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最高裁判所大法廷判決平成23年03月23日

【古田佑紀意見】

 私は,結論において多数意見に同調するものであるが,本件選挙当時,本件選挙区割りが憲法の投票価値の平等の要求に反するに至っていたということはできないと考える点において,多数意見と見解を異にする。以下,その理由を述べる。なお,引用した当審判例は,いずれも,多数意見においても引用されているものであるので,原則として判決年月日のみを記載する。

1.小選挙区による衆議院議員選挙における「1票の較差」の問題についての私の基本的な考えは平成19年6月13日大法廷判決の補足意見において述べているところであるが,改めて以下の点を述べておく。
 いうまでもないが,ある選挙区間の「1票の較差」が2倍であるといっても,1人の選挙人がする投票は飽くまで1票であって,2票あるいは半票を投ずるものではなく,選出する議員は1人であるから,「1票の較差」の実質的意味はその選挙区において1人の議員を選出するに当たっての選挙人1人の有する影響力の差である。私は,選挙が1人の投票によって完結する効果が生じるものではなく,数十万人に上る多数の者の投票の集積により特定の代表を選出するものであることからすれば,「1票の較差」の問題は,実質的には,このような1人1人の選挙人の影響力の差ではなく,例えば,基準選挙人数(総選挙人数を小選挙区議員定数で除したもの。以下同じ。)が30万人であるとした場合に,20万人の者が1人の代表を選出できる選挙区と40万人で1人の代表を選出することになる選挙区とがあるという点にあるというべきであって,過剰代表又は過小代表の問題として,基準選挙人数との較差(基準選挙人数に対する選挙人数の割合)が問題であると考える。この点において昭和51年4月14日大法廷判決における岡原裁判官ほか4裁判官の意見に共感を覚えるものである。

2.次に,投票価値の平等と人口減少地域についての議員定数配分の関係に関するこれまでの当審の判断を見ると,当審は,中選挙区制度当時,「社会の急激な変化や,その一つの現れとしての人口の都市集中化の現象などが生じた場合,これをどのように評価し,政治における安定の要請も考慮しながら,これを選挙区割りや議員定数配分にどのように反映させるかも,国会における高度に政策的な考慮要素の一つである」旨判示し(昭和51年4月14日大法廷判決),現行選挙制度についても,「人口の都市集中化及びこれに伴う人口流出地域の過疎化の現象等にどのような配慮をし,選挙区割りや議員定数の配分にこれらをどのように反映させるかという点も,国会において考慮することができる要素というべきである」旨一貫して同様の判示をしている(最高裁判所平成11年(行ツ)第7号事件についての同年11月10日大法廷判決,平成19年6月13日大法廷判決)。これらの判示は,都市部と地方との間における投票価値の較差を問題にする論旨との関係における判断であって,その趣旨は,人口が都市部に集中し,地方の人口が減少する状況がある場合に,国会は,必ずしもそれに対応して厳密に人口比例原則に従って議員定数を配分しなければならないものではなく,都市部と地方のバランスを考慮して地方が大きく減少することがないように議員定数を定めることも一定限度では許されるとするものであることは明らかである。

