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大阪地裁第12刑事部判決平成22年09月10日

【判旨】

第1.争点に対する判断

1.総論

(1) 当事者の主張及び判断の要点

 本件において,公判前整理手続で,争いのある主要な具体的事実は以下のとおりであると整理された。

1.平成16年2月下旬ころ,Cは,有力国会議員(F)に対し,「aの会」に対する公的証明書発行への口添えを依頼したのか。

2.2月下旬ころ,同有力国会議員は,Lに電話し,公的証明書を発行することを要請したのか。

3.2月下旬ころ,2項の電話を受けたLは,障害保健福祉部長室において,被告人に対し,「aの会」に対する公的証明書の発行に向けた便宜を図るよう指示したのか(指示があったとして,それはいかなる内容・意味であったのか。)。

4.Cが,2月下旬ころ,被告人と面談し,「aの会」に対する公的証明書の発行に向けた便宜供与を要請したのか(要請があったとして,それはいかなる内容・意味であったのか。)。

5.被告人は,N・HがCと面談した後,Nらに対し,心身障害者団体としての実体に疑念がある「aの会」に対し,公的証明書を発行することを指示したのか。

6.5月中旬ころ,Hは,被告人に,「aの会」について,公的証明書の発行申請の書類や規約,名簿等の審査資料がきちんと提出されていない旨報告したのか。被告人は,この際,Hに対し,「aの会」に対する公的証明書の発行手続を進めるように指示したのか。

7.5月中旬ころ,Cは,被告人に対し,日本郵政公社に「b」を承認しても大丈夫である旨を電話で伝えることを要請したのか。それに応じて,被告人は,日本郵政公社の「ユー(以下,Uの姓と同音のものを,「ユー」と表記する。)」に対し,電話でその旨を伝えたのか。

8.6月上旬ころ,Cは,被告人に対し,日付を遡らせて「aの会」に対する公的証明書を発行するよう要請したのか。被告人は,これを了承したのか。

9.6月上旬ころ,Bは,被告人に対し,「aの会」からは発行申請や審査資料の提出がないため,形式的な決裁すらできないことや,日付を遡らせるのであれば発行番号の問題も生じることを伝えた上で指示を仰いだのか。これに対し,被告人は,Bに対し,決裁のないまま本件証明書を発行することを指示したか。

10.被告人は,Lに対し,「aの会」に対して,公的証明書を発行することになった旨の報告をしたのか。

11.被告人は,「aの会」に対して本件公的証明書ができたことを伝えたのか。6月上旬ころ,Bは,本件公的証明書を被告人に渡したのか。それを受け取った被告人は,それをCに交付したのか。

12.6月中旬ころ,Bは,被告人に対し,後付けで「aの会」から審査資料を取り寄せて決裁の形を整える必要はないか尋ねたのか。この時,被告人は,Bに対し,その必要はない旨告げたのか。

13.被告人は,本件は,「aの会」の実態がいかなるものであれ,「aの会」に対し,公的証明書を発行することが決まっている「議員案件」であるという動機を有していたのか。

 各争点について,検察官は,その事実があった旨主張し,弁護人は,そのような事実はない旨主張する(なお,争点7,8,12については,公判前整理手続から冒頭陳述までは検察官から主張がなされていたが,論告において言及はなされていない)。
 そこで,以下,上記争点を中心に検討する。

