政府公表資料等情報

司法修習委員会委員名簿(平成22.7.8現在)

最高検察庁総務部長 伊丹俊彦
独立行政法人労働政策研究・研修機構特任研究員 今田幸子
弁護士(第一東京弁護士会) 大橋正春
株式会社日本総合研究所理事 翁百合
早稲田大学大学院法務研究科教授(科長) 鎌田薫
京都大学大学院法学研究科教授 酒巻匡
司法研修所長 佐々木茂美
東京高等裁判所判事 鈴木健太
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科研究開発学教授 高瀬浩造
中央大学法科大学院教授 高橋宏志

司法修習委員会幹事名簿(平成22.7.15現在)

司法研修所教官(刑事裁判) 秋吉淳一郎
司法研修所教官(民事弁護) 石井誠一郎
慶應義塾大学大学院法務研究科教授 井田良
最高裁判所事務総局総務局第一課長 氏本厚司
司法研修所教官(検察) 大谷晃大
司法研修所教官(民事裁判) 奥田正昭
法務省大臣官房司法法制部司法法制課長 小山太士
司法研修所事務局長 笠井之彦
最高裁判所事務総局審議官 菅野雅之
首都大学東京・都市教養学部法学系教授、首都大学東京・法科大学院教授 木村光江
弁護士(第二東京弁護士会) 小林克典
法務省刑事局総務課長 辻裕教
司法研修所教官(刑事弁護) ニ瓶茂
弁護士(東京弁護士会)  巻之内茂
一橋大学大学院法学研究科教授 山本和彦

第17回司法修習委員会平成22年9月1日より抜粋

3.出席者

(委員)

 伊丹俊彦,今田幸子,大橋正春,翁百合,鎌田薫,酒巻匡,佐々木茂美,鈴木健太,高瀬浩造,高橋宏志(委員長)(敬称略)

(幹事)

 秋吉淳一郎,石井誠一郎,井田良,氏本厚司,大谷晃大,奥田正昭,小山太士,笠井之彦,菅野雅之,木村光江,小林克典,辻裕教,二瓶茂,巻之内茂,山本和彦(敬称略)

6.議事

(2)報告

 笠井幹事から,第16回委員会以降の司法修習の状況等について報告がされ,次のとおり質疑応答がされた。

大橋委員 現行63期の考試の結果について,3回連続して受験して不合格となった者がいるかどうかお尋ねする。

笠井幹事 3回受験して合格できなかった者がいるということは聞いている。

(3)意見交換

ア.導入研修及び弁護実務修習の在り方について

木村幹事長 幹事会では,弁護士の幹事から,これまで議論を行ってきた選択型実務修習に関連して,日本弁護士連合会において,意見書を準備している旨の報告がなされた。この意見書は,A班・B班の2班体制を解消し,全員同時期に集合修習及び選択型実務修習を行うこと,そのことを前提として,選択型実務修習を1か月間に短縮し,司法研修所での導入研修を復活することなどを内容とするもので,以後,日弁連の正式な意見となる可能性があったことから,そこに含まれている論点につき,幹事会で意見交換を実施した。そこで,以下,その概要を御報告する。
 まず,この意見書における2班体制を解消すべき理由として,次に述べる導入研修の実施の必要性に加え,いわゆるA班問題が指摘され,現在,A班の後半には修習プログラムも提供されず,ホームグラウンド修習で二回試験の勉強をするなど,選択型実務修習が機能不全であるといっても過言ではないとの認識があることが示された。
 しかしながら,他の幹事からは,司法修習生の主体性・自主性を重んじる選択型実務修習の理念の重要性を再確認した上,実例を挙げるなどして,多様かつ充実した修習プログラムが提供され,A班も含めて,司法修習生も熱心に取り組んでいるなどとして,選択型実務修習が機能不全に陥っているとはいえないとする指摘が多くあった。また,修習プログラムが提供されない期間があるとしても,ホームグラウンド修習を充実させるべきであるという意見や,二班体制についても,1年の修習期間を前提として最も効率的な修習を行うために司法修習委員会の議論を経て実施されたものであって,施設の有効活用を図るとともに,集合修習の円滑な実施を図り,併せて教官がA班・B班の双方を担当する形とすることにより,一度に教官が担当する修習生の数を減らし,より効果的かつ密度の濃い指導を可能にしているものであるとして,その積極的な意義を指摘する意見があった。
 次に,この意見書において,司法研修所での導入研修を復活すべきとされる理由として,弁護士会の修習指導担当者等から,司法修習生の文書作成能力の低さが効果的な実務修習の妨げになっているとの指摘がなされていること,司法修習の開始に当たり,司法修習生に対し,法曹三者それぞれの立場の視点や考え方を示す必要性があることなどが述べられた。
 これに対しては,現在でも出張講義等により司法研修所教官によるフォローアップがなされているという指摘や,問題とされているのが,証拠との関係を踏まえて実務の基礎的な部分を学ぶということであれば,それはまさに分野別実務修習の内容そのものであるとの指摘,そもそも,司法修習の目的は各分野に特化した資質能力を身につけることではないのであって,第1クールでは2か月の期間の中で出来る限りの指導をした上で,司法修習全体でステップアップしていけばよいと考えるべきではないかとする指摘などがあった。また,当事者法曹としての弁護士のものの見方を学ぶとの点についても,従来から分野別実務修習の最初の導入的な指導の中で行われてきたのではないかとの指摘がなされた。
 さらに,導入研修を実施するために選択型実務修習を短縮するという点については,制度本来の趣旨に添って一生懸命やっている理想的な修習生が不利益を被ることになるなどの意見があった。
 以上のとおり,幹事会では,選択型実務修習が機能不全であるとの認識,A班問題等のために2班体制を解消すべきとする点,司法研修所での導入研修を復活すべきとする点,そのために選択型実務修習を短縮すべきであるとする点のいずれについても消極的な意見が大勢を占めた。
 他方,日弁連でこのような議論がなされるに至った背景について,ホームグラウンド修習において,指導弁護士が工夫をして今取り組んでいることや過去扱った事件に基づき指導をしようとしても,修習生から白表紙を勉強したいと言われるなどとして現場に落胆があること,小規模会において,いろいろと指導したいと考えるものの,人的態勢等の問題から手が回らないことなどにも言及があり,さらに司法研修所の弁護科目の指導の実情等が知られていないとの指摘もあった。
 これに対しては,例えば単位会での合同修習に対しては,司法研修所でも協力できる部分があるのではないか,新司法修習において,司法修習生や指導担当者に何が求められていることを明確にすべきことが重要であり,この点について共通認識を得る努力が必要ではないかなどとして,司法研修所と日弁連等との一層の連携の強化を求める意見が出された。
 幹事会における議論は,ただ今説明したとおりだが,幹事会の後,冒頭に述べた意見書については日弁連の正式な意見とはならないとの情報に接した。とはいえ,幹事会でなされた問題提起は,選択型実務修習,ひいては今後の司法修習の在り方を考えるに当たっての重要な論点を含むものであり,当委員会として議論しておくべき問題ではないかと考えている。

