平成22年度旧司法試験論文式
刑法第1問・第2問の感想と参考答案

【第1問問題】

 甲は,かつて働いていたA社に忍び込んで金品を盗もうと考え,親友であるA社の従業員乙にこの計画を打ち明けて,その援助を依頼した。乙は,甲からその依頼を受けて,甲のために協力したいと思い,甲に「社員が退社した後に,A社の通用口の鍵を開けておくよ。」と伝えたところ,甲は,「助かるよ。」と乙に礼を言った。
 乙は,甲からあらかじめ告げられていた犯行の当日,乙以外のA社の社員全員が退社した後,甲に伝えていたとおり同社通用口の施錠を外して帰宅した。甲は,バールを持ってA社の前まで来たが,A社の中に人がいるような気配がしたので,急きょ計画を変更してA社の隣にあるB社に忍び込むことにした。そこで,甲は,B社に行き,たまたま開いていたB社の建物の玄関ドアから誰もいない建物内に入った。甲は,その事務室に入り込み,バールで金庫をこじ開け,その中から現金を盗み,更に金目の物がないかと室内を物色していたところ,机の上に積まれていた書類の束に甲の手が触れたため,その書類の束がB社の従業員丙が退社の際に消し忘れていた石油ストーブの上に落ち,これに石油ストーブの火が燃え移った。甲は,その書類の束から小さな炎が上がり,更にストーブの上から燃え落ちた火が床にも燃え移りそうになっているのを見て,今なら近くにあった消火器で容易に消せるが,このまま放置すればその火が建物全体に燃え広がるだろうと思いながらも,消火のためにここにとどまれば自分の盗みが発覚するのではないかとおそれて,その場からそのまま立ち去った。
 他方,帰宅途中であった丙は,石油ストーブを消し忘れていたことを思い出し,B社に戻り,その事務室に入ろうとしたところ,事務室の床が燃えているのを発見した。この時点でも,まだ容易にその火を消すことができる状況にあったことから,丙は,その火をそのまま放置すれば建物全体が燃えてしまうと思いつつ,今ならまだ近くにあった消火器で十分消せると考えた。しかし,丙は,その床が燃えているのは自分の石油ストーブの消し忘れが原因であると思い,自分の火の不始末が発覚するのをおそれて,その場からそのまま立ち去った。その結果,B社の建物は全焼した。
 甲,乙及び丙の罪責を論ぜよ(ただし,特別法違反の点は除く。)。

素直な問題

甲につき、不真正不作為犯(付随的に行為論)、行為後の介在事情の処理。
乙につき、幇助の因果性(肯定すれば錯誤論)。
丙につき、不真正不作為犯、独立燃焼状態の客体に対する放火既遂の成否。

長文ではあるが、事案はそれほど複雑ではない。
素直な出題だったといえる。

注意すべき点としては、意識してコンパクトに書くということである。
構成段階では、この程度の論点数なら丁寧に書いてよさそうに感じる。
しかし、不真正不作為犯と行為後の事情は、どちらも意外に紙幅を要する論点である。
これを意識できていないと、甲の部分だけでほとんどの紙幅を使ってしまいかねない。
そうなると、乙丙部分は白紙同然になってしまう。
論点自体は基本的なだけに、こういうところで大きな差が付きやすい。

甲については、窃盗と放火が、どちらも建造物侵入と牽連犯になる。
従って、いわゆるかすがい現象が生じる。
見落としやすいので、注意したい。
なお、近時、一事不再理効との関係でこの点が取り上げられた判例・裁判例がある。
広島高判平21・4・28とその上告審である最決平22・2・17がそれある。
両者は一事不再理効が及ばないという結論で一致するが、理由付けが異なる。
前者は権利濫用であるとし、後者は事実認定により牽連関係にないとした。
なお、後者の判例は、当サイトの司法試験平成22年最新判例ノート(詳細版)司法試験平成22年最新判例ノート(コンパクト版)に収録している。

