政府公表資料等情報

第14回司法修習委員会平成21年3月5日より抜粋

6.議事

ア.司法修習の状況

 林幹事等から,第13回委員会以降の司法修習の状況等について報告がされ,次のとおり質疑応答がされた。

酒巻匡委員 新61期では,法科大学院で初めての法学未修者が,司法修習を受けて法曹養成の最終段階に至ったわけであるが,現在,法科大学院ではとりわけ法学未修者の教育の在り方についてもいろいろと検討を進めているところである。そこで,参考までにお尋ねしたいが,再受験者を除く新61期の不合格者101人について,法学既修者と法学未修者の不合格割合はどのようなものか。

林道晴幹事 再受験者を除いて初めて二回試験を受けた新61期生1811人のうち,約3分の2が法学既修者,約3分の1が法学未修者というイメージである。
 法学既修者と法学未修者別の不合格率を紹介すると,法学既修者だけの中での不合格率は約7%,一方,法学未修者だけの中での不合格率は約3%となっており,今回の結果だけを見ると,有意的な差が出た形になっていると思う。

大橋正春委員 2点お聞きしたい。
 1点は,二回試験の結果に関して,出身法科大学院別の結果を把握しているのか,あるいは,制度的に把握するような仕組みができているのか。
 もう1点は,従来は,二回試験が司法研修所の中での試験という色彩が強いために,その内容や採点基準,出題趣旨などは公表されてこなかったと思うが,制度等も変わってきている中で,二回試験の問題の内容や出題趣旨などを,今後公開することを検討しているのか。
 例えば,司法試験の場合には,司法試験委員会が出身法科大学院別の合格者等を公表している。 公表することがいいかどうかは別の話だと思うが,ただ,法科大学院側に,自分のところで修了させた者が最終的にどうなっているかを知っておいてほしいと思うので,制度的にそういうものができているのかという問題だと思う。

林幹事 大橋委員の最初の御指摘には,十分留意する必要があると思う。制度的な枠組みというものはないと承知している。
 例えば,新61期の101名の不合格者に関して,法科大学院別の結果を公表することに意味がないとまで申し上げるつもりはないが,逆に,公表したことによって独り歩きする危険性もある。また,司法試験合格者の出身校については司法修習における指導において考慮していないので,従来から,そのような形の公表はしてきておらず,新司法修習になっても同じ取扱いを続けている。今後,御指摘のようなニーズが高い部分があるのであれば,可能かつ相当な提供の仕方としてどのような形が考えられるのか,法科大学院関係者等とも意見交換しながら,あるべき形を検討してみたいとは思う。
 ただ,制度的な枠組みとしてあるのは五者協議会であり,法科大学院の成績と新司法試験の成績,さらに司法修習成績の連携検証という作業が進んでいるので,その議論の推移等も見て考えてみたい。
 二回試験に関する情報開示の点については,関係者のプライバシーなど考慮すべき問題もあり,どの程度であれば支障がないか考えてみたい。

大橋委員 考試記録の概要と考試問題の程度であれば問題ないのではないか。

林幹事 御指摘も踏まえて,検討してみたい。

 

(3)新司法修習に関する議論等

ア.法科大学院における法律実務基礎科目との連携の在り方について

高橋宏志委員長 最初に木村幹事長より,幹事会における議論の状況についての御報告をお願いしたい。

木村光江幹事長 本日の議題の第1である「法科大学院における法律実務基礎科目との連携の在り方」に関し,幹事会における議論の状況について報告する。
 昨年9月3日に開催された前回委員会において,新司法修習は,従来の司法修習とは大きく異なるものであること,すなわち,従来の司法修習は,旧司法試験という「点」で選抜されたものを対象とし,法廷実務家を養成する過程と考えられていたのに対し,新司法修習はその指導理念や目標を全く異にするものであって,法律実務基礎科目の教育内容も,従来の司法修習における前期修習に求められていた内容とはおのずと異なるものになるはずであること, また,養成過程が全く異なる以上,新司法修習がスタートする分野別実務修習の開始時点における標準的な司法修習生の資質や水準も異なる。ややくだいた言い方をすれば,粗削りな面もあるかもしれないが,理論的・体系的な法的思考力はより身に付いていることが期待できるのではないか,といったことが再確認されたと了解している。
 この点を前提に,具体的にどのような事項が法律実務基礎科目の教育内容として盛り込まれることが考えられるのかについて検討するよう,私ども幹事会に宿題が出されていたところである。
 そこで,事務当局を中心に,司法研修所の五教官室の意見を踏まえて,資料39及び40のたたき台を作成し,本年2月6日に実施された幹事会において,これらのたたき台に基づいて議論を行った。
 内容についてはいずれも異論なく了解されたので,民事訴訟実務の基礎に関する資料39は,幹事会に提出されたたたき台をそのまま原案としてお示ししている。
 刑事訴訟実務の基礎に関する資料40については,内容をより疑義のないものとする観点から,2か所,語句の修正を加えたが,その他の点についてはたたき台からの変更はない。
 資料39及び40の詳しい説明については,林幹事からお願いしたいと思う。

(資料39 法科大学院における「民事訴訟実務の基礎」の教育の在り方について(案))

1.「民事訴訟実務の基礎」のポイント

 プロセスとしての法曹養成制度において,法科大学院における教育は,実体法,手続法に関する法理論教育(従来まま見られたような法学部教育と同様のものではなく,実務との架橋を意識したものに改められたものを念頭に置いている。)が中心であるが,実務基礎教育も,実務の基礎的素養を修得させること,すなわち,その法理論が具体的な問題解決の場面でどのような意義,機能を有しているかを認識させ,これによって理論と実務の架橋を図りつつ,法制度の体系的な理解を一層深めさせることを目指すべきものとして重要な意義を有するものである。

(1) 民事実体法・手続法に関する具体的イメージを伴った理解

 民事訴訟手続においては,当事者双方(原告・被告)及び裁判所の三面構造の中で,原告が定立した訴訟物の存否等をめぐり,当事者双方が主張及び証拠を提出し,それらに基づいて訴訟関係人及び裁判所が協働しながら争点及び証拠を整理し,争点に沿った適切な証拠調べを実施し,証拠に基づいた的確な事実認定に立脚した妥当かつ終局的な紛争解決の在り方を考えていくことになる。
 これら一連の手続の中で,主張を分析し,争点や証拠の整理等を行うに当たり重要なのが民法等の民事実体法であり,その解釈から,当事者が意図する法律効果(権利の発生,障害など)を分析し,その発生要件,障害要件に該当する具体的事実(要件事実)が何かを踏まえながら主張の分析や争点の整理等を行うことになる。「民事訴訟実務の基礎」では,法律基本科目で学修したこれらの民事実体法の理論的・体系的な理解を踏まえて,これらが民事裁判の場で具体的にどのように活かされるのかを法科大学院生に理解させる必要がある。

