最新下級審裁判例

大阪地裁第12刑事部判決平成22年09月10日

【判旨】

(前回からの続き)

(ウ) C自身及び被告人にとって不利益な供述であるとの主張について

a. 検察官は,被告人から本件公的証明書を直接受領したというCの公判供述は,本件における最重要事実に関する自己の直接の関与を認めるという意味においてCにとって不利な供述であり,しかも,自身の手帳に何らの記載が無いにも関わらず認めていることからすると,同人の供述は信用できると主張する。
 Cの公判供述は,自らが公的証明書を厚労省から直接受領したという自身の直接の関与を認めるものであり,無罪主張しているC自身にとって不利益なものである。
 また,手帳その他客観的証拠にも,Cが,被告人から,公的証明書を受け取ったことを裏付けるものはないにもかかわらず,Cは,一貫して,被告人からの交付を認めている。
 更に,これまで前科もなく,一般的な社会生活を送ってきており,特に,被告人に対して,悪意を有しているとはみられないCが,捜査段階から,一貫して,本件への関与を否定し,公的証明書をCに交付したことを強く否定している被告人の面前で,実際には,被告人から交付を受けたのではないにもかかわらず,被告人から交付を受けたとの虚偽供述をなすということは,一般的には想定しがたいともいえる。
 以上によれば,この点に関するCの供述は,この観点のみからは,信用性が認められるとみることができる。
 他方,Cの手帳によれば,Cは,本件当時,勤務会社の関係も含め,多くの人物と接触し,官公庁や公共団体のみでも,多種多様な人物,組織と接触していることが窺われ,また,本件当時,「aの会」の件は,Dらが中心で,Cは,Dに言われるままに関与しており,さほど大きな関心を有していたとまではみられないことなどに照らすと,本件に関する記憶(特に,手帳などの資料がない部分)は,希薄になっており,記憶の混乱や,想像が記憶に定着したという可能性も想定できないわけではない。
 現に,自己の手帳の2月25日午後1時のFとの面談は,手帳の記載により記憶がよみがえったものとみられるが,日程変更などについての記憶は全く存在しない状況となっていた。
 更に,関係証拠によれば,本件公的証明書が,「aの会」からの資料提出や正式の決裁なしで作成,発行されたものであり,それが,厚労省から,何らかの方法で「aの会」側に渡り,「aの会」から郵政公社に提出されていたことは客観的事実として捜査段階から明らかになっていたことが認められる。Cは,平成16年当時,「aの会」の会長という立場にあった者であり,厚労省から,「aの会」に渡った経緯の如何を問わず,本件公的証明書が不正に発行,利用されたことについての責任を問われる可能性があったといえ,本件公的証明書の受領に関して自身の関与を認めることが,直ちに,Cの本件に関する罪責を基礎づけるとまではいいがたい。Cは本件以後,この公的証明書を基礎にして郵便法違反に及び,その容疑で逮捕中早い時期からこのような供述をしていたが,郵便法違反での関係では,その責任ないし違法性の意識を低めるような事情ともみることもできるし,本件でもFや被告人に対して不正発行の依頼まではしていないというCの供述状況も踏まえると,決裁なしで公的証明書が発行されていたことの認識を否定するCとしては,作成権者である被告人から受領したことは,公的証明書の違法性の認識を否定する方向にも働きうる事実ともみられないわけではない。
 なお,検察官は,不正発行に対する認識を否定するのであれば,本件公的証明書発行の担当者であったBから受領したと供述することでも足りると主張し,これも一理ある主張といえる。
 しかし,他方,Cは,Bと会ったことはないと供述していることからすると,いったん被告人から受領したと供述したCが,Bから受領したと供述を変更することはし難いともいえる。

b. また,前記のとおり,Cは,検察官とは打ち合わせの上で証言している事実を隠そうと,故意に虚偽の供述をしたものとみられ,その供述態度には,問題がないとはいえない。

c. 以上によれば,C自身及び被告人にとって不利益な内容を供述しているとみられることは,Cの公判供述の信用性を相当高めるものではあるが,これのみから,完全な信用性を認めるとまでは断じることはできないものである。