(広島高判平21・4・28より引用、下線は筆者)

 刑事訴訟法337条1号は,「確定判決を経たとき」には,判決で免訴の言渡しをしなければならないと定めており,この確定判決の一事不再理の効力は,前訴の公訴事実の同一性の範囲内の事実に及ぶものと解されている。前訴の119号事件の建造物侵入,窃盗の訴因(以下,この訴因については「119号事件」の表示を省略する)と後訴の本件非現住建造物等放火の訴因とを比較対照すると,犯行日および犯行場所が同一である両訴因が一罪ではないかという疑問が生じるのであり,それを契機として,関係証拠にも照らし実体的に判断するに,前訴の建造物侵入は,前訴の窃盗および後訴の非現住建造物等放火の手段であり,前訴の窃盗および後訴の非現住建造物等放火は,前訴の建造物侵入の結果であるという関係にあるということになる。そうすると,これらの両訴因が,前訴の建造物侵入をいわゆるかすがいとして一罪の関係にあり,公訴事実の同一性が認められることは,所論の指摘するとおりである。
 しかし,本件の審理経過等をみると,前訴である119号等事件と後訴である本件非現住建造物等放火被告事件とは,もともと弁論が併合されていたにもかかわらず,弁護人の請求により,原裁判所が弁論を分離し,その後の前訴の審理においても,検察官の弁論併合請求が却下されたため,両者は別々に審理されて判決を言い渡されたという経緯がある。弁護人は,弁論の分離を請求して以後,一貫して,両者の弁論を分離して別々に審理することを求めていたのであるから,その時点では,両者を分離し,そのそれぞれについて審理がなされて判決が言い渡されることを当然の前提としていたと考えられる。そして,本件非現住建造物等放火被告事件の公判手続更新の状況や,第9回公判期日における弁論の内容,弁論再開後の第10回公判期日において,初めて一事不再理の効力に関する当事者の意見が述べられていることなどに照らすと,弁護人は,本件非現住建造物等放火被告事件について,判決で有罪無罪の判断が示されることを求めていたのであって,119号等事件との弁論の分離を請求した時点においてはもとより,第9回公判期日において弁論が終結された時点においても,一事不再理の効力を主張して免訴を求めることを全く考えていなかったことは明らかである。それにもかかわらず,前訴につき言い渡された有罪判決が先に確定したからといって,後訴において,前訴の確定判決の一事不再理の効力を主張して免訴を求めるのは,権利の濫用というほかなく,弁論の分離を請求した弁護人の意図がどのようなものであったかにかかわらず,刑事訴訟規則1条2項の法意に照らし許されないというべきである。
 加えて,前訴の窃盗の訴因と後訴の非現住建造物等放火の訴因とは,かすがいである前訴の建造物侵入の訴因を介しなければ,本来的には併合罪の関係にあり,前訴の建造物侵入の訴因と後訴の非現住建造物等放火の訴因とは,牽連犯として科刑上一罪の関係にあるものの,本来的には別罪であること,一事不再理の効力が前訴の公訴事実の同一性の範囲内の事実に及ぶと解されている法的根拠については,前訴の公訴事実の同一性の範囲で,潜在的に審判の可能性があったことや被告人が危険にさらされたことに求める見解が有力であるが,いずれの見地に立って検討しても,上記のとおり,弁護人が,前訴の建造物侵入,窃盗の訴因と後訴の非現住建造物等放火の訴因とを分離して別々に審理し,判決の言渡しを受ける途を敢えて選択したことなど,本件の事実関係の下では,両訴因が公訴事実の同一性の範囲内にあったとしても,実質的にみて,前訴の確定判決の一事不再理の効力を後訴に及ぼすべき場面であると解することはできない
 以上の事情を総合勘案すると,本件の事実関係の下では,前訴の有罪判決が確定したとしても,刑事訴訟法337条1号にいう「確定判決を経たとき」には該当せず,前訴の確定判決の一事不再理の効力は,後訴である本件には及ばないと解するのが相当である。

