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大阪地裁第12刑事部判決平成22年09月10日

【判旨】

(前回からの続き)

3.場面Aについて(Cの厚労省訪問から5月中旬までの「aの会」の案件に対する厚労省内での対応状況)

(1) 当事者の主張等

ア.検察官の主張等

(ア) Cが厚労省から帰った後,H及びNが,企画課長席で,被告人に対し,「aの会」について報告をした際,被告人は,H及びNに対し,「ちょっと大変な案件だけど,よろしくお願いします。」などと指示した(以下,「大変な案件発言」ともいう。)。
 この点の検察官主張を裏付ける供述証拠としては,H,Nの検察官調書がある。

(イ) その後,Nは,「aの会」が障害者団体なのか怪しいと考え,Hと相談の上,「aの会」に対し,j協会を訪れるよう指示した(以下,「j協会紹介」ともいう。)。
 この点の検察官主張を裏付ける供述証拠としては,Nの公判供述,Hの検察官調書がある。

(ウ) D及びJは,Cの厚労省への訪問後の2月下旬ころ,j協会に電話を掛け,さらに,その後,j協会の事務所を訪ね,事務局長のSと面談をした(前記認定事実10(2))。

(エ) Nは,その後,Sから,「aの会」が議員の名前などを出している怪しい団体である旨告げられ,それをK3やHに報告した。そうしたところ,Nは,両名から,「今度きちんとした書類を出させろ。」というようなことを言われた(以下,「書類提出指示」ともいう。)。
 この点の検察官主張を裏付ける供述証拠としては,Nの公判供述,H,Nの検察官調書がある。

(オ) 被告人は,3月中旬ころ,Hに対し,「aの会」の案件の進捗状況を確認した。Hは,3月下旬ころ,Nに対し,「aの会」の案件の進捗状況を尋ね,Nから,書類等が出ておらず,進捗していない旨告げられた(以下,「3月中旬から下旬ころのやりとり」ともいう。)。Hは,その内容を,被告人に報告した上,Nに対し,しっかり後任に引き継ぐよう指示した(以下,「引継指示」ともいう。)。
 この点の検察官主張を裏付ける供述証拠としては,Hの検察官調書,Nの公判供述及び検察官調書がある。

(カ) Nは,4月1日付けで異動する際,Bに対する社会参加係長の業務の引継ぎの中で,口頭で,「aの会」が公的証明書の発行を依頼してきていること,その案件はFという国会議員がらみの案件であること,「aの会」の実態がよく分からないので慎重に対応する必要があること,「aの会」の公的証明書の発行がまず手を付ける業務であることなどを告げ,「aの会」の案件についても引き継ぎをした(以下,「『aの会』の引継ぎ」ともいう。)。
 この点の検察官主張を裏付ける供述証拠としては,Nの公判供述,検察官調書がある。

(キ) Hは,4月上旬ころ,Bに対し,「aの会」に対する公的証明書の発行手続を進めるように指示した。
 この点の検察官主張を裏付ける供述証拠としては,Hの検察官調書がある。

(ク) Dは,4月中旬ころから同月下旬ころまでの間,Bに対し,数回にわたって電話で公的証明書の発行を要請し,面談したい旨申し入れ,同月下旬ころ,厚労省で待ち合わせをした後,厚労省1階の喫茶室で同人と面談した。その際,Bは,Dから,できる限り早く公的証明書を発行して欲しいと催促され,「分かりました。」と返答するとともに,「私は,キャリアじゃないですから,上からの指示を受けて,いろいろ面倒なこともやらされるんですよねぇ。」などと愚痴をこぼした。この点の検察官主張を裏付ける供述証拠としては,Dの検察官調書及び公判供述がある。