3.上記判示のような考えは,統治機構としての国会の構成の在り方の観点からして,十分に合理的なものというべきである。国会は国の最も基本的な意思決定機関であり,国が全体として適切な均衡を保ちつつ維持され,発展するためには,国を構成する各地域から見た問題意識や意見が有効,的確に反映されることは極めて重要である。全国を多数の選挙区に細分化する小選挙区制度の下においては,各選挙区の独立性,独自性が希薄であり,より厳格に人口比例原則に従うことが求められることを否定するものではないが,人口比例原則にそのまま従えば,人口密集地帯の議員定数が多数に上る一方,人口減少地域の議員定数はわずかになる可能性があるのであって,そのような場合に,前記の問題意識や意見を有効,的確に反映させることの重要性を考慮して,人口比例に基づく配分比を大きく歪めない範囲で,顕著に少なくなる側の定数を増加させ,両者のバランスを図ることは,政治における妥当性に属する事柄というべきである。
 当審は,1人別枠方式に関し,同方式は上記の「人口の都市集中化及びこれに伴う人口流出地域の過疎化の現象等にどのような配慮をし,選挙区割りや議員定数の配分にこれらをどのように反映させるか」についての国会の裁量の範囲内の問題として合憲であるとしてきたものであり,その結論を変更すべき理由は認められない。
 議員定数の定め方は,過疎問題の個別の解消方策ではなく,そのような問題を含めて国全体としての課題を議論,検討し,解決を図る場である国会をどのように構成するかという問題である。また,議員が全国民を代表する者であるということの意義及び1人別枠方式がこれと矛盾するものではないことは,前掲平成11年11月10日大法廷判決が明確に判示するとおりである。全国民を代表する者としての行動がどのようなものかは具体的,一義的に明らかなわけではなく,議員の行動規範として見たときは理念を示す域を出るものではない。議員が全国民を代表する者とされることを理由に,議員定数について上記のような考慮をする必要性がなく,合理性を欠くというのであれば,「全国民を代表する者」の意義を大きく超える効果を認めるものである上,そのような効果を認めることを相当とする根拠としての具体性,実質性に欠けるといわざるを得ない。
 また,1人別枠方式について立法当時から合理性に時間的な限界があるとされていたものではなく,国会審議における内閣総理大臣や所管大臣の説明からすれば,基本的にそれ自体として必要があるとされたものと認められる。1人別枠方式が時間の経過により変更される蓋然性のある政策であるとしても,国の最も基本的な機関である国会の構成に関する基礎的な事項である選挙制度について,明確かつ具体的な事情の変化もないのに合理性が失われるとするのは,相当でない。もっとも,本件選挙当時,最も選挙人数が少ない選挙区を含む高知県においては,各選挙区の基準選挙人数との較差はいずれも0.63未満であり,このような状態が生じることは,小選挙区制度という観点から見ると問題がないわけではない。しかしながら,このような較差が生じる県は少数であり,また,1人別枠方式においても較差が無制約に広がることはなく,仮に本件選挙時において,現行規定により定数が再配分されたとすれば,高知県の定数は1減少して2となり,基準選挙人数との較差は0.93となる一方,東京都については2増加して27となり,上記較差は1.13になる。なお,最も選挙人数の多い選挙区を含む千葉県の県全体についての基準選挙人数との較差を見ると,1.12であるのであって,現実には定数再配分のタイムラグや一つの都道府県内の選挙区割りが較差に影響するところが小さくない。
 加えて,選挙区間の較差の大きさを見ると,現行選挙制度の下で当審においてこれまで合憲とされてきた場合の較差より小さいものであり,その観点から見ても,本件選挙区割りが憲法に適合しないということはできない。

【田原睦夫反対意見】

 私は,本件選挙に適用される公職選挙法は,その区割規定が,憲法14条1項に違反し,違憲であると判断するものである。ただし,平成6年に公職選挙法が抜本的に改正された後,当審がその改正法につき一貫して合憲との判断をなしてきたことに鑑み,選挙の違法を宣言するにとどめるべきものと考える。

第1.本件区割規定について

 多数意見は,本件区割基準規定のうちの1人別枠方式に係る部分は,本件選挙時点においては,投票価値の平等と相容れない作用を及ぼすものとして,それ自体,憲法の選挙権の平等の要求に反する状態に至っていたものといわなければならないとするが,私も,その結論に異論はない。ただし,私は,以下に述べるとおり,1人別枠方式はその制定当初から憲法に違反していたものと考えるものである。
 他方,多数意見が,本件選挙までの間に本件区割基準中の1人別枠方式の廃止及びこれを前提とする本件区割規定の是正がなされなかったことをもって,憲法上要求される合理的期間内における是正がなされなかったものということはできない,とする点については賛成できない。国会は,本件選挙までの間に,1人別枠方式を廃止し,衆議院議員小選挙区の区割作成の基本原則を定める区画審設置法3条1項に基づき,継続的に区割りを見直すべき責務を負っているものというべきところ,平成17年の総選挙施行以降もその責務に思いを馳せることなく,漫然と時を徒過したのであって,国会は立法不作為の責任を問われてしかるべきである。
 したがって,1人別枠方式という憲法14条に違反する区割規定の下に施行された本件選挙は違法であり,本来は無効との評価を受けるべきものである。

