平成23年新司法試験論文式
公法系第1問の感想と参考答案

問題は、こちら

 

ストリートビューが素材

本問は、一読してグーグルストリートビューを素材にしたものとわかる。
実際に使ったことのある人の方が、イメージを持ち易いという意味で、有利だっただろう。
また、ストリートビューとプライバシーとの関係について、従前から議論があった。
事前に知っていれば、それなりに有利だろう。
少なくとも、明確性がメイン論点だ、という誤解(後述)をせずに済む。
ただ、それらの議論は、それほど詰めたものではない。
事前に知っていたとしても、それほど差が付くということはなかったのではないか。
なお、裁判例としては、福岡地判平23・3・16がある。
ベランダの洗濯物がストリートビューで撮影、公開されたことに対する慰謝料請求の事案である。

(福岡地判平23・3・16より引用、下線は筆者)

 本件画像によれば,本件住居のベランダに洗濯物らしきものが掛けてあることは判別できるものの,それが何であるかは判別できないし,もとより,それがその居住者のものであろうことは推測できるものの,原告個人を特定するまでには至らない
 そして,元来,当該位置にこれを掛けておけば,公道上を通行する者からは目視できるものであること,本件画像の解像度が目視の次元とは異なる特に高精細なものであるといった事情もないことをも考慮すれば,被告が本件画像を撮影し,これをインターネット上で発信することは,未だ原告が受忍すべき限度の範囲内にとどまるというべきであり,原告のプライバシー権が侵害されたとはいうことができない。したがって,本件においては,不法行為の要件である,権利又は法律上保護すべき利益の侵害が認められないというべきである。

(引用終わり)

これは、判断の際の考慮要素として参考になる。
ただ、平成23年3月の裁判例である。
受験生としては、知らなくて当然だろう。
また、不法行為の事案であるから、そのまま使えるものでもない。
あくまで、参考程度の裁判例である。

また、人の住居をのぞき見ることについては、刑事罰がある。
軽犯罪法1条23号である。

軽犯罪法1条 左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。

23号 正当な理由がなくて人の住居、浴場、更衣場、便所その他人が通常衣服をつけないでいるような場所をひそかにのぞき見た者

軽犯罪法は、それ自体が出題される可能性は低い。
ただ、色々とヒントになることが多いので、一応目を通しておくとよい。

訴訟選択について

本問では、設問1前段で訴訟選択が問われている。
これは、平成18年以来のことである。
ただ、本問の場合、そのウェイトは小さい。
本問では、どの訴訟を選択するにせよ、法の違憲と中止命令の違法を争うことになる。
すなわち、訴訟選択がその後の憲法論にほとんど影響しないからである。
また、各訴訟の選択の妥当性や、訴訟要件の充足についても、論じる必要がない。
そのことは、設問の文言からもわかる。

(問題文より引用、下線は筆者)

〔設問1〕

 あなたがX社から依頼を受けた弁護士である場合,どのような訴訟を提起するか。そして,その訴訟において,どのような憲法上の主張を行うか。憲法上の問題ごとに,その主張内容を書きなさい。

〔設問2〕

 設問1における憲法上の主張に関するあなた自身の見解を,被告側の反論を想定しつつ,述べなさい。

(引用終わり)

訴訟選択に関しては、反論や自身の見解は求められていない。
そういうことから、ここは、簡単に結論だけ書いて足りるところである。

法令違憲がメイン

本題の憲法問題であるが、まず、本問は法令違憲がメインであることに気付きたい。
近年の本試験は、適用(処分)違憲を書かせるものが多かった。
とりわけ、昨年度は、法令違憲はメインではなかった。
そのため、とりあえず適用(処分)違憲を厚く書いた、という人もいたかもしれない。
しかし、本問では、具体的適用に関する事実はあまり挙がっていない。
最後の段落の事実関係だけである。
それ以前の部分は、えんえんと立法事実が挙がっている。
そうである以上、法令違憲をメインに据えるべきである。

