最新下級審裁判例

大阪地裁第12刑事部決定平成22年05月26日

【判旨】

(前回からの続き)

第8.Bの検察官調書(甲48ないし50,81,82)について

1.当事者の主張の概要

 検察官は,証人Bの公判証言(第2,第3回公判)と検察官調書(甲48ないし50,81,82。6月6日,7日,9日,26日,7月2日付け)には相反性があり,また,検察官調書には特信性があると主張する。検察官は,特信性について,Bは,公判において,自己の刑事責任,被告人を含めた共犯者への配慮等から,真実を供述することが困難な情況にあったのに対し,捜査段階においては真摯に真実を供述することができる情況にあり,外部的事情から特信性があると共に,公判供述の内容は,あいまいで,不自然,不合理であるのに対し,検察官調書の内容は,具体的で,自然かつ合理的であり,自己に不利益な事実も率直に供述しており,他の証拠とも整合することなどから,内容的にも特信性がある旨主張する。
 これに対し,弁護人は,Bの捜査供述は,検察官の威迫や利益誘導によるものであり,公判供述には,被告人への配慮と評価されるものはなく,外部的事情から特信性はない上,内容面からも,Bの検察官調書には不自然,不合理な点があり,特信性はないと主張する。

2.相反性について

 まず,Bの公判証言と検察官調書の相反性について検討する。Bは,公判廷において,検察官調書の内容が正しいと供述する一方で,@Cに対して,Iに口利きを依頼するように要請したのか否か,AOに,Iから厚労省に口利きがなされていることを告げたのか否か,B5月中旬ころ,Aに対し,虚偽の決裁文書の作成を依頼したのか否か,CCに,被告人から郵政へ電話するようにお願いするよう要請したのか否か,DAに対し,日付を遡らせて早期に本件公的証明書を発行するよう要請し,Cに対しても,被告人に同様のお願いをするよう要請したのか否か,E公的証明書を受け取りに行くようにCに依頼したのか否かといった点で,Bは,公判廷において,否定し,あるいは「記憶がない」,「その可能性がある。」といったあいまいな供述をしており,これらの点に関するBの公判供述はきわめてあいまいであるといわざるを得ない。
 したがって,Bの公判供述と捜査供述との間には,相反性が認められる。以下では,これらの相反部分について,捜査供述に特信性が認められるかについて検討する。

3.外部的事情について

 弁護人は,Bの捜査供述は,検察官の威迫や取引・利益誘導などによるもので,他方,公判供述は,真摯に真実を供述することができる情況においてなされたものであるから,外部事情から特信性がない旨主張する。

(1) 取調べ状況について

ア.証拠上認められる事実

 Bは,5月14,15,16日に在宅でP3の取調べを受け,供述調書(甲77ないし79)が作成された。これには,本件公的証明書が内容虚偽のものであることを知っていたことの他,相反部分CないしEの記載がある。
 Bは,5月26日,別件の虚偽有印公文書作成,同行使(前記の虚偽の決裁文書の作成,行使)の被疑事実で逮捕された。
 Bは,5月27日,裁判官の勾留質問を受けたが,勾留質問調書(弁書13)には,「外形的な事実としてはそのとおり間違いありません。しかし,私としては,公文書が内容虚偽のものであることは知りませんでしたし,Aさん,Cさんと共謀したこともありませんでした。」との記載がある。
 Bは,同日,P4の取調べを受けた。同日付け供述調書(甲128)には,「勾留質問では,罪が重くなるのではないかとの気持ちがあったのでうそを言ってしまった。決裁文書の内容が虚偽の内容であることは分かっていた。AとCと密談したという場面はなかったが,そのような場合であっても,互いにそれを作成し,協力し合えばそれでも共謀という評価にはなり得ると検事から教えてもらい,その意味であれば,3人で共謀したというのは間違いない。」旨の記載がある。
 Bの弁護人から,5月26日ころまでの間に行われたP3の取調べ及び5月27日のP4の取調べにおいて,両名からBに対し,脅迫的な言動又は利益誘導ともとれる言動がなされ,その結果,記憶と異なる内容の供述調書に署名押印させられた旨の内容の5月30日付けの申入書が,大阪地検に対して送付され,6月1日に受け付けられた。
 Bは,5月28日から,主としてP4の取調べを受けたが,6月5日まで供述調書は作成されなかった。
 6月6日付け供述調書(甲48),6月7日付け供述調書(甲49),6月9日付け供述調書(甲50)には,相反部分@からEの記載がある。
 その後,Bは本件事実により逮捕勾留され,取調べを受けたが,基本的に事実を認める内容の供述調書が作成されている。
 Bは,本件虚偽有印公文書作成,同行使の事実で7月4日に起訴され,その後,Bの弁護人から保釈請求がなされたが,検察官は,Bの保釈請求に対する意見としては「しかるべく」とした上,「保釈保証金は,100万円を相当と思料する。」との意見を付した。