(引用終わり)

 

(最決平22・2・17より引用)

 所論は,別件建造物侵入と本件放火とは牽連関係に立つので,前訴の別件建造物侵入,窃盗の訴因と,後訴の本件放火の訴因の間には公訴事実の単一性があり,前訴の確定判決の一事不再理効は後訴に及ぶから,本件については刑訴法337条1号により免訴の判決をすべきであったにもかかわらず,原判決は,かかる主張を権利の濫用として排斥した上,被告人を懲役3年6月に処した第1審判決を是認したものであって,同号に違反し,ひいては憲法39条後段に違反すると主張する。

 そこで,前訴の訴因と後訴の訴因との間の公訴事実の単一性について検討する。
 まず,本件放火と別件建造物侵入の関係についてみると,第1審判決は,本件放火が行われたのは別件建造物侵入の際ではなく,これに引き続き行われた2回目の侵入の際であったと認定したが,これに対し,原判決は,別件建造物侵入(以下「初回の侵入」という。)の際に本件放火が行われた可能性がないとはいえないとした。しかし,第1審判決の上記認定は,記録に照らし,十分首肯できるから,この認定に事実誤認があるとした原判断は誤りであるといわざるを得ない。したがって,本件について検討するに当たっては,本件放火が行われたのは2回目の侵入の際であって,初回の侵入の際ではなかったことを前提とすべきである。
 そして,第1審判決の認定するところによれば,被告人は,初回の侵入において,現金等のほか,自らの不正行為に関連する文書が入った段ボール箱を持ち出した上,事務所を出る際,出入口の施錠をしつつ退去したというのであるから,その後に行われた2回目の侵入が時間的に接着したもので,初回の侵入と同様,証拠隠滅の目的によるとしても,新たな犯意によるものと認めることが相当であり,初回及び2回目の各侵入行為を包括一罪と評価すべきものとはいえない
 そうすると,初回の侵入行為と本件放火行為とは牽連関係に立つべきものではないから,憲法39条後段違反をいう所論は前提を欠き,刑訴法405条の上告理由に当たらない。本件について刑訴法337条1号を適用すべき場合に該当しないとした原判決は,結論において相当である。

(引用終わり)

もう一つ、見落とし易いのは、丙が来た時には既に床が燃えていたという点である。
すなわち、媒介物(書類の束)を離れて建物の一部(床)に火が移り独立に燃焼する状態になっている。
判例によれば、それが1尺(約30cm)四方程度でも既遂である。

最判昭23・11・2より引用、下線は筆者)

 被告人が原判示家屋の押入内壁紙にマツチで放火したため火は天井に燃え移り右家屋の天井板約一尺四方を焼燬した事実を認定しているのであるから、右の事実自体によつて、火勢は放火の媒介物を離れて家屋が独立燃焼する程度に達したことが認められるので、原判示の事実は放火既遂罪を構成する事実を充たしたものというべきである。

(引用終わり)

上記判例は、短答対策としても知っておくべき知識である。
そうすると、丙が戻って来たときには、放火罪でいう既遂の状態になっている。
そのため、丙がこれに重ねて放火既遂を犯しうるかという問題が生じることになる。
さらに、本問の場合は不作為であるという特殊性もある。
これをどう処理するか。
考え方としては、3つありそうである。

一つは、不能犯として不可罰にする考え方である。
新たな結果発生の危険のある行為はなしえないことが根拠となる。
本問の丙は、床が燃えていることを認識している。
従って、具体的危険説に立っても、実行行為性は認められないことになる。