* 要件事実は,あくまでも民事実体法の解釈を踏まえて考えられるべきものであり,そこで規定された法律要件や法律効果を離れて要件事実を論じることには意味がない。そして,要件事実は,あくまでも当事者の主張を分析し,争点や証拠を整理するためのツールにすぎないのであって,それ自体が独立の教育目標となるものではない。法科大学院生に対しては,これらの当然のことをしっかりと理解させた上で,民事実体法の解釈を踏まえて,問題となる主張やその要件事実がどの条文のどのような解釈から導かれてくるのかを考え,理解させることが大切である。

 そして,法科大学院の修了生は司法試験合格後直ちに実務修習を行うものであることも踏まえると,民事訴訟手続を中心とした紛争解決の一連の手続が実務において具体的にどのように進められていくのかを一とおり理解させておくことも必要である。その際には,民事執行手続や民事保全手続が設けられている理由や,その手続の基本的な構造や手続の概要といったごく基礎的な事項についても,司法試験合格後司法修習開始までに適切な事前準備ができるようにするという観点から,取り上げておく必要があろう。
 授業の方法としては,上記の点を理解させるために,例えば,言い分等を記載した書面や基本的な資料を段階的に配布し,要件事実等の検討を踏まえて,訴状や答弁書,準備書面等の実質を含んだレポートをあらかじめ作成させたり,作成したレポートを踏まえて,釈明事項等を検討させ,討論等をすることが考えられる。
 民事訴訟手続を中心とした紛争解決の一連の手続を理解するとともに,民事実体法の解釈を踏まえた要件事実の考え方を理解することにより,訴訟代理人として,どのような権利を訴訟物として主張し,どのような事実を主張立証すべきか,そのためには,どのような手続を利用すべきか,また,それに対してどのように対応し反論すべきかという訴訟代理人の活動の基本的な事項を理解することができ,また,裁判所(官)としても,当事者の主張をどのように分析,整理していくか,どのように手続を進めていくかという裁判所の活動の基本的な事項を理解することができる。これらは,いずれも,法律実務家として立場を問わず身に付けておくべき基本的な事項であり,実務修習に入る前に,法科大学院において学修しておくべきことである。

(2) 事実認定の前提となる基礎的事項の理解

 事実認定能力の修得は,「生きた事件」を素材とした検討が望ましく,新しい法曹養成過程の中では,専ら司法修習における実務修習において行うべきものである。
 法科大学院段階では,まず,事実認定を検討する前提となる基礎的な事項を理解させることに主眼を置く必要がある。すなわち,証拠の意義や,自白・書証・人証の各機能,証拠の収集方法,証拠調べの方法,経験則の機能等について基礎的な理解を図り,特に,証拠として重要とされている書証の意義や機能,その成立,成立の推定に関する問題等については,法科大学院の修了段階でこれを十分に理解させておく必要がある。これらは,民事訴訟法等の法律基本科目の授業においても扱われるところと思われるが,理論面における重要度よりも実務的な重要度の高い点であることなどからすると,「民事訴訟実務の基礎」の授業においても,これらの事項について実務的な観点も踏まえた教育を更に行う必要があろう。
 授業の方法としては,事実認定は,一般論だけでは具体的なイメージが持ちにくいことから,模擬の記録等を利用して検討することも,基本的な理解の定着に有用である。
 事実認定を検討する前提となる訴訟手続の基本的な事項を理解することにより,訴訟代理人として,一定の事実を立証するために,どのような証拠をどのような方法で提出すべきか,相手から提出された証拠に対してどのように対応すべきかという訴訟代理人の活動の基本的な事項を理解することができ,裁判所(官)としても,当事者から提出された証拠をどのように整理すべきか,また,どのように評価すべきかという裁判所の活動の基本的な事項を理解することができる。これらは,いずれも,法律実務家として立場を問わず身に付けておくべき基本的な事項であり,実務修習に入る前に,法科大学院において学修しておくべきことである。

2.考えられる授業計画案

 以下の授業計画案は,このような観点から,必修の法律実務基礎科目としての「民事訴訟実務の基礎」の授業における一つの案として作成したものである。

第1回 導入

 自己紹介と授業内容の説明の後,民事紛争解決の手続の流れや構造を概観し,その中での裁判官や訴訟代理人の役割について,学修する。

第2回 訴えの提起前の段階

 訴えの提起前において,相談を受けた際の相談内容の把握や法的分析,資料の収集方法,法的手段の選択の在り方等について,具体的に学修する。
 相談者の相談内容を記載した書面や基本的な資料等をあらかじめ法科大学院生に配布し,それに基づいて検討させ,討論等をすることが考えられる。

* 相談内容の把握や法的分析等においては,訴訟代理人として,どのような権利に基づいて,どのような権利実現を求めることができるか,その際に主張立証すべき事実は何か,という観点も大切であり,その検討のためには,民事実体法の解釈を踏まえた要件事実の理解が重要であることを理解させる必要がある。

第3回 訴えの提起1

 訴えの提起に当たり,原告代理人として,どのような権利を訴訟物として主張し,どのような事実を請求原因として主張すべきか,また,どのような書証を添付すべきか,また,裁判官として,訴状審査においてどのような点を審査し,補正の促し等をすべきか,具体的に学修する。
 当事者の言い分を記載した書面や基本的な資料等をあらかじめ法科大学院生に配布し,それに基づいて,訴状の実質を含んだレポート(様式・体裁を問わない。)を作成させるなどして検討させ,討論等をすることが考えられる。
 また,法科大学院生が作成したレポートを踏まえて,訴状審査においてどのような点を審査し,補正の促し等をすべきか検討させ,討論等をすることも考えられる。

* 訴訟物としての権利の主張や,その発生原因である請求原因や抗弁等の要件事実は,民事実体法の解釈の問題であり,要件事実は,民事実体法の解釈を踏まえて考えるべきものであることを理解させることが重要である。
 なお,訴状や答弁書,準備書面等において,どのような内容を盛り込むべきかを検討させることは重要であり,訴状や答弁書等の実質を含んだレポート等を作成させることは文書による表現能力を修得させるための一方法として有用であると考えられるが,実質とは直接結び付かない訴状等の様式・体裁や具体的な記載方法等の技術的な事項は,実務修習やその後の集合修習,資格取得後の継続教育を通じて身に付けていくべきことであると考えられるので,法科大学院では,訴状や答弁書等を作成するに当たっての基礎となる,訴訟物や要件事実等についての基本的な考え方,それを踏まえた整理と表現をすることに重点を置くことになると思われる。

