平成23年新司法試験・予備試験
短答式試験の感想(6)

刑訴法の続き

新試験の第29問、予備試験の第19問のエは、最決平21・7・21である。
これは司法試験平成21年最新判例肢別問題集で出題した。

(新試験第29問、予備試験第19問のエ)

 検察官において,共謀共同正犯者の存在に言及することなく,被告人が1人で自動二輪車を窃取したという窃盗の訴因で公訴を提起した場合,裁判所が,証拠上,他に実行行為を行っていない共謀共同正犯者が存在するとの心証を得たとしても,被告人1人の行為により犯罪構成要件の全てが満たされたと認めるときは,訴因どおりの犯罪事実を認定することができる。

司法試験平成21年最新判例肢別問題集より引用)

2:検察官において共謀共同正犯者の存在に言及することなく、被告人が当該犯罪を行ったとの訴因で公訴を提起した場合において、被告人1人の行為により犯罪構成要件のすべてが満たされたと認められるときは、他に共謀共同正犯者が存在するとしてもその犯罪の成否は左右されないから、裁判所は訴因どおりに犯罪事実を認定することが許される。

新試験第30問、予備試験20問は、新試験第23問と同様の出題パターンである。
実務的なことを訊いているようでいて、単なる条文知識しか訊いていない。

(新試験第30問、予備試験第20問)

 次の【事例】は,甲に対する殺人被告事件の冒頭手続における法廷でのやり取りである。この法廷でのやり取りに関する後記アからエまでの【記述】のうち,正しいものは幾つあるか。後記1から5までのうちから選びなさい。

【事例】

裁判長「それでは開廷します。被告人は証言台の前に立ちなさい。」

裁判長「名前は何と言いますか。」@

被告人「甲と言います。」

裁判長「本籍,住所はどこですか。」

被告人「本籍は,H市I町1番です。住所も同じです。」

裁判長「職業は何ですか。」

被告人「無職です。」

裁判長「生年月日はいつですか。」

被告人「昭和30年1月1日です。」

裁判長「それでは,検察官,起訴状を朗読してください。」

検察官「公訴事実。被告人は,平成20年6月10日ころ,H市I町1番被告人方において,Vに対し,殺意をもって,持っていたナイフでその胸部を突き刺し,よって,同日ころ,同所において,同人を胸部刺傷に基づく失血により死亡させて殺害したものである。罪名及び罰条。殺人。刑法第199条。」A

裁判長「被告人には黙秘権という権利があります。被告人は終始沈黙し,又は個々の質問に対し陳述を拒むことができます。また,言いたいことを言うことができますが,この公判廷での被告人の陳述は,被告人にとって不利益な証拠とも利益な証拠ともなることを承知してください。」B

裁判長「それでは,まず被告人に聞きますが,今,検察官が述べた内容に間違いありませんか。」

被告人「間違いありません。」

裁判長「弁護人,御意見はいかがですか。」C

弁護人「被告人と同じです。」

裁判長「それでは,これで冒頭手続を終わり,証拠調手続に入ります。」

【記述】

ア.@は,裁判長が,被告人として出頭している者が起訴状に表示された者と同一であるかどうかを確かめるために行った質問の一環であり,こうした人定質問を行うことは法令上要求されている。

イ.Aは,法令上,検察官が,裁判長の訴訟指揮に基づき,起訴状に記載された公訴事実を要約して告げる方法でも行うことができる。

ウ.Bは,裁判長が,被告人に対し,言いたいことを言うことができることや,公判廷での陳述が被告人にとって不利益な証拠とも利益な証拠ともなることを告げなくても,法令に違反するものではない。

エ.Cは,裁判長が,その訴訟指揮によって,弁護人の意見を確かめるために事実上行ったものであり,法令上要求されているものではない。

1.0個   2.1個   3.2個   4.3個   5.4個

アは、規則196条である。

刑事訴訟規則196条)

 裁判長は、検察官の起訴状の朗読に先だち、被告人に対し、その人違でないことを確めるに足りる事項を問わなければならない。

規則も法令に含まれるから、本肢は正しい。

イは、そのような規定はないから、誤り。
審判対象と防御の範囲の明確化のため、要約はできないと覚えておけばよい。
なお、書証の取調べの朗読については、本肢のような方法が可能である。

(規則203条の2)

