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最高裁判所第三小法廷判決平成21年07月14日

【判旨】

 名瀬簡易裁判所は,平成20年9月12日,「被告人は,平成20年7月10日午前1時20分ころ,普通乗用自動車(軽四)を運転中,鹿児島県奄美市a大字bc番地dから西南西方向約600m先路上において,居眠り運転等のため運転操作を誤り,自車を走行車線上に横転させて大破させるなどの交通事故を起こしたのに,同状態のまま自車を放置して逃走し,もって,同道路上における危険を防止する等必要な措置を講じなかったとともに,その事故発生の日時及び場所等法律に定める事項を,直ちに最寄りの警察署の警察官に報告しなかったものである。」との事実を認定した上,(1) 道路交通法117条の5第1号,72条1項前段,(2) 同法119条1項10号,72条1項後段,(3) 刑法54条1項前段その他の関係法令を適用し,被告人を罰金15万円に処する旨の略式命令を発し,この命令は同年9月30日確定した。しかし,上記(1)の罪の法定刑は「1年以下の懲役又は10万円以下の罰金」,上記(2)の罪のそれは「3月以下の懲役又は5万円以下の罰金」であるところ,原略式命令が被告人の所為は1個の行為が2個以上の罪名に触れる場合に当たるものとしたのは正当であり,本件については,重い上記(1)の罪の刑で処断すべきものとして,罰金刑を選択した場合には,その処断刑の多額は10万円である。したがって,これを超過して被告人を罰金15万円に処した原略式命令は,法令に違反し,かつ,被告人のため不利益である。
 よって,刑訴法458条1号により,原略式命令を破棄し,被告事件について更に判決することとする。
 原略式命令の確定した事実に法令を適用すると,被告人の所為のうち,危険防止措置義務違反の点は道路交通法117条の5第1号,72条1項前段に,報告義務違反の点は同法119条1項10号,72条1項後段にそれぞれ該当するところ,これは1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるから,刑法54条1項,10条により1罪として重い危険防止措置義務違反の罪の刑で処断することとし,所定刑中罰金刑を選択し,その金額の範囲内で被告人を罰金10万円に処し,この罰金を完納することができないときは,同法18条により金5000円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

【堀籠幸男補足意見】

 法廷意見は,観念的競合の適用条文として,「刑法54条1項前段」ではなく,「刑法54条1項」を掲げているが,これは正確な法令の適用であると考える。
 法令用語としての「前段」とは,法令の規定を一つの文章に書くことができない場合で,かつ,それを項に分けることが適当でない場合に,その規定中に終止形で終了する文章を二つ設けることがあるが,その場合の前方の文章をいうものとされている。これによれば,刑法45条には前段及び後段が存することになるが,刑法54条1項には前段又は後段はいずれも存しないことになる。法令の規定のある部分をどのように呼称するかは,法制上の約束事であって,法令の解釈の問題ではないから,観念的競合の適用条文として「刑法54条1項前段」を掲げるのは,正確性を欠くものと言わざるを得ない。当審判例や実務において観念的競合の適用条文として,慣行的に,「刑法54条1項前段」を掲げることが行われているが,正確性を欠くものと考える。

 

最高裁判所第三小法廷判決平成23年02月22日

【事案】

1.被相続人Aの子である被上告人が,遺産の全部をAのもう一人の子であるBに相続させる旨のAの遺言は,BがAより先に死亡したことにより効力を生ぜず,被上告人がAの遺産につき法定相続分に相当する持分を取得したと主張して,Bの子である上告人らに対し,Aが持分を有していた不動産につき被上告人が上記法定相続分に相当する持分等を有することの確認を求める事案。

2.事実関係の概要

(1) B及び被上告人は,いずれもAの子であり,上告人らは,いずれもBの子である。

(2) Aは,平成5年2月17日,Aの所有に係る財産全部をBに相続させる旨を記載した条項及び遺言執行者の指定に係る条項の2か条から成る公正証書遺言をした(以下,この遺言を「本件遺言」といい,本件遺言に係る公正証書を「本件遺言書」という。)。本件遺言は,Aの遺産全部をBに単独で相続させる旨の遺産分割の方法を指定するもので,当該遺産がAの死亡の時に直ちに相続によりBに承継される効力を有するものである。

