最新下級審裁判例

東京地裁民事第3部判決平成21年12月16日

【事案】

 原告らが,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「情報公開法」という。)に基づいて,外務大臣に対し,日本政府と大韓民国(以下「韓国」という。)政府との間において両国間の外交関係の開設等の関係の正常化を目的として実施されたいわゆる日韓会談に関する行政文書の開示を請求したところ,外務大臣が,上記行政文書の全部又は一部に,情報公開法5条3号,4号又は6号に定めるものに該当する情報が記録されていることを理由として,その全部又は一部につき開示をしない旨の処分をしたため,原告らがその取消しを求めるとともに,当該不開示文書又は不開示部分を開示することの義務付けを求めた事案。

(参照条文)情報公開法5条

 行政機関の長は、開示請求があったときは、開示請求に係る行政文書に次の各号に掲げる情報(以下「不開示情報」という。)のいずれかが記録されている場合を除き、開示請求者に対し、当該行政文書を開示しなければならない。

1号及び2号略。

三  公にすることにより、国の安全が害されるおそれ、他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報

四  公にすることにより、犯罪の予防、鎮圧又は捜査、公訴の維持、刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報

五  略

六  国の機関、独立行政法人等、地方公共団体又は地方独立行政法人が行う事務又は事業に関する情報であって、公にすることにより、次に掲げるおそれその他当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの

イ 監査、検査、取締り、試験又は租税の賦課若しくは徴収に係る事務に関し、正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし、若しくはその発見を困難にするおそれ

ロ 契約、交渉又は争訟に係る事務に関し、国、独立行政法人等、地方公共団体又は地方独立行政法人の財産上の利益又は当事者としての地位を不当に害するおそれ

ハ 調査研究に係る事務に関し、その公正かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれ

ニ 人事管理に係る事務に関し、公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれ

ホ 国若しくは地方公共団体が経営する企業、独立行政法人等又は地方独立行政法人に係る事業に関し、その企業経営上の正当な利益を害するおそれ

【判旨】

1.一般に,情報公開法5条各号に定める不開示情報が記録されているとして行政文書の全部又はその一部について開示をしない旨の処分がされた場合に,その処分の取消し等を求める訴えにおいて,当該処分に係る行政文書の部分に記録されている情報が情報公開法5条各号に定めるものに該当するか否かについては,行政文書の開示の原則の例外に当たるか否かが問題となることや,それが当該処分の適法性を基礎付ける事項であること,行政機関側が当該行政文書を保有してその内容を把握していることなどからすれば,原則として,当該処分をした行政庁の所属する行政主体である被告において立証すべきものと解される。

2.ところで,情報公開法5条3号は,「公にすることにより,国の安全が害されるおそれ,他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報」を不開示情報として規定しているところ,この規定は,我が国の安全,他国等との信頼関係及び我が国の国際交渉上の利益を確保することは,国民全体の基本的利益を擁護するために政府に課された重要な責務であり,これらの利益等を十分に保護する必要があることから設けられた規定であると解される。
 そして,このような同号の立法趣旨,同号が「おそれがある情報」(同条6号等参照)と規定せず「おそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報」と規定していること,同条3号に掲げる国の安全等の確保に関する情報については,一般の行政運営に関する情報とは異なり,その性質上,開示又は不開示の判断に高度の政策的判断を伴うものであり,我が国の安全保障上又は対外関係上の将来予測等についての専門的,技術的判断をも要するものであるとの特殊性があることなどから,同号に基づく処分の適法性については,同号に規定する事由があるか否かについての行政機関の長の第一次的な判断を尊重し,その判断が合理性を持つものとして許容される限度内のものであるかどうか,すなわち,開示をしない旨の決定が裁量権の行使としてされたことを前提に,その判断要素の選択や判断過程に合理性を欠くところがないかを検討し,その判断が,重要な事実の基礎を欠くか,又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められるなど,当該行政機関の長に与えられた裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したと認められるか否かを判断するという審査方法によるべきであると解される。
 この際,一般に,国の安全や他国又は国際機関との交渉等に関する正確かつ詳細な情報は専ら行政機関の長の側に属しており,開示請求をする者及び裁判所は,処分に係る行政文書の部分に記録されている内容等を直接には把握することができないことからすれば,被告において,当該処分に係る行政文書の部分に記録されている情報に係る事柄,当該情報の性質,当該処分をするに当たって前提とした事実関係その他の当該処分当時の状況等の,一般的又は類型的にみて,それらに照らし当該情報が同号に掲げる国の安全等の確保に関するものに当たることを推認するに足りる事情を立証する必要があると解するべきである。
 そして,その上で,既に述べたように,同号に基づき開示をしないことを争う原告が,当該処分につき行政機関の長の裁量権の範囲からの逸脱又はその濫用があったことを基礎付ける具体的事実について立証することを要するというべきである。

