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大阪地裁第12刑事部判決平成22年09月10日

【事案】

第1.本件公訴事実の要旨及び争点

1.本件公訴事実の要旨及び争点

 本件起訴状公訴事実の要旨は,「被告人は,厚生労働省(以下,「厚労省」という。)社会・援護局障害保健福祉部企画課(以下,「企画課」という。)長として,心身障害者団体の申請に基づき,内国郵便約款により,同団体が,心身障害者団体用低料第三種郵便物に関する郵便料金の割引を受けることができる同約款料金表に規定する心身障害者団体であることなどを認定する同課長作成名義の証明書(以下,「公的証明書」などという。)の発行の職務に従事していたが,同証明書の発行に関し,その起案を担当するなどの職務に従事していた同課社会参加推進室社会参加係長B,自称福祉事業支援組織「aの会」の会長であったC及び「aの会」の発起人Dと共謀の上,行使の目的で,ほしいままに,真実は,「aの会」は心身障害者団体としての実体がなく,内国郵便約款料金表に規定する心身障害者団体ではなく,同会の発行する定期刊行物「b」は心身障害者の福祉の増進を図ることを目的とせず,郵便料金を不正に免れることを目的としたものであり,かつ,被告人が平成16年5月28日に「aの会」に対して上記証明書を発行した事実もないのに,「aの会」が同約款料金表に規定する心身障害者団体で,「b」が心身障害者の福祉の増進を図ることを目的とするものであり,被告人が同日に「aの会」に対して上記証明書を発行したかのように装うため,被告人が,その職務に関し,同年6月上旬ころ,企画課において,Bをして,パーソナルコンピューター等を使用させて,あて先を「aの会」,証明内容を「上記団体は,国内郵便約款料金表に規定する心身障害者団体であり,当該団体の発行する『b』は心身障害者の福祉の増進を図ることを目的としているものであると認めます。」,作成日付を「平成16年5月28日」,同課における文書番号をその作成日付に対応した「障企発第0528001号」,作成名義人を「厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部企画課長」とそれぞれ記載した書面を作成・印刷させた上,同課長名下に「厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部企画課長之印」と刻した角印を押捺させ,もって,厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部企画課長作成名義の内容虚偽の有印公文書1通(以下,「本件公的証明書」ともいう。)を作成した上,Dらが,同年6月10日ころ,東京都中央区●○丁目△番□号所在のc郵便局郵便窓口課申請事務センターにおいて,同センター総務主任Eに対し,上記証明書の内容が真実であるかのように装って提出して行使した。」というものであり,検察官は,被告人に虚偽有印公文書作成,同行使罪が成立すると主張する。
 これに対し,弁護人は,被告人に,虚偽有印公文書作成,同行使の共謀はなく,Bに,本件の証明書を作成させたこともなく,被告人は無罪であると主張する。
 したがって,本件の争点は,本件公訴事実について,被告人に,虚偽有印公文書作成,同行使についての共謀が認められるか否かである。

2.本件の核心及び全体像について

 関係証拠によれば,本件公訴事実中,「aの会」は心身障害者団体としての実体がなく,内国郵便約款料金表に規定する心身障害者団体ではなく,定期刊行物「b」は心身障害者の福祉の増進を図ることを目的とせず,郵便料金を不正に免れることを目的としたものであったこと,被告人が平成16年5月28日に「aの会」に対して公的証明書を発行した事実はないこと,Bは,6月上旬ころ,本件公的証明書を作成したこと,その後,Dらが,これをc郵便局において,提出して行使したことは,争いがなく,証拠上も明らかに認められる。
 検察官は,本件の核心及び全体像として,次のとおり主張する。
 Bは,独断で,内容が虚偽の本件公的証明書の作成,交付という違法行為を行う理由も必要性もない。本件は,有力国会議員であるFからBの上司が依頼を受けるなどし,組織的な対応が必要な「議員案件」であったから,公的証明書の発行名義人で決裁権者である被告人に指示されて作成し,被告人に渡し,被告人から「aの会」側に交付されたものである。
 これに対し,弁護人は,次のとおり主張する。
 被告人は,虚偽の内容の証明書発行について,B,C,Dらと共謀したこともないし,Bに作成を指示したこともない。そもそも,被告人は,Bがそのような書類を作っていたという事実自体を全く知らなかった。Bは,被告人と関わりなく本件犯行に及んだものである。

第2.争点以外の認定事実

 (以下において,具体的な本件当時の事実は基本的に平成16年中のことであり,これについては,原則として年度の記載を省略する。)

1.被告人及び共犯者とされている人物の経歴等

(1) 被告人

 被告人(以下,「A」と表記することがある。)は,昭和52年,国家公務員上級職試験に合格し,昭和53年に,当時の労働省にいわゆるキャリア官僚として入省した。その後,地方局勤務や他省庁への出向等も経験しつつ,労働省でキャリアを積み,労働省の複数の管理職のポストを勤めた。平成13年,労働省と厚生省が合併し,厚生労働省となった後,厚労省内では,旧労働省系のポストと旧厚生省系のポストの人事交流が行われていた。その一環として,被告人は,平成14年8月から平成15年8月まで,旧厚生省系のポストである社会・援護局福祉基盤課長を,平成15年8月から平成17年10月まで,同じく旧厚生省系のポストである同局障害保健福祉部企画課長を務めた。その後,平成17年10月に大臣官房政策評価審議官,平成18年9月に大臣官房審議官(雇用均等・児童家庭担当),平成20年7月に雇用均等・児童家庭局長に就任し,本件逮捕(平成21年6月14日)当時は,厚労省雇用均等・児童家庭局長という立場にあった。

(2) B

 Bは,国家公務員採用2種試験に合格し,厚生省に入省した。平成16年3月31日までは旧労働省系のポストに就いていたが,同年4月1日から平成18年3月31日まで,旧厚生省系のポストである社会参加推進室社会参加係長を務め,同年4月1日,老健局総務課に異動となった。
 なお,社会参加推進室内の上司は,室長であるGのほか,同室長補佐のK1,Hがいたが,Hは総括補佐であり,K1が直属の上司に当たった。