1.投票価値の平等について

 憲法は,国民主権を宣明し,全国民を代表する選挙された議員で組織された国会は,国権の最高機関として位置付けられているところ(憲法41条,43条),その議員を選挙する国民の選挙権は,人種,信条,性別,社会的身分,門地,教育,財産又は収入によって差別してはならないこと(憲法44条ただし書)はもちろんのこと,個々の国民の選挙権の行使としての投票の価値は,基本的に平等でなければならず,その選挙人の居住地のいかんによって,その間に差が生じることは,合理的な理由が存しない限り認められないものというべきである。
 例えば,国会議員の選挙において選挙区制を採る限り,その選挙区が大,中,小のいずれであっても,都道府県,市町村,あるいはそれ以下の字,町までをも選挙区の区画の基準とするかはともかくとして,一定の行政区画を基準とせざるを得ず,その場合に,各選挙区の選挙人の数を被選挙人の数に応じて完全に平等に設定することは技術的に不可能である。
 衆議院議員の選挙においていかなる選挙区制を採るか,また小選挙区制を採用する場合に,いかなる基準で区画を定めるかは,国会の合理的裁量に委ねられている(憲法44条)。国会はその裁量権の行使に当たっては,投票価値の平等に最大限の意を払うべきであり,殊に議決の優先権が認められ,また,解散制度を伴う第一院たる衆議院議員の選挙制度においては,投票価値の平等は強く求められるものといえる。
 区画審設置法は,区画審が,衆議院小選挙区選出議員の選挙区の改定に関し,調査審議し,必要があると認めるときは内閣総理大臣に勧告する事務を所管するものと定めているところ,その改正案作成の基準につき,各選挙区の人口比が2倍以上とならないようにするとの同法3条1項の定めは,国会に認められた合理的裁量権の行使の結果によるものであり,その規定自体について憲法上の疑義は存しない。
 なお,本判決における多数意見を始め,従前の当審の判例は,「投票価値の平等は,選挙制度の仕組みを決定する絶対の基準ではなく,国会が正当に考慮することのできる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるものであり,国会が具体的に定めたところがその裁量権の行使として合理性を有するものである限り,それによって投票価値の平等が一定の限度で譲歩を求められることになっても,やむを得ないものと解される」等と判示する。しかし,衆議院議員選挙は,飽くまで全国民を代表する議員を選出する選挙であり,各選挙区の利益代表を選出する選挙ではないのであり,また上記の第一院たる衆議院の位置付けからすれば,小選挙区制の下での各選挙区間の投票価値の平等に優先する「政策的目標ないし理由」なるものはなかなか見いだし難いのである。国会が,その裁量権の行使に当たり,あえて「投票価値の平等に一定の限度で譲歩を求め」る場合には,積極的にその合理的理由を明示して国民の理解を得る義務が存するといえるところ,次に検討する1人別枠方式を含めて,国会は,従前から,投票価値の平等に譲歩を求めるに足りる合理的理由を積極的に明示することはなかった。