イ.検討

 P3の取調べについては,Bは,公判で申入書記載のような言動をとったことがあったことを認める内容の供述をしており,この点に関しては,検察官から特段の反対立証もなされていない。
 また,Bの起訴,勾留事実は虚偽有印公文書作成,同行使の事実であり,刑訴法89条1号に該当する事由があり,権利保釈は認められない事案であることからすると,保釈保証金額100万円というのは,相当低額とみられる。保釈請求に対する意見を述べる際に,検察官が,保釈保証金額についても言及すること自体は珍しいことではないが,本件のように,検察官が,一般的にみて低額な保釈保証金額が相当であるとの意見を述べることは,一般的な扱いとはみられない。
 以上の点のみを考慮すれば,Bに対しては,検察官から威迫や取引,利益誘導が行われていた可能性が認められる。
 他方,Bは,公判において,勾留質問後のP4の取調べにおいて,申入書に記載されている発言そのものがあったことは基本的に否定する旨の供述をなしている。そして,申入書作成前に弁護人に話したことは撤回してほしいと弁護人に伝えた旨供述する。
 また,Bは,公判廷において,事実を認めれば保釈金を安くするなどの取引があったことは否定する旨の供述をしている。
 さらに,Bは,相反部分について,「供述調書と公判証言とで,より正しく,私の供述に近いのは,供述調書である。」と述べ,P4の取調べにおいて,暴行,脅迫,利益誘導といった事実はなく,取調べに不満はないとも供述している。
 なお,以上の取調べに関するBの公判供述自体が信用できるかも問題とはなるが,Bの公判供述自体が信用できないのであれば,それとの比較において,捜査供述の特信性が肯定される方向に働くことになるともいえる。

(2) 公判供述の状況について

ア.検察官の主張

 検察官は,@B自身の公判が係属中であったこと,A被告人を含めた共犯者に配慮せざるを得ない状況にあったことから,Bは,公判廷においては真実を供述することができない状況にあったと主張する。
 この点について検討する。

イ.検討

(ア) 主張@について

 本件証言当時,B自身の公判は継続中であることが認められるが,Bは,当公判廷において,本件にかかる自己の公判について犯罪の成立を争わないつもりである旨述べている。よって,自己の刑事責任回避のために真実を供述できないような状況にあったとまでは認められない。
 確かに,検察官の主張するとおり,犯罪の成立については認めつつも,自己の責任をできる限り軽減するために,真実を供述できない可能性も一般的にはあり得るところであるが,Bは,当公判廷において,あいまいな供述をしながらも,Cへの指示など,本件公的証明書に関する虚偽有印公文書作成,同行使の共謀を基礎づける重要な事実については,その存在を認める内容の捜査供述が正しいなどとも述べており,虚偽有印公文書作成,同行使の刑責について軽減しようとする意図がそれほど大きいものとは認められない。

