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東京高裁第10民事部判決平成21年11月26日

【事案】

1.被控訴人が,都市計画法(平成18年法律第46号による改正前のもの。特に断らない限り以下同じ。以下「法」ということがある。)21条1項に基づき,横浜国際港都建設計画α地区(以下「本件地区」という。)について地区計画を変更する旨の決定(以下「本件変更決定」という。)をしたところ,本件地区の周辺に居住する控訴人らが,本件変更決定は,周辺住民への周知が不十分であり,周辺住民に公述の機会を与えることなくされたもので,手続上の瑕疵があり違法であるとして,本件変更決定のうち原判決別紙物件目録記載の各土地に関する部分の取消しを求めた事案。
 原審は,控訴人らの訴えを却下したので,控訴人らがこれを不服として控訴した。

2.基礎となる事実

(1) 被控訴人は,昭和61年12月23日付けで,横浜市β及びγに位置する本件地区(面積約10.1ヘクタール)につき,都市計画法12条の4(昭和62年法律第63号による改正前の規定)に基づき,地区計画を定める都市計画決定(以下「本件都市計画決定」という。)をした。
 本件都市計画決定により,本件地区はA地区,B地区,C地区の3地区に区分されたが,このうち,A地区の大部分は,建築物の高さの最高限度を31メートルと定めた第7種高度地区であり,同地区の残りの部分は,建築物の高さの最高限度を20メートルと定めた第4種高度地区であった。

(2) 本件地区内の土地所有者の1人が,平成17年6月20日,被控訴人に対し,A,B地区について,法21条の2第1項に基づき,建築物の高さの最高限度を緩和することなどを内容として本件都市計画決定を変更することを提案した(以下これを「本件提案」という。)。これを受けて,被控訴人は,平成18年6月15日付けで,本件都市計画決定を変更する旨の本件変更決定をした(法21条1項)。
 本件変更決定により,A地区はA−1地区及びA−2地区に区分され,また,A−1地区における建築物等の高さの最高限度は高層部100メートル,中層部31メートル,低層部15メートルとされた。本件変更決定中の土地利用の方針においては,A−1,A−2地区につき,駅前のにぎわいと出会いを演出するため,専門店・ホテル・ホール・カルチャーセンター・スポーツ施設等の立地を図るとともに,地域拠点にふさわしい質の高い都市型住宅施設の立地を図るという方針により土地利用を誘導することとされている。なお,本件変更決定の対象であるA−1地区,A−2地区及びB地区はいずれも商業地域であり,a線δ駅の西側に隣接している。
 控訴人らが取消しを求めているのは,本件変更決定のうち上記A−1地区に関する部分であり,上記A−1地区は,原判決別紙物件目録記載の各土地から構成されている。

(3) 控訴人らは,「b」及び「c」(以下,併せて「本件各マンション」という。)の区分所有者又はその住戸の居住者であり,本件各マンションは本件地区外の東側約200メートルないし250メートルに位置している。

(4) 控訴人らのうち平成▲年(行ウ)第▲号事件原告らは平成18年8月4日,同第▲号事件原告らは同年10月12日,本件変更決定のうち原判決別紙物件目録記載の各土地(A−1地区)に関する部分の取消しを求めて,本件訴訟を提起した。

【判旨】

1.本件変更決定の処分性)について

(1) 処分性検討に関する観点

 控訴人らは,本訴において本件変更決定の取消しを求めているが,このような訴えにおける取消しの対象となる行為は,行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為(以下「行政処分」という。)であることを要する(行政事件訴訟法3条2項,同6項)。
 上記にいう行政処分とは,公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち,その行為によって直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいうと解されるから(最高裁昭和39年10月29日第一小法廷判決・民集18巻8号1809頁参照),控訴人らの訴えを適法と認めるためには,本件変更決定について,これにより直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められていなければならないということになる。この観点から本件変更決定が行政処分に当たるか否かについて判断する。