大橋委員 ただ今紹介を頂いた選択型実務修習に関する意見書は,日弁連全体の意見ではないが,こういう議論の背景となったところを理解していただけると修習の現場が分かっていただけると思うのでその点について御説明する。
 この議論の背景となっているのは,修習指導担当者が,司法修習,特に弁護修習にスムーズに入っていけるのかという入口部分と,従来と同じ司法修習の到達目標を要求されて果たしてそれが達成できるのかどうかという出口部分に強い懸念を抱いているということである。意見書は,このような懸念を表明する方法として作成されていたものであって,日弁連が新しい修習制度に対して批判的であるということ,後退しようということを言っているわけではないということをまず御理解いただきたい。
 まず,入口部分の懸念について御説明する。
 司法修習委員会がまとめた議論の取りまとめの中に,かつての前期修習に相当する部分は法科大学院に委ねるという記載があるところ,これを見た一部の修習指導担当者の中には,法科大学院でかつての前期修習と同じことをやると理解した者もいたと思われる。新しい法曹養成制度なので,従前の制度と全く同じことをやることはないのだが,新しい制度への移行が急で,その点の説明が必ずしも十分でなかったため,現場の担当者の中には,話が違うのではないかという意見を持った者がいたということがあったのではないか。この点については,既に日弁連の中でもいろいろ議論してきているので今は理解がなされていると思うが,法科大学院と司法修習とは,従来のように同一の司法修習制度の中で行われた前期修習と実務修習との関係とは違い,必ずしも直線的につながるものではない。かつての前期修習が必要だということではなく,法科大学院教育から実務修習にスムーズに移るためのガイダンス的なものが必要なのではないか。裁判所や検察庁においても,何らかの形でガイダンス的なことが行われているので,ある程度御理解いただいているところはあると思うが,司法修習が法科大学院教育とどう違って,司法修習で修習生は何を学ぶのかということを,修習生に対し,司法修習に入る最初の段階で明確に意識付ける作業が必要ではないか。
 この点については,弁護士会でも司法試験合格者に対する事前研修や,冒頭修習などを実施してはいるが,マンパワーの問題等があり,すべての弁護士会がそのような研修等を実施できる状態にはないし,司法修習に対する共通の目標等について,すべての弁護士会で議論がまとまっているわけではない。
 私見だが,司法修習に入る者に対して,法科大学院教育を学んだ上で司法修習では何をするかということを明確に意識付けるべきであり,この点について,少なくとも弁護士会,裁判所,検察庁あるいは司法研修所が一緒になって議論をし,ある程度共通の認識を持つべきではないか。
 弁護士会の個々の修習指導担当者には,自分の認識が果たして全体の認識と合っているのかどうかという不安感があると思われる。
 次に,出口の問題について御説明する。
 司法修習委員会の議論の取りまとめでは,「司法修習においては,幅広い法曹の活動に共通して必要とされる,法的問題の解決のための基本的な実務的知識・技法と法曹としての思考方法,倫理観,心構え,見識等」として,『法曹としての基本的なスキルとマインド』」と書いてあり,具体的な個々の業務についての能力は,法曹資格取得後の継続教育に任せるという形になったのだと思う。
 これを正確に理解すれば,司法修習の到達目標は従来とは必ずしも一致しないということは明確だが,一方では,例えば,司法研修所においては従来と同じように白表紙を使った起案をさせており,従来と同じ形で行われているものと新しいものとの関係が今一つ修習担当者にはっきり伝わっていないところがある。
 つまり,法廷弁護士を育成するという従来の司法修習の到達目標は変わったとされているが,変わったというのは,従来と同じだけの法廷活動をする能力を持った上で,それ以外のものについてもさらに要求されているということなのか。そこまで要求されるのであれば,それはできないというのが修習指導担当者の実感であろう。
 少なくとも私が司法研修所で教官をしていたころは,刑事弁護教官室は,無罪事件を単独で弁護できる弁護士をつくることを刑事弁護科目の到達目標としていた。修習指導担当者の中には,今もそこまでやらなくてはならないと思っている者もおり,相当重い課題を負ってしまうと感じているところがあるのだと思う。
 したがって,修習指導担当者に対して,到達目標について,ここまではやる必要がある,ここまではやらなくてもいいということを明確にした方がいいのではないか。
 現場では,入口のところで自分たちのやり方ではうまくいかないという懸念がある上,出口についても非常に高いハードルを作ってしまって到達できないという懸念をもっており,日弁連の議論は,このような懸念を背景として出てきているものである。もう一度,当委員会の議論の取りまとめについてきちんと修習担当者に理解させたり,司法研修所を中心として,修習指導担当者が具体的に何かをすべきかを検討するなどの方法を考えるなどしていただければと思っている。

高橋委員長 日弁連で検討されていた意見書は,正式な日弁連の意見書とはならなかったようであるが,幹事会で御議論いただいた点や,大橋委員が発言された点は当委員会でも考えるに値することであり,検討すべき点が多々含まれていると考える。
 幹事会では,2班体制の解消,選択型実務修習の短縮,導入研修の実施のいずれに対しても消極的な意見が多数であったようだが,この幹事会のまとめなどに対し,御意見があれば賜りたい。

大橋委員 法科大学院の出身者には,能力や修得した内容にばらつきがあると言われている。新修習の司法修習生の中には,従来の司法修習生を越える部分をもっている優秀な人たちもいて,そのような修習生を見ている修習指導担当者は,新修習の司法修習生もすごくいいという感想を持っているし,一方では,実務的な感覚を何も学んでいない新修習の司法修習生もおり,そのような修習生を見た修習指導担当者は,新修習の司法修習生はだめだという感想を持っている。法科大学院がどういう方向性で教育を行っているのか,法科大学院全体としてこのような状況を改善する方向や見通しがあるのか,そのあたりを御説明いただきたい。

