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大阪地裁第12刑事部決定平成22年05月26日

【事案】

1.検察官請求に係る複数の検察官調書(後記2参照。以下「本件各供述証拠」という。)の証拠としての採否を判断した事案。
 以下において,具体的な本件当時の事実は原則として平成16年中のことであり,作成された供述調書の作成年度は全て平成21年であるので,両者については,基本的に年度の記載を省略する。

2.前提事実

 本件捜査は,大阪地検特捜部により行われ,P1検事を主任として,P2,P3,P4,P5,P6各検事,P7,P8,P9,P10各副検事らによる取調べがなされた。
 本件で検察官から取調べ請求されている調書の供述者のうち,D,E,F,G,Hはいずれも在宅で取調べを受け供述調書が作成された。また,A,B,Cは身柄拘束された上,取調べを受けた(A,Bは身柄拘束前にも取調べを受けている。)。
 本件各供述調書は,供述者が,いずれも被疑者としての取調べを受けた結果作成されたもので,取調べに際しては,検察官から黙秘権が告げられ,作成された供述調書については検察官から読み聞けがなされ,各供述者による署名,押印(指印)がなされている。
 各取調検察官は,主任検事に取調べで得られた供述の内容を報告していた。
 そして,供述調書の記載について,どの部分を調書に記載するか主任検事の指示を受け,その部分を調書に記載していたと公判で供述する検察官(P7ら)と,調書の作成は,内容によるが,基本的には,取調べ検察官に任されていたと公判で供述する検察官(P4)がいる。
 また,供述調書が作成された場合は,主任検事を通じ他の検察官にその写しが配布されていた。

【判旨】

第1.特信性についての共通問題について

1.特信性判断の基本的方法について

 刑訴法321条1項2号の特信性は,供述がなされた外部的な事情を基準として判断すべきものであるが,外部的事情を推認させる資料として供述内容を考慮することができる。そこで,本件においても外部的な事情を中心として特信性について判断し,供述内容は,基本的には,外部的事情を推認させる資料としての範囲でこれを考慮することにする。

2.取調べメモ,取調べの録音,録画について

 弁護人は,本件において,検察官は,取調べ時のメモをすべて廃棄しており,取調べについての録音,録画をなしていないが,これは不適正な取調べを行い,その痕跡が明らかになるのをおそれたからである旨主張し,そのような事実自体が検察官による不適正な取調べを推認させる旨主張する。
 取調べ時のメモ,取調べの録音,録画は,取調べの状況を認定するについての有用な資料とみられる。しかし,取調べメモの廃棄,取調べの録音,録画を行わないこと自体が,取調官による不適正な取調べを推認させるとの事情になるとはみられず,有用な資料が存しないということにより,取調官と取調べを受けた者の各供述が齟齬し他に判断に有用な資料,事情等が存しない場合に,取調べを受けた者の取調べに関する供述が排斥できない場合があるというのに止まるものと解される。

第2 Dの検察官調書(甲13,14)について

1.当事者の主張の概要

 検察官は,証人Dの公判証言(第6回公判)と検察官調書(甲13,14。5月26日付け,27日付け)には相反性があり,また,検察官調書には特信性があると主張する。検察官は,特信性について,Dは,公判において,被告人や厚労省及びその関係者への配慮等から,真実を供述することが困難な情況にあったのに対し,捜査段階においては真摯に真実を供述することができる情況にあり,外部的事情から特信性があると共に,公判供述の内容は,あいまいで終始一貫しない内容であるのに対し,検察官調書の内容は,具体的で,自然かつ合理的であり,取調官が誘導できない内容を供述しており,他の証拠とも整合することなどから,内容的にも特信性がある旨主張する。
 これに対し,弁護人は,Dの捜査供述は,検察官の強圧的な取調べや暗示,誘導によるものであり,公判供述には,被告人への配慮と評価されるものはなく,外部的事情から特信性はない上,内容面からも,Dの検察官調書には不自然,不合理な点があり,特信性はないと主張する。