 裁判長は、訴訟関係人の意見を聴き、相当と認めるときは、請求により証拠書類又は証拠物中書面の意義が証拠となるものの取調をするについての朗読に代えて、その取調を請求した者、陪席の裁判官若しくは裁判所書記官にその要旨を告げさせ、又は自らこれを告げることができる。

2 裁判長は、訴訟関係人の意見を聴き、相当と認めるときは、職権で証拠書類又は証拠物中書面の意義が証拠となるものの取調をするについての朗読に代えて、自らその要旨を告げ、又は陪席の裁判官若しくは裁判所書記官にこれを告げさせることができる。

これも、併せて覚えておきたい。

ウは、刑訴法291条3項、規則197条により誤り。
告げるべき事項は、全て覚えておきたい。

(刑訴法291条3項、下線は筆者)

 裁判長は、起訴状の朗読が終つた後、被告人に対し、終始沈黙し、又は個々の質問に対し陳述を拒むことができる旨その他裁判所の規則で定める被告人の権利を保護するため必要な事項を告げた上、被告人及び弁護人に対し、被告事件について陳述する機会を与えなければならない。

(規則197条、下線は筆者)

 裁判長は、起訴状の朗読が終つた後、被告人に対し、終始沈黙し又個々の質問に対し陳述を拒むことができる旨の外、陳述をすることもできる旨及び陳述をすれば自己に不利益な証拠ともなり又利益な証拠ともなるべき旨を告げなければならない。

2 裁判長は、必要と認めるときは、被告人に対し、前項に規定する事項の外、被告人が充分に理解していないと思料される被告人保護のための権利を説明しなければならない。

エは、刑訴法291条3項から誤り。

(刑訴法291条3項、下線は筆者)

 裁判長は、起訴状の朗読が終つた後、被告人に対し、終始沈黙し、又は個々の質問に対し陳述を拒むことができる旨その他裁判所の規則で定める被告人の権利を保護するため必要な事項を告げた上、被告人及び弁護人に対し、被告事件について陳述する機会を与えなければならない

以上から、正解は2(正しい肢は1個)となる。
本問のように、訴訟法は規則も問われるようになっている。
もっとも、規則を全て覚えるのは厳しい。
頭から規則を覚えに行くのではなく、出てきたものだけ相手にするという姿勢でよいだろう。
過去問で問われたもの、基本書に挙がっているもの、答練等で出題されたもの等である。
出てきたときにその都度印をつけたり、まとめノートなどに貼り付ける等して直前にチェックできるようにしておくとよい。

新試験第31問、予備試験第21問は、裁判員制度を問うものである。

(新試験第31問、予備試験第21問)

 裁判員の参加する刑事裁判(以下「裁判員裁判」という。)に関する次のアからオまでの各記述のうち,正しいものの組合せは,後記1から5までのうちどれか。

ア.裁判員裁判の対象事件として法律で定められた殺人罪に係る事件については,裁判官のみの合議体で取り扱うことはできない。

イ.裁判員裁判においては,裁判官及び裁判員の合議により,事実の認定,法令の解釈,法令の適用及び刑の量定を行う。

ウ.裁判員の参加する合議体の裁判官の員数は3人,裁判員の員数は6人とされているが,公判前整理手続による争点及び証拠の整理において公訴事実について争いがないと認められ,事件の内容その他の事情を考慮して適当と認められるものについては,裁判所は,裁判官1人及び裁判員4人から成る合議体を構成して審理及び裁判をする旨の決定をすることができる。

エ.裁判員裁判の対象事件の被告人が,裁判員の参加する合議体ではなく,裁判官のみの合議体による審理を受けることを申し立てた場合には,地方裁判所は,当該事件を裁判官のみの合議体で取り扱う旨の決定をしなければならない。

オ.裁判員の関与する判断のための評議において,その判断は,構成裁判官及び裁判員の双方の意見を含む合議体の員数の過半数の意見によるので,裁判員のみが被告人を有罪とする意見である場合には,被告人は無罪となる。

1.アイ   2.アオ   3.イエ   4.ウエ   5.ウオ

アにつき、殺人は裁判員法2条1項1号該当の罪であるが、3条1項の適用余地があるので誤っている。

(裁判員法、下線は筆者)

2条1項 地方裁判所は、次に掲げる事件については、次条の決定があった場合を除き、この法律の定めるところにより裁判員の参加する合議体が構成された後は、裁判所法第二十六条の規定にかかわらず、裁判員の参加する合議体でこれを取り扱う

