平成22年度旧司法試験論文式
刑訴法第1問・第2問の感想と参考答案

【第1問問題】

 甲及び乙は,繁華街の路上において,警察官から職務質問を受け,所持品検査に応じた。その結果,両名の着衣からそれぞれ覚せい剤が発見されたため,警察官が両名に対し,覚せい剤所持の現行犯人として逮捕する旨を告げたところ,甲は,警察官の制止を振り切って,たまたまドアが開いていた近くの不動産業者Xの事務所に逃げ込んだ。そこで,警察官は,これを追って同事務所に立ち入り,机の下に隠れていた甲を逮捕したが,甲は,同事務所に逃げ込んだ際手に持っていた携帯電話機を所持しておらず,机の周辺にも携帯電話機は見当たらなかった。そのため,警察官は,Xの抗議にもかかわらず,甲が隠れていた机の引出しを開けて中を捜索した。一方,乙は,所持品検査を受けた路上で逮捕されたが,大声でわめき暴れるなどしたことから,周囲に野次馬が集まってきた。そこで,警察官は,乙を警察車両に乗せて1キロメートルほど離れた警察署に連行し,到着直後に同警察署内で乙の身体を捜索した。
 以上の警察官の行為は適法か。

令状主義からきちんと書けるか

例年通り、第1問は捜査からの出題である。
事例問題であるが、複雑ではない。
また、書くべき論点も、限られている。

まず、冒頭の職務質問と所持品検査については、取り立てて触れる必要もない。
適法性に関する事情が、何ら挙がっていないからである。
ただ、試験現場では、全然触れないのも不安かもしれない。
その場合には、「職務質問(警職法2条1項)及びこれに付随して認められる所持品検査については、特に問題となる点はなく、適法である。」という程度に書いておけばいいだろう。
56文字だから、使う紙幅は2行強くらいである。
本問はそれほど忙しい問題ではないから、この程度使っても大丈夫だろう。
現場では、精神的な安定を維持するのも、重要なことである。
書くか迷って動揺したり、時間をロスするくらいなら、上記のように書く方が実戦的である。

現行犯逮捕については、一応当てはめるべき事情がある。
ただ、特に論点らしいものはない。
ここは簡単にあてはめて、適法ということにしてよいだろう。

現場で迷いそうなのは、事務所への立入りである。
これは、220条1項1号によって適法である。
この条文に気付かないと、論点だと思って無駄な論述をしてしまうことになる。
もっとも、事前に1号を知らなかった人も、2号の方を見るときに視界に入ってくる。
多くの人が、現場で気付いたのではないか。
条文に気付いたら、後は必要性を当てはめるだけである。
この必要性要件については、札幌高判昭37・9・11がある。

(札幌高判昭37・9・11より引用、下線は筆者)

 刑事訴訟法第二二〇条によれば、捜査機関は現行犯人を逮捕する場合において必要があるときは、令状なくして人の住居に入り被疑者の捜索をすることができるのであるが、同条において「必要があるとき」とは、たんに捜査機関がその主観において必要があると判断するのみでは足らず、客観的にもその必要性が認められる場合であることを要するものと解する。けだし同条は令状主義の例外の場合として憲法第一一条、第三三条、第三五条の趣旨にかんがみ厳格に解釈すべきものであるからであるからである。

(引用終わり)

ただ、本問では、捜査機関の主観と客観的状況とが書き分けられているわけではない。
このような論証は、不要だろう。
本問は論点が少ないので、他に何か解釈論がないかと気になる。
しかし、ここは特に論点がない。
思いつきで、変なことを書いてしまわないようにしたい。
なお、旧試験は刑訴の択一がないので、220条1項1号は知らなくてもやむを得ない。
ただ、予備試験と新試験では短答があるから、今後は知っておくべき知識である。
その際、セットで覚えておきたいのが、私人は同号の捜索をすることができないという点である。

名古屋高判昭26・3・3より引用、下線は筆者)