(エ) 「aの会」から資料の提出がなく,正式の決裁もなされないまま発行されたこととの関係(Bの単独犯行は不合理か)

a. 前述したように,「aの会」側にj協会を紹介した後,厚労省側から,「aの会」に対して,規約や名簿等の審査資料の提出を求めたとの事情は窺われない。
 前記認定事実のとおり,企画課内部における公的証明書発行の際の審査は,書面審査であり,実地調査等は行われていなかったのであるから,書面の提出を受け,それを基に審査を行って決裁をして発行することは困難なものとはいえない。仮に,被告人において,「aの会」に障害者団体としての実体がなくとも,証明書を発行することにしたのであれば,規約や名簿,刊行物などの形式的な書類を提出させた上で,審査の形だけ整えるということが想定される。本件の場合には,「aの会」は,それらの規約,名簿,刊行物を一応整えて所持しており,これをj協会に提出して,承認を得たという状況にあったのだから,それらの資料提出は容易なことであった。
 公的証明書の最終決裁権者であった被告人としては,審査資料の提出を受け,それに基づいて自ら決裁をして公的証明書を発行してしまえば,少なくとも,審査資料の提出なく,正式な決裁をしないまま発行することに対する非難は回避できることになる。
 いかに有力国会議員であるFから話のあった案件としても,いわゆる政策案件ではなく,しかも,Fの政治家としての活動とも直接関連するともみられない,Fの一秘書の行う団体に関する事項について,被告人において,そのような非難を受けるリスクを負ってまで,審査資料の提出を求めることなく,正式な決裁をしないまま公的証明書を発行する必要性があったというには疑問が残る。検察官の主張する事実経過によると,審査資料の提出もなく,正式の決裁もなされないまま発行されたのが自然で合理性があるとはみられない。
 これに対し,Bの公判供述のように,最終決裁権者であった被告人からの指示もない状態で,Bが,被告人の指示を受けることなく,独断で本件公的証明書を作成したのであるとすれば,審査資料を整えたとしても,ひとたび「aの会」に対する公的証明書発行の事実が公になれば,正規の決裁を受けていないことが発覚し,審査資料の提出を受けたり,正式の決裁があるように装ったとしても,独断発行したことについて,厚労省内で処分を受け,場合によっては刑事責任を問われることには変わりがないのであるから,Bにとっては審査資料を整える必要性は大きくないことになる(なお,後述するように,Bは,稟議書類を事後的にチェックするシステムはないと考えていたとみられることからすると,正式の決裁を装う必要性自体が高いと考えていたとはみられない。)。Bの公判供述によれば,「aの会」からの資料の提出がなく,正式の決裁もなされないまま発行された理由について,説明は可能である。
 したがって,「aの会」からの資料の提出がなく,正式の決裁もなされないまま,本件公的証明書が発行されたということ自体は,Bの公判供述により符合する事情ともいえる。
 これに対し,被告人から交付を受けたとのC供述は,被告人のBへの指示を前提とするものであるから,上記の点には符合しないことになる。