(イ) 主張Aについて

 Bと被告人との間には,本件で共犯者として起訴されたという以外に,具体的なつながりというものは見受けられない。また,Bは,当公判廷において,C,Aに対する配慮を思わせる発言を口にしてはいるものの,Bは,Cへの指示やAへの要求等,両者に不利に働きうる事情を認める内容の供述調書が正確であると述べており,同人の供述から,両名をかばうような意図は窺われない(Aが供述する,公的証明書をBに渡したとの点を,Bは強く否定している。)。

(ウ) Bの供述態度について

 Bは,公判廷において,Cから厚労省へ行き担当のDらに会ってきたなどの報告を受けたこと自体,Aと会ったことを示す自身の備忘録の記載についての説明,本件公的証明書を取得後,カラーコピーを取った経緯,自身は厚労省側から公的証明書を受け取っていないことなど,当時のことについてある程度明確かつ具体的に語っている部分があるにもかかわらず,2月下旬のCに対する指示,虚偽の決裁文書等の要求,日付を遡らせた公的証明書の作成要求といった事柄の有無という,5年から6年の期間経過した後でもある程度記憶していてもおかしくないようなことについてあいまいな供述をしている。また,供述調書の内容についても,同じ証人尋問の中で,矛盾しているとみられる供述をしている。
 このようにBの公判供述は信用性が高いものともいい難い。
 また,Bは,本件証人尋問(2月2日,3日)後に行われたB本人の公判(3月15日)において,Bは,P4と何らかの約束をし,約束の内容は公判でも明らかにしない旨供述しており,捜査,公判,いずれの供述もその影響下にあるような供述もなす。
 この点に関するBの公判供述に照らすと,Bの供述は,捜査,公判いずれにも問題があるとみられる。
 また,Bは,B本人の公判において,Bは,2対1か3対1で捜査供述より,公判供述の方が正しいというような供述をなしている。
 しかし,その理由として,Bは,新聞記事を読んだりするなどして,そう思ったと供述しており,自己の記憶というよりも,報道された本件裁判等の情報を基に供述しているものとみられる。
 よって,Bの実際の記憶に基づく供述ともいい難く,同供述の信用性には慎重な考慮が必要である。

(3) 外部的情況からの検討

 以上によれば,Bの供述は,捜査,公判とも,その信用性には,慎重な考慮が必要であるが,Bの公判供述は極めてあいまいなところ,B自身,本件公判においては,より正しいのは供述調書の方である旨供述しているのであるから,Bの検察官調書には,証拠能力レベルの問題としての外部的事情による特信性を認めるのが相当である。

4.内容面について

 Bの捜査,公判供述には,それぞれ問題があり,供述内容自体から前記外部的事情に影響を与えるまでのものはみられず,供述内容自体については,実体的に,信用性判断で行うのが相当とみられる。

5.結論

 以上によれば,供述の信用性判断は別個の観点等もふまえてなされるものの,Bの検察官調書には,刑訴法321条1項2号にいう特信性は認められる。
 そこで,その余の点について検討すると,甲48ないし50の検察官調書は,相反部分の記載があり,必要性も認められるが,本件請求に係るその他の供述調書(甲81,82)は,実質的にはそれとほぼ重複するものであり,必要性は認められない。

第9.Cの検察官調書(甲54ないし57,90,91)について

1.当事者の主張の概要

 検察官は,証人Cの公判証言(第3,第4回公判)と検察官調書(甲54ないし57,90,91。6月5日,7日,30日,7月3日,6月25日,30日付け)には相反性があり,また,検察官調書には特信性があると主張する。
 検察官は,特信性について,Cは,公判において,自己の刑事責任,B,Iへの配慮等から,真実を供述することが困難な情況にあったのに対し,捜査段階においては真摯に真実を供述することができる情況にあり,外部的事情から特信性があると共に,公判供述の内容は,あいまいで,不自然,不合理であるのに対し,検察官調書の内容は,具体的で,自然かつ合理的であり,自己に不利益な事実も率直に供述しており,他の証拠とも整合することなどから,内容的にも特信性がある旨主張する。
 これに対し,弁護人は,相反性については,公判証言と検察官調書とで枢要部分が異なっていることは争わないが,Cの捜査供述は,検察官の威迫や暗示によるものであり,公判供述には,B,Iへの配慮と評価されるものはなく,外部的事情から特信性はない上,内容面からも,Cの検察官調書には不自然,不合理な点があり,特信性はないと主張する。