笠井幹事 法科大学院教育がどうあるべきかについて,司法修習委員会で深く立ち入って議論することはできないが,法科大学院によってばらつきがあるという指摘があることは承知している。
 ただ,新司法試験の合格者は,現在約2,000人で,上位層から下位層まで相当幅のある人材がいるので,新修習の司法修習生の中にばらつきがあるからといって,それが直ちに法科大学院教育がばらついていると言い切れるかという問題がまずあろう。
 その上で,法科大学院において,コアカリキュラムの策定等の改善方策を講じて,法科大学院教育をどのようにしていくかというところを鋭意検討していただいていると聞いているので,当面は,そういう取り組みの成果が出てくることを期待して見守っていくということになろう。その一方で,法科大学院を修了した修習生の中に,スムーズに分野別修習に入っていくことができない者もいるということであれば,そのフォローとして,先ほどの導入的な教育の在り方,あるいはガイダンスの在り方も含めて考えていくことになろう。

高瀬委員 似たような状況が医学教育においても過去にあったように思う。過去,医師の国家試験に合格した上で,いわゆる卒後臨床研修をいろいろな大学の出身者が受けた際に,能力,特に倫理的な部分や,基本的な説明の仕方の能力に差があるということが随分議論された。医学部教育について共通の到達目標が提示された背景には,それぞれの大学で教えている内容にばらつきというか,得意分野は教えるが,不得意なことを教えていないという状況があった。
 法科大学院においてもそういう状況が全くないわけではないことは承知している。法科大学院教育にも共通的な到達目標が提示されたので,それに応じて各法科大学院が教育内容を変え,その成果を見ていただく必要があると思う。司法試験は基本的なことを試験しているものではないし,合格者も多いので,優秀な人もいれば優秀でない人もいる。教えている側から見ると,ごく少数のサンプリングになるので,特定の法科大学院に問題があるように見えてしまうということもあると思うが,全体として見ても,現時点では,法科大学院の教育内容と,司法試験に合格するための能力との間に乖離があると思う。
 やはり,この問題は,数年かかるかもしれないが,法科大学院教育での到達目標が整理されて,各法科大学院が教育内容を改変し,その結果を見てから検討してもよいのではないか。

今田委員 基本的に,新司法修習制度は多様な法曹人を養成するということが目標で,法科大学院では,それぞれ特色を持って独自の教育をして法曹人を送り出す。そういう多様な法曹人が今の産業社会にとって必要だというニーズがしっかりあって,そのニーズに基づいて教育体制をつくって育てる,そういう制度設計であったと思う。しかし,多様化というのは非常に難しくて,多様な人材を評価するには,基準も多様でなければきちんと評価できない。法科大学院で教育され,新司法試験に合格した学生たちのすべてに同じような能力を持つべきと考えるのは,この制度が目標としたものとは少し違うのではないか。かつての制度で修習生を評価する基準と新しい制度で修習生を評価し育てるという基準は,当然違っていいと思う。修習指導担当者が,大変苦労し危惧されている面は私どもが理解できないくらいたくさんあると思うが,制度そのものの違いがあるし,新しい制度で重要な点は,プロセスとして法曹を養成することだったと思うので,法科大学院と司法修習,それから実務の世界,この修習指導担当者の間の連携を密にできるような,さらに共通認識をきちんと醸成できるようなコミュニケーションを従来以上に積極的に持つ仕組みが必要なのではないか。
 制度を作り上げたものの,時間とともに共通認識が薄れる部分もあるだろうし,環境によって変化していく部分もあるので,制度そのものも微調整して改革していかなければならない面もある。そのためにも全体のプロセスを担当しているエージェントというか担当者が各役割分担について連携を密にできるような,確認できるような,そういうコミュニケーションを柔軟にできる制度の仕組みを今後さらにみんなで考えていくことが重要ではないか。

高橋委員長 大橋委員の御質問は,法科大学院で何かやっているのかいないのかということであろうが,事実としてはしていると思う。法科大学院をつくるときに「個性あふれる法科大学院を」と文部科学省も盛んに言っていたところであり,法科大学院に個性があるのはいいことだが,最低限のレベルは揃っていなければいけない。その上での個性だということで,法科大学院協会もあるし,文部科学省はコアカリキュラムも出している。当委員会も,民事裁判実務,刑事裁判実務それぞれどういうものを修習側として望んでいるかということは発しており,そういうものを材料にして,認証評価機関は法科大学院を評価している。
 いつどういう形でそれぞれの法科大学院の教育が完成するかというのはあると思うが,最低限のレベルを備えていることを意識していない法科大学院はないし,大橋委員の質問についていえば,法科大学院側も色々と頑張っていることは間違いないと思う。
 さて,先程の幹事会の議論の方向性については,御了承をいただけるということでよいか。

出席委員全員 了承

酒巻委員 法科大学院教育と実務修習の接合部分については,この数年来ずっと当委員会で何度も確認してきたことであるが,それにもかからず,いまだに法科大学院教育というもの,特に法科大学院が実務に関して何を教育しているのかということについての理解,それから,昔の前期修習を受けてきた方にとっての前期修習のイメージと法科大学院の実務教育のイメージが不幸にして重なったことなどの,根本的な誤解に基づいて議論されている印象が強い。
 法科大学院では,かつての前期修習でやっていたようなことはやらず,むしろ起訴状や判決書に何を書くべきか,材料,証拠に基づいてどういう分析をすべきか,書くべきものの前提になる大きなものの考え方を教えるものであると思われる。
 法科大学院を修了した者がいきなり実務修習に行って,準備書面や答弁書を書けと言われても,そのスタイル等を習っているわけではないので,すぐにはできないことがあるかもしれない。裁判修習や検察修習でも,弁護修習と似たような問題が発生しているのかもしれないが,それほど強い批判は出ていないように感じる。なぜ弁護士会からのみこのような既に議論済みの事柄に関する批判が生じるのか疑問である。何か根本的な誤解の部分が解けていないのであるとすれば,それを解くために,現に修習指導を担当している弁護士にもう一度,新しい修習というのはどういうものであり,法科大学院教育というのはどういうものであるということを,正確に情報伝達することが出発点になるのではないか。

奥田幹事 民事裁判実務の修習指導官と意見交換をする機会があり,そこで,修習生について,実体法の理解が必ずしもできているわけではないという話を聞くことはあるが,手続的なものや,書式,書き方を知らないというようなことでトラブルが生じたり,実務修習に支障が生じたということは全く聞いていない。