 現行犯人は、何人でも、逮捕状なくして、これを逮捕することができるものであることは、刑事訴訟法第二一三条に規定するところであるが、司法警察職員、検察官及び検察事務官でない通常人は、現行犯人を認めても逮捕することを義務づけられてはいないから、一旦逮捕にとりかかつても中途からこれをやめることもできるわけである。然し右の通常人は現行犯逮捕のため、他人の住居に侵入することは認められていない。このことは、刑事訴訟法第二二〇条によつても、明らかである。即ち、検察官、検察事務官又は司法警察職員は、現行犯人を逮捕する場合には人の住居又は人の看守する邸宅、建造物若しくは船舶内に入り被疑者の捜索をすることができる旨を規定しているところから見れば、通常人に対しては右の行為をすることは禁止せられているものと解すべきものである。われわれの住居は侵すことができないもので、これを侵しても違法でないとするためには、憲法並に刑事訴訟法に規定してある場合でなければならない。通常人が現行犯人を逮捕し得ることは、憲法並に刑事訴訟法でもこれを認めているが、この逮捕のため、他人の住居に侵入し得る旨を規定した法律は存しない。従つて通常人は、屋外若しくは自宅で現行犯を逮捕するか又は住居権者等の承諾ある場合に限り、佳居内で現行犯人を逮捕し得るのである。若し論旨の如く、通常人でも現行犯人逮捕のためならば、自由に他人の住居に侵入し得るとするならば、われわれの住居は一日も平穏であることはできない。従つて真に現行犯人逮捕の目的であつても、承諾なくして、他人の住居に侵入するときは、住居侵入罪が成立するものと解すべきものである。

(引用終わり)

上記は古い高裁判例であるが、短答で結論を訊かれてもおかしくない知識である。
同時に、刑法の正当行為・住居侵入罪の知識としても、押さえておきたい。

後は、X事務所の机の捜索と、乙の連行後の身体捜索だけである。
いずれも、220条1項2号の解釈論と当てはめが問われている。
すなわち、本問で書くべき解釈論は、無令状捜索が認められる趣旨。
いわゆる緊急処分説と合理説の対立の論点だけ、ということになる。
だとすれば、この点をしっかり論じる必要がある。
緊急処分説に立つにせよ、合理説に立つにせよ、令状主義の趣旨から書くべきだ。
ここが雑だと、それだけで評価を落とすだろう。
本問の最大のポイントは、この点である。

机の捜索については、被疑者以外の第三者方の捜索という点に注意が必要である。
222条1項で、220条1項2号の場合にも102条2項が準用されることに気付くことができるか。
これは、一つのポイントである。
なお、Xが不動産業者とあるのは、105条との関係だろう。
一応、例示列挙と解すると結論に影響しうる。
ただ、ここは触れるとしても短くまとめるべきである。

具体的なあてはめについては、余程変なことを書かない限り、評価される。
素直な当てはめは、緊急処分説からは当然に不適法。
逮捕完遂後であるから同時並行性もなく、机の中は甲の直接支配下ともいえないからである。
合理説からは、場所的範囲には含まれるが、押収の必要な証拠物ではないから不適法。
結局、いずれにせよ不適法となりそうである。
ただ、他の結論でも、評価にはあまり影響しないだろうと思う。

乙の捜索については、和光大学内ゲバ事件(最決平8・1・29)であり、典型論点である。
紙幅に余裕があるから、用意した論証をそのまま貼れば足りるだろう。

【第1問参考答案】

第1.Xの事務所に立ち入った点

 警察官(以下「K」という。)は、甲の覚せい剤所持を現認し、告知をして現行犯逮捕に着手した。甲はその直後にKの制止を振り切ってXの事務所に逃げこんだのであるから、当該事務所で甲を捜索する必要があることは明らかである。
 よって、Kの立入りは、逮捕する場合において必要があるときに220条1項1号、3項によって許容される無令状捜索に当たり、適法である。

第2.現行犯逮捕した点

 Kは、覚せい剤所持を現認し、現実に甲を逮捕するまで追跡を継続し、乙は路上でそのまま逮捕したから、犯人及び犯罪並びに時間的場所的接着性が明らかに認められる。
 従って、甲乙の逮捕は現行犯逮捕として適法である(212条1項、213条)。

第3.机を捜索した点

 逮捕に伴う無令状捜索として220条1項2号の捜索に当たるかを検討する。

1(1)捜索には令状を要するのが原則である(令状主義、憲法35条、法218条1項)。これは事前の令状審査という司法的抑制によって捜査機関の権限濫用を防ぎ、人権保護を図る趣旨である。

(2)では、なぜ逮捕時には無令状捜索が認められるのか。この点、緊急性、すなわち、令状請求する時間的余裕がないからとも考えうる。しかし、刑訴法は一般的な無令状の緊急捜索を認めていない。逮捕の場合にのみ規定を置いた点は、緊急性では説明できない。
 そもそも、逮捕される場合は、逮捕の理由(199条1項)、高度の嫌疑(210条1項)又は現行性・準現行性(212条1項2項)がある。そうである以上、逮捕の現場には、類型的に被疑事実に係る証拠物が存在する蓋然性がある。すなわち、逮捕の基礎となる資料によって捜索令状の請求がされたとすれば、当然に捜索の必要性が肯定される状況にある。従って、上記(1)で述べた事前の令状審査の実益がない。無令状捜索が認められた趣旨は、上記の点にある。