(3) Bは,平成18年6月21日に死亡し,その後,Aが同年9月23日に死亡した。

(4) Aは,その死亡時において,第1審判決別紙目録1及び2記載の各不動産につき持分を有していた。

3.原審は,本件遺言は,BがAより先に死亡したことによって効力を生じないこととなったというべきであると判断して,被上告人の請求を認容した。

【判旨】

1.所論は,本件遺言においてAの遺産を相続させるとされたBがAより先に死亡した場合であっても,Bの代襲者である上告人らが本件遺言に基づきAの遺産を代襲相続することとなり,本件遺言は効力を失うものではない旨主張するものである。

2.被相続人の遺産の承継に関する遺言をする者は,一般に,各推定相続人との関係においては,その者と各推定相続人との身分関係及び生活関係,各推定相続人の現在及び将来の生活状況及び資産その他の経済力,特定の不動産その他の遺産についての特定の推定相続人の関わりあいの有無,程度等諸般の事情を考慮して遺言をするものである。このことは,遺産を特定の推定相続人に単独で相続させる旨の遺産分割の方法を指定し,当該遺産が遺言者の死亡の時に直ちに相続により当該推定相続人に承継される効力を有する「相続させる」旨の遺言がされる場合であっても異なるものではなく,このような「相続させる」旨の遺言をした遺言者は,通常,遺言時における特定の推定相続人に当該遺産を取得させる意思を有するにとどまるものと解される。
 したがって,上記のような「相続させる」旨の遺言は,当該遺言により遺産を相続させるものとされた推定相続人が遺言者の死亡以前に死亡した場合には,当該「相続させる」旨の遺言に係る条項と遺言書の他の記載との関係,遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などから,遺言者が,上記の場合には,当該推定相続人の代襲者その他の者に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情のない限り,その効力を生ずることはないと解するのが相当である。
 前記事実関係によれば,BはAの死亡以前に死亡したものであり,本件遺言書には,Aの遺産全部をBに相続させる旨を記載した条項及び遺言執行者の指定に係る条項のわずか2か条しかなく,BがAの死亡以前に死亡した場合にBが承継すべきであった遺産をB以外の者に承継させる意思を推知させる条項はない上,本件遺言書作成当時,Aが上記の場合に遺産を承継する者についての考慮をしていなかったことは所論も前提としているところであるから,上記特段の事情があるとはいえず,本件遺言は,その効力を生ずることはないというべきである。

3.以上と同旨の原審の判断は,正当として是認することができる。論旨は採用することができない。

 

最高裁判所第二小法廷判決平成23年02月25日

【事案】

1.上告人Y1が開設するA病院(以下「上告人病院」という。)において,同病院に勤務していた上告人Y2の執刀により,下肢の骨接合術等の手術を受けた被上告人が,上記手術による合併症として下肢深部静脈血栓症を発症し,その後遺症が残ったことにつき,上告人らに対し,

(1) 上告人Y2は,必要な検査を行い,又は血管疾患を扱う専門医に紹介する義務があるのに,これを怠り,その結果,被上告人に上記後遺症が残った,仮に,上記義務違反と上記後遺症の残存との間の因果関係が証明されないとしても,上記後遺症が残らなかった相当程度の可能性を侵害された,

(2) 仮に,上記因果関係及び上記可能性が証明されないとしても,上告人Y2は,その当時の医療水準にかなった適切かつ真しな医療行為を行わなかったので,被上告人は,そのような医療行為を受ける期待権を侵害された

などと主張して,不法行為に基づく損害賠償を求める事案。

2.事実関係の概要

(1) 診療経過等

ア.被上告人は,昭和63年10月29日,左脛骨高原骨折の傷害を負い,同年11月4日ころ,上告人病院に入院し,同病院の整形外科医である上告人Y2の執刀により,骨接合術及び骨移植術(以下「本件手術」という。)を受けた。

イ.被上告人は,平成元年1月15日,上告人病院を退院したが,その後,本件手術時に装着されたボルトの抜釘のために同年8月ころに上告人病院に再入院するまでの間,上告人病院に通院して上告人Y2の診察を受け,リハビリを行った。
 本件手術後の入院時及び上記通院時に,被上告人は,上告人Y2に対し,左足の腫れを訴えることがあったが,上告人Y2は,腫れに対する検査や治療を行うことはなかった。

ウ.被上告人は,上記ボルトを抜釘して上告人病院を退院した後は,自らの判断で,上告人病院への通院を中止し,その後,平成4年7月16日,平成7年6月3日及び平成8年8月3日に,それぞれ,肋骨痛,腰痛等を訴えて上告人病院で診療を受けたことがあったものの,その際には,上告人Y2に対し,左足の腫れを訴えることはなかった。