(ケ) Bは,5月中旬ころ,Hから「aの会」の案件の進捗状況を確認された際,「aの会」から,公的証明書の発行申請はおろか,規約や名簿等の審査資料の提出すらされておらず,まともに資料を出せないような実体の疑わしい団体であり,形だけであっても決裁に上げることができない旨答えた。
 そこで,Hは,被告人に対し,「aの会」の案件について,公的証明書の発行申請の書類や規約,名簿等の審査資料がきちんと提出されておらず,決裁に上げられるような状態でない旨報告したところ,これを受けた被告人は,Hに対し,「なんとかならないんですか。もう少し調整を進めてください。」などと言った(以下,「調整指示」ともいう。)。
 その後,Hは,Bに対し,「何とか書類を整えて手続を進めてくれるか。」などと指示した。
 この点の検察官主張を裏付ける供述証拠としては,Hの検察官調書がある。

イ.弁護人の主張等

 これに対し,弁護人は,被告人は,HやNに前記のようなことを述べたことはない旨主張し,被告人は,捜査段階から一貫して同旨の供述をする。
 そして,Nは,公判では,「Cに対する説明が終わった後,上司などに報告したか否かについては覚えていない。」と供述し,M,Hは,公判で,「aの会」の案件については記憶にない旨供述している。さらに,Bは,公判で,「Nを除く他の厚労省関係者に『aの会』の案件について相談をしたことはないし,誰かから聞かれたことはなく,自分とN以外誰も知らないと思っていた。」旨供述している。
 これらの供述状況を踏まえ,弁護人は,検察官の主張するいずれの事実についても認定できない旨主張している。

ウ.そこで,以上の争点について検討する。
 なお,前記公的証明書の発行申請の関係で,j協会の証明書交付願が,いつ「aの会」側からBに交付されたのかについても争いがある(4月中旬ころか,6月中旬以降か)ので,この点についても検討する。

(2) 検討

 場面Aに関しては,関係する人物は,被告人,N,H,M,K3,B,Dであるところ,検察官主張を裏付ける主な証拠は,Hの検察官調書,Nの検察官調書,公判供述(一部),Dの検察官調書,公判供述である。これに対し,被告人の捜査,公判供述,H,N(一部),M,Bの公判供述は,いずれも検察官主張に反するものである。
 そこで,以下,検察官主張を裏付けるNの公判供述(一部),N,Hの検察官調書,Dの検察官調書,公判供述の信用性を中心に,各場面ごとに各供述について検討する。

ア.Cの訪問直後の被告人の大変な案件発言について

 N,Hの検察官調書は,これを認め,N,H,被告人の公判供述はこれを否定する。
 そこで,この点について検討する。

(ア) N,Hの検察官調書では,当初,Cは,被告人と話をしていて,その後,被告人から,Cを紹介され,その後,N,K3,Hが,Cに手続について説明し,その後,被告人から,大変な案件発言があったというものであるが,その流れ自体,前記認定のとおり,Cの手帳,名刺の保管状況等に符合しない。

(イ) N,Hの検察官調書は,被告人の大変な案件発言後,HとNが相談の上,j協会の審査を受けるように「aの会」側に伝えたという流れになっているが,この点は,厚労省訪問時にNから言われたとするCの公判供述,そのCから報告を受けたとするDの供述と食い違っている。そこで,この点について検討する。
 Nは,公判で,j協会に行って相談するように言ったのは,(当初は)「おそらくDに対してと思う。」と供述しているが,2月25日にCが厚労省を訪れ,2月26日には,Jがj協会に電話していることからすると,2月25日のCの厚労省訪問後,翌2月26日までに,Nが,Dに連絡してj協会のことを伝えるというのは想定しがたい。
 他方,Nは,「Dではなく,Cだったという可能性はないか。」との質問に対しては,「そういわれれば,そうかもしれないというぐらいの,ちょっとそこは記憶があいまいです。」とも答えており,記憶自体があいまいであることも自認している。
 以上からすると,2月25日に,Cが,厚労省でNから,j協会の案内を受けたと認められ,Nは,C来訪当日に,被告人の大変な案件発言よりも前に,Cにj協会を紹介したと認められる。
 被告人の大変な案件発言を踏まえて,j協会を「aの会」側に伝えたとするNの公判供述,検察官調書は,この点に反する。

