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最高裁判所第三小法廷決定平成22年12月20日

【判旨】

 労働基準法32条1項(週単位の時間外労働の規制)と同条2項(1日単位の時間外労働の規制)とは規制の内容及び趣旨等を異にすることに照らすと,同条1項違反の罪が成立する場合においても,その週内の1日単位の時間外労働の規制違反について同条2項違反の罪が成立し,それぞれの行為は社会的見解上別個のものと評価すべきであって,両罪は併合罪の関係にあると解するのが相当である。

 

最高裁判所第二小法廷判決平成23年01月14日

【事案】

1.斑鳩町(以下「町」という。)の特定の区域内に居住する住民を会員とする上告補助参加人A自治会(以下「参加人自治会」という。)が土地を取得して地域集会所を建設するに当たり,町が,その助成のため,上記区域内にマンションを建設した会社から寄附金を受けるとともに,土地開発公社に土地を先行取得させ,その土地の一部を上記寄附金と同額の代金で同公社から買い受けた上で,これにより公有地となった当該土地を参加人自治会に無償で譲渡し,さらに,参加人自治会が残余の土地を同公社から取得する等のために補助金を交付したことについて,町の住民である被上告人が,参加人自治会に対する上記公有地の無償譲渡及び補助金の交付は,補助金の限度額を定めた町の要綱に違反する違法な財務会計行為であるなどとして,地方自治法242条の2第1項4号に基づき,上告人に対し,上記各行為をした当時の町長に対して損害賠償の請求をすることなどを求めている事案。

2.事実関係の概要

(1) Bは,昭和60年11月から現在に至るまで,町長の職にある者である。

(2) 参加人自治会は,かつては会員数の少ない自治会であったが,株式会社C(以下「C社」という。)がその区域内にマンションを建設したことから,会員数が急増した。C社は,上記マンションの建設に際し,施設協力金として町に金員を寄附し,町はこれを公共施設等の整備のための基金に繰り入れていた。

(3) 参加人自治会は,平成10年4月ころ,C社による4棟目のマンションの建設に際して,町に対し,C社からの施設協力金を使用して地域集会所の建設及びその用地の取得に協力してもらいたい旨の要望をした。町は,C社に対し,施設協力金の代わりに地域集会所のための土地を確保して町に提供するよう依頼したが,C社は,自ら土地を取得することが困難であったため,町が土地を購入して地元に還元することを前提に,町に対して施設協力金1440万円(以下「本件施設協力金」という。)の寄附をすることとした。これを受けて,町と参加人自治会は,協議の結果,地域集会所の用地のうち本件施設協力金の金額に相当する部分の土地は町が購入して参加人自治会に無償で譲渡し,残余の土地は参加人自治会が自ら購入することとした。さらに,町では,当時施行されていた補助金交付規程による補助金の額の制限を緩和するため,平成11年4月,斑鳩町地域集会所施設整備費補助金交付要綱(以下「本件要綱」という。)を新たに制定し,地域集会所用地の購入に係る補助金の額は購入価格の2分の1以内の額で1500万円を限度とすることなどを定めた。

(4) 町では,C社から本件施設協力金の寄附を受け,平成11年度の一般会計予算において,これを都市計画費寄附金として歳入予算に,同額を公有財産購入費として歳出予算にそれぞれ計上し,平成11年6月2日の町議会でこれを可決した。町は,同月7日付けで,斑鳩町土地開発公社(以下「公社」という。)に対し,都市計画道路事業のための代替用地の取得と併せて地域集会所建設用地も取得するよう依頼したが,公社への依頼書等の関係書類には,その依頼の目的に地域集会所建設用地の取得も含まれる旨の記載はなかった。公社は,同年7月26日,第1審判決別紙物件目録記載の3筆の土地を含む1690uの土地を取得し,町は,平成12年3月28日,公社から,同目録記載2及び3の各土地(合計247.95u。以下「本件土地」という。)を代金1440万円で買い受けた。