エ.被上告人は,平成9年10月22日,上告人病院に赴き,上告人Y2に対し,本件手術後,左足の腫れが続いているなどと訴えた。上告人Y2は,レントゲン検査を行ったほか,左右の足の周径を計測するなどの診察を行ったが,左足の周径が右足のそれより3pほど大きかったものの,左膝の可動域が零度から140度まであり整形外科的治療として満足できるものであったこと,圧痛もなく,被上告人がこれまでどおり大工の仕事を続けることもできていたこと等からみて,機能障害はなく問題はないものと判断して,被上告人の上記訴えに対して格別の措置は講じなかった。

オ.被上告人は,平成10年8月24日,右足の親指を打ったことによる痛みを訴えて上告人病院で診療を受けたが,この際は,上告人Y2に対し,左足の腫れを訴えることはなかった。

カ.被上告人は,平成12年2月ころ,左くるぶしの少し上に鶏卵大の赤いあざができ,その後,左膝下から足首にかけて,無数の赤黒いあざができるなど,皮膚の変色が生じたことから,上告人病院で診察を受けた。上告人Y2は,上記症状を診て,皮膚科での受診を勧めた。

キ.被上告人は,平成13年1月4日,左足の腫れや皮膚の変色等の症状が軽快しないことを訴えて,上告人病院で診察を受けたが,上告人Y2は,被上告人が皮膚科でうっ血と診断され,投薬治療を受けていたことから,レントゲン検査を行うにとどまった。

ク.被上告人は,平成13年4月から10月にかけて,鳥取大学医学部附属病院,九州大学医学部附属病院及び神戸大学医学部附属病院に赴き,これら各病院において,それぞれ,左下肢深部静脈血栓症ないし左下肢静脈血栓後遺症(以下「本件後遺症」という。)と診断された。

(2) 被上告人は,本件手術及びその後の臥床,ギプス固定による合併症として左下肢深部静脈血栓症を発症し,その結果,本件後遺症が残ったものであるが,下肢の手術に伴い深部静脈血栓症を発症する頻度が高いことが我が国の整形外科医において一般に認識されるようになったのは,平成13年以降であり,上告人Y2は,上記(1)クの診断がされる以前において,被上告人の左足の腫れ等の症状の原因が深部静脈血栓症にあることを疑うには至らなかった。

(3) 被上告人の左下肢深部静脈血栓症については,平成9年10月22日の時点では既に,適切な治療法はなく,治療を施しても効果は期待できなかった。

3.原審は,上記事実関係の下において,上告人Y2が,必要な検査を行い,又は血管疾患を扱う専門医に紹介する義務を怠ったことにより,被上告人に本件後遺症が残ったとはいえず,また,被上告人が,本件後遺症が残らなかった相当程度の可能性を侵害されたともいえないとしたものの,その当時の医療水準にかなった適切かつ真しな医療行為を受ける期待権が侵害された旨の被上告人の主張については,次のとおり判断して,被上告人の請求を慰謝料300万円の限度で認容した。
 上告人Y2は,平成9年10月22日の時点で,専門医に紹介するなどの義務を怠り,被上告人は,これにより,約3年間,その症状の原因が分からないまま,その時点においてなし得る治療や指導を受けられない状況に置かれ,精神的損害を被ったということができるから,上告人らは,被上告人に対し,上記損害を賠償すべき不法行為責任を負う。

【判旨】

1.原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 前記事実関係によれば,被上告人は,本件手術後の入院時及び同手術時に装着されたボルトの抜釘のための再入院までの間の通院時に,上告人Y2に左足の腫れを訴えることがあったとはいうものの,上記ボルトの抜釘後は,本件手術後約9年を経過した平成9年10月22日に上告人病院に赴き,上告人Y2の診察を受けるまで,左足の腫れを訴えることはなく,その後も,平成12年2月以後及び平成13年1月4日に上告人病院で診察を受けた際,上告人Y2に,左足の腫れや皮膚のあざ様の変色を訴えたにとどまっている。これに対し,上告人Y2は,上記の各診察時において,レントゲン検査等を行い,皮膚科での受診を勧めるなどしており,上記各診察の当時,下肢の手術に伴う深部静脈血栓症の発症の頻度が高いことが我が国の整形外科医において一般に認識されていたわけでもない。そうすると,上告人Y2が,被上告人の左足の腫れ等の原因が深部静脈血栓症にあることを疑うには至らず,専門医に紹介するなどしなかったとしても,上告人Y2の上記医療行為が著しく不適切なものであったということができないことは明らかである。患者が適切な医療行為を受けることができなかった場合に,医師が,患者に対して,適切な医療行為を受ける期待権の侵害のみを理由とする不法行為責任を負うことがあるか否かは,当該医療行為が著しく不適切なものである事案について検討し得るにとどまるべきものであるところ,本件は,そのような事案とはいえない。したがって,上告人らについて上記不法行為責任の有無を検討する余地はなく,上告人らは,被上告人に対し,不法行為責任を負わないというべきである。