(ウ) Nの検察官調書には,「被告人の大変な案件発言を聞いて,私は,被告人は,議員案件であることから『aの会』に証明書を発行せざるを得ないという結論が決まっていることを意味する,それだからこそ『よろしくお願いします。』と指示してきたものに他ならないと思った。その後,私が,j協会のSに連絡し,『aの会』との折衝を依頼するなどした。私としては,『aの会』については,その団体の実態がどのようなものであれ,議員案件として公的証明を発行せざるを得ない案件だと認識していたので,j協会が前さばきをし,j協会名義の証明書交付願を厚労省に出してくれれば,少しでも書類の形が整うだろうと考えた。」との記載があり,Hの検察官調書もほぼ同旨の記載となっている。
 しかし,被告人からの大変な案件発言によって,H,Nら「aの会」の案件の担当者の間で,当該案件は最終的には公的証明書を発行せざるを得ない「議員案件」であると認識が共有されたとすれば,団体の実態が分からないうえ,国会議員から要請があったに過ぎない状態で,厚労省の所管団体ではなく,真に障害者団体を支援しようとする立場から郵政公社との間でも協定を結んでいる団体であるj協会を訪問させ,そこの審査を受けさせるというのは,外部に上記のような不透明な案件の存在について疑念を抱かせることになる可能性があるものであるから,上記のような案件であることを認識している者がとる行動としては,不自然とみることができる。

(エ) Nは,公判で,H,M,Lら,他の厚労省関係者と異なり,捜査段階で述べたことと同旨の供述もなしており,被告人側の主張と反する点も供述しているが,大変な案件発言の点は否定している。

(オ) 以上の諸点に照らすと,大変な案件発言に関するN,Hの検察官調書の内容は,疑いを否定できないものである。

イ.j協会紹介の状況について

(ア) 「aの会」は,1通8円の低料第三種郵便物を利用するために申請を行ったのであり,月3回発行等の要件を満たすとして承認申請が行われ,実際にもそのように「b」を発行することを予定していたので,結果としてみれば,「aの会」がj協会に加盟する必要はなかったといえる。j協会に行くように指示したのは,Nが「aの会」の活動を怪しく思ったことによるものとみることもできる。

(イ) しかし,前記のとおり,Cが,厚労省に赴き,初めにあいさつをしたのは,Nであるとみられる。
 また,前記のとおり,2月25日に,Cが,厚労省で,Nから,j協会の案内を受けたと認められ,Nのこの点に関する公判供述はこれに反している上,これに関連して,自らの記憶自体があいまいであることも自認している。
 Nは,公判廷において,自身がCに対し,公的証明書の発行手続や審査に必要な書類,資料等についての説明をした際に,Cは,活動内容についてもあいまいな説明をしていた旨供述しているところ,Cは名目上の会長であり,「b」の第三種郵便物の承認申請等にも関与していないこと,Cは第三種郵便等を利用したことは無く,少なくとも厚労省訪問時点で,Dらから第三種郵便物又は1通8円の心身障害者用低料第三種郵便物の要件や「b」の発行予定状況等の事情も聞いていたとはみられないことからすると,Cがあいまいな説明をしていたとするNの供述は信用できる。
 そうすると,Nは,「b」が,j協会に加盟しなくとも,1通8円の低料第三種郵便物の要件を満たす事情(発行頻度等)を聞いていなかった可能性がある。
 また,仮に,Nが,月3回発行等の心身障害者用低料第三種郵便で1通8円となる要件を満たすような事情を聞いていたとしても,Cは,第三種郵便物の申請書等の資料も持っていなかったのであるから,Nは,その述べることが正しいかどうかも直ちに判断できなかったものとみられる。Nは,在任中,平成15年のiに対する案件しか公的証明書発行事務を担当したことがなく,その際,同会は,j協会に加盟した上で厚労省への公的証明書の発行を求めてきており,その経験から,Nが,「aの会」がj協会に加盟する必要性についての確証まではないものの,「aの会」及び「b」に相応の要件が備わっているのかどうかを判断してもらうため,まずj協会の審査を受けるように「aの会」に対して指示したとしても不自然な行動とはいえない。したがって,Nがj協会を訪れるように言ったことを,「aの会」に実態があるのか疑わしいが,Fからの口添えがあったことから,先延ばしにするためなどの行動と認めるには疑いが残る。