もう一つは、作為犯については上記と同様であるが、不作為犯は既遂まで問えるとする考え方である。
これは、放火罪の結果発生が可逆的である(消火できる)ことに着目する見解である。
すなわち、消火の作為義務ある者が期待された作為をすれば独立燃焼状態を解消できる。
とすれば、それを怠ったことで初めて、独立燃焼状態が惹起されたと考えうる。
この説は、因果性を判断するに当たり、適法行為を付け加える考え方と結びつき易い。
すなわち、作為義務が果たされて消火された状態を、法の期待する正常な因果の流れと考える。
そうすると、消火を怠って独立燃焼状態が継続して全焼した場合、その因果性は、作為義務懈怠によって設定されたといえる。
従って、結果との因果関係も肯定できるから、既遂となるのである。
この考え方は、一見作為と不作為とで不均衡なようにも思える。
積極的に火をつければ不能犯で、黙って見ていれば既遂になるのはおかしい、ということである。
しかし、作為義務者が積極的に火をつける場合でも、消火を怠る意味で不作為がある。
作為義務者は、積極的に火をつけようが、黙ってみていようが、既遂になる。
逆に、作為義務者でないものは、積極的に火をつけても、黙って見ていても、不可罰である。
従って、不均衡とはならない。
(なお、消火活動中に積極的に火をつければ消火妨害(114条)となるから、常に不可罰になるわけではない。)

3つ目は、作為でも不作為でも既遂を問えるとする考え方である。
作為による場合、例えば、既に天井が燃えていても、更に床を燃やせば別個の独立燃焼状態を惹起したといえる。
また、不作為による場合、既に天井が燃えているのを放置して、更に床に火が回れば上記作為の場合と同じである。
これは、傷害の場合を考えると理解しやすい。
既に第三者に顔面を殴られて、負傷している被害者がいるとする。
その被害者をさらに殴打し、手足を骨折させれば、新たな傷害既遂だろう。
また、その被害者の救助義務を負う者が、これを放置したとする。
その結果、傷害が悪化して新たな生理的機能の障害(例えば失明)をもたらせば、不作為の傷害既遂となるだろう。
(保護責任者遺棄致傷となる場合もあるが、いずれにせよ傷害結果との因果関係は認められる。)
放火の場合も同様に考えようということである。

いずれにせよ、基本書等ではほとんど論じられていない部分である。
触れただけでも点が付くだろう。

なお、上記のことから、甲のところで行為後の事情は問題にならないようにも思える。
丙が戻って来た時には既遂であるから、丙の不作為は甲の因果関係に影響しないはずだからである。
しかし、問題文からは、行為後の介在事情が問われていると読み取れる。
従って、行為後の事情は書きたい。
また、既遂の結論は動かないとしても、帰責結果の範囲を確定する意味はある。
床を燃やした点までなのか、全焼まで帰責すべきなのか。
これは、財産罪ではよく問題になる。
例えば、恐喝で、喝取金の一部に正当な債権取立て部分を含んでいたという場合。
そういう場合、全体について成立するか、当該部分を除く部分しか成立しないか。
そこまで検討する必要がある。
それと同じである。
そう考えると、全く触れないというのも、問題がある。
さらに、論理的にも、丙の不作為を考慮するか。
考慮する場合に、それが因果関係に影響するか。
この二つは、区別できる。
とりあえず前者を検討し、それが肯定されて始めて後者を検討する。
そして、前者で考慮しないという結論になったため、後者は検討しない。
そういう手順でも、間違いではないだろう。
以上のようなことから、やはり行為後の事情は、書くべきである。

