帰って深く極めるという前提を確固としたものにする。そのことこそが真の実務への架橋になる,そういう哲学でつくったのが法科大学院だと認識している。
 そして,そこで行われる実務基礎教育も,理論的な教育で培った部分が,具体的な事案の法律問題の解決の場面でどのように働いているかということを学生に意識させて,法の適用・応用の基礎的能力を体得させ,その後に続く臨床教育の導入にすることを主たる目的にしている。
 したがって,従前の前期修習で行われていた,例えば,弁論要旨や起訴状,準備書面を起案させる,いわば実務技術的訓練は,このような基本的な理念から言えば,重要な意味を持たないと思っている。
 むしろ,そこで何を書くべきか,その前提となっているのは刑法や民法の確実な理解であり,また具体的な事実の中で何が法適用にとって重要な事実であるかを,理論を踏まえて発見指摘する能力の養成が主眼である。それを簡潔な論理的な文章として起案することは重要であるが,形式的な準備書面や弁論要旨を書くこと自体を目的とした教育は法科大学院では行わない,そういう前提で設計されている。
 基本部分ができていれば,臨床の分野別実務修習で実際の事件に接したとき,形式に合わせて文章をつくるのは容易なことであろう。
 法曹養成の全過程の中で,まずは基本の理論と具体的な事案との関係での法適用能力を体得させて法律実務家に必須の前提を確たるものとするのが法科大学院教育だという基本線は間違っていないし,新司法試験もそのような能力の達成度を判定していると認識しているので,それを前提にした次の段階の臨床教育を改めて,具体的にさらに深めて考えていくのが今後の課題だろうと思っている。

大橋委員 特に新しい制度になって大事なのは,法科大学院教育と司法修習との連続性が非常に強調されているところにあると思う。
 また,現に法科大学院は,かなりの程度,従前の前期修習程度のものを行っているであろうと思う。例えば,司法試験では,長文の事例から具体的な事実を抽出して,それに法律を当てはめて問題を解決する作業が求められるが,これは,例えば,前期修習の民事弁護の科目であれば,訴状や答弁書を書かせるための最初の作業として行われていたことである。
 したがって,原理的に言えば,新司法試験に受かった人たちは前期修習の半分以上が行われていて,書面化する作業を必要であれば訓練する。場合によっては,書面化のところまで法科大学院で教えてもらえれば,実務に円滑に入っていけるというのが制度的なものだろうと思う。
 ただ,欠けているのは,おそらく事実認定のところで,特に刑事で強く出てくるが,法科大学院における事実認定教育がどういう形で行われて,それを司法修習にどう結びつけるかについては,まだ検討が不十分ではないかという印象がある。

今田幸子委員 まず第一に感じたのは,前期修習の前倒し云々の議論が,なぜそんなに重要な議論かということである。
 旧来の司法試験,研修という枠組みではなく,全く新しい制度であって,来るべき社会の法曹人を育てるために,法科大学院の中で基本的な素養を訓練,教育し,司法試験によって選抜し,修習の中でそれを深め,実践に出て法曹人として活躍した人たちが継続教育で,さらに専門家として深めていくという,非常に長い,壮大なプログラムである。
 そのプログラムの中の修習という役割がどうあるべきか,というのがこの委員会の課題と考えてきたので,旧来のプログラムのある部分を,新しい法科大学院が担当するしないという発想がなぜ出てくるのか分からないし,そのような議論は,旧来の方法自体に縛られ過ぎている発想であって,もっと自由に,新しい制度全体の望ましい在り方を議論すればいいと思う。
 実際に法科大学院は動き出しており,新しい司法試験の結果も出て,さらに修習での結果も出てきていることを踏まえて,プロセスとしての法曹人養成という原点に戻って,もう一度,あるべき修習の姿を,実際のデータに基づいて議論するということでよろしいかと思う。