2.相反性について

 まず,Dの公判証言と検察官調書の相反性について検討すると,相反性が認められる部分の中核は,@2月下旬ころ,Fが,DにCが訪ねてきた際の対応を指示した際,Iから口利きがあり,被告人に下りてきた案件であると言っていたか否か,ACに対する説明の後,被告人に報告したのか否か,という点である(以下,「相反部分@」などという。)。
 以下,この点を中心に,捜査供述の特信性について検討する。

3.外部的情況について

 弁護人は,Dの捜査供述は,逮捕をおそれていた上,記憶があまりないDに対し,検察官による強圧的な追及,誘導がなされたことによるもので,外部的事情から特信性がない旨主張する。
 そこで,取調べ状況について検討する。

(1) 取調べについて

ア.取調べ状況等

 Dは,5月26日に,P4から在宅で取調べを受け,相反部分@の記載がある供述調書(甲13)が作成された。同日,前記取調べ後,Dは,厚労省の企画課長補佐Jから,取調べの状況等について事情聴取を受け,Jにより,後記の事情聴取書が作成された。
 同月27日,Dは,P9による取調べを受け,相反部分Aの記載がある供述調書(甲14)が作成された。

イ.争点についての検討

(ア) Dは,前記相反部分について,「自分の口から話したことはなく,取調官が言ったことは事実と思い,そのまま認めてしまった部分があるかと思う。」,「細かい部分を確認しないまま供述調書に署名,指印又は押印してしまったと思う。」などと供述する。また,Dは,「5月26日に『自分は捕まらないですよね。』とP4に聞いたところ,『そうはならないと思うけれども,ここで洗いざらい何でも言ってくれないと,どうなるか分からない。』などと言われた。」旨供述する。これに対し,P4,P9は,Dが供述したことを調書に記載した旨供述する。
 そこで,この点について検討する。

(イ) 一件記録によれば,Dは,5月26日の取調べ後,厚労省においてJによる事情聴取を受け,Jは事情聴取書を作成した。これには,Dからの聞き取り内容として,「平成16年2月に国会議員から被告人あてaの相談に乗ってほしいという依頼があり,直接的には企画課のF総括補佐から自分あてに依頼があったと記憶。」との記載がある。
 前記事情聴取書は,記載の体裁からすると,Jが捜査とは関係なく,Dから聴取した,取調べにおけるP4の質問とDの答えを,基本的にはそのまま記載したものであると認められる。事情聴取は正確に取調べ状況を聴取することが目的とされていたと考えられる上,Jは,厚労省関係者とはいえ,本件に直接関係ある者ではなく,特段Dから聴取した事柄と異なる内容を記載する事情も窺われないことからすると,事情聴取書に記載されている事柄自体は,JがDから聴取したものと考えられる。
 そして,前記の記載以外の事柄については,「このやりとりにかなりの時間を要した。障害者団体の方がそのような供述をしているような検事の口ぶりだった。」,「携帯の着信記録を見られた。」といった取調べ状況や取調べに対するDの感想とみられる記載があるにもかかわらず,取調べ時に記憶がなかったことを供述したとか,取調べに対する不満を示すような記載はみあたらない。
 したがって,Jによる事情聴取においても,前記の記載部分の内容を,特に不満を述べることなく,取調べの際の発言として,DがJに対して報告したとみられる。

(ウ) また,本件請求に係る各供述調書が作成された時点において,相反部分に該当するような内容が記載された他の関係者の供述調書はみあたらない。相反部分の中核は,いずれも,関係者とのやりとり等に関する供述であり,取調べ時点において押収されていた客観証拠等から直接に導かれるような内容のものでもない。したがって,Dに対する取調べ時において,取調官が,他の供述や証拠を示すなどして,相反部分の中核について,決めつけるような形で限定的に誘導することができるような状況であったとは認められず,少なくとも,相反部分に関して,そのような誘導がなされたとは認められない。

(エ) 更に,5月26日の取調べにおいて,Dが記憶にないと述べたのに対し,P4が,ある程度追及的な取調べを行ったことはP4自身も認めているものの,それによって,供述が覆った部分には,Cと面談したこと等,公判廷においても供述を維持している部分も含まれているのであり,そのような追及によって,取調べ時の認識と全く異なる供述調書が作成されたともみられない。

