平成23年新司法試験・予備試験
短答式試験の感想(5)

刑訴法の続き

新試験第26問は、通信傍受法からの出題である。

(新試験第26問)

 犯罪捜査のための通信傍受に関する法律(以下「通信傍受法」という。)に関する次のアからオまでの各記述のうち,正しいものの組合せは,後記1から5までのうちどれか。

ア.通信傍受法では,傍受令状で通信の傍受をすることができる対象犯罪は限定されており,組織的な賭博場開張等図利の罪は,この対象犯罪に含まれている。

イ.司法警察員が,被疑者から電話において恐喝されていた被害者の同意を得て,その被害者と被疑者との間の電話による通話内容を録音する場合には,裁判官の発する傍受令状を得る必要はない。

ウ.司法警察員は,通信傍受の実施をしている間に行われた通信が,傍受令状に記載された傍受すべき通信に該当するかどうか明らかでない場合には,直ちに当該通信の傍受を停止しなければならない。

エ.司法警察員は,覚せい剤取締法違反の事実を被疑事実とする傍受令状に基づいて,通信傍受の実施をしている間に,その被疑事実とは無関係の殺人を実行する計画について話し合っていると明らかに認められる通信が行われたときは,当該通信の傍受をすることができる。

オ.司法警察員は,通信傍受の実施を終了した場合には,通信の当事者に対し,傍受の実施につき通知しなければならないが,この通知により捜査が妨げられるおそれがあると認めるときはこの通知をしないことができる。

1.アウ   2.アオ   3.イウ   4.イエ   5.エオ

アは、3条1項、別表である。

(通信傍受法、下線は筆者)

3条1項 検察官又は司法警察員は、次の各号のいずれかに該当する場合において、当該各号に規定する犯罪(第二号及び第三号にあっては、その一連の犯罪をいう。)の実行、準備又は証拠隠滅等の事後措置に関する謀議、指示その他の相互連絡その他当該犯罪の実行に関連する事項を内容とする通信(以下この項において「犯罪関連通信」という。)が行われると疑うに足りる状況があり、かつ、他の方法によっては、犯人を特定し、又は犯行の状況若しくは内容を明らかにすることが著しく困難であるときは、裁判官の発する傍受令状により、電話番号その他発信元又は発信先を識別するための番号又は符号(以下「電話番号等」という。)によって特定された通信の手段(以下「通信手段」という。)であって、被疑者が通信事業者等との間の契約に基づいて使用しているもの(犯人による犯罪関連通信に用いられる疑いがないと認められるものを除く。)又は犯人による犯罪関連通信に用いられると疑うに足りるものについて、これを用いて行われた犯罪関連通信の傍受をすることができる。

一  別表に掲げる罪が犯されたと疑うに足りる十分な理由がある場合において、当該犯罪が数人の共謀によるものであると疑うに足りる状況があるとき。

二  別表に掲げる罪が犯され、かつ、引き続き次に掲げる罪が犯されると疑うに足りる十分な理由がある場合において、これらの犯罪が数人の共謀によるものであると疑うに足りる状況があるとき。

イ 当該犯罪と同様の態様で犯されるこれと同一又は同種の別表に掲げる罪
ロ 当該犯罪の実行を含む一連の犯行の計画に基づいて犯される別表に掲げる罪

三  死刑又は無期若しくは長期二年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪が別表に掲げる罪と一体のものとしてその実行に必要な準備のために犯され、かつ、引き続き当該別表に掲げる罪が犯されると疑うに足りる十分な理由がある場合において、当該犯罪が数人の共謀によるものであると疑うに足りる状況があるとき。

別表

一 大麻取締法(昭和二十三年法律第百二十四号)第二十四条(栽培、輸入等)又は第二十四条の二(所持、譲渡し等)の罪

二 覚せい剤取締法(昭和二十六年法律第二百五十二号)第四十一条(輸入等)若しくは第四十一条の二(所持、譲渡し等)の罪、同法第四十一条の三第一項第三号(覚せい剤原料の輸入等)若しくは第四号(覚せい剤原料の製造)の罪若しくはこれらの罪に係る同条第二項(営利目的の覚せい剤原料の輸入等)の罪若しくはこれらの罪の未遂罪又は同法第四十一条の四第一項第三号(覚せい剤原料の所持)若しくは第四号(覚せい剤原料の譲渡し等)の罪若しくはこれらの罪に係る同条第二項(営利目的の覚せい剤原料の所持、譲渡し等)の罪若しくはこれらの罪の未遂罪