3.また,情報公開法5条4号は,「公にすることにより,犯罪の予防,鎮圧又は捜査,公訴の維持,刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報」を不開示情報として規定しているところ,この規定は,公共の安全と秩序を維持することは,国民全体の基本的利益を擁護するために政府に課された重要な責務であり,これを十分に保護する必要があることから設けられた規定と解される。そして,このような同号の立法趣旨,同号が「おそれがある情報」と規定せず「おそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報」と規定していること,同号に掲げる公共の安全等の維持に関する情報については,一般の行政運営に関する情報とは異なり,その性質上,犯罪等に関する将来予測等についての専門的,技術的判断を要するものであり,開示又は不開示の判断に高度の政策的判断を伴う場合もあるとの特殊性があることなどから,同号に基づく処分の適法性については,同号に規定する事由があるか否かについての行政機関の長の第一次的な判断を尊重し,その判断が合理性を持つものとして許容される限度内のものであるかどうか,すなわち,開示をしない旨の決定が裁量権の行使としてされたことを前提に,その判断要素の選択や判断過程に合理性を欠くところがないかを検討し,その判断が,重要な事実の基礎を欠くか,又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められるなど,当該行政機関の長に与えられた裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したと認められるか否かを判断するという審査方法によるべきであると解される。
 この際,2に述べたのと同様の観点から,被告において,当該処分に係る行政文書の部分に記録されている情報に係る事柄,当該情報の性質,当該処分をするに当たって前提とした事実関係その他の当該処分当時の状況等の,一般的又は類型的にみて,それらに照らし当該情報が同号に掲げる公共の安全等の維持に関するものに当たることを推認するに足りる事情を立証する必要があると解するべきである。
 そして,その上で,既に述べたように,当該情報を同号に基づき開示をしないことを争う原告が,当該処分につき行政機関の長の裁量権の範囲からの逸脱又はその濫用があったことを基礎付ける具体的事実について立証することを要するというべきである。

4.以上に対し,不開示処分のうち当該処分に係る行政文書の部分に記録されている情報が情報公開法5条6号に定めるものに該当することを理由とするものについては,1に述べたとおり,被告において,当該情報が同号に定めるものに該当することを立証することを要すると解される。

 

東京高裁第14民事部判決平成21年12月24日

【事案】

1.α町(平成17年3月28日にβ町と合併し,さくら市となった。)が,不動産業者である控訴人補助参加人A(以下「A」という。)から,複数の土地(以下「本件土地」という。)を浄水場用地として代金2億5000万円で買い受け(以下「本件売買」という。),その代金を支出したところ,さくら市の住民である被控訴人が,本件売買は,当時のα町長であり,同町の水道事業に関する地方公営企業の管理者であった控訴人補助参加人B(以下「B」という。)が,裁量権を逸脱,濫用して締結したものであり,地方自治法2条14項,地方財政法4条1項に違反するとして,地方自治法242条の2第1項4号に基づき,控訴人に対し,@Bに対して,不法行為に基づく損害金1億2192万円及びこれに対する平成17年1月15日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を,AAに対して,不当利得に基づく利得金1億2192万円及びこれに対する平成17年1月15日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による利息の支払を,それぞれ請求するように求めた住民訴訟。
 原審は,被控訴人の上記@の請求を認容し,上記Aの請求を棄却した。
 そこで,控訴人は,これを不服として控訴した。