(5) 参加人自治会は,平成15年7月30日,上告人から地方自治法260条の2第1項の地縁による団体の認可を受け,同年8月26日,上告人に対し,町の普通財産である本件土地の譲与(無償譲渡)を申請した。上告人は,同申請に係る本件土地の無償譲渡につき,同法237条2項,96条1項6号所定の議会の議決を求めるため,町議会において上記申請に至る経緯について説明し,町議会は,同年9月25日,上記無償譲渡を承認する旨の議決をした。上告人は,同月26日,町を代表して,参加人自治会との間で,本件土地を参加人自治会に無償で譲渡する旨の契約を締結した(以下,この契約による本件土地の無償譲渡を「本件無償譲渡」という。)。

(6) 参加人自治会は,平成15年9月26日,公社から,第1審判決別紙物件目録記載1の土地(107.59u)を代金782万6615円で買い受け,同年12月25日,町から,上記土地の購入に係る補助金として391万3000円の交付を受けた(以下,この補助金の交付を「本件補助金交付」という。)。

3.原審は,上記事実関係の下において,次のとおり判断し,本件無償譲渡及び本件補助金交付は違法であるとして,被上告人の請求のうち,Bに対して損害賠償請求をするよう求める部分の一部を認容すべきものとした。

(1) 普通地方公共団体がその所有する土地を他に無償譲渡することは,地方自治法232条の2にいう「寄附又は補助」に該当するところ,本件要綱は,同条にいう「公益上必要がある場合」との要件に関する町長の裁量基準を定めたものであり,その規定は本件無償譲渡にも適用される。本件無償譲渡時の本件土地の価格に本件補助金交付に係る補助金の額を加えた金額は1831万3000円以上となり,これは本件要綱の定める補助金の限度額を超えるものであるから,本件無償譲渡及び本件補助金交付は,本件要綱に反して同条の要件に関する町長の裁量権の範囲を逸脱した違法な行為である。

(2) 参加人自治会に地域集会所の建設用地を取得させるため,公社に土地を先行取得させ,町がその一部を買い受けて参加人自治会に無償譲渡したという一連の手続は,公有地の拡大の推進に関する法律(以下「公有地拡大法」という。)の趣旨に反し,また,町が上記土地の取得に関して公社との間で実体と相違する内容の書類を作成して手続を進めたことは,財務会計法規に反するから,本件無償譲渡及び本件補助金交付は,手続的にも違法である。

【判旨】

1.原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

(1) 地方自治法232条の2にいう「寄附又は補助」には,普通地方公共団体の所有する普通財産の譲与(無償譲渡)も含まれると解されるところ,本件無償譲渡は,C社によるマンションの建設に伴い会員数の急増した参加人自治会が地域住民等の共同の利用に供される地域集会所を建設することを助成するために行われたものであり,その目的には一定の公共性,公益性が認められる。また,本件施設協力金は,上記のとおりマンションの建設により参加人自治会の会員数の急増をもたらしたC社が,上記地域集会所の建設用地を町が購入して参加人自治会に提供するための資金として町に寄附したものといえるから,町が本件施設協力金をこの趣旨に沿って上記用地の購入資金に充て,これにより取得した本件土地を参加人自治会に無償で譲渡することには合理性が認められ,このことによって参加人自治会を他の自治会等との関係で不当に優遇することになるものではない。さらに,上記の一連の経緯からすれば,本件土地は実質的にはC社から参加人自治会に対して寄附されたものとみることができるから,本件無償譲渡によって町の財産が実質的に減少したとはいえず,また,町が参加人自治会に対して実質的に本件要綱の定める限度額を超えて補助金を交付したものと評価することもできない。そして,町議会において,上記の一連の経緯及びその説明を踏まえて本件無償譲渡を承認する旨の議決がされているというのである。以上の諸事情に照らすと,本件無償譲渡につき地方自治法232条の2所定の公益上の必要があるとしたBの判断は,その裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したものであるということはできないから,本件無償譲渡は,同条に違反して違法なものであるということはできない。
 また,上記の諸事情に照らすと,本件補助金交付につき同条所定の公益上の必要があるとして,本件要綱に従いその定める限度額の範囲内でこれを行うこととしたBの判断も,その裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したものであるということはできないから,本件補助金交付も,同条に違反して違法なものであるということはできない。