三 出入国管理及び難民認定法(昭和二十六年政令第三百十九号)第七十四条(集団密航者を不法入国させる行為等)、第七十四条の二(集団密航者の輸送)又は第七十四条の四(集団密航者の収受等)の罪

四 麻薬及び向精神薬取締法(昭和二十八年法律第十四号)第六十四条(ジアセチルモルヒネ等の輸入等)、第六十四条の二(ジアセチルモルヒネ等の譲渡し、所持等)、第六十五条(ジアセチルモルヒネ等以外の麻薬の輸入等)、第六十六条(ジアセチルモルヒネ等以外の麻薬の譲渡し、所持等)、第六十六条の三(向精神薬の輸入等)又は第六十六条の四(向精神薬の譲渡し等)の罪

五 武器等製造法(昭和二十八年法律第百四十五号)第三十一条(銃砲の無許可製造)、第三十一条の二(銃砲弾の無許可製造)又は第三十一条の三第一号(銃砲及び銃砲弾以外の武器の無許可製造)の罪

六 あへん法(昭和二十九年法律第七十一号)第五十一条(けしの栽培、あへんの輸入等)又は第五十二条(あへん等の譲渡し、所持等)の罪

七 銃砲刀剣類所持等取締法(昭和三十三年法律第六号)第三十一条から第三十一条の四まで(けん銃等の発射、輸入、所持、譲渡し等)、第三十一条の七から第三十一条の九まで(けん銃実包の輸入、所持、譲渡し等)、第三十一条の十一第一項第二号(けん銃部品の輸入)若しくは第二項(未遂罪)又は第三十一条の十六第一項第二号(けん銃部品の所持)若しくは第三号(けん銃部品の譲渡し等)若しくは第二項(未遂罪)の罪

八 国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律(平成三年法律第九十四号)第五条(業として行う不法輸入等)の罪

九 組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(平成十一年法律第百三十六号)第三条第一項第三号に掲げる罪に係る同条(組織的な殺人)の罪又はその未遂罪

別表記載の罪は、大まかに薬物、集団密航、武器等関連と組織的殺人である。
従って、組織的な賭博場開張等図利はこれに当たらないから、誤りとすべきだろう。
もっとも、上記罪の法定刑の長期は7年である。

(組織犯罪処罰法3条1項、下線は筆者)

 次の各号に掲げる罪に当たる行為が、団体の活動(団体の意思決定に基づく行為であって、その効果又はこれによる利益が当該団体に帰属するものをいう。以下同じ。)として、当該罪に当たる行為を実行するための組織により行われたときは、その罪を犯した者は、当該各号に定める刑に処する。

一号略。

二  刑法第百八十六条第二項 (賭博場開張等図利)の罪  三月以上七年以下の懲役

3号以下略。

従って、3条1項3号の「死刑又は無期若しくは長期二年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪」に当たりうる。
(別表の罪と一体であって準備のために必要な賭博開帳等があり得るか疑問もあるが、薬物密売と同時並行で行われる場合等、全くないともいえない。)
そうすると、同項の「一連の犯罪」として傍受対象となりうることになる。
その意味では、対象犯罪となる、といえなくもない。
「対象犯罪」という概念が通信傍受法上の用語でないために、このような紛れが生じている。
なお、法務省は、対象犯罪という用語を別表記載の犯罪の意味で用いている。

犯罪捜査のための通信傍受に関する法律案Q&Aより引用、太字強調は筆者、下線は引用元による)