2.相反性について

 Cの公判証言と検察官調書との間に相反性が認められることは明らかであるところ,相反性が認められる中核的な点は,@Cが,2月下旬ころ厚労省において,初めに被告人と挨拶し,便宜供与の要請をし,被告人はこれに応じたか否か,ACが,5月中旬ころ,被告人に対し,被告人から郵政公社に電話をして,厚労省での審査が終了し,近々公的証明書が発行される旨伝えてもらうよう要請し,被告人がこれに応じ,郵政公社に電話をしたのか否か,BCが,6月上旬ころ,被告人に対して,5月中の日付で公的証明書を早急に発行してもらうよう要請し,被告人がこれを了承したのか否か,である。
 以下,これらの相反部分を前提として,特信性について検討する。

3.外部的情況について

(1) 取調べについて

ア.証拠上認められる事実

 Cは,4月16日に郵便法違反の被疑事実で逮捕され,その後,郵便法違反による逮捕,勾留の他,別件の虚偽有印公文書作成,同行使の被疑事実と本件被疑事実による逮捕,勾留がなされ,7月4日に本件により起訴がなされるまで,身体拘束が継続された。Cは,その間,主として,P7の取調べを受けた。
 4月21日付けの供述調書(甲83)には,相反部分A及びBの一部の記載が,6月5日付けの供述調書(甲54)には相反部分@の記載が,6月7日付け供述調書(甲55)には,相反部分Bの一部の記載がある。

イ.争点

 弁護人は,Cの捜査供述は,検察官の威迫や暗示などによるもので,外部事情から特信性がない旨主張するので,この点について,検討する。
 C,P7の公判供述によれば,P7は,取調べ中,何度か机を叩いたことがあったことは認められる。しかし,Cは,公判で「P7が机を叩いたのは,私の話が変わったときだと思う。机が叩かれたのが怖くて自分の言いたいこともいえないという状況ではなかった。P7は,私の体調を気遣ってくれて,何回か調書を作成するのをやめるなどしてくれ,精神的に楽になってありがたいという思いを何度かした。P7の取調べに特に不満はない。」と供述しており,Cの捜査段階の供述がP7の威迫に基いて作成されたものとはみられない。
 そこで,それ以外に,捜査段階の取調べについて,公判供述と相反する検察官調書の供述記載に影響を与えうる状況について検討する。

ウ.相反部分@に関する状況(ア) Cは,検事から,「Iから,Eに電話が入り,それが被告人,Dと連絡が伝わっていったという流れなんだ。」などという説明を受け,厚労省関係者の供述を前提に取調べを受け,自分の記憶とは異なる調書に署名したと供述するので,この点について検討する。

(イ) 関係証拠によれば,次の事実が認められる。

 Cは,取調べの当初,相反部分@に関しては,2月下旬ころに厚労省に訪れた際は,まずDから説明を受け,その後,被告人ともあいさつし,公的証明書の発行をお願いした旨の供述(公判証言と概ね同様の内容)をしており,それ以上に被告人と,「a」がどのような団体であるのか等に関するやりとりをしたことについては供述をしていなかった。
 その後,5月26日以降に厚労省関係者(D,F,G)の取調べで,同人らは被告人からCを紹介されたとの供述が得られたことから,P7は,Cにその内容を伝え,Cの検察官調書には,それまでと異なり,最初に被告人に会ってあいさつし「a」の活動についても話したなどという記載がなされるようになった。