(ウ) 以上によれば,Nが,Cに対して,j協会を紹介したのは,団体が怪しいと考えた側面があったとしても,1通8円の心身障害者用低料第三種郵便物制度の要件充足の観点からの意味も併有していた疑いが残る。
 しかし,Nの公判供述では,Cが,厚労省から帰った後に,j協会の話を「aの会」側になしたとなっているが,この点は信用できず,Nは,Cの訪問当日,Cに,j協会の紹介をしたものと認定できる。
 なお,Nの検察官調書には,j協会に行くように指示したことについて,「Fから口添えを受けていたような団体で,本当に心身障害者団体としての実体があるのか疑わしく感じられたが,キャリア官僚でもない私が,無碍に扱い,発行しないという対応を取るわけにもいかず,先延ばしにしようとした。」旨の記載や,「私は,『aの会』については,団体の実態がどのようなものであれ,議員案件として公的証明を発行せざるを得ない案件だと認識していたので,j協会が前さばきをし,j協会名義の交付願を厚労省に出してくれれば,少しでも書類の形が整うだろうと考えた。」旨の記載がある点は,前記事実に照らすと,更に,強い疑いが残るものである。

ウ.HからNへの書類提出指示,3月中旬から下旬ころのやりとりについて

 Nの公判供述,検察官調書,Hの検察官調書はこれを認め,Hの公判供述はこれを否定し,被告人も捜査段階からこれを否定する。
 Nは,前記のとおり,公判において,被告人に不利な虚偽供述をなすべき事情はみられず,Nの公判供述中,被告人に不利な部分は,Nは,自己の記憶に従って供述しているものとみられる。
 前記認定事実のとおり,Nは,Sと3月下旬に電話で連絡を取り,Sは,「aの会」の活動に疑いを持っていると述べたことに照らすと,NがHやK3にそのことを話したというのは合理性がある。そして,これに対し,Hらが,「今後,きちんとした書類を出させろ。」というようなことを述べるというのも合理性があるとみることができる。
 また,転勤が予定されているNに,上司のHから,後任者に引き継ぐよう言ったというのも,不自然,不合理ではない。
 しかし,他方,Dら「aの会」側は,Cの厚労省訪問直後からj協会と接触をしており,j協会へ加盟しようとしていたところ,j協会から加盟希望者に渡していたj協会加盟のしおりには,「j協会に加盟申込書や資料(会則,会員名簿,発行された刊行物など)を提出し,j協会が検討し,加盟を認めた場合,j協会から団体に証明書交付願を出し,団体は,この証明書交付願とj協会に提出した資料と同種のものを行政当局に提出して,公的証明書の交付を申請する。」との記載がある。
 これによれば,厚労省など行政当局には,j協会からの証明書交付願が出された後に,必要資料を提出することになり,証明書交付願が出されていない段階では,団体の資料を行政当局に提出することは予定されていないことになる。
 「aの会」側は,Nに指示され,j協会に赴き,j協会加盟手続を取ろうとしていたのであるから,j協会の上記手続に従って,手続を取ろうとしていたものとみられる。
 これを前提にすると,「aの会」側は,j協会承認を得て,証明書交付願の交付を受けてから,これと資料を厚労省に提出することを予定していたとみることができる。
 前記認定事実の4月19日付けc郵便局あての「aの会」の書面も,これに符合するものである。
 以上によれば,3月下旬に,Hが被告人から「aの会」の進捗状況を確認され,Hが,Nに,「aの会」の進捗状況を尋ね,Nが「aの会」から書類等が出ておらず,進捗していないと述べた点は,合理性があるか疑問を否定できない。
 なお,Nが,本件以前に経験したiの件では,団体側は,当初から,規約,名簿,刊行物などを提出していたが,これは,団体側は,j協会に前もって加盟していたのに,これをNに伝えずに,公的証明書発行の申請をしてきたという状況にあったものであり,本件のように,厚労省側が,団体に,j協会を紹介したような事例とは異なるものといえる。
 Nが,自らj協会を「aの会」に紹介したのに,その加盟承認がなされ,証明書交付願が交付される前に,Nが資料の提出を求めたり,これが提出されないことに不審を持つという点には疑問が残る。

