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東京高裁第11民事部判決平成22年02月24日

【事案】

1.平成21年8月30日に施行された衆議院議員総選挙(以下「本件選挙」という。)について,東京都第2区,同第5区,同第6区,同第8区,同第9区,同第11区,同第12区,同第18区の選挙人である原告らが,衆議院小選挙区選出議員の選挙(以下「小選挙区選挙」という。)の選挙区割り及び選挙運動に関する公職選挙法等の規定は憲法に違反し無効であるから,これらの各規定に基づき施行された本件選挙の上記各選挙区における選挙も無効であると主張して提起した選挙無効訴訟。

2.前提事実

(1) 第1事件原告ないし第8事件原告は,それぞれ,本件選挙の東京都の第2区,同第5区,同第6区,同第8区,同第9区,同第11区,同第12区,同第18区の各選挙人である。

(2) 平成6年1月,公職選挙法の一部を改正する法律(平成6年法律第2号)が成立し,その後,同年法律第10号及び同第104号によりその一部が改正され(以下これらの改正を「平成6年改正」という。),これらにより衆議院議員の選挙制度は,従来の中選挙区単記投票制から小選挙区比例代表並立制に改められた。本件選挙施行当時の選挙制度によれば,衆議院議員の定数は480人とされ,そのうち,300人が小選挙区選出議員,180人が比例代表選出議員とされ(公職選挙法4条1項),小選挙区選出議員の選挙については,全国に300の選挙区を設け,各選挙区において1人の議員を選出し(同法13条1項,別表第一),比例代表選出議員の選挙については,全国に11の選挙区を設け,各選挙区において所定数の議員を選出するものとされている(同法13条2項,別表第二)。総選挙においては,小選挙区選挙と比例代表選挙を同時に行い(同法31条),投票は,小選挙区選出議員及び比例代表選出議員ごとに1人1票とされている(同法36条ただし書)。

(3) 上記の公職選挙法の一部を改正する法律と同時に成立した衆議院議員選挙区画定審議会設置法(以下「区画審設置法」という。)によれば,衆議院議員選挙区画定審議会(以下「区画審」という。)は,衆議院小選挙区選出議員の選挙区の改定に関し,調査審議し,必要があると認めるときは,その改定案を作成して内閣総理大臣に勧告するものとされている(同法2条)。改定案を作成するに当たっては,各選挙区の人口の均衡を図り,各選挙区の人口のうち,その最も多いものを最も少ないもので除して得た数が2以上とならないようにすることを基本とし,行政区画,地勢,交通等の事情を総合的に考慮して合理的に行わなければならないものとされ(同法3条1項),各都道府県の区域内の選挙区の数は,各都道府県にあらかじめ1を配当した上で(以下,このことを「1人別枠方式」という。),これに,小選挙区選出議員の定数に相当する数から都道府県の数を控除した数を人口に比例して各都道府県に配当した数を加えた数とするとされている(同条2項)。上記の勧告は,統計法5条2項本文(平成19年法律第53号による全部改正前の統計法〔以下「旧統計法」という。〕4条2項本文に相当)の規定により10年ごとに行われる国勢調査の結果による人口が最初に官報で公示された日から1年以内に行うものとされ(区画審設置法4条1項),さらに,区画審は,同項の規定にかかわらず,各選挙区の人口の著しい不均衡その他特別の事情があると認めるときは,上記の勧告を行うことができるものとされている(同条2項)。

(4)ア.区画審は,旧統計法4条2項本文の規定により平成12年10月に実施された国勢調査(以下「平成12年国勢調査」という。)の結果に基づき,平成13年12月,衆議院小選挙区選出議員の選挙区の改定案を作成して内閣総理大臣に勧告し,これを受けて,平成14年7月,その勧告どおり選挙区割りの改定を行うことなどを内容とする公職選挙法の一部を改正する法律(同年法律第95号)が成立した(以下この改正を「平成14年改正」といい,改正後の公職選挙法13条1項及び別表第一を併せて「本件区割規定」という。)。
 平成12年国勢調査の結果によれば,本件区割規定の下での選挙区間の人口の最大較差は,最少の高知県第1区と最多の兵庫県第6区との間で1対2.064であり,同高知県第1区と比較して較差が2倍以上となっている選挙区は9選挙区であった。

イ.平成17年10月に実施された国勢調査(旧統計法4条2項本文の規定により10年ごとに行う国勢調査を行った年から,5年目に当たる年に簡易な方法により行われた同項ただし書の規定によるもの。以下「平成17年国勢調査」という。)の結果によれば,本件区割規定の下での選挙区間の人口の最大較差は,最少の高知県第3区と最多の千葉県第4区との間で1対2.203に拡大し,同高知県第3区と比較して較差が2倍以上となっている選挙区は49選挙区であった。
 区画審は,平成17年国勢調査の結果に基づき,区画審設置法4条2項に基づく勧告を行うかどうかの検討を行ったが,同項所定の事情があるとは認められないと判断し,内閣総理大臣への勧告は行われなかった。

(5) 本件選挙の小選挙区選挙は,平成21年8月30日,本件区割規定による選挙区割りの下で施行されたものである。なお,本件選挙当日における選挙区間の議員1人当たりの有権者数の最大較差は,最少の高知県第3区と最多の千葉県第4区との間で1対2.304であった。

3.原告らの主張

(1) 本件区割規定に基づく議員の配分は憲法に違反する(無効理由1)