(2) 検討の単位について

 弁護人は,本件においては,公判前整理手続において,実体面における13の主要な争点と,共犯者,関係者の供述の信用性が争点とされ,それが確定されたことから,検察官及び弁護人の意見も,これらの争点に沿って行われるべきである旨主張し,弁護人の意見も,基本的には実体面における争点を個別に検討し,時系列的に前の事実についての検討を後の事実に影響させるという手法をとっている。
 確かに,公判前整理手続は,争点を中心とした充実した公判審理を,計画的に行うことを目的としてなされるものであり,公判審理は,公判前整理手続において整理された争点を中心になされるべきである。
 しかし,それは必ずしも,争点とされた事実の有無を,その事実ごとに個別に検討しなければならないことを意味するものではない。
 本件における争点事実は,個々に独立したものではなく,相互に関連しているものである。例えば,本件の出発点ともいうべきCがFに厚労省への口添えを依頼したのかという事実(争点1)は,これに接近するFからLへの要請(争点2),Lから被告人への指示(争点3)という事実のみならず,時間的には相当隔たっている6月上旬ころ,被告人が本件公的証明書をCに交付したのか(争点11)という事実にも深く関連しているとみられる。すなわち,被告人が本件公的証明書をCに交付したという事実が認定されるのであれば,被告人が正規の決裁を経ずに本件公的証明書が発行された事実を認識していたことになり,そのような行為がなされたのは「aの会」側からの強い要請が前提となっていたもので,被告人がそのような要請に応じるのは,有力国会議員であるFの口添えの存在が前提となるというものである。
 その意味で,個別の争点のみを時系列に沿って個別的に検討するのみでは,本件においては不十分であり,双方向での総合的な検討も必要である。
 そして,この場合,時系列的に,先の事実から後の事実への方向の影響のみならず,後の事実から先の事実への方向の影響の検討も必要である。他方,すべての争点を一連のストーリーとしてまとめて総合的に判断するということは混乱を招くことになる。
 そこで,本件においては,まず,ある程度,時系列において関連する争点をまとめて暫定的に検討すると共に,その後,他の争点との関係でも総合的に検討することにする。
 この場合,前者の検討単位をどのようにするか問題となる。
 本件においては,@2月下旬ころの,CのFに対する口添え依頼,それに基づくFからLへの電話での要請,Lの被告人に対する指示の有無及びそれらの内容,その後,Cが厚労省を訪れた際の状況(争点1ないし4),Aその後,厚労省において,「aの会」の案件が,F絡みの「議員案件」として組織的に対応していたのか否か(争点5及び6),B5月ころの「aの会」側の行動とこれについての被告人の関与の有無(争点7及び8),C本件公的証明書の作成,交付に至る状況(争点9ないし11),という4つの場面に大別することができる。
 争点12,13は,いずれも,上記の問題に関連しており,実質的には,以上を離れて単体で検討するまでのことはないとみられる。

(3) 検討の手法について

 本件において,基本的には,関係者の供述の信用性が問題となる。
 各供述の信用性について,検察官,弁護人から,次のような観点からの主張がなされている

@ 供述内容それ自体の具体性,迫真性
A 供述の変遷の存否
B 他の関係者との供述の符合性
C 客観的な証拠との符合
D 証拠上明らかに認められる事実との符合性
E 虚偽供述をなす可能性のある事情の存否(供述内容の不利益性,関係者との利害関係等)
F その他

 ところで,人間の供述は,認識,記憶,表現の3段階で誤りが入る可能性がある。この誤りは,意図的なもののみならず,思い違い,記憶の混乱,質問の方法その他多様な要因に基づいて生じるといえる。特に,本件においては,平成16年2月から6月ころまでを中心とした出来事について,平成21年になって,捜査が行われ,関係者の取調べがなされたのも同年4月以降のことであり,5年以上前の出来事についてなされた供述の信用性が問題となっている。5年間という時の流れが人間の記憶に与える影響を十分に配慮する必要がある。
 また,供述の具体性,迫真性というのも後に作り出すこと自体は不可能ではない。
 そこで,以下において,基本的には,まず,時の流れによって変化しないとみられる証拠物など客観的な証拠,証拠上明らかに認められる事実との符合性,合理性という観点を中心にして供述の信用性を検討することにする(ただし,その場合にも,客観的証拠とみられるものや証拠上明らかに認められる事実については,いろいろな見方や評価があり得る点に配慮する必要がある。)。
 その検討に続いて,他の関係者との供述の符合性,虚偽供述をなす可能性のある事情の存否,供述内容それ自体の具体性,迫真性,供述の変遷などについて検討する。

2.場面@について(CのFに対する口添え依頼,FからLへの電話の有無,Lの被告人に対する指示,その後,Cが厚労省を訪れた際の状況及びその内容)