【第1問参考答案】

第1.甲の罪責

1.B社に侵入し、現金を盗んだ点につき、建造物侵入罪(130条)及び窃盗罪(235条)が成立する。

2.B社建物が全焼した点について、非現住建造物放火罪(109条1項)の成否を検討する。

(1)出火の直接的原因は、甲の手が書類の束に触れたことである。しかし、上記甲の所為は意思的ないし目的的なものといえないから、刑法上の行為ではない。

(2)他方、出火を認識しつつ立ち去った点は意思的ないし目的的な行為であるが、不作為であることからその実行行為性が問題となる。
 一般に、作為犯も不作為で実現できるが、不作為の範囲は無限定である。そこで、自由保障の観点から、作為義務、作為の容易性・可能性及び作為との構成要件的同価値性のある場合に限り、不真正不作為犯を肯定すべきである。
 本問では、前記(1)のとおり、出火の直接の原因は甲の所為にあり、また、当時甲以外に消火を期待できる者はいなかったから、甲には条理上自ら消火すべき作為義務があった。また、近くにあった消火器により、消火は可能かつ容易であった。そして、既に書類の束から小さな炎が上がり、更にストーブの上から燃え落ちた火が床にも燃え移りそうになっていたのであり、甲自ら消火に当たらなければ、B社建物を焼損させる現実的危険性があったから、作為と構成要件的に同価値と評価できる。
 よって、上記不作為の実行行為性を肯定できる。

(3)次に、因果関係を検討する。甲の不作為がなければ、すなわち、甲が消火すれば、B建物の焼損を免れたことは明らかである。問題は、その後、丙が出火に気付きながら消火せず放置した点が、因果関係を否定すべき異常な介在事情となるかである。

ア.因果関係を判断するに当たっては、行為当時、行為者が特に認識・予見した事実及び一般人の認識・予見可能な事実を基礎とすべきである。なぜなら、構成要件は社会通念を基礎とした行為規範だからである。

イ.本問では、甲は丙の存在を認識・予見していなかった。もっとも、誰かが出火に気付くことはあり得る反面、発見者が適切な消火をするとは限らないことからすれば、丙が発見しつつ消火を怠ったことにつき一般人ならば予見可能だったといえる。
 そうすると、丙が消火せず放置した点は、因果関係を否定すべき異常な介在事情とはならない。

ウ.よって、甲の不作為とB社建物の焼損との間の因果関係は肯定できる。

(4)そして、甲は、火が建物全体に燃え広がるだろうと認識しつつ、これを認容して立ち去ったのであるから、故意がある。

(5)以上から、非現住建造物放火罪が成立する。

3.よって、甲は建造物侵入罪、窃盗罪、非現住建造物侵入罪の罪責を負い、建造物侵入罪とその余の罪とは牽連犯(54条1項)となるから、全体として科刑上一罪となる(かすがい現象)。

第2.乙の罪責

1.乙は、甲の依頼を了承し、A社通用口の施錠を外した。この行為が、B社建物への建造物侵入及び窃盗の従犯を構成するか検討する。

2.共犯処罰の根拠は、正犯の惹起する結果への因果的寄与にある。従って、物理的又は心理的に正犯の犯行を容易にしたかという観点から検討すべきである。

(1)物理的因果性はない。A社通用口の施錠を外してもB社への侵入及び窃盗は容易にならないからである。

(2)また、乙が協力したのは、犯行場所が自らの勤務するA社だったためであり、それは甲もよく認識していたと考えられる。そうである以上、本問で明らかな乙の協力態様だけでは、甲において、A社以外の建物への侵入・窃盗を心理的に促進されたと認めるに足りない。心理的因果性も認められない。

3.よって、乙の行為は幇助の因果性を欠くから、従犯を構成しない。乙は無罪である。

第3.丙の罪責

1.B社に戻り、出火を認識しながら、消火せず立ち去った点につき、非現住建造物放火罪の不真正不作為犯を検討すると、ストーブの消し忘れという先行行為、B社の従業員という地位及び他に消火を期待できる者がいないという状況から作為義務があり、近くの消火器による消火が可能かつ容易で、放置すれば建物全体が燃えてしまう状況であったから、作為との構成要件的同価値性がある。従って、実行行為性を肯定できる。

2.もっとも、放火罪は、独立燃焼状態になれば既遂である(判例)。上記不作為時、既に事務所の床が燃えて独立燃焼状態に至っていた以上、因果関係を欠いて未遂となるのではないか。
 確かに、既に独立燃焼状態にある客体に対する作為の放火は、未遂の余地があるに過ぎない。しかし、不作為による場合はこの限りでない。なぜなら、期待された作為により独立燃焼状態を解消できる場合、不作為がなければその後の独立燃焼状態は生じなかったといえるからである。