(ウ) 以上によれば,厚労省での面談の順番についての供述の変更は,検察官により,厚労省関係者の供述内容を伝えるなどした誘導がなされたことが帰因しているものとみられる。
 また,D及び被告人双方に対し,「a」の活動等に関して,同内容の会話が繰り返されるというのは不自然であることからすると,被告人と「a」の活動等に関する会話を行った旨の供述についても,面談の順番に関する供述と関連してなされていると考えられるから,被告人との会話内容に関する供述も,面談の順番に関する誘導の影響を受けてなされたものである可能性が高い。

(エ) 以上によれば,検察官による厚労省関係者の供述を示すなどの誘導により,記憶とは異なる供述調書に署名したという前記のCの供述を排斥することはできない。

エ.相反部分Aに関する状況

(ア) P7は,当初からCは,被告人に,郵政公社への電話を依頼したことを認める旨の供述をしていたと供述する。これに対し,この点に関するCの証言は,要するに,相反部分Aについては,当初から,被告人は電話中で,被告人に依頼はできなかったが,その被告人の電話の中に「エス(以下,Sの姓と同音のものを「エス」と表記する。)」という名前が出てきたと供述していたが,その内容とは異なった調書に署名指印していたというものと思われ,両供述は食い違っている。
 そこで,Cの供述が排斥できるのか否かについて検討する。

(イ) 相反部分Aについては,4月21日という捜査の初期の段階の検察官調書に記載があること,Cは公判で,「4月の段階では,私自身,事実は事実として認めた上でサインをしているので,私自身も納得してサインしたものだと考えている。」とも供述していること,Cの公判供述によっても,Sの名前を最初に出したのはCとみられることなどに照らすと,相反部分Aは自主的に供述しているようにもみられる。

(ウ)a)他方,関係証拠によれば,Cの手帳には,5月11日の欄に「12:00〜13:00 Mr.Ningyocho(厚労省→直接〒でOKのように)」の記載があり,P7は,Cの取調べ前にこれを認識していたこと,本件公的証明書を提出して受領した証明書の作成者が日本郵政公社東京支社長SであることもCの取調べ前から判明していたことが認められる。
 そして,Cの手帳の記載上からは,CがMr.Ningyochoなる人物から,厚労省から直接〒(郵便局関係)に「OKのように」との発言があったことが強く推認され,「a」の事務所が日本橋に置かれており,Mr.Ningyochoなる人物がBあるいはHであるとみられることから,Bあるいは,Hから「a」の件でCが依頼を受けた事実が推認され,捜査官は,その嫌疑を持ち,Cに質問したものとみられる。そして,Cは,厚労省から,低料第三種郵便扱いで郵送できるよう,厚労省の審査が通った旨を直接郵政公社に連絡してもらえるよう企画課長にお願いしてくれないかとBから依頼され,これに応じ厚労省に赴いたことを認めていた。
 このような状態で,Cが被告人の下を訪ね,被告人がSという人物に電話をしていたと供述した場合,捜査官が,被告人は,日本郵政公社東京支社長Sに電話したものと考えて,そのような質問をすることは不自然ではない。

b)P7の公判供述によれば,P7は,C逮捕前から,本件公的証明書に関して,厚労省に申請事実もなく,発番号もないことが分かっていたことから,Cらが公的証明書を偽造したのではないかとの疑いを持っており,4月19日,Cに,公的証明書を偽造したのではないかと追及していたこと,これに対し,Cは,偽造を否定していたことが認められる。これに照らすと,Cのこの時点(捜査初期)における関心は,自分らが公的証明書を偽造したものではないことを訴えることにあり,厚労省側が公的証明書を作成したことに関連する事項は,より積極的な方向で話すことが推認できる。また,厚労省側の関与の積極方向の事項は,これを肯定することはCにとって不利益とはならないともいえる。Cが,検察官から誘導された場合,これに安易に応じる可能性は否定できない。
 これに対し,Cらの偽造の嫌疑が晴れた以降の取調べにおいては,自己の記憶に反する部分については,否定を明らかにすることは不自然なことではない。

