最新下級審裁判例

東京地裁民事第38部判決平成21年11月27日

【事案】

1.原告は,東京都情報公開条例(平成11年東京都条例第5号。以下「本件条例」という。)に基づいて,警視総監に対し,原告が平成21年5月に福生警察署長あてに提出した請願書に対する決裁等関係文書一切(以下「本件文書」という。)の開示を求め,その際,開示請求者の氏名欄に「大統領」と記載した開示請求書を提出した。これに対し,警視総監は,同請求書による公文書開示請求は,本件条例6条1項1号の規定する「氏名又は名称」を明らかにして行われたものとはいえないとして,同請求を却下する旨の決定をした。
 本件は,原告が,開示請求者の氏名欄に「大統領」と記載した開示請求書による開示請求は本件条例6条1項1号に反するものではないとして,上記却下決定の取消しを求める事案である。

2.関係法令の定め

(1) 本件条例

ア.東京都の区域内に住所を有する者は,実施機関に対して公文書の開示を請求することができる(5条1号)。

イ.本件条例5条の規定による開示の請求(以下「開示請求」という。)は,実施機関に対して,氏名又は名称及び住所又は事務所若しくは事業所の所在地並びに法人その他の団体にあってはその代表者の氏名を明らかにして東京都規則その他の実施機関が定める規則,規程等で定める方法により行わなければならない(6条1項1号)。

ウ.実施機関は,上記イの規定により行われた開示請求に形式上の不備があると認めるときは,開示請求をしたもの(以下「開示請求者」という。)に対し,相当の期間を定めて,その補正を求めることができる。この場合において,実施機関は,開示請求者に対し,補正の参考となる情報を提供するよう努めなければならない(6条2項)。

(2) 警視総監が行う情報公開の事務に関する規程(平成13年訓令甲第37号)2条

 本件条例6条1項に規定する開示請求を受ける場合は,同項各号の事項を記載した開示請求書の提出を受けなければならない。

3.前提事実

(1) 原告は,平成21年6月12日,警視庁福生警察署(以下「福生署」という。)を訪れ,本件条例に基づき本件文書の開示を求める開示請求書(以下「本件開示請求書」といい,これに係る開示請求を「本件開示請求」という。)を提出したが,本件開示請求書の開示請求者の氏名欄には「大統領」と記載されていた。

(2) 本件開示請求書は福生署から警視総監に送付されたが,本件開示請求は,本件文書の内容から自己の保有個人情報に係る本人からの開示請求の趣旨と認められたことから,警視庁総務部文書課警部Aは,東京都個人情報の保護に関する条例(平成2年東京都条例第113号。以下「個人情報保護条例」という。)による開示請求手続を説明するため,本件開示請求書記載の電話番号に架電し,原告に対して,本件開示請求が個人情報保護条例にいう自己の保有個人情報に係る本人からの開示請求であるから,本件開示請求を取り下げ,個人情報保護条例に基づく規定様式の開示請求書を提出するよう求めた。これに対して,原告は,本件条例に基づく開示請求をするか,個人情報保護条例に基づく開示請求をするかは請求者の自由である,法的な不備については補正命令を出した上で却下決定,存否応答拒否等をすればよいなどと告げるとともに,自らが「大統領」であることを確認することができる証明書を有していないから本件条例に基づく開示請求を行った旨を述べた。

(3) 警視総監は,本件開示請求書の開示請求者の氏名欄に記載された「大統領」との記載が本件条例6条1項1号の規定する「氏名」又は「名称」のいずれにも該当しないと判断し,平成21年6月24日,同条2項に基づき,「開示請求書の補正について」と題する書面を原告に送付した。同書面には,本件開示請求書の開示請求者の氏名欄に記載された「大統領」は,一般に個人の氏名とは理解し難く,同号の規定する「氏名」を記載しているものとは認められないため,同欄に請求者の戸籍上の氏名又はそれと同程度に特定し識別することが可能な呼称を記載するよう求める旨,補正の期限は同年7月17日であり,同日までに補正がされない場合には本件開示請求に対する行政処分を行う旨などが記載されていた。

(4) 警視総監は,平成21年6月29日,原告から,上記(3)の補正を拒否する旨の書面の送付を受け,同年7月17日までに本件開示請求の補正が行われなかったことから,同月21日付けで本件開示請求を却下する旨の決定(以下「本件却下決定」という。)をした。

(5) 原告は,平成21年8月1日,本件却下決定の取消しを求める本件訴えを提起した。

(参照条文)本件条例

5条 次に掲げるものは、実施機関に対して公文書の開示を請求することができる。

一 都の区域内に住所を有する者
二 都の区域内に事務所又は事業所を有する個人及び法人その他の団体
三 都の区域内に存する事務所又は事業所に勤務する者
四 都の区域内に存する学校に在学する者
五 前各号に掲げるもののほか、実施機関が保有している公文書の開示を必要とする理由を明示して請求する個人及び法人その他の団体