(3) C

 C(昭和10年生)は,昭和57年ころ,その当時及び本件当時衆議院議員であったFの私設秘書として採用され,それから昭和59年12月ころまでの間,Fの私設秘書として勤務した。Cは,同年,Fが衆議院議員選挙に落選した際に私設秘書をやめたが,その後も,Fの弟で参議院議員であったIの秘書を12年間にわたり勤め,Fとも交流があり,Cは,Fの下をたびたび訪れるなどして,頼み事をしたり,Fの選挙運動を手伝うなどしていた。
 また,本件後である平成16年11月ころ,FがCの会社の設立パーティーにCの要請で出席することもあった。
 Fは,昭和44年,衆議院議員に初当選し,衆議院議員を11期務め,その後,平成19年7月以降,参議院議員になった。平成16年当時は,衆議院議員であった。衆議院議員としての選挙区は,兵庫○区であり,参議院では,全国比例区で出ていた。委員会は,外交,防衛,安全保障,国土交通,建設,運輸等の分野で主に活動をした。国会対策委員長,選挙対策委員長も務め,何回か閣僚も務めた。
 Fは,平成11年から平成17年までの間,d党の筆頭副代表も務める有力な国会議員であったが,厚生労働関係の委員会等に所属したことはなかった。
 Cは,平成15年ころから平成16年ころは,eという身体障害者施設の障害者に仕事を依頼するスポンサーを探して,仕事を紹介する会社に勤務(月給20万円)していた。勤務時間は,平日の午前9時から午後7時ころまでであった。なお,eの会社は,fビルという地下鉄g駅前にあるビルに入居しており,厚労省へは,歩いて五,六分の距離にあった。

(4) D

 D(昭和15年生)は,昭和40年にh社に入社し,その後,約8年間新聞記者を務めた。Jとは,h社の同期入社の同僚であった。その後,同社の雑誌の発行部門を担当し,雑誌の発行に関して第三種郵便物制度を利用することがあり,利用に際しては,郵便局から,第三種郵便物の規則等が記載された「第三種郵便物のしおり」を受け取り,Dもその内容を認識していた。
 Dは,平成10年ころ,友人から,国会議員の秘書等を長く勤めていたことがあり,政官界を始め広い人脈を持っているなどと言われて,Cを紹介され,交際をするようになった。Dは,Cからも,Fと親しく,太いパイプがあるなどと聞いたことなどから,Cと交友関係を続けていた。

2.厚労省の組織,役職,配席等について

(1) 厚労省の組織,分掌事務

ア.平成16年当時,厚労省は,大臣等を除いて,社会保険庁や中央労働委員会といった外局と厚労省本省とに分かれており,厚労省本省には,大臣官房,労働基準局,雇用均等・児童家庭局,社会・援護局等,多数の部局があり,それぞれの分掌事務を担当していた。
 社会・援護局は,社会福祉の各分野に共通する基盤制度の企画・運営,生活保護制度の企画・運営,ホームレス対策,消費生活協同組合に対する指導など,社会福祉の推進のための施策を行うことを担当する局であり,そのさらに内部部局である障害保健福祉部は,障害者の自立と社会参加の促進や障害者に関する福祉サービスに関する施策を企画,運営すること等を担当する部であった。

イ.障害保健福祉部(職員数120名程度)は,さらに企画課(56名),障害福祉課(32名),精神保健福祉課(30名)の3つの課に分かれており,そのうち,企画課は,「筆頭課」として,部全体の政策の企画立案,各課の政策の調整,予算全体の取りまとめ等部全体の取りまとめを行うことを担当していた。

ウ.企画課の中には,企画課本課の他に,社会参加推進室,国立施設管理室,監査指導室の3つの室があり,本課と社会参加推進室の分掌事務は,次のとおり定められていた。

企画課本課───「都道府県・市町村障害者計画,社会福祉法人等に関する認可,特別児童扶養手当等の支給,心身障害者扶養共済制度の助長,身体障害者手帳及び身体障害の障害程度の認定,障害者に係る調査研究の総括,専門職員の研修に関すること」

社会参加推進室─「障害者に社会参加を図るための各種事業の実施,障害者への情報提供及び情報の利用,障害者の保健福祉に関する国際協力,障害者スポーツ,補装具・福祉機器,身体障害者補助犬等に関すること」

(2) 関係者の役職

 平成16年当時の本件の関係者の役職は次のとおりである。

L    障害保健福祉部長
被告人 障害保健福祉部企画課長
M    企画課長補佐(総括補佐)
K2   企画課長補佐(政策調整委員)
K3   企画課社会参加推進室長(3月31日まで)
G    企画課社会参加推進室長(4月1日以降)
H    企画課社会参加推進室長補佐
K1   社会参加推進室長補佐
N    社会参加推進室社会参加係長(3月31日まで)
B    社会参加推進室社会参加係長(4月1日以降)

(3) 企画課及び社会参加推進室の配席等

ア.平成16年当時,厚労省の企画課(本課)の執務室と社会参加推進室の執務室との間には壁はなく,両室の間は,キャビネットが並べられ,それによって仕切られていた。廊下側の壁とキャビネットの間には人が通れるだけのスペースが空けられていたが,そこから窓までは,キャビネットは隙間なく並べられていた。

イ.被告人の企画課の着席位置とMの着席位置の距離は,およそ250センチメートルであった。

ウ.企画課の被告人の机の前には,キャビネット及びついたてが置かれていた。

3.心身障害者用低料第三種郵便物制度について

(1) 郵便法の規定及び内国郵便約款などによれば,郵便物は,その類型に応じて,第一種ないし第四種等に区分されており,そのうち,第三種郵便物とは,毎年4回以上号を追って定期に発行するものであること,1回の発行部数が500部以上であること,1回の発行部数に占める発売部数が80パーセント以上であること等の要件を満たした上,郵政公社(平成19年10月に郵便事業株式会社が発足したが,本件当時は,郵政公社であった。)から承認を得たものをいう。
 通常の定形外郵便物の料金は1通120円であるところ,第三種郵便物の場合,1通60円となる。