高瀬浩造委員 医学界でも過去に教育改革をたくさんやってきて,大胆に変えたりしているが,法曹界も似たところがあって,社会は少なくとも司法制度改革とか法曹教育改革に応じて激変していないので,社会のことを考えると,今までできていたことができない法曹関係者を輩出するわけにはいかない。そう考えると,教育制度も理念も変えるけれども,少なくともある程度の能力以上の人たちを,いろんなバラエティがあるとは思うが,ある程度の数は供給することが大前提になると思う。
 また,これだけ教育の仕方を変えているので,同じものが残るはずもないし,同じものが移行するはずもないとは思うが,過去に行われた教育の,この部分が,どの程度,どこで実現されることが念頭に置かれていたのかが問題であって,例えば,従前の前期修習の,この部分は,最低限,法科大学院でやられているはずであろうという前提があると思う。それが現実に法科大学院でやられているどうかは検証の必要があるだろう。
 ただ,そうは言っても,実際には新司法試験の二回目が終わって,今の段階では,私は,この修習制度は破綻していないと思っている。そのことをきちんと評価しなければいけないと思う。
 その範囲内でいろいろ問題があって,そのしわ寄せが刑事のあたりに集中しているのではなかろうか。しかし,それは,制度そのものの問題というよりも,日本における司法の構造的な部分に関与していることで,かなり抜本的にやらないといけないであろう。そういう共通認識の中で議論をする必要があると思っている。
 法曹教育には大胆な改革が行われたと理解している。

林幹事 本日御欠席の翁(百合)委員からお預かりしているコメントによれば,高橋委員長が最初に御指摘されたのと同様の理解である。

高橋委員長 それでは,続いて,法科大学院の実務基礎教育の在り方について,司法修習の立場からの各論的な議論ができればと思うが,いかがであろうか。

酒巻委員 木村幹事長の御報告にもあった司法研修所の各教官室の教育方針について,大きな方向としてとても良いものだと思っているが,それに関する情報,つまり,法科大学院に続く法曹教育について,最後の仕上げ段階の教育がどのような基本哲学に基づいて現に行われているかという具体的な情報が,法科大学院側に的確に伝わっていないような気がしている。
 例えば,既に数年前から司法研修所では,伝統的な要件事実の細かな教育から基本的な方針を転換し,要件事実そのものは重要な法的な分析の道具であるという理解はあっても,基本はやはり民法等基礎的法律の体系的理解であるということを明示的に意識して,教育方法も大きく変えてきたと承知している。それは民事弁護にも影響しているだろう。ところが,一部の法科大学院では,昔の前期修習に準じればいいと誤解して,要件事実を必死にやっているという例もあると聞いている。
 むしろ司法研修所の教育のほうが進化している面もあって,その情報が法科大学院側にフィードバックされるように努力する必要が,まず大前提としてあるように思う。

大橋委員 例えば,法科大学院と司法修習側との意見交換が非常に重要かと思うが,制度的に行っているものがあるだろうか。
 また,法科大学院の場合,研究者の教員と実務側の教員とで意見交換をしているところと,両者が意見交換しないために双方に情報が伝わらないところがあるようだが,そういうことも含めて,意見交換の場が用意されているのか。

鎌田委員 一つは,現在,中教審でコアカリキュラムというような議論をしているが,最低限,法科大学院ではこういうことをやりましょうということをオフィシャルに議論する非常にいい機会だと思っている。
 もう一つは,法科大学院協会と司法研修所との間で,非公式と言ったほうがいいと思うが,意見交換の機会をつくっているところである。
 ついでに言えば,前期修習肩代わり論のようなものを取り上げることになった要因の一つに日弁連の意見書があるが,弁護士会委員としては,前期修習分は法科大学院が担うべきというような認識を前提にしている印象も受けるので,法科大学院と司法研修所だけではなく,法曹養成システム全体についての法曹三者,さらには社会全体の理解を得ていくことが必要であろう。旧制度における法曹の姿と新制度のそれとは違ってくるはずで,そのあたりの認識のずれがこのような議論に影響していると思うので,法科大学院だけでなく,司法界全体に新しい認識を広める努力が必要であろう。