(1) 当事者の主張等

ア.検察官の主張等

(ア) 「aの会」は心身障害者団体としての実体がなく,内国郵便約款料金表に規定する心身障害者団体ではなく,「aの会」の発行する定期刊行物「b」は心身障害者の福祉を図ることを目的としておらず,本来であれば公的証明書の発行を受けられない状況であったこと(証拠上認められる事実)から,Dは,2月下旬ころ,厚労省から公的証明書を得るため,Cに対し,Fに厚労省への口添えを依頼するよう指示するとともに,担当部署が企画課である旨伝えた。
 この点の検察官主張を裏付ける供述証拠としては,Dの検察官調書,Cの公判供述がある。

(イ) Cは,2月下旬ころ,Jと一緒に議員会館のFの事務所に行き,Fに対し,厚労省への申請に対するサポートをしていただけたら大変ありがたいと述べ,Fは,Cからの依頼を了承した。
 この点の検察官主張を裏付ける供述証拠としては,Cの公判供述(Fと面談したのは,手帳に記載のある2月25日午後1時であったと供述する。)がある。

(ウ) Fは,2月下旬ころ,Lに電話を掛け,同人に対し,公的証明書を発行することを要請した。Lはその要請を了承した上,Fに対し,被告人が担当する旨伝えた。その後,Lは,部長室に被告人を呼び,Fからの依頼であること,その依頼をうまく処理することの重要性を告げて,「aの会」に対する公的証明書の発行に向けた便宜を図るよう指示した。被告人は,社会参加推進室にきちんと対応させる旨等を述べて,Lの指示を了承した。
 この点の検察官主張を裏付ける供述証拠としては,Lの検察官調書がある。

(エ) その後,被告人は,Mに対し,「d党のF先生の事務所から問い合わせがあって,今度F先生の秘書のCさんという人が障害者団体の新聞を郵便料金が安くなる低料第三種郵便を使って発送したいみたいなの。今度うちにCさんという秘書が来るらしいから担当者を紹介してあげてください。」などと,Cが来庁した場合の対応を指示した。
 この点の検察官主張を裏付ける供述証拠としては,Mの検察官調書がある。

(オ) (エ)の後,Mは,Nに対し,「aの会」の関係者が公的証明書の発行をお願いにくる旨告げた。
 この点の検察官主張を裏付ける供述証拠としてはNの公判供述,検察官調書がある。

(カ) Cは,2月下旬ころ,企画課を訪問し,企画課長席の前で,被告人,M,H,N,K3とあいさつをするなどした。その後,N,Hは,Cに対して,手続の流れなどの説明をした。
 この点の検察官主張を裏付ける供述証拠としてはM,N,Hの検察官調書,Nの公判供述がある。

イ.弁護人の主張等

 弁護人は,Fの供述等を前提とし,Cの手帳に記載のある2月25日午後1時ころには,Fはゴルフ場にいたことが明らかになっており,Cがそのころ議員会館のFの事務所でFと会うことができないことは明白であるとして,また,L,M,J,被告人の公判供述などからも,検察官の主張するいずれの事実も認定できない旨主張している。

(2) 検討

 場面@に関しては,関係する人物は,D,C,F,L,被告人,M,N,H,K3,Jであるところ,検察官主張を裏付けるのは,Dの検察官調書,Cの公判供述,Lの検察官調書,Mの検察官調書,Nの公判供述,検察官調書,Hの検察官調書である。そして,その中心となるものは,Cの公判供述,Lの検察官調書であり,その他の事実や供述は,その間接事実ないし補助事実との意味合いの強いものである。これに対し,被告人の捜査,公判供述,F,L,M,H,Jの公判供述は,基本的には検察官主張に反するものである。
 そこで,以下,検察官主張を裏付けるCの公判供述,Lの検察官調書と弁護人主張を裏付けるFの公判供述の信用性を中心に,各供述の信用性について検討する。
 なお,Cの公判供述は,検察官主張を裏付ける点がある一方,厚労省を訪れた際の訪問順序に関しては,検察官主張に反する部分があるので,分けて検討することとする。