エ.NからBへの引継ぎについて

 Nの公判供述,検察官調書はこれを認め,Bの公判供述はこれを否定する。
 前述したとおり,Nの供述中,被告人に不利な部分は,Nは,自己の記憶に従って供述しているものとみられる。そして,「aの会」の案件をBに引き継いだとの内容は,被告人に不利なものであるといえる上,Nは,捜査段階の当初から,そのような内容を供述している。
 もっとも,Nは,平成21年5月27日の取調べにおいて,Bへの引継文書の中に,第三種郵便の件として,「aの会」の案件があることを記載したと供述し,検察官調書にもその旨の記載がなされているが,後日,Nは,自宅に,当時の引継書があるのを発見し,これを確認したところ,その記載はなかったことが判明したもので,Nの記憶にも誤りがあったと認められる。
 しかし,同検察官調書にも,引継書とは別に,口頭でも「aの会」の件をBに伝えたとの記載があること,「aの会」の件をBに引き継ぐこと自体は不自然ではないことに照らすと,少なくとも,口頭で,概括的に,「aの会」の件を引き継いだとする点は信用できるものである。
 この点,引継ぎに関して,Bは,公判で,Nから,「aの会」の件について,引継ぎを受けた記憶はない旨供述する。
 しかし,引継書類だけでも前記認定事実のとおり,相当大部(A4用紙10枚)のものであり,しかも,Bの新しい職務の中心は予算関係であったこと,4月1日の異動当日で,事情も分からない状態で,口頭で引継ぎを受けたとしても,Bの記憶に残らないということは不自然ではないことなどに照らすと,Bの公判供述の存在は,NからBへの引継ぎの有無の認定を左右するものではない。
 なお,Nの供述する「aの会」の引継ぎの具体的内容については,大別すると,@「aの会」の案件はFという国会議員がらみの案件であること,A「aの会」の実態がよく分からないので慎重に対応する必要があること,B「aの会」の公的証明書の発行がまず手を付ける業務であることの3点に分けられるところ,このうち,いずれの内容まで引継ぎの際に述べたかについて,さらに問題となる。
 Nは,捜査,公判を通じて,@ないしBのいずれについても供述をなしており,この点からすると,いずれの内容についてもそれなりの信用性が認められるようにもみられる。
 この点,前記認定事実のとおり,Cは,厚労省を訪問し,Nと面談した際,Fの名前を出したことは確実であることからすると,「aの会」の引継ぎにおいても,Fという国会議員がらみの案件として引き継ぐのは自然である。また,前記のとおり,「aの会」についてのCのNに対する説明があいまいであったと認められることからすると,Aのような内容の引継ぎをすることも十分想定できる。
 他方,前記のとおり,Nが,Cに対して,j協会を紹介した動機については,1通8円の心身障害者用低料第三種郵便物制度の要件充足の観点からの意味も併有していた疑いが残るのであり,そうであれば,j協会の審査が終了するまでは,Bら厚労省側において,「aの会」の案件について,具体的な措置を講ずることは想定できないことからすると,Bの内容は,必ずしも自然とはいえない。
 以上より,@,Aの内容については信用性は肯定できるが,Bについては,疑問を入れる余地がある。

オ.Hの4月上旬ころのBに対する指示について

 Bは,公判で,そのような事実を否定しているところ,前記認定事実によれば,その後の5月中旬ころ,Bは,Hや,室長のGに何ら相談なく,虚偽の稟議書等を作成し,「aの会」にファクシミリ送信していることが認められる。
 Hの検察官調書のように,Hが,Bに,前記のような指示をしていたのであれば,Bは,Hらに相談せずに虚偽の稟議書等を作成し,「aの会」に送信する必要はなく,Hの検察官調書の記載は不自然であり,Bの公判供述は排斥できない。