b. なお,検察官は,「Bの公判供述によれば,Nからの引継も上司からの指示もなく,しかも,『aの会』に対して不審を抱いてもいなかったというのであれば,『aの会』の案件は,特段の配慮の必要のない通常の審査案件となるはずであり,Bとしては,『aの会』に対して審査資料の提出を要求し,これが提出されなければ公的証明書の発行を拒めば足りるはずである。それにもかかわらず,Bは,審査資料の提出を求めることもなければ,正式の決裁を経ることもなく,誰にも相談しないまま独断で公的証明書を発行したというのであるが,そのような不可解なことをした理由については,合理的な説明をしておらず,その公判供述は,不自然,不合理で信用できない。」旨主張する。
 そこで,この点について検討する。
 一般人の行動という観点からは,検察官の主張は,相当なものともみられる。
 しかし,前記認定事実によれば,Bは,5月中旬ころ,被告人ら上司をはじめ他の者には全く相談せずに,独断で,虚偽の稟議書等を作成し,「aの会」にファクシミリ送信している。
 このような行為をなすことも,検察官主張のとおり,ある意味「不可解な行為」であるとともに,「合理的な説明」がなされているともいえない。
 検察官主張のように,「aの会」の案件が,企画課内で,議員案件として,公的証明書を発行する方向で,組織的に対応することになっていたのであれば,Bが,他に全く相談することなく,虚偽の稟議書等を作成する(しかも,iの件の正規の稟議書の写しを利用し,年月日欄や件名欄や一部の印鑑を消却した上で,新たに一部を書き換えるなどそれなりに手間を掛けた方法で。)というのは,不可解であり,かつ,合理的な説明をなし得るものとはいえない。
 Bは,自己の性格と行動について,公判で,次のとおり供述する。
 「私は,上司に,『aの会』の案件について,相談しようと思わなかった。これは,自分の性格的なものだと思う。何でも一人で抱え込んで,堂々巡りになって,結局,にっちもさっちもいかなくなるというようなことが前にもあった。報告とか連絡とか相談とかは苦手だった。」
 検察官において,Bが,独断で行ったことを認めている虚偽の稟議書等の件も,このようなBの性格や行動傾向を前提にすると,Bの行動様式としては,理解できるものである。そして,虚偽の公的証明書を独断で発行するというのも,一般人の行動様式を前提にすれば,不自然,不合理とは解されるものの,虚偽の稟議書等を独断で作成するようなBの性格,行動傾向を前提にすると,必ずしも不自然,不合理なものとはいえない。
 そして,本件後の平成19年3月ころと平成20年3月ころに,Bが,正規の決裁を経ることなく,大臣印を用いて,大臣作成名義の補助金関係の公文書を偽造したことも,これに符合するものといえる。
 これに対し,検察官は,大臣印の無断使用の件は,申請自体はきちんとしたものがあり,時期的に間に合わないという問題があったに過ぎず,結果として補助金の金額を増減させるものではなく実害が少ない案件であったことからすると,比較的心理的抵抗感が小さく,それとの比較において,本件は心理的抵抗感がはるかに大きかったと主張する。しかし,Bは,国立zで勤務していた際の経験から,低料第三種郵便制度は,障害者の方が,かさばる点字やテープを安く送れるという制度であると考えていたと供述しており,これ自体は不自然とはいえず,Bは,公的証明書が悪用され,実害が生じるとまでは考えていなかったものと認められることなどからすると,必ずしも,心理的抵抗感が大きかったとはみられない。
 また,検察官は,本件公的証明書は企画課長であった被告人の名義で作成されるものであり,Bが資料提出もなく独断で発行することは,Bにとって,後にこれが発覚した場合に厚労省内での責任のみならず刑事責任まで問われかねないリスクのある行為であるが,Bに,そのような行為に及ぶ必要性はないこと,「aの会」の案件は,被告人を含む企画課内で複数の者が了知していた案件であったことからすると,必要な審査資料もなく「aの会」に公的証明書を発行することについて,被告人の指示あるいは了解があり,Bにおいて,被告人からとがめられることなく,また,外部に露見することもないとの確信がなければ実行不可能であると主張する。
 しかし,Bは,公判で,「決裁終了後の稟議書と資料綴りは,後で,誰かがチェックするというシステムはなかった。」と供述しており,本件以外の公的証明書の発行に関する稟議書類の保管状況等に照らして,当該供述は不自然なものとはいえず,これに疑いを入れるような証拠は見当たらない。このように,Bは,稟議書類綴りを後にチェックするというシステムはないと考えていたと認められること,実際に,平成18年にDからの解散届を契機に企画課担当者が本件公的証明書に関して調査した際にも,資料の提出や決裁文書が見当たらなかったにもかかわらず,本件公的証明書の不正発行が発覚したとはみられないことからすると,独断で発行するとしても,それが発覚する可能性が高いとはみられず,Bもそのような認識を有していたと認められる。
 以上からすると,検察官の上記主張には理由がない。