ア.憲法は,代表民主制を採用し(前文1段,43条1項),公務員の選定罷免権を国民固有の権利とし(15条1項),普通選挙(同条3項),平等選挙(14条1項,44条)を保障しており,また,普通選挙制度,平等選挙制度の発展の歴史的経過からすると,選挙権の憲法的保障は,国民の人種,信条,性別,社会的身分,門地,その他具体的能力,資質及び居住地域の差異にかかわらず,形式的に1人に1票の保障を要請し(1人1票),かつ,その選挙権の内容においても等価性の保障を要求する(1票等価)ものであるから,このような1人1票,1票等価に基づく選挙権の憲法的保障の要請は,国会が選挙区制を有する選挙制度を採用する場合には,各選挙区から選出される代表者(議員)数の配分を均等になすべく,人口分布に比例した配分をなすように国会の立法権限を覊束するものである。

イ.都道府県への配分について国会議員の総数を,国民に平等に配分する方法としては,ヘアー(Hare)式(最大剰余法。全国人口を議員総数で割った数を「全国基準人数」とし,@配分する各地域の人口を全国基準人数で割った商の整数部分と同じ数の議員を当該各地域に配分し,A商が1未満の地域には議員1人を配分し,B商から上記@及びAの配分数を差し引いた残りの数値が大きい順に,剰余の議員を配分する。)が民主主義の要求する配分原則に適合している。人口比例の配分方法は,我が国における過去の議員定数配分の歴史においても,諸外国においても,採用されており,代表者を選出する場合の議席の配分原則として普遍的な法則として確立したものといえる。
 平成17年国勢調査を下に,同方式により,小選挙区選出議員300人を都道府県に再配分すると,別紙1の「再配分議員数」欄記載のとおりとなる。しかるに,別紙1の再配分議員数と本件区割規定に定める都道府県別議員数とを比較すると,別紙1の「平成14年法との比較再配分議員数との差」欄記載のとおり,47都道府県のうち29の都道府県において,議員の過不足が発生している。
 不足議員数が1人分を超えるということは,その都道府県に配分された議員の数に必要な人数(全国基準人数×配分議員数)より当該都道府県の人口が多く,その多い人数が全国基準人数を超えていることを意味し,結局その人達には1議員が与えられなかったことと同じことになるし,逆に,議員数が1人多く配分されているということは,その都道府県に配分された議員の数に必要な人数より当該都道府県の人口が少なく,その不足する人数が全国基準人数を超えていることを意味し,結局誰もいないところに議員を1人配分したことと同じことになり,「基準人数に1議員」を配分するという民主主義の要求に違反することになる。
 上記のような議員の過不足が生じた大きな理由は,区画審設置法3条26項及び本件区割規定が1人別枠方式を採用したからであり,その結果,平成6年改正及び平成14年改正の各時点において,既にそれぞれ9及び11の都道府県において議員の過不足が生じているから,同方式は人口比例原則に違反する結果をもたらしている。
 しかるに,この1人別枠方式には,何らの合理的目的ないし理由は見いだせない。平成6年改正の審議経過においては「過疎地域への配慮」との説明があったが,1人別枠方式は過疎地域だけではなく,東京や大阪等の過密地域とされる都市部にも,一律に1人を配分しており,過疎地域への配慮との関係とは無縁である。また過疎地対策という政策は,正当に選挙された国会議員が全国民の代表として,政策決定の過程で考慮し,討議すべきことであり,政策達成手段としても,地方自治の拡充や予算措置等により実現すべきであり,投票価値の平等をゆがめてまで達成することは本末転倒である。かかる抽象的な立法目的により,これとまったく合理的関連性のない1人別枠方式により投票価値の平等の実現を阻害する立法をすることは,明らかに立法府の立法権限を逸脱している。
 このように,本件区割規定は,人口分布に比例した配分方法をとらないため,「基準人数に1議員」を配分しておらず,憲法が規定する代議制民主制及びその基礎となる公正な代表を選出する契機である選挙権の平等の保障に反する配分となっており,違憲である。また,国会は,1人別枠方式を解消しない限り,裁量権を逸脱したことになる。

ウ.各都道府県内の区割りについて各都道府県へ議員の「配分」をした後の個々の「区割り」の問題についても,最も重要な基準は人口基準である。しかし,平成14年改正により本件区割規定が定められた時点で,人口が最少の選挙区と比較して2倍を超える人口の選挙区が9区もあり,全国基準人数の上下3分の1を超える人口の選挙区は11区あった。その直接の原因は1人別枠方式にあるが,当該9選挙区が存在する各都道府県の個々の選挙区を,全国最少選挙区との倍率を2倍未満に収める人口に抑えるように区割りすることは,具体的に可能であった。また,県内基準人数(県人口を,当該県に配分された議員数で割った数)を基準として,その上下20%を超える人口の選挙区が存在する県は20県存在し,これらについても,善意の努力により県内基準人数との偏差を狭める区割りは可能であった。
 しかるに,区画審は,自らが,恣意的区割りの排除を目的として定めた基準(市区町村や郡の区域は原則として分割しないなど)を理由に,人口基準を無視し,全国の人口最少選挙区との較差が2倍以上であっても,全国基準人数の3分の4以下に収まっている人口の選挙区は是正しないという考えにより,上記のとおりの不平等を生じさせたものであり,各選挙区の較差をできる限り抑える善意の努力を怠った。
 仮に一定程度の非人口的要素を考慮して人口比例配分から乖離することができるとしても,憲法が投票価値の平等を保障し,特に複数投票制を禁止していることからすれば,合憲性が推定されるのは最大較差2倍未満であり,2倍を超える場合には違憲性が推定され,被告がこれを正当化する事由を挙証する必要があると考えるべきであるところ,本件区割規定の下で生じている選挙区間の人口の最大較差2倍を超える不平等につき,正当化する合理的説明もなされていない。区画審は,平成17年国勢調査の結果によっても,区画審設置法4条2項の勧告もしていないが,同調査時には最大較差も拡大し,較差が2倍を超える選挙区も膨大に増えているのであるから,かかる状態が区画審設置法3条1項に反することは明らかであって,同勧告が見送られたことは不当である。
 したがって,本件区割規定による区割りは,国会の裁量権を逸脱しており,違憲である。

