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最高裁判所第三小法廷判決平成23年03月22日

【事案】

1.被上告人が,貸金業者であるA株式会社及び同社からその資産を譲り受けたB株式会社等を吸収合併しその権利義務を承継した上告人(以下,上告人及び合併に係る会社をその前後を問わず,単に「上告人」という。)との間の継続的な金銭消費貸借取引に係る各弁済金のうち利息制限法(平成18年法律第115号による改正前のもの)1条1項所定の制限を超えて利息として支払った部分を元本に充当すると過払金が発生していると主張して,上告人に対し,不当利得返還請求権に基づき,その返還等を求める事案。

2.事実関係の概要等

(1) 被上告人は,平成元年3月8日,Aとの間で,金銭消費貸借に係る基本契約を締結し,以後,継続的に金銭の貸付けと弁済が繰り返される取引を行った。

(2) Aは,平成14年1月29日,上告人との間で,同年2月28日午後1時を契約の実行(クロージング)の日時(以下「クロージング日」という。)として,Aの消費者ローン事業に係る貸金債権等の資産(以下「譲渡対象資産」という。)を一括して上告人に売却する旨の契約(以下「本件譲渡契約」という。)を締結した。
 本件譲渡契約は,第1.3条において,上告人は,譲渡対象資産に含まれる契約に基づき生ずる義務のすべて(クロージング日以降に発生し,かつ,クロージング日以降に開始する期間に関するものに限る。)を承継する旨を,第1.4条(a)において,上告人は,第9.6条(b)に反しないで,譲渡対象資産に含まれる貸金債権の発生原因たる金銭消費貸借契約上のAの義務又は債務(支払利息の返還請求権を含む。)を承継しない旨を定め,第9.6条(b)においては,「買主は,超過利息の支払の返還請求のうち,クロージング日以後初めて書面により買主に対して,または買主および売主に対して主張されたものについては,自らの単独の絶対的な裁量により,自ら費用および経費を負担して,これを防禦,解決または履行する。買主は,かかる請求に関して売主からの補償または負担を請求しない。」と定める。

(3) 被上告人は,平成14年3月6日から同年5月17日まで,上告人に対し,被上告人とAとの間の金銭消費貸借取引に係る借入金の弁済を行った。

(4) 被上告人は,被上告人とAとの間の金銭消費貸借取引に係る過払金返還債務(以下「本件債務」という。)は上告人に承継されると主張して,被上告人と上告人との間の別個の金銭消費貸借取引により生じた過払金と併せ,その返還等を求めている。

3.原審は,上記事実関係の下で,本件債務の承継の有無につき,次のとおり判断し,被上告人の請求を認容すべきものとした。

(1) 本件譲渡契約の第9.6条(b)は,借主とAとの間の金銭消費貸借取引に係る過払金返還債務のうち,クロージング日後に初めて書面により上告人に対して履行を請求されたものについては,上告人においてこれを重畳的に引き受ける趣旨の定めである。本件債務は,クロージング日後に初めて書面により上告人に対して履行を請求されたものであるから,上記の条項により,その責任において解決すべきものとして,上告人がこれを重畳的に引き受け,承継したといえる。

(2) 仮にそうでないとしても,本件譲渡契約は,借主とAとの間の金銭消費貸借取引に係る契約上の地位の移転をその内容とするのであり,被上告人がこれを黙示的に承諾したことにより,上告人がAの上記地位を包括的に承継するという法的効果が生じたといえる。上告人において,その承継する義務の範囲を争うことは許されない。

【判旨】

1.原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 前記事実関係によれば,本件譲渡契約は,第1.3条及び第1.4条(a)において,上告人は本件債務を承継しない旨を明確に定めるのであって,これらの条項と対照すれば,本件譲渡契約の第9.6条(b)が,上告人において第三者弁済をする場合における求償関係を定めるものであることは明らかであり,これが置かれていることをもって,上告人が本件債務を重畳的に引き受け,これを承継したと解することはできない。
 そして,貸金業者(以下「譲渡業者」という。)が貸金債権を一括して他の貸金業者(以下「譲受業者」という。)に譲渡する旨の合意をした場合において,譲渡業者の有する資産のうち何が譲渡の対象であるかは,上記合意の内容いかんによるというべきであり,それが営業譲渡の性質を有するときであっても,借主と譲渡業者との間の金銭消費貸借取引に係る契約上の地位が譲受業者に当然に移転すると解することはできないところ,上記のとおり,本件譲渡契約は,上告人が本件債務を承継しない旨を明確に定めるのであって,これが,被上告人とAとの間の金銭消費貸借取引に係る契約上の地位の移転を内容とするものと解する余地もない。