Q3  通信傍受が認められると,警察が,犯罪に関係のない一般市民の通話を自由に聞くおそれはないのですか。

A  本法案の通信傍受は,その対象となる犯罪が薬物関連犯罪銃器関連犯罪集団密航の罪組織的な殺人の罪に限定されており,そのように限定された具体的な犯罪があり,他の捜査手段がない場合に最後の捜査手段として行うものです。これは,いわゆる情報収集の手段ではありません。
 しかも,この通信傍受は,犯罪にかかわる電話番号等を令状で特定し,その電話等における犯罪の実行に関連する通話等のみが傍受の対象になります。一般の市民がこのような犯罪や電話に関係することはおよそ考えられません。
 また,通信傍受は,厳格な要件の下に,裁判官の令状に基づき,立会人の常時立会いの下で実施される上,傍受した通信の記録を立会人が封印して,裁判官に提出するなど,その手続は極めて厳格です。
 ですから,犯罪と関係のない一般市民の通話が広く傍受されることはあり得ません。

Q5  捜査機関は,どういう場合に通信傍受を行うのですか。

A  通信の傍受は

(1)  組織的殺人等の対象犯罪そのものが犯されたと疑うに足りる十分な理由があること
(2)  対象犯罪が犯された上,同様の犯罪が引き続き犯されると疑うに足りる十分な理由があること
(3)  無差別大量殺人を行う計画・謀議の下で大量の毒物を違法に製造している場合のように,対象犯罪の準備のためにこれと一体として他の重い犯罪が犯され,引き続き対象犯罪が犯されると疑うに足りる十分な理由があること

が前提となります。
 さらに,通信傍受は,通常の捜査方法では真相の解明が困難である場合の特別な捜査手法であり,通信傍受以外の他の方法によっては,犯人を特定し,犯行状況等を明らかにすることが著しく困難な場合に,最後の手段として,裁判官の令状を得てこれを行うことができます。

(引用終わり)

従って、やはり誤りと考えるのが妥当だろう。
ただ、仮に本肢を正しいと判断したとしても、実は正解には影響しない。

イの肢は、刑訴法222条の2、通信傍受法2条2項から正しい。

(刑訴法222条の2、下線は筆者)

 通信の当事者のいずれの同意も得ないで電気通信の傍受を行う強制の処分については、別に法律で定めるところによる。

(通信傍受法2条2項)

 この法律において「傍受」とは、現に行われている他人間の通信について、その内容を知るため、当該通信の当事者のいずれの同意も得ないで、これを受けることをいう。

平成22年の論文式試験で、同意盗聴が出題されていた。
通信傍受法は、全く関係がなかったはずである。
従って、この問題を検討していれば、本肢が正しいことは判断できただろう。

ウは、13条1項から誤りである。

(通信傍受法13条1項)

 検察官又は司法警察員は、傍受の実施をしている間に行われた通信であって、傍受令状に記載された傍受すべき通信(以下単に「傍受すべき通信」という。)に該当するかどうか明らかでないものについては、傍受すべき通信に該当するかどうかを判断するため、これに必要な最小限度の範囲に限り、当該通信の傍受をすることができる。

エは、14条から正しい。

(通信傍受法14条)

 検察官又は司法警察員は、傍受の実施をしている間に、傍受令状に被疑事実として記載されている犯罪以外の犯罪であって、別表に掲げるもの又は死刑若しくは無期若しくは短期一年以上の懲役若しくは禁錮に当たるものを実行したこと、実行していること又は実行することを内容とするものと明らかに認められる通信が行われたときは、当該通信の傍受をすることができる。

オは、23条2項から誤りである。

(通信傍受法23条、下線は筆者)

 検察官又は司法警察員は、傍受記録に記録されている通信の当事者に対し、傍受記録を作成した旨及び次に掲げる事項を書面で通知しなければならない。

 各号略。

2  前項の通知は、通信の当事者が特定できない場合又はその所在が明らかでない場合を除き、傍受の実施が終了した後三十日以内にこれを発しなければならない。ただし、地方裁判所の裁判官は、捜査が妨げられるおそれがあると認めるときは、検察官又は司法警察員の請求により、六十日以内の期間を定めて、この項の規定により通知を発しなければならない期間を延長することができる

3項略。

正しいのはイエであるから、正解は4となる。
前記のとおり、仮にアが正しくても、アイ、アエの肢がないから正解に影響しない。
これまで、通信傍受法は平成19年に一度出題されただけだった。

(平成19年第39問)