2.1人別枠方式について

(1) はじめに

 区画審設置法3条2項に定める1人別枠方式についての国会審議の過程において,過疎地域に対する配慮,具体的には平成6年の公職選挙法の改正により小選挙区制が採用されることにより定数が激減する県への配慮等と説明されており,後者は激変緩和の趣旨と理解することができる。そして,多数意見の引用する当審の平成11年11月10日各大法廷判決及び平成19年6月13日大法廷判決は,1人別枠方式の合憲性を認めていたが,本件多数意見は,上記の立法理由とされるところは,おのずからその合理性に時間的な限界があり,新しい選挙制度が定着し,安定した運用がなされるようになった段階においては,その合理性は失われるものというほかはない,として本件選挙時点におけるその合憲性を否定する。
 私は,多数意見と異なり,そもそも1人別枠方式それ自体が憲法の許容する合理性の範囲にとどまるものであるとは到底解し得ないと考えるものである。その理由については上掲の平成19年6月13日大法廷判決における裁判官藤田宙靖,同今井功,同中川了滋及び私の4裁判官の見解(以下「4裁判官の見解」という。)において述べているところであり,現時点において,その見解を変更する必要性は認めないのであって,「4裁判官の見解」をここに引用する。なお,以下には,その後の人口動態の変化等をも含めて,上記見解について述べたところを補充する。

(2) 1人別枠方式の不合理性

ア.過疎地域に対する配慮について過疎地域への配慮という理由は,投票価値の平等に譲歩を求めるべき合理的理由とはなり得ないものであること及び過疎地域への配慮という点においても,本件選挙時点における1人別枠方式を踏まえた選挙区割りが合理性を有しない制度であることについては「4裁判官の見解」において既に詳細に指摘したところではあるが,その合理性の欠如の点について以下に少しく敷衍する。
 平成14年には,平成12年に実施された国勢調査の速報値を踏まえて,本件区割規定について,都道府県単位では,北海道,山形,静岡,島根,大分の各道県について定数を1人減らし,他方,埼玉,千葉,神奈川,滋賀,沖縄の各県では定数を1人増やすとの改正がなされている。
 上記減員の対象となった各道県をみるに,平成6年の区割規定の基礎とされた平成2年の国勢調査の結果と対比して,更に人口が減少し過疎化が進展したとみられる山形,島根,大分の3県についても1人減員した結果,それら各県は,それまで受けていた1人別枠方式の恩恵を受けられなくなっているのに対し,それら各県に比して過疎化が進行していない徳島,佐賀等の県は1人別枠方式の恩恵を被っているのであって,人口過疎地域への配慮なる理由が既に破綻していることが明らかである。

イ.選挙制度の改正に伴う激変緩和措置との理由について

 平成6年の公職選挙法の改正により小選挙区制を採用した結果,人口比例配分の原則を貫いて都道府県単位で300人の議員定数を配分した場合に,被選挙人の数が大きく減少する県が存したことが認められる。
 そのための激変緩和措置として,1人別枠方式を採用した旨の説明が国会審議の場でなされているが,かかる激変緩和の措置を講じることに,いか程の合理性があり,また,それが投票価値の平等に譲歩を求めるに値するに足りるものであるかということ自体否定的に評価せざるを得ないと考えるが,その点はさておいても,平成14年改正時点までに1人別枠方式による区割規定に基づいて平成8年,平成12年と2度の総選挙を経ているのであるから,平成14年改正時において,激変緩和措置として1人別枠方式を存置すべき合理的理由なるものは全く存しなくなったものというべきである。

ウ.1人別枠方式を維持することによる弊害の拡大

 1人別枠方式を維持することにより,人口比例方式により都道府県に対して定数配分を行う場合との間で大きな差が生じることは,平成12年国勢調査の結果による都道府県別の人口に基づいて計算した結果と1人別枠方式を採用した上で現実に配分された都道府県別の定数を比較した場合,議員定数を人口比例方式により配分する場合に比して10都道府県で定数が不足し(このうち北海道,静岡県は平成14年改正で定数を1人減らした道県である),15県で定数が過剰となっている(このうち滋賀,沖縄の両県は平成14年改正で定数を1人増やした県である)ことは,「4裁判官の見解」において指摘したところである。
 その点につき,本件選挙直前の平成21年住民基本台帳に基づいて算定してみると,人口比例方式により配分する場合に比して定数が不足している都道府県の総数は,10都府県であって,その総数に変化はないものの,その不足する人数は東京都が3人から5人に,神奈川県が2人から3人に,埼玉県が1人から2人にそれぞれ増加しており,他方,定数が過剰となっている県は,上記15県に,和歌山,山口,愛媛,長崎の4県を加えて19県に及んでいるものであって,1人別枠方式を採用することによる弊害が,より一層進展していることが認められるのである。