一  死刑又は無期の懲役若しくは禁錮に当たる罪に係る事件
二  裁判所法第二十六条第二項第二号に掲げる事件であって、故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪に係るもの(前号に該当するものを除く。)

3条1項 地方裁判所は、前条第一項各号に掲げる事件について、被告人の言動、被告人がその構成員である団体の主張若しくは当該団体の他の構成員の言動又は現に裁判員候補者若しくは裁判員に対する加害若しくはその告知が行われたことその他の事情により、裁判員候補者、裁判員若しくは裁判員であった者若しくはその親族若しくはこれに準ずる者の生命、身体若しくは財産に危害が加えられるおそれ又はこれらの者の生活の平穏が著しく侵害されるおそれがあり、そのため裁判員候補者又は裁判員が畏怖し、裁判員候補者の出頭を確保することが困難な状況にあり又は裁判員の職務の遂行ができずこれに代わる裁判員の選任も困難であると認めるときは、検察官、被告人若しくは弁護人の請求により又は職権で、これを裁判官の合議体で取り扱う決定をしなければならない

イは、6条1項、2項により誤り。

(裁判員法6条、下線は筆者)

1項 第二条第一項の合議体で事件を取り扱う場合において、刑事訴訟法第三百三十三条の規定による刑の言渡しの判決、同法第三百三十四条の規定による刑の免除の判決若しくは同法第三百三十六条の規定による無罪の判決又は少年法(昭和二十三年法律第百六十八号)第五十五条の規定による家庭裁判所への移送の決定に係る裁判所の判断(次項第一号及び第二号に掲げるものを除く。)のうち次に掲げるもの(以下「裁判員の関与する判断」という。)は、第二条第一項の合議体の構成員である裁判官(以下「構成裁判官」という。)及び裁判員の合議による

一  事実の認定
二  法令の適用
三  刑の量定

2項 前項に規定する場合において、次に掲げる裁判所の判断は、構成裁判官の合議による

一  法令の解釈に係る判断
二  訴訟手続に関する判断(少年法第五十五条の決定を除く。)
三  その他裁判員の関与する判断以外の判断

裁判員に解釈論まで委ねるのは、さすがにおかしい。
そこに気付けば、この肢は知識がなくても判断できただろう。

ウは、2条2項、3項により、正しい。

(裁判員法2条、下線は筆者)

2項 前項の合議体の裁判官の員数は三人、裁判員の員数は六人とし、裁判官のうち一人を裁判長とする。ただし、次項の決定があったときは、裁判官の員数は一人、裁判員の員数は四人とし、裁判官を裁判長とする。

3項 第一項の規定により同項の合議体で取り扱うべき事件(以下「対象事件」という。)のうち、公判前整理手続による争点及び証拠の整理において公訴事実について争いがないと認められ、事件の内容その他の事情を考慮して適当と認められるものについては、裁判所は、裁判官一人及び裁判員四人から成る合議体を構成して審理及び裁判をする旨の決定をすることができる。

エは、そのような申立てを認める規定はないから、誤っている。
被告人の選択権の肯否は、比較的よく議論されたところである。
細かい知識はなくても、何となく知っていたという人は多かったのではないか。

衆院法務委員会平成21年4月3日より引用、下線は筆者)

○稲田朋美委員 ・・刑事被告人の権利ですけれども、刑事被告人が公平な裁判所の裁判を受けるということは、憲法でも保障をされております。
 今までであれば訓練された専門家によって裁かれたわけですけれども、これからは、市民という名の、法律的に言うと素人に裁かれるということになることが被告人にとって不利益にならないかということでございます。
 最高裁、法務省、日弁連がつくったパンフレットには「私の視点、私の感覚、私の言葉で参加します。」なんて書いてあるんですけれども、私の感覚なんかで裁判されたんじゃたまったものじゃないと思う被告人もいるんじゃないかと思うわけです。
 刑事裁判に国民が参加することについて、例えば被告人になったことのある人の意見を聞かれたことがあるのかどうか。多分それは聞かれていなくて、弁護士会がそれを代表して意見を言われたんじゃないかと思います。
 昨日、弁護士会の先生方がお見えになりまして、今の刑事裁判は余りにひどくて、これ以上ひどくなることはないので、国民が参加されることでよくなる一方だという驚くべき現実を言われまして、私もびっくりをしたわけですが、私は、刑事裁判を余りやっていなかった者といたしまして少し引いて見ていると、刑事裁判、裁判官も検察官も弁護人もきちんと訴訟活動をやられていて、そして妥当な裁判をされていて、それを、裁判員制度が導入されることによって、国民の皆さん方も、刑事司法裁判はきちんとやってくれているんだなという安心感を得ていただけるんじゃないかと思っておりましたけれども、そこはちょっと弁護士会と認識を異にいたしておりました。
 そういった、被告人の経験のある人からは意見を聴取したのかどうかというと、されていないと思うんですが、例えば、被告人に裁判員裁判を受けるか否かの選択権を与えるということも検討されたんじゃないかと思いますが、これを導入されなかった理由について簡単に説明いただけますか