林幹事 法曹三者と法科大学院側との公式の意見交換の場としては,まさにこの司法修習委員会が存在し,連携検証の関係では五者協という協議会がある。
 非公式には,例えば,法科大学院協会の幹部と司法研修所の裁判教官との意見交換の場を設けたり,その他にも,若手レベルで意見交換ができないかということで,数年来試みているところである。
 だんだん蓄積が出てきているので,その結果等についての情報の開示,提供という点についても努力していきたいと思っている。
 大もとの方針である指導要綱等については既に公表されているが,それだけでは具体的なイメージが持てないところがあるので,指担協では民事裁判,刑事裁判の分科会において指導指針的なものが出ているが,これは公表されていないので,その取扱いも含めて,より広く情報提供し,批判にさらしていくことも工夫していきたいと思っている。

高橋委員長 法科大学院側でも努力すれば情報は随分手に入ると思うが,法科大学院内部においてどれだけ情報が 共有されているかという実態は,確かに法科大学院によって違うのかもしれない。
 私の知っている範囲では結構やっており,お互いの授業を見せ合って,例えば,1年生の法学未修者に対する教育を知った上で2年次,3年次を教えたりしているが,やはり法科大学院によって実態は異なるであろう。
 いきなり各論というのも難しいかもしれないし,中教審での議論もあるようなので,「司法修習の側から見た法科大学院での実務基礎教育の在り方」というテーマについては,まず幹事会で議論していただき,次の委員会に上げていただければと思うが,いかがであろうか。

出席委員全員 了承

4.選択型実務修習の実情と問題点

大橋委員 新61期について,A班とB班とで応募状況に違いが見られるか。

林幹事 どのような指標で評価するかは難しいが,見方によっては,B班に比べるとA班の応募の雰囲気が,若干消極的な感じがする。

大橋委員 プログラムによって起案など負担が大きいプログラムと,比較的楽なプログラムがあるのではないか。
 また,分野別実務修習の補完という意識のもと,例えば,刑事の模擬裁判を必修の形にしたいという考えがあるのではないか。

巻之内茂幹事 弁護士会の状況として,刑事事件については,分野別ではほとんど情状論の事件しか扱えないので,模擬裁判で否認事件を扱うことによって刑事弁護についての考え方を育成していくべきではないかという考えがある。しかし,実際に募集してみると,大変少ない人数しか集まらないので危惧しており,選択必修という考えが出てきているようである。
 民事も同じで,分野別では,たまたまその事務所にあった事件を生で見ることができるものの,短時間なのでわずかな場面しか見ることができないので,本当に真っ向から争って,事実認定についてお互いの主張をぶつけ合って証拠を収集してやっていくような経験を,集合修習とは別の場所で,実務に携わっている弁護士みんなで議論し合いながら,その中で修習生を育てていきたいということで,選択必修という考えが出てきていると思う。
 東弁,一弁,二弁,いずれも同じような議論がされていると思う。

林幹事 最近,刑事裁判の分野別実務修習では,ミニミニ模擬裁判,ミニ模擬裁判と称する1日で刑事裁判のロールプレイができるような資料を各庁に配り,全国的に実施してもらっているところである。その上で選択型実務修習の模擬裁判プログラムがあり,さらに司法研修所での刑事共通のロールプレイのメニューがある。それらをどういう形で連携させ組み立てていくかを踏まえて議論する必要があると思う。
 ただ,新61期はまだ2期生であり,実際のデータを集めた上で,改めて修習委員会で御議論いただければと思っている。

酒巻委員 法科大学院でも,すぐれた実務家教員の先生方と適切な記録があれば,ハイレベルな模擬裁判が十分できると思う。
 実際の事件でなくても,複雑な法律問題をはらんだもの,刑事であれば,刑事裁判のみならず,弁護や検察の観点からも重要な論点を盛り込んだものをつくって徹底的にやってみる,ということも考えられる。
 実務修習は,やはり本物の事件を扱うのが本来の姿ではないかと思うので,その点は御検討いただければと思う。

今田委員 選択型実務修習は新しい修習の目玉の一つであり,法曹人の自主性という部分について非常に重要な位置を占めており,本人のやる気次第でいろんなバリエーションが出てくると思う。
 意図どおり新しい制度として定着させられるかどうか,一定期間,選択型修習の過程を見た上で,その成果について,指導された先生方から多くの情報を上げていただきたいというのが希望である。

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