人権の性質論を落とさない

本問で重要なポイントは、いかなる人権の問題とするかである。
事実の報道の自由に引き寄せて考えるか。
営利的表現の自由と考えるか。
それとも、別個の情報提供権のようなものを構想するか。
色々な考え方があり得るところである。
これを、うまく当事者の主張に乗せて書く。
その場合、既存の権利とどの部分が似ていて、どこが違うか。
その辺りを、きちんと指摘して書きたい。

また、審査基準については、できる限り本問の権利に即して書く。
基本的な発想は、二重の基準・二分論でもよい。
だが、表現上、形式的な当てはめに見えないようにすべきである。
言い換えれば、二重の基準・二分論の背後にある発想が、本問の権利にいかに当てはまるか。
それが伝わるように、工夫して書くべきである。

プライバシーとの衡量について

本問の場合、対立利益がプライバシーであることが明らかである。
従って、その点に触れずに当てはめることは、避けなければならない。
法が、プライバシーとシステム提供者の権利との適切なバランシングをしているか。
それを、何らかの形で示す必要がある。
正面から利益衡量論で判断するという考え方もあり得る。
また、必要最小限度性で判断する場合には、最小限どこまで保護すべきか。
それを考えるにあたり、私人間効でいう受忍限度論を展開することになる。
その中で、利益衡量をするということになるだろう。
合理性・関連性でみる場合にも、保護すべきプライバシーの範囲との関連を考えることになる。
従って、同様の書き方になる。

明確性を書くべきか

本問では、X社が「法で具体的に明記されていない」ことを理由にしている。
そのことから、明確性がメインであるようにもみえる。
しかし、明確性は、論文ではできる限り触れたくない論点である。
結局「明確でない」「いや、明確である」という水掛け論しか、書けないからである。
過去の旧試験でも、明確性を大展開すると、他の論述が薄くなって評価を下げる傾向にあった。
また、本問の場合、刑事罰の事案ではない。
書くとすると、表現規制との関係、行政処分との関係という点について、整理して書く必要がある。
本問では、できれば、前記プライバシーとの衡量をきちんと書きたい。
これは、人権の根本理解に関わる本質論である。
だとすれば、メインは明確性ではなく、プライバシーとの関係だ。
そう判断すべきように思われる。
ただ、問題文上明確性を書け、といっているようにもみえるのは確かである。
そういう場合、短く書くというのが、王道だ。
しかし、ここは案外短く書くのも難しい。
三者形式なので、3回書くことになるのも、辛いところである。
憲法は、論点を絞った方が、良い評価になり易い。
結論的には、敢えて書かない決断をすべきだったのではないかと思う。

法の条文構造

本問の中止命令は、7条の遵守事項違反としてされたわけではない。
これは、8条3項に基づくものである。
8条の構造は、以下のようになっている。

1項:@被害申立てA措置不要が明らかでないこと→委員会への諮問
2項:@答申A必要があると認めるとき→措置勧告
3項:@正当理由なく措置不実施A特に必要があると認めるとき→措置命令又は中止命令

文言上、1項の申立てが7条の不遵守により生じた被害に係るものであることは要求されていない。
また、必要な措置の内容についても、7条で規定されたものに限るものとはされていない。
従って、個人権利利益侵害情報に当たらないから中止命令が違法になる、という記述は誤りである。
そう書くのであれば、7条の遵守義務と論理的にどのような関係にあるのか、明らかにしておく必要がある。
それから、3項では必要性要件が加重(「特に」)されていることにも注意したい。

被害回復委員会の性質

被害回復委員会を、独立行政委員会であるとした人が、結構いたのではないかと思う。
しかし、法は、単に「A省に・・置く」としており、委員の独立も規定していない。
また、独自の権限も与えられていない。
単なる諮問機関である。
従って、これは独立行政委員会とはいえない。
(詳細は、以前の記事「平成20年度新司法試験論文考査委員採点雑感&ヒアリング検討(憲法4)」参照)。
独立行政委員会の合憲性を論じることは、誤りである。
むしろ、委員会の独立が担保されていない点を、問題にすべきである。