○大野政府参考人 ただいま御指摘がありましたように、裁判員法におきましては、被告人の選択権というのは認められておりません
 その理由でありますけれども、司法制度改革審議会の意見書にもその旨の指摘があるわけでありますが、裁判員制度は、個々の被告人のために導入されるというよりも、むしろ国民一般にとって、あるいは裁判制度として重要な意義を有するがゆえに導入するものであるという以上、その訴訟の一方当事者である被告人が、裁判員の参加した裁判体による裁判を受けることを辞退して裁判官のみによる裁判を選択することは認めないこととすべきである、こういう考え方に基づいているということでございます。

(引用終わり)

オは、67条1項により正しい。

(裁判員法67条1項)

 前条第一項の評議における裁判員の関与する判断は、裁判所法第七十七条の規定にかかわらず、構成裁判官及び裁判員の双方の意見を含む合議体の員数の過半数の意見による。

この点は、マスコミ報道等で比較的知られている知識である。

最高裁HP裁判員制度Q&A「意見が一致しなかったら評決はどうなるのですか。」より引用、下線は筆者)

 評議を尽くしても,全員の意見が一致しなかったときは,多数決により評決します。この場合,被告人が有罪か無罪か,有罪の場合にどのような刑にするかについての裁判員の意見は,裁判官と同じ重みを持つことになります。ただし,裁判員だけによる意見では,被告人に不利な判断(被告人が有罪か無罪かの評決の場面では,有罪の判断)をすることはできず,裁判官1人以上が多数意見に賛成していることが必要です。
 例えば,被告人が犯人かどうかについて,裁判員5人が「犯人である」という意見を述べたのに対し,裁判員1人と裁判官3人が「犯人ではない」という意見を述べた場合には,「犯人である」というのが多数意見ですが,この意見には裁判官が1人も賛成していませんので,裁判官1人以上が多数意見に賛成していることが必要という要件を満たしていないことになります。したがって,この場合は,被告人が「犯人である」とすることはできず,無罪ということになります。

(引用終わり)

なお、逆に、裁判官全員が有罪の意見である場合はどうか。
この場合は、裁判員が全員無罪意見であれば、有罪意見が過半数となることはない。
裁判官は3人なので、裁判官だけでは過半数を構成できないからである。
従って、仮に一人の裁判員が有罪に回ったケースであっても、無罪となる。

法務省HPよろしく裁判員「裁判員裁判における有罪・無罪の評決について」より引用、下線は筆者)

 最近、報道されたところによりますと、「裁判員裁判の評決において、裁判官3名と裁判員1名が被告人は有罪であるとの意見であり、裁判員5名が被告人は無罪であるとの意見である場合、裁判員法67条1項の規定(「・・・評議における裁判員の関与する判断は、・・・構成裁判官及び裁判員の双方の意見を含む合議体の員数の過半数の意見による。」)のため、被告人は無罪であるという判断をすることができない。」という誤解をしている方がいらっしゃるようです。
 しかしながら、上に挙げられた例の場合には、被告人は無罪とされることになります。
 一般に、刑事裁判においては、犯罪の証明があったと認められる場合に有罪とされ、その証明があったとは言えない場合に無罪とされますので、判断の対象となるのは、犯罪の証明があったかどうかということになります。したがって、この場面において、裁判員法67条1項の規定により、構成裁判官及び裁判員の双方の意見を含む合議体の員数の過半数の意見によらなければならないとされるのは、この犯罪の証明があったという判断についてなのです。
 そして、上の例の場合、裁判官3名と裁判員1名が、犯罪の証明があり、被告人は有罪であるという意見ですが、この意見は、裁判官及び裁判員の双方の意見を含む合議体の過半数の意見ではないのですから、犯罪の証明があったとは認められないことになります。したがって、被告人は無罪とされることになるのです。