c)関係証拠によれば,4月21日付けの供述調書(甲83)では,「被告人」としての言動の記載があるにもかかわらず,4月26日付けの供述調書(甲84)では,「ある幹部職員」との記載に替わっている。この点について,P7は,公判で,「この点については,Cは,実際には,取調べで被告人と供述しており,『ある幹部職員』と供述していたわけではないが,まだ関係者の取調べも済んでいないし,それが100パーセント確実なものであるとすることまでは,ためらわれたことから,具体的な名前を伏せた調書を作成しておくべきだと考えたからである。」と供述しており,Cの供述のとおりに供述調書が録取されていない上,Cは,特に,これに異議を述べることもなく署名している。
 これらの事実に照らすと,Cは,検察官の作成する供述調書は,必ずしも自分の供述通りのことが記載されてなくとも署名していたことが窺われる。

(エ) P7は,「Cの取調べにおいては日本郵政公社東京支社長がSであることは知らないという前提で質問していた。」旨供述する。
 他方で,4月21日付けのCの供述調書(甲83)には,「検察官からお聞きしますと,当時の郵政公社の東京支社長が,『S』という名前の方だそうですが」との記載があり,この供述調書作成時点までに,P7が,日本郵政公社東京支社長がSであり,それを前提にした質問がなされていたことは明白である。
 P7の証言と,当該記載とが,完全に矛盾するものであるかどうかについては慎重な検討を要するが,P7の証言と食い違っているともとれる供述調書が作成されていることは,少なくとも,P7がこの点について事実を正確に述べていない疑いを生じさせるものであるといえる。

(オ) P7は,「その後,Cの供述は,一時期,自分が厚労省を訪ねたとき,被告人は既に電話をしており,その会話の中でエスという名前が出ていたという供述(公判証言と概ね同様の内容である。)に変わったことがあったが,追及したところ,元の供述に戻った。」旨供述している。
 しかし,被告人からの公的証明書の受け取り等,自己に不利益な重要な事実を認めていたCが,郵政公社への電話要請の点のみ供述を後退させる合理的理由は見いだしがたく,この点も,P7の供述に疑問を生じさせる一事情となる。

(カ) 以上の諸点を併せ考えると,この点に関するP7の証言には一定の疑問があり,Cの証言を排斥できないものである。

オ.相反部分Bに関する状況

(ア) 相反部分Bに関する,供述調書が作成された理由に関する前記のCの証言は不明確な面はあるものの,要するに,大筋においては内容があっていたので,相反部分Bについては,記憶と異なっていたが,供述調書に署名したというものと思われる。
 そこで,この点について検討する。

(イ) P7は,相反部分Bの供述も,4月19日から21日ころの取調べから出ていた旨供述する。
 しかし,6月上旬ころの被告人に対する依頼について,その直後である,4月21日付けの供述調書(甲83)の記載は,「6月初めころ,Bから,『厚労省の公的証明について,きちんとした証明書が必要なので,被告人にお願いして,証明書を発行してほしい。早急にお願いします。』と言われた。このときも,被告人と直接会い,被告人に対し,『証明書を発行していただけませんか。』とお願いした。本件公的証明書の作成日付は5月28日付けとなっているが,私が被告人に作成依頼をしたのは,その数日後の6月初めころでなかったかと思う。」となっている。Bが,Cに対して依頼した文言自体が,日付を遡らせての発行を依頼するものではないし,それ以前から発行を依頼していたことについても供述していることからすると,結果として発行された証明書が,Cが最後に被告人に依頼した日よりも前の日付であったとしても,それのみによって,厚労省側が日付を遡らせて発行したということにはつながらない。よって,当該供述調書の記載は,必ずしも日付を遡らせての発行依頼があったとみることはできない。また,その後,6月7日付けの供述調書(甲55)が作成されるまでの間に,複数の供述調書が作成されているが,その中に日付を遡らせての発行を依頼した事実が記載された供述調書はない。
 日付を遡らせての発行を依頼したという重要な点について,P7の証言する時点から供述していたとすれば,その旨が,これらの供述調書に記載されないことは考えにくいから,P7の証言する時点で,Cが日付を遡らせての発行依頼をしたと供述していたことには疑いが残る。