(2) 公有地拡大法17条1項1号ロは,道路,公園,緑地その他の公共施設又は公用施設の用に供する土地の取得,造成その他の管理及び処分を行うことを土地開発公社の業務と定めており,自治会の地域集会所は上記「公共施設」に当たると解されるから,土地開発公社がその用に供するための土地を取得して地方公共団体や自治会に譲渡することは,公有地拡大法の規定及び趣旨に反するものではない。
 また,町議会において,本件の一連の経緯及びその説明を踏まえて本件無償譲渡を承認する旨の議決がされていることなどからすると,町の公社に対する土地取得の依頼目的についての書類上の不備は,土地取得の目的を殊更に秘匿するなどの意図に出たものとは断じ得ず,これをもって本件無償譲渡及び本件補助金交付が手続的に違法とされるほどの瑕疵であるということはできない。

2.以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決中上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして,本件無償譲渡及び本件補助金交付に違法はないとした第1審の判断は正当として是認することができ,上記破棄部分に関する被上告人の請求は理由がないから,これを棄却した第1審判決は正当であり,同部分に関する被上告人の控訴を棄却すべきである。

 

最高裁判所第三小法廷判決平成23年01月18日

【事案】

1.放送事業者である上告人らが,「まねきTV」という名称で,放送番組を利用者からの求めに応じ自動的に送信する機能を有する機器を用いたサービス(以下「本件サービス」という。)を提供する被上告人に対し,本件サービスは,各上告人が行う放送についての送信可能化権(著作権法99条の2)及び各上告人が制作した放送番組についての公衆送信権(同法23条1項)を侵害するなどと主張して,放送の送信可能化及び放送番組の公衆送信の差止め並びに損害賠償の支払を求める事案。

2.事実関係の概要

(1) 上告人ら(上告人X4を除く。)は,放送事業者であり,それぞれ,原判決別紙放送目録記載のとおり,同目録記載の各放送(以下,同目録記載の各放送を「本件放送」と総称する。)について送信可能化権を有する。Aは,放送事業者であった者であり,同目録記載のとおり,同目録記載の放送について送信可能化権を有していた。
 上告人ら(上告人X4を除く。)及びAは,それぞれ,別紙放送番組目録記載のとおり,同目録記載の各放送番組(以下「本件番組」と総称する。)を制作した。
 上告人X4は,放送事業者であり,平成20年10月1日,会社分割により,Aのグループ経営管理事業を除く一切の事業に関する権利義務を承継した。

(2) 本件サービスにおいては,Bが販売するロケーションフリーという名称の商品(以下「ロケーションフリー」という。)が用いられるが,ロケーションフリーは,地上波アナログ放送のテレビチューナーを内蔵し,受信する放送を利用者からの求めに応じデジタルデータ化し,このデータを自動的に送信する機能を有する機器(以下「ベースステーション」という。)を中核とする。
 ロケーションフリーの利用者は,ベースステーションと手元の専用モニター等の端末機器をインターネットを介して1対1で対応させることにより,ベースステーションにおいてデジタルデータ化されて手元の端末機器に送信される放送を,当該端末機器により視聴することができる。その具体的な手順は,@ 利用者が,手元の端末機器を操作して特定の放送の送信の指示をする,A その指示がインターネットを介して対応関係を有するベースステーションに伝えられる,B ベースステーションには,テレビアンテナで受信された地上波アナログ放送が継続的に入力されており,上記送信の指示がされると,これが当該ベースステーションにより自動的にデジタルデータ化される,C 次いで,このデータがインターネットを介して利用者の手元の端末機器に自動的に送信される,D 利用者が,手元の端末機器を操作して,受信した放送を視聴するというものである。

