政府公表資料等情報

司法修習委員会委員名簿(平成22.7.8現在)

最高検察庁総務部長 伊丹俊彦
独立行政法人労働政策研究・研修機構特任研究員 今田幸子
弁護士(第一東京弁護士会) 大橋正春
株式会社日本総合研究所理事 翁百合
早稲田大学大学院法務研究科教授(科長) 鎌田薫
京都大学大学院法学研究科教授 酒巻匡
司法研修所長 佐々木茂美
東京高等裁判所判事 鈴木健太
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科研究開発学教授 高瀬浩造
中央大学法科大学院教授 高橋宏志

司法修習委員会幹事名簿(平成22.7.15現在)

司法研修所教官(刑事裁判) 秋吉淳一郎
司法研修所教官(民事弁護) 石井誠一郎
慶應義塾大学大学院法務研究科教授 井田良
最高裁判所事務総局総務局第一課長 氏本厚司
司法研修所教官(検察) 大谷晃大
司法研修所教官(民事裁判) 奥田正昭
法務省大臣官房司法法制部司法法制課長 小山太士
司法研修所事務局長 笠井之彦
最高裁判所事務総局審議官 菅野雅之
首都大学東京・都市教養学部法学系教授、首都大学東京・法科大学院教授 木村光江
弁護士(第二東京弁護士会) 小林克典
法務省刑事局総務課長 辻裕教
司法研修所教官(刑事弁護) ニ瓶茂
弁護士(東京弁護士会)  巻之内茂
一橋大学大学院法学研究科教授 山本和彦

第18回司法修習委員会平成22年9月22日より抜粋

3.出席者

(委員)

 伊丹俊彦,今田幸子,大橋正春,翁百合,鎌田薫,酒巻匡,佐々木茂美,鈴木健太,高瀬浩造,高橋宏志(委員長)(敬称略)

(幹事)

 秋吉淳一郎,石井誠一郎,氏本厚司,大谷晃大,小山太士,笠井之彦,菅野雅之,木村光江,小林克典,二瓶茂(敬称略)

6.議事

(1)報告

高橋委員長 今月1日に開催した第17回委員会では,次回委員会は来年3月7日とお伝えしたところである。しかし,現在,この11月1日から施行される予定の修習資金の貸与制につき,さまざまな議論がなされており,前回の委員会以降,貸与制への移行を全面的に止める,または延期するという動きが急速にあらわれてきている。もとより,貸与制の導入,廃止,実施の延期等は,最終的には立法府が決める事項であるが,貸与制の導入に関しては,これまでも当委員会において意見交換を行い,最高裁判所規則案の審議等を行ってきた。
 そこで,本日はこのような情勢を踏まえ,委員及び幹事の皆様に対し,貸与制をめぐる現在の状況等の御説明を申し上げるために急遽委員会を開催した。
 なお,このような趣旨であるので,本委員会に先立って幹事会は開催していないが,この点についても御了解をいただきたい。
 それでは,笠井幹事から貸与制をめぐる現在の状況等について御報告をお願いしたい。