(ウ) 他方で,Bの5月15日付けの供述調書には,「6月4日以降,郵便局から,公的証明書の原本の提出を求められたことから,私は,Cに対して,厚労省を訪ねて,直接,企画課長に,第三種郵便の承認書が5月末付けで出ているので,作成日付を5月中に遡らせて至急発行するようにお願いするよう指示した。」旨の記載があり,その後である,6月7日付けで,Cについて,初めて,日付を遡らせての発行を依頼した事実が記載された調書が作成されていることに鑑みると,日付を遡らせての発行を依頼したことについて,取調官から,Bの供述調書の記載を踏まえた誘導がなされている疑いが残るというべきである。
 そして,その誘導は,後述するように,客観的な事実と整合しないものとみられる点がある。

(エ) 以上のとおり,少なくとも,日付を遡らせての発行を依頼したという供述部分に関しては,誘導によって録取された可能性があるといわざるを得ない。

カ.供述調書作成の姿勢について

 前記のとおり,4月21日付け検察官調書には,「企画課長」「被告人」といった,具体的な役職や名前が出ているにもかかわらず,同年4月26日付けの検察官調書では,「ある幹部職員」とだけ記載され,具体的な役職や名前は伏せられた形での調書が作成されている。
 この点について,P7は,「まだ関係者の取調べも済んでいないし,それが100パーセント確実なものであるとすることまでは,ためらわれたことから,Cが「ある幹部」などと言っていたわけではないが,具体的な名前を伏せた調書を1通作成しておくべきだと考えたからである。」と供述する。
 このような事情及び供述からも,供述をそのまま録取するのではなく,他者との供述や検察官の意図に合わせて調書を作成しようとする検察官の姿勢が窺われるのであり,供述調書の全体的な特信性に疑問を生じさせる事情の一つとなる。

(2) 公判供述の状況について

ア.検察官の主張

 検察官は,@C自身の公判が係属中であったこと,ABをはじめとする「a」関係者に配慮せざるを得ない状況にあったこと,BIにも配慮せざるを得ない状況にあったことから,Cは,公判廷においては真実を供述することができない状況にあったと主張する。
 以下,このような主張の当否について検討する。

イ.検討

(ア) 主張@について

 検察官が主張するように,Cは,本件の証人尋問当時,自己の公判が継続中であり,自己の刑責の関係で,虚偽供述をなす可能性は,一般的には否定できない。
 しかし,Cは,本件公判で,被告人から本件公的証明書を手渡されたという本件でCの関与を基礎づけ得る重要な要素となる事実も認めている。
 この点については,被告人の手帳にもその旨の記載はなく,客観証拠には直接これを裏付けるものはないにもかかわらず,公判でも認めており,Cの公判供述は,必ずしも自己に不利益なことは否認していこうというものともみられないのであり,自己の公判が係属中であることから,前記の各相反部分について当然に真実を供述できない状況にあったとまでは認められない。

(イ) 主張Aについて

 Cは,前記各相反部分に関するBの依頼の事実,事後のBに対する報告等に関する事実,Bから公的証明書をもらいに行くよう指示を受けた事実,Hと共にIを訪問した事実といった,Bら「a」関係者に不利な内容(しかも,自己の証言前に証人として証言したBが公判ではあいまいな供述をしている部分,自己の証人尋問の後とはいえ,Hが強く否認している部分。)を,公判において証言しているのであって,Cが,「a」関係者への配慮から,公判において真実を証言することができない状況にあったとは認められない。