(3) 被上告人は,本件サービスを行うに当たり,利用者から入会金3万1500円,月額使用料5040円の支払を受けて,利用者が被上告人から本件サービスを受けるために送付した利用者の所有するベースステーションを,被上告人事業所内に設置し,分配機等を介してテレビアンテナに接続するとともに,ベースステーションのインターネットへの接続を行っている。
 本件サービスの利用者(以下,単に「利用者」という。)は,ベースステーションと対応関係を有する手元の端末機器を操作することにより,ベースステーションの設置された地域の放送を視聴することができる。

3.上告人らは,被上告人が,ベースステーションに本件放送を入力することにより,又は本件放送が入力されるベースステーションのインターネットへの接続を行うことにより,利用者が本件放送を視聴し得る状態に置くことは,本件放送の送信可能化に当たるとして,上告人らの送信可能化権の侵害を主張する。
 また,上告人らは,被上告人が,本件番組を公衆である利用者の端末機器に送信することは本件番組の公衆送信に当たるとして,上告人らの公衆送信権の侵害を主張する。

4.原審は,次のとおり判断して,上告人らの請求をいずれも棄却すべきものとした。

(1) 送信可能化は,自動公衆送信装置の使用を前提とするところ(著作権法2条1項9号の5),ここにいう自動公衆送信装置とは,公衆(不特定又は多数の者)によって直接受信され得る無線通信又は有線電気通信の送信を行う機能を有する装置でなければならない。各ベースステーションは,あらかじめ設定された単一の機器宛てに送信するという1対1の送信を行う機能を有するにすぎず,自動公衆送信装置とはいえないのであるから,ベースステーションに本件放送を入力するなどして利用者が本件放送を視聴し得る状態に置くことは,本件放送の送信可能化には当たらず,送信可能化権の侵害は成立しない。

(2) 各ベースステーションは,上記のとおり,自動公衆送信装置ではないから,本件番組を利用者の端末機器に送信することは,自動公衆送信には当たらず,公衆送信権の侵害は成立しない。

【判旨】

1.原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

(1) 送信可能化権侵害について

ア.送信可能化とは,公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置に情報を入力するなど,著作権法2条1項9号の5イ又はロ所定の方法により自動公衆送信し得るようにする行為をいい,自動公衆送信装置とは,公衆の用に供されている電気通信回線に接続することにより,その記録媒体のうち自動公衆送信の用に供する部分に記録され,又は当該装置に入力される情報を自動公衆送信する機能を有する装置をいう(著作権法2条1項9号の5)。
 自動公衆送信は,公衆送信の一態様であり(同項9号の4),公衆送信は,送信の主体からみて公衆によって直接受信されることを目的とする送信をいう(同項7号の2)ところ,著作権法が送信可能化を規制の対象となる行為として規定した趣旨,目的は,公衆送信のうち,公衆からの求めに応じ自動的に行う送信(後に自動公衆送信として定義規定が置かれたもの)が既に規制の対象とされていた状況の下で,現に自動公衆送信が行われるに至る前の準備段階の行為を規制することにある。このことからすれば,公衆の用に供されている電気通信回線に接続することにより,当該装置に入力される情報を受信者からの求めに応じ自動的に送信する機能を有する装置は,これがあらかじめ設定された単一の機器宛てに送信する機能しか有しない場合であっても,当該装置を用いて行われる送信が自動公衆送信であるといえるときは,自動公衆送信装置に当たるというべきである。

イ.そして,自動公衆送信が,当該装置に入力される情報を受信者からの求めに応じ自動的に送信する機能を有する装置の使用を前提としていることに鑑みると,その主体は,当該装置が受信者からの求めに応じ情報を自動的に送信することができる状態を作り出す行為を行う者と解するのが相当であり,当該装置が公衆の用に供されている電気通信回線に接続しており,これに継続的に情報が入力されている場合には,当該装置に情報を入力する者が送信の主体であると解するのが相当である。