* 事案としては,第2回の授業で用いたものと同様のものを用い,訴えの提起の段階に至ったという想定で,資料を追加するなどして検討させることが考えられる。同じ事案を用いて,訴えの提起前の段階から,訴えの提起,被告の応訴,争点整理手続等を段階的に検討させることにより,法科大学院生は,一連の手続が具体的なイメージを持ってどのように進行していくのかを理解するとともに,民事訴訟手続の中で訴訟物と要件事実がどのように機能しているかを理解し,法的に意味のある主張を分析,検討する基礎的能力を修得することが容易になると考えられる(一連の手続で用いる事案を,以下「基本事案」という。)。

第4回 訴えの提起2

 具体的な学修事項は,第3回と同様であるが,基本事案とは異なる事案を用いて,第3回の授業を踏まえ,訴状の実質を含んだレポート(様式・体裁を問わない。)をあらかじめ作成させるなどして検討させ,討論等をすることが考えられる。
 また,法科大学院生が作成したレポートを踏まえて,訴状審査においてどのような点を審査し,補正の促し等をすべきか検討させ,討論等をすることも考えられる。

* 基本的な訴訟類型については,授業の中で,適宜取り上げることになるが,授業において「改訂 問題研究 要件事実」等に登載されているすべての訴訟類型を取り上げる必要はないと考えられる(授業で取り上げなかった訴訟類型については,自学自習を促すことになる。)。

第5回 被告の応訴1

 訴状が送達された後の被告の応訴について,被告代理人として,被告からの事情聴取等を踏まえて,どのように応訴すべきか,また,答弁書が提出された場合に,裁判官として,どのような点を検討し,釈明等を求めるべきか,具体的に学修する。
 基本事案について,訴状や被告からの事情聴取を記載した書面等を法科大学院生に配布し,それに基づいて,答弁書を念頭に置いたレポートをあらかじめ作成させるなどして検討させ,討論等をすることが考えられる。
 また,法科大学院生が作成したレポートを踏まえて,裁判官として,どのような点を検討し,釈明等を求めるべきか検討させ,討論等をすることも考えられる。

第6回 被告の応訴2

 具体的な学修事項は,第5回と同様であるが,基本事案とは異なる事案を用いて,第5回の授業を踏まえ,答弁書の実質を含んだレポート(様式・体裁を問わない。)をあらかじめ作成させるなどして検討させ,討論等をすることが考えられる。
 また,法科大学院生が作成したレポートを踏まえて,裁判官として,どのような点を検討し,釈明等を求めるべきか検討させ,討論等をすることも考えられる。

第7回 第1回口頭弁論期日

 第1回口頭弁論期日について,その意義や手続,裁判官や訴訟代理人の求釈明や釈明等の訴訟活動等について,具体的に学修する。
 基本事案について,訴状や答弁書,書証等をあらかじめ法科大学院生に配布し,それに基づいて手続や釈明事項等を検討させ,討論等をすることが考えられる。

第8回 争点整理手続1

 弁論準備手続の意義や手続,裁判官の求釈明や訴訟代理人の釈明等の訴訟活動,書証の意義や取調べ,認否,成立等について,具体的に学修する。
 基本事案について,準備書面や書証等をあらかじめ法科大学院生に配布し,それに基づいて手続や釈明事項等を検討させ,討論等をすることが考えられる。
 それまでに提出された訴状や答弁書,書証等に基づいて,準備書面の実質を含んだレポート(様式・体裁を問わない。)を作成させるなどして検討させ,討論等をすることも考えられる。

第9回 争点整理手続2

 第8回に引き続き,弁論準備手続の意義や手続,裁判官の求釈明や訴訟代理人の釈明等の訴訟活動,書証の意義や取調べ,認否,成立等について,具体的に学修する。
 基本事案について,追加の資料等を法科大学院生に配布し,第8回の授業を踏まえて,準備書面の実質を含んだレポート(様式・体裁を問わない。)をあらかじめ作成させるなどして検討させ,討論等をすることも考えられる。
 また,基本事案と異なる事案を用いて,言い分方式等の教材を法科大学院生に配布し,訴訟物や主張,判例の射程等について,あらかじめレポートを作成させるなどして検討させ,討論等をすることなども考えられる。

第10回 争点整理手続の実際

 基本事案について,第1回口頭弁論期日や弁論準備手続等を法科大学院生が実演し,その内容について検討や討論等をすることにより,争点整理手続の在り方等について,より具体的なイメージを持たせる。

第11回 事実認定の基礎

 証拠の意義(事実認定の資料),自白・書証・人証の各機能,証拠の収集方法,証拠調べの方法,自由心証主義の意義,経験則の機能等について,具体的に学修し,その学修を通じて事実認定の基礎を身に付ける。
 基本事案について,訴訟代理人として,どのような証拠をどのように収集することが考えられるか,書証等の提出の方法,証拠調べの方法,証人尋問等の申請の方法等について,検討させ,討論等をすることが考えられる。

第12回 事実認定の検討

 事実認定の在り方について,具体的に学修する。
 基本事案について,証人尋問の結果等を法科大学院生に配布するなどし,事実認定についてのレポートをあらかじめ作成させるなどして検討させ,討論等をすることが考えられる。

第13回 和解・判決

 和解の意義や和解への裁判官や訴訟代理人の関与の在り方,判決の意義や判決の在り方等について,具体的に学修する。
 基本事案について,心証を踏まえた上で,どのような和解が相当か,また,どのような判決が相当か,検討させ,討論等をすることが考えられる。

第14回 民事執行・民事保全

 判決が確定した場合等の民事執行や,民事執行を念頭に置いた上での民事保全について,具体的に学修する。
 基本事案について,判決が確定した場合に,どのような民事執行の手続により判決内容を実現させるか,また,民事執行を念頭に置いた上で,訴えの提起前に,どのような民事保全の手続により民事訴訟の本案の権利の実現を保全するか,検討させ,討論等をすることが考えられる。

第15回 まとめ

 授業のまとめと質疑応答を行う。

以上

 

(資料40 法科大学院における「刑事訴訟実務の基礎」の教育の在り方について(案))