2.以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決中上告人ら敗訴部分は破棄を免れない。そして,以上に説示したところによれば,被上告人の請求は理由がなく,これを棄却した第1審判決は正当であるから,被上告人の控訴を棄却すべきである。

 

最高裁判所第三小法廷決定平成23年03月09日

【事案】

1.本件は,Aが平成14年▲月▲日に死亡し,その遺産分割が未了の間に,Aとその夫であるB(昭和▲年▲月▲日死亡)との間の子の一人であるCが平成19年▲月▲日に死亡したため,Aの遺産である原々審判別紙遺産目録1記載の遺産及びCの遺産である同遺産目録2記載の遺産につき,AとBとの間の子である相手方が,Aとその夫ではない者との間の子である抗告人に対し,遺産分割の審判を申し立てた事件であり,抗告理由は,Aの遺産相続及びCの遺産相続につき適用される民法900条4号ただし書の規定は憲法14条1項等に違反するというものである。

2.本件は,当小法廷から大法廷に回付され,大法廷において弁論期日を指定するために,相手方と連絡を取ったところ,相手方は,本件抗告がされた後に,抗告人との間でAの遺産相続及びCの遺産相続に関する紛争を全面的に解決する旨の和解が成立しており,本件抗告事件は終了しているはずであると申し立てた。その趣旨は,本件抗告の適法性を争うものと理解することができる。

3.本件抗告以降の事実経過

(1) 抗告人は,抗告代理人弁護士に委任して本件抗告を申し立てたものの,争いを続けるよりも本件を早期に解決した方がよいと考え,抗告代理人弁護士に相談することなく,相手方との間で直接和解交渉を行い,平成22年6月頃,相手方が支払う代償金の額を原決定が定めた867万0499円から増額し,1050万円とするなどの合意をし(以下「本件和解」という。),相手方は,同月7日頃,抗告人に対し,本件和解の履行として,原々審判別紙遺産目録2,2A記載の定期預金につき,所要の手続を執った上,その預金通帳(預金額1000万円)を交付するとともに,現金50万円を交付した。本件和解に際し,抗告人は,これが成立しても本件抗告を維持するなどの発言をすることはなく,相手方は,本件和解によって本件抗告事件は終了するものと考えていた。

(2) 抗告人は,平成22年7月,抗告代理人弁護士から本件が大法廷に回付された旨の連絡を受けた際,同弁護士に対し,初めて,相手方との間で和解が成立し,和解の履行として代償金も既に受領した旨を告げたが,本件抗告が取り下げられることはなかった。本件和解が成立したにもかかわらず本件抗告を維持することにつき,合理的な理由があることはうかがわれない。

【判旨】

 本件和解は,Aの遺産相続及びCの遺産相続に関する紛争につき,原決定を前提とした上,相手方が支払う代償金を増額することなどを合意してこれを全面的に解決する趣旨に出たものであることは明らかであって,抗告人において本件抗告事件を終了させることをその合意内容に含むものであったというべきである。仮に,抗告人が,本件抗告の結果,自らの主張が容れられる可能性の程度につき見通しを誤っていたとしても,本件和解が錯誤により無効になる余地はない。
 そして,抗告人と相手方との間において,抗告後に,抗告事件を終了させることを合意内容に含む裁判外の和解が成立した場合には,当該抗告は,抗告の利益を欠くに至るものというべきであるから,本件抗告は,本件和解が成立したことによって,その利益を欠き,不適法として却下を免れない。

 

最高裁判所第二小法廷判決平成23年03月18日

【事案】

1.上告人が,本訴として,被上告人に対し,離婚等を請求するなどし,被上告人が,反訴として,上告人に対し,離婚等を請求するとともに,長男,二男及び三男の養育費として,判決確定の日の翌日から,長男,二男及び三男がそれぞれ成年に達する日の属する月まで,1人当たり月額20万円の支払を求める旨の監護費用の分担の申立てなどをする事案。上告人は,二男との間には自然的血縁関係がないから,上告人には監護費用を分担する義務はないなどと主張している。