c. なお,Bは,公判において,稟議書等を作成して,「aの会」あてにファクシミリ送信した理由について,「企画課長の公印が押された公的証明書は重要なものであり,無審査で発行してはいけないという意識が強かったことから,出したくはないが,相手の追及をかわすための方便だった。」,「先送りしようという発想から行ったものである。」旨供述する。
 そして,検察官は,Bの公判供述中,上記部分に限っては,審査資料すら提出されていないものの,「aの会」の案件が,「議員案件」であったことから,公的証明書の発行を拒むこともできず,板挟みとなって思い悩む中の苦肉の策として,心理的負担の少ない虚偽の稟議書等を作成,送付したと考えられるということで,自然かつ合理的である旨主張する。
 しかし,検察官主張のように,本件が,課内で公的証明書を発行する方向で組織的に対応することになっていたのであれば,Bが,他に相談することなく,虚偽の稟議書等を作成,交付するということ自体に合理性があるとはいえない。
 また,検察官は,Bは5月中旬ころ,いったん虚偽の稟議書等を作成してまで公的証明書の発行を先送りしようとしながら,その後,1か月もたたずに本件公的証明書を作成したことからすれば,被告人等の指示があったが故にBが本件公的証明書を作成したとしか考えられず,Bの公判供述は,この点を合理的に説明できない旨主張する。
 検察官の主張は,要するに,Bの供述するように,本件公的証明書を独断で作成,交付することができたのであれば,稟議書等作成時点で,公的証明書自体を作成したはずであり,わざわざ先延ばしにする必要はなかったのであるし,また,先延ばしにしたはずであるのに,その後,ごく短期間で本件公的証明書の作成に及んでいることからすると,改めて上司の指示等があったとしか考えられないというものである。
 確かに,検察官の主張も,これらの事実から推論され得る事実経過の一つとしては成り立ち得ないものではない。
 もっとも,前者(先延ばしの必要性)の点に関しては,Bは,「結局,証明書を自分で勝手に出してしまうことになるが,そこに至るまでに,先送りをしようという発想があり,いかにも決裁が途中までなされているよう装い,『aの会』側をなだめ,落ち着かせるために,作成した。稟議書は適当に作ってもいいだろうって思っていた。企画課長の公印がついているものとは区別して考えていた。稟議書を作ったときには,ちゃんと決裁をとれば何とかなるという気持ちも,もしかしたらあったのかもしれない。」旨供述しており,社会参加係長としての他の仕事に追われ,「aの会」の案件への対応が遅れている中で,「aの会」からの催促等に対して,公的証明書を独断で作成するか,稟議書等作成後に正式の決裁をとり,公的証明書を発行するかを決めてはいないことから,とりあえず,稟議書等を作成,送信することで対応しようとすることも,当時のBの心理として考えられないものではない。
 また,後者(短期間での発行)の点についても,稟議書とともにファクシミリ送信されたB名義の文書は,「『aの会』に係る低料第三種郵便物の許可申請手続きについては,近日中に滞りなく進めることとなっております。」との内容であり,少なくとも長期間先延ばしにできるような内容ではない。加えて,稟議書も,決裁ラインのうち,社会参加推進室長の決裁までは終了し,残りは総務係長,企画課長補佐,企画課長の決裁を残すのみの体裁であったことからすると,それらの書面のファクシミリ送信後,それほど長期間手続を遅らせることができるものとは思えない(なお,iに対する公的証明書の決裁書類においては,平成15年11月10日に起案がなされ,同月18日に最終決裁が終了しており,Bは,この点を認識していたとみられる。)。
 それらの文書をファクシミリ送信してから,被告人等の指示が無くとも,1か月もたたずに(2週間ほどで)本件公的証明書を作成することは,不自然とまではいえない。
 また,前記のように,「通知案」と題するフロッピーのデータ内には,稟議書の通知文書の他,本件公的証明書の発番号は入っていないものの,日付欄に「平成16年5月_日」とは入力されているデータがあり,このデータは,被告人の指示とは関係なく,Bが作成していたものと認められ,これによれば,稟議書の通知文書を作成した時点では,被告人の指示等とは関係なく,B自身,5月中には公的証明書を作成する意思であったことが窺われる。
 したがって,稟議書等の作成,送信の事実も特にBの供述と矛盾し,その信用性を否定する要素にはならない。

(オ) Bが独断で公的証明書を作成し,Dに交付したことと符合する事情の存在について

a. 本件公的証明書の作成状況との符合性

 前述したとおり,Bは,6月1日午前1時ころに本件公的証明書のデータを入力し,翌朝8時ころ,当該データを印刷した上,公印を押捺するなどして本件公的証明書を作成した。公印の使用は,本件公的証明書の決裁ラインにいる上司らが了解した案件であれば,そのように人目を避けるような時間帯に行う必要は乏しいといえる。したがって,当該事情は,被告人等の指示はなく,独断で本件公的証明書を作成したとするBの公判供述により整合するものといえる。
 この点,検察官は,被告人の指示等があったとはいえ,何らの審査資料もなく,正規の決裁手続を経ずに公的証明書を発行する状況に変わりなかったのであるから,Bとしては,その作成に相当重い心理的な負担があったとみるのが自然であり,しかも,その案件について,企画課の全職員が承知していたわけでもなかったのであるから,Bとしては,事情を知らない他の企画課の職員にまで見られるのは好ましくないと考え,他の職員の目を避けたいという心理から,人目を避けようとすることは,被告人の指示等によって本件公的証明書を作成したことと整合するとも主張する。
 しかし,検察官主張事実及び検察官が信用できるとする証拠によれば,「aの会」に公的証明書を発行する方向で処理することは,被告人,M,Hなど,本来の決裁ルートの主要な人物は了解していたというのであること,事情を知らない他の企画課の職員に見られたとしても,その者らが,Bを見とがめるということは基本的には想定されず,仮に,事情を聞かれた場合は,Bは,発行名義人である被告人の決裁があると答えれば足りるはずであること,仮に,正規の決裁手続をとらないで公的証明書を発行することについて,事情を知らない企画課職員に見られることを危惧するのであれば,Bが,被告人に公的証明書を渡すことや,被告人がCを企画課執務室に来訪させ,室内でCに公的証明書を交付するということ自体も,Bあるいは,被告人において,危惧するはずともみられることなどを併せ考えると,前記検察官の主張は,採用できない。