ア.Cの公判供述中,検察官主張を裏付ける部分の信用性について

(ア) 客観的証拠との関係

a. Cの手帳の記載について

 前記認定事実のとおり,Cの手帳の2月25日の欄に「13:00F─(又は一)kJ氏」との記載がある。
 この記載は,Cの前記供述を裏付ける有力な客観的証拠ともみられることから,当該記載の評価について検討する。

※上記「(又は一)」とは、F(石井一(いしい はじめ)参議院議員)の名を意味する可能性を示す趣旨である。

(a) 記載内容の解釈について

 まず,記載の内容自体の意味について考察する。
 Cの手帳の他のページの記載で「F」と記載されているものには,「一」の文字を5月13日の欄の記載のように比較的長く記載しているものもあれば,6月9日の欄のように比較的短く記載しているものもあり,2月25日の欄の記載が,「一」(はじめ)であるのか「─」(よこ線)であるのかは,記載の形式のみからは断定することはできない。
 しかし,当該記載の「k」の記載の前に,ピリオド様の点があることからすると,当該記載が,「─」(よこ線)ではなく,「一」(はじめ)である可能性は高いこと,Cの手帳には「F」との記載が多数みられること,前記認定事実により,平成16年当時,CとFとの間に一定の親交があったといえることなどを併せ考えると,当該記載がFを指すものである可能性は高いといえる。

(b) 記載の評価について

 そして,「kJ」の記載が,Jを指すことは明白であり,当該記載はF及びJと同時刻に会うことを示すような体裁であるといえる。加えて,JとFに,それ以前に直接面識があったことを窺わせる証拠は見当たらず,JとFをつなぐ人物はCのみとみられること,この手帳の記載は,C自身の予定を記載したものとみられること,Jを含めた「aの会」関係者が,当時,低料第三種郵便物制度を利用することを意図していたこと,当該記載と同日の欄に「16:00 厚労省援局障保福部企課社会参加推進室N係長」との記載があり,Fと面談後に厚労省を訪ねるというのはCらの活動方針と整合していることにも照らすと,当該記載が,公的証明書の件に関して,CがJとともにFと面談をするよう約束した際に記載したものであると考えるのが合理的である。
 以上からすると,Cの手帳の前記各記載は,Fに口利き依頼をしたとのCの公判供述を裏付けているものともみられる。