第1.「刑事訴訟実務の基礎」のポイント

1.「刑事訴訟実務の基礎」の授業の基本的な内容

 プロセスとしての法曹養成制度の観点から考えた場合,法科大学院においては,基本法についての法理論教育(従来まま見られたような法学部教育と同様のものではなく,実務との架橋を意識したものに改められたものを念頭に置いている。2も参照)が重要であるが,「刑事訴訟実務の基礎」は,法科大学院における刑事系教育の一環を構成し,刑法や刑事訴訟法等刑事法に関する理論的理解を,実際の訴訟の場面で具体化して深めるものとして位置付けられる。 具体的には,法律基本科目を通じて,刑法の科目においては訴因レベルの実体的要件に関し,刑事訴訟法の科目においては捜査段階における証拠資料の収集に始まり,公訴提起,公判審理を経て判決に至るまでの刑事手続に関し,それぞれを理解する上で不可欠な制度枠組み,基本となる法理,重要な条文等について,主要な判例や学説を踏まえて理論的な理解を学修することになる。一方, 「刑事訴訟実務の基礎」科目では,こうした刑事系の法律基本科目で修得した理論的な理解を前提として,実務上比較的多く見受けられる事案を素材として,刑事手続法のルールやそのルールに則って行われる裁判所及び訴訟関係人の訴訟行為について具体的なイメージを持った上で,その法的根拠や刑事手続における実務的な意義に関する理解を深めることが目的となる。そして,このような刑事系の法律基本科目と「刑事訴訟実務の基礎」科目の関係からは,「刑事訴訟実務の基礎」の具体的な授業内容としても,刑事手続を扱う場面及び事実認定を扱う場面において刑法科目や刑事訴訟法科目との連携を意識して考えていく必要がある。
 法曹養成の次のプロセスである司法修習との関係では,「刑事訴訟実務の基礎」により,司法修習において前提として必要となる刑事手続に関する基本的な理解を得ることが目標となる。司法修習では,具体的に生起している事案を素材として,その事案自体を適切に解決するため,あるいは,その事案を一つの契機として,これまで修得してきた刑法や刑事訴訟法等刑事法の理論的な理解をより具体化させ,実践的,応用的能力に向けて発展させていくことが求められてい る。そのためには,判例や実務でよく生起する典型的な事例をモデル化したものを題材にした検討によって,刑法や刑事訴訟法等刑事法に関する理論的な理解を基礎とした,刑事手続全体の流れについての理解を一とおり有していることが前提となる。「刑事訴訟実務の基礎」の授業内容を検討する際にそのようなことを意識する必要がある。
 さらに,「刑事訴訟実務の基礎」は必修科目としての法律実務基礎科目であるから,前述した観点からのミニマムスタンダードの修得が目標であり,先端科目としてのその他の実務系選択科目との役割の違いをも意識する必要がある。

2.裁判員裁判と「刑事訴訟実務の基礎」

 平成21年5月から施行される裁判員裁判は,これまでの刑事裁判の在り方に様々な転換を求めるものである。「刑事訴訟実務の基礎」を含めた刑事系教育の在り方を考える上では,裁判員裁判を中核とした新しい刑事裁判の在り方を念頭に置く必要がある。具体的には,「これまでの刑事訴訟実務の基礎」ではなく,「これからの刑事訴訟実務の基礎」の修得を目指していくことが必要となる。したがって,実務家出身の教員側においても,これまでの自分の実務体験にのみ基づくのではなく,これからの刑事裁判の在り方を意識し,場合によっては自らの意識改革を図りながら,教育を実践していくことが必要となる。また,そこでの教育内容は,「刑事訴訟実務の基礎」が前述のとおり司法修習が前提として必要としているミニマムスタンダードの修得を目標としていることからすれば,これからの刑事裁判を担う上で法曹三者に共通して必要となる基本的事項を盛り込んだものとなるべきである。

3.教育に当たっての留意点

 「刑事訴訟実務の基礎」の在り方を検討する際には,まず,「何を教えるのか。」という教育内容の検討が最も重要である。そして,そこで取り上げる内容が,司法修習が前提として必要としているミニマムスタンダードの修得を目指したものであり,法曹三者に共通して必要となる基本的事項であることを考えれば,教育を担当する教員が裁判官,検察官,弁護士のいずれであっても,その基本部分を教育することが可能なものとなるはずである。「刑事訴訟実務の基礎」においては,実務家教員が担当することから,裁判官,検察官,弁護士という「立場」に立脚した教育の必要性が強調されることがあるが,法科大学院生が「刑事訴訟実務の基礎」の理解を深める上で有意義なものであるのか否かという観点から改めて検討されるべき事柄である。つまり,「何を教えるのか。」,「どのように教えるのか。」を検討する際に,法曹三者それぞれが,どのような「視点」で混沌とした事実関係の中から重要な事実上又は法律上の問題点を分析検討しているのかという思考過程を理解させ,複眼的に物事を考えることができるよう教育することが重要であると考えられるが,それは,オムニバス方式の授業で裁判官,検察官,弁護士が同一ないし類似の事項についてそれぞれの「立場」で別個に教育することを直ちには意味しないことに留意が必要である。オムニバス方式の授業が採用される場合は,あくまでも,上記のような教育目標を達成する手段としてそのような教育方法が有効であるからであって,同一の授業を三教員が協力して行う方が効果的な場合もあり得よう。いずれにせよ,個々の授業の内容や指導の方針を考えるに当たっては,前述のような複眼的な思考力を修得させることができるような配慮が求められる。裁判官,検察官,弁護士の三教員がオムニバス型式で担当している場合には,授業の内容に応じた三教員の連携が必要となる。

4.「刑事訴訟実務の基礎」における事実認定教育の意義と方法

 刑事訴訟実務を行っていく上で必要となる能力は,手続遂行能力と実体形成能力(事実認定能力)に大別できるが,このうち,「刑事訴訟実務の基礎」の中心となるのは,手続遂行能力の面である。実体形成能力は,事実認定が本来的に個別性が高い思考作業であり,少しでも多くの具体的事例を素材とする必要があることを考えると,事実認定教育の本体は,司法修習において実施させることになる。「刑事訴訟実務の基礎」における事実認定教育の意義は,法科大学院における刑事系教育の一環という観点からは,刑法や刑事訴訟法等刑事法の理論が,実際の刑事手続における事実認定という局面でどのように問われてくるのかを理解し,刑法や刑事訴訟法等刑事法の理論的な理解を深める契機とする点にあり,また,司法試験合格後直ちに,司法修習(分野別実務修習)において,「生きた事件」を素材とした事実認定教育が行われることを踏まえると,適正な事実認定を行うための前提となる,基本的事項を十分に理解させる点にある。
 したがって,「刑事訴訟実務の基礎」において,記録教材等を題材として,証拠から事実を認定する教育を行う場合に,その教育の主眼は,証拠の信用性や証拠価値(証明力)といった基本的概念や証拠の構造(事実認定の骨組み)といった事実認定に関する基本的事項及び判断手法の基本的な理解に置かれるべきであることに留意する必要がある。
 また,事実認定に関する能力や視点は,判決段階でのみ問題となるのではなく,検察官であれば,捜査方針や終局処分,公訴事実の構成あるいは立証の在り方や論告といった場面において,弁護人であれば,弁護方針や証拠の弾劾等の反証の在り方,弁論といった場面において,共通して必要となる能力,視点である。したがって,事実認定に関する基本の理解という観点からは,各局面ごとに独立して事実認定教育を行うことは必ずしも必要ではないと考えられる。