(2) さらに,第三種郵便物の中には,低料の郵便料金の適用を受けることができるもの(低料第三種郵便物)がある。これは,@毎月3回以上発行する新聞紙1部若しくは1日分を内容とするもので,発行人若しくは売りさばき人から差し出されるもの又は心身障害者を主たる構成員とする団体(「心身障害者団体」という。)が心身障害者の福祉を図ることを目的として発行する定期刊行物を内容とするもので,発行人から差し出されるものであること,A外部(郵便物の外部の意味とみられる。)に差出人たる発行人又は売りさばき人の資格及び氏名を記載したものであること,B@の発行人又は売りさばき人が郵政公社が別に定めるところにより,差出事業所の承認を受けたものであることを条件としていた。
 以上のとおり,低料第三種郵便物の中には,(1)毎月3回以上発行する新聞紙1部又は1日分を内容とするもので,発行人又は売りさばき人から差し出されるもの(一般低料第三種郵便物)と,(2)心身障害者団体の発行する定期刊行物を内容とするもので発行人から差し出されるもの(心身障害者用低料第三種郵便物)の2種類がある(なお,以下,心身障害者用低料第三種郵便物を,単に「低料第三種郵便物」ということがある。)。そして,50グラムまでの重量のものについて,(1)は1通40円,(2)は1通8円(毎月3回以上発行する新聞紙を内容とするもの。)又は15円(それ以外のもの)の料金が適用される。
 そして,心身障害者用低料第三種郵便物の適用を受けようとする者は,刊行物の発行所所在地の配達を管轄する郵政公社の支社に対し,自らが心身障害者団体であること及びその刊行物が心身障害者の福祉を図ることを目的として発行されるものであることを証明することができる資料を提出する必要がある。そのような資料としては,(a)会則や規則等当該団体への加入資格又はその構成員が明らかになるもの及び(b)当該団体が心身障害者団体であり,その団体の発行する刊行物が心身障害者の福祉を図ることを目的としているものであることの公共機関(厚労省,都道府県,政令指定都市又は福祉事業所)の証明を提出することとされている。
 そして,平成16年当時は,上記制度の適用については,第三種郵便物の承認請求手続の条項内に規定されており,第三種郵便物の承認請求をする発行人が,上記のような資料を提出することとされていた。
 なお,他局(定期刊行物提出郵便局以外の郵便局)で,心身障害者用低料第三種郵便物として差し出す場合には,第三種郵便物認可刊行物が,内国郵便約款料金表に規定する心身障害者団体が心身障害者の福祉を図ることを目的として発行されるものであることを証明する旨の当該支社発行の証明書が必要とされていた。そして,支社発行の証明書を発行するためには,証明書発行願と共に,上記団体について公的証明書を提出する必要があった。
 他方,発行人が定期刊行物提出郵便局で差し出す場合は,上記のように第三種郵便物承認請求の手続内で低料の料金適用を求める際に公的証明書等が発行人から提出されることから,差出事業所の承認は不要(したがって,支社発行の証明書も不要)とされていた。

4.厚労省内部における証明書の発行手続,発行実績

(1) 発行手続

 厚労省が,公的証明書を発行する際には,当該団体の主たる構成員が心身障害者であること及び当該団体の発行する定期刊行物が,心身障害者の福祉を図ることを目的としていることを,申請団体から提出された当該団体の会則,規約等のほか,過去2回程度の刊行物に基づき,客観的に判断することとされていた。もっとも,提出書面に基づく書面審査が行われるのみであり,団体の活動についての実地調査などは行われてはいなかった。
 平成16年当時,厚労省内の公的証明書の発行を担当する部署は,企画課とされていた。申請した団体の性格に応じて,企画課社会参加推進室の各係が担当者となり,その担当者が,申請の受付及び原議の起案を行った上,社会参加推進室調整係長,同室長補佐,同室長,企画課総務係長,同課総括補佐,企画課長などの決裁を受けることとされていた。全ての決裁を受け終わり,担当者に原議が返還されると,担当者は,文書を発出するための発番号を管理する事務補佐員の下に原議を持参し,発番号を取得する(「起案用紙」の発議印欄に発番号を記載してもらう。)。その後,担当者は,その発番号を記載した証明書の用紙に企画課長印と契印を押捺した上,申請者に交付していた。

(2) 公的証明書の発行実績

 被告人が,企画課長となった平成15年8月から,平成16年6月当時までに,正規の手続で発行された公的証明書は,平成15年11月18日付けの「i」に対するもののみである。
 同会に対する発行の件では,同年8月に,同会からNに対し,公的証明書の発行についての申請がなされ,規約,刊行物,役員名簿,会員名簿が提出された。Nは,これらを検討し,同会に対し,同会の発行する刊行物の1回の発行部数が500部に満たないことを指摘した。しかし,同会は,公的証明書発行について厚労省に申請する前に,既に後述するj協会に加盟しており,同年8月時点で,j協会作成の,同会のj協会への加盟を承認し,同会の発行する刊行物について,証明書を発行することをお願いする旨の内容の証明書交付願の交付を受けていた。そこで,発行部数が500部に満たないことはj協会に加盟することで要件を満たすことから,同会は,同年8月26日ころ,証明書交付願をNに提出した(上記証明書交付願は,その後,10月28日の日付が入れられたものとみられる。)。
 証明書交付願が出され,Nが発行の原議の起案を行った上,K4社会参加推進室調整係長,K1,H,K3,K5企画課総務係長,Mと順次決裁をし,最終的に,同年11月18日に被告人が決裁をした。決裁の際には,Nから,被告人に対し,決裁書類の内容の説明がなされた。
 その後,上記公的証明書は,iの担当者の自宅に,普通郵便で郵送された。

5.j協会について

 特定非営利活動法人j協会は,昭和41年に「j'協会」との名称で発足し,その後名称変更がなされた団体で,平成11年12月には特定非営利活動法人となっていた。j協会は,加盟団体を個別にみた場合は,前記低料第三種郵便物の要件のうち,発行回数や部数の要件を充たさない場合であっても,加盟団体の刊行物を,まとめてj協会を発行所とするなどして,低料第三種郵便物制度を利用できるとの合意を,昭和46年当時の郵政省との間で獲得した団体であった。
 j協会に加盟するための要件として,明確な規定は存在してはいなかったものの,低料第三種郵便物制度の適用を受けられるようにするというj協会の目的からして,発行回数や部数以外の低料第三種郵便物制度の適用要件を具備する定期刊行物を発行する団体であることが事実上の要件とされており(ただし,j協会加盟のしおりには,発売部数が8割以上であることという「あまねく発売」の要件があるがこれを備えている団体は殆どない,実際は会費などを集めて刊行物を配布している場合でも発売していると解釈されている旨記載されている。),加盟申込書には,その要件の判断資料として,厚労省における審査資料と同様の資料(会則,会員名簿,発行された刊行物など)を添付することとされていた。
 加盟申込みをした団体が,j協会への加盟が認められた場合には,当該団体についてj協会への加盟を承認した旨及び当該団体に公的証明書を発行していただきたい旨を記載した,j協会から行政当局にあてた「証明書交付願」が,j協会から当該団体に送付される。その後,当該団体が,その「証明書交付願」とj協会に提出した添付書類と同様の資料を厚労省等の行政当局に持参して,証明書の交付申請をした上,改めて行政当局の審査を受けて,当該団体が自ら公的証明書の交付を受けることとされていた。