笠井幹事 貸与制については,平成16年に裁判所法が一部改正され,それまでの給費制に替えて導入されたものであり,この改正法は,本年11月1日が施行日とされているところである。
 そこでまず,かかる改正法により貸与制が導入された経緯及びその趣旨を確認させていただきたい。平成13年6月12日に提出された司法制度改革審議会意見書においては,法曹の質・量を大幅に拡充することが不可欠であるとされた上,新たな法曹養成制度の整備状況等を見定めながら,平成22年ころには新司法試験の合格者数を年間3000人まで増加することを目指すこととされ,また,法曹養成制度の中核として法科大学院を設けることとされた。その上で,給費制については,将来的に貸与制への切替えや廃止をすべきではないかとの指摘にも触れた上,新たな法曹養成制度全体の中での司法修習の位置付けを考慮しつつ,その在り方を検討すべきであるとされた。
 その後,内閣に司法制度改革推進本部が設立され,貸与制については,同本部に組織された法曹養成検討会において,弁護士を含む法曹三者及び有識者委員による十分な意見交換が行われた上で,平成16年秋の臨時国会に法律案が提出され,成立した。その際,十分な周知期間を確保する趣旨から施行期日を平成22年11月1日とする修正がなされている。
 貸与制の導入の理由としては,国会審議では,平成16年11月24日の衆議院法務委員会において,南野知恵子法務大臣から,「新たな法曹養成制度の整備は,多様かつ広範な国民の要請にこたえることができる多数のすぐれた法曹の養成を図ることを目的とするものであり,司法修習生の修習についても,司法修習生の増加に実効的に対応することができる制度とすることが求められております。この法律案は,このような状況にかんがみ,新たな法曹養成制度の整備の一環として,司法修習生に対し給与を支給する制度にかえて,司法修習生がその修習に専念することを確保するための資金を国が貸与する制度を導入することを目的とするものであります。」との説明がなされている。この点を敷衍すると,給費制は,公務員ではなく公務にも従事しない者に対して国が給与を支給する点で,現行制度上,極めて異例の制度であること,給費制の創設当初と比較して,司法修習生の数が大幅に増加すること,さらに,司法制度改革全体の中で,法科大学院制度の創設,日本司法支援センターの創設等,新たな財政負担を伴う司法制度改革の諸施策を進める上で,合理的な財政負担を図り,国民の理解を得るという趣旨から,司法修習生がその修習に専念できる環境を確保しつつ,給費制から貸与制に移行することが必要であると考えられたものと承知しているところである。
 貸与制については,当委員会において,資料41に基づき,貸与額,据置期間,保証人の要否等を議論した上,資料42の規則案に基づき,さらに議論を重ね,御意見をいただいた。その際,法科大学院生の経済状況や若手弁護士の就職状況等についての日弁連からの御意見を踏まえて,据置期間を3年ではなく5年とするなどの意見を取りまとめたところであり,その後,最高裁判所において,司法修習生の修習資金の貸与等に関する規則が制定されたところである。
 また,最高裁判所では,貸与制規則の制定後,所要の予算措置を講ずることはもとより,機関保証について,企画競争による調達手続を実施し,金融機関と包括保証契約を締結するとともに,貸与制規則の細則である要綱や書式等を定め,最高裁判所のホームページに手続案内等と併せて掲載するなど,円滑な実施に向けた入念な準備を行ってきたところである。
 そして,本年11月に修習が開始される新64期の司法修習生採用選考申込者に対しては,新司法試験の結果の発表のあった今月9日から貸与申請を受け付けており,昨日までに,既に62名が申込みを行っている状況である。
 ところで,前回の当委員会でも説明したところであるが,日弁連は,貸与制規則が制定された後,昨年11月18日,「法科大学院生及び司法修習生に対する経済的支援を求める提言」をまとめ,給費制の廃止及び貸与制の実施を内容とする裁判所法改正法を見直し,又は同法の施行を延期して,司法修習生に対する給費制を維持することを提言した。その後,本年になって,宇都宮健児会長の下,新執行部が発足したが,新執行部は当初から給費制の継続を掲げ,司法修習費用給費制維持緊急対策本部を立ち上げるとともに,各種集会,署名運動等の活動を展開している。また,本年5月の定期総会においても,「市民の司法を実現するため,司法修習生に対する給費制維持と法科大学院生に対する経済的支援を求める決議」を行っているところである。