2.(1) 平成21年9月1日に開催されたさくら市議会おいて,本件請求にかかる損害賠償請求権(以下「本件損害賠償請求権」という。)について,その権利を放棄する旨の議案(以下「本件議案」という。)が議員から提案され,審議の結果,16対5の多数決により決議された。さくら市長は,上記議決を受けて,Bに対し,本件議決がなされたので,議決に基づき権利が放棄されたことを通知する文書を送付し,この文書は,Bに到達した。

(2) 本件議案の提案理由においては,さくら市議会は前市長に対する控訴審の報告を受け,元町長の裁量に不法な逸脱・濫用が見られないことから,前市長に対する損害賠償請求に関するすべての権利を放棄するため議案を提出するとされ,先の宇都宮地裁の判決(原判決)においては,原告の鑑定を正常価格認定の基礎としているが,その結果は市の固定資産評価額,近傍取引事例,議員全員協議会の共通の相場観等とは著しくかけ離れていること,一方,α町の購入価額は,固定資産評価額とも著しい差はなく,結果として取引において成立すると認められる正常価格に近いものとなっていること,また,当該用地の取得は水道事業管理者の裁量として必然的な選択であったこと,これらを鑑みれば,元町長の判断に著しい錯誤がみられないばかりか,水道の事業計画推進に必然的な土地購入であったことを考慮して,現在,前市長への権利放棄は必然の帰結であるとされている。