(2) 本件都市計画決定の処分性の検討

 本件変更決定が行政処分に当たるか否かについて判断するに先立ち,本件変更決定が変更の対象とした本件都市計画決定について,それが行政処分に当たるか否かについて,まず検討することとする。
 本件都市計画決定は,都市計画法12条の4(昭和62年法律第63号による改正前の規定)に基づいて地区計画を定める都市計画であり,同法15条1項中の市町村が定める都市計画の一つであり,その手続は,同法16条以下に規定されている。都市計画法に定められている都市計画の内容は様々であり,本件都市計画決定が行政処分に当たるか否かを判断するに当たっては,まず,本件都市計画決定が都市計画法の中でどのような目的ないし内容であると位置付けられ,これによってどのような法律効果が生じるかを検討していく必要がある。
 都市計画法上の都市計画は,大別すると,都市計画決定後に何らかの事業が予定されていて当該都市計画事業の認可決定に向けて進行する事業施行型の都市計画と,事業の施行は予定されておらず土地利用の規制を図ることによって目的を達しようとする完結型の都市計画とに区分される。本件都市計画決定は,後者,すなわち完結型に属するものであり,地区計画を定め,建築物の建築形態,公共施設の配置等からみて,一体としてそれぞれの区域の特性にふさわしい態様を備えた良好な環境の各街区を整備し,開発し,及び保全するための計画である(法12条の5第1項)。
 地区計画においては,主として街区内の居住者等の利用に供される道路,公園等の地区施設及び建築物等の整備並びに土地利用に関する計画を定めるものとされる(同条2項)。また,地区計画においては,地区計画の目的を達成するため必要な地区施設の配置及び規模のほか(同条6項1号),建築物等の用途の制限,建築物の容積率の最高限度又は最低限度,建築物の建ぺい率の最高限度,建築物の敷地面積又は建築面積の最低限度,建築物等の高さの最高限度又は最低限度,建築物等の形態又は色彩その他意匠の制限等の建築物等に関する事項(同項2号)を定めるものとされる。

(3) 地区計画を定める都市計画決定による権利制限の内容

 都市計画法上の地区計画が決定された場合における当該地区内の土地利用等についての権利制限の内容及び程度は,次のとおりである。

ア.届出義務

 地区計画の区域において土地の区画形質の変更,建築物の建築等を行おうとする者は,事前にその内容を市町村長に届け出なければならず,これに違反する場合には罰則の適用がある(法58条の2第1項,93条1号)。届出を受けた市町村長は,届出に係る行為が地区計画に適合しないと認めるときは,設計の変更その他必要な措置を執ることを勧告することができる(法58条の2第3項)。
 しかし,届出の内容が地区整備計画に適合していなかった場合になされる勧告は,これに従わない場合の措置について定めがないから,法的強制力を伴ったものとはいい難く,結局のところ,この勧告は,当該勧告の段階では,あるべき都市計画に向けての勧奨であるにとどまり,これをもって当該地区内の土地所有者等の法的地位に直接的かつ確定的な影響を及ぼすものということはできない。

イ.開発行為の制限

 地区計画の区域において開発許可の申請がなされた場合,開発行為に係る敷地上の予定建築物の用途又は申請に係る開発行為の設計が地区計画の内容に即していることが,開発許可の基準となる(法33条1項5号)。したがって,地区計画を定めた都市計画決定が告示によって効力を生ずると,地区計画の区域内においては,開発行為の設計及び開発行為に係る敷地上の予定建築物の用途等につき従前と異なる基準が適用され,それが基準を厳格化するものである場合には,新たな基準に適合しない開発行為は許可を受けることはできず,ひいてはその開発行為をすることができないこととなり,それが基準を緩和するものである場合には,従来許可を受けることができなかった開発行為が許可されることとなる。
 このような効果を生じさせる地区計画の決定が,当該地区内の土地所有者等に都市計画法上新たな制限を課し又は従来の制限を緩和することにより,その限度で一定の法状態の変動を生ぜしめるものであることは否定できない。しかし,この法的効果は,当該決定時における当該地区内の土地所有者等のみならず,当該地区内で開発行為を行おうとするどの者にも等しく及ぼされるものであり,また,この地区計画決定は,その後これに基づいて事業の施行を予定するものではなく,しかも,後記(4)のとおり,将来に向けて時期的な制約なく変更が可能なものである。
 したがって,仮に地区計画の決定時における当該土地の所有者等が特定かつ少数の者であったとしても,この地区計画の決定は,当該地区内で開発行為を行おうとする不特定多数の者に対し一般的かつ抽象的な規範を定立するにとどまり,具体的な開発行為について許可又は不許可の処分がなされる前に,この地区計画の決定によって,直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものということはできない。