b. BがDと厚労省以外の場所で会うということは,Bが独断で公的証明書を作成し,Dに交付するということと符合すること

 DとBが,厚労省の執務室以外の場所で会ったことについては,D,Bの供述とも一致している。
 Dは,前記のとおり,Bに,公的証明書を早く交付して欲しいと依頼するために,Bと会った旨供述する。
 しかし,そのような用事であれば,それ以前のCの厚労省への訪問状況等に照らすと,厚労省の執務室(社会参加推進室)内で面談すれば足り,執務時間中に,わざわざ,執務室以外の場所で待ち合わせて,喫茶店に行き話をする必要はない。
 これに対し,Bが,公判で供述するように,「aの会」の案件が,組織的な対応をしているものとは考えていなかった上,Bが,虚偽の公的証明書を独断で作成し,交付しようとしていたのであれば,執務室以外で待ち合わせ,外部の喫茶店に赴き,そこで交付するというのは,自然で合理的であるといえる。

c. q株式会社問題との関係

 前記認定事実によれば,5月17日,衆議院決算行政監視委員会第三分科会において,q株式会社を設立したr協会発行の機関誌に,qと関係のない広告を掲載し,低料第三種郵便物制度を利用して送付することにより広告料収入を得て資金集めをしていることは,低料第三種郵便物制度の悪用につながるなどとd党議員に追及され,Lは,政府参考人として,指導していきたいなどと答弁しており,被告人は,Lの答弁内容については目を通していたこと,被告人の業務日誌の「5月19日(水)」の欄に,「T先生」,「q株式会社は問題。幹部は全員更迭だ。」などの記載があり,被告人は,この点について,「t党の障害者問題の責任者であったT先生に呼ばれて,『おまえのところがちゃんと監督しないといけないんだ。』としかられたという記述である。」と供述しており,この供述自体は不合理ではなく,6月2日には,q株式会社の関係で,企画課長名で発番号が付された文書まで出されている。
 検察官は,Lは,当国会答弁は,違法なことについて執拗に追及を受けたものではなく,それほど大変な答弁ではなかった旨供述していること,被告人も,qがらみの週刊誌の記事を見たことがあるものの,その記事やLの国会答弁を,企画課が所管していた公的証明書の発行業務と結びつけて考えたことはなかった旨供述していることからすると,当該問題が,本件公的証明書の発行を思いとどまらせるような契機とはなり得なかったと主張する。
 確かに,この問題は,公的証明書発行自体に関する問題ではない。
 しかし,低料第三種郵便物制度を悪用するという点では本件と共通している上,被告人の業務日誌には,前記のとおり,国会議員がその問題を指摘していたことを窺わせる記載があること,本件公的証明書が厚労省から「aの会」に渡った時期と近接した時期に,企画課長名で文書が出されていることからすると,被告人は,5月から6月はじめの時期に,「aの会」の案件についての認識があれば,当該問題と「aの会」の案件が全くつながらないとは考えにくい。そして,そのような状況下で,被告人が,障害者団体としての実体自体が疑わしい団体に資料提出も決裁もなしで公的証明書を発行するという更に問題性の大きい行為に及ぶこと自体が不自然とみることができる(なお,これに対し,Bは,公判で,当時,q問題について,認識があった旨の供述はしておらず,Bは,この問題の国会答弁等とは関係がなかったことに照らすと,この供述は不自然とはいえない。同供述を前提とすると,Bは,q株式会社問題を認識しておらず,この問題の存在が,公的証明書不正発行の自制につながるものではない。)。以上によれば,この点は,被告人の指示による発行に対する疑問を生じさせるという意味で,Bの公判供述により整合するものといえる。

d. BとDの関係

 Dは,「aの会」の公的証明書の案件で中心的に活動していた者であり,しかも,以前から,BとDは,電話で連絡を取っていた関係であること,Dが,Bに対して,公的証明書の早期の発行を強く要請していたことに照らすと,Bが,Dに,公的証明書を交付するというのは,不自然,不合理でない。

(カ) C供述の信用性に関するその余の点について

a. あいさつの必要性

 検察官は,Cは,被告人と直接あいさつをしたと述べており,その経緯を踏まえると,Cが,本件公的証明書を受領するのがごく自然な成り行きであると主張している。確かに,被告人と直接あいさつをした経緯から,Cが直接受領するということも,それ自体としては自然なものといえる。しかし,Cが被告人と直接あいさつをしていたとしても,そのこと自体から,Cが被告人から直接受領することが必然的に導かれるものではない。
 前述のように,6月1日は,Cが厚労省へ赴き,公的証明書の交付を受けるのは不可能であったとみられるから,C以外の者が,厚労省に取りに行くということを否定せしめるような事情とはみられない。

b. 供述経過,供述態度等について

 検察官は,Cは,記憶があいまいな部分とそうでない部分を峻別して供述していることからも,Cの供述は信用できると主張する。
 Cは,受け取った証明書の色や特徴など,当時の状況について相当に具体的に供述する部分がある一方で,「aの会」から電話を受けてから,厚労省を訪れるまでの経緯や,公的証明書を取得した後の状況についての供述を変遷させているなどの事情があるほか,6月上旬の自己の手帳の記載を見て,厚労省へ出向いたとは考えられないなどと矛盾した供述を繰り返すなどしており(その根拠が,出向いた旨の記載がないことと述べていることからすると,混乱によるものとみられる。),その供述の状況や態度等は良好とはいえないのであって,記憶があいまいな部分とそうでない部分を峻別しているかのように供述していることを,信用性を高める事情として評価することはできない。むしろ,記憶自体が混同している可能性も否定はできない。