(3) 小括

 以上検討したところからして,1人別枠方式は,そもそも投票価値の平等に譲歩を迫るに足りるだけの合理性自体が認められないのみならず,平成14年の公職選挙法改正時においては,その立法経緯を踏まえても,その合理性を肯定すべき事由は全く存しなかったものであって,選挙人の投票価値の平等を害するものとして,憲法14条に違反するものであったといわざるを得ないのであり,その違憲状態にある公職選挙法の下でなされた本件選挙も,違法との評価を受けざるを得ないのである。

3.1人別枠方式に関する立法不作為の違憲性について

 私は,「4裁判官の見解」においては,最高裁が前掲平成11年11月10日各大法廷判決において1人別枠方式に基づく当時の選挙区割りを合憲とし,多数意見の引用する平成13年12月18日第三小法廷判決もこれを踏襲したことから,平成17年施行の選挙当時まで1人別枠方式を是正することなく放置した国会の不作為をもって,国会に許される合理的裁量の枠を超えたものと評価することは困難であるとして,同選挙を直ちに違法と断定することには躊躇を覚えるとの意見を述べていたが,本件では一歩進めて,国会の立法不作為は違憲性を否定し得ないとの意見を述べるに至っているところから,その理由につき以下に説明する。
 国会は,国権の最高機関として,また,唯一の立法機関として,国会で適正と判断する政策目的の実現に向けて,その裁量権を行使して適宜の立法をなすべき責務を有しているが,その立法に当たっては,憲法適合性について十全な配慮をなすとともに,立法を制定した後においても,常に立法目的の達成状況を点検し,その目的を達成した後に当該立法を存置することの必要性や存置した場合の憲法適合性の有無等についての検討を加えるとともに,立法制定後の状況の変化を注視し,当該法規の憲法適合性について疑問が生じ,あるいは国会以外のところから疑問が投げ掛けられるに至ったときには,国会自らがその自律的権能を行使して,その憲法適合性を検討すべき責務を負っているものというべきである。
 そして,平成6年の公職選挙法改正後最初に実施された平成8年10月20日施行の総選挙に関する選挙無効訴訟についての前掲平成11年11月10日各大法廷判決において,1人別枠方式が憲法に違反するものであるとして5人の裁判官が詳細な反対意見を述べているが,そこでは,違憲論に加えて,過疎地対策としての実効性への疑問や,過疎地域であるにかかわらず1人別枠方式による恩恵を受けていない県が5県に及び,他方,3人の割当てを受けるべきところ4人の割当てを受けた県が4,4人の割当てを受けるべきところ5人の割当てを受けた県が3,5人の割当てを受けるべきところ6人の割当てを受けた県が1あるなど,その合理性に疑問を抱かせる事実が指摘されていたのである。
 そして,平成17年施行の総選挙に関する選挙無効訴訟についての前掲平成19年6月13日大法廷判決における「4裁判官の見解」において,1人別枠方式が違憲である由縁について改めて指摘するとともに,1人別枠方式は過疎地域への配慮という意味においても合理性を欠き,また,激変緩和措置としての必要性は失っている旨を指摘し,他に1人の裁判官も詳細な理由を付して1人別枠方式の違憲性を指摘しているのである。
 本件多数意見が指摘するとおり,本件区割規定において,本件選挙当日において選挙区間の選挙人数の較差が2倍以上となっている選挙区が45区に達するに至った最大の原因は,1人別枠方式にあり,その1人別枠方式のもたらす弊害について,上記のとおり,当審の前掲平成11年11月10日各大法廷判決及び平成19年6月13日大法廷判決における各少数意見において明確に指摘されているところである。また,激変緩和措置としての意味合いは,制度改正から10年も経てば意味をなさないことは,他から指摘されるまでもなく明らかである。
 したがって,国権の最高機関たる国会としては,上記各大法廷判決の少数意見にて指摘された点をも含めて,すべからく1人別枠方式の果たしている意義の検証を含め,1人別枠方式それ自体の見直しに着手してしかるべきであったといえよう。ところが,国会は,前掲平成19年6月13日大法廷判決の後においても,本件区割規定の不合理性をもたらしている最大の原因たる1人別枠方式の意義についての検証作業すら開始するに至っていないのであって,立法機関としてその怠慢は責められてしかるべきである。
 以上のような状況からすれば,平成17年総選挙におけるのとは異なり,本件選挙までに1人別枠方式の再検討の着手にすら至っていない国会の立法不作為は憲法上要求される合理的是正期間を徒過したものといわざるを得ず,したがって,1人別枠方式に基づいて定められている本件区割規定は違憲であるといわざるを得ないのである。