3.よって、丙は非現住建造物放火罪の罪責を負う。

以上

 

【第2問問題】

 甲は,紳士服の専門店であるA社の営業担当者として高級紳士服の販売を担当していた。甲は,遊ぶ金に困ったことから,顧客から金銭を入手してこれに充てようと考え,A社を訪れたBに対し,Bのためにオーダースーツを製作する意思などないのに,「お客さん,良いオーダースーツをお作りいたしますよ。20万円で一着ご用意できます。」と持ち掛けた。日ごろから既製品のスーツに物足りなさを感じていたBは,甲の話を聞いて,オーダースーツなら注文してもよいと考え,「では,ひとつスーツを作ってもらおうか。」と言ってオーダースーツを注文することとした。そこで,甲は,Bに好みの生地を選ばせたり,Bの身体の寸法を測るなど,あたかもオーダースーツを製作するように装いつつ,「この生地ですと代金は20万円ですが,7万円を内金として預からせてください。スーツの出来上がりは今日から4週間後になります。」と言った。Bは,甲の言葉を信じて,その20万円のオーダースーツを注文し,内金として,現金7万円を甲に預けて帰って行った。しかし,甲は,直ちにその7万円全額をパチンコに費消した。
 その4週間後,甲は,Bに電話して,「スーツが出来上がりましたので,ご来店ください。」と告げ,BをA社の店舗に呼び出した。来店したBを出迎えた甲は,Bを店舗内に待たせたまま,その店舗から徒歩数分の場所にある既製服を保管している同社の倉庫に行き,同社の既製服部門の責任者であり,かつ,同倉庫における商品の出入庫を統括管理しているCに対し,「チラシの写真撮影用にスーツを1着借りていくよ。」と言った。Cは,甲のその言葉を信じ,「わかりました。でも,すぐ返してくださいよ。」と答えて甲が倉庫から既製品のスーツを持ち出すことを認めたため,甲は,Bが選んだ生地に似ていて,Bの体格に合ったサイズの既製品のスーツ1着(販売価格20万円)を選んで同倉庫から持ち出した。そして,甲は,店舗に戻り,待っていたBに対し,「ご注文のスーツでございます。」と言って,その既製品のスーツがあたかもB が注文したオーダースーツであるかのように見せ掛けてB に手渡した。Bは,その場でそれを試着したところ,自分の身体にぴったりだったので,そのスーツが既製品であるとは気付かずに,「これでいい。さすが注文しただけあって,着心地もなかなかだ。」などと満足して,その場で13万円を現金で支払い,そのスーツを持ち帰った。その後,甲は,この13万円全額を自分個人の飲食代として費消した。
 甲の罪責を論ぜよ。

論理を問う問題

第2問は、例年どおり各論からの出題である。
よく、各論は構成要件を丁寧に当てはめればよい、といわれる。
しかし、本問について、そのような解法をすべきでない。

各論で構成要件を丁寧に当てはめればよい、といわれるのは、多論点問題が多いからである。
多論点問題の場合、論点落ちを防ぐことが重要である。
構成要件ごとに検討すれば、論点落ちを防ぎ易い。
また、論点に気付かなくても、当てはめる過程で、結果的に触れたことになる場合が多い。
全く触れていない答案と比べると、よい評価になりやすい。

しかし、本問は論理を問う問題である。
既製品スーツや代金20万(7万と13万)について、それぞれいかなる財産犯が成立するのか。
それぞれの権利帰属の評価から、演繹的に結論を出せるかが問われている。
甲に所有も占有もなければ、占有者の意思に反するかにより詐欺か窃盗。
(占有者がいなければ占有離脱物横領)。
占有があれば、所有者に対する横領である。
また、先行する犯罪があれば、その不可罰的事後行為となるか。
本問の事実関係から、その辺りを認定・評価して成立犯罪を確定する作業が求められている。
逆に言えば、それだけを淡々と書いていけば足りる。
所有関係・占有関係を確定することなく、漫然と構成要件を当てはめる答案は、評価されないはずである。