6.「aの会」設立とCの関与

(1) Dは,平成14年ころから年金収入が中心であったところ,広告収入を得ようと低料第三種郵便物制度を利用できる団体(「aの会」)を作ることを考えた。Cは,平成15年秋ころ,Dから,「aの会」への参加を持ちかけられ,これを了承し,D,有限会社kを経営し,広告業を営むO,通信販売業を営むQ,及び,Dがかつて勤務していた新聞社の同僚で,文筆業を営み,kの会長と称していたJらとともに,「aの会」を設立した。そして,Dらは,Fやその実弟のIの秘書をしていた経歴を持つCに「aの会」の会長となるよう要請し,Cもこれに応じ,Cが同会会長となった。Dは,「aの会」で,中心的な活動をしていたものの,特段役職にはつかなかった。OとQは,「aの会」の広告主を探したり,その折衝を行うことになった。Jは,「b」に掲載する原稿を作成することになった。「aの会」の事務所は,東京都中央区●町○−△−□▲マンション○号室の有限会社k事務所内におかれた。同ビル内には,Jの事務所もあった。

(2) 「aの会」について,設立準備委員会が開かれていないにもかかわらず,設立準備委員会が開かれた旨の文書が作成されていた。「aの会」には,Dら数名を除いて,実質的な構成員は存在していなかった。

(3) Cは,平成15年秋ころ,D,Jらによって作成された「aの会」規約及び名簿を見せられた。その名簿には,個人会員として,Cの妻の名前が,C及び妻の承諾なく載せられていた上,会員や準会員として他の団体の名称や協力者として障害者活動と関連のない者の名前が記載されていた。
 その名簿の,[支援企業,団体,個人事務所]欄には,「衆議院議員F事務所」の記載があったが,C,Dらが,FやF事務所の承諾を得たことはなかった。

(4) Cは,平成15年12月ころ,Dから,「『b』にダイレクトメールを同封すれば,1通8円でダイレクトメールを郵送できる制度がある。それを使ってダイレクトメールを送れば,その報酬として『aの会』も収入が得られるだろう。障害者団体の許認可は厚労省の所管である。」旨の説明を受け,協力を求められた。

7.2月中旬から2月20日ころの状況等

(1) Dは,低料第三種郵便物制度を利用するのに必要な公的証明書を得る為の手続を知ろうと,厚労省の代表番号に電話し,公的証明書の担当部署を尋ね,企画課法令担当のK6に電話を回してもらい,同人と話をした。その際,Dは,K6に,自分たちの団体である「aの会」の会長はFの秘書の経歴を有するCであり,Fにも応援してもらっていることなどを話した。そして,K6から,担当が企画課社会参加推進室のNであることなどを教えられた。
 Dは,その旨を自己のノートに記載した。

(2) Cは,2月中旬ころ,Dから,「厚労省から障害者団体としての認可を受ける必要がある。」旨の説明を受けた上,本件公的証明書の発行について,厚労省の担当者に発行の依頼に行くこと等についての要請を受けた。
 その際,Cは,Dから,厚労省の担当部署が,「厚労省社会・援護局障害保健福祉部社会参加推進室推進係N氏」である旨告げられ,それをCが本件当時使用していた手帳(以下,「Cの手帳」という。)の2月23日から始まる週のページの右下のメモ欄に赤のボールペンで記載した。同記載の下に,赤のボールペンで,「○○○○−△△△△(代)」との記載がある。さらに,同メモ欄には,当該記載の下に,青のボールペンで,当該記載から矢印が引かれた上,「○F」,「EX」,「□□□□」,「16時」,「〒」,「c」との記載がなされている。なお,企画課及び社会参加推進室の厚労省内での階数は○階であり,社会参加推進室社会参加係の内線番号は□□□□である。

(3) Cの手帳の2月19日の欄に,「kへTelしてJ氏と会うこと。」,「15:30 G4丁目kJ社長」という記載がある(Cは,当該記載について,同日にJと打ち合わせをした際の記載である旨供述している。)。

(4) D及びJは,2月20日,日本郵政公社c郵便局に対し,定期刊行物「b」の発行人をJとし,同公社l支社長あての「aの会」についての第三種郵便物承認請求書を提出し,DとJで申請料として20万円(月3回以上の発行をする場合の金額である。)を支払った。
 請求書には,「発行人J」,「発行の定日10日,20日,30日」,「1回当たりの発行部数2250部」,「1回当たりの発行部数に占める発売部数2239部」,「発行所の名称及び所在地『aの会』販売元(有)k」,「定期刊行物提出郵便局(発行都度見本を提出する局) c郵便局」などの記載があり,資料として,料金徴収を証明する銀行通帳コピー,申し込み受付票,購読者名簿,発行所団体の規約などが添付されていた。
 しかし,有償購読を裏付ける銀行への入金などは,Dらが仮装したものであった。
 なお,同日付けで提出された「定期刊行物の発行部数及び発売状況」と題する書面には,上記同様に「aの会」発行人としてJの署名がある。

(5) その後,上記第三種郵便物承認請求は,l支社で審査がなされた。「aの会」は,「b」を発行する度に,見本をc郵便局に提出し,同局からl支社あるいは,調査センターに送られて,審査が行われた。

8.2月下旬(2月25日)のC,F,Lの状況等

 2月25日の関係者の動静に関する事実,証拠は次のとおりである。

(1) Cの手帳の2月25日の欄に「13:00 F─kJ氏」との記載がある。また,同日欄には,「16:00 厚労省援局障保福部企課社会参加推進室N係長」との記載がある。いずれの記載にも,それらの記載を消すように赤線が引かれている(Cは,公判で,当該赤線について,スケジュールを消化した場合に引くものと供述している。)。