(キ) B供述の不自然,不合理性について

 検察官は,@Bは,「aの会」及び公的証明書の件についてNから引き継ぎを受けたことはなかったとしながら,「aの会」から連絡を受けた際に,Nや上司に相談・問い合わせをしていないと供述していること,A「aの会」について怪しい団体だと思っていなかったにも拘わらず,審査資料を求めなかったと供述していること,B郵便局に提出するものであることを知りながら,発覚することはないと思っていたと供述していること,C日付を遡らせて作成した経緯について供述をなしていないこと,DDに本件公的証明書を交付する際に初めて,Fの名前を聞いたにもかかわらず,それほど驚かず,同人から後日連絡が入るかもしれないと不安に思ったりもしなかったと供述し,しかも,Dに交付した際,Dからパンフレットを見せられた旨供述していること,E後付けの決裁等に関する供述について変遷があり,明確な供述をしていないことから,Bの公判供述は,不自然,不合理であると主張する。
 しかし,@の点については,場面Aにおける検討で論じたとおり,組織的対応,Bが上司らに相談していたこと等と矛盾する事情がみられるし,Nからの引継においても,Bが,「aの会」の案件について,十分に認識していなかった可能性が残ることからすると,Nに尋ねるなどしていなくとも,特段不自然とはみられない。
 Aの点については,前述したとおり,Bの公判供述によれば説明は可能であって,この点が不合理とはいえない(むしろ,被告人の指示による発行という検察官主張と整合しない面が強い。)。
 Bの点についてみても,前述したとおり,Bは,本件当時,公的証明書が悪用されることまでは考えていなかったものと認められる。また,交付先である「aの会」において,平成16年当時から,大量のダイレクトメールを送付するなどの方法で悪用されていたとの事情があるにもかかわらず,結局5年近くの間,決裁なしで本件公的証明書が作成されたことは公になっていないという結果を踏まえると,悪用されないと考えて,偽造の事実が発覚しないと安易に考えたとしても,特に不自然というわけではない。
 Cの点については,前述したとおり,作成日付が5月18日である文書ファイルに,日付欄に「平成16年5月日」と記載された公的証明書とほぼ同内容のデータが保存されており,そのデータ作成時点から5月中の日付で作成することを想定していたとみられることに加え,Bが本件公的証明書のデータを作成したのは,6月1日の午前1時ころであり,公務所等の作成する文書の作成日と交付日がある程度離れたとしても不自然ではなく,実際に交付が可能となる6月1日からみても,5月28日は4日前(同月29,30日がそれぞれ土曜日,日曜日であり,勤務日では2日前)に過ぎず,作成日として5月28日を設定し,特にそのことについて記憶していなかったとしても不自然ではない。
 Dの点については,単にFの名前を聞いたというだけでは,Fが本件に関して関与しているかどうかも分からず,仮に関与していた案件であったとしてもその態様は様々であるから,必ずしも,名前を聞いたことから,驚き,厚労省に連絡が入るかもしれないと不安に思わなかったとしても,それ自体不自然とはいえない。また,Dから,パンフレットを示されたという点についても,既に交付する段階に至っていたとしても,「aの会」に実体がないことを認識していたDが,発行担当者であるBに対し,「aの会」の活動について再度アピールするということもあながち不自然な行動とはいえない。
 Eの点については,後付けの決裁,あるいは,審査資料だけでも事後的に取り繕うかどうかという点に関する供述についても,本件当時から証言時点までの期間の長さやそれに伴う記憶の減退に鑑みると,その当時の心境等について記憶があいまいになることは不自然ではない。