2.以上によれば,原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな違法がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決中,原審における不服申立ての範囲である219万5139円及びうち52万5611円に対する平成14年5月18日から,うち166万9528円に対する平成21年2月8日から各支払済みまで年5分の割合による金員を超える金員の支払請求に関する部分は破棄を免れない。そこで,更に審理を尽くさせるため,上記破棄部分及び上告人の民訴法260条2項の裁判を求める申立てにつき,本件を原審に差し戻すこととする。
 なお,上告人は,不服申立ての範囲を原審におけるものより拡張し,これを219万5139円及びこれに対する平成21年6月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を超える金員の支払請求に関する部分とする旨の「上告受理申立書」を当審に提出したが,当審において不服申立ての範囲を拡張することは許されないから,拡張部分に関する上告は却下すべきである。

 

最高裁判所大法廷判決平成23年03月23日

【事案】

1.平成21年8月30日施行の衆議院議員総選挙(以下「本件選挙」という。)について,大阪府第9区の選挙人である被上告人が,衆議院小選挙区選出議員の選挙(以下「小選挙区選挙」という。)の選挙区割りに関する公職選挙法等の規定は憲法に違反し無効であるから,これに基づき施行された本件選挙の上記選挙区における選挙も無効であると主張して提起した選挙無効訴訟。

2.事実関係等の概要

(1) 昭和25年に制定された公職選挙法は,衆議院議員の選挙制度につき,中選挙区単記投票制を採用し,同制度の下での各選挙区の議員定数を定めた別表第1の末尾において,同別表は同法施行の日から5年ごとに直近に行われた国勢調査の結果によって更正されるのを例とするものと定めていた。上記制定時においては,選挙区間の投票価値の較差は最大1.51倍(上記制定前の臨時統計調査結果による。)であった。
 その後,都市部への急速な人口集中があったにもかかわらず,議員定数に係る上記別表の更正は長く行われず,昭和39年に至って初めて議員定数を19増加させる改正が行われるにとどまった。その結果,同47年に施行された総選挙時における選挙区間の投票価値の較差は最大4.99倍にまで拡大し,最高裁昭和49年(行ツ)第75号同51年4月14日大法廷判決・民集30巻3号223頁においては,当該較差の下での議員定数の配分規定は違憲であると判断されるに至った。上記裁判係属中の昭和50年には,議員定数を20増加させる同法の改正が行われたが,この改正後の議員定数に基づいて同55年に施行された総選挙時における選挙区間の投票価値の較差はなお最大3.94倍に達しており,最高裁昭和56年(行ツ)第57号同58年11月7日大法廷判決・民集37巻9号1243頁においては,憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったとは断定し難いものの,当該較差は憲法の選挙権の平等の要求に反する程度に至っているとされた。さらに,同じ議員定数の定めに基づいて同年に施行された総選挙時における選挙区間の投票価値の較差は最大4.40倍に拡大し,最高裁昭和59年(行ツ)第339号同60年7月17日大法廷判決・民集39巻5号1100頁においては,再び当該較差の下での議員定数の配分規定が違憲であると判断され,また,同年の国勢調査時には選挙区間の投票価値の較差は最大5.12倍にまで拡大した。こうした一連の事態を踏まえ,昭和61年の同法改正において,初めて議員定数の削減を含むいわゆる8増7減の改正が行われ,さらに,平成4年の同法改正では9増10減の改正が行われた。これらの措置によって,ある程度較差は抑えられたが,依然として最大較差が3倍に近い状況が残されたまま推移してきた。
 このような中で,平成2年4月の第8次選挙制度審議会の答申において,政策本位,政党本位の選挙を実現することを目的として,従来の中選挙区単記投票制に代えて新たに小選挙区比例代表並立制を導入し,小選挙区選挙の選挙区間の人口の較差は1対2未満とすることを基本原則とし,選挙区間の不均衡是正については,改定の原案を作成するための権威ある第三者機関を設けて,10年ごとに見直しを行う制度とする旨の提言がされ,その答申を踏まえて制度改正のための法案の立案作業が進められた。

(2) このような経緯を経て,平成6年1月に公職選挙法の一部を改正する法律(平成6年法律第2号)が成立し,その後,平成6年法律第10号及び同第104号によりその一部が改正され,これらにより,衆議院議員の選挙制度は,従来の中選挙区単記投票制から小選挙区比例代表並立制に改められた(以下,上記改正後の当該選挙制度を「本件選挙制度」という。)。
 本件選挙施行当時の本件選挙制度によれば,衆議院議員の定数は480人とされ,そのうち300人が小選挙区選出議員,180人が比例代表選出議員とされ(公職選挙法4条1項),小選挙区選挙については,全国に300の選挙区を設け,各選挙区において1人の議員を選出し,比例代表選出議員の選挙(以下「比例代表選挙」という。)については,全国に11の選挙区を設け,各選挙区において所定数の議員を選出するものとされている(同法13条1項,2項,別表第1,別表第2)。総選挙においては,小選挙区選挙と比例代表選挙とを同時に行い,投票は小選挙区選挙及び比例代表選挙ごとに1人1票とされている(同法31条,36条)。