秋吉幹事 刑事裁判でも,実務修習,それから集合修習を通じて,判決書という形で文書を作成させることはしていない。今,酒巻委員の話にもあったように,まさにその中に書くべき内容,すなわち事実認定が争われたときにどうするかという,内容を求めている。実務の指導官から,修習生の実体法に対する理解が欠けるという批判はあるにせよ,書く書式に問題があるという批判は受けていない。

大谷幹事 検察も,両裁判教官からの話と似たような状況である。
 検察の実務修習は,生の事件の証拠を見て取調べなどの捜査を行い,その最終処分の内容を決定することが大きな柱になっており,起訴状が書けないとか,書面が書けないとかいうことで何か支障があるというようなことは一切ない。

大橋委員 検察庁や裁判所が組織的な形で教育をしているのに対し,弁護修習の修習指導担当者は基本的に個々の弁護士が当初から修習生を預かって指導する形になので,その点に弁護修習とその他の修習との違いがあると考える。
 弁護修習の修習指導担当者が,いきなり修習生を一人で預かり,新しい指導方法をどう考えるかといったときに,従来の指導方法なら分かっているので,まず訴状や答弁書などを書かせる。弁護修習の指導担当者も書式にこだわっているわけではいないが,一人で修習生を預かっている状況において,書式でつまずいてしまい中身の指導ができなくなるというところで,危惧感や問題意識が強く出てきているということは御理解いただきたい。

高橋委員長 弁護修習の指導担当者には,入口部分と出口部分に戸惑いがあるとの意見が出された。入口部分ではガイダンスのようなものを考えてはどうかということであったが,出口部分ではどこまでを弁護修習でやるべきか。先ほど,無罪事件を単独でできる弁護士という具体例が出たが,到達目標はどういうものなのかというところに議論を進めることとしたい。

笠井幹事 新司法修習における,法科大学院教育と司法修習の関係あるいは司法修習の到達目標については当委員会でも議論してきたところである。
 まず,法科大学院において,前期修習に相当する教育が行われるという点については,法科大学院では,実務を意識した法理論教育,あるいは法理論と実務の架橋という意味での実務導入教育が行われるものであって,従来の法廷実務家の養成を前提にした司法修習,それを前提とした前期修習を行うことは想定されていない。このことは第13回の当委員会においても確認されているところである。法科大学院における民事,刑事訴訟実務の基礎の教育の在り方についての議論がなされたときにも,このような考え方が前提とされていたと承知している。
 したがって,法科大学院でかつての前期修習を代替する教育を行うものではないということを明確した上で,さらにこの先の議論をしていく必要があると考える。
 次に,新しい司法修習の到達目標がどこにあるのか,今までと違っているのかというところであるが,当委員会の議論の取りまとめにおいてもあるように,新しい司法修習では法廷実務家に限られない幅広い法曹の活動,これに共通に必要とされる能力,要するに法的問題解決のための基本的かつ汎用的な技法と思考方法,これを修得させるということを目指すと言われているところである。そこから先の,例えば,訴状を書いて裁判所に提出するというような部分については法曹資格取得後の法曹継続教育に委ねるという振り分けがなされており,従前と同じ意味での法廷実務家としての一応の完成された形を求めていない。そういう意味で,多様な分野で活動することのできる法曹に基本的に必要とされる能力を身につけることが新しい司法修習のコンセプトとして整理されていると思われる。
 したがって,従来の到達目標と現在の到達目標は違う内容であるが,現在の到達目標は,法廷実務家として一応完成されたものプラスそれ以外の分野で活動できるものが必要ということではない。法廷実務家として活動する人もいれば,それ以外の分野で活動する人もいるが,それぞれの分野に特有の専門的,技術的な部分はOJTでまかなうこととし,どの分野でも通用するベースの部分を司法修習で身につけさせるというのが新しい司法修習のコンセプトである。
 なお,先ほど大橋委員から,司法修習と法科大学院教育が直線的につながらないのではないかという意見もあったが,決してそういうことではないと思われる。法科大学院において,新しい司法修習のコンセプトに従った実務修習を実施する上で,必要な法理論教育と実務基礎教育を行い,これがきちんとできていれば,修習につながっていくものと考える。
 修習生が修習に入る段階で戸惑いが生じているというのは確かにあると思われ,その部分をどのようにフォローしていくかというところは,今後検討していく部分であると思う。しかし,集合修習のやり方も新しいコンセプトに従って変わってきており,単に弁論要旨や最終準備書面を起案させるという指導ではなくなってきている。新しい司法修習のあり方に沿った指導方法を,弁護教官室でも鋭意検討いただいており,それを実践されていると聞いている。
 また,ガイダンス等について,例えば司法修習の理念の部分などは,法曹三者で認識をきちんと共通して実施する必要があるのではないかというお話も大橋委員からあったが,これは全くそのとおりだと思う。司法研修所,日弁連,単位弁護士会などで,これまでもいろいろな機会が設定されているが,これからもいろいろなスキームをつくっていくことも可能だと思うので,そのようなところでまず,法科大学院教育の在り方や司法修習の在り方といった前提部分をしっかり明確にした上で,実際どういうふうに分野別修習を実施していくのか,あるいは導入的な教育を実施するのかというところを議論していくことを司法研修所としても今後検討していきたい。

石井幹事 今,笠井幹事から説明があったが,民事弁護科目については,最終準備書面を書かせることを非常に固定的なものとして要求しているというメッセージが指導担当弁護士に伝えられ,それを前提として,最終準備書面で,どういう内容が要求されているのかという若干趣旨と異なるような方向で議論がされていたところがある。
 しかし,現在の集合修習においては,いわゆる表題部,事件番号や代理人の名称を書かせて,フルに起案をさせるということは,もうしておらず,例えば,ある一つの法的な主張に絞って,その部分に関して証拠と関連付けて文書で書けという起案をさせている。したがって,起案で求める内容は質的に変わっていると理解していただいてよい。修習指導担当弁護士は,修習生が最終準備書面を書けるようにならなくてはならないということで困っておられるようであるが,もうその必要はないので,このことは各種の会議でも申し上げようと思っている。
 修習指導を担当している弁護士の方々は,昔の前期修習を経験しておられるので,いきなり実務修習から始まる修習生のイメージがつかみにくいのだろう。前期修習を経てきたという前提で修習生のレベルを考えておられるので,現実に来た修習生は,従前のレベルと違うから前期修習をしなさいという方向に行っている。しかし,その点は,考え方を改めていただく必要があるという気がする。
 また,従前の前期修習,実務修習及び後期修習を通じてある一定の法廷実務家を実務に出していた時代のシステムとは違うというところをきちんと理解していただく必要がある。
 今の修習生は本当に熱心に勉強している。我々の修習生のころに比べると,格段の努力をし,質的にも短い間で一生懸命勉強している。決して修習生のレベルが下がっていると思わないし,むしろ非常にまじめに修習をしている。修習指導担当弁護士の御自身の経験を踏まえて,書面の形式によらなくていいと思うので,修習生の法的思考能力を鍛えていただければ,司法修習も非常にスムーズにいくだろうし,良い法律家が誕生するのではないか。