第2 本件選挙の効力について

 以上検討したとおり,私は,公職選挙法のうち,本件区割規定は,憲法に違反するものであると考える。
 そして,このように憲法に違反する公職選挙法の下において実施された本件選挙は違法であって,無効との評価を本来受けるべきものであるが,従前の当審の判例が合憲の判断をなしてきて,今回多数意見がようやく1人別枠方式について憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあるとの判断をするに至ったことに鑑み,本件訴訟においては,無効との結論を留保し,事情判決の法理を適用して,選挙の違法を宣言するにとどめるべきものと考える。これと同旨の原審の判断は,正当というべきである。

【宮川光治反対意見】

1.本件区割基準のうち1人別枠方式に係る部分について,多数意見が,遅くとも本件選挙時においては,その立法当時の合理性が失われ,憲法の選挙権の平等に反する状態に至っていたと判断していること,また,できるだけ速やかにこれを廃止し,選挙権の平等の要請にかなう立法的措置を講ずる必要があるとしていることには,私も共感するところがある。しかし,なお,意見を異にする点があり,その点を明らかにしておくことは意味があると考え,以下,私の意見を簡潔に述べておくこととする。

2.私は,衆議院及び参議院の各議員を選挙する権利は,国民主権を実現するための,国民の最も重要な基本的な権利であり,人口は国民代表の唯一の基礎であり,投票価値の平等は憲法原則であると考える。人口こそが,議席配分の出発点であり,かつ決定的基準である。国会は,衆議院及び参議院について,国民の代表という目標を実現するために適切な選挙制度を決定することに関し広範な裁量権を有するが,選挙区や定数配分を定めるには,人口に比例して選挙区間の投票価値の比率を可能な限り1対1に近づける努力をしなければならない。この意見は,既に平成19年7月29日の参議院議員通常選挙に関する最高裁平成20年(行ツ)第209号同21年9月30日大法廷判決・民集63巻7号1520頁における反対意見で詳しく述べたところである。
 1人別枠方式は,小選挙区比例代表並立制の導入を提言した平成2年4月の第8次選挙制度審議会の答申にはなかった。その答申は,小選挙区選挙の選挙区の設定に当たっては,まず,定数を人口比例により都道府県に割り振るものとし,この場合,割り振られた数が1である都道府県についてその数を2とすることにより都道府県間の議員1人当たりの人口較差が縮小することとなるときは,当該都道府県に割り振る数は2とするというものであった。昭和60年実施の国勢調査に基づき,定数を301として最大剰余法による配分を行うと,最大較差は1対1.476と試算される。このように都道府県を定数配分の第1次的基盤とし,市町村その他の行政区などを想定し人口の均衡を図る等して具体的区割りを行うという答申は,相応の合理性を有していた。ところが,平成3年6月に至り,政府は1人別枠方式を改革の方針として同審議会に示し,この方針に基づく選挙区の区割り案の作成を諮問した。同月,同審議会は1人別枠方式を採用した区割り案を答申し,平成6年の公職選挙法の一部を改正する法律及び同時に成立した区画審設置法(1人別枠方式は同法3条2項)はこれに基づいている。そして,1人別枠方式の立法理由については,過疎地域に対する配慮,具体的には人口の少ない県における定数の急激な減少への配慮等と説明されており,後者はいわば激変緩和の趣旨と解することができる。
 この結果,平成2年10月実施の国勢調査を前提とすると,1人別枠方式の下でされた都道府県への定数配分の段階で最大較差は1対1.822となり,選挙区間の最大較差は2.137であり,較差が2倍を超える選挙区は28存在した。本件選挙当日においては,各都道府県への定数配分の段階で1対1.978という最大較差が生じており,選挙区間の最大較差は1対2.304であり,較差が2倍を超える選挙区は45に達している。多数意見も指摘しているとおり,1人別枠方式が選挙区間の投票価値の較差を生じさせる主要な原因であることは明らかである。