b. Cの手帳とFの手帳,ゴルフ場からの照会結果

 Fの手帳,ゴルフ場からの照会結果によれば,Fは,2月25日,東京の■から高速道路を利用し自動車で50分程度はかかる千葉県のゴルフ場で,午前7時57分からゴルフをプレーし,午後2時ころまで当該ゴルフ場にいたのであり,Cの手帳に記載され,Cが面談したと供述する時間帯に,Cが,F事務所を訪ね,Fと面会することは不可能であった(また,Fがゴルフ中又は移動中であったとみられる午後1時より前の午前中などや午後1時以降の午後3時ころより前の可能性もない。)。
 したがって,前記Cの手帳の記載は,2月25日午後1時ころに,CとFが実際に面談したことの裏付けにはならない。ただし,Fと面談することを予定していたことを示す当該記載の体裁からすると,Cが,2月25日午後1時ころに,本件公的証明書の件に関して,Fと面談をしようとし,Fと約束をしたことについての裏付けにはなるといえる。
 他方,Fの手帳の2月25日欄には,C来訪に関する記載はない。
 そこで,そもそも,Cが,F事務所との間でアポイントメントを取ったこと自体がないのではないかも問題となる。
 しかし,Fの手帳の同日欄には,ゴルフに関する事項以外に,同日の午後の予定としては,「15 00 横浜市長神奈川知事」の記載しかなく,それまでの間にFに予定は入っていなかったとみられること,Cは,一時期,Fの秘書であった者であり,その来訪予定全てをFの手帳にわざわざ記載しないということも必ずしも不自然ではないこと(その後にFの用事や予定が入れば,CはFに会えなくともやむを得ないというのも,Cの立場からは,不自然とはいえない。)などに照らすと,Fの手帳に,2月25日のCの来訪について,全く記載がないことはアポイントメント自体がなかったことにつながるものとはみられない。
 検察官は,Cの手帳の2月25日の欄の前記の記載は,あくまで予定として記載されたものである上,Fが,ゴルフの予定は,2月25日の前日か二,三日前に入れたものであると供述していることからすると,CとFの面談の日時が急きょ他の日時に変更され,Fと面談して厚労省への口添えを依頼したのは別の日時であったとみるのが合理的である,Cは,面談及び口添え依頼の事実から数年が経過しており,日時の点においては記憶があいまいになり,手帳の記載どおりの日時に面談・依頼したと供述してしまい,客観的事実と反するような供述をしているが,それだけでは面談及び依頼の事実の有無自体に関する同人の供述の信用性は否定されない旨主張する。
 Cの手帳は,いわゆるスケジュール帳として使用されていたものである上,当該記載の体裁からしても,前記の記載は予定として記載されたものとみられる。したがって,記載された後に予定が変更され,当該記載とは別の日時に面談したということも考えられないではない。
 また,Cの公判供述時点において,面談があったとされる時期から,約6年が経過していたこと,CとFは,平成16年前後において,相当回数の接触はあったとみられることに照らすと,実際に面談した日時の点について記憶があいまいになり,予定変更があったにもかかわらず,予定として記載された手帳の記載に合わせて供述がなされるということも想定できないではない。
 他方,Cの公判供述は,厚労省を訪れる前にFと面談し,口添えを依頼したというものであり,Cが厚労省を訪れた後の時期に予定変更がなされ面談したとは考えられない。そこで,前提として,Cが厚労省を訪ねた日時について検討する。
 前記認定事実によれば,Cの手帳の2月25日の欄には「16:00 厚労省援局障保福部企課社会参加推進室N係長」と記載されており,Cは,公判で,記載された日時に厚労省を訪れたと述べている上,Cが厚労省を訪れたことがきっかけとなり,「aの会」はj協会との交渉を開始したものであること,2月26日にJからj協会のSに電話がなされていることとも時期的に整合していること,同手帳の25日以前の欄に,他に厚労省訪問に関する記載はみられないことに照らすと,Cの前記公判供述は信用でき,Cは,2月25日午後4時に厚労省を訪れたものと認められる。
 そこで,続いて,Fとの面談予定が2月25日より前に変更された可能性の有無について客観的証拠との関係から検討する。
 Cは2月19日に,Jと会って,Fとの面談予定を立てたと供述しており,その事実を窺わせる一定の記載が,Cの手帳の2月19日の欄にあることからすると,予定変更がなされたとすればそれ以降となる。そして,前述したとおり,2月20日に,D及びJは第三種郵便物の承認請求書を出しており,同月21日,22日は,それぞれ土曜日,日曜日であることを考えると,予定が変更され,面談があった可能性があるのは,23日,24日,25日のうち厚労省を訪れる前の時間のいずれかであるといえる。
 Fの手帳の2月24日の欄には,午前10時30分から午後7時まで,ほぼ間断なく予定の記載が入っており,この日に急きょCと面談をしたという可能性を認定するのは困難とみられる。他方,Cの手帳の2月23日の欄には,「【省略】へtel」,「9:30 【省略】」,「11:30 【省略】」,「3:30 4:00 5:00 【省略】」,「18:30 【省略】」との記載があるほかは,人物や場所に関する有意な記載はなく,この日に急きょ面談をしたという可能性は一応想定できる。
 したがって,予定変更がなされ,2月25日より前にCとFが面談した可能性は完全に否定されるとまではいえない。
 しかし,Fという多忙な国会議員との面談予定であること,2月25日午後1時の予定については赤線が同予定を消すように引かれていること,予定変更があれば,Cがその旨を記載することは容易であることなどに照らすと,予定変更がなされれば,Cの手帳に,新しい予定の記載がなされるのが自然とみられる。それにもかかわらず,Cの手帳の記載からは,そのような記載の存在は窺われない。
 以上によれば,Cの手帳という客観的証拠上は,Cが,Fと面談した事実は存在しなかった疑いがあるといえる。