2.事実関係の概要等

(1) 上告人(昭和37年▲月▲日生)と被上告人(昭和36年▲月▲日生)とは,平成3年▲月▲日に婚姻の届出をした夫婦である。被上告人は,平成8年▲月▲日に上告人の子である長男Bを,平成11年▲月▲日に上告人の子である三男Cをそれぞれ出産したが,その間の平成9年▲月▲日ころ上告人以外の男性と性的関係を持ち,平成10年▲月▲日に二男Aを出産した。二男と上告人との間には,自然的血縁関係がなく,被上告人は,遅くとも同年▲月ころまでにそのことを知ったが,それを上告人に告げなかった。

(2) 上告人は,平成9年ころから,被上告人に通帳やキャッシュカードを預け,その口座から生活費を支出することを許容しており,平成11年ころ,一定額の生活費を被上告人に交付するようになった後も,被上告人の要求に応じて,平成12年1月ころから平成15年末まで,ほぼ毎月150万円程度の生活費を被上告人に交付してきた。

(3) 上告人と被上告人との婚姻関係は,上告人が被上告人以外の女性と性的関係を持ったことなどから,平成16年1月末ころ破綻した。その後,上告人に対して,被上告人に婚姻費用として月額55万円を支払うよう命ずる審判がされ,同審判は確定した。

(4) 上告人は,平成17年4月に初めて,二男との間には自然的血縁関係がないことを知った。上告人は,同年7月,二男との間の親子関係不存在確認の訴え等を提起したが,同訴えを却下する判決が言い渡され,同判決は確定した。

(5) 上告人が被上告人に分与すべき積極財産は,合計約1270万円相当である。

3.原審は,上告人と被上告人とを離婚し,長男,二男及び三男の親権者をいずれも被上告人と定めるべきものとするなどした上,二男の監護費用につき,次のとおり判断した。
 上告人と二男との間に法律上の親子関係がある以上,上告人はその監護費用を分担する義務を負い,その分担額については,長男及び三男と同額である月額14万円と定めるのが相当である。

【判旨】

1.原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

(1) 前記事実関係によれば,被上告人は,上告人と婚姻関係にあったにもかかわらず,上告人以外の男性と性的関係を持ち,その結果,二男を出産したというのである。しかも,被上告人は,それから約2か月以内に二男と上告人との間に自然的血縁関係がないことを知ったにもかかわらず,そのことを上告人に告げず,上告人がこれを知ったのは二男の出産から約7年後のことであった。そのため,上告人は,二男につき,民法777条所定の出訴期間内に嫡出否認の訴えを提起することができず,そのことを知った後に提起した親子関係不存在確認の訴えは却下され,もはや上告人が二男との親子関係を否定する法的手段は残されていない。
 他方,上告人は,被上告人に通帳等を預けてその口座から生活費を支出することを許容し,その後も,婚姻関係が破綻する前の約4年間,被上告人に対し月額150万円程度の相当に高額な生活費を交付することにより,二男を含む家族の生活費を負担しており,婚姻関係破綻後においても,上告人に対して,月額55万円を被上告人に支払うよう命ずる審判が確定している。このように,上告人はこれまでに二男の養育・監護のための費用を十分に分担してきており,上告人が二男との親子関係を否定することができなくなった上記の経緯に照らせば,上告人に離婚後も二男の監護費用を分担させることは,過大な負担を課するものというべきである。
 さらに,被上告人は上告人との離婚に伴い,相当多額の財産分与を受けることになるのであって,離婚後の二男の監護費用を専ら被上告人において分担することができないような事情はうかがわれない。そうすると,上記の監護費用を専ら被上告人に分担させたとしても,子の福祉に反するとはいえない。

(2) 以上の事情を総合考慮すると,被上告人が上告人に対し離婚後の二男の監護費用の分担を求めることは,監護費用の分担につき判断するに当たっては子の福祉に十分配慮すべきであることを考慮してもなお,権利の濫用に当たるというべきである。これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由がある。

2.以上によれば,原判決中,二男の監護費用の分担に関する部分は破棄を免れず,第1審判決中,同部分を取り消して,同部分に関する被上告人の申立てを却下すべきである。
 なお,長男及び三男の監護費用の分担に関する上告については,上告人は上告受理申立て理由を記載した書面を提出しないので,これを却下することとし,その余の上告については,上告受理申立て理由が上告受理決定において排除されたので,これを棄却することとする。

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