 さらに,前回の当委員会の後,国会関係者においても,このような日弁連の提言やこれに関する日弁連の説明等を踏まえ,議員立法により裁判所法を改正し,貸与制の施行を延期するという動きが出てきている。
 この点,最高裁判所は,司法制度改革の諸施策がすでに実施され,貸与制も実質的に動き出している中で一体としての司法制度改革の一部をなす貸与制のみを取り出してその実施の延期等を議論するのであれば,貸与制導入のための法改正の後,どのような事情の変更があって延期等をしなければならないのかについて,国民の理解が得られるような合理的な説明が求められることなどから,日弁連に対し,貸与制を見直し,又はその実施を延期する根拠について,実質的な資料による説明を求めた。
 これに対する日弁連の回答の中では,法曹志願者の減少が事情の変更として指摘され,司法修習生の採用予定者に対し昨年実施したアンケートによると,回答者の53%が法科大学院で借金を抱えていたこと,その金額が平均318万円,最高で1200万円であったことなどを指摘し,給費制の廃止,貸与制の導入そのものによる経済的な負担についてそれのみが過酷とまでいうことはできないし,多くの司法修習生が無利子で借りた修習資金を返還できなくなると主張しているものではないとしつつも,過酷な支払義務を負っている修習生も存在しているであろうし,経済的負担に対する不安感を抱く者が法曹への途を選択することを断念する事態が既に生じているとしている。そして,かかる主張の根拠として,不安感を定量化することは困難だが,法曹志願者の経済的負担の増加,アンケート調査等において経済的負担に対する不安感を訴えている者が多数存在していることなどからこの点が推認されるとしている。
 さらに貸与制は,基本的に受益者負担の発想に基づく制度であり,本来社会的使命を果たすためのものとして位置付けられるべき法曹資格を個人の利益のための手段と位置付けるものであるので容認できず,法曹は弁護士も含めて公共的な存在であることから,国費による給費制によって法曹養成がされることの意義が非常に大きいとしている。
 また,かかる経済的な負担感が法曹志願者減少の根拠として最も重要なものの一つであるとして,他の要因についても改善の必要性はあるが,給費制の存続は重要かつ有益な一方策であるとした上,返済が現実化する6年後ではなく現時点で見直しが必要とされる理由として,貸与制を導入した上で個別的な救済を行うのでは法曹を志す者の不安感を払拭できないなどとの説明がなされている。
 以上が,貸与制を巡る現在の状況であるが,かかる日弁連の意見に関しては,十分な検討や実証的な裏付けを要する点があるように思われる。まず,貸与制については,先程述べたとおり,司法制度改革全体の中で,法曹人口増加,法科大学院制度の創設,日本司法支援センターの創設等の諸施策を進める上で,合理的な財政負担を図り,国民の理解を得るという趣旨から,法曹三者が関与した議論を経てその導入が決定されたものである。したがって,このような議論のプロセスを経ずに,他の諸施策と切り離して貸与制のみを導入しないこととするのが相当かどうかという点が問題となるように思われる。
 また,当委員会においても,最高裁判所規則の審議にあたり,日弁連の御意見の趣旨を踏まえて,据置期間を3年ではなく5年とするなどの意見を取りまとめていただいたところであるが,このような配慮や先ほど申し上げた現在の準備状況を前提としても,現時点において,貸与制実施の見直しを必要とする事情の変更があったことを示す合理的な根拠があるといえるかという点も問題となるのではないかと思われる。
 さらに,実際に修習資金の返還が開始されるのは約6年後であるにもかかわらず,返還の問題の現実化を待たずに,現時点で実施を延期する必要性があるのかといった点も問題となろうかと思われるところである。
 なお,法曹養成については,本年3月から,法務省及び文部科学省に法曹養成制度に関する検討ワーキングチームが設置され,7月6日,同ワーキングチームにおける検討結果(取りまとめ)が公表されたが,この取りまとめにおいては,優れた資質を備えた多様な人材が経済的な事情から法曹を志すことを断念せざるを得なくなる事態が拡大することが避けられないとして,給費制の維持等を訴える意見があった一方,給費制の維持には国民の了解が必要であるとする意見や,無利子,かつ修習終了後5年間の据置期間を設け,その後,10年間の分割返済の制度が設けられている貸与制の具体的な内容に照らすと,返済の負担が過大とはいえないとの意見があったとされているところである。
 私からの報告は以上である。