(オ) 以上からすると,Dが,逮捕をおそれ,記憶があまりない事項について,取調官による追及や誘導により供述したものとはみられない。

ウ.小括

 以上検討したとおり,Dの取調べには,特段の問題があるとはいえない。

(2) 公判供述の状況について

ア.検察官の主張

 検察官は,@Dは,現職の厚労省職員であり,被告人とかつて部下と上司という関係にあり,逮捕当時,厚労省の要職にあった被告人の面前では供述しがたかったこと,ADは,今後予定されている厚労省関係者の証人等にも配慮せざるを得ない状況にあった旨主張する。そこで,この点について検討する。

イ.検討

 Dは,証言時点において,厚労省の地方局に勤務しており,また,企画課に勤務していた際,被告人と,上司と部下という関係であったという事情に鑑みると,一般的には事実を否認している被告人の面前で被告人に不利な供述をなしにくいという状況があるといえる。
 また,Dは,取調べ時の供述経過に関して,「Aが逮捕された直後のP4からの取調べで,当初,(Cと)最初に会ったときの状況を思い出せと強く言われたが,午前中の段階では余り覚えていないと答えていた。午後,P4から,社会参加推進室に企画課の誰かが呼びに来たのではないかと言われて,少し記憶がよみがえった。」とも供述するが,P4は,午前の段階でFが呼びに来たこと等も含めて供述が出たことから,昼休みの間にFも呼び出すよう主任検事に打診したと供述しており,P4の供述は,Fが,公判で5月26日の午前中か昼くらいに厚労省から検察庁に行くように連絡があったと供述していることとも符合する。
 これに対し,上記Dの供述部分は,これに反する。

ウ.小括

 したがって,Dの取調べに関する公判供述には,信用性判断を慎重になすべき事情があると認められる。

(3) 外部的情況からの検討

 以上によれば,外部的事情という観点から検討した場合,取調べ状況には大きな問題があるとまではみられないのに対し,取調べに関する公判供述は,その信用性を慎重に判断すべき一定の事情が存する。
 したがって,外部的事情という点からみた場合,捜査供述に特信性を肯定できる事情があるといえる。

4.内容面について

 一件記録に照らして外部的事情を推認する限度で内容面を検討しても,証拠能力レベルで捜査供述に特信性を特段否定するような事情はみあたらない。

5.結論

 以上によれば,供述の信用性判断は別個の観点等もふまえてなされるものの,Dの検察官調書には,刑訴法321条1項2号にいう特信性は認められる。
 よって,検察官請求の各検察官調書(甲13,14)を採用する。

第3.Eの検察官調書(甲19,20,92ないし94,96,97)について

1.当事者の主張の概要

 検察官は,証人Eの公判供述(第5回公判)と検察官調書(甲19,20,92ないし94,96,97。6月30日付け2通,5月29日付け,30日付け,6月15日付け,21日付け,25日付け)には,相反性があり,検察官調書には次のような点から特信性があると主張する。Eは,公判において,被告人との人間関係,厚労省関係者やIへの配慮,自己に対する刑事責任の追及や周囲からの非難等を免れたいという自己保身から公判では真実を供述することが困難であったのに対し,捜査段階においては,暴行脅迫もなく,外部的に特信性のある情況で検察官調書は作成されている(弁護人主張のように,P4がEに対し,交信記録が存在するなどといったことはない。)から,外部的事情から検察官調書には特信性がある。また,公判供述は,内容が不自然不合理であって,Iからの電話の記憶の有無について,あいまいな供述をしており,捜査段階の供述と変わった理由についての供述も不自然であるのに対し,検察官調書の内容は,5月29日以降,自発的に供述しており,供述の撤回等なく,内容が具体的,迫真的,自然で,他の証拠とも整合することなどから,内容的にも特信性がある旨主張する。
 これに対し,弁護人は,@本件取調べは,Eに対する別件収賄をにおわせての取調べと並行してなされたもので,Eは,検察官に迎合し,自己への追及を避けたいと考えていたこと,AEは,当時,日常的に国会対策として,議員から様々の頼まれごとを引き受け,部下に処理を指示していたもので,Iから厚労省に対し要請があったとすれば,自分が窓口になったとの思い込みがあったこと,B公的証明書発行についての報告をIにしたことについては,P4が電話の交信記録が存在するとして追求したので,それを前提に供述したことなどから,Eの検察官調書に特信性は認められないと主張する。
 そこで,この点について検討する。