(ウ) 主張Bについて

 Cは,公判廷において,I事務所を訪問し,Iに,厚労省から証明書を発行してもらうことに関して,厚労省に口利きをしてもらうよう依頼したという,本件についてIの関与を基礎づけ得る事実は認めている。
 Iは,本件捜査段階から,Cに依頼され厚労省に口利きをしたことを強く否定しており,週刊誌にも,「『Ih党副代表』の怒髪天」との見出しで「オレは知らん。なぜオレが厚労省に電話せないかんのや。迷惑千万や。」などという記事が掲載されているのを,CはP7から示され,取調べ中から,十分認識しており,さらに,I自身,弁護人申請証人として,Cの証人尋問より後の期日に公判で証人として尋問されることが予定されている状態で,Iに対する厚労省への口利き依頼を明確に認めている。
 確かに,検察官の主張するように,Cの手帳の2月25日の欄に,「13:00 I─iH氏」との記載があることからすると,Iに対して何らかの行動を取ったことは否定しづらい面はある。
 しかし,当該記載は,必ずしも明確なものではなく,その記載から当然にIに対する口利きの依頼の事実が導かれるものとまではいえず,口利き依頼ではなく,名義使用の許諾の依頼や,単にHを紹介したのみである等口利きよりもIの関与を小さく見せる内容の供述も不可能ではないにもかかわらず,Cは,口利きの事実自体は認める内容の供述をしているのであり,Cの公判証言に,Iへの配慮から真実を供述することができないまでの状況はうかがえない。

(エ) その他

 一件記録によれば,Cは,検察官,弁護人双方申請の証人であるが,検察官の証人テストには応じ,数回にわたって,証人テストが行われたが,弁護人の証人テストには応じておらず,検察官の方に基本的には協力的な態度をとっている。

(3) 外部的情況からの検討

 以上によれば,検察官の取調べには,大きな問題があったとまではいえないものの,誘導があったものとみられる上,供述者の供述をそのまま録取するのではなく,他者との供述や検察官の意図に合わせて供述調書を作成しようとする姿勢が窺われる。他方,公判供述については外部的事情から公判供述の信用性に疑いを生じさせる事情もみられず,これを総合すると,外部的事情からは捜査供述に特信性があるとはいえないことになる。

4.内容面について

 検察官は,Cの捜査供述は,具体的で迫真性に富み,自然で合理的であること,手帳の記載という客観的証拠と符合すること,B,Eらの捜査段階の供述とも符合することなどから,内容面からも特信性があるのに対し,公判供述は,不自然,不合理な点が多く,特信性はない旨主張する。これに対し,弁護人は,Cの捜査段階の供述は,Iのゴルフプレーに関するゴルフ場からの回答,被告人との名刺交換のないこと,供述内容自体に不自然,不合理な点があることなどに照らすと,特信性はない旨主張する。
 そこで,この点について検討する。
 検察官が主張するようにCの検察官調書の記載は,具体的でそれなりに迫真性があり,Cの手帳の記載という客観的証拠,B,Eらの捜査段階の供述とも符合しており,検察官主張事実に照らすと自然で合理的であるとみることができる。
 他方,Cの捜査供述は,Cの手帳中,Cが,Dを訪ねるよう予定を立てていたものと認められる記載部分,Iのゴルフプレーに関するゴルフ場からの回答状況,Cの関係場所から大量の名刺が発見され,その中にはDの名刺はあったのに被告人の名刺は発見されなかったこと,Aの所持していたフロッピーに残されていたデータの状況などからは不合理ともみられる点がある。これらの諸点に照らすと,Cが公判で供述する事実経緯も全く不合理なものとはみられない。
 以上によれば,供述内容は外部的事情を推認させる資料としての範囲でこれを考慮するという観点からは,供述内容自体から特信性を肯定させるまでには至らないものである。

5.結論

 以上によれば,Cの検察官調書の相反部分に特信性があるということはできない。

第10.証拠採否についての結論

 以上から,刑訴法321条1項2号に該当し必要性も認められる供述調書は証拠として採用し,その余については取調べ請求を却下する。

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