(3) 上記の公職選挙法の一部を改正する法律と同時に成立した衆議院議員選挙区画定審議会設置法(以下「区画審設置法」という。)によれば,衆議院議員選挙区画定審議会(以下「区画審」という。)は,衆議院小選挙区選出議員の選挙区の改定に関し,調査審議し,必要があると認めるときは,その改定案を作成して内閣総理大臣に勧告するものとされている(同法2条)。上記の改定案を作成するに当たっては,各選挙区の人口の均衡を図り,各選挙区の人口のうち,その最も多いものを最も少ないもので除して得た数が2以上にならないようにすることを基本とし,行政区画,地勢,交通等の事情を総合的に考慮して合理的に行わなければならないものとされ(同法3条1項),また,各都道府県の区域内の選挙区の数は,各都道府県にあらかじめ1を配当した上で(以下,このことを「1人別枠方式」という。),これに,小選挙区選出議員の定数に相当する数から都道府県の数を控除した数を人口に比例して各都道府県に配当した数を加えた数とするとされている(同条2項)。
 なお,同法において1人別枠方式が採用された経緯についてみると,平成2年4月の第8次選挙制度審議会の答申においては,選挙区の設定に当たって,各都道府県の区域内の選挙区の数,すなわち議員の定数は,人口比例により各都道府県に配分するものとされていたが,その答申を受けて立案された法案においては,各都道府県への定数の配分はまず1人別枠方式により,次いで人口比例によるとされたものであり,同法案の国会での審議において,法案提出者である政府側から,各都道府県への定数の配分については,投票価値の平等の確保の必要性がある一方で,過疎地域に対する配慮,具体的には人口の少ない地方における定数の急激な減少への配慮等の視点も重要であることから,人口の少ない県に居住する国民の意思をも十分に国政に反映させるために,定数配分上配慮して,各都道府県にまず1人を配分した後に,残余の定数を人口比例で配分することとした旨の説明がされている。
 選挙区の改定に関する上記の勧告は,統計法5条2項本文の規定により10年ごとに行われる国勢調査の結果による人口が最初に官報で公示された日から1年以内に行うものとされ(区画審設置法4条1項),さらに,区画審は,各選挙区の人口の著しい不均衡その他特別の事情があると認めるときは,上記の勧告を行うことができるものとされている(同条2項)。

(4) 区画審は,統計法(平成19年法律第53号による改正前のもの)4条2項本文の規定により10年ごとに行われるものとして平成12年10月に実施された国勢調査(以下「平成12年国勢調査」という。)の結果に基づき,衆議院小選挙区選出議員の選挙区に関し,区画審設置法3条2項に従って各都道府県の議員の定数につきいわゆる5増5減を行った上で,同条1項に従って各都道府県内における選挙区割りを策定した改定案を作成して内閣総理大臣に勧告し,これを受けて,その勧告どおり選挙区割りの改定を行うことなどを内容とする公職選挙法の一部を改正する法律(平成14年法律第95号)が成立した。本件選挙の小選挙区選挙は,同法律により改定された選挙区割り(以下「本件選挙区割り」という。)の下で施行されたものである(以下,本件選挙に係る衆議院小選挙区選出議員の選挙区を定めた公職選挙法13条1項及び別表第1を併せて「本件区割規定」という。)。

(5) 平成12年国勢調査による人口を基に,本件区割規定の下における選挙区間の人口の較差を見ると,最大較差は人口が最も少ない高知県第1区と人口が最も多い兵庫県第6区との間で1対2.064であり,高知県第1区と比較して較差が2倍以上となっている選挙区は9選挙区であった。また,本件選挙当日における選挙区間の選挙人数の最大較差は,選挙人数が最も少ない高知県第3区と選挙人数が最も多い千葉県第4区との間で1対2.304であり,高知県第3区と比べて較差が2倍以上となっている選挙区は45選挙区であった。なお,各都道府県単位でみると,本件選挙当日における議員1人当たりの選挙人数の最大較差は,議員1人当たりの選挙人数が最も少ない高知県と最も多い東京都との間で1対1.978であった。