【判旨】

1.住民訴訟の制度は,執行機関又は職員の財務会計上の行為又は怠る事実の適否ないしその是正の要否について,地方公共団体の判断と住民の判断が相反して対立し,当該地方公共団体がその回復の措置を講じない場合に,住民がこれに代わって提訴して,自らの手により違法の防止又は損害の回復を図ることを目的とするものであり,違法な財務会計上の行為又は怠る事実について,最終的には裁判所の判断に委ねて判断の客観性と措置の実効性を確保しようとするものである。そして,住民訴訟により,違法な行為を行った職員に損害賠償請求をすることを当該普通地方公共団体の執行機関又は職員に対して求める請求をする場合,上記のような理由で訴訟当事者は住民と地方公共団体の執行機関又は職員であるが,当該裁判において判断されるのは,当該普通地方公共団体が当該職員に対して損害賠償請求権を有するか否かという権利義務の存否についてである。
 地方自治法96条1項10号は,地方公共団体の議会は,法律若しくはこれに基づく政令又は条例に特別の定めがある場合を除くほか,権利を放棄することを議決できる旨定めている。住民から直接選挙により選ばれた議員により構成されている議会が民主主義の原則に則り審議の上多数決により権利の放棄を議決した場合には,その議決は十分に尊重される必要がある。そして,損害賠償請求権について放棄を制限する法令は存在しないし,住民訴訟が提起されたからといって,直ちに地方公共団体の議会が本来の権限に基づいて権利の放棄を議決することが妨げられる理由はないというべきであるから,その放棄の可否は,住民の代表である議会が,損害賠償請求権の発生原因,賠償額,債務者の状況,放棄することによる影響・効果等を総合考慮して行う良識ある判断に委ねられていると解され,裁判所としては,原則として,当該議決の当否について判断すべきではなく,その議決の当不当の評価は最終的に選挙を通じた住民の判断に委ねられているというべきである。
 しかしながら,控訴人が,本件議決によりBに対する損害賠償請求権が消滅したと主張するに至る経緯をみると,平成17年12月14日,被控訴人は控訴人を相手として本件住民訴訟を宇都宮地方裁判所に提起し,同裁判所は,平成20年12月24日,控訴人に対して,Bに対し損害賠償として1億2192万円及び遅延損害金の支払を請求せよとの判決(原判決)をし,控訴人はこれを不服として控訴し,当裁判所は,審理の上,平成21年7月14日に口頭弁論を終結し,判決言渡期日を同年9月29日と指定したところ,さくら市議会は,判決言渡日を間近に控えた同年9月1日,本件議決をし,控訴人は,同議決を踏まえ,口頭弁論の再開を申し立て,再開された弁論期日において,本件議決によりBに対する損害賠償請求権は消滅したとして原判決を取り消し被控訴人の請求を棄却するよう求めたものである。
 そして,本件議案の提案理由をみると,前市長に対する控訴審の報告を受け,元町長(B)の裁量に不法な逸脱,乱用が見られないことから,損害賠償請求に関するすべての権利を放棄するため議案を提出するとされ,原審の認定した正常価格は,市の固定資産評価額等と著しくかけ離れており,α町の実際の購入価格が取引において成立すると認められる正常価格に近いものであること,また,当該用地の取得は水道事業管理者の裁量として必然的な選択であったことに鑑みると,元町長の判断に著しい錯誤がみられないばかりか,水道の事業計画推進に必然的な土地購入であったことを考慮して,現在控訴中,任意の権利放棄は当然の帰結であるとしているのである。
 以上の本件議決がなされた前後の事情及びその提案理由によれば,本件議決は,本件土地の購入価格が不当に高額であり,Bが本件売買を締結したことは,地方公営企業の管理者に与えられた裁量を逸脱,濫用したもので地方自治法2条14項及び地方財政法4条1項に反し違法であり,過失も認められるから,さくら市はBに対して損害賠償請求権を有するとの原審の認定判断に対して,購入価格は正常価格であり,Bには裁量の逸脱,濫用はないとの立場から,上記原審の認定判断を覆し,また,当審において,同様の認定判断がなされることを阻止するために決議されたものであるといわざるをえない。
 前記のとおり,地方自治法96条1項10号に基づく権利の放棄の可否は,議会の良識にゆだねられているものではあるが,裁判所が存在すると認定判断した損害賠償請求権について,これが存在しないとの立場から,裁判所の認定判断を覆し,あるいは裁判所においてそのような判断がなされるのを阻止するために権利放棄の決議をすることは,損害賠償請求権の存否ついて,裁判所の判断に対して,議会の判断を優先させようとするものであって,権利義務の存否について争いのある場合には,その判断を裁判所に委ねるものとしている三権分立の趣旨に反するものというべきであり,地方自治法も,そのような裁判所の認定判断を覆す目的のために権利放棄の議決が利用されることを予想・認容しているものと解することはできない。
 したがって,本件議決は,地方自治法により与えられた裁量権を逸脱又は濫用したものとして違法無効なものというべきであり,本件議決によりBに対する損害賠償請求権は消滅するものではない。
 以上のとおり,本件議決により本件損害賠償請求権が消滅したとの控訴人の主張は,その余の点について判断するまでもなく採用できない。

2.よって,原判決は,相当であるから,本件控訴を棄却する。

 

仙台高裁第3民事部判決平成22年01月25日

【事案】

 行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「情報公開法」という。)4条1項に基づき,外務大臣に対し,原判決添付文書目録1記載の行政文書(以下「本件対象文書1」という。)につき平成18年11月30日に,同目録2記載の行政文書(以下「本件対象文書2」といい,本件対象文書1と本件対象文書2を併せて「本件各対象文書」という。)につき平成19年2月2日に,それぞれ開示請求(以下,本件対象文書1についての開示請求を「本件開示請求1」と,本件対象文書2についての開示請求を「本件開示請求2」といい,本件開示請求1と本件開示請求2を併せて「本件開示請求1・2」という。)を行った控訴人が,本件開示請求1・2に対し,外務大臣が同年9月14日から同年11月13日までの間に,本件各対象文書の全部若しくは一部を開示するか,又は全部を開示しないかの決定(以下「開示決定等」という。)をしたことにつき,開示決定等が違法に遅延し,これにより控訴人が合計400万8100円の損害を被ったと主張して,被控訴人国に対し,国家賠償法1条1項に基づき,上記損害額の一部である100万円及びこれに対する違法な遅延状態に陥ったとする日の後の日(訴状送達の日の翌日)である平成19年6月21日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案。
 原判決は,情報公開法上,控訴人は適切な時期に開示決定等を受けることのできる権利を有しているとしたものの,開示決定等の遅延は,それが情報公開制度の究極の目的である適正な行政運用の監視,確保という国民全体の一般的利益の実現を阻害する程度に著しいものであるため,社会通念上一般人において受忍すべき限度を超えていると評価できる場合に,初めて国家賠償法上保護に値する権利の侵害があったものというべきところ,本件開示請求1・2に対する外務大臣の開示決定等の遅延の程度は,社会通念上一般人において受忍すべき限度を超えているとは評価し得ないから国家賠償法上の違法があったということはできないと判断し,控訴人の請求を棄却した。