(ク) 利害関係

 検察官は,@被告人の面前であったこと,A厚労省関係者(とりわけ,自身と同じノンキャリア)に配慮せざるを得ない状況にあったことから,Bは,公判廷においては,真実を供述することができない状況にあったと主張する。
 以下,この点について検討する。
 被告人は,Bの上司であったもので,公判で事実を否認しているのであるから,その面前で,被告人の不利益になることが言いづらいというのは,一般に想定することはできる。しかし,Bは,公判廷において,本件公的証明書,虚偽の稟議書等の作成及び大臣印の無断使用について,いずれも認める内容の供述をしており,Bはこれらの事実により,将来において,懲戒処分を受けることを十分認識している。また,被告人は,本件当時,Bの上司であったが,現在Bと特段の関係はなく,Bの人生に直接影響を与えるような立場や状況にあると認めるに足りる証拠はない。
 以上によれば,被告人及び厚労省関係者に配慮しなければならない理由は必ずしも高いものとはいえない。
 また,厚労省関係者(とりわけノンキャリア)に対する影響という点についてみても,Bの公判供述を前提にしても,厚労省内部における不祥事という点では変わらないのであり,これに対する世間の非難等にそれほど大きな違いがあるということには疑問があり,この点から,真実を供述することができなかった状況にあったとは考えにくい。
 更に,捜査供述が上司に指示され,上司が作成名義人の虚偽有印公文書を作成,行使したというものであるのに比し,公判供述は,自ら単独で,上司名義の公文書を偽造,行使するというもので,公判供述の方が,一般に,犯情は悪いとみられるものであり,自己の刑責軽減という観点から,そのような供述をすることも考えがたい。

(ケ) 小括

 以上によれば,C,Bの公判供述については,次のような評価をなすことができる。
 Cの公判供述は,6月1日に公的証明書の交付が不可能という意味で,客観的データの存在に反する不合理なものであり,この一事をもってしても,その信用性は相当に低下するといわざるを得ない。
 C本人,被告人の利益に反するものであることは,C供述の信用性を相当に高めるものではあるが,これのみから絶対的な信用性を認めるまでには至らない。
 Bの公判供述は,公的証明書のデータという客観的証拠に符合する。
 6月10日に公的証明書が郵便局に提出されていることは,6月1日に,Bが「aの会」側に公的証明書を交付したことを否定せしめるものではない。
 Bが,被告人の指示を受けず,独断で公的証明書を発行することは,一般人から見ると不自然であるが,稟議書等の独断発行などに照らすと,Bの行動傾向からは不自然とはいえない。他方,q株式会社問題が国会においても問題にされ,それを被告人においても認識している中で,団体の実体自体が怪しい団体に資料提出,決裁もなく,公的証明書を発行するという更に問題性の強い行為に被告人が及ぶということは不自然とみられる。
 その他,検察官,弁護人が主張する要素は,いずれかの供述の信用性に大きな影響を与えるものではない。
 以上に照らすと,Cの公判供述は,Bの公判供述以上に信用性が高いものとはみられない。

イ.Dの検察官調書及び公判供述の信用性について

 Dは,公判廷で,検察官調書の内容が正しいとも供述している。また,自身が,Bから,本件公的証明書を直接受領したことに関しては,明確に否定しており,その点では,検察官の主張する事実経過と合致する供述をしている。そこで,Dの検察官調書及び公判供述の信用性について検討する。
 Dの供述は,前記のとおり,Bと会ったのは,厚労省の執務室以外で1回だけであるというものであるが,これは,公的証明書の交付を受けたのではなく,公的証明書を早く発行するよう要請した際であるというものである。
 しかし,この点は,前述のとおり,そのような用件であれば,何故,厚労省の執務室以外で待ち合わせて,喫茶店に赴いて行うのか不自然である。
 また,Dは,公判廷において,本件公的証明書が,厚労省から,「aの会」側に渡った経緯について,きわめてあいまいな供述をしている。Cに,公的証明書の発行に関し厚労省等を訪れるよう依頼する他,j協会との交渉を担当するなど,「aの会」の活動及び本件公的証明書の取得に関して,「aの会」内部において中心的に活動していたといえるDが,本件公的証明書の取得がなされた経緯について,全く知らないということは考えにくく,Dの供述は不自然とみられる。
 以上のとおり,Dの検察官調書の供述及び公判供述は,いずれもその信用性に疑問を入れる事情がみられ,Bの供述を否定せしめるほどの信用性は認められない。