【判旨】

1.代表民主制の下における選挙制度は,選挙された代表者を通じて,国民の利害や意見が公正かつ効果的に国政の運営に反映されることを目標とし,他方,国政における安定の要請をも考慮しながら,それぞれの国において,その国の事情に即して具体的に決定されるべきものであり,そこに論理的に要請される一定不変の形態が存在するわけではない。憲法は,上記の理由から,国会の両議院の議員の選挙について,およそ議員は全国民を代表するものでなければならないという基本的な要請(43条1項)の下で,議員の定数,選挙区,投票の方法その他選挙に関する事項は法律で定めるべきものとし(同条2項,47条),両議院の議員の各選挙制度の仕組みについて国会に広範な裁量を認めている。したがって,国会が選挙制度の仕組みについて具体的に定めたところが,上記のような基本的な要請や法の下の平等などの憲法上の要請に反するため,上記のような裁量権を考慮してもなおその限界を超えており,これを是認することができない場合に,初めてこれが憲法に違反することになるものと解すべきである(前掲最高裁昭和51年4月14日大法廷判決,前掲最高裁昭和58年11月7日大法廷判決,前掲最高裁昭和60年7月17日大法廷判決,最高裁平成3年(行ツ)第111号同5年1月20日大法廷判決・民集47巻1号67頁最高裁平成11年(行ツ)第7号同年11月10日大法廷判決・民集53巻8号1441頁最高裁平成11年(行ツ)第35号同年11月10日大法廷判決・民集53巻8号1704頁最高裁平成18年(行ツ)第176号同19年6月13日大法廷判決・民集61巻4号1617頁参照)。

2.そこで,上記の見地から,本件区割規定の合憲性について検討する。

(1) 論旨は,選挙制度に関する規定の合憲性は,投票価値の平等以外にも国会において正当に考慮し得る諸般の要素をしんしゃくして判断すべきであるとした上,@ 1人別枠方式を定めた区画審設置法3条2項の規定は憲法に違反するものではなく,A 本件選挙当時,投票価値の不平等が,憲法の投票価値の平等の要求に反する程度に至っておらず,B 仮に上記程度に至っていたとしても憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったと評価することはできないなどというのである。

(2) 憲法は,選挙権の内容の平等,換言すれば投票価値の平等を要求しているものと解される。しかしながら,投票価値の平等は,選挙制度の仕組みを決定する絶対の基準ではなく,国会が正当に考慮することのできる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものであり,国会が具体的に定めたところがその裁量権の行使として合理性を有するものである限り,それによって投票価値の平等が一定の限度で譲歩を求められることになっても,やむを得ないものと解される。
 そして,憲法は,衆議院議員の選挙につき全国を多数の選挙区に分けて実施する制度が採用される場合には,選挙制度の仕組みのうち定数配分及び選挙区割りを決定するについて,議員1人当たりの選挙人数又は人口ができる限り平等に保たれることを最も重要かつ基本的な基準とすることを求めているというべきであるが,それ以外の要素も合理性を有する限り国会において考慮することを許容しているものといえる。
 具体的な選挙制度を定めるに当たっては,これまで,社会生活の上でも,また政治的,社会的な機能の点でも重要な単位と考えられてきた都道府県が,定数配分及び選挙区割りの基礎として考慮されてきた。衆議院議員の選挙制度においては,都道府県を定数配分の第一次的な基盤とし,具体的な選挙区は,これを細分化した市町村,その他の行政区画などが想定され,地域の面積,人口密度,住民構成,交通事情,地理的状況などの諸要素が考慮されるものと考えられ,国会において,人口の変動する中で,これらの諸要素を考慮しつつ,国政遂行のための民意の的確な反映を実現するとともに,投票価値の平等を確保するという要請との調和を図ることが求められているところである。したがって,このような選挙制度の合憲性は,これらの諸事情を総合的に考慮した上でなお,国会に与えられた裁量権の行使として合理性を有するか否かによって判断されることになる。
 以上は,前掲各大法廷判決の趣旨とするところであって,これを変更する必要は認められない。