c. Jの名刺の記載について

 前記認定事実によれば,Jが,j協会を訪れ,Sに渡し,同人が保管していた有限会社k取締役会長名義の名刺には,「F-(又は一)tel→N係長」と手書きで記載されている。検察官は,当該記載の冒頭部分は,「F-」ではなく,「F一」であり,このような記載は,Fへの口添え依頼があったことを窺わせる客観的証拠であるとする。そこで,Jの名刺の記載が,Cの公判供述の裏付けとなるのかについて検討する。
 まず,記載の意味内容について検討する。当該記載の体裁や,「F」と「tel」とを「-」でつないだのでは意味が通じないとみられること,CとFの関係をDやJも知っていたこと等からすると,当該記載は,「-」ではなく,「一」であると考えるのが合理的である。
 そして,関係証拠からも,少なくとも,FがNに対し電話を掛けたとの事実はうかがわれず,Nが,Sとの電話でのやりとりの際に,FがNに電話したかのような事実を告げたとは考えられないこと,当該記載は,Jの名刺に書かれており,Nとのやりとりの際にそれに記載するのは不自然であること等からすると,当該記載は,J・DとSがj協会で面談した際に,J又はDに告げられた内容を基にSが記載したものであると考えられる。
 したがって,Jの名刺の前記記載は,Fから,厚労省に対して電話をしてもらっていた旨が,D又はJから,Sに対して告げられたことを推認させる。
 そして,Dらが,Sに,そのようなことを話すということは,その前提として,実際にCがFに依頼し,Fが厚労省に電話をした事実があったのではないかと考えることもできる。
 しかしながら,Cが,実際に,Fに口利き依頼をしていなかったにもかかわらず,Dがその旨をSに話した可能性も否定できない。Dは,CにFへの口利きを依頼する前の時点で,厚労省の公的証明書の担当部署として電話を回してもらった企画課のK6に対して,「aの会」について,Fからも応援してもらっている団体であるなどと告げていたが,関係証拠上も,その時点でFの名前を使用することについて,同人の了解を取れていたとの事情は認められない。よって,Dは,Fの関与について,虚偽の事実を外部の者に対して述べていたことが認められるのであり,D・Jから,Sに述べられた内容についても,Fに無断で行われた可能性も残る。
 したがって,Jの名刺の記載も,Fへの口利き依頼を肯定するCの公判供述の直接の裏付けになるとまではみられない。

d. 小括

 以上によれば,Cの手帳,Jの名刺などの客観的状況からは,Cが,Fと2月25日午後1時に会うアポイントメントを取ったこと,「aの会」は,j協会のSに,Fから厚労省に,電話をしてもらっていたと話したことまでは認められるが,その後,2月25日午後1時の約束を変更し,Cが,Fに実際に会ったことまでを推認せしめるものではなく,むしろ,そのような事実があったことに疑いを生ぜしめるものである。

(イ) 供述内容の合理性

a. 本来であれば公的証明書の発行要件を満たさないこととの整合性

 前記認定事実及び関係証拠によれば,「aの会」は心身障害者団体としての実体がなく,「aの会」の発行する「b」は心身障害者の福祉の増進を図ることを目的としておらず,本来であれば公的証明書の発行を受けられない状況であったこと,「aの会」の中心メンバーであるDはこれを認識していたことが認められる。このような状況で,公的証明書の発行を得るためには,団体の実体性や目的を仮装するほか,有力国会議員であるFに口添えをしてもらうことにより,厚労省の審査に手心を加えてもらおうとするということは不自然なことではない。
 Cの公判供述は,「aの会」及び「b」が本来であれば公的証明書の発行要件を満たさない状況にあったことと整合するものといえる。