(3)そうだとすれば、220条1項2号による捜索は、逮捕の際の類型的な捜索の必要性の限度で認められる。

2.そこで、本問を検討する。
 本問のように無関係の第三者方で逮捕した場合でも、逃走中に証拠物を隠匿する可能性がある。従って、被疑事件に係る証拠物につき、当該場所を捜索する必要がある。もっとも、当該場所に証拠物を隠匿したと認めるに足りる状況を要する(222条1項、102条2項)。
 本問では、確かに、甲はXの事務所に逃げ込んで机の下に隠れ、逮捕時において逃げ込んだ際手に持っていた携帯電話機を所持しておらず、机の周辺にも携帯電話機は見当たらなかったから、机の中に隠匿したと認めるに足りる状況がある。なお、Xは不動産業者であり、222条1項、105条は明確性の見地から限定列挙と解すべきであるから、同条の押収拒絶ができる場合に当たらない。
 しかし、被疑事件は、覚せい剤所持である。既に着衣から覚せい剤が発見され、所持の日時場所についてもKの現認がある。覚せい剤所持の証拠としては、これで十分である。わずかに覚せい剤の認識が争われる余地はあるが、本問でその立証が特に困難であるとも思われないから、関連性の不確かな携帯電話機について、第三者方の捜索をしてまで押収する必要はない。そうである以上、携帯電話機は、被疑事件に係る証拠物とは認められない。

3.以上から、机の捜索は220条1項2号で許容される捜索には当たらない。よって、Kによる机の捜索は不適法である。

第4.乙の身体を捜索した点

1.乙の身体に対する捜索は、逮捕された場所から1キロメートルほど離れた警察署内でされた。これはもはや「逮捕の現場」でされたものとはいえず、220条1項2号で許容される捜索に当たらないのではないか。

2.そもそも、同号が捜索を逮捕の現場に限った趣旨は、一般に、類型的に捜索の必要な場所は逮捕の現場に限られるからである。
 もっとも、被疑者の身体については、ある程度の場所的移動があっても、証拠物を携行している蓋然性に変化はない。従って、逮捕現場での身体捜索が適切でない場合に、捜索が可能な最寄りの場所まで移動した後に捜索を行うことも、逮捕の現場における捜索と同視できるから、220条1項2号の捜索に当たる。

3.本問で、逮捕時に乙は大声でわめき暴れる等しており、周囲に野次馬が集まった。現場が繁華街の路上であることも考慮すると、その場での捜索は適切ではない。警察署まで1キロメートルの距離があるが、他に最寄りの適切な場所があったとの事実はない。従って、逮捕の現場での捜索と同視でき、220条1項2号の捜索に当たる。

4.よって、Kによる乙の身体の捜索は適法である。

以上

【第2問問題】

 警察官は,Aを被害者とする殺人被疑事件につき,捜索差押許可状を得て,被疑者甲の居宅を捜索したところ,「@Aにレンタカーを借りさせる,AAに睡眠薬を飲ませる,BAを絞め殺す,C車で死体を運び,]橋の下に穴を掘って埋める,D明日,決行」と記載された甲の手書きのメモを発見したので,これを差し押さえた。その後の捜査の結果,]橋の下の土中からAの絞殺死体が発見され,その死体から睡眠薬の成分が検出された。また,行方不明になる直前にAがレンタカーを借りたことも判明した。
 甲が殺人罪及び死体遺棄罪で起訴された場合,上記メモを証拠として用いることができるか。

久しぶりの単一論点型

本問は、書きにくいと感じた人が多かったようである。
その理由は、書くべき論点がほとんどなかったからだという。

本問は、論点としては犯行計画メモの伝聞性である。
ある程度勉強の進んだ人であれば、これは精神状態の供述で処理すれば足りる。
また、メモの存在を証拠とする場合は、非供述証拠である。
そう判断できたはずである。

(大阪高判昭57・3・16より引用、下線は筆者)