(3) 本件選挙制度の下における小選挙区の区割りの基準については,区画審設置法3条が定めているが(以下,この基準を「本件区割基準」といい,この規定を「本件区割基準規定」という。),同条1項は,選挙区の改定案の作成につき,選挙区間の人口の最大較差が2倍未満になるように区割りをすることを基本とすべきものとしており,これは,投票価値の平等に配慮した合理的な基準を定めたものということができる。
 他方,同条2項においては,前記のとおり1人別枠方式が採用されており,この方式については,相対的に人口の少ない県に定数を多めに配分し,人口の少ない県に居住する国民の意思をも十分に国政に反映させることができるようにすることを目的とする旨の説明がされている。しかし,この選挙制度によって選出される議員は,いずれの地域の選挙区から選出されたかを問わず,全国民を代表して国政に関与することが要請されているのであり,相対的に人口の少ない地域に対する配慮はそのような活動の中で全国的な視野から法律の制定等に当たって考慮されるべき事柄であって,地域性に係る問題のために,殊更にある地域(都道府県)の選挙人と他の地域(都道府県)の選挙人との間に投票価値の不平等を生じさせるだけの合理性があるとはいい難い。しかも,本件選挙時には,1人別枠方式の下でされた各都道府県への定数配分の段階で,既に各都道府県間の投票価値にほぼ2倍の最大較差が生ずるなど,1人別枠方式が前記2(5)に述べたような選挙区間の投票価値の較差を生じさせる主要な要因となっていたことは明らかである。1人別枠方式の意義については,人口の少ない地方における定数の急激な減少への配慮という立法時の説明にも一部うかがわれるところであるが,既に述べたような我が国の選挙制度の歴史,とりわけ人口の変動に伴う定数の削減が著しく困難であったという経緯に照らすと,新しい選挙制度を導入するに当たり,直ちに人口比例のみに基づいて各都道府県への定数の配分を行った場合には,人口の少ない県における定数が急激かつ大幅に削減されることになるため,国政における安定性,連続性の確保を図る必要があると考えられたこと,何よりもこの点への配慮なくしては選挙制度の改革の実現自体が困難であったと認められる状況の下で採られた方策であるということにあるものと解される。
 そうであるとすれば,1人別枠方式は,おのずからその合理性に時間的な限界があるものというべきであり,新しい選挙制度が定着し,安定した運用がされるようになった段階においては,その合理性は失われるものというほかはない。前掲平成19年6月13日大法廷判決は,本件選挙制度導入後の最初の総選挙が平成8年に実施されてから10年に満たず,いまだ同17年の国勢調査も行われていない同年9月11日に実施された総選挙に関するものであり,同日の時点においては,なお1人別枠方式を維持し続けることにある程度の合理性があったということができるので,これを憲法の投票価値の平等の要求に反するに至っているとはいえないとした同判決の判断は,以上のような観点から首肯することができ,平成8年及び同12年に実施された総選挙に関する前掲平成11年11月10日各大法廷判決及び最高裁平成13年(行ツ)第223号同年12月18日第三小法廷判決・民集55巻7号1647頁の同旨の判断についても同様である。これに対し,本件選挙時においては,本件選挙制度導入後の最初の総選挙が平成8年に実施されてから既に10年以上を経過しており,その間に,区画審設置法所定の手続に従い,同12年の国勢調査の結果を踏まえて同14年の選挙区の改定が行われ,更に同17年の国勢調査の結果を踏まえて見直しの検討がされたが選挙区の改定を行わないこととされており,既に上記改定後の選挙区の下で2回の総選挙が実施されていたなどの事情があったものである。これらの事情に鑑みると,本件選挙制度は定着し,安定した運用がされるようになっていたと評価することができるのであって,もはや1人別枠方式の上記のような合理性は失われていたものというべきである。加えて,本件選挙区割りの下で生じていた選挙区間の投票価値の較差は,その当時,最大で2.304倍に達し,較差2倍以上の選挙区の数も増加してきており,1人別枠方式がこのような選挙区間の投票価値の較差を生じさせる主要な要因となっていたのであって,その不合理性が投票価値の較差としても現れてきていたものということができる。そうすると,本件区割基準のうち1人別枠方式に係る部分は,遅くとも本件選挙時においては,その立法時の合理性が失われたにもかかわらず,投票価値の平等と相容れない作用を及ぼすものとして,それ自体,憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っていたものといわなければならない。そして,本件選挙区割りについては,本件選挙時において上記の状態にあった1人別枠方式を含む本件区割基準に基づいて定められたものである以上,これもまた,本件選挙時において,憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っていたものというべきである。
 しかしながら,前掲平成19年6月13日大法廷判決において,平成17年の総選挙の時点における1人別枠方式を含む本件区割基準及び本件選挙区割りについて,前記のようにいずれも憲法の投票価値の平等の要求に反するに至っていない旨の判断が示されていたことなどを考慮すると,本件選挙までの間に本件区割基準中の1人別枠方式の廃止及びこれを前提とする本件区割規定の是正がされなかったことをもって,憲法上要求される合理的期間内に是正がされなかったものということはできない。

(4) 以上のとおりであって,本件選挙時において,本件区割基準規定の定める本件区割基準のうち1人別枠方式に係る部分は,憲法の投票価値の平等の要求に反するに至っており,同基準に従って改定された本件区割規定の定める本件選挙区割りも,憲法の投票価値の平等の要求に反するに至っていたものではあるが,いずれも憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったとはいえず,本件区割基準規定及び本件区割規定が憲法14条1項等の憲法の規定に違反するものということはできない。