ウ.条例による建築制限

 市町村は,地区計画の区域において,地区計画の内容として定められた区域内の建築物の敷地,構造,建築設備又は用途に関する事項を,条例でこれらに関する制限として定めることができる(法58条の3,建築基準法68条の2第1項)。
 この規定により条例で定めることができる権利制限の範囲は,建築基準法施行令によって限定されており,また,条例という地方自治を体現する手段に基づいて権利制限が行われ,住民はこの条例の制定及び改廃について請求権を有するものであって(地方自治法74条),権利制限は自治的,間接的である。
 この条例による制限又は制限の緩和の効果もまた,上記イで説示したとおり,不特定多数の者に対する一般的,抽象的なものであり,また,地区計画から条例の内容が一義的に定まるものではなく,地区計画は条例を制定する場合の準則としての位置付けを受けるものであるから,当該地区計画によって,直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものということはできない。

エ.道路位置指定による建築制限

 市町村長等の特定行政庁(建築基準法2条33号)が,地区計画の区域において道路位置の指定を行う場合,原則として,地区計画に定められた道の配置又は区域に即して行わなければならない(同法68条の6)。また,特定行政庁は,上記区域において,地区計画に定められた道の配置及び規模又は区域に即して予定道路の指定を行うことができる(同法68条の7)。道路位置の指定,あるいは予定道路の指定がなされれば,当該道路内における建築物の建築は原則として禁止される(同法44条,68条の7第4項)。
 しかし,道路位置地区計画を定めた都市計画決定が告示されても,道路位置指定等がなされるまでは建築制限が課せられることはない。また,建築基準法68条の6及び68条の7は,地区計画等に定められた道の配置(及び規模)又はその区域に即して道路あるいは予定道路を指定することを定めているが,地区計画により難いと認められる場合の適用除外や,敷地となる土地の所有者等利害関係人の同意を要する旨の規定を置いており,必ずしも当該地区計画で定めたとおりに道路あるいは予定道路の指定がなされるとは限らない。したがって,地区計画の内容は,道路位置指定等の準則の地位にとどまっているに過ぎず,当該地区計画の決定によって,直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものということはできない。

(4) 都市計画決定の変更の要件

 都市計画決定は,都市計画を変更する必要が生じたときは,遅滞なく変更されるべきものとされており(法21条1項),変更の要件は「変更の必要が生じたとき」とされているのみであり,変更の時期についても定めがない。これを本件都市計画決定のような完結型の都市計画決定についてみると,完結型の都市計画決定は,その後の事業を前提としないことから,当該都市計画決定が事業の進行により終了するということがないものであり,しかも,当該区域の社会,経済状況等の変化に応じていつでもどのような内容にでもこれを変更することができることから,都市計画決定が確定するということもなく,都市計画は,都市計画決定に描かれた内容で計画として存在し続け,必要に応じて必要な範囲内でこれを変更していくことが,制度として予定されているものといえる。
 本件変更決定により変更された都市計画決定についても,これをさらに変更することが都市計画法上可能であり,その時期の制限もない。

(5) 本件都市計画決定及び本件変更決定の処分性

 以上の認定に基づいて考えると,地区計画を定める都市計画決定による権利の制限又は制限の緩和は,一般的,抽象的な権利制限の範囲を超えて,直接的ないし確定的に国民の権利を制限し又は制限を緩和するものであるということはできず,しかも,終期に制限を設けることなく,変更の範囲も制約することなく,必要があるときは都市計画決定自体を変更することができるものとされているものである。
 このような地区計画を定める都市計画決定の内容からすると,本件都市計画決定は,国民の法的地位に確定的な変動をもたらし,直接国民の権利義務を形成し,又はその範囲を確定するものということはできないものといわなければならない。
 このように解すると,本件都市計画決定の実質的な内容を争うには,例えば,建築の許可,不許可等の具体的処分を対象とした争いの前提として,本件都市計画決定が違法である旨の主張をすることになるが,仮にその主張に応じて本件都市計画決定が違法であるとの判断がされたときは,これを契機として本件都市計画決定を見直し,これを変更することが可能なのであり,現実にそのような変更がされるかどうかは,当該地方の自治機能の実情によって決まるものの,制度的には,その柔軟な構造をもって後の司法判断に対し合理的な対処を可能とするものということができる。
 以上に認定判断したとおり,本件都市計画決定については,これを行政処分であるということができないのであり,したがって,これを変更する決定である本件変更決定も,同様に行政処分であるということができず,本件変更決定を抗告訴訟の対象とすることはできないものというべきである。