 およそ供述とは心理的過程を経た特定の事項に関する言語的表現であり,それには表意者の知覚,記憶の心理的過程を経た過去の体験的事実の場合と,右のような知覚,記憶の過程を伴わない,表現,叙述のみが問題となるところの,表意者の表現時における精神的状態に関する供述(計画意図,動機等)の場合とがあつて,本件の事前共謀に関するメモは,その時点における本件犯行に関する計画という形で有していた一定の意図を具体化した精神的状態に関する供述と考えられる。 
 そして,右の精神状態に関する供述については,その伝聞証拠としての正確性のテストとして,その性質上必ずしも反対尋問の方法による必要はなく,その表現,叙述に真し性が認められる限り,伝聞法則の適用例外として,その証拠能力を認めるのが相当であると解されるところ,原審で取調べた各証拠によつて認められる本件メモ紙の押収時の状況,右メモ紙が組織活動の過程において作成されていること,その記載内容である計画そのものが現に実行されていること等から,その記載の真し性は十分これを認めることができる
 したがつて,本件メモ紙の表面の記載のうち,右余事部分を除く記載部分は,前述の如く伝聞法則の適用を受けないものであり,また本件メモ紙の表面の右余事部分及び裏面の記載部分は,その記載内容の真実性を要証事実とするのではなく,そのような記載のあること自体を,本件犯行の計画者等において,右犯行に強い関心を有していたという点で要証事実とするに過ぎないのであるから,それは非供述証拠(非伝聞証拠)として,伝聞法則の適用がないものというべきである。

(引用終わり)

ただ、それだけだと、コンパクトに書けば1ページで終わりそうだ。
また、@からDにわざわざ分かれている意味がよくわからない。
そのため、他に何かあるのではないか。
そういう不安が生じる。
書きにくさの中身は、その辺りにあったのではないか。

ただ、こういう問題は、実は刑訴第2問ではたまにある形式である。
思わせぶりだが、ほぼ単一論点しか訊いていない。
そういう問題である。

主として再伝聞しか論点がないもの〜平成9年第2問

 甲に対する殺人被告事件において、乙が、「甲が殺すのを見た」と丙に語った旨の丙の検察官面前調書は、どのような場合に証拠能力が認められるか。それぞれの場合の要件について述べよ。

 

主として択一的認定しか論点がないもの〜平成11年第2問

 単独で強盗をしたとして起訴された甲は、公判において、「兄貴分乙に命じられて、強盗をした。」と主張した。裁判所は、「甲と乙との共謀を強く推認させる事実が認められる一方、共謀の事実を否定する乙の供述も虚偽とは言い難い。」と判断した。
 このような場合に、裁判所は、「甲は、単独又は乙と共謀の上、強盗をした。」と認定し、甲に対して有罪判決を言い渡すことができるか。

 

主として共犯者・共同被告人の公判廷外供述しか論点がないもの〜平成15年第2問

 被告人甲及び乙は,強盗罪の共同正犯として起訴され,併合して審理されている。甲は,捜査・公判を通じて否認しており,乙は,捜査段階で甲と共同して犯行に及んだことを自白し,その旨の検察官面前調書が作成されているが,冒頭手続において否認した。この検察官面前調書は,どのような場合に甲に対する証拠とすることができるか。審理経過に言及しつつ論ぜよ。

この種の問題は、制度趣旨からじっくりとその論点を書くことが重要である。
逆に言えば、それができていれば、細かい手続的な部分は、落としても致命傷にはならない。
本問でも、伝聞法則の趣旨から、精神状態の供述をしっかり書けば、問題ないだろう。
普段考えた事もないことをだらだらと書いてしまい、肝心の論点を雑に書くのが、最悪である。
わかっていれば、それ程難しいことではない。

ただ、多くの受験生は、答練で多論点問題ばかり解く傾向がある。
単一論点問題が出題されても、「これはつまらない問題だ」として、軽視されがちだ。
そのため、いざこういう問題が出たときに、どう書いていいかわからなくなる。
やはり、過去問の分析は、重要である。
今後、予備試験においても、同様の問題が出る可能性はある。
新司法試験では、単独で単一論点が出される可能性は、ないと言っていい。
しかし、小問のうちの一つが、そのような問題となることは、十分あり得る。
論点が少ないのに、設問の配点が不自然に多く振られている。
そういう場合には、この種の問題ではないか。
制度趣旨から、丁寧に書かないとまずいのではないか。
新試験でも、そういう意識を持つ必要がある。
旧司法試験は、終了した。
しかし、だからといって、旧試験を検討する価値がなくなったとはいえない。
平成以降の問題は、答案構成だけでもやっておくべきだろう。

