平成20年度新司法試験論文
考査委員採点実感&ヒアリング検討(商法)

採点実感やヒアリングの検討は、手がつけられないまま、随分と積み残した状態になっている。
そこで今回は、平成20年度商法の採点実感及びヒアリングを検討する(試験問題出題趣旨)。

ヒントのある部分は落とさない

商法の印象は、全体として良くないという感じである。

(平成20年新司法試験の採点実感等に関する意見より引用)

 受験者の水準については,依然として,出題及び採点に当たった考査委員の期待するようなレベルの水準にあるとは言い難い。

(引用終わり)

 

(新司法試験考査委員(民事系科目(商法・民事訴訟法))に対するヒアリングより引用)

 採点した考査委員の意見を集約すると,提出した書面にもあるとおり,全般的に高い評価はできないように思われる。

(引用終わり)

逆に言えば、合格ラインはそれほど高くない。
ある程度出来の悪い答案でも、合格することができる。
もっとも、出来なければならない部分と、出来なくても良い部分とがある。
それを分けるのは、問題文中のヒントの有無である。

(平成20年新司法試験の採点実感等に関する意見より引用、下線は筆者)

 設問1については,設問自体に「保証債務履行請求の可否」及び「株式交換の問題点」という受験生が検討すべき問題点に関するヒントが明示されていたため,問題点を丸ごと外したという答案はほとんどなかった。もっとも,「保証債務履行請求の可否」に関しては,複数ある法的な問題点のうちの一つだけを論じているというものが多く,また,「株式交換の問題点」に関しても,複数の問題点を論じてはいるものの,当該問題点を論ずることの意味や実益が何かということについては,何ら明らかにされておらず,単に設問自体に検討の対象が明示されているからとにかく論じただけであると考えざるを得ないような答案が多かった。
 設問2については,設問1のようにヒントが設問自体には明示されていなかったためか,出題趣旨で説明しているような複数の法的な問題点について幅広く論ずるという答案は極めて少なく,単一の問題点についてだけ論じているという答案が多かった(取り分け,最も気付きやすい取締役の第三者に対する責任の問題だけを論じるものが多かった。)ため,採点が難しいものとなった

(引用終わり)

本問は、複雑な事例問題であり、難問だった。
このような問題の場合、問題文中に指定された論点だけは、誰もがとりあえず触れてくる。
逆に言えば、その点を外してしまうと、ほとんど点をもらえない。

複雑・難解な問題の場合、頭が真っ白になってしまうことがある。
その場合、訳が分からなくなって全然関係のないことを延々と書いてしまいがちだ。
そして、問題文で指定された論点を落としてしまう。
これは、最悪の事態である。
それを避けるためにも、まずは誰もが気付く論点は何か。
その点を冷静にチェックする。
そして、どうしても他に何も思いつかないならば、仕方がない。
その部分だけでも、丁寧に、落ち着いて論述すればよい。
この種の問題の場合、多くの人がその他の論点に気付かない。
「採点が難しいものとなった」とされているのは、複数の論点に触れたかでは差がつけられなくなったことを示している。
結果として、指定された論点についての論述の丁寧さ、正確さで差が付くことになる。

訳の分からないことを延々書いて紙幅・時間を浪費することは、避けなければならない。
上記で指摘されている「問題点を論ずることの意味や実益が何かということについては,何ら明らかにされておらず,単に設問自体に検討の対象が明示されているからとにかく論じただけであると考えざるを得ないような答案」。
これは、他の事項に紙幅・時間を浪費した結果、肝心の点にもただ触れただけになってしまったという答案だろう。
明示の部分に絞って問題の所在、論証、あてはめ、結論の手順で定跡通り丁寧に書けば、こういう答案にはならないはずである。

論点落ちしてるだろうな、と思いながら答案を書くことには抵抗がある。
とりわけ本試験では、その抵抗は非常に大きい。
これは本試験を経験してみないとわからない、恐ろしい感覚だ。
とりあえず何か書いておきたい、という衝動に駆られることは、無理もないことである。
しかし、それはぐっとこらえ、間違いなく配点のある事項に絞ってきっちり書く。
このことは、本試験を生き残る上で、必要なことである。

答練等では、通常ほぼ全ての論点に触れなければ合格点が付かない。
そのため、答練で訓練をすればするほど、逆に論点を捨てる勇気がなくなることがある。
この点は、答練等で演習する場合には、一応気をつけるべきである。
また、予備校答練等の解答例を参考にする場合に、注意すべきことがある。
完全解を目指す模範解答では、想定する全論点を網羅しなければならない。
そのため、個々の論点の論述に充分な文字数を割くことができない。
その結果、本来の丁寧な論述方法を省略して論述していることが多い。
これはこれで、多論点処理のための一つのテクニックとして参考にはなる。
しかし、その副作用として、本来の丁寧な論述の仕方がわからなくなる、ということもある。
論点の少ない初学者向け答練の解答例や、長めの実践的でない論証カードなどは、むしろその辺りが基本に忠実だ。
どうも丁寧な書き方の手順がピンと来ない、という人は、そういった素材で確認しておくとよい。