(6) 控訴人らの主張に対する判断

ア.控訴人らは,@原判決は後続の具体的処分の段階で改めて争ったところで事情判決を受ける可能性が高いことを看過しており,A後にされる開発許可を争うことになれば,控訴人ら住民は開発計画が持ち上がるたびに取消訴訟ないし差止訴訟を提起しなければならず極めて煩雑である,B開発を行おうとする者にとっても後の処分が取り消されたり差し止められた場合には,それまでに費やした資金等が無駄になるのであり不経済極まりない旨主張する。
 しかし,上記のとおり,本件変更決定を前提としてA−1,A−2地区に建築される建物が,専門店,ホテル等の商業施設や都市型住宅として利用されることが予定されていることに照らすと,本件変更決定の後に行われる処分を本件変更決定の違法を理由として取り消すこととしても,それが公の利益に著しい障害を生ずる場合(行政事件訴訟法31条1項)に当たるという事態は想定し難いといわざるを得ない。開発計画が持ち上がるたびに住民は取消訴訟を提起しなければならないという主張は,地区計画を定める都市計画決定が判決確定後も修正されないことを前提とした主張である。しかし,一般に取消判決における理由中の判断は,関係行政庁を拘束すると解すべきであり,判決理由中で違法であることを指摘する判決が確定した場合に,それを都市計画に反映させるかどうかは,当該地方の自治機能の実情によって決められることであるものの,被控訴人はその後当該理由中の判断に反する処分等ができなくなるのである。開発を行おうとする者が都市計画決定の違法性を認める判断によって不利益を受けることがあり得ることは,訴訟その他の事後救済制度一般にいえることであり,特別の不利益とはいえない。控訴人らの上記主張はいずれも採用することができない。

イ.控訴人らは,提案制度を利用して行われた本件変更決定は,特定の地権者による土地開発許可申請に対する承認に等しく,実質的には個人を名宛人とした個別具体的処分と同視し得るとも主張する。上記主張は,土地開発を目論む特定の地権者の提案制度に係る提案に基づく都市計画の決定又は変更が,当該地権者の開発許可申請に対する承認に等しく,その意味で処分性を有すると主張する趣旨であると解される。
 そこで検討するに,提案制度(法21条の2ないし同5)は,平成14年改正(平成14年法律第85号)において新設された,提案者が決定権者に対して都市計画の決定等を提案できるとする制度であり,提案者は,都市計画基準(法13条等)に適合する都市計画の素案を添付して提案を行い,決定権者は,遅滞なく決定等の要否を判断し,上記素案の内容と異なる決定等をしようとする場合には,上記素案を都道府県都市計画審議会等に提出しなければならず,決定等を要しないと判断した場合にも,都道府県都市計画審議会等に上記素案を提出してその意見を聴かなければならず(法21条の2第1項,同3項1号,21条の3,21条の4,21条の5第2項),決定権者が都市計画の決定等を要しないと判断した場合には,遅滞なく,その旨及びその理由を提案者に通知しなければならない(法21条の5第1項)とされている。法の規定する提案制度は,一体として整備,開発,保全するのがふさわしい一定の広さ以上の一団の土地について,その所有者等から,都市計画の素案を添付して,都市計画の決定又は変更の提案をすることを認める制度であって(法21条の2),それにより住民等による自主的なまちづくりを推進しようとするものである。この規定に基づく提案が充足すべきものとして法が規定するのは,それが一体として整備,開発,保全するのがふさわしい一定の広さ以上の一団の土地を目的とするものであること(法21条の2第1項)及び対象となる土地の区域内の所有者等の3分の2以上の同意を得ていること(法21条の2第3項2号)の他は,法第13条その他の法令の規定に基づく都市計画に関する基準に適合するものであることという要件だけであって,当該都市計画の提案が内容的に充足すべき要件はそれ以外の一般の都市計画が充足すべき要件と全く同一である。
 以上に認定したところに照らせば,都市計画についての提案制度は,地域の住民に自主的なまちづくりについての提案を行う機会を与えるとともに,それについて慎重に審議,判断する手続を規定したものであるにとどまり,計画提案に基づいて都市計画を決定し又は変更するには,法定の要件を満たす必要があり,また,これを前提として開発行為を行うことが予定されているときでも,それを実施するためには別途開発行為の許可を受けることを要する(法29条1項)のであるから,提案制度に基づく都市計画決定又はその変更決定が特定の地権者による開発許可申請に対する承認に等しいということはできない。

ウ.控訴人らは,本件変更決定により眺望の利益が害されることになる建物を処分しようとする者にとっては,本件変更決定の段階で大幅な価格下落は避けられないのみならず,後続の行為というものも考えられないから,利害関係者の救済のためには本件変更決定に処分性を認めるしかない旨主張するが,この主張は,制度としては地区計画を定める都市計画決定が柔軟性を有するものであることを考慮しないものであって理由がない。ただし,実際に都市計画決定が柔軟に運用されるかどうかは,当該地方の自治機能の実情により決定されるものである。