 犯罪捜査のための通信傍受に関する法律(以下「通信傍受法」という。)に関する次の1から4までの各記述のうち,誤っているものはどれか。

1. 刑事訴訟法では,令状により,差押え,捜索又は検証をすることができる対象犯罪を限定していないが,通信傍受法では,傍受令状で通信の傍受をすることができる対象犯罪を死刑又は無期若しくは短期1年以上の懲役に当たる刑法上の犯罪に限定している。

2. 差押え,捜索又は検証のための令状には,犯罪事実の要旨及び罰条の記載を要しないが,通信傍受法の傍受令状には,被疑事実の要旨及び罰条を記載しなければならない。

3. 刑事訴訟法では,令状により,差押え,捜索又は検証をすることができる要件として「犯罪の捜査をするについて必要があるとき」と定められているが,通信傍受法では,傍受令状により,通信の傍受をすることができる要件の一つとして「他の方法によっては,犯人を特定し,又は犯行の状況若しくは内容を明らかにすることが著しく困難であるとき」と定められている。

4. 刑事訴訟法では,裁判官がした検証に関する裁判の取消し又は変更を請求することはできないが,通信傍受法では,裁判官がした通信の傍受に関する裁判の取消し又は変更を請求することができる。

今年も出題されたことで、要警戒という感じである。
通信傍受法は、第5章(補則)以下を除けば、30条しかない。
一度時間を取って、全条文に目を通しておくとよいだろう。

新試験第27問、予備試験第18問は、即決裁判手続の知識を問う問題である。

(新試験第27問、予備試験第18問)

 即決裁判手続に関する次のアからオまでの各記述のうち,正しいものの組合せは,後記1から5までのうちどれか。

ア.検察官は,公訴を提起しようとする強盗事件について,事案が明白であること,証拠調べが速やかに終わると見込まれることその他の事情を考慮し,相当と認めるときは,公訴の提起と同時に,書面により即決裁判手続の申立てをすることができる。

イ.検察官は,即決裁判手続によることについての被疑者の同意がなくても,即決裁判手続の申立てをすることができる。

ウ.即決裁判手続による公判期日については,被告人に弁護人がないときは,これを開くことができない。

エ.裁判所が即決裁判手続において懲役又は禁錮の言渡しをする場合には,その刑の執行猶予の言渡しをしなければならない。

オ.即決裁判手続においてされた判決に対しては,控訴の申立てをすることができない。

1.アイ   2.アオ   3.イウ   4.ウエ   5.エオ

アは、350条の2第1項ただし書から、誤りである。

(刑訴法350条の2第1項、下線は筆者)

 検察官は、公訴を提起しようとする事件について、事案が明白であり、かつ、軽微であること、証拠調べが速やかに終わると見込まれることその他の事情を考慮し、相当と認めるときは、公訴の提起と同時に、書面により即決裁判手続の申立てをすることができる。ただし、死刑又は無期若しくは短期一年以上の懲役若しくは禁錮に当たる事件については、この限りでない

イは、同条2項で誤り。

(刑訴法350条の2第2項)

 前項の申立ては、即決裁判手続によることについての被疑者の同意がなければ、これをすることができない。

ウは、350条の9から、正しい。

(刑訴法350条の9)

 前条の手続を行う公判期日及び即決裁判手続による公判期日については、弁護人がないときは、これを開くことができない。

エは、350条の14から、正しい。

(刑訴法350条の14)

 即決裁判手続において懲役又は禁錮の言渡しをする場合には、その刑の執行猶予の言渡しをしなければならない。

オは、事実誤認による控訴ができない(403条の2)だけであるから、誤っている。

(刑訴法403条の2第1項、※は筆者)

 即決裁判手続においてされた判決に対する控訴の申立ては、第三百八十四条の規定にかかわらず、当該判決の言渡しにおいて示された罪となるべき事実について第三百八十二条に規定する事由(※事実誤認)があることを理由としては、これをすることができない。

これまで、即決裁判手続は部分的にしか問われたことがなかった。

(平成21年新試験第29問イ)

 検察官は,公訴を提起しようとする窃盗事件について,被疑者が起訴状に記載された訴因について有罪である旨の陳述をしたときは,被疑者及び弁護人の意見を聴き,有罪である旨の陳述をした訴因に限り,即決裁判手続によって審判する旨の申立てをすることができる。