エ.なお,公職選挙法別表第二の比例区への配分議員数と,その地区に含まれる都道府県に対し本件区割規定により配分される議員数とを合計した議員数も人口に比例して配分されるべきであるところ,議員総数480人を,平成17年国勢調査を基に,ヘアー式により,各比例区の地域に再配分すると,別紙2の「再配分議員数」欄記載のとおりとなる。しかるに,別紙2の再配分議員数と本件区割規定及び上記別表第二に定める各ブロック別議員数とを比較すると,別紙2の「平成14年法との比較再配分議員数との差」欄記載のとおり,11ブロックすべてにおいて,議員の過不足が発生している。

オ.以上からすれば,本件区割規定は違憲の評価を免れず,憲法98条に基づき無効とされるべきものであるから,本件区割規定に基づき施行された本件選挙の小選挙区選挙は無効である。

(2) 候補者届出政党に所属する候補者とこれに所属しない候補者との間の選挙運動における差別は憲法に違反する(無効理由2)

 代議制民主主義制度を採る我が国の憲法の下においては,国会議員を選出するに際して,選挙権を自由かつ平等に行使できることは,極めて重要な基本的人権であり,これと表裏の関係にある被選挙権もまた重要な基本的人権であるところ,当選を目的として選挙運動を行う権利も被選挙権の内容に含まれるものである以上,選挙運動を行うに当たり,すべての候補者が平等に取り扱われるべきことも,憲法上の要請である。そして,選挙運動を行う上で平等であるということは,選挙運動に当たり,候補者は,特定の政党又は政治団体に所属するか否かによって差別されないことも当然含まれる。
 しかるに,平成6年改正後の公職選挙法の規定は,候補者届出政党に一定の選挙運動を許容した結果,候補者届出政党は,候補者本人のする選挙運動とは別に一定の選挙運動を行うことができるほか,候補者本人はすることができない政見放送をすることができるものとされ,このことは,その候補者が個人として行う選挙運動に,政党が個人のために行う選挙運動を上積みすることを意味するから,候補者届出政党に所属する候補者とこれに所属しない候補者との間で行い得る選挙運動の質と量に差異を生じさせ,候補者届出政党に所属する候補者に,質量ともにより大きな選挙運動の効果を享受させている。
 このような差別を設けた公職選挙法の関係規定は,憲法が要請する被選挙権の平等の原則に反し,ひいては選挙人が候補者の適性,政見等に関する情報を適切に得て選挙権の適切な行使をすることを妨げるものであるから,これらの各規定の下に施行された本件選挙の小選挙区選挙は無効である。

4.被告の主張

(1) 本件区割規定に基づく議員の配分は,憲法に違反するものではない(無効理由1について)

 憲法は,選挙制度の仕組みの具体的決定を国会の裁量にゆだねており(憲法43条2項,47条),国会は,選挙人の投票価値の平等の要請や国会が正当にしんしゃくすることのできる事項を考慮して,公正かつ効果的な代表という目標を実現するために適切な選挙制度を具体的に決定することができる。したがって,国会の定めた選挙制度に関する規定が合憲であるか否かは,国会が選挙に関する事項について有する裁量権の範囲を逸脱しているか否かという観点から判断されるべき問題であり,国会が定めた選挙に関する制度が,国会において正当に考慮し得る諸般の要素をしんしゃくしても,なお,一般的に合理性を有するものとは到底考えられない程度に達しているときに初めて国会の裁量権の合理性の限界を超えているものと推定されるというべきである。
 1人別枠方式は,過疎地域に対する配慮などから,人口の多寡にかかわらず各都道府県にあらかじめ定数1を配分することによって,相対的に人口の少ない県に居住する国民の意見をも十分に国政に反映させることができるようにすることを目的とするものである。選挙区割りを決定するに当たっては,国会は投票価値の平等のみならず,それ以外の諸般の要素をも考慮することができるのであるから,投票価値の平等に配慮することを前提に,1人別枠方式を採用し,これらを基準に選挙区割りを設定するとしても,そのことのみをもって直ちに,国会の裁量の範囲を逸脱するものということはできず,憲法14条1項等の憲法の規定に違反するものとはいえない。
 また,本件区割規定によっても,人口最小選挙区との較差が2倍以上の選挙区は完全に解消されるということはなかったものの,改正前には95選挙区あったものが改正により9選挙区と大幅に減少するに至っており,また,人口較差2倍以上の選挙区が残ったのは,市区等は基礎的自治体であることからできるだけ分割を避けるべきであること,仮に分割するとしてもこれらの選挙区についてのみ新たな基準を設けることは適当ではなく,かつ,困難であると考えられること,市区の分割を避けようとすれば近接する多数の選挙区を含めた大幅な見直しが必要となること,最大較差が2.064倍であり,2倍以上の選挙区は9つという結果は,区画審設置法の許容するもので,あえてそれ以上の見直しは必要ないと判断されたことによるものである。
 なお,区画審は,平成17年国勢調査の結果に基づく検討の結果,前記2(4)イのとおりの較差が認められたものの,都道府県や市町村という行政区画を前提に区割りを行う以上,最大較差2.203倍というのは,これまでの最高裁判例に照らしても一般に合理性を有するとは考えられない程度に達しているということはできず,また,較差が2倍を超える選挙区が48あることも,過去の状況に照らし必ずしも異常とはいえないこと,市区町村において多くの合併が行われ,今後も行われることが予定されて,現在新たな基礎的自治体として地域の一体化が進められている途上であるというべき状況などをしんしゃくし,区画審設置法4条2項所定の事情があるとは認められないと判断したものである。
 以上のような本件区割規定の成立過程及び投票価値の平等に関する過去の最高裁判例等を総合すれば,本件選挙における本件区割規定による各選挙区間の人口較差が,国会において正当に考慮し得る諸般の要素をしんしゃくしてもなお一般に合理性を有するものと考えられない程度に達しているとまでいうことができないことは明らかであり,本件区割規定は,憲法に違反するものとはいえない。