2.控訴人らに原告適格が認められるかについて

 控訴人らは,本件各マンションから富士山を眺望する利益は生活環境,経済活動等と密接な関連性を有する重要な利益であり,都市計画法の手続内で,都市計画の変更により富士山の眺望の利益を侵害される住民らが意見を述べ,その意思を都市計画に反映させていくとの観点において保護されるべきものであるから,当該眺望の利益の保護を求める控訴人らは本件訴訟の原告適格を有する旨主張する。
 行政事件訴訟法9条1項の規定する当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは,当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり,当該処分を定めた行政法規が,不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には,このような利益もここにいう法律上保護された利益に当たり,当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は,当該処分の取消訴訟における原告適格を有するものというべきである(最高裁平成17年12月7日大法廷判決・民集59巻10号2645頁参照)。
 そして,処分の相手方以外の者について上記の法律上保護された利益の有無を判断するに当たっては,当該処分の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく,当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮し,この場合において,当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たっては,当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌し,当該利益の内容及び性質を考慮するに当たっては,当該処分がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案すべきものである(同条2項)。
 このことを前提として検討するに,本件変更決定は,a線δ駅西側に隣接するα地区地区計画を変更するものであるところ,法が規定する都市計画基準(法13条1項14号)においては,地区計画を含む都市計画は公害防止計画に適合することを要し,地区計画は良好な環境の形成又は保持のためその区域の特性に応じて合理的な土地利用が行われることを目途として定めるべきこととされている。そして,地区計画の変更決定において控訴人らの主張する利益が法律上保護された利益といえるかどうかを判断するに当たっては,法が,都市の健全な発展と秩序ある整備を図り,もって国土の均衡ある発展と公共の福祉の増進に寄与することを目的とし(法1条),都市計画は,健康で文化的な都市生活及び機能的な都市活動を確保すべきこと並びにこのためには適正な制限の下に土地の合理的な利用が図られるべきことを基本理念として定めるものとされていること(法2条)を考慮すると,都市計画法と目的を共通にする関係法令として環境基本法及び環境影響評価法の趣旨及び目的をも参酌することを要すると考えられる。以上に挙げた法の趣旨,目的に照らすと,地区計画において達成すべき目的の一つとされている公害の防止や良好な環境の形成・保持とは,大気,水質,土壌の汚染や騒音,振動,地盤低下等による人の健康又は生活環境に係る被害の発生を防止することによって住民の健康で文化的な生活を確保することを指しているものと解することができる(環境基本法1条,2条3項,16条,環境影響評価法1条)。しかし,本件各マンションは本件変更決定に係る地区計画の区域外にあるものであり,控訴人らが享受しているこのマンションからの富士山の眺望は,将来の事情の変化によっては,居住する階数によって状況に違いがあり得るものの,当該地区計画の区域内の建築物のみならず,当該マンションと富士山との間の何らかの物体によって遮られる可能性があるのであり,都市計画法その他の上記規定及び関係法令の趣旨,目的を斟酌してみても,都市計画法が予定する保護法益の中に,このような眺望の利益が含まれるものと見るのは困難である。本件各マンションから富士山を眺望する利益は,そのマンションと富士山との間に,富士山の眺望を遮る物体が何一つ存在しないことによって得られる利益であり,本件変更決定に係る地区計画の区域の建築規制によって保障される性質のものではないからである。富士山の眺望の観点からいえば,控訴人らが区分所有し又は居住する本件各マンションも,その東側にある一定範囲内の建物からの富士山の眺望を妨げているのであって,ある風物の眺望の利益をめぐる利害調整は,地区計画の区域限りの建築規制によって達成されるものではない。本件において控訴人らが主張する富士山眺望の利益は,本件各マンションの区分所有者又は居住者である控訴人らとその眺望を遮る結果を生む可能性のある建築物の建築主間の個別の問題であるといわざるを得ない。
 したがって,控訴人らの主張する眺望の利益が都市計画法において法律上保護された利益であると解することは困難であり,控訴人らの主張する眺望の利益に基づいて,控訴人らに本件変更決定の取消しの訴えを提起する原告適格を認めることはできないものといわざるを得ない。

3.結論

 以上のとおりであって,本件訴えは処分性及び原告適格において不適法であり,却下すべきであるから,本件各控訴をいずれも棄却する。

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