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大阪地裁第12刑事部決定平成22年05月26日

【判旨】

(前回からの続き)

第4.Fの検察官調書(甲21,109,110,125)について

1.当事者の主張の概要

 検察官は,証人Fの公判証言(第10回公判)と検察官調書(甲21,109,110,125。6月17日付け,5月26日付け,6月1日付け,17日付け)には相反性があり,また,検察官調書には特信性があると主張する。
 検察官は,特信性について,Fは,公判において,被告人や厚労省及びその関係者への配慮等から,真実を供述することが困難な情況にあったのに対し,捜査段階においては真摯に真実を供述することができる情況にあり,外部的事情から特信性があると共に,公判供述の内容は,あいまいで終始一貫しない内容であるのに対し,検察官調書の内容は,具体的で,自然かつ合理的であり,取調官が誘導できない内容を供述しており,他の証拠とも整合することなどから,内容的にも特信性がある旨主張する。
 これに対し,弁護人は,Fの捜査供述は,検察官の強圧的な取調べや暗示,誘導によるものであり,公判供述には,被告人への配慮と評価されるものはなく,外部的事情から特信性はない上,内容面からも,Fの検察官調書には不自然,不合理な点があり,特信性はないと主張する。

2.相反性について

 Fの公判証言と検察官調書の相反性が認められる部分のうち,中核的な点は,@2月下旬ころ,被告人から,「Iの事務所から,Iの秘書のCが,障害者団体を作り低料第三種郵便を使いたいので,公的証明書を発行して欲しいと頼まれているが,誰が担当しているのか。」と尋ねられ,これに関する会話をし,その数日後,Cが訪ねてきて,被告人のデスクで,被告人と共にCとあいさつしたことがあったか否か,A6月上旬ころ,Gから,「Iから頼まれていた『a』の案件は,Aが,被告人なんかと相談して,うまく処理してくれたようで,公的証明書を発行することになった。」などと報告を受けたことがあったか否かである。

3.外部的情況について

 弁護人は,Fの捜査供述は,Fに対し,検察官による精神的圧迫,偽計を用いた誘導がなされたことによるもので,外部的事情から特信性がない旨主張する。
 そこで,取調べの状況について検討する(なお,同様の事柄が,異なる供述調書に記載されている場合もあるが,その場合,その事柄について,初めて供述がなされた際の状況が重要であるので,その時点での取調べの状況を検討する。)。

(1) 取調べについて

 Fは,5月26日にP4の取調べを受け,相反部分@の記載がある供述調書が作成され,27日にP8の取調べを受け供述調書が作成され,6月1日にP4の取調べを受け,相反部分Aの記載がある供述調書が作成された。Fはその後も検察官の取調べを受けたが,その際作成された供述調書には同趣旨の記載がなされている。

ア.取調官による偽計的言動の存在の有無

(ア) Fは,5月26日の取調べにおいて,P4から,@社会参加推進室の人で,当日の私の供述調書に記載されているような内容をはっきり覚えて供述している人がいる,ACが私の名刺を持っていると言われたと供述しており,弁護人は,これらの言動は偽計に当たると主張する。
 また,Fは,6月1日の取調べにおいて,P4から,GがFに対し,「うまく処理できました。」という趣旨のことを報告したと供述していると告げられ,同日付けの供述調書に記載されているGの発言内容は,P4から告げられていたものである旨供述する。
 これに対し,P4は,偽計や脅迫的言動・誘導をしてはいない旨供述をしている。
 そこで,これらの点について検討する。

(イ) まず,@の点について検討する。P4は,5月26日,DがFの取調べ前に既に取調べを受けていたこと,Fが本件に何らかの関与をしていることを示す発言をDがしていることを暗に示した発言をしたこと自体は認めており,@の「社会参加推進室の人」とはDのことであると考えられる。
 そして,この時点で,DがFから呼ばれてCが来た際の対応を指示された旨が記載された5月26日付けのDの供述調書が作成されていたのであり,そのような供述が得られている旨を告げること自体は,少なくとも偽計とまではいえない。

(ウ) Aの点について検討する。P4に対しては,公判で,検察官,弁護人からCがFの名刺を所持していたことをFに告げたかという関係の質問はなされていない。しかし,P4は,Fに具体的な状況を聞いていったところ,5月26日付け供述調書に記載されているような内容を供述したと述べており,偽計的手段で取調べをしたことは否定する趣旨であるとみられる。
 Cが所持していた名刺の中に,Dの名刺はあったが,Fの名刺はなかったこと,Cの供述調書にもFとの名刺交換の事実は出ておらず,P4もこれを認識していたとみられること,相反部分@の関係の事実はDの検察官調書に既に出ており,これをあてる以外に,あえてFの名刺をCが所持していたという明らかな虚偽事実をP4がFに述べて供述を迫る必要はないとみられること,5月26日付け検察官調書は,相反部分@のうちI事務所からの事前連絡がありFが被告人と会話したことがほぼ3分の2を占めており,その関係では,Fの名刺交換は大きな意味を有するものではないことなどに照らすと,P4がFに対し,CがFの名刺を所持していると述べて供述を求めたものとはみられない。