(引用終わり)

すなわち、裁判官全員一致の意見であっても、更に少なくとも2名の裁判員の賛同を得る必要がある。
従って、「双方の意見を含む」の部分は、実際には裁判員のみの意見を排除する機能しか有しない。

アとウは細かいが、イエオは比較的よく知られた知識である。
そこで、イエオさえ判断できれば解けるのか。
肢をみてみると、これだけでは2者択一までしか絞れない。
すなわち、2か5か、というところまでである。
あとは、アとウの比較ということになる。
ただ、これはちょっと勘で当てるというには難しい。
それなりに、細かい知識も要求してきていると考えるべきだろう。

これまでの新試験短答では、裁判員制度は部分的にしか問われていない。

(平成22年第29問ア)

 裁判所は,裁判員の参加する合議体で取り扱うべき事件については,必ず公判前整理手続に付さなければならない。

ただ、これは裁判員制度が平成21年5月21日施行だったためである。
平成21年以前の本試験では、そもそも試験範囲に含まれていなかった。
今後は、細かい点も含め、訊いてくる可能性がある。
ある程度の対策は、必要だろう。
とはいえ、裁判員法は、100条を超える条文数である。
全条文を読み込むという時間的余裕はないだろう。
とりあえず、答練等で出たところをチェックできるようにし、順に覚えていくとよい。
あとは、余裕のあるときに、一度条文全体をざっと読んでおきたい。

新試験第32問も、近時の改正関連であり、対策していないと厳しい。

(新試験第32問)

 被害者に対する配慮に関する次のアからオまでの各記述のうち,誤っているものの組合せは,後記1から5までのうちどれか。ただし,判例がある場合には,それに照らして考えるものとする。なお,記述中の証人の遮へい措置は刑事訴訟法第157条の3に,ビデオリンク方式は同法第157条の4に,それぞれ規定されているものをいう。

ア.裁判所は,強制わいせつ罪に係る事件を取り扱う場合において,当該事件の被害者から申出があるときは,被告人又は弁護人の意見を聴き,相当と認めるときは,被害者特定事項(氏名及び住所その他の当該事件の被害者を特定させることとなる事項)を公開の法廷で明らかにしない旨の決定をすることができるが,この場合において,被害者は,あらかじめ,検察官にこの申出をしなければならない。

イ.公判期日において,被害者の被害に関する心情がなされた場合,裁判所は,この陳述を犯罪事実の認定のための証拠とすることはできない。

ウ.検察官は,検察官請求に係る証拠書類を弁護人に閲覧する機会を与えるに当たり,被害者特定事項が明らかにされることにより,被害者等の名誉が著しく害されるおそれがあると認めるときは,弁護人に対し,その旨を告げ,起訴状に記載された被害者特定事項を被告人に知られないようにすることを求めることができる。

エ.ビデオリンク方式によった上で被告人から証人の状態を認識できなくする証人の遮へい措置が採られても,映像と音声の受送信を通じてであれ,被告人は,証人の供述を聞くことはでき,自ら尋問することもでき,弁護人による証人の供述態度等の観察は妨げられないのであるから,被告人の証人審問権は侵害されていない。

オ.証人の遮へい措置を採ることができるのは,強制わいせつ等の性犯罪の被害者に限定されないが,ビデオリンク方式による証人尋問が認められるのは,性犯罪の被害者に限定されている。

1.アエ   2.アオ   3.イウ   4.イエ   5.ウオ

アは、290条の2第2項から正しい。

イは、292条の2第9項から正しい。

ウは、299条の3ただし書から誤り。

エは、最判平17・4・14であり、正しい。
これは、司法試験平成17年度最新判例肢別問題集で出題した。

司法試験平成17年度最新判例肢別問題集より引用)

【問題】

2:刑訴法157条の3、同法157条の4の規定により、証人尋問が公判期日において行われる場合、傍聴人と証人との間で遮へい措置が採られ、あるいはビデオリンク方式によることとされ、さらには、ビデオリンク方式によった上で傍聴人と証人との間で遮へい措置が採られたときには、審理が公開されているとはいえないが、「公の秩序又は善良の風俗を害する虞がある」に準じる場合といえるから、憲法82条1項、37条1項に違反しない。