2.相反性について

 Eの公判証言と検察官調書の相反性について検討すると,相反性が認められる部分の中核は,@2月下旬ころ,IからEに電話があったのか否か,電話があったとして,その会話の内容,特に,郵政の割引に関し,公的証明書を発行して欲しい,Cを行かせるのでよろしくなどと依頼を受けたのか否か,Aその後の被告人への指示の有無,内容,その後にCと会ったか否か,B6月上旬ころ,被告人から公的証明書を出すことになったと報告を受けたか否か,その際の会話内容,これをEがIに連絡したか否かという点である。

3.外部的情況について

(1) 取調べについて

 Eは,5月29日からP4の取調べを受けたが,当日,相反部分@,Aの前半部分の記載がある供述調書が作成された。そして,5月30日にも取調べを受け,相反部分Aの後半部分,Bの記載がある供述調書が作成された。
 その後も,Eは,P4の取調べを受けて,供述調書が作成されたが,前記相反部分の中核は,5月29日,30日付けの供述調書と同旨のものであった。
 そこで,両日の取調べ状況を中心に検討する。

ア.相反部分@について

 2月下旬ころ,Iからの依頼が厚労省側にあったこと,これが「a」のCに対する低料第三種郵便物の公的証明書発行に関する依頼であったことについて,5月29日のEの取調べ時点で,D,F,Gの供述調書にはほぼこれに沿った内容の供述が得られていた。よって,これらの者の上司の1人であるEが直接Iから依頼を受けたものである可能性が推測され,そうであれば,P4は,5月29日の段階で,Eからこのような供述を得ようとする意図があったことは推認できる。
 他方,この段階で,Iから直接依頼を受けたのは厚労省側の誰であったのかについて,特定する資料があったとまでは認められない。また,Eは,「当時の状況,I先生が絡んだ案件だということで報道され,係長が既に逮捕されてる状況の中で,私が政治案件,国会対策を,一手に引き受けてやっていたし,Iとも親しい関係であったことから自分が電話を受けたと思い,そのような供述をした。」と述べている。
 そうすると,P4が上記関係者の供述調書の内容をEにあてるなどして,Iから直接依頼を受けたのがEであるとの供述を得たという経緯は認められない。
 なお,Eは,相反部分@に関連して,実際の記憶にあったのは,国会の秘書らしい人物が来て,あいさつするなど丁寧に対応したということくらいで,あとは,自分で思いこんでいたものであるなどと述べ,弁護人も,Eの捜査供述は報道等の影響を強く受けていたと主張する。
 しかし,報道等の影響があったとしても,Eは,5月29日の取調べを受ける直前に,当時の部下であるK,L,Mと話をした際,同人らはEからこの案件を頼まれてはいないと述べているのを聞いたというのであり,Eが,自己の記憶に基づく供述をすることが困難であったとまではみられない。また,本件では検察官がこれについて誘導を行ったという形跡もうかがわれず,検察官とのやりとりの中で自己の記憶が変質したということも認められない。
 以上によれば,Eは,自ら頭の中で想像したのか,記憶をそのまま述べたのかはともかく,2月下旬ころ,IからEに電話があったこと,その際,Iから身体障害者団体の郵政の割引に関し,公的証明書を発行して欲しい,Cを行かせるのでよろしくなどと依頼を受けたことを,自ら供述したものとみられる。
 弁護人は,5月29日の取調べの前日に,Eは捜索を受けており,金品類を押収し,翌日に,本件と並行して収賄に関する取調べや調書作成も行ったのであるから,これによる逮捕等のおそれなどの萎縮が認められ,これにより検察官に迎合して供述したものであると主張する。
 一般的には,そのような可能性も想定はできる。
 しかし,Eは,本件で「逮捕されるかもしれないという恐怖感はあった。」と述べる一方で,金品の授受については,知人から個人的な関係でもらったもので社会的に非難されるとしても,違法なことではない旨述べており,収賄関係よりも本件による被疑者として取調べを受け,逮捕のおそれを抱いていたとみられるから,収賄による逮捕の萎縮のもとに当然に検察官に迎合して虚偽の供述をしたとまでは認められない。
 また,弁護人は,Eは,自らへの追及を避けたいと考え,検察官に迎合したと主張する。確かに,Eは,Iからの依頼を被告人に伝えたということであると,共犯者とされるおそれも想定でき,それを防止するため,検察官に迎合する可能性はある。しかし,前記のように,検察官は,関係者の供述からも誰がIから依頼を受けたのかまでは確定的に把握していなかったのであり,Eは,自らへの追及を避けるため,記憶がないという供述も可能であった。
 よって,検察官への迎合から当然に上記事実を認めたものともいえない。