二瓶幹事 現在の刑事弁護教官室における集合修習の取り組みについてご説明する。従前は,修習生に記録を読ませて,裁判所に提出することを前提に,弁論要旨を作成するというカリキュラムが長年にわたって行われてきたが,本年度からは,裁判所に提出することを前提に書面を作成し,準備をさせるということ自体は,余り意味を持つものではないと考え,その前提となる事実の認定能力,証拠の分析能力や表現力,構成力,説得力といったものに主眼を置いた訓練が必要なのではないかというふうに考え方を改めている。
 つまり,新しい司法修習制度において,修習生について,法廷実務家に限られない幅広い分野での法曹としての活動に共通として必要とされる能力を培うというのであれば,刑事弁護科目においても,法廷での活動に余りとらわれずに,白表紙記録を見ながら,具体的な事実を検討し,法科大学院で養ってきた法的な基礎訓練や実務の基礎といった能力を深化,発展させることになると思う。
 具体的に言うと,従前は,具体的な記録をもとに,例えば証拠の構造についてどう理解しているのか,その証拠について何が重要だと考えるのか,その証拠が法廷なりに最終的に顕出されるに至ったプロセスにおいて,弁護人の立場から何か意見が言えないのだろうかといったという観点から,まず証拠が当然にあって,その上で最終的な弁論要旨を書かせるというのが指導の仕方,あるいは研修所として求める起案であった。しかし,今はそうではなく,証拠について,証拠が出されるそのプロセスを考えさせたり,手続の最終的な段階にとどまらず,証拠調べの段階,あるいはそれ以前の段階や主張の整理の段階で何か考えられないかといったように,もっと刑事手続を幅広くとらえて,その時点その時点でさまざまに考えさせるようにしている。最終的な弁論要旨を書かせるにしても,すべてを検討させるというよりも,むしろ重要と思われる事項について深く具体的に考えさせ,そういう中で証拠の評価の仕方や,あるいは事実の認定の仕方,あるいは説得力を持った文章を構成していくような能力を修習生に学ばせたいと考えて取り組んでいる。
 今,申し上げたような取り組みを刑事弁護教官室で行っているということが,単位会等に情報が十分に伝わっていないという部分は確かにあると思うので,今後も機会をとらえて,広く情報をお伝えし,御意見を伺っていかなければならないと考えている。

大橋委員 司法研修所の各教官室が新しい制度のためにいろいろ努力され,従来と違う形で修習をしておられるということは理解しているし,その努力というのは非常に大変なものだろうと考える。ただ,司法修習では,基本的に訴訟記録を使って書面を書かせ,議論をさせている。それが汎用的な能力を養成するためのものであったとしても,教わる側からすると,例えば刑事弁護の弁論要旨を書かせられたり,それについての議論をしているときに,これが将来,例えば特許についての意見書を書くときにも応用できる能力を養っていると理解するには,相当の想像力を必要とする修習生もいる。
 したがって,ガイダンスを実施する必要があるという点を含めて,修習生に対し,修習をさせるのと同時に今何をしているのかということを少し説明する必要があるのではないか。法科大学院においても,各科目で,この科目を終えたら,どこまで何を分かったことにするということは一応説明をした方が良いのではないか。刑事記録による修習をやりながら,これは,将来,民事の何かのときにも役立つ能力を養っているのだという認識を持てるのは,あるレベルより上の修習生であり,そうでない修習生も念頭に置いた方がよいと考える。

高橋委員長 修習生として採用される前に,合格者に対し,研修所ではこんなことを学ぶとか,こんな本ぐらいは読んできなさいとかそういうことを指示しているのか。

笠井幹事 司法研修所では,毎年新しく入ってくる修習生に対してガイダンス的な文書を配っている。その中には,一つは非常に総論的な話として,司法修習で何をやるのか,何を目指しているのか,そういう基本的な理念,コンセプトを説明している部分がある。それに加え,各教官室で分野別実務修習にスムーズに入っていくために必要な事前課題等を出している。したがって,理念的な部分,要するに修習で何を目指していくのかというところについても,その事前のガイダンス文書を見れば把握できるようになっているし,さらに,法科大学院にも新司法試験合格者用に司法修習の内容等を案内するガイダンスDVDを配布しており,合格者には,それを見てもらうことによって,実際に実務修習あるいはその後の集合修習の進め方や,その中で何を学んでほしいかということを理解してもらえるようにしている。
 さらに,これ以外にも,各配属庁会でも実際にガイダンス的な内容の話をしていただいているということなので,修習生に自分たちがこれからやることがどういう意味を持つのかということは,十分理解してもらえる機会はあると思う。確かに,刑事弁護で弁論要旨を考えながら,その中で法律問題を考えること,それが知財をやるときにどう結びつくのかというのは,なかなか直ちには想像できないかもしれない。しかし,結局法律というのは法律的な物の考え方の積み重ねで成り立っているものなので,法律的な分析をする,あるいは事実をどういう証拠からどういうふうに認定していく,それを説得的に表現する,そして法的に問題を解決していく,そういうプロセスというのは刑事であっても民事であっても,またほかの分野であっても,ベースになるだろうと思う。
 その法的な物の考え方を勉強する素材としては,やはり現在の法曹の実務で行われている内容,つまり事件記録というのが格好のものであろう。それを前提にして御理解いただけるような方策を研修所でもやりたいと思うし,その内容についてもこれからより充実できるように議論をしていただければと思う。

高橋委員長 出口の問題に関してだが,弁護士の中には,多数の事件を抱えている弁護士もいる。文書で修習の内容が変わったという情報が送られてきても,それに目を通して理解するのはなかなか難しいというのが実態ではないか。
 そういう意味では,文書はもちろん一つの手段であるが,現在の弁護修習に限れば,弁護修習がどういうものであり,到達点がどういうものであるのかというところを修習指導担当弁護士にもっと知ってもらう工夫が必要ではないかという気がするが,いかがか。