(2) Fは,2月25日,午前7時57分ころから午後1時05分ころまでの間,千葉県成田市のゴルフ場mゴルフクラブ(同クラブのパンフレットには,東京(■)から成田インターチェンジまで67キロメートル,同所からゴルフ場まで4.5キロメートルであり,自動車で約50分と記載されている。)で,妻であるR1,衆議院議員であったR2,知人のR3と共に,ゴルフをプレーし,プレー後に飲食して,午後2時ころ,同ゴルフクラブから退出した。

(3) 2月25日午後2時から午後4時48分まで行われた衆議院文部科学委員会の議事録には,出席議員として,Fのゴルフの同行者とされるR2の名前が記載されている(この点,Fは,「委員会の議事録には,通常,出欠にかかわらず,属している委員の名前を出席委員として全部記載する。遅刻の場合にも,出席委員として名前が記載され,遅刻についても明記されない。」旨供述しており,その内容自体を不自然とみるべき資料はない。)。

(4) Lは,2月25日,衆議院予算委員会の午前中の会議(議題は,平成16年度一般会計予算,特別会計予算,政府関係機関予算であった。開会時間は午前9時から午後零時6分までであった。)に政府参考人として出席し,nに関する答弁を行った。

9.2月下旬のCの厚労省訪問について

(1) Cは,2月下旬ころ,厚労省を訪れた。

(2) Cは,その際,Nと面談し,F事務所の者であると名乗った。そして,Nと名刺交換をした上,Nから,公的証明書の発行手続や審査に必要な書類,資料等についての説明を受けた。さらに,Nが,Cに,「aの会」はどのような活動をしていこうとしているのか聞いたのに対し,Cは,「aの会」について説明したが,Cの説明はあいまいなものにとどまった。そこで,Nは,Cに対し,「aの会」の活動実態が分かるような資料を提出するように求めた。
 なお,平成21年に検察庁の捜索で,Cの自宅から大量の名刺が発見され,その中にNの名刺はあったが,被告人の名刺はなかった。

10.「aの会」とj協会との交渉等

(1) Cは,厚労省を訪問した後,その際にNから言われたことをDに伝えた。

(2) Jは,2月26日にj協会に電話した。その後,D及びJは,2月下旬ころ,定期刊行物「b」第1号,「aの会」規約,名簿等を持ってj協会の事務所を訪ね,j協会の事務局長であったSと面談し,j協会に「aの会」を加盟させてもらえるよう申し入れた。

(3) その際,Jは,Sに対し,有限会社k取締役会長名義の自己の名刺を渡した。なお,Sが保管していた当該名刺には,「F-(又は一)tel→N係長」と手書きで記載されている。

(4) Sは,D及びJに対し,j協会に加入し,低料第三種郵便物制度を利用できる団体は障害者が主たる構成員である必要があることや,営利目的や売名目的で同制度を利用することはできないことを告げた。

(5) (4)のような指摘を受けたD及びJは,3月12日ころ,j協会に対し,Sから上記指摘を受け,その指摘後,障害を持った人の中から主要メンバーとして名前を連ねてもらえる人物の承諾を受け,「aの会」の名簿を作り直した旨を記載した書面及び作り直した名簿を送付した。

(6) SとNは,3月下旬ころ,電話で連絡を取った。その際,Sは,Nに対し,「aの会」の活動実態が分からない旨及び国会議員の紹介ということ自体も怪しい旨話した上,j協会はj協会で審査する旨告げた。

(7) Cは,3月29日ころ,Dから電話で連絡を受け,その際,Cの手帳の3月29日の欄に「8円〒NG」と赤字で記載した。

(8) Sは,「aの会」に対し,「b」が営利目的や売名目的のものであると認められたときは,j協会からの発行を拒絶されても異議はない旨を記載した念書の提出を要求し,それに応じて,3月29日ころ,「aの会」からj協会に対し,その旨記載された念書が提出された。

11.4月上旬から中旬の状況

(1) Bは,4月1日付けで社会参加推進室社会参加係長となり,同日,Nから業務の引継ぎを受けた。
 その引継ぎの際,Nが使用した事務引継書は,A4の用紙10枚(本体部分6枚,懸案事項,対処方針案及びタイムスケジュール4枚)の分量があり,本体部分は,[所管事務について]と[各論]に分かれ,各論は,1.予算要求関係,2.予算執行関係,3.所管の補助事業について,4.身体障害者補助犬について,5.その他に分かれていた。前記引継書には,本件公的証明書又は「aの会」の案件に関する記載はなかった。

(2) 4月8日,「aの会」からj協会に対し,加盟申込書が提出された。同書面には会員数18名,発行回数年24回,発行予定概要毎月1日,15日などの記載がある。
 その後,同月14日ころ,j協会から「aの会」に対し,j協会から行政当局にあてた,「aの会」をj協会に加盟することを認め,公的証明書の発行を求める旨の記載がある証明書交付願が送付された。その送付の際に同封した「aの会」あての書面には,「この証明書交付願に,最近発行した刊行物,会則,会員名簿を添付して,証明書の交付を関係行政機関の窓口に申請します。」との記載がある。なお,Sは,「aの会」に対する不信感をぬぐい去ることができなかったことから,この書面に,手書きで,「念書に記載された内容を十分守って運営されんことを要請します。」と記載した。
 「aの会」から,Bに対し,当該証明書交付願が,何らかの方法で渡された(その時期は,4月中旬ころか,6月中旬以降か,争いがある。)。

(3) 4月19日ころ,「aの会」から,c郵便局に対し,前記4月14日付け証明書交付願の写しと「aの会」あての書面の写しが添付された,「j協会から4月14日付けでj協会の認定書が送られ,4月20日にCが厚労省に証明書の交付願いを申請することになった。厚労省より証明書が交付され次第,持参,報告する。」との内容の,4月19日付けの文書が送付された。この文書は,Dが手書きで作成したものをJがパソコンで作成したものであった。