イ.相反部分Aについて

 検察官は,5月29日の時点で,関係者の供述から,被告人の関与があったとの供述を得ており,また,相反部分@でIから依頼を受けたのがEであることが明らかになったことから,Eと被告人との指示を追及することができる状況になっていたものであり,この点については,相応の誘導がなされる可能性はあったといえる。
 しかし,Eは,公判証言において,具体的な記憶はないものの,このような案件であれば通常のこととして,当然,被告人に伝えているはずであるとも述べている。特段,検察官がこの点に関して不当な誘導等を行ったとまではうかがわれない。

ウ.相反部分Bについて

 Eが,6月上旬ころに,被告人から公的証明書を出すことになったとの報告を受け,これをEがIに連絡したとの供述が,Eから初めてなされたのは,5月30日である。
 この点について,弁護人は,EはP4から電話の交信記録(電話会社の通信履歴)があることを前提に追及されたため,これを認めるに至ったものであると主張し,Eも,その旨,供述する。そして,この時点で検察官はこのような「交信記録」を得ていた事実はないのであるから,Eの公判証言が真実であれば,P4が不当な手段による誤導を行ったことになる。
 しかし,5月30日の段階でEがIに電話をしたことを認める検察官調書が作成されているのに,Eは,その公判証言において,交信記録の存在を聞いたとする時期を特定できない旨の供述もしている。また,Eは,「出口」(Iへの報告)のところは,「もし私が報告を受けたとなると,被告人に関わったことが確定的な話になるので,何度も『交信記録』の有無を確認したが,結局『交信記録』なるものは検察官から一度も見せて貰えなかった。」と述べている。そうであれば,「出口」を認めず,あるいは前言を撤回することも可能であったはずであるのに,P4に対し,このようなことをした形跡はない。
 他方,P4は,Eの取調べの最終段階で,「Eは,私の話だけが何か決定的な証拠として,被告人が起訴されるのか,自分の話を何か客観的に裏付けるような証拠は,とりわけ,Iとのやり取りが分かるような,『交信記録』みたいなものがないのかということを聞いてきたが,どういう証拠があるのかというのは,あなたは事件関係者なので教えることはできないと言った。」と述べている。この供述は,Eが,本件に関し,公判で証言する場合に,被告人やI,厚労省関係者から強い反感を受けることが予測されることや,Eが「交信記録」を見ないまま供述をしたこととも整合しており,これ自体は必ずしも不自然なものではない。
 また,P4が,取調べ中に「議員の方で電話の受付簿をつけたりしている人もおられますから」と述べたとみられること(第14回公判59頁)が,Eがこれを誤解した可能性はある。しかし,上記のとおり,この会話は,EがIに電話をしたことを認めた後,再確認した際の言葉であるとみられるから,P4が虚言を述べてEがIに電話をしたことを認めさせたことに直接つながらない。
 さらに,P4は,E供述を前提とすると,明らかな虚偽事実を述べて,Eに供述を迫ったことになるが,この時点で,そのような方法をとってEから出口供述を取得する必要があるとはみられず,また,このような明らかな虚偽事実をもとに供述を求めることは,発覚の可能性も高いものであるともみられる。
 以上によれば,Eが供述するように,P4が交信記録があると虚偽の事実を述べて,Eに供述させたものとまではみられない。