判例の引用

新司法試験になって、判例を適切に引用すると、評価が上がりやすい傾向が生じている。
かつての旧試験が、判例より本質の理解を求めていたことと対照的である。
理由付けはともかく、判例を正確に引いて書ければよい。
そのため、うまく判例を引用することが、重要なテクニックになっている。
記述をコンパクト化すると共に、判例知識でポイントを稼ぐということである。
短答対策でも判例を覚えるが、典型論点については論文用に規範も覚えておきたい。
本問では、博多駅テレビフィルム事件泉佐野市市民会館事件医業類似行為の広告に関する判例京都府学連事件住基ネット違憲訴訟、宴のあと事件、エロス+虐殺事件あたりが、使えそうな判例、裁判例である。

本問の法の出所

やや余談であるが、本問の法については、食品安全基本法消費者安全法に類似の規定がある。

食品安全基本法1条
 この法律は、科学技術の発展、国際化の進展その他の国民の食生活を取り巻く環境の変化に適確に対応することの緊要性にかんがみ、食品の安全性の確保に関し、基本理念を定め、並びに国、地方公共団体及び食品関連事業者の責務並びに消費者の役割を明らかにするとともに、施策の策定に係る基本的な方針を定めることにより、食品の安全性の確保に関する施策を総合的に推進することを目的とする。

法1条
 この法律は,特定地図検索システムによる情報の提供が,インターネットの普及その他社会経済情勢の変化に伴うコンテンツに対する需要の高度化及び多様化に対応した利用者の利便の増進に寄与するものであることに留意しつつ,当該情報の提供に伴い個人に関する情報が公にされることによる被害から適確に国民を保護することの緊要性に鑑み,当該被害の防止及び回復に関し,基本理念を定め,国及びシステム提供者の責務を明らかにするとともに,システム提供者の遵守事項,被害回復のための措置,被害回復委員会の設置その他必要な事項を定めることにより,国民生活の安全と平穏の確保に資することを目的とする。

 

食品安全基本法3条
 食品の安全性の確保は、このために必要な措置が国民の健康の保護が最も重要であるという基本的認識の下に講じられることにより、行われなければならない。

法3条
 特定地図検索システムによる情報の提供に伴う国民の被害の防止及び回復のために講ずべき措置は,Z機能の特性に鑑み,当該情報の提供が国民の生活の安全と平穏に重大な被害を及ぼすおそれがあり,かつ,国民自らその被害を回復することが著しく困難であることを踏まえ,国の関与により,その被害を適確に防止するとともに,現に発生している被害を迅速に回復することが極めて重要であるという基本的認識の下に,行われなければならない。

 

食品安全基本法6条
 国は、前三条に定める食品の安全性の確保についての基本理念(以下「基本理念」という。)にのっとり、食品の安全性の確保に関する施策を総合的に策定し、及び実施する責務を有する。

法4条
 国は,前条に定める基本理念にのっとり,特定地図検索システムによる情報の提供に伴う国民の被害の防止及び回復に関する施策を総合的に策定し,及び実施する責務を有する。

 

食品安全基本法8条1項
 肥料、農薬、飼料、飼料添加物、動物用の医薬品その他食品の安全性に影響を及ぼすおそれがある農林漁業の生産資材、食品(その原料又は材料として使用される農林水産物を含む。)若しくは添加物(食品衛生法 (昭和二十二年法律第二百三十三号)第四条第二項 に規定する添加物をいう。)又は器具(同条第四項 に規定する器具をいう。)若しくは容器包装(同条第五項 に規定する容器包装をいう。)の生産、輸入又は販売その他の事業活動を行う事業者(以下「食品関連事業者」という。)は、基本理念にのっとり、その事業活動を行うに当たって、自らが食品の安全性の確保について第一義的責任を有していることを認識して、食品の安全性を確保するために必要な措置を食品供給行程の各段階において適切に講ずる責務を有する。

法5条
 システム提供者は,特定地図検索システムによる情報の提供に伴う国民の被害の防止及び回復について第一義的責任を有していることを認識し,その提供すべき画像の撮影及び編集,インターネットによる当該情報の公開及び管理その他の各段階において,自らその被害の防止及び回復のために必要な措置を講じる責務を有する。

 