6条 前条の規定による開示の請求(以下「開示請求」という。)は、実施機関に対して、次の事項を明らかにして東京都規則その他の実施機関が定める規則、規程等(以下「都規則等」という。)で定める方法により行わなければならない。

一 氏名又は名称及び住所又は事務所若しくは事業所の所在地並びに法人その他の団体にあってはその代表者の氏名
二 次に掲げるものの区分に応じ、それぞれ次に掲げる事項
イ 前条第二号に掲げるもの そのものの有する事務所又は事業所の名称及び所在地
ロ 前条第三号に掲げる者 その者の勤務する事務所又は事業所の名称及び所在地
ハ 前条第四号に掲げる者 その者の在学する学校の名称及び所在地
ニ 前条第五号に掲げるもの 実施機関が保有している公文書の開示を必要とする理由
三 開示請求に係る公文書を特定するために必要な事項
四 前三号に掲げるもののほか、実施機関が定める事項

2 実施機関は、前項の規定により行われた開示請求に形式上の不備があると認めるときは、開示請求をしたもの(以下「開示請求者」という。)に対し、相当の期間を定めて、その補正を求めることができる。この場合において、実施機関は、開示請求者に対し、補正の参考となる情報を提供するよう努めなければならない。

 

(参考)行政機関の保有する情報の公開に関する法律

3条  何人も、この法律の定めるところにより、行政機関の長(前条第一項第四号及び第五号の政令で定める機関にあっては、その機関ごとに政令で定める者をいう。以下同じ。)に対し、当該行政機関の保有する行政文書の開示を請求することができる。

4条  前条の規定による開示の請求(以下「開示請求」という。)は、次に掲げる事項を記載した書面(以下「開示請求書」という。)を行政機関の長に提出してしなければならない。

一  開示請求をする者の氏名又は名称及び住所又は居所並びに法人その他の団体にあっては代表者の氏名
二  行政文書の名称その他の開示請求に係る行政文書を特定するに足りる事項

2  行政機関の長は、開示請求書に形式上の不備があると認めるときは、開示請求をした者(以下「開示請求者」という。)に対し、相当の期間を定めて、その補正を求めることができる。この場合において、行政機関の長は、開示請求者に対し、補正の参考となる情報を提供するよう努めなければならない。

【判旨】

1.本件訴えの適法性について

 原告を「大統領」と表示した訴状により東京都を被告として慰謝料請求訴訟を提起した者が,その第1回口頭弁論期日に東京簡易裁判所に出頭し,同期日において,同人の戸籍上の氏名は「B」である旨を述べたこと,同訴訟の判決に「原告大統領ことB」と表示して記載された同人の住所は,本件訴えの訴状記載の住所地(以下「本件住所地」という。)と同一であることが認められる。
 これらの各事実に照らすと,原告の戸籍上の氏名は「B」であり,同人が自己を「大統領」と称して本件訴えを提起し,本件訴訟を追行したものであると認められる。したがって,本件訴訟の原告は上記のとおり特定されているというべきであり,本件訴えは適法なものということができる。

2.本件却下決定の適法性について

(1) 本件条例6条1項1号が,開示請求は,実施機関に対して,開示請求者の氏名又は名称を明らかにして行わなければならないとしているのは,当該公文書の開示を求める請求が実在する特定の自然人又は団体によって現実に行われたものであることを明らかにして,情報公開制度の適正な運用を確保するとともに,当該開示請求者が本件条例所定の請求者の資格(本件条例5条)を有するものであることを確認し,実施機関が公文書の開示義務を負い,その開示又は不開示の決定を通知する相手方(本件条例7条,11条)を確定するためであると解される。このような趣旨からすれば,本件条例に基づく公文書の開示請求者が戸籍上の氏名以外の呼称をもって自己を表示した場合において,当該請求が本件条例6条1項1号に規定する「氏名又は名称」を明らかにしてしたものといえるためには,当該呼称が少なくとも戸籍上の氏名と同程度にその使用者を特定し識別するものとして社会的に定着しているものであることを要すると解すべきである。
 本件では,「大統領」は原告の戸籍上の氏名ではないことが認められるから,「大統領」の呼称が戸籍上の氏名と同程度に原告を特定し識別するものとして社会的に定着しているものであるかについて検討する。

(2) この点,原告が自らを「大統領」と表示し住所を本件住所地として提起した訴えにつき,東京高等裁判所が,当事者の特定に欠けるところはないとの内容の判決をしたことは認められる。しかし,この判決は,第1審裁判所による訴状補正命令や訴状却下命令が「大統領」あてに本件住所地を送達場所として送達され,原告がこれらを受領していること,その送達の際作成された郵便送達報告書の「受領者の押印又は署名」欄には「B」と読むことのできる印影が顕出されていることなどから,上記訴えの原告は,本件住所地を住所とする「大統領」と称する個人であって,これが本人を表す呼称として使用されていることが明らかであるとして上記訴えにおいては当事者が特定されているとしたものであり,郵便業務の内容,性格等に照らすと,同判決が理由とした上記各事情のみからは,「大統領」の呼称が戸籍上の氏名と同程度に原告を特定し識別するものとして社会的に定着しているものであるということはできない。