(4) なお,4月中に,Dは,j協会の事務員から,「aの会」は「b」を月3回発行することから,j協会に加盟しなくともよいことを知らされた。

12.4月下旬から5月下旬の状況

(1) Dの知人が経営するo専門学校と「aの会」との間には,同学校の広告を「b」に掲載し,広告料を支払うという話があり,同校側は,入学式の写真を使った広告を考えているので,遅くとも6月末までには,郵送してほしいとOらに伝えていた。そして,5月24日付けで,k名義で同校に対し「6/4発送DM制作・発送費一式」として,合計137万9611円(発送部数約2万2000部)の請求書が発行された。

(2) Cの手帳の5月11日の欄に「12:00〜13:00 Mr.Ningyocho(厚労省→直接〒でOKのように)」との記載があり,その記載から矢印が引かれ,矢印の先に「『b』10.20.30発行」との記載がある。

(3) 5月17日,衆議院決算行政監視委員会第三分科会において,p委員会がq株式会社を設立した上,r協会発行の機関誌に,qと関係のない広告を掲載し,それを低料第三種郵便物制度を利用して送付することにより広告料収入を得て資金集めをしていることが問題であると指摘する週刊誌の記事に関して議論となり,Lが政府参考人として答弁をした。その中で,Lは,d党議員から,低料第三種郵便物制度の悪用につながるなどと追及され,Lは,議員の指摘に従って指導していきたいなどと答えた。被告人も,当該週刊誌の記事が掲載された当時,その記事を見ていた。また,被告人は,Lの答弁について,その答弁内容についての資料には目を通していた。
 なお,被告人は,企画課長在任当時,仕事上の出来事やメモなどをA5版のノートにその都度記載していた。被告人は,ノートに記載した事柄のうち,重要なものを「業務日誌」として,パソコンの文書ファイルに打ち込んでいた(以下,当該文書ファイルを「被告人の業務日誌」という。)。被告人の業務日誌の「5月19日(水)」の欄に,「T先生」,「q株式会社は問題。幹部は全員更迭だ。」との記載がある。
 そして,この関係で,6月2日付けで,企画課長名義で,「q株式会社との関係の整理について」という文書が,課内の決裁を経て,発番号が付されて出されている。

(4) Bは,「aの会」からの公的証明書発行の催促があったことから,5月中旬ころ,「『aの会』に係る低料第三種郵便物の許可申請手続きについては,近日中に滞りなく進めることとなっております。」とのB名義の書面と「aの会」に係る証明書の発行についての決裁手続が途中まで進んでいるように装った起案日が平成16年4月26日付けの内容虚偽の書面(以前適式になされていた稟議書面の写しを利用し,社会参加推進室の室長,補佐の印影写しのあるもの。)を作成した上,これらを「aの会」にファクシミリ送信した。この作成,送信について,Bは,他の厚労省職員に相談しなかった。

(5) この関係で,B方から発見されたフロッピーディスクの中に,データの作成日時が5月18日12時43分23秒(24時間表示と認められる。以下のデータも同様。)である文書ファイル(「通知案」と題するもの)内に,@発番号と,日付の欄のうち日にちの欄が空欄となっている以外は,本件公的証明書と同内容のデータ,A「『aの会』に係る低料第三種郵便物の許可申請手続きについては,近日中に滞りなく進めることとなっております。」との内容のB名義の文書のデータ(いずれも一太郎)が保存されている。

(6) Dらは,これらの書面のファクシミリの印字部分を映らないようにコピーするなどした上,5月中旬ころ,そのコピーをj協会に郵送して,電話で厚労省との折衝の進捗状況を報告した。

(7) 5月下旬ころ,Jは,「b」の紙面に関するQの発言に怒り,「b」の編集活動から手を引くことを決意した(ただし,Jは第三種郵便物承認請求者であったことから,後記6月4日の第三種郵便物承認書の受け取りは行った。)。

13.「b」の第三種郵便物の承認など

(1) 5月31日付けで,「aの会」の発行する「b」を第三種郵便物として承認する旨の承認書が発行され,日本郵政公社l支社長U名義の同承認書が6月4日(金曜)にc郵便局において,「b」の第三種郵便物の承認請求者でかつ発行人とされていたJに対し交付された。

(2) その後の6月5日ころ(ただし,同日は土曜日であり,7日(月曜)の可能性もある。),Oは,c郵便局で,売りさばき人証明書などを添付して,心身障害者用低料第三種郵便物として,「b」を差し出したい旨の請求をなした。

(3) 他方,6月7日付けで,c郵便局に,「b」の発行人をJからCに変更する旨記載されたl支社長あての第三種郵便物の発行人の変更承認請求書が提出された。同書面には,旧発行人としてJ,新発行人としてC名義の署名押印があった。そのころc郵便局に提出された「発行人の変更承認について」と題する書面には,代表者のCが発行人に就く旨の記載があり,連絡先担当者としてOの名前等が記載されていた。

(4) (2)の請求に基づきc郵便局郵便窓口課の担当者Eは,受け取った書類を基に起案して課長に提出した。しかし,6月8日ころ,課長から,Eに,c郵便局で差し出す場合には心身障害者用低料第三種郵便物としての差出請求は不要であること,売りさばき人証明が添付されていたが,心身障害者団体差出しのものは売りさばき人が差出人となることはあり得ないという指摘がなされ,起案文書を差し戻された。そこで,Eは調べ直したところ,c郵便局で差し出す場合には心身障害者用低料第三種郵便物としての差出請求は不要であり,他局(定期刊行物提出郵便局以外の郵便局)で,心身障害者用低料第三種郵便物として差し出す場合には,第三種郵便物認可(本来は「承認」)刊行物が,内国郵便約款料金表に規定する心身障害者団体が心身障害者の福祉を図ることを目的として発行されるものであることを証明する旨の当該支社発行の証明書が必要とされていること,支社発行の証明書を発行するためには,証明書発行願と共に,公的証明書を提出する必要があることを認識した。
 そこで,Eは,日本郵政公社l支社に問い合わせたところ,同支社では,「b」については,第三種郵便物としての請求があっただけで,心身障害者団体が発行する第三種郵便物としての請求としては把握されていないとの回答を受けた。このため,Eは,「aの会」に対し,「b」の差出請求の際に提出された書類に,支社が発行する「aの会」が心身障害者団体であることを証明する書類がないので,心身障害者団体用の低料第三種郵便物としての承認は出せない,支社が発行する証明書を手に入れるためには,「aの会」が心身障害者団体であることを公的に証明する厚労省の証明書の原本の提出が必要であることを伝えた。