酒巻幹事 委員長の御指摘の前提についてお尋ねするが,刑事弁護の教官室や民事弁護の教官室の集合修習での教育内容が大分変わっているということの実務修習担当弁護士への情報伝達は,どのように行われているのだろうか。

笠井幹事 弁護教官室がどういう修習をしているかということについては,司法修習生指導担当者協議会というものを毎年司法研修所で実施しており,その中でお伝えしている。それ以外にも日弁連の司法修習委員会等でも,私あるいは民事弁護,刑事弁護の教官が参加させていただいて,意見交換をする場面があるので,単に紙のみを送付するということではなく,実際に教官室がどのような修習を行っているかを指導担当弁護士に紹介する機会はある。しかし,そういう機会で研修所の考えていることが詳細に伝えられているかというと,時間の制約もあり,必ずしも十分ではなかった部分があるかもしれないので,これからもさらに具体的に実感を持って伝えていかなければいけないと思っている。そのあたりは,また日弁連等とも議論させていただきたい。

高橋委員長 それでは,導入研修及び弁護実務修習の在り方について法科大学院における教育は,現行修習の前期修習と等置されるものではないこと,新しい司法修習の目標は法廷実務家の養成ではなく,多様な法律家になるための基本的なスキルとマインドの涵養であるということが,当委員会での共通の理解であるということを改めて確認したい。
 また,幹事会の御報告については,先程の御了承を頂いたとおりであり,例えば,二班体制の解消を考えることはないという点も御了解を頂いたとおりである。
 最後に,司法研修所と修習指導担当者とをつなぐいろいろな意思疎通の在り方についても,検討をする必要があるということでよろしいか。

出席委員全員 了承

イ.選択型実務修習について

高橋委員長 次に選択型実務修習についての意見交換を行いたい。この点は既に何回かこの委員会でも意見交換をしているが,まず議論の整理として,笠井幹事から御報告をお願いしたい。

笠井幹事 選択型実務修習については,まず,昨年6月の幹事会(第17回)及び9月の委員会(第15回)において,裁判所,法務省,法テラス,弁護士会関係の全国プログラム,自己開拓プログラム,裁判所,検察庁,弁護士会の個別修習プログラムの実情の報告等がなされた。これらでは,問題点の指摘等もあったが,実際に修習プログラムを選択した司法修習生が熱心に取り組んでおり,有意義であったと評価していたことなどが紹介された。
 そして,その結果を踏まえ,本年2月の幹事会(第18回)及び3月の委員会(第16回)で意見交換を行った。さらに,本年6月の幹事会(第19回)においても,先程,木村幹事長から報告があった日弁連の議論に関連して,意見等が出された。
 そこで,これまでの幹事会及び委員会の意見交換の概要を確認したい。
 まず,選択型実務修習の意義であるが,司法修習生指導要綱(甲)においては,選択型実務修習は,配属庁会等において,司法修習生の主体的な選択により,分野別実務修習の成果の深化と補完を図り,又は各自が関心を持つ法曹の活動領域における知識・技法の修得を図ることを旨として行うこととされているところである。これまでの議論では,このような選択型実務修習の意義が確認されるとともに,選択型実務修習が意欲のある司法修習生にはかなり大きな効果をもたらしており,新しい司法修習の内容として重要な役割を果たしていることについては,特に異論を見なかった。
 また,このような選択型実務修習の意義や成果を踏まえると,導入研修等の実施のためにその期間を短縮することが相当でないことについても,今,委員長から確認されたところである。
 次に,いわゆるA班問題についての議論がなされた。この点については,専ら弁護士会提供のプログラムにつき問題となっているものであるが,A班の司法修習生については,二回試験に近い時期に実施される修習プログラムへの応募が少ない,負担が重いとされる模擬裁判の選択を避ける,欠席が増えるなどの指摘がなされている。また,ホームグラウンド修習は,分野別実務修習の裁判修習と弁護修習や民事分野と刑事分野のバランスを調整するとともに,今後の弁護士業務の多様化に対応する観点から,選択型実務修習を制度的に弁護士実務に比重を置いたものとするために,その一方策として設けられたものであるが,A班の司法修習生については,二回試験に近い選択型実務修習の後半はホームグラウンド修習の履修が多くなる傾向がある,さらにはホームグラウンド修習の期間を集合修習の復習等(二回試験対策)に費やしている例があるなどの指摘がなされている。
 当委員会においては,結局は個人の志又は自己責任の問題であり議論すべき問題ではない,受入先の指導担当者が選択型実務修習の意義を理解して指導するのであれば,大きな問題にはならないなどとする意見も出されたが,反面,提供したプログラムに応募者がいないと,プログラムを提供した担当者が徒労感を覚え,プログラムを提供する意欲を失ってしまう,放置しておくと悪い方向に向かう可能性があるなどの意見などが出され,選択型実務修習をすべき時間に二回試験の勉強を行うことは制度本来の趣旨から外れるものであり,放置できる問題ではないとされたところである。
 他方,このような問題があるとしても,二班体制の廃止のように新司法修習の制度の大枠を変更すべき問題ではないことについても,ただ今,委員長から確認があったところである。
 そこで,かかるA班問題に対してであるが,これまでの議論の中では,ホームグラウンド修習の意義や在り方を含め,修習委員会として何らかのメッセージを発するとともに,具体的な改善方策が検討されるべきではないか,例えば,自主性・主体性の重視という理念を踏まえ,意欲に欠ける修習生に対して制裁を科すことで取組を強制するのではなく,そのインセンティブを積極的に引き出す方向での方策を考えるべきであるとして,修習生に選択型実務修習全体を通じた獲得目標等を記載した書面又は計画書を作成させて指導担当弁護士に提出し,修習生に自己評価をさせるような枠組みを導入すべきではないかなどの意見が出された。
 なお,外国での修習についても議論がなされ,現在認められていない外国での修習を可能とする枠組を検討すべきとする意見もあったが,当面は現状どおりとする(選択型実務修習の運用ガイドライン)というのが委員会における結論であった。
 続いて全国プログラム及び自己開拓プログラムについてであるが,いずれも,さらにその充実が期待されるということで異論を見ず,また,自己開拓プログラムについては,受入先の開拓に当たり,自己開拓という建前を踏まえながらも,司法研修所や配属庁会において可能なサポートを行うことが望ましいということで異論を見なかった。
 最後に個別修習プログラムについては,弁護士会提供プログラムの在り方を中心に意見交換がなされ,この点については,まず,大規模会と小規模会でプログラムの内容に格差があることが議論された。しかし,このような格差をひとえに問題視するのではなく,むしろ各地の実情に応じた個別修習プログラムの提供がなされることが重要であるとの意見が多く述べられ,また,多くの単位会において,そのような努力がなされていることが確認された。
 また,具体的にどのようなプログラムの提供が望まれるのかという点についても意見交換を行ったが,基本的なレベルの深化や補完に力点を置いたプログラムを用意すべきではないかとの指摘や刑事事件に力を入れるべきであるとする意見等があり,さらに,模擬裁判についても,司法修習生の負担が大きく,応募が低調になりつつあることが指摘されているものの,非常に有効な修習の方法であるとされた。
 また,今述べた点に関連して,大規模庁会と小規模庁会の格差を解消すべきという観点から,高裁,弁連単位のプログラム提供を可能とすべきであるという考え方もあるところでるが,この点については,要件や手続等検討すべき点が多くある反面,そこまでの必要性があるプログラムが考えがたいとして,むしろ,小規模庁会は小規模庁会なりの特色を生かしたプログラムの提供に努めることが肝要であるという意見が多かった。
 さらに,個別修習プログラムの申込時期について,司法修習生が深化又は補完すべき対象が分かった上で修習プログラムの申込みができることが大切であるとの意見も出された。
 併せて,最新の選択型実務修習の状況について,若干御報告したい。
 まず,新63期では,全ての裁判所及び検察庁において,通常事件に関する個別修習プログラム,家裁修習及び1か月の捜査・公判コースが提供されている。また,46の実務庁会において,共同プログラムとして模擬裁判が提供されており,その他,裁判所においては,保全(37庁),執行(42庁),破産(44庁),検察庁においては,2か月の捜査・公判コース(43庁),見学等(49庁)が一般的に提供されている。また,弁護士会においては,他事務所修習(36会),消費者問題等(39会),少年(36会),倒産(32会),労働(30会)等多様なプログラムが小規模会を含む多くの単位会において提供されている。
 このような個別修習プログラムについては,この6月の修習指導担当者協議会で,修習生の意欲的な取組が見られること,また,民事裁判,刑事裁判及び検察については,制度発足後3年を経て,その実施方法等について,共通認識ができつつあること,その上で,個別修習プログラムの提供の在り方等につき,様々な工夫が検討されていることが確認された。
 全国プログラムに関しては,合計302名の募集に対し,全国の実務修習地から合計664名の応募があり,新62期に引き続き,新63期においても,国際機関や法テラス,さらに法務行政に多数の応募が見られる。
 自己開拓プログラムに関しても,これまでと同様に,一定数の修習生が,厚生労働省,特許庁などの官公庁及びその関係機関並びに司法書士事務所,公設事務所,プロ野球競技の運営会社などの民間企業等において修習を行っている。
 最後に,これまでの議論を踏まえ,司法研修所の事務局長として感じたことを付言したい。
 選択型実務修習については,A班問題をはじめ,様々な問題点が指摘されており,一層の実情の把握に努めるべきことを実感している。この点については,各配属庁会にお手数をおかけすることになるが,司法研修所に対する報告等の在り方を検討する必要があると感じている。
 また,個別修習プログラムについては,この委員会でも紹介されたとおり,各配属庁会で意欲的な取組等がなされているが,そのような経験が共有されていない結果,全体としての改善や質の向上につながっていないのではないかとも思われる。この点についても,個別修習プログラムの実施状況や参考となるプログラムの例等について,司法研修所から各配属庁会への情報提供を促進する必要があるのではないかと感じている。