(エ) よって,取調官が偽計的言動を用いて,供述調書を作成したとは認められない。

(オ) 次に,6月1日に,P4がFに対し,Gの供述内容を告げたか否かについて検討する。一件記録によれば,6月1日までに,同様の内容が記載されたGの供述調書は作成されておらず,また,6月1日時点までにGが,そのような内容を供述していたという事情も窺われない(P4も,6月1日の時点で,向けるべき供述はなかったと供述しており,当該供述は,そのような事情と合致する。)。
 したがって,P4が,同日の取調べにおいて,Fに対し,少なくとも,Fが供述するような強い誘導をなしたという事実までは認められず,Fの供述はこれに反する。

イ.脅迫的言動の有無

 Fは,5月26日の取調べにおいて,「そんなんだったら,1泊でも2泊でもしていくか。」という言葉や,「特捜をなめるんじゃない。」という趣旨の言葉を言われたり,大きい声を出されるなどしたこともあり,最終的に署名したと供述する。これに対し,P4は,これらの事実を否定する。
 Fのこれらの言動があったとの供述は,最終的に,そのような趣旨の発言があったと思うというあいまいなものになっており,必ずしも確定的になされたものとして供述しているものではないとみられる。これに対し,P4は,Dに対しては,ある程度追及的な言動を取ったことを認めながら,Fに対しては,そのようなどう喝をする必要はなかった旨供述しており,これらの供述は特に不自然,不合理な点は認められない。
 したがって,P4が,5月26日の取調べにおいて,少なくとも,Fを脅迫して,供述調書を作成したとは認められない。

ウ.その後の調書について

 なお,6月17日付け供述調書は,それまでに作成された供述調書をまとめたもので,前記中核的相反部分については,特段の変更はない。

エ.小括

 以上検討したとおり,Fの取調べには,特信性判断という観点からは,大きな問題はあるとはいえない。

(2) 公判供述の状況について

ア.検察官の主張

 検察官は,@Fは,被告人とかつて部下と上司という関係にあり,逮捕当時,厚労省の要職にあり,事実を否定している被告人の面前で真実を供述しがたかったこと,AFは,厚労省関係者の証人等にも配慮せざるを得ない状況にあったこと,B自己の刑責や周囲からの非難を免れることに対する配慮の必要を主張する。
 そこで,この点について検討する。

イ.検討

 一件記録によっても,検察官主張中A,Bの事情があるとは認められない。
 そして,Fは,平成17年3月に厚労省を退職し,厚労省が所管する協会であるc協会に就職し,同協会定年退職後,d病院で勤務しており,証言時点において厚労省職員ではない。しかし,Fは被告人との間で,かつて部下と上司という関係にあったもので,事実を否認している被告人の前で被告人に不利な事実を証言しづらいということは一般には想定できる。
 Fの自らの取調べ状況に関する供述には,被告人に対する配慮に起因するとも考えられる点もみられ,Fの公判供述の信用性に一定の疑問を生じさせる事情とみることができる。

(3) 外部的情況からの検討

 以上によれば,外部的事情という点からみた場合,検察官調書については,特信性を肯定できる事情があるといえる。

4.内容面について

 一件記録に照らして外部的事情を推認する限度で内容面を検討しても,証拠能力レベルで特信性を否定するような事情はみあたらない。

5.結論

 以上によれば,供述の信用性判断は別個の観点等もふまえてなされるものの,Fの検察官調書には,刑訴法321条1項2号にいう特信性は認められる。
 そこで,その余の点について検討すると,甲21号の検察官調書は,相反部分の記載があり,必要性も認められるが,本件請求に係るその他の供述調書(甲109,110,125)は,実質的にはそれとほぼ重複するものであり,必要性は認められない。

第5.Gの検察官調書(甲22,107,108)について

1.当事者の主張の概要

 検察官は,証人Gの公判証言(第13回公判)と検察官調書(甲22,107,108。6月7日付け,5月28日付け,6月17日付け)には相反性があり,また,検察官調書には特信性があると主張する。検察官は,特信性について,Gは,公判において,被告人や厚労省及びその関係者への配慮等から,真実を供述することが困難な情況にあったのに対し,捜査段階においては真摯に真実を供述することができる情況にあり,外部的事情から特信性があると共に,公判供述の内容は,あいまいで終始一貫しない内容であるのに対し,検察官調書の内容は,具体的で,自然かつ合理的であり,取調官が誘導できない内容を供述しており,他の証拠とも整合することなどから,内容的にも特信性がある旨主張する。
 これに対し,弁護人は,Gの捜査供述は,検察官の脅迫や暗示,誘導によるものであり,公判供述には,被告人への配慮と評価されるものはなく,外部的事情から特信性はない上,内容面からも,Gの検察官調書には不自然,不合理な点があり,特信性はないと主張する。