カ.証明書交付願の取得時期について

(ア) 関係者の供述等

a. Bの公判供述

 「私は,j協会の証明書交付願と,『aの会』あての説明文書を自宅に保管していて,押収された。証明書交付願は,4月中旬ごろ,『aの会』が提出してきたものだと思う。『aの会』から私に電話があったのが4月中旬ごろで,その後だと思う。うその稟議書を作る前である。『aの会』のだれからもらったか,郵送できたかどうかは分からない。証明書交付願は,私が『aの会』に出すように言って,出されたものではない。その書類は,Nが作った前例の資料にも入ってたと思う。だから,決裁を後々作るときにそれが必要になるという気持ちはあった。それだけでは,決裁の形にはならないので,何らかの資料をもらわなければいけないと思いつつも,それを実行に移すことはなく,日がたってしまった。j協会の証明書交付願と,『aの会』あての説明文書は,当初,厚労省の自分の机に保管していたが,公的証明書を渡した後に自宅に持ち帰った。決裁を受けないで,独断で公的証明書を出した後も,後付けで決裁の形を作るときに,それが要ると思って保管していた。検察官調書で,私が証明書交付願などについては,公的証明書を発行した後にもらったと書かれているのは,私の勘違いだった。」

b. Dの公判(2月2日)供述

 「公的証明書交付後,2週間とか3週間とか1か月以内に,Bから,j協会に出した書類を送ってくださいという連絡が入った。j協会から出た承認書を送ってほしいという連絡があって,それを送ったような記憶がある。だれかに連絡が入って,それを私に伝えてくるということを聞いた。私が,だれかに指示してBあてに送らせた記憶はある。」
 なお,Dは,被告人公判での証人尋問後行われた自身の公判では,次のとおり供述する(3月15日。)。
 「私は,j協会の承認後の手続は,厚労省とj協会の間で何らかのやり取りがあると考えていたから,承認が出たということを厚労省に伝えた。j協会から,団体として認めるという書面は,私が持っていった記憶はない。ほかの者が届けてるかもしれない。」

c. Hの検察官調書の記載

 「5月中旬ころ,Bに対し,『aの会』の案件はどうなっているのかなどと言って進捗状況を確認した。Bは,『“aの会”の方から書類が出ていないので,決裁を上げるのはちょっと難しい状況です。公的証明書の発行申請が提出されていませんし,規約や名簿などの申請資料も何も提出されていません。資料の提出をお願いしているのに,きちんと出してこないような団体ですから,このままだと決裁に上げることはできません。』などと言った。」

(イ) 検討

 そこで,この点について,検討する。

a. 前記認定事実によれば,次の事実が認められる。
 4月14日ころ,j協会から「aの会」に対し,証明書交付願及び送付書が送付された。
 4月19日ころ,「aの会」から,c郵便局に対し,前記4月14日付け証明書交付願の写しと「aの会」あての書面の写しが添付された,「j協会から4月14日付けでj協会の認定書が送られ,4月20日にCが厚労省に証明書の交付願いを申請することになった。厚労省より証明書が交付され次第,持参,報告する。」との内容の,4月19日付けの文書が送付された。
 j協会から行政当局にあてた証明書交付願が,j協会から団体に送付された後,団体が,証明書交付願とj協会に提出した添付書類と同様の資料を厚労省等の行政当局に持参して,証明書の交付申請をした上,改めて行政当局の審査を受けるという運用がなされていた。
 Bは,「aの会」からの公的証明書発行の催促があったことから,5月中旬ころ,「『aの会』に係る低料第三種郵便物の許可申請手続きについては,近日中に滞りなく進めることとなっております。」とのB名義の書面と「aの会」に係る証明書の発行についての決裁手続が途中まで進んでいるように装った内容虚偽の稟議書(起案年月日が平成16年4月26日となっているもの。)を作成した上,これらを「aの会」にファクシミリ送信した。