高橋委員長 選択型実務修習については,ほぼ1年をかけて,その実情についての情報提供をいただくとともに,問題点等について議論を行ってきたところである。もとより全く新しい制度なので,今後も,様々な形で問題点が生じてくるものと思われるし,その都度,改善方策の検討を重ねていくことが必要である。
 しかしながら,これまでの議論を通じて,委員及び幹事の皆様には,ある程度,共通の認識を持つことができたのではないかと考えている。そこで,本日,ただ今の笠井幹事の御報告を踏まえ,これまでの議論の内容を確認し,現時点におけるまとめを行いたいがよろしいか。

出席委員全員 了承

高橋委員長 まず,前提を確認する。選択型実務修習については,ただ今,笠井幹事から御報告のあったとおり,司法修習生の主体的な選択により,分野別実務修習の成果の深化と補完を図り,又は各自が関心を持つ法曹の活動領域における知識・技法の修得を図ることを旨として行うこととされているものであるが,多様化する法曹に対する社会のニーズに応えるためには,法曹を志す者が,法曹として共通に求められる基本的な資質,能力とともに,自らが関心を持ち,将来活動したいと考える分野,領域についての知識,技能を主体的に身につけていくことが必要であり,この意味において,選択型実務修習は,新司法修習の趣旨を体現するものであって,既に一定の成果を積み重ねてきているものと言える。
 選択型実務修習については,このような意義を踏まえ,仮に問題点があるとしても,その改善方策を図り,司法修習生の主体的かつ積極的な取組を促進すべく,その一層の充実・発展が図られるべきであると考えるが,この点はよろしいか。

出席委員全員 了承

高橋委員長 次にいわゆるA班問題だが,まず前回の委員会においては,分野別実務修習の深化及び補完のために設定される課題等とは無関係に行われる集合修習等の内容の単なる復習は,本来の修習に支障を来さない範囲において自らの自覚と責任において行うべきものであること,ホームグラウンド修習は,それ自体,弁護修習の深化及び補完として,重要かつ積極的な意義を有するものであって,本来の選択型実務修習が行われるべき時間をこのような単なる復習に充てることは,貴重な修習の機会を自ら放棄するものに他ならず,誠に遺憾であるというのが基本的な委員及び幹事の認識であったと思う。また,司法修習生及び指導担当者は,ホームグラウンド修習の意義を踏まえ,修習の実を上げることが期待されるといえると思うがこの点はよろしいか。