b. Fに事前の了解を得る必要性の点について

 検察官は,Cが厚労省を訪れた際に,Nに対して,Fの名前を出したことが明らかであるところ,後に厚労省側からF本人あるいは秘書等に話が伝わる可能性を考えれば,かねてよりFと友好的な関係にあり,今後もその関係を維持したいはずのCが,Fに無断でその名前を使うということは不自然であり,Fの了解の下で厚労省でFの名前を出したとみるのが自然であると主張する。
 前記認定事実によれば,本件当時,CとFとは一定の親交があり,本件以後も,その関係を維持していたことが認められる。他方,Cは,2月下旬ころに厚労省を訪れNと面談した際,同人に対して,CとFとに一定の関係があることを告げたことが認められる。検察官の主張するとおり,Cにおいて,Fとのその後の関係にも配慮する必要もあることにも鑑みると,Cが厚労省を訪れる前に,急きょ予定を変更してでも,Fと連絡を取って,Fの名前を出すことの了解をとる必要性があるといえる。そして,Fは国会議員であり,Cは,Fの元秘書という当時の両名の関係に照らすと,直接面談して了解を得ることも合理的である。
 したがって,Cの公判供述は,CとFの関係といった事情とは整合性があるといえる。
 他方,Cが,DからF訪問を依頼される前から,Dらは,勝手に,F事務所を「aの会」名簿の支援団体欄に記載していた。そして,Cは,その事実を認識していた(また,Dらは,それを2月20日に郵便局に提出するなどしていた。)。
 これらに照らすと,Fへの連絡が,Cの厚労省訪問の不可欠の要素とまではみられない。
 なお,前述したとおり,Dは,Cに,厚労省訪問を依頼する前に厚労省に電話し,「aの会」は,Fからも応援してもらっている団体であるなどと話している。

(ウ) 供述態度,その他について

a. Cが,Fが否定していることを知りつつFの関与を供述していることについて

 検察官は,Fに対する口添え依頼は,本件公的証明書の発行にとって不可欠な前提事実を認めるもので,C自身及び口添えを否定するFにとって不利な供述であり,Cがこの点についてことさらに虚偽の供述をする理由はないと主張する。
 Fは,本件捜査段階から,マスコミ等に対して,Cに依頼され厚労省に口添えをしたことを強く否定しており,平成21年6月21日付けの週刊誌にも,「『Fd党副代表』の怒髪天」との見出しで「オレは知らん。なぜオレが厚労省に電話せないかんのや。迷惑千万や。」などという記事が掲載されているのを,CはP2から示され(平成21年6月22日付けのCの検察官調書に添付されている。),取調べ中から,これを認識していた。さらに,F自身,弁護人申請証人として,Cの証人尋問より後の期日に公判で証人として尋問されることが予定されている状態であった。そして,一般的にみれば,Cの公判供述は,C及びFにとって不利なものといえる。
 このような事情からすると,Cの公判供述には高い信用性が認められるようにもみられる。
 しかし,Cの公判供述は,「Fに対し,厚労省に陳情に行く際に,その了解を得る際に,『できればサポートしていただけたらありがたい。』と言った。それに対し,Fが『厚労省に電話をしてやってもいい。』と言った。」という程度のものであり,不正発行の口添えを依頼し,Fがそれを了承したというものではなく,C自身やFにとって著しく不利益なものであるとまではみられない。
 他方,Cの取調べ担当検事であったP2は,この点に関するCの取調状況及び供述経過について,「Cは,取調べの当初は,2月25日の欄の『13:00 F─(又は「一」)kJ氏』の記載について,IにJを紹介し,Iの名前を使わせてもらって,厚労省側に働きかけるつもりであった旨供述していたが,平成21年6月初めころ,Cに対し,手帳では,Fは,『F』又は『F一』と記載し,Iは,『I』と記載して,明確に区分していると指摘したところ,Cは,取調べ当時,現職の国会議員であるFの名前を出すことに抵抗があり,Iの名前を出してしまったが,本当はFに口添えを依頼したのであり,Iは関与していなかったと供述した。」旨供述している。このように,CがFの関与を認める供述をしたのは,前記の記事を見せられる前に,検察官に手帳の記載についての追及がなされた結果であって,Cは,Fの関与について,Fが否定していることを知りつつ,積極的に供述し始めたのではない。
 他方,2月下旬ころに厚労省を訪れNと面談した際に,CがFの名前を出したことは認められるのであり,Fとの面談等を否定すれば,Cは,Fに無断でFの名前を厚労省関係者に告げたことになることからすると,Cにおいて,Fとの面談等に関する供述を維持する動機がないではない。
 以上の事情からすると,Cが,FやCにとって一般的にみれば不利な供述であること,Fが否定していることを知りつつ供述していることも,Cの公判供述の信用性を肯定する方向の事情にはなるが,その程度は必ずしも大きいとまで評価することはできない。
 また,前記のとおり,Cの供述は,Cの手帳の2月25日の欄の「13:00 F─kJ氏」の記載について追及される中で出てきたもので,Cの公判供述の2月25日午後1時に,Fと会ったということもこれに基づくものである。
 しかし,公判でのCの証人尋問後,Fの手帳やゴルフ場の回答書などの客観的資料が提出され,2月25日午後1時に,Cが,Fと面談することは不可能であったことが判明した。
 Cの供述は,手帳の記載などの客観的資料如何によって変動する可能性があり,これを離れてC自身にどの程度の記憶が残っていたのか,疑問が残るものである。