(2)意見交換

高橋委員長 貸与制については,平成16年に裁判所法が改正されて導入が決まった後,昨年から,当委員会において,最高裁判所規則案を審議するなどして議論を行い,これに基づき,最高裁判所においても所要の準備を行ってきたところであるが,ただ今,御報告のあったとおり,貸与制実施の見直しの動きが急速に出てきているということである。
 さて,ただ今の御報告を中心として,現在の状況について,御質問や御意見があればうかがいたい。例えば,新聞の論調はなぜ急に変わるのかというものが多かったように思うが,いかがであろうか。

笠井幹事 新聞の論調にもいろいろなものがあるが,一回できた法律を見直していくということであれば,やはりそれなりの理由が必要ではないか,その点の議論が必要ではないかという論調の記事が最近幾つか見られるようである。

今田委員 給費制か貸与制のどちらかという議論の以前の話としてお聞きする。
 法曹志願者の激減ということが日本弁護士連合会の議論の出発点になっているようであるが,これは事実としてあるのか。
 そもそも,法科大学院の構想時,従来は,教育機関のキャパシティを文部省が決めて全国的に人数などの適正化を図っていた,いわば入口規制をしていたが,法科大学院については,ある意味自由な市場に任せて設立を認め,結果で見ていくということになったのではないか。つまり,法科大学院は,賢い消費者が賢い選択をした結果,適正な規模になるという哲学のもとにつくられたわけである。そういう意味で,日弁連として,法科大学院の志願者数の減少という現状は,ただ今申し上げた賢い選択の結果ではなく,何か別の理由で減少している,何か非常に深刻な問題があると,そういう考えなのか。
 また,司法試験の合格率が予想していた7割よりもはるかに低い水準にあるというのは,簡単に結論は出せないにしても,司法試験の受験者が多いということではないか。そういうことからすると,法曹の志願者が激減しているという言い方が正しいのか。むしろ,私は,法科大学院のキャパシティが多くて,司法試験の受験者が多いため,合格率が低下しているのではないかと思う。もちろん試験の合格者が適正かどうかというのは,内容やレベルなどで評価しなければならず,率だけではかることはできないが,賢い消費者が賢い教育機会を選択するというモデルからすると,法科大学院が余りおいしくない食べ物になりつつあるから志願者が減っているという見方もできるのではないか。

大橋委員 日弁連が最高裁からの質問状に対し作成した回答書の作成に,私は全く関与していないので,執行部がどういう考えで回答書をつくったかを説明する立場にはない。
 その上でお話しするが,日弁連の法曹養成対策室が大学入試センター及び法務研究財団発表資料から作成した法科大学院適性試験実施結果というものがある。法科大学院に入学するためには適性試験を受けなければならないので,適性試験の受験者の数というのは法曹を希望する人の数を示すものの一つと考えていいと思うが,これを見ると,適性試験開始当初の平成15年度には約6万人いた志願者が,平成22年度には約1万6,000人になっている。したがって,法科大学院を希望する者が少なくなっているということは,数字上は明らかではないか。その原因がどこにあるか,もちろん理由はいろいろあると思うが,少なくとも,法律家というものが魅力ある職業でなくなっているということは確かである。
 確かに,先ほど言われた司法試験の問題もあると思うが,司法試験は3年間受験できるため,受験者数は累積し,単年度の合格率が下がるということは必然的な計算である。
 しかし,一方で,法科大学院は定員を減らしており,絶対的な司法試験の受験者数,各年度の資格取得者の数は減っているという状況にあるので,単純に考えると,合格率は高くなるように思われるが,それでも合格率が改善されないのは,資格取得者も減ったが,実際に合格する者の数も増えないため,合格率が改善しないということはあると思う。したがって,司法試験の合格率が低いということも法科大学院への志願者が減る理由の一つだろうとは考えられるが,それをどう増やすかという問題は,また別の問題なのではないか。
 法科大学院側としては定員数を減らそうとしたり,教育内容の改善に努めたりして,いろいろな形で司法試験の合格率を高める努力はしているが,今の合格率を相対的に見れば,非常に受験生にとって負担になるということはあり得ると思う。ただ,合格率について一つ言っておかなくてはいけないのは,すべての法科大学院が低い合格率ではないということであって,上位の数校については,卒業者の約75%程度が3年間で合格しているという実績がある。

今田委員 適正規模に落ちつき始めているという理解はできないのだろうか。
 市場モデルなので,制度発足当時は情報が不確定で,その間はいろいろな選択をする人が出てくるが,そのうち,法科大学院の状況,あるいはそれ以後の法曹人のキャリアなどの情報に基づき,賢い消費者である子どもたち,あるいはその親が選択を行い,その結果,徐々に適正規模へと数が落ちついていっているというふうにも読めなくもないのではないか。
 したがって,文部科学省が最初にデザインした市場モデルで,今,淘汰が起きるプロセスにあり,制度設計当初から想定された現象が推移しているという解釈もできなくはないのではないか。