消費者安全法17条
 内閣総理大臣は、商品等又は役務が消費安全性を欠くことにより重大事故等が発生した場合(当該重大事故等による被害の拡大又は当該重大事故等とその原因を同じくする重大事故等の発生(以下「重大消費者被害の発生又は拡大」という。)の防止を図るために実施し得る他の法律の規定に基づく措置がある場合を除く。)において、重大消費者被害の発生又は拡大の防止を図るため必要があると認めるときは、当該商品等(当該商品等が消費安全性を欠く原因となった部品、製造方法その他の事項を共通にする商品等を含む。以下この項において同じ。)又は役務を供給し、提供し、又は利用に供する事業者に対し、当該商品等又は役務につき、必要な点検、修理、改造、安全な使用方法の表示、役務の提供の方法の改善その他の必要な措置をとるべき旨を勧告することができる。
2  内閣総理大臣は、前項の規定による勧告を受けた事業者が、正当な理由がなくてその勧告に係る措置をとらなかった場合において、重大消費者被害の発生又は拡大の防止を図るため特に必要があると認めるときは、当該事業者に対し、その勧告に係る措置をとるべきことを命ずることができる。
3  内閣総理大臣は、重大消費者被害の発生又は拡大の防止を図るために他の法律の規定に基づく措置が実施し得るに至ったことその他の事由により前項の命令の必要がなくなったと認めるときは、同項の規定による命令を変更し、又は取り消すものとする。
4  内閣総理大臣は、第二項の規定による命令をしようとするとき又は前項の規定による命令の変更若しくは取消しをしようとするときは、あらかじめ、消費者委員会の意見を聴かなければならない。
5  内閣総理大臣は、第二項の規定による命令をしたとき又は第三項の規定による命令の変更若しくは取消しをしたときは、その旨を公表しなければならない。

法8条
 A大臣は,特定地図検索システムによる情報の提供により被害を受けた者から申立てがあったときは,措置を講じる必要が明らかにないと認める場合を除き,当該申立てに係る被害及びこれと同種の被害を回復するために必要な措置について,被害回復委員会に諮問しなければならない。
2 A大臣は,前項の規定による諮問に対する答申があった場合において,同項の申立てに係る被害及びこれと同種の被害を回復するため必要があると認めるときは,システム提供者に対し,画像の修正その他の提供に係る情報の改善のために必要な措置をとるべき旨を勧告することができる。
3 A大臣は,前項の規定による勧告を受けた者が,正当な理由がなくてその勧告に係る措置をとらなかった場合において,第1項の申立てに係る被害及びこれと同種の被害を回復するため特に必要があると認めるときは,その者に対し,その勧告に係る措置の実施又はインターネットによる特定地図検索システムの提供の中止を命ずることができる。
4 A大臣は,前項の規定による命令をしたときは,その旨を公表しなければならない。

消費者安全法17条2項は、中止命令を認めていない。
法8条は、措置命令と選択的に中止命令ができる点に特色がある。
なお、食品安全委員会と消費者委員会は、いずれも内閣府の8条委員会である。
消費者委員会については、委員の独立性が規定されている。

食品安全基本法22条
 内閣府に、食品安全委員会(以下「委員会」という。)を置く。

消費者庁及び消費者委員会設置法6条1項
 内閣府に、消費者委員会(以下この章において「委員会」という。)を置く。

同法7条
 委員会の委員は、独立してその職権を行う。

 

【参考答案】

第1.設問1

1.前段

 X社としては、まずサービスの中止を避けなければならない。また、今後同様の紛争を避けるために、修正義務の不存在を確認しておくべきである。従って、中止命令の無効確認又は取消しを求める訴え及び家の中の様子など生活ぶりがうかがえるような画像(以下「生活画像」という。)につき修正義務を負わないことの確認を求める訴え(実質的当事者訴訟)を提起する。また、損害が生じていれば、併せて中止命令の違法を原因とする国家賠償請求の訴えを提起する。

2.後段

(1)法の憲法21条1項違反

ア.Z画像の提供は、思想等の表明ではない。その意味で、典型的な表現とは異なる。もっとも、ユーザーの利便性向上や詐欺の未然防止といった社会的意義からすれば、このような情報提供の自由も国民の知る権利に奉仕するから、憲法21条1項で保障される。このことは、事実の報道の自由に関する博多駅テレビフィルム事件判例の趣旨からも明らかである。