2.相反性について

 Gの公判証言と検察官調書とに相反性があることは明白であるが,その中核的な点は,@2月下旬ころ,Fから呼び出されて,L,Dと共に企画課長席のところまで行き,そこで被告人からCを紹介され,同人とあいさつをし,その後,L,Dと共に,Cに対し,公的証明書の手続等についての説明をしたのか否か,Aその後,被告人に対し,Cに対する説明が終了したことの報告をし,その際被告人から,「ちょっと大変な案件だけど,よろしくお願いします。」と言われたのか否か,B3月中旬ころ,被告人から,本件についての進捗状況を確認され,eとの間で調整中であり,未だに発行申請や資料が提出されていない旨告げたのか否か,また,Dに対し,後任に引き継ぐよう指示したのか否か,C4月上旬ころ,Aに対し,引き継ぎ状況等を確認したのか否か,D5月中旬ころ,Aから,「a」から資料等の提出がないことから,決裁を上げるのは難しい状況である旨の報告を受けたことから,Mとともに,被告人にその旨を報告し,被告人から,さらに調整を進めるよう指示を受け,それをAに伝えたのか否か,E6月上旬ころ,Aから,「a」の件は調整がついて終わった旨の報告を受けたのか否かである。

3.外部的情況について

 弁護人は,Gの捜査供述は,本件に関する記憶のないGに対し,検察官による誘導,脅迫がなされたことによるもので,外部的事情から特信性がない旨主張する。
 この点について,Gは,「自己の供述調書に記載された内容については,当時から記憶はなかった。検察官から,こうではなかったかと質問され,記憶はなかったが,そういう可能性があるとして話をした。また,P9の取調べでは,本件について記憶がないと述べると,机をたたいて,『覚えていないということはないのではないか。こちらにも考えがある。』などと大きな声で言われた。」旨供述している。
 これに対し,取調べ担当検察官であったP8は,Gは,「可能性があるという言い方ではなく,確かにそうであると話した。」旨供述する。また,P9は,「こちらにも考えがある。」と述べたことはない旨供述する。
 そこで,以下,この点について検討する。

(1) 取調べについて

 Gは,5月26日にP8の取調べを受けたが,本件について記憶にない旨供述し,当日供述調書は作成されなかった。5月28日にP8の取調べを受け,相反部分@,Aの記載がある供述調書が作成された。6月1日にP9の取調べを受け,相反部分BないしEの記載がある供述調書が作成された。Gはその後も検察官の取調べを受けたが,その際作成された供述調書には同趣旨の記載がなされている。

ア.P8は,5月26日の取調べにおいて,本件について,記憶にないと供述していたGに対し,相反部分@に関するDの供述をGにあて,5月28日の取調べにおいて,相反部分Aに関するDの供述をあてた旨供述している。相反部分@,Aに関するGの供述は,5月26日付け及び5月27日付けのDの供述調書の内容を告げたことによる影響を受けてなされたことは否定できない。
 しかし,一件記録によれば,前記相反部分Bの一部,CないしEについては,Gの当該供述がなされた時点で,同様の内容が記載された他の関係者の供述調書はみあたらず,また,供述がなされていたという状況も窺われない。よって,これらについては,他の供述などをもとに検察官が誘導して供述させたものとはみられない。

イ.P9は,「6月1日の取調べにおいて,Gに対し,Aに引き継がれた後の状況について聞いたところ,『a』の案件は終わったものだと思っていたと供述した。それに対して,私が,決裁をしていないのに終わった理由をちゃんと説明して欲しいと言っても,終わったと思っていたとの答えの繰り返しだった。そこで,私は,『ちゃんと説明して欲しい。』と大きな声で言いながら,机を一回たたいた。そうしたところ,平成16年6月上旬ころに,Aから,調整がついて終わったという報告があったので,この件については終わったと思っていたと供述した。それに対し,私は,報告があったということはそれまでにも何かやりとりがあったのではないかと聞いたところ,5月ころに,一度Aに進捗状況を確認したことがあり,その際,『a』から何も提出がないという報告があり,それをMと相談して被告人に報告しにいったとの供述をした。」旨供述している。その経過自体は不自然なものとはいえない。
 なお,P9は,取調べで「こちらにも考えがある。」などとは言っていない旨供述する。しかし,当時,P9が,机をたたき大声を出したことは明らかであり,そのような状況下で,そのようなことをいうこと自体は不自然なことではなく,この点に関する前記Gの供述を排斥することはできない。
 しかし,Gは,P9が,机をたたいた点について,「怖いという受け止め方はしなかった。」旨供述しており,P9が机をたたいたことなどがGがD,Eの供述をなしたことに直接結びつくものとはいえない。