第2.シラバスのイメージ

1.シラバスの構成要素

 前述したことから,「刑事訴訟実務の基礎」のシラバスの内容や構成を考えるに当たっては,まず,教育内容を考え,次に,誰が担当するのかを含めた教育方法が検討されることとなる。以下,シラバス全体の基本的な枠組みについてのイメージを検討する。
 刑事裁判の手続は,手続遂行の視点から,起訴前の場面と公判審理の場面に分けることができる。そして各場面に共通して必要となる実体形成としての事実認定の場面を設けることができる。この三つの場面に,これからの刑事裁判の在り方を考える上で極めて重要となる公判前整理手続の場面を加えた四つの場面が,シラバスの基本的構成要素となると考えられる。その各場面で取り上げるべき事項とコマ数の目安としては,別紙のようなものが考えられる。その際,それぞれの場面に応じて,実務上比較的多く見受けられる事案を素材とした教材を用いて,法科大学院生に具体的なイメージを意識させながら授業を進めていくのが有用であると考えられる。例えば,公判審理の基本を学修させる際には,簡易な記録に基づいて模擬裁判(ミニ模擬裁判)を法科大学院生に実演させることが考えられるし,起訴前の基本を学修させる際にも,簡易な事例を素材として多角的な視点から課題を与えて検討させることも考えられるであろう。また,将来的には,公判前整理手続の基本を学修させる際にも,簡易で適切な記録があれば,それに基づいた公判前整理手続の法科大学院生による実演も取り入れた授業をすることもあり得ると思われる。

2.授業の進め方

 以上の授業内容をその進め方の観点から考えた場合,二とおりの進め方が考えられ,いずれの方法を採るかは,学生のレベル,授業のやりやすさ等を勘案して教員が決めることになろう。一つは,手続の開始段階から手続の流れに沿って進める方法である。この方法を採った場合,公判前整理手続は以後の公判手続等の進行を予測しながら争点や証拠を整理し,審理計画を策定する手続であること,実情において事例が集積しつつある状況であって実務家教員の経験の蓄積も必ずしも十分とはいえないことから,その最後に取り上げることになろう。
 具体的には,「ア 起訴前の基本」→「イ 公判審理の基本」→「ウ 事実認定の基本」→「エ 公判前整理手続の基本」という流れになる。公判前整理手続の事例が集積されるなどして,実務家教員において十分な経験に基づく指導が期待できる場合には,アとイの間でウを取り上げる方法を採ることもあり得よう。
 もう一つは,訴訟手続が最終的には判決を目指した目的的な活動の集積であることから,その手続の終了段階から手続の流れを遡って進める方法である。この方法を採った場合においても,前述と同様な理由から公判前整理手続は最後に取り上げることとなろう。
 具体的には,「ウ 事実認定の基本(刑事訴訟実務の基礎の導入を兼ねる。)」→「イ 公判審理の基本」→「ア 起訴前の基本」→「エ 公判前整理手続の基本」という流れになる。
 なお,いずれの方法を採った場合でも,学生のレベル等に応じて,公判前整理手続について基本的なレクチャーにとどめる授業もあり得る。

別紙

手続遂行能力

実体形成能力

ア 起訴前の基本(4〜5コマ)
 ○捜査の基本
 ○被疑者弁護の基本
 ○被疑者(被告人)の身体拘束手続の基本
 ○公訴提起の基本
ウ 事実認定の基本(2〜3コマ)
 ○実体的要件の理解
 ○認定事実から実体要件へのあてはめ
 ○証拠からの事実認定
イ 公判審理の基本(3〜4コマ)
 ○公判手続の基本
 ○証拠法の基本
エ 公判前整理手続の基本(2〜3コマ)
 ○公判前整理手続の概要の理解
 ○公判前整理手続における検察官,弁護人,裁判所の視点,役割