大橋委員 その点については,まだどの程度の数が適正かどうかというのが分からないので,今田委員がおっしゃるとおり,適正規模に落ちついてきているのではないかという考え方もあり得ると思う。ただ,日弁連のいろいろな資料の中で見てみると,法科大学院に行きたいが,経済的な問題,合格率の問題があって,ほかの進路に進んでいるものもあるのではないか。
 特に,ここで問題となるのは,本来,この司法制度改革が求めていた法曹の多様化のために,他学部出身者を広く法曹界に入れたいということがあったのだが,他学部出身者の合格者数が減っている。数字的にきちっとした調べたものではないので,あくまで印象の一つでしかないが,そこから考えると,やはり単に適正規模に落ちついているだけとはいえないのではないか。

鎌田委員 若い世代の中での法曹志望者がかなりの速度で減りつつあるということは,かなり深刻な事態だと受けとめている。しかし,今日の課題である給費制とその受験生減との間にどのくらいの相関性があるのかというのは判断が非常に難しい。
 今年度採用された修習生から貸与制に変わるということは,受験生の間にも広く知られていたことで,今年司法試験に合格した人が法科大学院に入学したのが平成19年と20年だが,その平成19年,20年入学を目指す平成18年,19年の適性試験について極端に受験者数の変動があったかというと,そうではなく,この前後を通じて割と直線的に減ってきて,最近その速度を増している。そのことから考えると,貸与制の導入が法曹志願者数の減少に直接のインパクトを与えたとはいえないのではないか。
 それから,平成19年,20年前後は,司法試験の合格率が当初の予想よりも伸びないということが分かった時期でもある。我々が学部の学生と接しているときの実感としては,貸与制の問題というのはほとんど法科大学院進学に対する動機づけには影響しておらず,むしろ合格率の問題や,法科大学院の学費の問題と生活費の問題というものの方がはるかに大きい。それだけのコストをかけて得られるベネフィットよりもリスクのほうが高いと強く感じたのではないか。そうであれば,今,法科大学院の受験生の減少に何らかのインパクトを与えようとしているときの優先順位として,何が先に来るのかということについてはもう少し考えたほうがよいのではないか。
 この関連で,法科大学院協会などで,他の法科大学院の先生方とこの問題を巡って話をする機会が何回かあった。その中では,給費制から貸与制への移行というのは,司法制度改革の中で,法科大学院制度に法曹養成教育の中心を移す,司法試験の合格者数を増やす,修習制度を大幅に短縮化して中身も変える,裁判員裁判制度を創設する等々のことを総合的に考慮した結果,導入した制度なので,その中の一つだけを切り離して議論をされるということに対する抵抗感というか,警戒感がある。すなわち,貸与制への移行の見直しが,法科大学院の改革や,新司法試験合格者の質と量の拡充への努力に水を差す危険性もないわけではないので,この問題については,かなり慎重な意見を持っている法科大学院の執行部の先生方が多かったということは御報告しておきたい。

高瀬委員 先ほどの今田委員の御意見に賛成である。
 今,鎌田委員からもお話があったが,今後,法科大学院での様々な整備が進めば,恐らく,適性試験の受験者数はもう少し減って落ちつくと思う。適性試験の受験者数は,これ以前のデータがないので,始まったところから減っていくということがそんなにおかしいことだとは思わない。
 それよりも,最も問題と考えるのは,本来であれば,優秀な人材が法曹に進んでもらわなければならないが,そうでなくなるということであり,そういうことがあるのであれば,かなり早くいろいろな手を打たなければならないであろう。
 しかしながら,司法試験の結果に関しては,いろいろなお話があるが,ロースクールの学生や,新司法試験の合格者が突然優秀でなくなったという話はきかない。そうすると,一般的な法曹の外にいる人間の立場から言わせていただくと,優秀な人材が集まらなくなる,同じ世代の中で優秀な人がほかの分野に流れて行くということは避けなければならないが,志願者数そのものあるいは志望する人の表面的な数字が減ったというのは余り大きな問題ではないのではないか。
 学費については,法曹とは別の領域の大学院に進んだ学生もみな借金をしたり,親からお金を出してもらったりしており,経済的には不安で,リスクがある。確かにロースクールは期間が長いので,その分費用が増えるのは分かるが,ほかの領域もやはり専門性の高い領域は費用的に余り差がないと思う。それを,法曹を目指す人だけが特別だというのは,ちょっと説得力がないという印象を持つ。