b. 以上の事実によれば,「aの会」側が,j協会から「aの会」に対し,証明書交付願が送付された4月14日以降,j協会の審査を受けるよう指示した厚労省の担当者に証明書交付願を提出するということは自然なことである上,わざわざc郵便局に対し,証明書交付願の写しと「aの会」あての書面の写しが添付された,「j協会から4月14日付けでj協会の認定書が送られ,4月20日にCが厚労省に証明書の交付願いを申請することになった。」との内容の,4月19日付けの文書まで送付しているのであるから,4月20日ころに証明書交付願を担当者のBに渡す可能性が高いものとみられる。
 そして,Bが作成し,「aの会」に送った「aの会」に係る証明書の発行についての決裁手続が途中まで進んでいるように装った内容虚偽の書面の起案年月日が4月26日となっていることは,4月20日前後に「aの会」からBに証明書交付願が提出され,「aの会」が公的証明書の交付を正式に申請していることを前提として,厚労省内部の禀議が開始されたように,5月中旬ころに,Bが繕ったとして理解できるものである。

c. 以上によれば,これらの事実に符合するBの公判供述は信用性が高いとみられる。これに対し,Dの公判供述は,これらの事実に符合しない上,あいまいであり,信用性が高いものとはいえない。
 また,Hの検察官調書の「5月中旬に,BがHに対し,『aの会』から公的証明書の発行申請が提出されていないと述べた。」との記載も,証明書交付願が公的証明書の発行申請であることからすると,前記認定事実に齟齬し,信用性が高いものとはいえない。なお,Bに提出されたものが証明書交付願の写しであったとすれば,正規の公的証明書の発行申請とみられないのではないかが一応問題となる。しかし,その場合,Bの方で,証明書交付願の原本が必要であると考えたのであれば,『aの会』に原本の提出を要請すれば,『aの会』は原本を他に交付する必要はなく,既に写しをBに交付しているのであるから,『aの会』側は,これを拒否する理由は想定できず,これに応じるはずである。よって,この点は,認定を左右するものではない。

d. なお,罪体関係の書証としては証拠請求を却下したが,非供述証拠として取り調べたBの検察官調書には,次の記載がある。
 「私は,平成16年6月上旬から中旬にかけてのころ,完成させた公的証明書を被告人に預けた後のことだったが,『aの会』関係者に電話連絡を取って,決裁の形作りのため,『aの会』の規約や名簿といったものを私あてに送ってくれるように頼んだ。そういった経緯があって,『aの会』の関係者が送ってきたのが,j協会発行の証明書交付願と送付書だった。」
 検察官は,同検察官調書の証拠請求書において,供述内容自体も信用できることも特信性主張の柱として主張していたが,当裁判所は,刑事訴訟法321条1項2号の特信性は,供述がなされた外部的な事情を基準として判断すべきものであり,供述内容は,基本的には,外部的事情を推認させる資料としての範囲で考慮することとして,特信性を判断した。
 そこで,念のために,内容それ自体の信用性について,補足して検討しておく。
 上記Bの検察官調書によれば,公的証明書発行まで,「aの会」側に,これらの資料の提出を要請していなかったはずのBが,発行後になって,これらを要請するというのは不自然であり,また,仮に,発行前からそのような要請があったとするなら,それに応じず,厚労省に書面,資料を提出しなかった「aの会」が,発行後になって,その要請に応じてBに書類を提出するというのも不自然であり,その供述内容自体,信用性が高いものとはいえない。

(ウ) 結論

 以上によれば,証明書交付願及びj協会の送付書を「aの会」がBに提出したのは,4月20日前後であると認定できる。

キ.4月中のDとBの面談について

 この点も争点であるが,この点は,Bが6月上旬にDに公的証明書を交付したのかという問題とも関連するものであり,場面Cの中で検討する。

ク.5月中旬ころのH,B,被告人の「aの会」の件についてのやりとりについて

 この点に関するHの検察官調書の記載内容は,次のとおりである。

 「@5月中旬ころ,Bに対し,『aの会』の案件はどうなっているのかなどと言って進捗状況を確認した。Bは,『“aの会”の方から書類が出ていないので,決裁を上げるのはちょっと難しい状況です。公的証明書の発行申請が提出されていませんし,規約や名簿などの審査資料も何も提出されていません。資料の提出をお願いしているのに,きちんと出してこないような団体ですから,このままだと決裁に上げることはできません。』などと言った。
 Aそこで,私は,Gと二人で課長席に行き,被告人に対し,『“aの会”の公的証明の件は,手続がなかなか進まず,見通しが立ちにくい状況です。こちらから“aの会”に対して資料の提出を要請しているようですが,公的証明書の発行申請書や規約,名簿などといった書類をきちんと提出していないようであり,決裁に上げられる状態ではないようです。』などと説明した。
 B被告人は,私どもに対し,『なんとかならないんですか。もう少し調整を進めてください。』などと指示した。私とGは,Bに対し,『何とか書類を整えて手続を進めてくれるか。』などと指示した。」