(2) 候補者届出政党に所属する候補者とこれに所属しない候補者との間の選挙運動における差異は憲法に違反するものではない(無効理由2について)

 平成6年改正後の公職選挙法は,その13章において,候補者のほかに候補者届出政党にも選挙事務所を設置し,一定の選挙運動を行うことを認めているが,これは,候補者届出政党にも選挙運動を行うことを認めることによって,各党の政策を国民に訴える機会を十分に保障することで,政策本位・政党本位の選挙制度の実現という政策目的を実効あらしめるという趣旨に基づくものであり,議会制民主主義における政党の意義,とりわけ,その国民の欲求ないし意思を集約し,これを具体的な政策に高めるとの機能に照らせば,選挙制度における政党の活動を尊重し,一定の選挙運動をすることを認めることには十分な合理性がある。そして,選挙に際し,政党に選挙運動を認めたことの反射として,政党に加入していない個人の政治的活動が相対的に不利益になることがあっても,それは結局政党に所属しないことによって生ずる事実上の不利益であって,議会制民主主義における政党の意義や上記の政策目的が国会の裁量に属することにかんがみるならば,このような結果は憲法上も容認されるものといえる。
 なお,公職選挙法150条1項が小選挙区選挙については候補者届出政党にのみ政見放送を認め,候補者を含むそれ以外の者には政見放送を認めないものとしたのは,政策本位・政党本位の選挙を実現するためには,政党がその政策を広く有権者に伝達することができるような手段を十分に保障することが必要不可欠であり,広域メディアである政見放送は,政党が行うにふさわしい選挙運動手段であると考えられること,政党に加え,候補者個人に改正前の制度と同様の形で政見放送を行わせることは,選挙区数の増加に伴う候補者数の増加を考えると,必要な収録時間,放送時間を確保することが難しいことなどによるものであって,このような制限は合理的なものである。
 以上によれば,候補者届出政党に選挙運動を認めた公職選挙法の各規定が,国会において通常考慮し得る諸般の要素をしんしゃくしてもなお,一般的に合理性を有するものとは到底考えられないほど不合理なものとまでいえないことは明らかであるから,これらの規定は憲法に違反するものとはいえない。

【判旨】

1.本件区割規定の憲法適合性(無効理由1)について

(1) 代表民主制の下における選挙制度は,選挙された代表者を通じて,国民の利害や意見が公正かつ効果的に国政の運営に反映されることを目標とし,他方,政治における安定の要請をも考慮しながら,それぞれの国において,その国の実情に即して具体的に決定されるべきものであり,そこに論理的に要請される一定不変の形態が存在するわけではない。我が国の憲法もまた,上記理由から,国会の両議院の選挙について,およそ議員は全国民を代表するものでなければならないという制約の下で,議員の定数,選挙区,投票の方法その他選挙に関する事項は法律で定めるべきものとし(憲法43条,47条),選挙制度の仕組みの具体的決定を原則として国会の裁量にゆだねている。このように,国会は,その裁量により,衆議院議員及び参議院議員それぞれについて公正かつ効果的な代表を選出するという目標を実現するために適切な選挙制度の仕組みを決定することができるのであるから,国会が選挙制度の仕組みについて具体的に定めたところが,上記の制約や法の下での平等などの憲法上の要請に反するため国会の上記のような裁量権を考慮してもなおその限界を超えており,これを是認することができない場合に,初めてこれが憲法に違反することになると解すべきである(最高裁昭和51年4月14日大法廷判決・民集30巻3号223頁最高裁昭和58年11月7日大法廷判決・民集37巻9号1243頁最高裁昭和60年7月17日大法廷判決・民集39巻5号1100頁最高裁平成5年1月20日大法廷判決・民集47巻1号67頁最高裁平成11年(行ツ)第7号同年11月10日大法廷判決・民集53巻8号1441頁〔以下「平成11年(行ツ)第7号大法廷判決」という。〕,最高裁同年(行ツ)第35号同日大法廷判決・民集同号1704頁〔以下「平成11年(行ツ)第35号大法廷判決」という。〕,最高裁平成19年6月13日大法廷判決・民集61巻4号1617頁〔以下「平成19年大法廷判決」という。〕参照)。