※ウをどの程度独立して取り上げるかは,アとイの場面でどの程度ウの要素を取り上げるかによって異なる。

林幹事 資料39は「法科大学院における『民事訴訟実務の基礎』の教育の在り方について(案)」というペーパーである。
 まず,民事訴訟実務基礎の意義・目的を1ページの1の最初のパラグラフで確認している。プロセスとしての法曹養成,特に法科大学院における教育は,実体法上,手続法上の法理論教育,しかもこれは当委員会で確認した「実務との架橋を意識したもの」を念頭に置いており,それが中心になるが,実務基礎教育というのは,その法理論が,具体的な問題解決の場面でどのような意義や機能を有しているのかを学生に認識してもらい,それによって理論と実務の架橋を図りつつ,法制度の体系的な理解を一層深めさせることを目指すべきである。このような形で,民事訴訟実務基礎科目の目的を確認している。
 次に,(1)が事案の分析の局面,(2)が事実認定であるが,中心になるのは(1)で,1ページの真ん中あたり,要するに,主張を分析し,争点や証拠の整理等を行う。ここで重要なのは,何よりもまず民法等の民事実体法である。その解釈から,権利の発生,障害等の要件事実を踏まえながら主張の分析や争点の整理等を行う。これが重要な作業になるということを書いている。
 その要件事実の位置付けについては,アスタリスクの文章の真ん中あたり,実体法と事案を結び付けるにおいては非常に重要なツールであるが,それ自体が独立の教育目標となるものではないことを確認している。
 続いて,2ページ,この関連では民事訴訟手続が中心になるが,紛争解決の一連の手続が実務ではどのように進められているかを理解することが大事であるので,2ページの上から3行目,民事執行手続や民事保全手続についても,その制度の理由,あるいは基本的な構造や概要といった基礎的な事項について取り上げておく必要があるということを書いている。
 次のパラグラフで,これは教育方法に関するところであるが,例えば,言い分等を記載した書面や基本的な資料を段階的に配布し,要件事実等の検討を踏まえて,訴状や答弁書,準備書面等の実質を含んだレポートをあらかじめ作成させたり,あるいは,作成したレポートについて議論をすることが有意義なものではないかという確認をしている。
 その次のパラグラフでは,主張整理の局面においても,訴訟代理人の立場と裁判官の立場のいずれにも目配りする必要があることを書いている。要するに,法律実務家として,立場を問わず身に付けておくべき基本的な事項を,実務基礎科目でやるべきではないかという問題意識を示している。
 (2)では,まず,基本として,事実認定能力の修得はいわゆる「生きた事件」を素材とした検討が望ましく,専ら司法修習における実務修習を中心に行うべきであるが,法科大学院段階では,事実認定を検討する前提となる基礎的な事項を理解させることが重要であるということを書いている。
 具体的には,下から10行目の「すなわち」のあたり,証拠の意義や自白・書証・人証の機能の仕方,証拠の収集方法,証拠調べの方法,経験則の機能等について基本的な理解を図り,さらに引き続き,書証の意義や機能,書証の成立,成立の推定に関する細かい議論があるが,このような基礎的な事項を理解させる。それが,法科大学院段階における事実認定の基礎として教育されるべき事項ではないかというイメージが示されている。
 3ページ,この事実認定の基礎を学ばせる点においても,上から2行目,模擬記録等を利用して検討することが有意義であると書いている。
 さらに,次のパラグラフ,この事実認定の関係でも,訴訟代理人としてどのように事実認定をしていくか,裁判所(官)としてどのように事実認定をしていくかという双方に目配りする必要があり,法律実務家として立場を問わず身に付けておくべき基礎的な事項を修得させてほしいという要望を書いている。
 さらに,2として,そのような問題意識を踏まえた一つの授業計画案を提示しており,15回の授業があると想定して,第1回を「導入」,最後のページの第15回を「まとめ」としている。
 第2回は「訴え提起前の段階」を取り上げて,主として当事者側,つまり弁護士としての活動という視点から事実を見ていくことになる。手法としては,相談者の相談内容を記載した書面や基礎的な資料を提供して,議論・検討していくことが考えられる。
 第3回と第4回が訴え提起の段階,5ページの第5回と第6回が応訴の段階,第7回の第1回口頭弁論期日を経て,6ページ,第8回と第9回が争点整理手続の段階,第10回は「争点整理手続の実際」と書いているが,ロールプレイ的なものをするというプログラミングがされている。
 3ページに戻って第3回と第4回は,それぞれ「訴えの提起1,2」となっており,第3回の「訴えの提起1」では,基本事案を素材にして,原告代理人としての立場,裁判官としての立場で,訴えの提起段階,あるいは訴状の補正等といった場面でどのような活動をするのかについて学習する。
 4ページの真ん中あたり,アスタリスクの文章では,冒頭で申し上げた訴状や答弁書,準備書面等については,そうした書面自体を作成させることが重要ではないこと ,つまり,訴状等の様式,体裁,記載方法といった技術的な事項は,実務修習や法曹資格取得後の継続教育で身に付けていくべきことであって,あくまでも書面の中身,つまり事案を分析し,法律を適用して,一定の意見をまとめていくという部分について,レポートを作成させる方向で検討してはどうかということを確認している。
 第4回の「訴えの提起2」では,基本事案とは異なる事案を用いて,そのための素材を提供して議論をするというイメージになっている。
 5ページ,第5回の「被告の応訴1」,第6回の「被告の応訴2」も同じ構造で,応訴1は基本事案を使い,応訴2は基本事案とは異なる事案を使う。
 さらに,6ページの争点整理,ここでは,準備書面的なものの作成が課題になってくるが,その場合においても,第8回の「争点整理手続1」は基本事案,第9回の「争点整理手続2」は異なる事案という形で,いろいろな類型の事案を体験させてはどうかという提案をしている。
 第10回の「争点整理手続の実際」までが主張整理の局面で,第11回と12回が事実認定の関係になるが,第11回では,冒頭で申し上げた事実認定の基礎的事項を学修し,第12回では,それを踏まえた上で,例えば証人尋問等を扱って,さらに事案等に踏み込んだ議論をする。
 最後の7ページ,第13回は和解・判決についての議論をし,第14回で執行・保全,つまり,第一審の判決手続を一通り終えた後に,基本事案について,判決が確定したらどのように執行がされるのか,さらに,執行を念頭に置いた上で訴え提起前に戻り,どのような民事保全の手続が考えられるのかという議論,そのような議論を通じて,執行や保全のイメージをつかんでもらうという授業計画案を提示している。
 以上が資料39である。
 続いて資料40は,「法科大学院における『刑事訴訟実務の基礎』の教育の在り方について(案)」というペーパーである。
 取り上げている事項は基本的に資料39と同様であるが,若干体裁が異なる部分がある。
 まず,1ページの真ん中あたりで,刑事訴訟実務の基礎の目的・意義というものを確認している。 刑法,刑訴法を中心とした刑事法に関する法律基本科目の理解が重要だということを民事同様に指摘した上で,刑事訴訟実務の基礎科目は,刑事系の法律基本科目で修得した理論的な理解を前提として,実務上,比較的多く見受けられる事案を素材として,刑訴法のルール,あるいはルールにのっとって行われる裁判所や訴訟関係人の活動等について具体的なイメージを持ってもらう。それぞれの法的根拠や,手続における実務的意義についての理解を深めることが目的になるということを確認している。
 1ページの下から4行目あたり,その教育手法としては,やはり民事と同様に,判例や実務でよく生起する典型的な事例をモデル化したもの,これは先ほど幹事長から御紹介があった幹事会資料の変更点の一つであり,「モデル化したもの」という表現を追加したところであるが,それを題材にした検討をする。これによって,刑事法に関する理論的な理解を基礎とした上で,刑事手続全体の流れについての理解を一通り確認するという授業をしてはどうかというイメージを示している。
 2ページの2,ここは刑事特有の問題であるが,今年5月から裁判員裁判が実施され,それに伴って刑事裁判の在り方が大幅に転換することになる。2の4行目あたり,やはり法科大学院で教える刑事訴訟実務の基礎も,「これまでの刑事訴訟実務の基礎」ではなく,「これからの刑事訴訟実務の基礎」の修得を目指すべきではないかと言っている。 それがキャッチフレーズであるが,それを実現するためには,実務家出身の教員側において,自らの実務経験のみに基づくのではなく,「これからの刑事裁判の在り方」というものを十分に意識し,場合によっては自らの意識改革を図りながら教育を実践していくことが必要になることを確認し,提言している。
 2ページの「3 教育に当たっての留意点」,これは法曹三者の教員が関与するオムニバス方式の授業についての記載であるが,刑事訴訟実務の基礎において,どのような立場の者,裁判官,検察官,弁護士のいずれであっても,法曹三者に共通して必要となる基本的事項を教えることになる。これが,3のパラグラフの4行目あたりに書いてある。
 刑事訴訟実務の基礎においては,実務家教員が担当することから,裁判官,検察官,弁護士という「立場」に立脚した教育の必要性が強調されることがあり,それ自体に意味があることは間違いないが,刑事訴訟実務の基礎について法科大学院生の理解を深める上で有意義なものかどうかという観点から,何を教えるかということを検討すべきであろうと書いている。
 それに続いて,法曹三者それぞれがどのような視点で,混沌とした事実関係の中から重要な事実上又は法律上の問題点を分析検討するかという,いわゆる複眼的な思考過程,複眼的に物事を考えることができるように教育することが重要である。 しかし,それを超えて,常にそれぞれの「立場」で別個に教育することが必要ということではなく,「何を教えるのか。」という基本の教育目標を達成するために有意義であるから,それぞれの立場の視点を教えていくことにつながっていくと考えられる。
 したがって,同一の授業を三教員が協力して行う方が効果的な場合もあり得るのではないかということで,三教員がそろっている法科大学院では,密接な連携を図って授業をしていくことが重要ではないかという問題意識を示している。
 3ページの4,いわゆる事実認定教育の在り方について,4行目あたり,事実認定が本来的に個別性の高い思考作業であり,少しでも多くの具体的事例を素材とする必要があることを考えると,事実認定教育の本体は司法修習にあるということを,民事と同様に確認している。
 したがって,法科大学院の刑事訴訟実務の基礎科目においては,手続遂行の面の能力の修得が基本になるであろう。ただ,そうは言っても,事実認定を行うための前提となる基礎的な事項については法科大学院で理解させてもらう必要があるのではないかということで,3ページの真ん中「したがって」あたりに,具体的にどのようなことを刑事訴訟実務の基礎において教えるかという点について言及しており,教育の主眼は,証拠の信用性や証拠価値(証明力)といった基本的概念や,証拠の構造(事実認定の骨組み)といった事項を教えることになるのではないかと書いている。
 さらに,次の段落で,例えば検察官,弁護人,裁判官,それぞれが各局面ごとに独立して事実認定教育を行うのではなく,事実認定に共通する理解というものを教えていくべきではないかということを確認している。
 次に,第2として,資料39の民事訴訟実務の授業計画案に対応するものであるが,細かい提案ではなく,「シラバスのイメージ」という形で記載している。
 まず,4ページの5行目,「シラバスの基本的構成要素」のあたり,問題となる場面で取り上げるべき事項とコマ数の目安について,別紙として提案している。
 6ページの別紙にあるように,取り上げるべき場面としては4つ。1つは起訴前の段階。2番目が公判審理の段階。さらに,公判前整理手続の段階,それらを横断するものとして事実認定を取り上げている。
 それぞれの局面で教えるべき事項が丸印で書いてあり,配分するコマ数のイメージも書いている。このようなものを基本にシラバスを編成したらどうかという提案をしている。
 4ページに戻って,上から7行目あたり,それぞれの場面に応じて,実務上比較的多く見受けられる事案を素材とした教材を用い,法科大学院生に具体的なイメージを意識させながら授業を進めていくのが有用ではないか。 例えば,公判審理の段階であれば,簡易な記録に基づく模擬裁判(ミニ模擬裁判)を実演させることも考えられる。 起訴前の段階であれば,簡易な事例を素材として,多角的な視点から,起訴前の段階や捜査段階の問題を議論させることも考えられる。 また,将来的には,公判前整理手続について,簡易で適切な記録を作成して,実演を取り入れた形での授業をすることも考えられるのではないかという提案をしている。
 4ページの真ん中あたり,「2 授業の進め方」として,二通りの進め方を提案しているが,いずれを採るかは,学生のレベル,授業のやりやすさ等を勘案して決めることになろう。
 一つは,手続の開始段階から手続の流れに沿った進め方ということで,具体的には,「ア 起訴前の基本」,「イ 公判審理の基本」,「ウ 事実認定の基本」,「エ 公判前整理手続の基本」という流れを考えている。
 手続の流れという点で言えば,公判前整理手続はアとイの間に入るはずであるが,公判前整理手続については十分な蓄積がなく,また,公判前整理手続は公判段階をにらんだ形で議論をする必要があることから,公判前整理手続を最後に持っていく形になっている。
 もう一つは,訴訟手続が判決に代表される事実認定に向けた目的的な活動の集積であることから,手続の終了段階から遡ったらどうかということで,ウ→イ→ア→エとしたらどうかということを提案している。
 以上が資料40である。