 これに対し,H,B,被告人の公判供述は,これらの点を,いずれも否定する。
 そこで,Hの検察官調書の供述について検討する。
 前記のとおり,証明書交付願及びj協会の送付書を「aの会」がBに提出したのは,4月20日前後であると認定できる。それであれば,「公的証明書の発行申請が提出されていない。」とBが供述するのは,不自然である。
 Bが,「aの会」に,資料の提出をお願いしていたというのであれば,「aの会」が規約や名簿などの資料を何も提出してこないというのも,「aの会」とj協会とのやりとりなどに照らして不合理であり,厚労省側から「aの会」に対し,資料等の提出を求めたとはみられない。
 5月中旬ころに,そのようなやりとりがBとHの間にあれば,Bが虚偽の禀議書等を「aの会」に送付したの(B名義の文書のデータの作成日時からは,5月18日以降とみられる。)がそれ以後の時期であれば,Bが独断で,そのような行為をするのは不自然であり,また,上記Hとのやりとり前に,Bが,稟議書等のファクシミリ送信をなしていたのであれば,Bが,Hらも認知している案件としていたとすれば,それが何ら話題にならないというのも不自然とみることができる。
 上記HとBのやりとりが不自然,不合理とすると,これを前提としたHらと被告人のやりとりも不自然,不合理となる。
 以上によれば,Hの検察官調書供述は,不自然,不合理な点があり,信用性が高いものとはみられず,これを否定するH,B,被告人の供述を排斥することはできない。

(3) 結論

 以上の場面Aに限定した証拠の検討の範囲では,次のとおり,認定できる。

ア.証拠上認められる事実

 Nは,C訪問の際に,Cに対して,j協会を訪れるよう話した(Cが帰った後,Hと相談して「aの会」に連絡してj協会を紹介したのではない。)。
 Nは,Bに対する社会参加係長の業務の引継ぎの際,口頭で,「aの会」が公的証明書の発行を依頼してきている旨を話した(ただし,Bの記憶に残らなかった疑いは否定できない。)。
 証明書交付願及びj協会の送付書を「aの会」がBに提出したのは,4月20日前後であった。

イ.単体では,証拠上認定するに至らない事実

 Cが厚労省から帰った後,H及びNが,企画課長席で,被告人に対し,「aの会」について報告をした際,被告人は,H及びNに対し,「ちょっと大変な案件だけど,よろしくお願いします。」などと指示した。
 被告人は,3月中旬ころ,Hに対し,「aの会」の案件の進捗状況を確認した。Hは,3月下旬ころ,Nに対し,「aの会」の案件の進捗状況を尋ね,Nから,書類等が出ておらず,進捗していない旨告げられた。Hは,その内容を,被告人に報告した上,Nに対し,しっかり後任に引き継ぐよう指示した。
 Hは,4月上旬ころ,Bに対し,「aの会」に対する公的証明書の発行手続を進めるように指示した。
 Bは,5月中旬ころ,Hから「aの会」の案件の進捗状況を確認された際,「aの会」から,公的証明書の発行申請,規約や名簿等の審査資料の提出がなされておらず,まともに資料を出せないような実体の疑わしい団体であり,形だけであっても決裁に上げることができない旨答えた。
 Hは,被告人に対し,「aの会」の案件について,公的証明書の発行申請の書類や規約,名簿等の審査資料がきちんと提出されておらず,決裁に上げられるような状態でない旨報告した。
 被告人は,Hに対し,『なんとかならないんですか。もう少し調整を進めてください。』などと言った。
 その後,Hは,Bに対し,『何とか書類を整えて手続を進めてくれるか。」などと指示した。

(次回へ続く)

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