3.多数意見は,相対的に人口が少ない地域に対する配慮は,全国民を代表して国政に関与することが要請されている議員が,そのような活動の中で全国的な視野から考慮すべき事柄であり,殊更にある地域(都道府県)の選挙人と他の地域(都道府県)の選挙人との間に投票価値の不平等を生じさせるだけの合理性があるとはいい難いとしている。この見解は相当ではあるが,およそ,過疎地域に対する配慮という非人口的要素,それも行政区画や地理的状況等の非人口的・技術的要素とは異質の,いわば恣意的ともいえる要素を優先させることは,国会の裁量権の行使として合理性を有しないことは明白であると思われる。
 また,多数意見は,1人別枠方式の意義については,直ちに人口比例のみに基づいて各都道府県への定数の配分を行った場合には,人口の少ない県における定数が急激かつ大幅に削減されることになるため,国政における安定性,連続性の確保を図る必要があると考えられたこと,何よりもこの点の配慮なくしては選挙制度の改革の実現自体が困難であったと認められる状況の下で採られた方策であるということにあるとし,そうであるとすれば,その合理性には時間的な限界があるものというべきであるとしている。改革を実現するための現実政治において,譲歩と妥協は付きものであるが,私は,憲法適合性の審査における判断をそうした現実への配慮により後退させるということには,賛成できない。国政における安定性,連続性の確保を図る必要とは,見方を変えれば,人口比例に基づいて各都道府県に定数の配分を行った場合に議員資格を取得できなくなる層の救済を図るということにほかならない。こうした民主的正統性の観念に背馳する政策に,合理性を見いだすことはできない。仮に辛うじて合理性を認めるとしても,飽くまでそれは暫時のものであり,平成8年と平成12年の2度にわたる総選挙を経て,平成14年7月,前年の区画審の勧告を踏まえて区割規定が本件区割規定に改定された頃までには,その合理性は既に失われていたというべきである。立法府としては,遅くともこの時点において,1人別枠方式(区画審設置法3条2項)を廃止すべきであったといわなければならない。
 なお,区画審設置法3条1項は,区画審が衆議院小選挙区選出議員の選挙区の改定案を作成するに当たっては,各選挙区の人口の均衡を図り,各選挙区の人口のうち,その最も多いものを最も少ないもので除して得た数が2以上とならないようにすることを基本とし,行政区画,地勢,交通等の事情を総合的に考慮して合理的に行わなければならないとしているが,投票価値が平等であるべきことからすれば,1対1に近づける努力を尽くすことを前提としなければならない。2以下であればいかなる改定案であっても憲法に適合すると認められるものではなく,改定案の合理性は審査の対象となると考えるべきである。そのように解しなければ,この規定の憲法適合性にも疑問が生ずるであろう。

4.以上,1人別枠方式を採用して定められた本件区割規定は憲法に違反し,本件選挙(小選挙区選挙)は違法である。したがって,事情判決の法理により請求を棄却するとともに,主文において本件選挙の当該選挙区における選挙が違法である旨を宣言すべきである。これと同旨の原審の判断は,正当というべきである。そして,さらに,今後,国会が速やかに1人別枠方式を廃止し,選挙権の平等にかなう立法的措置を講じない場合には,将来提起された選挙無効請求事件において,当該選挙区の結果について無効とすることがあり得ることを付言すべきである。

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