エ.小括

 以上によれば,Eの取調べ状況に大きな問題があるとまではみられない。
 弁護人は,本件は,取調べがなされる5年も前のことであり,取調べ時点で,記憶があいまいになっていた上,当時の部長であったEには,国会議員との対応は往々にしてあることであったから,思いこみ等の供述をする可能性があった旨主張する。
 しかし,そのような事情は,証拠能力レベルの問題ではなく,供述の信用性判断で考慮すれば足りるものと解せられる。

(2) 公判供述の状況について

ア.検察官の主張

 検察官は,@Eは,被告人とかつて上司と部下という関係にあり,その後も親密な関係を維持していたもので,将来を嘱望され,逮捕当時,厚労省の要職にあった被告人の面前では被告人に不利な供述をしがたかった,AEは,元々厚労省のキャリア職員で,証言当時も独立行政法人の理事の職に就いていること,Aが捜査段階の供述を翻していたことを知っており,今後出廷予定の厚労省関係者の証人に配慮せざるを得ない状況にあった,BIにも配慮せざるを得ない状況にあった,C自己に対する刑事責任の追及や周囲からの非難等を免れたいという自己保身の意識が働いたことなどから,Eは公判で真実を供述しえない状況にあった旨主張する。
 そこで,この点について検討する。

イ.検討

 一件記録によれば,Eは,本件捜査後,独立行政法人b機構を退職し,証人尋問当時は無職であったことが認められ,検察官主張の本件証言当時,Eは上記法人の理事であった旨の主張は採用できない。また,検察官は,Eを起訴していないのであるから,証人尋問当時,自己に対する刑事責任の追及を免れる目的があるとは認めがたい。
 しかし,Eは被告人とかつて上司と部下という関係にあったもので,事実を否認している被告人の前で被告人に不利な事実を証言しづらいということは一般には想定できる。また,Eは,捜査段階と異なる供述を公判でなす理由として,前記交信記録の件の他,Eの尊敬する先輩から,今年に入ってから,「I事務所の秘書を通じて聞いたら,IはEなんか知らない。電話なんかしていないと言っている。」と聞いたこと,今年に入って新聞報道によると,(A)係長も供述を翻したという話を聞いたこと,弁護人と会った際,公判でCは私に会っていないという話をしていると聞いたことなどを挙げる。すなわち,Eは,関係者の話,新聞報道,公判での他人の供述状況などを基にして,それらが真実であることを前提にして自己の供述を変更したものと認められる。Eの公判供述は,これらの点の影響によるものとみられ,その供述の信用性を基礎づける事情があるとはみられない。

(3) 外部的情況からの検討

 以上によれば,Eの取調べ状況に大きな問題があるとはみられないが,公判供述には,信用性に一定の疑問を生じさせる状況が存するといえる。
 したがって,外部的情況のみからの検討によれば,特信性を肯定できる事情があるといえる。

4.内容面について

 弁護人は,Eの公判供述の内容が供述の外部的事情を推認させる資料として特段の意味があるとの主張はなしておらず,このような意味があると認めるに足る事情は窺えない。

5.結論

 以上によれば,供述の信用性判断は別個の観点等もふまえてなされるものの,Eの検察官調書には,刑訴法321条1項2号にいう特信性は認められる。
 そこで,その余の点について検討すると,甲19,20号証の検察官調書は,相反部分の記載があり,必要性も認められるが,本件請求に係るその他の供述調書(甲92ないし94,96,97)は,実質的にはそれとほぼ重複するものであり,必要性は認められない。

(次回へ続く)

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