【判旨】

1.国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求権は,公権力の行使に当たる公務員が,その職務を行うについて,故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときに成立するものであるところ,「違法に他人に損害を加えた」ことに当たるためには,当該「他人」の権利又は法律上保護されるべき利益を侵害した事実を要するものというべきである。
 本件において,控訴人は,外務大臣が本件開示請求1・2に対する開示決定等を遅延したことにより,控訴人の適切な時期に情報開示を得るという情報公開請求権が侵害され,国の行財政監視業務活動をする権利利益が侵害されたと主張するところ,これに対し,被控訴人は,情報公開法は,同法に基づく開示請求権につき,専ら行政運営の監視及び透明性の確保という公益のために付与され,この見地から行使されるべき公益的権利として位置付けているものであって,個々の開示請求者に主観的な権利ないし利益を付与したり,そのような権利ないし利益を保護するものでなく,控訴人の主張するような権利利益を個々の国民の主観的な権利利益として保護していると解することはできないとして,かかる利益が侵害されたとして国家賠償法1条1項にいう「違法」の問題が生ずる余地はないと主張する。
 しかしながら,情報公開法に基づく開示請求権が,政府の有するその諸活動を国民に説明する責務が全うされるようにすること,国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政の推進に資すること(同法1条参照)という公益目的の実現に資するために国民に付与された権利であるとしても,同法上,開示請求権がかかる公益の実現を目的とするものとされていることの一事をもって,同法が開示請求権を行使した個々の開示請求者の個別的利益をおよそ保護するものではないということはできない。すなわち,同法3〜17条は,個々の開示請求者による個別具体的な行政文書の開示請求があった場合には,その開示請求を受けた行政機関の長は,所定の手続の下に,一定の期間内に開示請求に係る行政文書の全部又は一部について開示決定等をして,その旨を開示請求者に通知するとともに,行政文書の全部又は一部を開示するときは,同様に所定の手続の下に,これを実施しなければならないものとしており,同各条によって規定される開示請求権は十分な具体性を有する権利であるということができることに加え,同法が国民主権の理念にその基盤を置くものであること(同法1条参照),同法による情報公開制度が,憲法上の表現の自由ないしその派生的権利である情報に接することの自由と全く無関係に創設されたものとは考え難いところ,現代社会において情報に接することは何らかの価値をもたらすことが通常であること(なお,同法上,開示請求権は何人にも与えられ(3条),また,開示請求をする理由ないし動機は問うところではない。)等を併せ考えると,開示請求者は,同法の規定に基づき,適切な時期に開示決定等を受けることのできる利益を有するものであり,かつ,この利益は,開示請求者の個別的な利益として,同法上保護されたものというべきである。
 したがって,被控訴人の上記主張はこれを採用することができない。