【第2問参考答案】

第1.公判廷供述に代わる書面は、321条から323条までの伝聞例外、同意書面(326条)及び弾劾証拠(328条)とする場合を除き、証拠とすることができない(320条1項、伝聞法則)。本問のメモは、甲の公判廷供述に代わる書面であるとして伝聞法則の適用がある証拠(伝聞証拠)に当たるか。以下検討する。

第2.そもそも、伝聞法則が採用された趣旨は、次のとおりである。

1.供述は、供述者が体験した事実を知覚、記憶し、その内容を表現・叙述によって再現するものである。その各過程(以下この各過程を総称して「供述過程」ということがある。)には、誤りが混入しやすい。すなわち、知覚の際には見間違い、聞き間違い等が生じ、記憶の際には記憶違いが生じ、表現・叙述の際には言い間違い、書き間違い等が生じ得る。

2.このような性質を有する供述を、そのまま証拠として採用し、犯罪事実の認定の基礎とすれば、誤判を招くおそれがある。憲法37条2項は、上記誤りを審問によって是正し、無実の刑事被告人が処罰されることのないよう証人審問権を与えたものである。

3.しかし、公判廷外の供述については、反対尋問の機会がない。そのような供述証拠については、供述内容の真実性が担保されていない以上、上記憲法37条2項の趣旨からしても、刑事訴訟における証拠とすべきではない。320条1項が伝聞証拠の使用を原則として禁じたのは、このような趣旨である。

4.従って、伝聞証拠とは、上記のような趣旨の妥当する供述証拠をいい、書面を証拠とする場合であっても、書面の意義が証拠とならないとき、すなわち、推認すべき事実(要証事実)が記載内容どおりの事実の存在ではないものや、供述過程における誤りの混入するおそれのないときは、伝聞証拠には当たらない(非伝聞)。

第3.本問でこれを検討する。

1.まず、本問のメモを専ら証拠物として用いる場合には、書面の意義が証拠とならないから、非伝聞となる。具体的には、以下のとおりである。

(1)本問のメモは、客観的な捜査結果と合致している。すなわち、@の記載と行方不明になる直前にAがレンタカーを借りたこと、Aの記載とAの死体から睡眠薬の成分が検出されたこと、Bの記載とAは絞殺死体で発見されたこと、Cの記載と]橋の下の土中からAの死体が発見されたことが、それぞれ一致している。

(2)甲が、被疑事件とは無関係に偶然にも自宅でこのようなメモを手書きするということは考えにくい。従って、このようなメモの存在は、甲の犯人性を直ちに推認するとまではいえないとしても、被疑事件との関わりが濃厚であることを示すものといえる。

(3)このような場合、メモの存在及び捜査結果との外形的一致が証拠資料となるのであるから、その意味内容は問題とならない。その証拠方法としての性質は、例えば、被害者のDNA型と一致する血液の付着したナイフが被疑者宅で発見された場合の当該ナイフと同様である。従って、純然たる証拠物として書面の意義は証拠とならないから、伝聞証拠には当たらない。

2.次に、メモの内容を証拠とする場合も、以下のとおり、供述過程における誤りの混入するおそれがないから、非伝聞となる。

(1)この場合、メモの内容から記載どおりの犯行計画の存在を推認し、そのような犯行計画の存在から甲の犯人性、殺意、犯行の方法・場所等を推認するということになる。従って、記載内容どおりの事実(犯行計画)の存在が要証事実であるということができる。

(2)もっとも、本問では当該メモが第三者からの聞き取りによるものと疑うに足りる事実はないから、当該メモは、甲が自らの内心に有していた計画を記載したに過ぎないものと考えるのが自然である。すなわち、甲が体験した事実を再現したものではない。このような精神状態の供述は、知覚、記憶の過程を経ないから、内心をそのまま表現・叙述したものか、すなわち供述の真摯性が認められれば、供述過程に生じうる誤りが混入するおそれはないから、非伝聞となる。

(3)本問では、前記1(1)のとおり、客観的な捜査結果との一致がある。これは、記載内容の現実性を示す。メモの記載が架空のものでないとすれば、その出所はどこであるか。それは、作成者である甲の内心であると考えるのが自然である。他方、メモの記載内容と甲の当時の内心との不一致をうかがわせる事実は何ら認められない。従って、供述の真摯性を認めることができる。

(4)以上から、この場合も、メモは伝聞証拠に当たらない。

第4.以上から、いずれにせよ本問のメモには伝聞法則の適用はない。
 よって、本問のメモは、証拠として用いることができる。

以上

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