(3) また,@ 警視総監は,本件開示請求書の補正を求める文書及び本件却下決定の決定書の名あて人をいずれも「大統領」とした上,いずれもあて先を「大統領」として本件住所地に発送し,原告がこれを受領していること,A 東京地方検察庁検察官は,告訴人を「大統領」とする告訴状を受理した上,「大統領」を名あて人とする処分通知書を送付し,原告がこれを受領していること,B外務大臣,防衛庁長官及び東京都知事は,いずれも,請求者を「大統領」とする情報公開請求書を受理した上,「大統領」を名あて人とする開示決定通知書を「大統領」あてに送付し,原告がこれらを受領したことが認められる。しかし,上記の検察官や各行政機関の長が告訴人又は請求者を「大統領」とする告訴状又は情報公開請求書を受理しこれらに応答しているのは,国民の告訴権や情報公開請求権に配慮した事実上の措置であるとも解されるし,処分通知書や開示決定書の名あて人を「大統領」とし,これを「大統領」あてに送付したのも,告訴状及び情報公開請求書に告訴人又は請求者として「大統領」と記載されていたことからこれに対応する表記をしたにすぎないものと考えられる。また,原告が「大統領」あてに送付された処分通知書や開示決定書を受領していることについても,郵便業務の内容,性格等に照らすと,それだけで「大統領」の呼称が戸籍上の氏名と同程度に原告を特定し識別するものとして社会的に定着していることを裏付けるものということはできない。

(4) 以上によれば,「大統領」の呼称が戸籍上の氏名と同程度に原告を特定し識別するものとして社会的に定着しているものであるとは認められず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。したがって,本件開示請求は,本件条例6条1項1号に反するものというべきである。

(5) そして,警視総監は,平成21年6月24日,本件条例6条2項に基づき,「開示請求書の補正について」と題する書面を送付し,原告に対して,本件開示請求書の開示請求者の氏名欄に記載された「大統領」は,一般に個人の氏名とは理解し難く,同条1項1号に規定する「氏名」を記載しているものとは認められないとして,同年7月17日までに,同欄に請求者の戸籍上の氏名又はそれと同程度に特定し識別することが可能な呼称を記載するよう補正を求め,原告がこれに応じなかったことから本件却下決定をしているのであるから(前提事実(3),(4)),本件却下決定に違法はないというべきである。

 

福岡高裁第4民事部判決平成21年11月27日

【事案】

 控訴人らが,大野広域連合長Aに対し,浄化槽法35条1項に基づき,浄化槽清掃を業として行うことの許可申請をしたところ,不許可処分を受けたことから,その取消しを求める事案。

【判旨】

1.浄化槽法35条2項によれば,浄化槽清掃業の許可には,期限を付することができるとされており,大野広域連合廃棄物の処理及び清掃に関する条例(平成12年4月20日条例第7号)25条及び同条例施行規則11条,13条2項1号によれば,浄化槽清掃業の許可の有効期間は,当該許可のあった年の4月1日から翌々年の3月31日までの2年間であり,その許可申請は,当該許可を受けようとする年の前年の12月1日から同月27日までの期間に行わなければならないこととされている。
 控訴人らの本件清掃業許可申請は平成15年12月1日になされたものであり,平成16年4月1日から平成18年3月31日までの期間の浄化槽清掃業を対象としたものであることが明らかであるが,現在においては既にその許可の有効期間の終期を経過していることもまた明白である。
 そうであれば,本件清掃業不許可処分が取り消されたとしても,控訴人らはもはや本件清掃業許可申請に基づく許可処分に基づいて所期の事業活動をする余地はないものというほかない。

2.しかしながら,本件清掃業不許可処分の取消しを求める本件訴訟は訴えの利益を欠くとする被控訴人の主張を採用することはできない。
 なぜなら,本件清掃業許可申請に基づく許可処分のように,当該許可の有効期間が比較的短期間であり,しかも,それが反復して継続され,実質的には一種の「許可の更新」のような感を呈している場合には,当該不許可処分の取消訴訟を提起しても,その審理中に当該有効期間が経過してしまうことは十分あり得ることである(上級審まで考慮に入れるならば,当該有効期間内に不許可処分取消しの判決が確定することはむしろ稀であるといえる。)。
 それにもかかわらず,当該有効期間が経過したことを理由として,不許可処分取消訴訟が訴えの利益を欠くことになるというのであれば,処分取消しの訴えは著しくその意義を殺がれることにならざるを得ず(その後になされた不許可処分について,新たに取消訴訟を提起してみてもほとんど同じことである。),ひいてはこの種の処分取消訴訟の制度趣旨を没却することにもなりかねない。
 そうであれば,本件の場合の控訴人らは,行政事件訴訟法9条1項括弧書の原告適格を有するものと解すべきであり,本件訴訟には,上記有効期間経過後においてもなお訴えの利益があるものというべきである。

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