ウ.これを本件についてみるに,各ベースステーションは,インターネットに接続することにより,入力される情報を受信者からの求めに応じ自動的にデジタルデータ化して送信する機能を有するものであり,本件サービスにおいては,ベースステーションがインターネットに接続しており,ベースステーションに情報が継続的に入力されている。被上告人は,ベースステーションを分配機を介するなどして自ら管理するテレビアンテナに接続し,当該テレビアンテナで受信された本件放送がベースステーションに継続的に入力されるように設定した上,ベースステーションをその事務所に設置し,これを管理しているというのであるから,利用者がベースステーションを所有しているとしても,ベースステーションに本件放送の入力をしている者は被上告人であり,ベースステーションを用いて行われる送信の主体は被上告人であるとみるのが相当である。そして,何人も,被上告人との関係等を問題にされることなく,被上告人と本件サービスを利用する契約を締結することにより同サービスを利用することができるのであって,送信の主体である被上告人からみて,本件サービスの利用者は不特定の者として公衆に当たるから,ベースステーションを用いて行われる送信は自動公衆送信であり,したがって,ベースステーションは自動公衆送信装置に当たる。そうすると,インターネットに接続している自動公衆送信装置であるベースステーションに本件放送を入力する行為は,本件放送の送信可能化に当たるというべきである。

(2) 公衆送信権侵害について

 本件サービスにおいて,テレビアンテナからベースステーションまでの送信の主体が被上告人であることは明らかである上,上記(1)ウのとおり,ベースステーションから利用者の端末機器までの送信の主体についても被上告人であるというべきであるから,テレビアンテナから利用者の端末機器に本件番組を送信することは,本件番組の公衆送信に当たるというべきである。

2.以上によれば,ベースステーションがあらかじめ設定された単一の機器宛てに送信する機能しか有しないことのみをもって自動公衆送信装置の該当性を否定し,被上告人による送信可能化権の侵害又は公衆送信権の侵害を認めなかった原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,論旨は理由がある。原判決は破棄を免れず,更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。

 

最高裁判所第一小法廷判決平成23年01月20日

【事案】

1.放送事業者である上告人らが,「ロクラクU」という名称のインターネット通信機能を有するハードディスクレコーダー(以下「ロクラクU」という。)を用いたサービスを提供する被上告人に対し,同サービスは各上告人が制作した著作物である放送番組及び各上告人が行う放送に係る音又は影像(以下,放送番組及び放送に係る音又は影像を併せて「放送番組等」という。)についての複製権(著作権法21条,98条)を侵害するなどと主張して,放送番組等の複製の差止め,損害賠償の支払等を求める事案。
 上告人らは,上記サービスにおいて複製をしているのは被上告人であると主張するのに対し,被上告人は,上記サービスの利用者が私的使用を目的とする適法な複製をしているのであり,複製をしているのは被上告人ではないと主張する。

2.事実関係の概要

(1) 上告人X1,同X2,同X4,同X8及び同X10は,それぞれ,別紙著作物目録記載のとおり,同目録記載の各放送番組について複製権を有する。上告人ら(上告人X6を除く。)は,放送事業者であり,それぞれ,1審判決別紙放送目録記載のとおり,同目録記載の各放送に係る音又は影像について複製権を有する(以下,別紙著作物目録記載の各放送番組及び1審判決別紙放送目録記載の各放送に係る音又は影像等を併せて「本件番組等」と総称する。)。
 Aは,放送事業者であった者であり,別紙著作物目録記載のとおり,同目録記載の放送番組について複製権を有し,また,1審判決別紙放送目録記載のとおり,同目録記載の放送に係る音又は影像について複製権を有していた。上告人X6は,放送事業者であり,平成20年10月1日,会社分割により,Aのグループ経営管理事業を除く一切の事業に関する権利義務を承継した。