既製品スーツについては、主として占有の帰属が誰にあるのか。
それが移転したのはいつか。
倉庫からの持ち出し時点で、Cの占有が甲に移転したとすれば、詐欺になる。
そうではなく、Cの占有が未だ及ぶとすれば、Bに渡した時点で窃盗になるだろう。
これは、試乗車の事例(東京地判平3・8・28)と同様の論点である。

代金については、まず、Bに対する詐欺となる。
代金相当である点は、最決昭34・9・28であり、典型論点である。
また、その後の費消が、A社に対する横領となるかも問題となる。
集金横領と集金詐欺の区別と同様の論点である。
すなわち、売上金として、一端A社に帰属した金銭を領得したと評価できるか、ということである。
正規の手続によったかどうかが、一つの区別基準である。
正規の手続で集金し、その後着服すれば(業務上)横領である。
他方、正規の集金ではないのに、集金を装って金を受け取れば、詐欺である。
本来の集金ではないから、その金は会社に帰属しない。
従って、その後の費消は、不可罰的事後行為となる。
本問の場合は、7万についても、13万についても、正規の手続とはいいにくい。
横領とはならないとするのが、素直なように思われる。
なお、甲が売り場で詐欺を行うのは、任務違背であり、背任となるのではないか。
そのようにも思えるが、上記のとおり、これは正規の販売とはいい難い行為である。
すなわち、与えられた処分権の濫用ではなく、単なる個人的犯罪行為とみるべきである。
従って、任務違背行為とはいえないから、背任は成立しない。
店員が客を殴り、会社に賠償義務を負担させるなどして財産上の損害を与えても、背任にならない。
それと同じである。

それから、問題文がわざわざ7万と13万で分けたのはなぜか。
7万円については、内金として預けたのに、引渡期日を待たずに費消した点を問う趣旨だろう。
すなわち、Bに対する横領の成否である。
この点については、一般論としては横領の余地を認めつつ、本問では不可罰的事後行為とするのが自然と思われる。
また、付随的に罪数の問題も生じる。
これは、客観的に1個の取引から生じた代金であるし、犯意も1個というべきであるから、包括評価するのが自然である。
併合罪にするのであれば、4週間という期間を強調することになるだろう。
1個の欺罔行為が継続していると見て、観念的競合とする考え方も、ないわけではない。

以上のようなことを、整理して書けるかどうか。
これが、評価を分けるポイントになると思われる。
構成要件を一つ一つ挙げて書こうとすると、上記の論理性を示すのが難しい。
欺罔行為があるか、錯誤に陥っているか、錯誤に基づく交付があるか、交付による占有移転があるか、(自説によっては財産損害の有無)、客観的に因果関係で包摂されているか、主観的に故意で包摂されているか、不法領得の意思はあるか。
こういったことを一つ一つ検討しても、ほとんどの部分が出題意図から外れてしまう。
効用としては、対価相当の論点を、錯誤に基づく交付といえるか(または財産損害)の検討で発見できる、という程度である。
細かくごちゃごちゃと書いていくことになるので、自分でも書いていてわからなくなってきやすい。
そういう場合、思わぬ論理矛盾を犯してしまうこともある。
新司法試験でも、平成21年の刑事系第1問の前半部分で、同様の論理性が問われている。
問題文を見て、多論点問題なのか、論理性を問う問題なのか。
見分けられるように、訓練しておきたい。