吉戒修一委員 授業計画案について,民事の場合は,第1回から第15回という形で非常に具体的に詳細な提案がされているが,刑事の場合は,ざっくりとした書き方になっている。
 刑事の場合には民事のような提案ができないような,何か理由があれば教えていただきたい。

林幹事 民事の場合,手続の流れに沿って組み立てるとこのような感じになるというイメージは,比較的関係者間の共通認識に達しやすいかと思うが,刑事の場合,「複眼的思考」ということで法曹三者が関係してくることや,特徴的なものとして公判前整理手続があること,また,裁判員裁判がまだ始まっていない段階であること等から,民事のように組み立てるのはまだ時期尚早ではないかと考えている。法曹三者の教員がそろっていない法科大学院もあると思うが,授業計画案やシラバスを作る際の基本的なエッセンスや留意事項については資料40に書き切っていると思うので,それを参考にしていただきながら,各法科大学院の教員の方に工夫・検討していただければと思う。
 恐らく,裁判員裁判を通じて公判前整理手続等の実例も集積していけば,おのずと資料39と同じような形の授業計画案が具体化してくるのではないかと考えている。

酒巻委員 各法科大学院において,民事訴訟実務基礎科目は派遣裁判官や弁護士など様々な教員が教える場合もあろうと思うが,各法科大学院の教育の創意・工夫という観点から見ると,民事訴訟実務の基礎についてこれほど具体的な進行計画と内容が明確にされると,私など研究者教員にはかえって違和感があるのだが,そのような御意見はなかったであろうか。

林幹事 これをやらなければいけない,これしかない,という趣旨ではなく,大体このようなイメージでやってみたらいかがかという趣旨である。裁判官の派遣教員にもこの資料を提供して議論をしたが,このような問題意識のもとに授業計画案を作るとすれば,恐らくこのような形になるであろうという点については,余り違和感は出なかったと思う。
 ただ,一つ問題があって,前回の委員会で確認させていただいたが,法科大学院の民事訴訟実務の基礎教育においては,従来の司法修習における前期修習とは異なる形を考えていくべきではないかという議論がされていると思うが,現在,法科大学院で「民事訴訟実務の基礎」の名の下にされている授業の中には,派遣教員たちが慣れ親しんだ従前の前期修習型の色彩の強いものが少なくない。それ自体に問題があるわけではないが,より民事訴訟実務の基礎の趣旨に沿ったものに近付けるとすれば,このようなイメージを一つの参考にして転換を図っていく必要があるのではないかと感じている。そのような意味においても,かなり具体的なイメージを提示させていただいたところである。
 また,この点については,日弁連の協力を得て弁護士の派遣教員の方とも意見交換をさせていただいたが,余り異論は出なかった。これと全く同じ形である必要はないが,この授業計画案に出ているようなエッセンスあるいはスピリットを生かした形での授業であれば,無理なく実践していただけるのではないかと思っている。

高瀬浩造委員 いろいろ事情があることは分かったが,民事に関してこれだけ詳しい授業スケジュールがあるのに刑事にはないということになると,やはり法科大学院に対して,当委員会が民事に関して特に干渉している,干渉したがっているという印象を与えてしまうと思う。
 内容的には非常に妥当なものだと思うので,私の提案として,この想定される授業計画案を別紙にしたらいかがであろうか。 民事と刑事のバランスを取る意味でも,これを別紙扱いとして,枠組みの外に出して提示するという形にしないと,何となく温度差があるという印象を非常に強く与える気がする。皆さん方がどうお考えかだと思うが,やはり違うというのが非常に気になってしまう。