(2) 被上告人は,ロクラクUを製造し,これを販売し,又は貸与している。
 ロクラクUは,2台の機器の一方を親機とし,他方を子機として用いることができる(以下,親機として用いられるロクラクUを「親機ロクラク」といい,子機として用いられるロクラクUを「子機ロクラク」という。)。親機ロクラクは,地上波アナログ放送のテレビチューナーを内蔵し,受信した放送番組等をデジタルデータ化して録画する機能や録画に係るデータをインターネットを介して送信する機能を有し,子機ロクラクは,インターネットを介して,親機ロクラクにおける録画を指示し,その後親機ロクラクから録画に係るデータの送信を受け,これを再生する機能を有する。
 ロクラクUの利用者は,親機ロクラクと子機ロクラクをインターネットを介して1対1で対応させることにより,親機ロクラクにおいて録画された放送番組等を親機ロクラクとは別の場所に設置した子機ロクラクにおいて視聴することができる。
 その具体的な手順は,@ 利用者が,手元の子機ロクラクを操作して特定の放送番組等について録画の指示をする,A その指示がインターネットを介して対応関係を有する親機ロクラクに伝えられる,B 親機ロクラクには,テレビアンテナで受信された地上波アナログ放送が入力されており,上記録画の指示があると,指示に係る上記放送番組等が,親機ロクラクにより自動的にデジタルデータ化されて録画され,このデータがインターネットを介して子機ロクラクに送信される,C 利用者が,子機ロクラクを操作して上記データを再生し,当該放送番組等を視聴するというものである。

(3) 被上告人は,平成17年3月ころから,初期登録料を3150円とし,レンタル料金を月額6825円ないし8925円として,親機ロクラク及び子機ロクラクを併せて貸与するサービスや,子機ロクラクを販売し,親機ロクラクのみを貸与するサービスを開始した(以下,これらのサービスを併せて「本件サービス」という。)。
 本件サービスの利用者は,子機ロクラクを操作して,親機ロクラクの設置されている地域で放送されている放送番組等の録画の指示をすることにより,当該放送番組等を視聴することができる。

3.原審は,仮に各親機ロクラクが被上告人の管理,支配する場所に設置されていたとしても,被上告人は本件サービスの利用者が複製を容易にするための環境等を提供しているにすぎず,被上告人において,本件番組等の複製をしているとはいえないとして,上告人らの請求を棄却した。

【判旨】

1.原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 放送番組等の複製物を取得することを可能にするサービスにおいて,サービスを提供する者(以下「サービス提供者」という。)が,その管理,支配下において,テレビアンテナで受信した放送を複製の機能を有する機器(以下「複製機器」という。)に入力していて,当該複製機器に録画の指示がされると放送番組等の複製が自動的に行われる場合には,その録画の指示を当該サービスの利用者がするものであっても,サービス提供者はその複製の主体であると解するのが相当である。すなわち,複製の主体の判断に当たっては,複製の対象,方法,複製への関与の内容,程度等の諸要素を考慮して,誰が当該著作物の複製をしているといえるかを判断するのが相当であるところ,上記の場合,サービス提供者は,単に複製を容易にするための環境等を整備しているにとどまらず,その管理,支配下において,放送を受信して複製機器に対して放送番組等に係る情報を入力するという,複製機器を用いた放送番組等の複製の実現における枢要な行為をしており,複製時におけるサービス提供者の上記各行為がなければ,当該サービスの利用者が録画の指示をしても,放送番組等の複製をすることはおよそ不可能なのであり,サービス提供者を複製の主体というに十分であるからである。

2.以上によれば,本件サービスにおける親機ロクラクの管理状況等を認定することなく,親機ロクラクが被上告人の管理,支配する場所に設置されていたとしても本件番組等の複製をしているのは被上告人とはいえないとして上告人らの請求を棄却した原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
 論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,上記の機器の管理状況等について更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。