14.6月上旬ころの本件公的証明書の作成等

(1) Bは,6月上旬ころまでに,本件公的証明書(ただし,×印及び「解散,廃刊」との記入前のもの(※後記17(5)参照)。)を作成した。
 本件公的証明書に関して,「aの会」から,厚労省に対して,審査に必要な資料は提出されておらず,Bが作成する際,本件公的証明書の発行に関して,決裁の原議が起案され,実際に前記決裁権者の各決裁が行われたという事実も,その後本件公的証明書の発番号が取得された事実もなかった。

(2) B方から発見されたフロッピーディスクの中に,本件公的証明書と全く同一の内容の文書データ(一太郎。「コピー〜通知案」と題するファイル)が保存されており,そのデータの作成日時は,6月1日1時14分32秒で,データ更新日時は同日1時20分6秒である。

15.6月1日から10日までのC及び被告人の手帳の記載等

(1) Cの手帳に,Cが,厚労省に赴き,被告人から本件公的証明書を渡されたことについての記載はない。

(2) 被告人が平成16年当時使用していた手帳(以下,「被告人の手帳」という。)に「aの会」又はFとの関連を示すような記載はない。

(3) 被告人の業務日誌の平成16年2月から6月までの記載に,本件と関連するとみられる記載はない。

16.本件公的証明書の行使及びその後の事情

(1) 6月10日,Oは,l支社長あての「aの会」が心身障害者団体であり,「b」が心身障害者の福祉を図ることを目的として発行されるものであることを証明する旨の証明書(必要枚数2部)を発行していただきたい旨の「aの会」名義の証明書発行願をc郵便局に提出した。証明書発行願には,本件公的証明書とj協会発行の証明書交付願が添付資料として付けられていた。
 その後,同局の担当者は,これらを日本郵政公社l支社へ回付した。

(2) 日本郵政公社l支社長U名義で,6月21日付けの「aの会」あての,定期刊行物「b」が,内国郵便約款料金表第4表第1の2に規定する団体が心身障害者の福祉を図ることを目的として発行されるものであることを証明するとの証明書が発行され,「a」の関係者は,同月24日ころ,c郵便局の担当者を通じて,同証明書2部の交付を受けた。

(3) Oは,o専門学校の広告が掲載された「b」を内容とする郵便物約2万2000部を郵便局から心身障害者用低料第三種郵便物として郵送した。
 同校からkの口座に,6月14日に61万7814円,6月30日に55万1797円の合計116万9611円が振り込まれたが,Oは,これを,上記印刷費,郵送料のほか,kの運営費等に支出し,C,Dに直接利益が分配されることはなかった。

17.平成18年ころの「aの会」の内紛及び「a’の会」への名称変更等

(1) C及び平成17年秋ころから「aの会」に関与するようになったVと,Dらとの間で,平成18年に対立が起こり,Dらは「aの会」の活動から離脱した。

(2) 平成18年6月7日,「aの会」C名義の,「b」の発行所を「aの会」から,「a’の会」に変更する旨の変更届,「b」の題号を「b'」に変更する旨の請求書が,c郵便局に提出された。そして,日本郵政公社l支社長W名義で,「b」の題号の変更を承認する旨の同年9月22日付けの承認書が発行された。

(3) 「b」の定期刊行物提出局をc郵便局からv郵便局に変更する旨の,「aの会」会長C名義の,平成18年11月2日付け第三種郵便物定期刊行物の提出局変更届が,c郵便局に提出された。

(4) 平成18年6月から7月ころ,Dから,厚労省に,「aの会」の解散届等が送付され,それを見た当時の企画課担当者が調査したところ,「aの会」に関する決裁文書等が見当たらなかった。そこで,担当者は,Bに対し,「『aの会』という団体を覚えていますか。平成16年にこの団体に対して企画課長名の公的証明が出されているようなんですけど,その決裁文書が見当たらないんです。B係長の時代にこの団体に対して公的証明を出されていると思うんですけど。」と尋ねたところ,Bは,「決裁文書はあるはずだけどな。どこかに紛れ込んでるかもしれないから,もう一度探してみてよ。」と答えた。

(5) Dは,前記の解散届等を送付するに際して,「aの会」の事務所に保管されていた本件公的証明書に,手書きで×印及び「解散,廃刊」と記入した。

(6) Bは,平成19年3月ころ及び平成20年3月ころに,正規の決裁を経ることなく,(厚生労働)大臣印を用いて,同大臣作成名義の補助金関係の公文書を偽造した。

18.障害者自立支援法の法案作成経緯

 平成15年4月,支援費制度が施行されたが,予算不足が問題となり,平成16年4月30日,厚労省から,障害者団体等に対して,支援費制度の問題点を指摘し,制度の抜本的な見直しの必要性について提案がなされた。その後,同年8月ころには,制度改革に関する具体的な案が審議会にかけられるようになったが,結局その案の議論も進まなかったことから,根本から議論をやり直すことになり,10月に自立支援法につながる制度設計図である「グランドデザイン」がとりまとめられた。その後,「グランドデザイン」を基に法案が設計され,平成17年2月に障害者自立支援法案が国会に提出された。

19.本件捜査及び公判の経緯,状況

(1) 平成21年(以下,本項では,「平成21年」の記載を省略する。)2月26日,検察官は,C方を捜索し,名刺等在中の紙袋1袋が発見・差し押さえられ,その中に,「衆議院F事務所」と手書きの記載のあるCの名刺などがあった。

(2) 4月16日,Cが,別件の郵便法違反の事実で逮捕され,以後検察官の取調べを受けた。なお,検察官は,Cを逮捕する時点で,検察庁から厚労省に問い合わせをして,本件公的証明書に関して,厚労省に申請事実もなく,発番号もないと認識していた。