【第2問参考答案】

第1.内金名下に7万円預かった点

 オーダースーツの内金と欺いてBから交付を受けたから、一項詐欺罪が成立する。

第2.7万円を費消した点

1.Bとの関係

 一般に、金銭は民事上所有と占有が一致するが、特定の使途のため預かった金銭は、刑法上委託者の所有に属するとされる。そのため、内金として預かった金員を勝手に費消すれば買主に対する横領となりそうである。しかし、本問では内金は名目に過ぎず、預かった時点で詐欺罪が成立していることから、その後の費消は不可罰的事後行為である。
 よって、Bとの関係では犯罪は成立しない。

2.A社との関係

 7万円が刑法上A社に帰属すべきものと解すれば、その費消は業務上横領となりうる。しかし、本問で甲が正規の売上・入金計上をしたとすれば、直ちに費消して現実の入金がない以上、その日のうちに売上金と入金額に齟齬が生じるから、4週間を待つことなく発覚したはずである。従って、甲は正規の売上・入金処理をしなかったと推認できる。そうである以上、7万円が一度A社に帰属し、これを甲が領得したと評価すべきでない。業務上横領罪は成立しない。
 同様に、甲の上記行為は、営業担当者としての本来の任務と何ら関係のない行為というべきであるから、背任罪も成立しない。
 よって、A社との関係でも犯罪は成立しない。

第3.既製品スーツの持ち出し等について

1.既製品スーツの帰属

 既製品スーツの所有権の帰属は明らかでないが、A社にあると考えるのが自然である。そして、既製服部門の責任者であり、同倉庫における商品の出入庫を統括管理しているCが管理するものといえる。

2.甲が、Cに虚言を述べて倉庫から持ち出した時に甲への占有移転が認められれば、その時点で一項詐欺罪が成立しうる。しかし、甲は「借りていく」と言い、Cも、「すぐ返してください」と述べている。Cが既製品スーツの管理処分を甲に委ねたものではない。また、倉庫と店舗は徒歩数分の距離であり、店舗へ持ち込んだことによってCの管理を離れると考えるのも困難である。従って、この時点での占有移転は認められないから、一項詐欺罪は成立しない。

3.そうすると、甲がBに上記スーツを売却して引き渡した行為は、A社所有のCの管理に係る物の占有をその意思に反して移転するものであるから、窃盗罪を構成する。

第4.13万円の現金支払いを受けた点

1.Bは、甲に欺かれてオーダースーツの対価と誤信して支払ったものの、Bの受け取った既製品スーツは販売価格上Bの支払った合計金額相当の20万円の価値があり、また、Bもその着心地に満足している。そのため、一項詐欺の成否につき、財産上の損害がないか、または、錯誤に基づく交付とはいえないとして同罪は不成立とならないか。

2.まず、一項詐欺は背任と異なり条文上財産上の損害は要件とされておらず、交付による財物の喪失があれば足りる。従って、財産上の損害がないことから一項詐欺罪の成立を否定することはできない。

3.また、本問で、オーダースーツであるか既製品であるかは目的物の重要な属性であり、また、Bにおいて着心地がよければ同価格の既製品でも構わないとの意思をうかがわせる事実は何ら見当たらない。かえって、「さすが注文しただけあって」と述べており、着心地の良さ自体誤信に基づく感覚であることをうかがわせる。そうである以上、代金の交付は錯誤に基づくものであったといえる。

4.以上から、一項詐欺罪が成立する。

第5.13万円を費消した点

 Bとの関係では、前記第4の詐欺の不可罰的事後行為であり、A社との関係においても、写真撮影用と偽って持ち出した既製品スーツをBに引渡す等およそ正規の販売とはいえない以上、17万円は一時的にもA社に帰属していないと評価すべきであるから、業務上横領罪は成立しない。
 よって、この点につき何ら犯罪は成立しない。

第6.罰条及び罪数

 第1の行為につき刑法246条1項、第3の行為につき刑法235条、第4の行為につき刑法246条1項に該当し、第1の行為と第4の行為に係る罪は1個の犯意の下でされた同一取引の対価に係るものであるから包括して評価し、第3の行為に係る罪と併合罪(刑法45条前段)となる。

以上

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