(同第34問ウ)

 即決裁判手続において「罪となるべき事実」を認定する場合には,同事実の存在を肯定する証拠の証明力がそれを否定する証拠の証明力を上回る程度の証明,いわゆる証拠の優越で足りる。

正面から問われたのは、今年が初めてである。
今後も、時折出題されるだろう。
もっとも、現時点では頻出というほどではない。
今年の問題は、条文さえ知っていれば、全ての肢を判断できる。
一度、条文に目を通す程度はやっておくべきだろう。

新試験第28問も、厄介な問題である。

(新試験第28問)

 次の【事例】に登場する後記甲,乙,丙,丁及び戊の5名につき,公判請求された公訴事実の全部又は一部について明らかに刑事訴訟法第89条に規定された権利保釈が認められないものには1を,それ以外のものには2を選びなさい。なお,いずれも,勾留は継続されているものとする。

【事例】

 甲は,詐欺の罪により懲役8年の刑に処せられ,乙は,強盗致傷の罪により懲役7年の刑に処せられ,丙は,器物損壊の罪により懲役1年の刑に処せられ,いずれも,同じ刑事施設に収容されて顔見知りとなった。甲,乙及び丙は,いずれも平成21年中に刑の執行を終了し,その後,それぞれH市内に住居を定めて生活していた。
 平成22年7月2日,甲及び乙が甲の自宅で住居不定の丁と一緒に食事をしていたところ,丙がH市内に住居を有する戊を連れて遊びに来た。その後,甲,乙,丙,丁及び戊の5名は,雑談をしていたが,その途中,他人の住居に侵入して金品を窃取する旨の謀議が成立した。そして,同日午後10時,甲,乙,丙,丁及び戊の5名は,H市内に所在するVの住居に侵入して金品を窃取したが,Vの住居を出たところで,警察官の職務質問を受けて犯行を自白し,住居侵入,窃盗の事実により緊急逮捕された。その後,甲,乙,丙,丁及び戊の5名は,同月3日中にH地方検察庁検察官に送致されて勾留を請求された上,緊急逮捕された事実と同一の住居侵入,窃盗の事実により勾留され,同月12日,勾留された事実と同一の住居侵入,窃盗の事実により公判請求された。
 甲,乙及び丁の3名には余罪がなかったが,丙には,H市内で連続して車のタイヤをパンクさせた余罪,戊には,知人を包丁で突き刺して傷害を負わせた余罪があった。そのため,丙は,同月13日,暴力行為等処罰に関する法律第1条の3に違反する事実で逮捕され,同月14日中にH地方検察庁検察官に送致されて勾留請求された上,逮捕された事実と同一の同法律第1条の3に違反する事実により勾留され,同月23日,勾留された事実と同一の同法律第1条の3に違反する事実により公判請求された。一方,戊は,同年7月13日,殺人未遂の事実で逮捕され,同月14日中にH地方検察庁検察官に送致されて勾留請求された上,逮捕された事実と同一の殺人未遂の事実により勾留され,同月23日,殺人未遂の事実ではなく,傷害の事実により公判請求された。
 なお,甲,乙及び丙については,前記前科以外の前科がなく,丁及び戊については,前科がないものとし,甲,乙,丙,丁及び戊のいずれについても,逃亡のおそれは認められるが,「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」及び「被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏怖させる行為をすると疑うに足りる相当な理由」は認められないものとする。

(参照条文)暴力行為等処罰に関する法律

第1条ノ3 常習トシテ刑法第204条,第208条,第222条又ハ第261条ノ罪ヲ犯シタル者人ヲ傷害シタルモノナルトキハ1年以上15年以下ノ懲役ニ処シ其ノ他ノ場合ニ在リテハ3月以上5年以下ノ懲役ニ処ス

本問では、89条が参照条文として挙がっていない。
従って、同条を覚えていないと、解けない。

(刑訴法89条)

 保釈の請求があつたときは、次の場合を除いては、これを許さなければならない。

一  被告人が死刑又は無期若しくは短期一年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。
二  被告人が前に死刑又は無期若しくは長期十年を超える懲役若しくは禁錮に当たる罪につき有罪の宣告を受けたことがあるとき。
三  被告人が常習として長期三年以上の懲役又は禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。
四  被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
五  被告人が、被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏怖させる行為をすると疑うに足りる相当な理由があるとき。
六  被告人の氏名又は住居が分からないとき。