もっとも、上記のように論点を絞るのは、民事系・刑事系においては、一種の非常手段である。
以前の記事の通り、公法系、とりわけ憲法では、むしろ常套手段である。)
すなわち、他の問題点が思いつかないからやむを得ない。
そういう場合の対処法である。
現場で論点が発見でき、それが出題意図に適うものと確認できたならば、当然書くべきである。
また、論点を発見したが、出題意図に沿うか半信半疑であれば、短く理由と結論だけでも書いておけばよい。
出題意図に沿わないと知りながら、または、出題意図に沿うか確認する注意を怠って、延々と書き殴ってしまうこと。
これはやってはいけない。
そして、現場ではできる限り出題意図に沿う論点を発見できるよう努力しなければならない。
最初からわざと論点を落としてもいい、という発想は誤りである。
しかし、全身全霊を尽くして努力しても出題意図に沿う論点を発見できなかった。
そういう場合に、出題意図に沿うことが明らかな論点。
すなわち、問題文中に指定された論点に絞って書く。
そういう趣旨である。

なお、設問2は、以前の記事で述べた通り、旧司法試験の焼き直しである。
にもかかわらず、複数の問題点を正確に指摘できた答案が極めて少なかった。
このことは、ロー生のほとんどが旧司法試験過去問の検討にすら手が回っていないことを示している。

判例への言及

商法では、判例に触れることを要求していたのが特徴的だった。

(平成20年新司法試験の採点実感等に関する意見より引用)

 いずれの設問に対する答案においても,問題点を論ずるに当たって,判例があるような問題点であるにもかかわらず,判例に言及するものも少なく,丁寧さが十分とは言い難いと感じた。

(引用終わり)

判例については、新試験になってから、とりわけ憲法において言及が要求されるようになった。
もっとも、商法は、旧試験時代から他の科目よりも、判例が要求される傾向にあった。
旧司法試験の出題趣旨に「判例」という文言が出現したのは、近時の憲法を除けば商法だけだった。
この傾向は、新試験になっても続いているといってよいだろう。

ただ、商法は憲法と違って多論点処理型の問題が少なくない。
その場合、判例を正確に引用する紙幅がないという問題がある。
また、憲法と違って判例に通称名(「マクリーン事件」など)があまり付いていない。
そのため、短く引用し辛いということもある。
従って、商法における判例の取扱いは、予備校的な無難な言及で済ませるのがよいと思う。
すなわち、自説が判例であれば、「(判例同旨)」や「判例も同様の結論を採る」などと一言付け加える。
判例と反対する説の場合は、「この点判例は〜しかし(批判)〜そこで、(自説)」というような流れである。
なお、「判例同旨」の表現が不適切ではないかという議論がある。
ローの演習や答練の一部採点者によっては、かなり強い語調で非難されることもあるだろう。
しかし、それは気にする必要はない。
そんなことよりも、もっと重要な部分で、差は付いている。
(このようなどうでもよいことが合否を左右するかのように語られるのが、司法試験界の特徴である。)
「判例同旨」は、4文字で判例に一応言及できることが、何より技術的に優れている。
もっとも、判例と結論は同じでも明らかに理由付けが違う場合は、「判例同結」として区別した方がよい。
(筆者は、更に省略して「(判例)」と付すだけでも、十分ではないかと思っている。)
また、判例と同じかどうか、または一般論として引用できるのかに自信が無い場合。
そういう場合は、判例に触れるのはあきらめる。
誤った判例引用は、基本事項の誤りとして減点されやすいからだ。
一般論として引用できるかについては、短答で正誤問題として出題されているか、という点が一つの目安になる。
事例との関係で結論が左右されうる判例は、一般的な正誤問題として出題できないからだ。
従って、短答知識として頻出の判例は、そのまま引用できる。
学者の書いた基本書で「判例は○○説」と紹介されている場合も、一般論として引用して構わない。
本問でいえば、一般論として引用できるものは以下の判例である。

1:間接取引形態の利益相反取引における相対的無効説(最大判昭43・12・25
2:株主全員の合意がある場合における利益相反取引の承認の要否(最判昭49・9・26
3:取締役会決議を欠く代表取締役の取引行為の効力(最判昭40・9・22
4:役員等の対第三者責任の法的性質(悪意重過失の意義、間接損害を含むか)(最大判昭44・11・26