2.上記1のとおり,開示請求者は,情報公開法の規定に基づき,適切な時期に開示決定等を受けることのできる法律上保護された利益を有するものであり,かかる利益が公権力の行使に当たる公務員によって侵害された場合には,当該公務員の侵害行為は国家賠償法上違法となるものというべきである。しかしながら,開示請求を受けた行政機関の長が開示決定等を遅延し,その遅延が同法に違反するものであったとしても,その遅延ないし遅延してなされた開示決定等が,開示請求者との関係において直ちに国家賠償法上違法とされるものではない。
 この点につき,控訴人は,情報公開法が開示決定等をすべき期限や延長が許される場合を具体的に明示して,行政機関の長に対し,期限内に開示決定等をなすべき職務上の法的義務を課しているのであるから,このような一義的に明らかな条文に形式的に違反して開示決定等を遅延した場合には,そのこと自体,開示請求者の権利の侵害に直結するものであり,即座に国家賠償法上違法と評価されるべきものであるとか,情報公開法が,開示決定等の遅延があった場合の開示請求者の不服申立手段を定めていないのは,開示決定等の遅延があることを想定していないからであって,開示請求者が開示決定等の遅延により損害を被った場合には,その損害回復の途は広く認められるべきであると主張する。しかしながら,行政機関の長が,開示決定等をすべき期限や延長が許される場合を定めた情報公開法の規定に違反して開示決定等を遅延した場合,その遅延ないし遅延してなされた開示決定等が,情報公開法上違法であり,したがって,不作為の違法確認の訴えにより違法であることが確認され,場合により処分の取消しの訴えにより取り消されることがあるとしても(したがって,開示決定等の遅延があった場合の開示請求者の不服申立手段がないというのは,必ずしも正確ではない。),損害賠償請求権は,情報公開法とは別個の原理に基づく国家賠償法により,その要件,効果が規定されているものであるから,国家賠償法上の要件である「違法」の有無は,専ら国家賠償法自体の観点から検討されるべきものであって,たとえ,情報公開法が開示決定等をすべき期限や延長が許される場合を具体的,一義的に定めているものとしても,情報公開法上の違法が即座に国家賠償法上の違法となるものではない。
 控訴人は,情報公開法が,行政機関の長に対し,一義的かつ厳格に期限内に開示決定等をすべき旨定めていることにかんがみれば,本件において,外務大臣が開示決定等を遅延したことにつき,遅延することが真にやむを得ないといえるほどの高度の事情があったことが立証されない限り,当該遅延は国家賠償法上違法であるとの評価を免れないとも主張するが,かかる主張の前提である,情報公開法が開示決定等をすべき期限や延長が許される場合を具体的,一義的に定めているから,これに違反して開示決定等を遅延した場合には即座に国家賠償法上違法と評価されるべきであるとする立論が採用し得ないことは上記のとおりである。国家賠償法1条1項の要件である「違法」の有無については,損害賠償請求をする控訴人において立証責任を負担するものであり,控訴人の上記主張を採用することはできない。
 しかるところ,本件において,国家賠償法1条1項による国の損害賠償義務は,外務大臣(その補助職員である外務省職員を含む。)に適切な時期に開示決定等をしなかったという違法な不作為があったことに基づくものであるから,その違法があるというためには,当該公務員が職務上の法的義務(作為義務)に違反して開示決定等を遅延させたこと,すなわち,開示決定等を行い,あるいは開示決定等をするために必要な準備行為を行うに当たって,職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく,漫然とこれを遅延せしめたと認められることを要するものというべきであり,その認定判断に当たっては,開示請求に係る行政文書の量や所在,当該行政文書を審査して開示(部分開示を含む。)・不開示を決することの難易等のほか,行政機関の事務処理態勢,担当する事務の繁閑,その他の事情を総合考慮する必要があるものというべきである。
 なお,控訴人は,行政機関は,その事務量に応じて適切な人員を配置すべき義務があり,情報公開業務に従事する人員の不足や他の業務の繁忙は,開示決定等を遅延したことがやむを得ないものとする理由とはならないと主張する。しかしながら,行政機関に,その事務量に応じた適切な人員が配置されていることが望ましいにしても,現実には,種々の理由からそのような措置がとられていなくともやむを得ない面があり,また,少なくとも,適切な人員が配置されていなかったことによって遅延が生じた場合に,これを現に情報公開業務に従事する公務員が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くさなかったことに帰せしむることはできないから,控訴人の主張を採用することはできない。

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