問題文最後の段落から、4号及び5号には該当しないとわかる。
また、丁は住居不定で6号該当だから、1が答えとなる。
(住居不定と住居不明は、厳密には別概念である。
住居不明を除外した趣旨は、住居の指定(92条3項)ができないからである。
だとすれば、住居不定でも、いずれか指定できる住居があれば、住居不明にはならない。
そのような解釈も、十分可能と思われる。
しかし実際には、住居不定ならば住居不明に当たると解されている。)

そこで、甲乙丙戊につき、他の各号に当たるかを検討していくことになる。

1号との関係では、公判請求された事件の法定刑を確認する必要がある。
窃盗は、懲役を選択しても、長期10年、短期1月である(刑法235条、12条1項)。
従って、1号には該当しない。
235条は本問の参照条文として挙がっていないが、第12問の参照条文として挙がっている。
それに気付けば、窃盗の法定刑自体は覚えていなくてもよい。
ただ、それでも短期については12条1項の知識を要する。
もっとも、窃盗が1号に該当すれば、それだけで全員1が答えとなってしまう。
それは、さすがにないだろう。
そういう予測をつければ、知識がなくても窃盗は1号該当ではないと考えることができる。

戊の傷害は、懲役刑選択でも長期15年、短期1月である(刑法204条、12条1項)。
これも、1号には該当しない。
204条は参照条文として挙がっていないので、覚えていないと判断できない。

丙の暴力行為等処罰法1条の3の罪は、参照条文がついている。
ただ、傷害の場合とそうでない場合とで、法定刑が分かれている点に注意すべきである。
丙は、傷害以外の場合なので、長期5年、短期3月となる。
従って、1号には該当しない。

2号との関係では、前科の法定刑を確認する。
甲の詐欺は長期10年である(刑法246条1項)。
従って、長期十年を「超える」罪には当たらない。
よって、2号に該当しない。
246条は参照条文に挙がっていないので、覚えている必要がある。

乙の強盗致傷の法定刑は、無期又は6年以上の懲役である(刑法240条)。
従って、2号に該当する。
この時点で、乙は1が答えとなる。
240条は、第12問の参照条文として挙がっているので、気付けば参照できた。

丙の器物損壊は、懲役刑選択で長期3年である(刑法261条)。
従って、2号に該当しない。
参照条文は挙がっていないが、これは何となく判断できるところである。

3号が問題となりそうなのは、丙だけである。
同号の「常習として」に暴力行為等処罰法1条の3の常習暴行等が含まれることは問題がない。
そして、法定刑は前記のとおり、長期5年である。
よって、同号の適用があるから、丙は1が答えとなる。

結局、解答は、順に21112ということになる。
本問は、正解に辿り着くまでに必要な知識が多く、どれも細かい。
特に、89条各号はともかく、各罪の法定刑まで覚える必要があった。
これは厳しい。
ただ、これは今に始まったことではない。

(平成19年第32問)

 刑事訴訟法第89条の必要的保釈(権利保釈)に関する次の1から5までの各記述のうち,誤っているものはどれか。

1. 殺人罪で公訴を提起され,同罪で勾留中の被告人甲が保釈を請求した場合,裁判所は,同条による保釈を許可することはできない。

2. 傷害罪で公訴を提起され,同罪で勾留中の被告人甲が保釈を請求したが,甲に殺人罪で有期懲役刑の実刑判決を受けた前科がある場合,裁判所は,同条による保釈を許可することはできない。

3. 傷害罪で公訴を提起され,同罪で勾留中の被告人甲が保釈を請求したが,甲に逃亡すると疑うに足りる相当な理由がある場合,裁判所は,同条による保釈を許可することはできない。

4. 被害者を乙とする傷害罪で公訴を提起され,同罪で勾留中の被告人甲が保釈を請求したが,甲に乙を畏怖させる行為をすると疑うに足りる相当な理由がある場合,裁判所は,同条による保釈を許可することはできない。