(3) 4月17日,郵便事業株式会社w支店Eから,定期刊行物「b」の承認請求調書等と題する書面等が任意提出された。その際提出された書面の中に,平成16年3月2日付けの「aの会」のc郵便局あての文書(「本会会長が,厚労省に赴き,社会参加推進室長と面談した。j協会を紹介されj協会を尋ねた。」などの記載があるもの。),同年4月19日付けの「aの会」の同局あての文書(「弊会の趣旨につき,厚労省企画課長にご説明させていただいた折,j協会の審査を受けるよう行政指導があった。明日(4月20日),代表のCが厚労省に証明書の交付願を申請する運びとなった。」との記載のあるもの。),同年4月14日付けのj協会名義の書面,同日付け証明書交付願,日本郵政公社l支社長U名義の,同年5月31日付けの刊行物「b」に対する第三種郵便物の承認書などが含まれていた。

(4) 4月18日,Dから,「企画課社会参加推進室社会参加係長B」の名刺が任意提出された。

(5) 4月19日,本件公的証明書の件について,Cに対する初めての取調べがなされた。その時点で,既に,Cの手帳は,検察庁において保管されていた。
 同日,本件公的証明書に関する調書が作成された。
 なお,P2は,前記のとおり,Cを逮捕する前から,本件公的証明書に関して,厚労省に申請事実もなく,発番号もないと認識していたことから,Cらが公的証明書を偽造したのではないかとの疑いを持っており,4月19日の取調べにおいて,Cに対し,公的証明書を偽造したのではないかと追及していた。これに対し,Cは,偽造を否定していた。

(6) 4月21日付けCの検察官調書には,要旨,以下の記載がある。
 「私は,FやIの名前を出したり,私が,その両名の秘書を務めていたことを言ったりして,企画課長に働きかけ,正規の申請手続を経ずして,公的証明書を発行してもらった。私は,2月25日の午後4時ころ,Dから言われ,『aの会』についての公的証明を取得するため,厚労省の担当課である企画課社会参加推進室社会参加係を訪ね,同係長Nから,申請手続などについて説明を受けた。」

(7) 4月30日,j協会のSに対する事情聴取が行われ,その際,同人から,前記のJの名刺,前記の稟議書等(の写し)などが入った,加盟希望団体記録と題する書面等在中のクリアフォルダ1冊が任意提出された。
 その中には,「’04.2.26 J氏よりtel」,「3.26 厚労省N氏よりtel 3/29SよりN氏にtel」との記載のある加盟希望団体記録,2004年3月29日付けの「aの会」のj協会あての念書,平成16年4月26日付けの起案用紙(稟議書〔の写し〕)があった。

(8) 5月14日,Dの取調べが開始された。

(9) 5月22日付けのCの検察官調書には,「被告人に案内されて,部長室でLに会い,あいさつをし,公的証明の発付について便宜を図ってもらうようお願いした。」旨の記載がある。

(10) 5月26日,B,Dが,虚偽の稟議書等に関する虚偽有印公文書作成,同行使の被疑事実で逮捕された。同日以降,B,N,Mに対する取調べがなされた。

(11) 5月26日付けのNの検察官調書には,「2月下旬ころ,Mから,被告人のところに降りてきた話として,Cが,公的証明書をうちに出して欲しいと言ってきている旨を告げられ,来所した場合の対応を指示された。その後の2月下旬ころ,Mから呼ばれ,H,K3とともに,企画課本課に行き,そこで被告人,MとともにCとあいさつをした。」旨の記載があり,同日付けのMの検察官調書には,「私は,被告人から,F事務所の問い合わせがあり,Cが低料第三種郵便物を使いたいと考えており,F事務所から公的証明書の発行を頼まれている旨告げられ,Cが来所した場合に担当者を紹介することなどを指示された。私は,K3,H,Nなどにその旨を伝えた。その数日後の2月下旬ころ,K3,H,Nを企画課に呼び,Cを紹介した。」旨の記載がある。なお,同日付けのBの検察官調書には,「私は,内容虚偽の公的証明書を,私がねつ造した。」旨の記載がある。

(12) 5月26日,Bの自宅の捜索が行われ,前記フロッピーディスク,本件公的証明書のコピー等が発見され,差し押えられた。

(13) 5月27日,厚労省に対する捜索が行われた。

(14) 5月28日,Lの自宅,勤め先の捜索がなされた。

(15) 5月29日,Lに対する取調べが行われた。同日付けLの検察官調書には,「2月下旬,障害保健福祉部長として初めて答弁した前後ころ,執務中にFから電話があり,Cに対し公的証明書を発行してもらいたい旨,Cが厚労省を訪れた場合の協力を頼まれた。その後,被告人に,Fの話を伝え,対応を指示した。」旨の記載がある。

(16) 5月30日付けのLの検察官調書には,「2月下旬ころ,被告人に案内されてきたCと部長室であいさつした。6月上旬ころ,被告人から,『aの会』に対して,公的証明書を発行することになった旨の報告を受けた。私は,『F代議士には僕からお伝えしておくから。』などと答えた。私は,確か議員会館のFの事務所に電話を入れて,『aの会』に対して,公的証明書を発行することになったことなどを伝えた。」旨の記載がある。

(17) 5月31日付けのBの検察官調書には,「私は,被告人の指示で,本件公的証明書を作成し,それを,その後,被告人が,『aの会』関係者に手渡した。」旨の記載がある。

(18) 6月3日付けのCの検察官調書には,「私は,JとともにFの下を訪れ,Fに,公的証明に関し,厚労省への口利きをお願いした。平成16年当時使用していた私の手帳の2月25日の欄の『13:00 F,kJ氏』の記載がこのときの記載である。」旨の記載がある。

(19) 6月14日,被告人,C,B,Dが,本件被疑事実で逮捕された。

(20) 7月4日,被告人,C,B,Dが,本件で起訴された。この時点までにおいて,後記争点1ないし12について,それぞれの場面でこれを肯定する内容の,C,B,D,L,M,H,Nの検察官調書が作成されていた。

(21) 9月11日,Fに対する検察官の事情聴取が行われ,供述調書が作成された(Fは,公判で,「私は,事情聴取の際,2004年(平成16年)の1年分の手帳6冊を持参した。検察官は,それをぺらぺらと見ていたが,具体的に2月25日についての議論はしなかった。」旨供述する。)。

(22) 平成22年1月27日,第1回公判が開かれ,第2回公判以降,証人尋問が行われた。
 なお,Fの証人尋問(第11回公判)は,同年3月4日に行われたが,それまでに,D,C,L,N,J,B,Mの証人尋問は終了していた。Fは,自己の手帳を基に2月25日のゴルフの事実について供述した。

(次回へ続く)

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