大橋委員 今お話に出たように,数の問題をしているのではなく,数が減ったことによって,本来来てほしい優秀な人たちや,法曹を多様化させるために来てほしい他学部出身者や,社会経験を持った社会人の法科大学院への入学者が少なくなっていることが問題である。
 今言ったような人たちが,どこの分野に進んでいったかという実証的な数字はないが,弁護士が,日常接している修習生あるいは法科大学院生を見て,優秀な人材が少なくなってきたという感覚を持ったため,受験者の数の減少を,日弁連は問題にしているのではないか。ただし,それは数が少なくなったから即いけないと言っているのではなく,数が少なくなることによって,本来来てほしいような優秀な人がほかの分野に逃げているのではないかという危惧感から言っていると御理解をいただいたほうがよろしいと思う。

翁委員 法曹と関係ない視点からの発言しかできないが,この問題は何か拙速に動いているという感じがしており,やはり,司法制度改革全体の議論の中に給費制と貸与制の議論は位置付けられるべきであるし,特に納税者の視点が非常に重要なのではないかと思っている。今,あらゆる分野で財政の問題が厳しくなっており,その中で,いかに国民が実感できるような形で法的サービスの充実を図っていくか,どういうふうに限られた予算を有効に使うのかという議論があってしかるべきである。
 その意味で,議論をしっかりせずに給費制に戻してしまうことになると,国民の理解,法的サービスの受益者でありかつ納税者である国民の理解を得られない可能性があるのではないか。そういった意味で,トータルな観点からの議論をしていく必要があるのではないか。

大橋委員 先ほど御意見が出されたように,給費制を維持することについて国民の理解が得られるかどうかという点は,一つ一番重要な論点であろうと思う。そういった意味で,政府提出案として貸与制をやめて給費制を復活するという案が出されるのであれば,従来の経過などについて国民に対して説明が必要であろうが,議員立法として,貸与制はやめて給費制にした方がいいという法案が提出されるということは,ある意味において国民の理解が得られたということになるのではないか。

笠井幹事 もちろん,これは立法問題で,最終的には国会が判断することであり,国会の判断ということになれば,それは,国民の理解を得られたということにもなるのだろう。
 しかし,貸与制については,これまで当委員会でも議論をし,最高裁においても,予算の関係や貸与制関係の規則の制定など,いろいろな形で議論をし,それを積み重ねてここまで来ている。最高裁が,日弁連に質問書を出された趣旨というのは,日弁連での議論や主張を前提として,国会で議論をすることになったときに,これまでの経緯を踏まえても,なお貸与制をやめて給費制に戻すだけの事情の変更や合理的な理由について,本当に実質的に日弁連から御説明いただけているのだろうかという疑問があったからではないか。
 貸与制をやめて給費制に戻す実質的な根拠,合理的な根拠があるといえるかどうかについては,今後いろいろな議論をしていく上でも,同じような意見が出てくるのではないか。

今田委員 司法制度改革という大きな枠組みの中で,法曹養成制度を考えた場合に,貸与制という選択が,合理的な制度として非常に適切な判断であったということについて,異論はないし,そういうことで制度はスタートしている。
 しかし,少し視点を変えて,重要な法曹人のキャリア形成という観点から考えたときに,果たして貸与制というのが本当にベストな制度なのか,法曹人の若年期のキャリア形成にとって,もう少し魅力的な経済的な支援を,改めて考えていくことはあるのではないか。
 というのも,この10年,日本全体のいろいろ職業状況,雇用状況を考えた場合に,若年層がどの分野においても,大変な被害を受けている。それまでは日本的な雇用慣行があり,全部とは言わないが,主には企業が,若年層をそれだけの負担をして育てていた。
 おそらく法曹界も,裁判所や検察庁では,今でも日本的な雇用慣行が守られ,その制度に入った人たちは,若い間はキャリアを積みながら訓練されて,徐々に年功的に処遇されてキャリアを形成するという制度になっていて,その分野の人たちは,ある意味では非常にキャリア形成がうまくできているのではないかと思う。
 しかし,弁護士会においては,日本全体のここ10年来の産業界の人材育成の荒波を受け,若い人たちを時間をかけて育てるというよりも,即能力のある人たちに仕事してもらうという日本の企業と同じような感じになった。だから,若い弁護士たちは厳しい状況に立たされているのではないか。
 一般の企業について言えば,国や地方などの公的な部分,学校や大学教育機関など公的なセクターがキャリア形成を代替する制度にしなければならないということで,今一生懸命その組み替えをしている。そのために税金も使うことについては,国民的なコンセンサスというか,特に民主党の中でかなり熱心にやられているということもある。そのような動きの中で,もしかしたら法曹養成についても,若い法曹人を適正に支援していこうというような動きがあってもおかしくない感じがする。個人的には,給費でなくていいと思うが,手厚く支援していく方向になってもいいと思う。