5. 傷害罪で公訴を提起され,同罪で勾留中の被告人甲が保釈を請求したが,甲が定まった住居を有しない場合,裁判所は,同条による保釈を許可することはできない。

(平成20年第37問)

 次のT及びUの【見解】は,常習一罪などの実体法上一罪の関係にある数個の可罰的行為についての勾留の効力に関する考え方を述べたものである。これらの【見解】のいずれかを前提に,後記【事例】における権利保釈の除外事由に関する判断について述べた後記アからカまでの【記述】のうち,正しいものの組合せは,後記1から5までのうちどれか。

【見解】

T. 一罪の一部を構成する可罰的行為についての勾留の効力は,起訴の有無にかかわらず,当然に他の部分に及ぶ。

U. 一罪の一部を構成する可罰的行為についての勾留の効力は,起訴の有無にかかわらず,他の部分に及ばない。

【事例】

 甲は,平成○○年3月10日(a事件)に甲が経理係長として勤務する株式会社V所有の現金100万円を横領したという業務上横領事件で,同年5月1日,逮捕され,引き続き勾留された上,勾留中のまま起訴された。甲には,同年3月12日(b事件)と同年4月15日(c事件)に,同様に株式会社V所有の現金各200万円を横領したという業務上横領の余罪があり,これらの事件はいまだ起訴されていない。
 a事件の第一回公判期日前である同年6月1日,甲の弁護人から,保釈請求がなされた。
 なお,a事件とb事件は包括一罪の関係にあり,これらとc事件は併合罪の関係にある。

【記述】

ア. Tの考え方に立ったとき,a事件に関して,甲が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由がなくても,b事件に関して,それがある場合には,権利保釈は認められない。

イ. Tの考え方に立ったとき,a事件に関して,甲が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由がなくても,c事件に関して,それがある場合には,権利保釈は認められない。

ウ. Tの考え方に立ったとき,甲が常習としてa事件を犯したものであるか否かを判断するために,c事件の存在を考慮することは許されない。

エ. Uの考え方に立ったとき,a事件に関して,甲が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由がなければ,b事件に関して,それがある場合であっても,この点を理由として権利保釈が否定されることはない。

オ. Uの考え方に立ったとき,a事件に関して,甲が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由がなければ,c事件に関して,それがある場合であっても,この点を理由として権利保釈が否定されることはない。

カ. Uの考え方に立ったとき,甲が常習としてa事件を犯したものであるか否かを判断するために,b事件の存在を考慮することは許されない。

1. アウカ   2. アエオ   3. アオカ   4. イエオ   5. ウエカ

(平成22年第22問)

 保釈に関する次のアからオまでの各記述のうち,正しいものの組合せは,後記1から5までのうちどれか。

ア.裁判所は,保釈を許す決定又は保釈の請求を却下する決定をするには,検察官の意見を聴かなければならない。

イ.裁判所は,検察官の請求がなくても,被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるときには,保釈を取り消すことができる。

ウ.裁判所は,被告人から保釈の請求があった場合において,被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるときは,保釈を許すことができない。

エ.裁判所は,被告人に対して窃盗罪により懲役に処する実刑判決の宣告があった後,保釈の請求があったときは,被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由がない以上,保釈を許さなければならない。

オ.裁判所は,保釈を許す場合において,被告人に対し,被害者との接触を禁止する旨の条件を付することができない。

1.アイ   2.アオ   3.イエ   4.ウエ   5.ウオ

どの問題も、法定刑や89条各号について参照条文を置いていない。
本問は、その傾向に沿うものである。
89条各号は、当然に全て正確に覚えている。
加えて、代表的な犯罪の法定刑も覚えているというのが、前提となっている。
出題頻度が高い以上、これは対策せざるを得ないだろう。
法定刑については、数字よりも、何号該当の代表的犯罪は何罪か、という感じで覚えていった方がよい。
刑訴法と刑法では、法定刑を覚えるべきかという点で、考え方が違うようである。
刑法では、今のところ、第12問のように法定刑まで覚えることを要求していない。
そのため、刑法の方の問題で挙がっている条文を参照できるという現象が起きた。
今後もこの両者の傾向のズレが続くのか、注目したい。

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