イ.法は、情報の内容それ自体から生じる被害の防止を目的とする。民主制の下において、好ましくない内容の情報は、公開自体の是非も含め、多様な立場からの言論、表現、情報提供等に基づく吟味によって是正されるべきである。情報が公権力によって隠蔽されれば、隠蔽されたことすら国民は知ることができない。これでは、上記是正も不可能となる。従って、情報内容規制が許されるのは、上記民主的プロセスの下での是正を待つことができない場合、すなわち、当該情報による被害の発生が明白かつ切迫している場合だけである。また、被害防止の手段も必要最小限度のものに限られる。

ウ.そこで検討すると、Z機能画像は公道から撮影し、誰もが目視可能な範囲以外の被写体を含まない。そうである以上、一般に市民の受忍限度を超える権利の侵害はないから、そもそも被害の発生がない。
 また、仮に被害の発生があるとしても、以下のとおり、明白性及び切迫性を欠き、または必要最小限度の手段とはいえない。

(ア)法2条6号は、個人権利利益侵害情報該当性につき、個人の権利利益を害する「おそれ」で足りるとしており、また、法8条は、単に必要性しか要求せず、いずれも明白性及び切迫性を要求していない。

(イ)法8条3項において措置命令と中止命令が選択的に規定されているが、措置命令だけで足り、中止命令まで認める必要がない。また、措置内容の最小限度性を担保する規定もない。従って、必要最小限度の手段ではない。なお、法は適正性の担保のため、被害回復委員会の答申を要求する。しかし、A省からの独立性を定める規定がなく、その実効性に疑問がある上、仮に実効性を認めるとしても、それだけで必要最小限度性が担保されるとはいえない。

エ.よって、法2条6号及び8条3項は憲法21条1項に違反する。

(2)修正義務不存在及び中止命令の違法

ア.法2条6号及び8条3項が違憲である以上、X社が生活画像について法7条2号及び3号の修正義務を負うことはなく、中止命令も違法である。

イ.仮に、上記各規定が合憲であるとしても、前記(1)イで述べたことからすれば、法2条6号の「個人の権利利益を害するおそれ」、法8条3項にいう「特に必要があるとき」とは、明らかな差し迫った権利侵害の発生が具体的に予見されることをいう(泉佐野市市民会館事件判例参照)。
 生活画像の撮影により、抽象的な不快感や悪用のおそれ等が生じうるとしても、直ちに個人が特定されるわけではないから、明らかな差し迫った権利侵害が生じるとは考えられない。従って、7条2号及び3号によりX社が生活画像を修正する義務はなく、特に必要があるときに当たらないのにされた中止命令は違法である。

第2.設問2

1.想定される被告側の反論

(1)法の合憲性

 企業の情報提供は、一種の営利的表現であり、公共の福祉による規制に服する(医業類似行為の広告に関する判例参照)ところ、公開による個人の特定、生活ぶりの暴露、犯罪誘発等の防止が公共の福祉に適合することは明らかである。よって、憲法に違反しない。

(2)修正義務の存在及び中止命令の適法性

 生活画像の公開は国民一般の受忍すべき範囲とは考えられない以上、法2条6号の「個人の権利利益を害するおそれ」、法8条3項の「特に必要があるとき」に当たるから、X社は7条2号及び3号の修正義務を負い、A大臣のした中止命令は適法である。

2.私見

(1)法の合憲性

ア.本問の情報提供は、客観的事実に関する点で、事実の報道と類似する。しかし、報道には事実の取捨選択やその評価を含むが、本問における情報提供は、撮影したものを原則としてそのまま掲載するに過ぎないから、上記要素を含まない。また、報道は、情報流通手段の多様化した現在にあっても民主的言論の基盤であるが、本問のような単なる情報提供には、そのような機能はない。この点で、報道と根本的に異なる。従って、報道の自由と同様の優越的地位を認めることはできない。
 また、本問の情報提供は、営利活動の一環である点で、営利的表現と類似する。しかし、従来営利的表現とされたものは、商業広告である。すなわち、主たるサービスを宣伝するための従たる行為である。他方、本問の情報提供は、当該情報提供行為それ自体が主たるサービスを構成する。従って、営利的表現とも質的に異なる面を持つ。そうすると、医業類似行為の広告に関する判例のような広範な規制を許容することもできない。