b. 証言の変遷と検察官への迎合

 弁護人は,Cは,証人尋問の中において供述を変遷させており,検察官に迎合しようとする点がある旨主張する。
 そして,関係証拠によれば,Cは,弁護人の反対尋問において,検察官の打ち合わせについて,「しておりません。」と供述した。しかし,検察官の再主尋問において,「我々と打ち合わせをしたことはあったんじゃないんですか。」と質問されると,「ございました。」と述べ,供述を変遷させている。
 そして,Cは,上記のように検察官との打ち合わせはしていないと証言した理由について,「打ち合わせをすること自体がいけないものだというふうに,私の中に記憶ございましたので。」と供述している。
 この供述によれば,Cは,検察官と,証言前に打ち合わせをした事実を隠そうと,故意に虚偽の供述をしたものともみられる。以上に照らすと,前記弁護人の主張を否定することはできない。
 また,C自身,Dに対し,企画課長に要請してきたという「うその報告」をしたと,平成16年当時から虚言を述べていたことを認める証言をしている。

c. 供述の具体性,迫真性

 検察官は,Cの公判供述は,Dから相談を受けてFに口添えを依頼した経緯や状況について具体的かつ迫真的に供述しており,Cの公判供述は信用できると主張する。
 確かに,Cの公判供述は,Dから依頼を受けた状況や,Fとのやりとり,Jも同行した理由等について,具体的に供述しており,実際に体験した者であるからこそ,そのような具体的な供述をなすことができていると考えることもできる。
 しかし,他方,Cが,Dの依頼で,公的証明書の件について厚労省を訪れたことは事実であるし,当時,CとFとの間には一定の親交があり,他の用件でCとFが面談することもあったとみられることからすると,本件についてFとの面談を体験していなくとも,それらの経験に基づいてそれなりに具体的に供述することは可能であって,供述の具体性も,Cの公判供述の信用性を特段に高める事情とまではみられない。

(エ) 小括

 以上によれば,Cの公判供述は,Cの手帳という客観的な証拠により,Fと会う約束をしたことまでは認められるが,Fの手帳やゴルフ場からの回答書によれば,Cの手帳の日時にFと会うことは不可能となる。その後の予定変更についても,客観的証拠上は疑いが残る。
 証拠上認められる事実等との整合性の観点からみると,DがCにFに対する厚労省への口利き依頼をして,CがFを訪ねてその旨の依頼をするというのは,当時の状況に照らすと,自然で合理性があるといえるが,CがFを訪ねることが,Cの厚労省訪問の不可欠の前提であったとまではみられない。
 Cが,Fが否定していることを知りながら,Fへの口利き依頼を供述していることは信用性を肯定する方向の事情になるが,他方,Cの公判供述には,事実に反している部分もあり,その信用性判断には慎重な考慮が必要とみられる。
 以上を総合すると,Cの供述は,信用性を肯定する方向に働く事情がある一方,信用性に疑いを入れる方向に働く事情もあり,これ単体で,完全に信をおくという程度までには達していないといわざるを得ない。

(次回へ続く)

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