(2) 憲法は,選挙権の内容の平等,換言すれば,議員の選出における各選挙人の投票の有する影響力の平等,すなわち投票価値の平等を要求していると解される(憲法14条1項,15条1項,3項,44条ただし書)。しかしながら,投票価値の平等は,選挙制度の仕組みを決定する唯一,絶対の基準となるものではなく,国会が正当に考慮することのできる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものと解さなければならない。それゆえ,国会が選挙制度の仕組みについて具体的に定めたところがその裁量権の行使として合理性を是認し得るものである限り,それによって投票価値の平等が損なわれることになっても,やむを得ないと解すべきである。
 すなわち,憲法は,二院制を採り(憲法42条),衆議院については,その優越を認める一方で(同法59条2項,60条,61条,67条2項),解散の制度を設けているのであって(同法7条3号,54条,69条),代表民主制の下における第一院である衆議院においては,相対的民意が正確に反映されることが強く要請され,そのため,衆議院議員の選挙において同数の選挙人は同数の代表を選出し得るということが理念的に要請されるというべきである。したがって,国会が衆議院議員の選挙につき全国を多数の選挙区に分けて実施する制度を採用する場合には,選挙制度の仕組みのうち選挙区割りや議員定数の配分を決定する上で,議員1人当たりの選挙人数又は人口ができる限り平等に保たれることが,他の政策的目的ないし理由と比肩して,最も重要かつ基本的な基準であるといえるのであって,国会としては,可及的に1票の投票価値に較差を生じさせないよう不断の努力をすべきであるといえる。
 もっとも,選挙区割りや議員定数の配分の具体的決定に当たっては,他にも国会において考慮することができる種々の政策的及び技術的考慮要素があるから,現実には,投票価値の平等の理念を完全に実現して,1人の議員を選出するための各選挙区間の人口の較差を1倍とすることは困難である。しかし,各選挙区間の人口の最大較差が2倍以上となるときには,国政へ1人の代表者を選出し得る選挙区とその半数の人口でありながら1人の代表者を選出し得る選挙区(又は同数の人口でありながら1人の代表者を選出し得ない地域)が出現するのであって,投票価値の平等が損なわれ,国民の平等な国政参加の機会という観点からも,国会自身の有する立法権(憲法41条)の民主性の担保という観点からも,その不当性は,質的に高まるものというべきである。区画審設置法3条1項の趣旨は,この意味からも重視されるべきものである。
 そうすると,国会がその裁量によって決定した議員定数の配分や具体的な選挙区割りを定める規定の下において,議員1人当たりの各選挙区間の選挙人数又は人口に不平等な結果が生じ,その最大較差が2倍以上となるような投票価値の不平等が生じている場合には,憲法の要請に反する疑いがあるというべきであるが,そのような不平等が,国会の合理的裁量の限界を超えており,憲法違反であるというためには,かかる不平等が,国会において通常考慮し得る諸般の要素をしんしゃくしてもなお,一般に合理性を有するものとは考えられない程度に達しているかどうか,すなわち,かかる投票価値の不平等を許容するに足りる必要性,正当な政策的目的ないし理由につき,吟味,検討を要するというべきであり,それらをしんしゃくしてもなお,一般に合理性を有するものとは考えられない程度に達しているときは,上記のような不平等は,もはや国会の合理的裁量の限界を超えていると推定され,他にこれを正当化すべき特別の理由が示されない限り,憲法違反と判断されざるを得ないというべきである。また,そのような不平等な状態が,国会が議員定数の配分や具体的な選挙区割りを定める規定を決定した後の人口の変動等により生じたのであれば,かかる状態を放置することが国会の裁量権を逸脱するものといえるかどうかは,更に是正方法の存否,是正のための合理的な期間の徒過についても,吟味,検討を要するというべきである。

(3) そこで検討するに,証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件区割規定の制定前後の経緯について,以下のとおりの事実が認められる。

ア.平成2年4月,第8次選挙制度審議会は,衆議院議員の選挙制度につき,従来の中選挙区制に代わる選挙制度として,小選挙区比例代表並立制の導入などを内容とする答申をしたが,その内容は,衆議院の総定数は500人程度,総定数の6割を小選挙区定数とし,小選挙区選挙においては,選挙区間の人口の格差は1対2未満とすることを基本原則とし,選挙区数の設定についてまず定数を人口比例により都道府県に割り振るものとする(ただし,割り振られた数が1である都道府県についてその数を2とすることにより都道府県間の議員1人当たり人口の最大格差が縮小することとなるときは,当該都道府県に割り振る数は2とする。)旨の単純人口比例方式であった。

イ.しかしその後,平成6年改正により,小選挙区の定数を300とし,まず1議席を全都道府県に平等に与えた上,残る253議席を人口比により配分する旨の現行の1人別枠方式を前提とする議員配分をした区割り規定が制定された。
 平成2年10月に実施された国勢調査の結果によれば,区画審設置法3条で定める基準に従って,各都道府県に議席を配分した段階での都道府県間の議員1人当たりの人口の最大較差は1対1.82であり(一方,最大剰余法によった場合の同最大較差は1対1.66であった。),上記区割り規定の下での個々の選挙区間の人口(議員1人当たりの人口)の最大較差は,1対2.137であり,同人口の全国最少選挙区と比較して較差が2倍以上となっている選挙区は28選挙区であった。