(5) 国民の意思を適正に反映する選挙制度は,民主政治の基盤である。変化の著しい社会の中で,投票価値の平等という憲法上の要請に応えつつ,これを実現していくことは容易なことではなく,そのために立法府には幅広い裁量が認められている。しかし,1人別枠方式は,衆議院議員の選挙制度に関して戦後初めての抜本的改正を行うという経緯の下に,一定の限られた時間の中でその合理性が認められるものであり,その経緯を離れてこれを見るときは,投票価値の平等という憲法の要求するところとは相容れないものといわざるを得ない。衆議院は,その権能,議員の任期及び解散制度の存在等に鑑み,常に的確に国民の意思を反映するものであることが求められており,選挙における投票価値の平等についてもより厳格な要請があるものといわなければならない。したがって,事柄の性質上必要とされる是正のための合理的期間内に,できるだけ速やかに本件区割基準中の1人別枠方式を廃止し,区画審設置法3条1項の趣旨に沿って本件区割規定を改正するなど,投票価値の平等の要請にかなう立法的措置を講ずる必要があるところである。

3.原判決は,本件区割規定が本件選挙当時憲法に違反するものであったとしつつ,行政事件訴訟法31条1項に示された一般的な法の基本原則に従い,本件請求を棄却した上で,当該選挙区における本件選挙が違法であることを主文において宣言したものであるが,原判決は,前記判示と抵触する点において失当であり,その限度において変更を免れないというべきである。
 以上の次第で,原判決には,憲法の解釈,適用を誤った違法があり,本件上告は,その限りにおいて理由があるから,原判決を変更して,被上告人の請求を棄却することとする。

【竹内行夫補足意見】

 私は,多数意見に賛同するものであるが,判示4の(3)(※判旨2の(3))に関し,1人別枠方式についての私の理解と認識について次のとおり述べることとする。

1.1人別枠方式を含む本件区割基準が,憲法43条1項の国民代表原理に,直接,矛盾抵触するということはない。

(1) 憲法43条1項が両議院の議員が全国民を代表する者でなければならない(以下「国民代表原理」という。)としていることについて,「本来的には,両議院の議員は,その選出方法がどのようなものであるかにかかわらず,特定の階級,党派,地域住民など一部の国民を代表するものではなく全国民を代表するものであって,選挙人の指図に拘束されることなく独立して全国民のために行動すべき使命を有するものであることを意味していると解される」のは,当審が明示しているとおりである(多数意見の引用する最高裁平成11年(行ツ)第7号同年11月10日大法廷判決)。憲法43条1項に従って全国民の代表として行動すべきことは全ての議員について全く同様なのであり,かかる行動規範は,小選挙区であろうが,比例代表区であろうが,いずれの選挙区から選出されたかを問わず,ひとたび選出された両議院の全ての議員について当てはまるものである。そして,1人別枠方式を含む選挙制度の仕組みの下で実施されたからといって,「これによって選出された議員が全国民の代表者であるという性格と矛盾抵触することになるということはできない」と解されるべきことは,前掲の当審判例が明確に指摘しているとおりである。

(2) 一般的にいって,具体的な選挙制度について,その適否を憲法43条1項の観点から単純に判断することは困難であるが,仮に,1人別枠方式を含む選挙制度において選出された議員が,選挙人の指図に拘束されたり,その国会活動について選挙人から法的に問責されたりするようなことがあれば,そのような制約の下にある議員は全国民を代表するものとはいえず,「地域代表」にすぎないものとなり,憲法43条1項の国民代表原理と抵触する事態が生ずることとなろう。しかし,1人別枠方式を含む本件選挙制度においてそのような制約が新たに加えられたということはなく,ひとたび選出された議員が全国民の代表として独自の判断に従って行動すべきものとされることについて従前と何らの変更はないし,また,そのように行動することが従前に比して困難になったということもないのである。
 なお,1人別枠方式の採用の主たる目的が,相対的に人口の少ない県に定数を多めに配分し,人口の少ない県に居住する国民の意思をも十分に国政に反映させることができるようにすることにあるとされたことをもって,憲法43条1項に反する「地域代表」の観念が導入されたとの議論があるとすれば,それは国民代表と地域代表についての正しい理解に基づくものとはいえない。そもそも1人別枠方式の下においては,すべての都道府県に対してあらかじめ定数1が配分されているのであり,1人別枠のための小選挙区が特別に設けられているわけではないし,これによって選挙区の選挙人の指図によって拘束される地域代表が選出されるわけでもない。区画審設置法3条2項が,憲法43条1項に抵触するような意味での地域代表を観念していたとは到底考えられない。
 それでは相対的に人口の少ない県に定数を多めに配分することがなぜ許されるのかが問題となり得る。この点については,当審において,「人口の都市集中化及びこれに伴う人口流出地域の過疎化の現象等にどのような配慮をし,選挙区割りや議員定数の配分にこれらをどのように反映させるかという点も,国会において考慮することができる要素というべきである」と一貫して判示しているところである(前掲最高裁平成11年11月10日大法廷判決,多数意見の引用する最高裁平成13年12月18日第三小法廷判決及び最高裁平成19年6月13日大法廷判決)。そこで指摘されたような点が国会が選挙区割り等を検討する際に考慮することのできる一つの要素であるということに関しては,私も同様の見解を有している。