高瀬委員 給費制の延長については,今までと変わりがないという認識になるかと思われるが,外部の者から見ると,今まで給費制が続いていたということが,非常に不自然というか非常に変わった制度だった気がする。
 したがって,貸与制に移行することになっていたものを,給費制に戻すとなると,国家公務員ではない司法修習生が国庫から給与をもらうというのは,一体どういう位置付けになるのかという説明がかなり必要になるのではないか。昔からの延長ではなく,もう一度きちんとその位置付けを決めておかないと,社会からの理解も得られない可能性が高いのではないか。
 弁護士になる方々の経済的なリスクが高いということは,全体的に見ればそれは事実だと思う。給費制という異例なものについての説明がもし非常に難しいという話であれば,今田委員もおっしゃったが,もう少し合理的な方式,例えば国庫からお金が出たとしても,弁護士会等を通じて若手弁護士を支援するとか,OJTのプログラムを強化するというような,医療で行われているような形も適用できるのではないか。
 今まで弁護士会は,国からお金をもらってそういうことをやるということに対して余り積極的ではなかった。それはいろいろな考え方があるので当然で,司法研修所であれば,そういった色がつかないからいいのではという話もあったかと思う。しかし,本当にそうなのかということも含めて,キャリアパスをどうするかを考えていかなければならないのではないか。医療の世界は今OJTが非常に充実しており,社会の流れとは逆行していると思うが,それと同じようなことも法曹の世界も考えないといけないのかもしれない。
 したがって,貸与制の実施を延期するというのはその場しのぎでしかなく,国庫から投入するにしても,もう少し建設的で合理的な方策を考える時期に来ているのではないか。貸与制を延長して何となくずるずるいってしまうことになれば,それは納得しがたい。

高橋委員長 本日は別に意見をまとめるということではないが,本日の意見交換の内容を振り返ってみると,大きく三つの議論があった。
 一つは,法曹志願者が激減したと表現されているが,それは少し正確ではなく,問題は,数が減ったこと自体ではなく,優秀な人材が法曹の世界に来なくなっているということである。優秀な人材が法律家にならなくなってきているのかどうかについては,きちんとしたデータがあるわけではないが,他学部,社会人の法曹志願者が当初より減っているのは事実であろう。しかし,社会人の法曹志願者が減ったことが貸与制の導入に起因するのかどうかについては,強い疑念が表明された。経済的な負担はあるかもしれないが,給費制との因果関係を強く主張されても,説得力があるわけでもないという意見があったと思う。
 次に,国民の理解,納税者の視点ということを軸にした議論もあった。司法修習生あるいは法律家だけに国庫からの支援をするというのはいかがなものかという指摘があった。
 大学院の博士課程まで進学すると,5年間で,日本学生支援機構からの奨学金が700万から800万になるという現状がある。そこで,博士課程,博士後期課程に進む人が減っているという事実は,どの大学でも深刻に考え,悩んでいる。かなりの分野において,優秀な人が,研究者を含め,知的なあるいは公的なところに集まらなくなっているという問題はあろうかと思う。
 優秀な人材が法曹を希望しなくなっているということは深刻な問題ではあるが,そういう前提の中で,なぜ法律家だけが優遇されるのかという声も出てくるだろうという議論であった。
 最後に,若い世代の人たちのキャリア形成に対して,国,自治体が何らかの方策を考えていくという時代になってきているのかもしれないという議論もあった。もっとも,この議論も,必ずしも給費制の継続ということではなく,もっと合理的あるいは建設的な方策を考えるいい機会ではないかというものであった。
 本日は,当委員会も関与した貸与制の現状についての報告を頂いた。

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