ウ.平成7年10月に実施された国勢調査の結果によれば,上記区割り規定の下での選挙区間の人口の最大較差は,1対2.309に拡大し,人口の全国最少選挙区と比較して較差が2倍以上となる選挙区も60選挙区に増加した。区画審は,同調査結果に基づく検討を行ったが,各選挙区の人口の著しい不均衡その他特別の事情があるとは認められないとし,選挙区の見直しの勧告はされなかった。

エ.平成8年10月20日,上記区割り規定の下,衆議院総選挙が施行された。同選挙のうち小選挙区選挙の効力が争われた選挙無効訴訟において,最高裁判所大法廷(多数意見)は,平成11年11月10日,1人別枠方式を含む区画審設置法に規定される基準は国会の裁量の範囲を逸脱するということはできず,最大較差1対2.309が示す選挙区間における投票価値の不平等は,一般に合理性を有するとは考えられない程度に達しているとまでいうことができず,同区割り規定が憲法14条等に違反するとはいえないとの判決を言い渡した(平成11年(行ツ)第7号大法廷判決)。
 また,平成12年6月25日にも,上記区割り規定の下,衆議院総選挙が施行されたが,同選挙の効力が争われた選挙無効訴訟においても,最高裁判所第三小法廷(多数意見)は,平成13年12月18日,同区割り規定が憲法に違反するとはいえないとの判決を言い渡した。なお,同選挙当時の選挙区間の有権者数の最大較差は,1対2.471であった。

オ.平成12年国勢調査の結果によれば,上記区割り規定の下での選挙区間の人口の最大較差は,1対2.573とさらに拡大し,人口の全国最少選挙区と比較して較差が2倍以上となっている選挙区も95選挙区に増加した。
 同結果を受けて,区画審は,平成13年12月,新たな選挙区の改定案を作成し,内閣総理大臣への勧告を行った。同改定案は,20都道府県68選挙区を見直すものであったが,区画審設置法3条で定める基準に従って各都道府県への議席の配分をした段階で,都道府県間の議員1人当たりの人口の最大較差は1対1.779であり,改定案による選挙区間の人口の最大較差は1対2.064,較差が2倍以上となっている選挙区は9選挙区であった。なお,全国基準人数の3分の2を下回る選挙区は11であり,3分の4を超える選挙区はなかった。同改定案を受けて,平成14年7月,平成14年改正により,本件区割規定が定められた。

カ.平成17年9月11日,平成14年改正後の最初の衆議院議員総選挙が施行された。なお,同選挙当日における選挙区間の有権者数の最大較差は,1対2.171であった。
 同選挙のうち小選挙区選挙の効力が争われた選挙無効訴訟において,最高裁判所大法廷(多数意見)は,平成19年6月13日,平成11年(行ツ)第7号大法廷判決と同様に,区画審設置法に規定される基準は憲法の規定に反するものではなく,平成12年国勢調査による人口を基にした本件区割規定の下での選挙区間の人口の最大較差は1対2を極めてわずかに超えるものにすぎず,最も人口の少ない選挙区と比較した人口較差が2倍以上となった選挙区は9選挙区にとどまるものであったことからすれば,本件区割規定が投票価値の平等との関係において国会の裁量の範囲を逸脱するものであるということはできないとの判決を言い渡した(平成19年18大法廷判決)。

キ.平成17年国勢調査の結果によれば,平成12年国勢調査よりも人口が約84万人増加し,各都道府県間での議員1人当たりの人口の最大較差は1対1.895となり(一方,最大剰余法によった場合の同最大較差は1対1.638であった。),前記前提事実(4)イのとおり,各選挙区間の議員1人当たりの人口の最大較差は1対2.203に拡大し,較差が2倍以上となっている選挙区は49選挙区に増加した。また,全国基準人数の3分の2を下回る選挙区は15となり,3分の4を超える選挙区は2となった。

ク.区画審は,平成17年12月から平成18年2月にかけて,平成17年国勢調査(速報値)の結果に基づく検討を行ったが,同調査結果による最大較差や較差2倍を超える選挙区数は,勧告を行わないこととした平成7年の国勢調査の際の最大較差や較差2倍を超える選挙区数をそれぞれ下回っており,同最大較差は平成11年(行ツ)第7号大法廷判決によっても憲法に違反するとは認められない旨判示されたことなどを考慮して,各選挙区の人口の著しい不均衡その他特別の事情があるとは認められないと判断し,選挙区の改定案の作成及び内閣総理大臣への勧告は行われなかった。

(4)ア.上記認定事実によれば,平成14年改正による本件区割規定は,制定時から,議員1人当たりの人口の最少選挙区と最大選挙区との間の較差が2倍以上となり,最少選挙区との較差が2倍以上のものが9選挙区存在しているものではあったが,従前の較差を縮小させるものであり,その立法経過等に照らし,その制定が憲法に違反するものということまではできない(平成19年大法廷判決参照)。
 しかし,本件選挙の直近の前回衆議院選挙の後に実施された平成17年国勢調査の時点では,さらに最大較差は2.203にまで拡大し,また最少選挙区との較差が2倍以上となる選挙区の数も,平成14年改正時の519倍以上の49選挙区となっていたものである。