2.1人別枠方式と投票価値の平等の問題との関係について,私の考えるところは次のとおりである。

(1) 上記のように,国会が選挙区割りや議員定数の配分を決めるに当たって人口の都市集中や過疎化の現象等への配慮を考慮することは許されるものと考えられるが,それは飽くまでも国会における総合的な裁量における一つの考慮要素であるということにすぎず,もちろんこれが他の考慮要素に勝るということを意味するものではない。ここで問題となるのは,そのような考慮要素が投票価値の平等を修正することができるか否かである。
 ところで,憲法は国権の最高機関である国会について二院制を採用し,衆議院と参議院がそれぞれ特色のある機能を発揮することを予定している。そして,憲法が二院制を採用した趣旨からして,議員の選出基盤に関する理念が両院において同じでなければならないということはなく,むしろそれらは異なって当然である。参議院議員選挙については,多角的民意反映の考えに基づき厳格な人口比例主義以外の合理的な政策的目的ないし理由をより広く考慮することが二院制の趣旨に合致するといえようが,第一院としての地位を与えられている衆議院の議員選挙については,厳格な投票価値の平等が,唯一,絶対の基準となるものではないが,最も重要かつ基本的な基準とされるべきことについてはもはや多言を要しない(選出基盤が参議院議員と衆議院議員とで異なるべきことについての私の見解については,最高裁平成20年(行ツ)第209号同21年9月30日大法廷判決・民集63巻7号1520頁の補足意見参照)。
 そのような衆議院議員選挙において,1人別枠方式が選挙区間の投票価値の較差を生じさせる主要な要因となっていたことは明らかであり,これまで,1人別枠方式が投票価値の平等を修正するに値するほどの十分な合理性を有するか否かについて疑問が呈されてきたことも事実である。しかし,この点については,多数意見において指摘されているとおり,我が国の選挙制度改革の戦後の歴史において初めての抜本的改正を行うに当たって,直ちに人口比例原則のみに基づいて各都道府県への定数配分を行うこととした場合には,改革の実現そのものが困難であったと認められる当時の状況に留意する必要がある。そして,そのような状況の下で,国会において総合的な考慮を払った結果,時宜にかなった判断として1人別枠方式が採用されたのであり,当審も,これを国会の裁量権の範囲に含まれるものとして合憲であるとの判断を数度にわたり下してきたのである。
 国政選挙における投票価値の平等が一挙に実現し得るものではないことを考えると,1人別枠方式は,衆議院議員選挙における投票価値の平等を実現するための改革を進める過程における一種の触媒としての歴史的意義を有するものであったと認めることができるのではないかと思われる。現に,平成6年成立の区画審設置法の下における選挙区割りにより投票価値の較差は縮減されたのであった。

(2) しかし,そのような考慮が,投票価値の平等を修正する恒久的な合理性を備えたものであるとは到底いえないことも確かである。衆議院議員選挙における投票価値の平等の実現へ向けての過程は更に一段と前進させなければならないのである。
 我が国の憲法が定める統治機構のあるべき姿を考えた場合,国会の第一院たる衆議院が果たすべき機能,衆議院において国民の意思が政策決定に直接反映されることの必要性,国民の投票価値の平等についての要求の高まり等々を考えれば,第一院たる衆議院の議員を選出する選挙について選挙区間の投票価値の最大較差が2倍を超えている状態に満足し,漫然とこれを常態化させることが許されることはなく,本来,当審による指摘を待つまでもなく,立法府において投票価値の平等の実現に向けた絶えざる努力が求められていることが忘れられてはならない。
 しかしながら,当審が,前掲平成19年6月13日大法廷判決において,平成17年の総選挙の時点における1人別枠方式を含む本件区割基準及び本件選挙区割りについて憲法の投票価値の平等の要求に反するに至っていない旨の判断を示していたことに鑑みれば,本判決以降,事柄の性質上必要とされる是正のための合理的期間内に,できるだけ速やかに必要とされる措置を講ずることが求められることとなるものと考える次第である。