ただし、上記のことは、飽くまでも通常の多論点問題の場合である。
平成19年度の刑法や平成20年度の民訴法のように、正面から判例を絡めた比較や論理問題が出た場合。
その場合は、上記のような言及ではなく、比較問題・論理問題として解くことになる。

どの程度論述を掘り下げるべきか〜時間・紙幅との関係

考査委員からは、個々の論点についての論述が浅い、という指摘がされている。

(平成20年新司法試験の採点実感等に関する意見より引用、下線は筆者)

 記述が期待された法的な問題点の洗い出しとその当てはめの論述に当たっても,掘り下げが十分であったかといえば,そうであったとはなかなか言い難い単線的な答案が多かった。例えば,設問1に関しては,乙社の保証が間接取引に当たるものとして利益相反取引の規制を受けるものかどうかという問題点について,間接取引に該当するか否かの判断基準をどのように考えるのか,また,設問1及び設問2の双方に関しては,利益相反取引に形式的に該当するとした場合であっても,すべての株主の同意があるということになると,判例によれば取引は有効ということになりそうである(出題趣旨参照)が,本件事案のように債権者の保護が問題となる局面においても,そのような考えで本当によいのかといったような,実務家が事案の解決に当たる場合には当然に疑問が湧いてくるであろう問題点について,気を回して悩むといったような答案が極めて少なかった。法律の規定の解釈に関する学説や判例については,短答式のための勉強などでそれ自体は知識としては有しているのであろうが,さらに,それが実務上どのような意味を有することになるのかという問題意識を持っているかどうかが,このような設問に遭遇した場合に問われることになる。

(引用終わり)

 

(新司法試験考査委員(民事系科目(商法・民事訴訟法))に対するヒアリングより引用、下線は筆者)

 採点した考査委員の意見を集約すると,提出した書面にもあるとおり,全般的に高い評価はできないように思われる。特に,設問2の方では,やはり,いろいろある問題点を発見することがまだ十分できておらず,また,個々の論点に気が付いてもそこを論ずる厚みがまだまだ十分ではない,というのが委員の先生方の忌憚のない意見だろうと思われる。

(引用終わり)

ローによっては、この種の指摘を引用して、深い答案を書け、と指導するかもしれない。
しかし、この指摘を読むには、注意を要する。
まず、掘り下げが十分だった答案は、「極めて少なかった」ことである。
裏を返せば、出来なくても合格しているということになる。

また、限られた時間・紙幅において、どこまで掘り下げるのが適切なのか。
1つの事柄を掘り下げるあまり、他の論点が時間・紙幅不足で書けなかった。
そのような場合、掘り下げた内容が応用で、書けなかった事項が基本事項だと、配点上不利になるだろう。
実際、時間切れに陥った答案があったとの指摘や、時間内に模範答案を書くのは不可能ではないかとの指摘がある。

(平成20年新司法試験の採点実感等に関する意見より引用、下線は筆者)

 平成20年の試験について受験者に同情すべき事情があるとすれば,第2問全体の問題文が長文となった結果,大大問で4時間の時間はあるものの,4つの設問について万遍なく解答することは相当大きな負担であったとみられることであり,このことは,答案の最後の方の設問に対する解答において力が尽きているようなものも少なからず見られたことに現れていたと考えられる。
 また,前記2の「採点実感等」のとおり,我々が期待するような掘り下げをある設問について深く行うことにより,他の設問の解答時間が不足してしまうというような傾向も見られた
 これらのことは,大大問の出題の在り方について,なお検討の余地があることを示唆するものかもしれない。しかし,普段から,判例について事実審の判決から読みこなすという訓練をしておくことが重要であるということも改めて指摘しておきたい。

(引用終わり)

 

(新司法試験考査委員(民事系科目(商法・民事訴訟法))に対するヒアリングより引用、下線は筆者)

 学生たちに多少同情的なことを考えるとすると,今回の大大問では,商法分野の問題文は長文でかなり複雑なものであり,これを民事訴訟法の問題と併せて,4時間で解答することを考えると,どこまで高度な回答を期待することができるのかという感想も一方で持つところではある。

(引用終わり)

 

平成20年度新司法試験に関するアンケート調査結果報告書より引用、下線は筆者)

 今年の出題は、必要以上に事実関係が複雑で、答案として何をどこまで書くことが要求されているのかがはっきりしないが(模範解答を試験時間内で書く自信は私にはありません)、結局、会社法の基本的な論点について、事実関係を適切に整理したうえで、余すところなく記述すれば合格点がつく問題であったと言うことになろうか。

(引用終わり)