ウ.Lの検察官調書の信用性について

 Lは,公判で,場面Cに関する自身の検察官調書の供述については明確に否定している。
 そこで,Lの検察官調書の信用性が問題となる。
 2月下旬ころの段階で,Fからの要請が,Lから被告人を通じて担当者に下ろされていたとした場合,最終的に発行される見通しがついた段階で,被告人からLに報告がなされるということは,自然であるといえる。
 また,検察官調書に録取された供述内容もそれなりに具体的なものとなっており,その内容は,L自身や被告人にとって不利益な内容であるといえる。
 Lの捜査供述は,それ単体としてみると,特に不自然,不合理ではない。
 しかし,Lの検察官調書は,被告人が,公的証明書を出すことになったので,被告人から,Cに連絡するという内容となっており,これは,C供述と符合するものであるが,前記のとおり,公的証明書のデータ等の客観的証拠に照らして,被告人が,Cに,公的証明書を交付するということは不合理な点がある。
 そして,被告人の指示を受けず,独自に公的証明書を作成し,「aの会」側に渡したとのB供述も,それなりの信用性を有しているものであり,L供述は,これに反することになる。
 他方,L供述には,B供述を否定せしめるような客観的証拠,事実に基づく裏付けは見当たらない。
 Lは,本件当時,多くの政治家と接触があり,多くの依頼ごとを引き受けていたこと,Lは,主観的には,Fと親しい関係にあったと考えていたこと,平成16年当時の状況から,Fが公的証明書の関係で厚労省に電話をするとすれば,Lである可能性が高いとLは考えていたとみられること,本件から,捜査が行われた平成21年当時までは,約5年間経過していたことなどの事情に照らすと,Lが,Fから,電話で依頼を受け,その後,電話で回答したものと思い込むということも想定できないものではない。
 以上によれば,Lの検察官調書には,B及び被告人の公判供述の信用性を否定せしめるほどの信用性は認められない。

エ.M,Hの検察官調書の信用性について

 M,Hの検察官調書は,Lの検察官調書と同様,それのみをみると不自然,不合理とはいえない。
 ただし,Bが,Hに,6月になって,Hの検察官調書のような報告をしたのであるなら,なぜ,虚偽の稟議書等の作成,交付の段階については,Bは,Hに報告をしなかったのかという疑問が残る。
 また,前記Lの検察官調書同様,B供述を否定せしめるような客観的証拠,事実に基づく裏付けはない。
 HのMに対する報告についても,被告人の隣席のMに対して,Hが,「A課長なんかと相談してうまく処理してくれたようで」などと報告するというのも不自然な点が残る。
 以上によれば,M,Hの捜査供述には,Bの公判供述の信用性を否定せしめるほどの信用性は認められない。

オ.被告人の公判供述の信用性について

 被告人の供述は,Bの公判供述に符合するもので,客観的な証拠に照らして,不合理な点はない。

カ.その他

 なお,前同様に,当裁判所が,罪体関係の書証としては検察官の証拠請求を却下したが,非供述証拠として取り調べた検察官調書のうち,場面Cに関するものの信用性についても,念のため言及しておく。
 場面Cに関するCの検察官調書には,争点8で,検察官が主張する事実(Cの被告人への公的証明書の日付を遡らせた発行依頼と被告人の了承),Bの検察官調書には,争点9,11で検察官が主張する事実(被告人からBへの公的証明書の発行指示とBから被告人への交付)に符合する内容の記載がある。
 そこで,これらの記載について検討する。
 これらの記載内容は,Dの検察官調書の記載(6月8日ころのc郵便局からの指示を前提とする要請)を前提にするものであるが,前述したとおり,5月28日付けの本件公的証明書のデータを作成したのは,6月1日の午前1時ころ(5月31日の深夜と評価できる。)と認定できることからすると,6月5日又は7日ころに,Eからの指摘を受けたDからの要請で,5月中の日付で本件公的証明書が作成されたという点は,客観的事実に反する。上記の各検察官調書の記載は,当該事情と整合しない不合理なものとみられる。
 また,6月8日ころに,Eからの指摘を受けたDからの要請で,早くとも6月9日以降に,5月中の日付で本件公的証明書が作成され被告人からCに対して交付されたという内容自体,前述したとおり,C,被告人の手帳の記載と整合しないものである。
 その他,前記認定事実によれば,上記各検察官調書の信用性は高いものとはいえない。

(3) 結論

 以上の場面Cに限定した証拠の検討の範囲では,次のとおり,認定できる。

ア.証拠上認められる事実

 Bは,6月1日午前1時ころ,社会参加推進室の自席において,本件公的証明書のデータを作成し,同日午前8時ころ,当該データを出力・印字し,本件公的証明書を完成させた。

イ.単体では,証拠上認定するに至らない事実

 被告人は,Bに指示して,公的証明書を作成させ,これをBから受け取り,Cに渡した。
 被告人は,6月上旬ころ,Lに対し,「aの会」に対し,本件公的証明書を発行することになった旨報告した。
 Bは,6月上旬ころ,Hに対し,「『aの会』の件は調整がついて,終わりましたので。」などと報告した。
 Hは,6月上旬ころ,Mに対し,「F代議士から頼まれていた『aの会』の案件ですが,B係長がA課長なんかと相談して,うまく処理してくれたようで,公的証明書を発行することになりました。」などと報告した。

(次回に続く)

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