イ.上記のような投票価値の不平等が生じる大きな原因としては,平成6年改正により採用された現行の1人別枠方式を挙げることができる。
 すなわち,現行の小選挙区制度下での各選挙区における議員1人当たりの人口は,@各都道府県へ区画審設置法3条2項が定める基準による定数の配分をした上,A配分された定数に応じて,各都道府県内を当該定数と同数の選挙区へと区割り(線引き)するという手順によって決まることになるところ,区画審設置法3条2項は,@の段階において,まず最初に,各都道府県の人口や有権者数に関わりなく,各都道府県に定数1を配分するという1人別枠方式を定めている。そして,Aの具体的な区割りの決定の段階(市区や郡など地域の一体性を考慮しながら行われるため,ある都道府県内の複数の選挙区をまったく同数の人口に区割りすることは困難である。)において較差を最小限にするためにさらに選挙区割りを工夫することが可能であるとしても,平成17年国勢調査の結果によれば,1人別枠方式を前提とした配分では,各都道府県間の議員1人当たりの人口の最少県と最大県との較差は,既に1対1.895に達しているのであり,これを人口比例方式(最大剰余法)による各都道府県への議席の配分をした場合の同較差は1対1.638(しかも,1.638は1県だけで,その他の県はすべて1.4以下。)に止まっていることと比べれば,1人別枠方式が,各都道府県間での議員1人当たりの選挙人数又は人口が平等になるような配分の実現から乖離する原因となっていること,ひいては各都道府県を定数に応じた選挙区数に区割りした後の各選挙区間の人口の平等の実現から乖離する原因となっていることは明らかである。

ウ.そこで,1人別枠方式の合理性について検討するに,被告は,同方式は,過疎地域に対する配慮などから,人口の多寡にかかわらず各都道府県にあらかじめ定数1を配分することによって,相対的に人口の少ない都道府県に定数を多めに配分し,人口の少ない都道府県に居住する国民の意見をも十分に国政に反映させることができるようにすることを目的とするものであると主張する。
 しかし,過疎地域に対する配慮が国政上必要なことであるとしても,それは,国民全体の代表者としての国会が全体的な視野に立って法律の制定,予算の審議等に当たって考慮すべき事柄であるうえ,見方を変えれば,国民(選挙人)をその居住場所によって差別して,人口の少ない県に居住する選挙人の投票の有する影響力(価値)を,人口の多い県に居住する選挙人のそれよりも大きく設定するものともいうことができるのであって,前記(3)アの第8次選挙制度審議会において,例外的な場合として提案されたように,配分を多くすることにより最大較差が縮小することとなるときや,人口比例により各都道府県に配分したときに議席の配分が1もないときに,少なくとも1の配分をするときのような例外的な場合でなければ,投票価値の平等という憲法上の要請よりも,過疎地域への配慮という政策目的を優位に置くこととなり,投票価値の平等の実現が憲法上強く要請される第一院である衆議院の議員の定数配分に当たって,上記理由をもって十分に合理的なものということはできない。
 また,その目的達成手段としての合理性をみても,都道府県の人口が多いか少ないかということと,その都道府県が過疎地域か否かとは必ずしも関連性がなく,過疎地を多く抱えていても,人口の多い県には,1人別枠方式による恩恵があるとはいえず,例えば,平成17年国勢調査の結果によれば,北海道などは人口比例方式で配分される場合よりも少ない定数を配分されている。また,1人別枠方式は,人口が少ない都道府県に常に定数を多く配分しているということすらいえず,同調査の結果によれば,全国で2番目に人口が少ない島根県は1人別枠方式による恩恵を受けず,全国で10番目から15番目までに人口が少ない6県も恩恵を受けていないのに,これらの県よりも人口が多い11県に,人口比例配分によった場合よりも多くの定数が配分されているのである。したがって,1人別枠方式は,その目的との関連性でも,合理性が乏しいというべきである。
 以上によれば,最大較差が2倍未満に収まるという制度下では,1人別枠方式の制度目的に一応の合理性があるものとして許容できるものとしても,最大較差が2倍以上となる大きな原因になるものとすれば,1人別枠方式を維持する必要性,合理性は認め難いものというべきである。

エ.そして,上記アに記載したとおり,平成14年改正による本件区割規定の制定は,それ自体を違憲であったということはできないが,平成17年の衆議院選挙時における選挙区間の選挙人数の最大較差は1対2.171であり,同年の国勢調査の結果によれば,各選挙区間の人口の最大較差は1対2.203に拡大し,較差が2倍以上となっている選挙区は49選挙区に増加し(本件区割規定の改正時の5倍以上),投票価値の不平等が拡大していることが客観的に明らかな状態となっていたものである。そして,その原因となる1人別枠方式にはそのような大きな不平等を許容するに足りるだけの合理性は乏しかったものというべきであり,被告は,他にかかる不平等を正当化すべき理由を何ら主張していないから,本件選挙のときには,上記不平等は,既に,憲法の選挙権の平等の要求に反する程度に至っていたということができる。