※上記報告書引用部分の文責者である「私」が誰であるか不明であるが、上記調査結果報告書をまとめた法科大学院協会司法試験等検討委員会委員のうち、商法を専門にしているのは早川勝同志社大学法科大学院教授のみであることから、早川教授ではないかと推測される。しかし、上記報告書では、早川教授は関西大学所属とあるが、関西大学法学部関西大学法学研究所関西大学大学院法務研究科及び関西大学法科大学院のいずれにも、「早川勝」という名前の教員は見当たらない(関西大学法科大学院教員として早川徹教授(商法担当)が所属している)。

こういった難問の場合には、無理に掘り下げて書く必要はない。
前述のように、誰もが書く論点を丁寧に論述し、なお余裕があればその他の論点に触れる。
現実的な選択としては、これでやむを得ないと思う。
なお、採点実感では、事実審の判決を読みこなす訓練が重要と指摘している。
長文の事実関係を読むことに慣れれば、素早く論点を把握できる、ということだろう。
もっとも、下級審の裁判例はあまりに事実関係が詳細すぎる場合がある。
司法試験に必要な内容は、その一部である。
当サイトでは、司法試験に必要な範囲に絞りつつも、詳細な事実関係も含めて最新の下級審裁判例を紹介している。
事例を読む訓練だけでなく、未知の論点を考える素材にもなる。
読むのは面倒に感じるかもしれないが、ざっと目を通しておくと、役に立つだろう。

論証とあてはめの優先順位

新司法試験になってから、長文の事例問題が出題され、あてはめ重視と言われるようになった。
その傾向認識は正しい。
丁寧なあてはめに気を配ることは、重要である。
しかし、あてはめは、論証した規範に対してするものである。
従って、論証が不十分であれば、当然あてはめも不十分になる。
あてはめを重視するあまり、論証が不十分になってしまっては、評価は伸びない。
その点の指摘が、考査委員からもなされている。

(平成20年新司法試験の採点実感等に関する意見より引用、下線は筆者)

 平成19年の試験までは,商法の採点後の感想として,事実関係への当てはめの力が弱いのではないかという意見が多くの委員から寄せられていたが,平成20年の試験については,やはりそのような傾向が続いているという意見と,事実関係への当てはめについて力を入れて論ずるよう努めている答案が増えているのではないかという意見があった。本年の採点結果として後者のような意見があった背景には,考査委員に対するヒアリングの結果が公表され,受験生の側にもこの事実関係への当てはめが重要だという認識が少しずつ持たれてきているということがあるのではないかとも考えられる。ただ,この後者の意見においても適切な論じ方がされているかといえば,まだまだそうではないという印象であったようである。また,法的な問題点の適切な洗い出しは,この事案への当てはめの前提として重要なのであって,両面での能力の涵養が重要であるということを改めて強調しておきたい。

(引用終わり)

 

(新司法試験考査委員(民事系科目(商法・民事訴訟法))に対するヒアリングより引用、下線は筆者)

試験委員 商法に関して,御提出いただいた書面に,当てはめについて力を入れて論じるように努めている答案が増えているのではないか,という感想があったが,その辺りはやはり良くなってきたと言えるのか。

考査委員 こういうヒアリングの結果も毎年公表されており,事実の当てはめのところが重要だということは,認識されつつある。そういう面には光が射しているが,それが逆効果になって,法律論のところが手薄になっているものもある。その辺りが,受験生は上手くコントロールできていないようである。だから,事実関係をいろいろ論じてはいるが,どういう法律論との関係で論じているのか,そこが必ずしも的確に対応した記述になっていないものが少なくない。ただ,具体的事実への当てはめが重要であるという点に関心は向いてきている。

委員長(橋宏志) 事実関係の当てはめが十分ではないということは,公法系のヒアリングでも指摘があった。それは,どの辺りに原因があると思われるか。

考査委員 恐らく,法律論のところがまだしっかりしていないところに,事実関係を与えられても上手く問題点を見つけられないということがあり,法律論と事実関係への当てはめの両方の問題は,相乗的なものではないかと思われる。

(引用終わり)

学習上の優先順位という観点からも、論証(法律論)があてはめに優先する。
あてはめをするには、規範の意味内容を理解していなければならない。
そのためには、その規範をどういう趣旨で定立したのか。
すなわち、論証(法律論)を理解していなければならない。
また、論証は汎用性が高く、事前準備による成果が出やすい。
他方で、あてはめは、現場思考の要素が強い。
そのため、事前準備になじみにくく、時間の割りには成果につながりにくい。

そういうことから、まず論証を理解・記憶する。
その上で、演習を行い、あてはめの訓練をする。
新試験になってから、あてはめが重視されすぎ、論証の学習が軽視される傾向がある。
しかし、学習の順序は飽くまで論証が先である。
この点は誤解のないようにしておきたい。

戻る