鎌田薫委員 業界内にいる者としては,何となく民事はこうなって刑事はこうなるというのは,分からなくはない感じがする。
 民事の方が細かく具体的になっているのは,民事はかなり安定的に推移してきているので,普通に考えれば大体このような形になるであろうということが,かなり固まっている感じがする。 一方,授業の枠内でいろいろなことをやろうと思うと,いろいろな可能性を持っているので,林幹事の御指摘のように,ある部分では,従来の前期集合修習の中でもとりわけ技術的な部分に非常に偏った教育をすることもあるし,他方では,専ら受験対策にこれを使うという傾向もある。
 そうなると,法科大学院全体として,あるいは法科大学院の中でもクラスによって,内容のばらつきが実は刑事以上に多様になってしまっていて,本来この科目に期待されている成果が上がっていない場合もあるのではないかと思うので,そのような意味では,このような形で,このような理念でやっていただきたいというスタンダードを,この程度具体的に示していただいた方が,法科大学院全体としての成果目標をはっきりさせるという意味で,好ましいのではないかと思っている。

山本和彦幹事 私も民事系の立場として,幹事会でも意見を申し上げたが,基本的には鎌田委員の御意見と同じような感想を持っている。
 内容については,やはり大体このような形になるだろうと思う。
 また,あくまでも,司法修習委員会として,法科大学院に対してこのような教育を期待するという趣旨であって,細かなところまで拘束する趣旨でないことは当然だろうと思う。
 それぞれの法科大学院が創意工夫をしていくべき部分は当然残ると思うが,基本的な教育のイメージとしては,それほど大きな異論があるものではないという印象を持った。

高橋委員長 私も民事系であるが,これを受けて各法科大学院が,この授業計画案を使って,司法修習の目から見たときにパッサブルなものをやっているかどうか見直していただくのは結構なことだろうと思う。それぞれ大分やり方は違うだろうとは思いつつ,ただ,全く何もない現在の状況からすれば,一つの目安としては意味があろうかと思う。
 さて,内容自体は結構だと思うが,民事と刑事で形式的に違いがありすぎるという点,先ほど鎌田委員から,業界内部から見ればよく分かるという御発言もあったが,刑事系の方が御覧になった感想はいかがであろうか。

酒巻委員 刑事訴訟法の専門家として拝見し,刑事実務基礎で教示すべき具体的内容並びに法律基幹科目との仕分けについての考え方にまったく異論がなく,また形式についても,この科目を担当する教員の様々な工夫を生かす意味で,民事の「第1回」「第2回」のような形に合わせることはしない現在の形の方が望ましいと考える。
 他方で,民事は非常に詳密な形式になっているので,専門家の先生方から見て問題なしという点は十分理解できるのだけれども,一般的に,ひな形があると無批判にそれに従うということも考えられるので,そのような弊害を避けるため,高瀬委員の御指摘のように別紙扱いにして,参考の一例である趣旨を一層明確にするという形もあり得るように思う。

高橋委員長 一つの目安であるから,別紙という形でも意味は十分に伝わると思うが,いかがであろうか。

林幹事 御指摘はごもっともな部分があると思うが,逆に,民事を別紙にしてしまうと,刑事で本文に記載してある要素が民事では本文ではなくなってしまう部分も若干ある。
 鎌田委員や山本幹事から御指摘があったように,私どもは内容自体はほとんど共通認識になっていると思ってはいるが,3ページの2に「一つの案として作成したものである。」と書いてあるように,例えば「一つの参考案として」というような形で,あくまでも参考であるという趣旨を明示することは十分にあり得ると思う。

酒巻委員 先ほどの提案に固執するわけではない。要は,司法修習委員会として望んでいる基本的な考え方がより良く伝達されればよい。確かに,「考えられる授業計画案」というタイトルにはなっているので,それで趣旨は御理解いただけるかとも思う。

高瀬委員 今の議論で一つ気になってしまっているのは,旧来の前期修習型の講義をやっているということが問題であって,そのことを,このような形の授業内容を提示すれば理解してもらえるということが,暗に期待されているのだと思う。
 したがって,単なる例示だと強調すると,先ほどのメッセージが伝わらない。別紙にするという形がその一番極端な例だけれども,刑事の場合は,例示がされていないために,そのメッセージの内容が,体感的なものではなくて文章として入っている。
 法科大学院側が誤解をすることがないということは分かったが,このような授業が例示されたのは旧来の前期修習型の講義に対する批判であるというコンセンサスは,やはりはっきりしておく必要があるかと思う。そうであれば,私としては形式にこだわるものではない。

大橋委員 刑事の授業は,従来,検察官は検察官,裁判官は裁判官,弁護士は弁護士という形で教えていたが,今回は,誰が教えても教えるべきものは何かという形で作ったという点が,画期的なところであって,非常に強いメッセージだろうと思う。
 もう一つ,結局,授業の内容は法科大学院が全部決めることであって,これはあくまでも司法修習の側から希望を述べるわけであるから,今後どのような形でこれを法科大学院側に伝えていくかという問題があると思う。

林幹事 この資料は,当委員会での議論を経て資料として確定すると,最高裁のウェブサイトに当委員会の資料として掲載され,誰もが見られる状態になる。
 恐らく,大橋委員の御指摘は,それにとどまらずという趣旨だと思うが,法科大学院の関係者といろいろな形での意見交換の場を設けているので,そのような場で資料として提供し,主として研究者教員を中心とした方々と議論していくことが考えられるところである。一つの例として,本年3月14日(土),神戸大学で法科大学院協会の総会が開かれた後に,法律実務基礎科目についてのシンポジウムが開かれ,私もパネラーとして招待を受けているので,本日の議論を踏まえた形で資料39,40の内容を提供し,法科大学院関係者と意見交換をしたいと考えている。
 それに限らないが,そのようなプロセスを経て,当委員会の発したメッセージが浸透していくことになればと思っている。

大橋委員 刑事については,現在,日弁連で同じような形のものを作っており,それは少し授業計画の形を取り入れたものになっているので,そちらも一つの別の案として,議論の対象としてもらえればと考えている。

高橋委員長 有意義な御議論を頂き,大方は収れんして,原案のままでも大丈夫ではないかというあたりに落ち着いてきたと思うが,いかがであろうか。資料39及び40の内容を当委員会の意見とするということでよろしいか。

出席委員全員 了承

高橋委員長 ありがとうございます。細かい表現振りは,事務当局と私にお任せいただきたい。

法科大学院における「民事訴訟実務の基礎」の教育の在り方について(平成21年3月5日司法修習委員会)(PDF)

法科大学院における「刑事訴訟実務の基礎」の教育の在り方について(平成21年3月5日司法修習委員会)(PDF)

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