【須藤正彦補足意見】

 私は,遅くとも本件選挙時においては1人別枠方式が憲法の投票価値の平等の要求に反する状態になっていたとの多数意見に賛成するものであるが,なお,人口の少ない県に対する配慮と衆議院における投票価値の平等との関係で,次の点を補足しておきたい。
 選挙権は,主権者たる国民の参政権として最も基本的かつ重要な国民の権利であるから,憲法14条1項に定める法の下の平等において,投票価値の平等は強く要請されるものであるが,それは,絶対の基準ではなく,他の理由との関連において,裁量権の行使として合理性を有するものである限り,投票価値に差異が設けられることになってもやむを得ないと解せられるのであり,それは当審の判例とするところである。しかるところ,憲法は議院内閣制を採用し,内閣は,衆議院の信任の上に成り立ち,結局,衆議院議員の多数派によって統治の主体たる内閣(政府)が決められることになる。その一方において,内閣は衆議院の解散権の行使によって民意を問うことができる仕組みとなっている(憲法67条,69条)。そうである以上,衆議院議員選挙における1票は,政権の選択と政策の帰すうに通じ,とりわけ小選挙区制の選挙制度の採用の下ではそのことが特に顕著であるといえる。そうすると,国政の運営への国民の利害や意見の公正な反映という見地からしても,衆議院議員選挙における投票価値は特に厳格な平等が要求されるというべきで,それに殊更に差異を設けるような制度は,特段の合理的理由が認められない限り,憲法の投票価値の平等の要求に反するというべきである。
 そこで,この観点に立ってみるに,1人別枠方式は,都道府県に議員1人を別枠で配分することにより相対的に人口の少ない県に定数を多めに配分し,投票価値にあらかじめ差異を設ける制度である。しかして,その制度の趣旨・目的とするところは,人口の少ない県に居住する国民の意思を十分に国政に反映させることができるようにするためと説明されている。その意味を立法当時の議論を参酌して敷衍すれば,国政が,相対的に人口の少ない県における過疎関連問題等の対策に向けて重点的に運営されるようにするということであろう。確かに,例えば人口の相対的に少ない県の中小都市等で,経済が活性化し雇用の場が豊富に確保されるなどして人口の流出や減少が生じないようにするために,有効適切な方策を講じて側面支援,環境整備をすることは,我が国にとって喫緊の重要課題であろう。特に,ややもすれば少数者の声は軽視ないしは黙殺されがちであるから,その声に十分に耳を傾けるようにすることは極めて大切なことであり,しかも,一般的には,人口の少ない県の候補者は,選挙運動や日頃の政治活動を通じてその地の民情を知る機会が多いと思われる。しかし,それは,結局,国政運営で優先順位の高い政策課題の対象集団ないしは母集団(以下「関係集団」という。)の選挙人の投票価値を優位なものとするという考え方であり,次に述べるとおり二重の意味で不合理であるといわざるを得ない。
 第1に,全ての国会議員は,一地方や一集団の代弁者ではなく,全国民を代表するものである(憲法43条1項)ところ,上記の考え方は,優先順位の高い政策課題への対応を関係集団の選出に係る議員に大きく依存する,あるいは,その関係集団の選出議員はその集団の利益代表であると考えていることを意味するのであって,そのような考え方に基づいて人口の少ない県の選挙人の投票価値を優位なものとする点において不合理であるといえる。第2に,我が国にとって重要ないし優先順位上位で,しかも少数者ないしは弱者に関わる政策課題は多数あるであろうから,上記の考え方からすると,その重要な政策課題ごとにその関係集団それぞれに所属する国民の意思を十分に反映させる必要があるということで,その関係集団にも議員を1人別枠で配分しなければならないということにもなりかねないであろう。もとより,そのようなことは現実に不可能であり,そうであるとすると,今度は,人口の少ない県に対する過疎関連問題等の対策のみを常に優遇し,その関係集団の選挙人の投票価値を必ず優位なものとするということになり,不公平,不合理である。
 そうすると,1人別枠方式については,以上の観点において合理性を認めることができない制度である。衆議院議員選挙における投票価値の平等についての特に厳格な要求を考慮するとなおさらのことであるが,前記の投票価値の差異を設けることになってもやむを得ない場合には当たらないというべきである。しかも,多数意見の述べるとおり,1人別枠方式において,衆議院議員の選挙制度に関して戦後初めての抜本的改正を行うという経緯の下で,国政における安定性,連続性の確保を図るという観点から,一定の限られた時間の中で認められていた合理性も,相当期間が経過したことによって,既に失われるに至ったというべきである。そうすると,本件選挙当時,1人別枠方式は,投票価値に差異を設けるべき特段の合理的理由は認められないから,憲法の投票価値の平等の要求に違反する状態になっていたというべきである。

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