イ.そもそも、情報提供がサービスそれ自体を構成する以上、それは営業活動そのものである。営業活動の自由は、職業遂行の自由として22条1項で保障される。そして、法のように届出制に基づく事後規制にあっては事前の許可制ほど強度の規制ではないから、公共の福祉のために必要な措置であれば足りるが、システム提供者の営業活動がもたらす国民の被害を防止するための消極的、警察的措置であることからすれば、規制手段は必要最小限度のものであることを要する(薬事法事件判例参照)。

ウ.法は、個人に関する情報が公にされることによる被害から適確に国民を保護する措置を定めたもの(1条)で、公共の福祉のため必要なものである。

エ.他方、手段は必要最小限度といえるか。これを判断するに当たっては、法により保護されるべき国民の権利利益の限度を確定する必要がある。

(ア)憲法13条の人格権には、個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由を含む(京都府学連事件住基ネット違憲訴訟各判例参照。以下「プライバシー権」という。)。

(イ)もっとも、プライバシー権も絶対無制約ではない。他者の人権と衝突する場合には、両者の衡量が必要となる。
 本問において、Z機能画像には、ユーザーの利便性向上及び詐欺被害防止等の社会的意義があることは確かである。しかし、これらは人格的利益に至らない周辺的利益に過ぎない。人格権を構成する個人のプライバシー権を犠牲にすることが正当化できるとはいえない。また、上記利便性等を享受するにあたり、プライバシーに係る部分は不可欠の要素ではない。そうである以上、上記利便性等を考慮しても、受忍限度を超えるプライバシー権の制約は許容できない。

(ウ)私生活上の事実の公開についての受忍限度を超えるプライバシー権の制約とは、一般人の感受性を基準として当該個人の立場に立った場合公開を欲しないであろうと認められ、一般の人々にいまだ知られていない事柄に係るものをいう(「宴のあと」事件裁判例参照)。

(エ)従って、法によって上記範囲のプライバシー制約を伴う行為を規制することは許容される反面、上記範囲を超える規制は、必要最小限度を逸脱する。

(オ)そこで検討すると、法の文言上は、以下の点において上記(ウ)の範囲を逸脱するとみえる。

a.7条2号及び3号の遵守義務の内容に係る「個人権利利益侵害情報」の定義につき、2条6号は「個人の権利利益を害するおそれ」で足りるものとしている。

b.8条にいう「被害」につき、明確な定義が定められておらず、あらゆる被害を含みうる。

(カ)もっとも、法律の規定は、可能な限り合憲的に解釈すべきである(都教祖事件札幌税関事件広島市暴走族追放条例事件等各判例参照)。
 本問では、「個人権利益侵害情報」及び「被害」につき、上記(ウ)の要件を充たすものに限定して解釈できる。そのように解釈する限り、法の規制は上記(ウ)の範囲を超えないから、必要最小限度といえる。

(キ)なお、措置命令だけでなく中止命令をも認める点につき、情報流出の不可逆的被害を考慮すれば必要最小限度性を否定しえない。また、被害回復委員会の独立性の担保規定がないことは確かであるが、上記のとおり、私見では法の要件上必要最小限度性が充たされるから、合憲性の判断には影響しない。

オ.よって、法は合憲である。

(2)修正義務の存在及び中止命令の適法性

 居宅内での生活は私的領域の最たるものであるから、一般人の感受性を基準としても生活画像の公開を欲しないであろうし、当該家屋の周辺を通行しない一般の人々にとって、家の中の様子などはいまだ知られていない事柄であるといえるから、法2条6号の「個人の権利利益を害するおそれ」、法8条の「被害」に当たる。
 そうすると、X社は修正義務を負い、拡散時の回復困難な損害を考慮すれば「特に必要があるとき」に当たるから、中止命令は適法である。なお、措置命令にとどめなかった理由等につき詳細が不明であり、本問で明らかな事実のみからは裁量逸脱濫用と認めるに足りない。

以上

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