ウ.Gの供述調書には,Cに公的証明書の発行手続について説明した際に,Cに対して,任意団体で定款がないときには団体の設立趣意書を出してほしいといった補足的説明をしたなどという記載もあるが,このような記載は捜査官が誘導して供述させたものとはみられない。
 Gは,供述調書の多くの部分について,なぜ,そのような内容の供述調書が作成されたのか思い出せない旨供述しており,供述自体にあいまいな点がある。

エ.他方,検察官は,P8は,Lについて,同人が本件について記憶がない旨の供述調書を作成しており,P8は,相手方の記憶に従って供述調書を作成しているものであるから,P8がGに対しても,供述を押しつけるような取調べや供述調書の作成をしていないことは明らかである旨主張する。
 しかし,関係証拠によれば,P8は,5月26日,同月29日,6月1日にLを取り調べ,Lはaについても,Cと会ったことについても記憶がないと供述したが,P8はその旨の検察官調書を作成しなかったこと,P8は,被告人の逮捕勾留後の6月19日にもLを取調べ,Lはいずれも記憶がないと供述したところ,P8はようやくその旨の検察官調書を作成したことが認められる。以上によれば,P8は,Lを3回にわたって取り調べ,Lがいずれもa,Cについて記憶がないと供述していたにもかかわらず,その旨の供述調書を作成せず,4回目にしてようやく供述調書を作成するに至ったもので,その経緯に照らすと,検察官の意向に添う供述をなすまでは容易に供述調書を作成しないという様子がみられるもので,最終的に記憶にない旨の供述調書が作成されたこと自体は,供述を押しつけるような取調べが行われなかったことに結びつくものとはいいがたい。

オ.以上によれば,Gの捜査供述の一部(相反部分@ないしB)については,取調官による誘導による影響の可能性は否定できないものの,相反部分CないしEについてはそのような事情があったとまではみられず,また,P9が机を叩いたこと自体は直接D,E供述をなしたことに結びつくものとはみられない。
 その一方,Lの供述調書の作成経緯からも明らかなとおり,検察官はその意向に添う供述をするまではなかなか供述者が供述する内容の供述調書を作成しないなどの事情は認められる。

(2) 公判供述の状況について

ア.検察官の主張

 検察官は,@Gは,厚労省所管の財団法人職員であり,被告人とかつて部下と上司という関係にあり,逮捕当時,厚労省の要職にあった被告人の面前では供述しがたかったこと,AGは,既になされていた厚労省関係者やI,証人尋問の結果等にも配慮せざるを得ない状況にあったこと,B自己の刑責や周囲からの非難を免れることに対する配慮の必要を主張する。
 そこで,この点について検討する。

イ.検討

 一件記録によっても,検察官主張中A,Bの可能性が高いものとは認められない。
 そして,Gは,平成20年3月に厚労省を退職し,厚労省所管の財団法人fに勤務していたもので,証言時点においては,厚労省の職員ではない。しかし,Gは,被告人との間で,かつて部下と上司という関係にあったもので,事実を否認している被告人の前で被告人に不利な事実を証言しづらいということは一般には想定できる。
 また,Gの公判での取調べ状況や供述調書の内容に関する公判供述には,あいまいな点が多く,その供述態度には,問題がないとはいえない。

(3) 外部的情況からの検討

 以上によれば,検察官の取調べには,一部誘導があり,また,検察官の意向に沿う供述がなされるまで,供述者の供述調書をなかなか作成しないなどの問題がある一方,公判供述にも各種問題があり,外部的事情という点からみた場合,証拠能力レベルでは検察官調書については,特信性を肯定できると解される。

4.内容面について

 一件記録に照らして外部的事情を推認する限度で供述調書の内容面を検討しても,証拠能力レベルで供述調書の特信性を特段否定するような事情はみあたらない。

5.結論

 以上によれば,供述の信用性判断は別個の観点等もふまえてなされるものの,Gの検察官調書には,刑訴法321条1項2号にいう特信性は認められる。
 そこで,その余の点について検討すると,甲22号の検察官調書は,相反部分の記載があり,必要性も認められるが,本件請求に係るその他の供述調書(甲107,108)は,実質的にはそれとほぼ重複するものであり,必要性は認められない。

(次回に続く)

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