【金築誠志補足意見】

 著作権法上の複製等の主体の判断基準に関しては,従来の当審判例との関連等の問題があるので,私の考え方を述べておくこととしたい。

1.上記判断基準に関しては,最高裁昭和63年3月15日第三小法廷判決(民集42巻3号199頁)以来のいわゆる「カラオケ法理」が援用されることが多く,本件の第1審判決を含め,この法理に基づいて,複製等の主体であることを認めた裁判例は少なくないとされている。「カラオケ法理」は,物理的,自然的には行為の主体といえない者について,規範的な観点から行為の主体性を認めるものであって,行為に対する管理,支配と利益の帰属という二つの要素を中心に総合判断するものとされているところ,同法理については,その法的根拠が明らかでなく,要件が曖昧で適用範囲が不明確であるなどとする批判があるようである。しかし,著作権法21条以下に規定された「複製」,「上演」,「展示」,「頒布」等の行為の主体を判断するに当たっては,もちろん法律の文言の通常の意味からかけ離れた解釈は避けるべきであるが,単に物理的,自然的に観察するだけで足りるものではなく,社会的,経済的側面をも含め総合的に観察すべきものであって,このことは,著作物の利用が社会的,経済的側面を持つ行為であることからすれば,法的判断として当然のことであると思う。
 このように,「カラオケ法理」は,法概念の規範的解釈として,一般的な法解釈の手法の一つにすぎないのであり,これを何か特殊な法理論であるかのようにみなすのは適当ではないと思われる。したがって,考慮されるべき要素も,行為類型によって変わり得るのであり,行為に対する管理,支配と利益の帰属という二要素を固定的なものと考えるべきではない。この二要素は,社会的,経済的な観点から行為の主体を検討する際に,多くの場合,重要な要素であるというにとどまる。にもかかわらず,固定的な要件を持つ独自の法理であるかのように一人歩きしているとすれば,その点にこそ,「カラオケ法理」について反省すべきところがあるのではないかと思う。

2.原判決は,本件録画の主体を被上告人ではなく利用者であると認定するに際し,番組の選択を含む録画の実行指示を利用者が自由に行っている点を重視したものと解される。これは,複製行為を,録画機器の操作という,利用者の物理的,自然的行為の側面に焦点を当てて観察したものといえよう。そして,原判決は,親機を利用者が自己管理している場合は私的使用として適法であるところ,被上告人の提供するサービスは,親機を被上告人が管理している場合であっても,親機の機能を滞りなく発揮させるための技術的前提となる環境,条件等を,利用者に代わって整備するものにすぎず,適法な私的使用を違法なものに転化させるものではないとしている。しかし,こうした見方には,いくつかの疑問がある。
 法廷意見が指摘するように,放送を受信して複製機器に放送番組等に係る情報を入力する行為がなければ,利用者が録画の指示をしても放送番組等の複製をすることはおよそ不可能なのであるから,放送の受信,入力の過程を誰が管理,支配しているかという点は,録画の主体の認定に関して極めて重要な意義を有するというべきである。したがって,本件録画の過程を物理的,自然的に観察する限りでも,原判決のように,録画の指示が利用者によってなされるという点にのみに重点を置くことは,相当ではないと思われる。
 また,ロクラクUの機能からすると,これを利用して提供されるサービスは,わが国のテレビ放送を自宅等において直接受信できない海外居住者にとって利用価値が高いものであることは明らかであるが,そのような者にとって,受信可能地域に親機を設置し自己管理することは,手間や費用の点で必ずしも容易ではない場合が多いと考えられる。そうであるからこそ,この種の業態が成り立つのであって,親機の管理が持つ独自の社会的,経済的意義を軽視するのは相当ではない。本件システムを,単なる私的使用の集積とみることは,実態に沿わないものといわざるを得ない。
 さらに,被上告人が提供するサービスは,環境,条件等の整備にとどまり,利用者の支払う料金はこれに対するものにすぎないとみることにも,疑問がある。本件で提供されているのは,テレビ放送の受信,録画に特化したサービスであって,被上告人の事業は放送されたテレビ番組なくしては成立し得ないものであり,利用者もテレビ番組を録画,視聴できるというサービスに対して料金を支払っていると評価するのが自然だからである。その意味で,著作権ないし著作隣接権利用による経済的利益の帰属も肯定できるように思う。もっとも,本件は,親機に対する管理,支配が認められれば,被上告人を本件録画の主体であると認定することができるから,上記利益の帰属に関する評価が,結論を左右するわけではない。

3.原判決は,本件は前掲判例と事案を異にするとしている。そのこと自体は当然であるが,同判例は,著作権侵害者の認定に当たっては,単に物理的,自然的に観察するのではなく,社会的,経済的側面をも含めた総合的観察を行うことが相当であるとの考え方を根底に置いているものと解される。原判断は,こうした総合的視点を欠くものであって,著作権法の合理的解釈とはいえないと考える。

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