(参照条文)刑事訴訟法

157条の3 裁判所は、証人を尋問する場合において、犯罪の性質、証人の年齢、心身の状態、被告人との関係その他の事情により、証人が被告人の面前(次条第一項に規定する方法による場合を含む。)において供述するときは圧迫を受け精神の平穏を著しく害されるおそれがあると認める場合であつて、相当と認めるときは、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き、被告人とその証人との間で、一方から又は相互に相手の状態を認識することができないようにするための措置を採ることができる。ただし、被告人から証人の状態を認識することができないようにするための措置については、弁護人が出頭している場合に限り、採ることができる。
2  裁判所は、証人を尋問する場合において、犯罪の性質、証人の年齢、心身の状態、名誉に対する影響その他の事情を考慮し、相当と認めるときは、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き、傍聴人とその証人との間で、相互に相手の状態を認識することができないようにするための措置を採ることができる。

157条の4 裁判所は、次に掲げる者を証人として尋問する場合において、相当と認めるときは、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き、裁判官及び訴訟関係人が証人を尋問するために在席する場所以外の場所(これらの者が在席する場所と同一の構内に限る。)にその証人を在席させ、映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法によつて、尋問することができる。
各号略
2項以下略


3:刑訴法157条の3及び同法157条の4の規定が適用される場合、被告人は自ら尋問することができなくなるが、被告人の証人審問権が侵害されているとまではいえないから、刑訴法157条の3及び同法157条の4の規定は憲法37条2項前段に違反しない。

【解答】

2:誤り(最判平17・4・14)。

 「刑訴法157条の3は、証人尋問の際に、証人が被告人から見られていることによって圧迫を受け精神の平穏が著しく害される場合があることから、その負担を軽減するために、そのようなおそれがあって相当と認められるときには、裁判所が、被告人と証人との間で、一方から又は相互に相手の状態を認識することができないようにするための措置を採り、同様に、傍聴人と証人との間でも、相互に相手の状態を認識することができないようにするための措置を採ることができる(以下、これらの措置を「遮へい措置」という。)とするものである。また、同法157条の4は、いわゆる性犯罪の被害者等の証人尋問について、裁判官及び訴訟関係人の在席する場所において証言を求められることによって証人が受ける精神的圧迫を回避するために、同一構内の別の場所に証人を在席させ、映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話することができる方法によって尋問することができる(以下、このような方法を「ビデオリンク方式」という。)とするものである。
 証人尋問が公判期日において行われる場合、傍聴人と証人との間で遮へい措置が採られ、あるいはビデオリンク方式によることとされ、さらには、ビデオリンク方式によった上で傍聴人と証人との間で遮へい措置が採られても、審理が公開されていることに変わりはないから、これらの規定は、憲法82条1項、37条1項に違反するものではない」と判示した。

3:誤り(最判平17・4・14)。

 「証人尋問の際、被告人から証人の状態を認識できなくする遮へい措置が採られた場合、被告人は、証人の姿を見ることはできないけれども、供述を聞くことはでき、自ら尋問することもでき、さらに、この措置は、弁護人が出頭している場合に限り採ることができるのであって、弁護人による証人の供述態度等の観察は妨げられないのであるから、前記のとおりの制度の趣旨にかんがみ、被告人の証人審問権は侵害されていないというべきである。ビデオリンク方式によることとされた場合には、被告人は、映像と音声の送受信を通じてであれ、証人の姿を見ながら供述を聞き、自ら尋問することができるのであるから、被告人の証人審問権は侵害されていないというべきである。さらには、ビデオリンク方式によった上で被告人から証人の状態を認識できなくする遮へい措置が採られても、映像と音声の送受信を通じてであれ、被告人は、証人の供述を聞くことはでき、自ら尋問することもでき、弁護人による証人の供述態度等の観察は妨げられないのであるから、やはり被告人の証人審問権は侵害されていないというべきことは同様である。したがって、刑訴法157条の3、157条の4は、憲法37条2項前段に違反するものでもない」と判示した。

オは、157条の4第1項3号から、誤りである。
正解は、5ということになる。
アイウは、平成19年改正事項である。
犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事訴訟法等の一部を改正する法律(平成19年法律第95号)参照)
古い六法には載っていないから、注意を要する。

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