オ.もっとも,本件区割規定を定めた後の人口の変動により,選挙区間の人口ないし選挙人数の較差が拡大し,選挙当時,その較差が憲法の選挙権の平等の要求に反する程度に至った場合には,これによって直ちに当該規定を憲法違反とすべきものではなく,合理的期間内の是正が憲法上要求されていると考えられるのにそれが行われない場合に初めて憲法違反と判断されるべきである。そして,選挙区割りについては原則として10年毎の国勢調査の結果によって改定の勧告をするものとし,例外的に各選挙区の人口の著しい不均衡その他特別の事情があるときに簡易国勢調査のときに勧告をすることとされていることは,合理的なものとして是認することができるところ,1人別枠方式による現行の選挙制度については,平成6年以降,2倍以上の較差の拡大が認められたが,これが憲法に反するか否かについては,見解が分かれ,最高裁判所の判断においても各判断時点においては区割り規定を憲法違反と認めない見解が多数を占めていたこと,選挙制度の改正には相応の時間を要すること等を考慮すると,平成17年10月に実施された国勢調査の結果から,区画審が,平成17年には勧告を行わなかったこと,ひいては,国会も本件区割規定の改正を検討しなかったことをもって,合理的期間内における是正がされなかったものとまでは認められず,国会が本件区割規定を改正しなかったことがその裁量を逸脱したものとして,憲法に反するということはできない。

(5) 以上によれば,本件選挙当時,選挙区間における議員1人当たりの人口ないし選挙人数の較差は,憲法の要求する選挙権の平等に反する程度に至っていたものではあるけれども,本件選挙当時の本件区割規定を憲法に違反するものと断定することはできないというべきであり,これを理由として,本件選挙の小選挙区選挙の無効をいう原告らの主張は採用できない。

2.選挙運動に関する公職選挙法の規定の憲法適合性(無効理由2)について

(1) 公職選挙法は,候補者のほかに,候補者の届出をした政党その他の政治団体(以下「候補者届出政党」という。)にも選挙運動を認めることとしており,候補者届出政党は,候補者本人がする選挙運動とは別に,自動車,拡声機,文書図画等を用いた選挙運動や新聞広告,演説会等を行うことができるほか(同法141条2項,142条2項,149条1項,161条1項等),候補者本人はすることができない政見放送をすることができるものとされている(同法150条1項)。これに伴って,小選挙区選挙においては,候補者届出政党に所属する候補者とこれに所属しない候補者との間に,選挙運動の上で実質的な差異を生ずる結果となっている。

(2) しかし,前記1(1)のとおり,選挙制度の仕組みの具体的決定は,国会の裁量にゆだねられており,国会が正当に考慮することのできる政策的目的ないし理由を考慮して選挙運動に関する規定を定めた結果,選挙運動の上で候補者間に一定の取扱いの差違が生じたとしても,そのことによって直ちに違憲の問題が生ずるものではなく,国会の具体的に決定したところが,その裁量権の行使として合理性を是認し得ない程度にまで候補者間の平等を害するというべき場合に,初めて憲法の要求に反することになると解すべきである。そして,政党その他の政治団体にも選挙運動を認めること自体は,選挙制度を政策本位・政党本位のものとするという国会が正当に考慮し得る政策的目的ないし理由に合致するものであって,十分合理性を是認し得るものである。また,選挙運動をすることができる政党等は候補者届出政党に限られているが,公職選挙法86条1項1,2号所定の候補者届出政党の要件は,国民の政治的意思を集約するための組織を有し,継続的に相当な活動を行い,国民の支持を受けていると認められる政党等が,小選挙区選挙において政策を掲げて争うにふさわしいものであるとの認識の下に,政策本位・政党本位の選挙制度をより実効あらしめるために設けられたものと解されるのであり,そのような立法政策にも相応の合理性が認められ,これが国会の裁量権の限界を超えるものとは解されない。そして,候補者と並んで候補者届出政党にも選挙運動を認めることが是認される以上,候補者届出政党に所属する候補者とこれに所属しない候補者との間に選挙運動の上で差異を生ずることは避け難く,政見放送を除けば,自動車,拡声機,文書図画等を用いた選挙運動や新聞広告,演説会等についてみられる差異は,候補者届出政党にも選挙運動を認めたことに伴って不可避的に生ずるということができる程度のものであり,候補者届出政党に所属しない候補者も自ら選挙運動を行うことができるのであって,それ自体が選挙人に政見等を訴えるのに不十分であるとは認められないことにかんがみれば,このような差異をもって国会の裁量を超え,憲法に違反するとは認め難い。これに対し,公職選挙法150条1項が小選挙区選挙については候補者届出政党にのみ政見放送を認め,候補者を含むそれ以外の者には政見放送を認めないこととしたことは,候補者届出政党に所属する候補者とこれに所属しない候補者との間に単なる程度の違いを超える差異を設ける結果となるものである。しかし,候補者届出政党にのみ政見放送を認めることとしたのは,選挙制度を政策本位,政党本位のものとするという合理性を有する立法目的によるものであり,また,政見放送は選挙運動の一部を成すにすぎず,候補者届出政党に所属しない候補者が行うことができる選挙運動が政見等を選挙人に訴えるのに不十分とはいえないこと,小選挙区選挙に立候補したすべての候補者に政見放送の機会を均等に与えることには実際上多くの困難を伴うことは否定し難いことなどに照らせば,候補者届出政党に所属しない候補者には政見放送が認められないことの一事をもって,選挙運動に関する規定における候補者間の差異が合理性を有するとは考えられない程度に達しているとまでは断定し難く,これをもって国会の合理的裁量の限界を超え,上記規定が憲法14条1項等に違反するとはいえない(平成11年(行ツ)第35号大法廷判決,平成19年大法廷判決参照)。

(3) 以上によれば,この点についての原告らの主張も採用できない。

3.よって,本件選挙のうち東京都第2区,同第5区,同第6区,同第8区,同第9区,同第11区,同第12区,同第18区における小選挙区選挙に無効事由があるとは認められず,原告らの請求には理由がないから,これらをいずれも棄却する。

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