出席委員全員 了承

高橋委員長 それでは,このようなA班問題に対する具体的な改善方策だが,ただ今の笠井幹事の御報告の中では,例えば,自主性・主体性の重視という理念を踏まえ,意欲に欠ける修習生に対して制裁を科すことで取組を強制するのではなく,そのインセンティブを積極的に引き出す方向での方策を考えるべきであるとして,修習生に選択型実務修習全体を通じた獲得目標等を記載した書面又は計画書を作成させて指導担当弁護士に提出し,修習生に自己評価をさせるような枠組みを導入すべきではないかとの御意見の紹介があったところである。
 続いて,弁護士会提供の個別修習プログラムについては,大規模会と小規模会で提供されているプログラムの種類等に差があることを問題視する見解もある。もっとも,当委員会の議論としては,実務修習は,本来,その実務修習地の実情に合わせて実施されるものであり,この点は選択型実務修習についても同様であり,各単位会においては,ホームグラウンド修習を含め,配属された司法修習生の興味・関心に実質的に応えられる枠組みを作っていくことが肝要であり,その実務修習地の実情に応じた選択型実務修習を育てていくことが期待されるという認識であった。また,現在,多くの小規模会においても,関係者の努力の結果,多種多様なプログラムが提供されているが,このような努力を正当に評価すべきであるとの認識であったと思うが,この点はよろしいか。

出席委員全員 了承

高橋委員長 また,弁護士会提供の個別修習プログラムのうち,具体的にどのようなプログラムの提供が望まれるのかという点についても意見交換を行ったが,基本的なレベルの深化や補完に力点を置いたプログラムも用意すべきではないかとの指摘や刑事事件にも力を入れるべきであるとする意見等があり,さらに,模擬裁判についても,司法修習生の負担が大きく,応募が低調になりつつあることが指摘されているものの,非常に有効な修習の方法であるとの意見があり,改善の余地があると思われる。
 さらに,経験の共有化による改善や質の向上という観点から,司法研修所において,個別修習プログラムの実施状況や参考となるプログラム例などの情報を収集し,各配属庁会に提供するなどの取り組みを行う必要もあろうと思われる。これらの点はいかがか。

大橋委員 弁護士会を通じて選択型実務修習の情報を集めたことがあるが,弁護士会だとどうしてもお願いベースでしかないのでそういう意味で,研修所が中心となって情報収集を進めるというのは非常にいいことである。現在,司法修習生の人数が増えているので,ある意味でレベルが相当違ってきている。A班問題自体は正面から言うと全くおかしいことだが,非常に雑な言い方をすると,人によっては,二回試験の勉強をした方がまだましだという人もいる。直ちに,それが正当化されるわけではないが,最終的には人を見て判断をしていただくしかないと思っている。

高橋委員長 それでは,選択型実務修習については,今後ともその在り方等については検討が必要ではあるが,司法修習委員会の議論としては,今回で一区切りとし,今回の結果を踏まえ,さらにその推移を見守りたいと考える。今述べさせていただいた点を本日確認させていただき,その内容については,司法修習生及び実務庁会の修習生の指導担当者に明確なメッセージを発信する観点から,私において整理した上,事務局を通じて,配属庁会等にお示しするということでよろしいか。

出席委員全員 了承

高橋委員長 それでは,その方向で作業を行うこととしたい。
 本日予定していた議題は以上であるが,この機会に補足して述べておきたいことがあるか。

巻之内幹事 弁護修習の在り方について,弁護士の立場からすると,組織的な指導はできないので,修習生を個別指導することになるが,その場合,従前のように弁護士の仕事を手伝わせる中で指導するということしかできない。修習生のために,例えば,民弁教官室だとか刑弁教官室が行っているように論点だけを与えて考えさせるとか,修習生のための特別な時間を設けて議論するゆとりはなかなかない。そうなると,訴状や準備書面や簡単な弁論要旨を書かせた上で添削し,その中で論証能力を養っていくというような従来型のやり方が限度ではないかと感じている。
 弁護士会が新しい分野別実務修習のやり方を,どこまでできるのかも含めて,日弁連の修習委員会などで議論していかなければならないと考えている。今日の議論を聞いていて大変重い課題をもらった気がしている。

笠井幹事 巻之内幹事が懸念されている点はよく分かるが,それほどに難しいことを求めているものではないと思われる。修習生に訴状や準備書面を書かせてみて,その中で一番のポイントとなる部分について法的な分析や,事実の認定の仕方といった部分を弁護士と議論するということでも十分に足りると思われる。
 要するに,形式を含めて,全部を添削して指導するということではなく,書かせたものの中でポイントとなる部分を選んで,そこを具体的に議論していく中で能力を高めていくというやり方は十分あり得るし,法律相談に一緒に行って,修習生にメモを作らせて,それをもとにしていろいろな議論をするというようなこともありうる。今まで以上に負担を多くするということでなくても,十分に新しい修習に対応した指導の仕方はあり得るのではないか。

巻之内幹事 今までもきちんと指導している弁護士はそのようにやってきている。その点は御理解いただきたい。

高橋委員長 新しい理念に沿った形での修習がこれまでも行われているということであれば,それは非常に有り難いことであるし,それを継続していただくということで全く差し支えない。ただ,もし考え方として違っている部分があるのであれば,そこは新しいやり方を考えていただいたり,それも含めて日弁連でこれから議論をしていただきたいし,当委員会としても議論していきたい。
 巻之内幹事がおっしゃったように,自分の業務の時間を大幅に割いて修習生の教育に充てるのは,無理だろうし,また修習制度として期待しているわけでもない。
 司法研修所を核として,いろいろな工夫の蓄積があると思うので,それを共有できるとよりよい修習になるのではないか。

高瀬委員 新修習が多様とか多彩というのはマクロの話である。弁護修習の修習指導担当者や修習生からはそれは見えない。したがって,修習生からすると,個別に弁護の指導担当者から指導を受ける部分に関しては多彩ではなく,その指導担当者の専門分野について教わるしかない。準備書面などの書面を作成するときに,実務家はこうやっているが,自分たちが勉強しなければならないのはその前段階まででいいという認識を修習生が持っていればいいのだが,そうでないと,修習生と指導官との間でそんなことまではやらなくていいのではないかとか,そういう議論になってしまうので,修習生にそこを認識できるよう配慮してやらないといけないのではないか。また,多彩な人材の教育というのは,これまでの修習にプラスアルファされるものではないということを修習指導担当者が理解したとしても,今まで教えていたことと違うことをするという判断はなかなか現場ではできないのではないか。新修習がある程度落ちついて,いろいろな分野へ進んだ新修習を受けた実務家が修習指導に関与するようになれば,多分落ちつくとは思うが,当面は今まで教えたことを教え,多彩な人材をいろいろな分野に出す形でしか指導できないのではないか。

高橋委員長 まだまだ試行錯誤的なところは続くであろうが,法律家全体の創意工夫,アイデア,能力が問われているのではないか。

戻る