平成23年新司法試験論文式
民事系第2問の感想と参考答案

問題は、こちら

 

奇妙な問題

例年どおり、会社法からの出題である。
一見して多論点問題かな、という印象を受ける。
とりわけ、決議の手続についての問題点が色々と目に付く。
ただ、本問ではそれぞれの時点に、具体的な日付がついている。
このような場合、時効や出訴期間に注意しなければならない。
本問では、時効は問題にならないが、出訴期間は問題となりそうだ。
そこで、検討してみると、「あれっ」と思うはずだ。
問題文では、既に平成23年3月31日まで経過している(問題文12)。
そして、問題となる株主総会決議は平成22年6月29日である。
そうすると、決議取消の訴えの出訴期間である3箇月(831条1項柱書)は既に過ぎている。
また、本件自己株式処分に係る払込みがされたのが、同年7月20日である。
従って、平成23年3月31日の時点で、自己株式処分無効の訴えの出訴期間である6箇月(828条1項3号)を徒過している。
上記の期間内に、誰かが訴えを提起したという事実は、挙がっていない。
既に、これらの瑕疵は、争い得ない状態になっている。
そうすると、決議取消事由である手続の違法や、自己株式処分の無効事由を検討しても、意味がないことになる。
では、これらを検討しなくて良いのか。
仮に検討不要だとすると、問題文の大部分が無意味な記述ということになりかねない。
その意味で、本問は奇妙な問題である。
もっとも、Bまで検討してみると、任務懈怠の事由として、手続の違法が使えそうだ。
なるほど、ここで書けばいいのか、という感じもする。
しかし、@Aで触れずに、Bで初めて問題にするというのも、何となく書きにくい。
現場では、悩むところである。
結論的には、どちらでもよかったのだろう。
本問では、配点割合が明示されていない。
これは、@に何点、Aに何点、Bに何点という配点の付け方はされていない。
そう考えることができる。
すなわち、@Aでは手続の瑕疵は書かない。
しかし、Bの任務懈怠のところで、手続の瑕疵を検討する。
そういう書き方もある。
一方で、@Aで手続の瑕疵を書きつつ、出訴期間で訴えを否定する。
それを前提としつつ、Bを書く。
そういう書き方もあるだろう。
配点を事前に固定してしまうと、上記のどちらか一方の場合だけを想定することになる。
考査委員は両方あり得るという判断から、敢えて配点を付さなかったのではないか。
すなわち、手続の瑕疵は@Aで書こうが、Bで書こうが、トータルの点数は変わらない。
そういうことなのではないか、と考えることができる。
ただ、手続の瑕疵については、比較的細かな論点が多い。
書くとしても、コンパクトにまとめ、メインである財源規制違反の有効性に紙幅を割きたい。

メインは分配可能額超過の処理

設問@の結論に直結する論点は、分配可能額超過の自己株式取得の効力である。
これは、ついに出た、という感じだ。
違法配当の効力は、旧商法時代でも、AAランクの重要論点だった。
加えて、会社法になって、立案担当者による有効説が唱えられた。
これに対し、学者の多くは無効説を維持し、激しく対立している。
そういうことから、注目度がとりわけ高い論点である。
本問では、その他の論点は結論に影響しないか、さほど重要度が高くない。
この論点が、唯一の重要基本論点といってよい。
民事系では、特定の論点を大展開する機会は少ない。
しかし、本問では、この論点をメインに据えて、大展開すべきである。
反対説の見解、批判を踏まえて、丁寧に論証したい。

本論点については、どちらの説を採るべきか、迷う。
もちろん、どちらの説を採らないと受からない、ということはない。
もっとも、司法試験の答案としては、無効説を採るべきだろう。
趣旨から原則論を導き、具体的事案で不都合がありそうなら、例外を考える。
その際には、趣旨を没却しない限度はどの辺りか、それを考慮して要件を限定する。
これが、論文の基本的な論証スタイルである。
いわゆる原則例外、必要性許容性の書き方である。
本論点において、趣旨は資本維持。
だとすれば、これに反するものは、無効とするのが自然である。
そして、無効とした場合に不都合な部分は、個別に例外的処理をして対処する。
これが、自然な流れである。
有効説は、上記のような基本のスタイルからは書きにくい。
有効説の長所の一つとして、文言を理由にして短く論証できるということがある。
しかし、無効説でも、「資本維持の観点から無効である(14文字)」という最短の論証がある。
従って、コンパクトに書くにも、大展開するにも、無効説の方が優れている。

なお、有効説は、条文の文言を強力な論拠としている。

(会社法、下線は筆者)

461条1項柱書 次に掲げる行為により株主に対して交付する金銭等(当該株式会社の株式を除く。以下この節において同じ。)の帳簿価額の総額は、当該行為がその効力を生ずる日における分配可能額を超えてはならない。

463条1項 前条第一項に規定する場合において、株式会社が第四百六十一条第一項各号に掲げる行為により株主に対して交付した金銭等の帳簿価額の総額が当該行為がその効力を生じた日における分配可能額を超えることにつき善意の株主は、当該株主が交付を受けた金銭等について、前条第一項の金銭を支払った業務執行者及び同項各号に定める者からの求償の請求に応ずる義務を負わない。

条文で、効力が生じると書いてある。
だから、無効説はあり得ない、というのである。
一見、もっともらしく聴こえる。
しかし、上記の文言は、当該行為の有効性を前提とするものではない。
461条1項は、各号に掲げる行為を一括して規定している。
各行為について、分配可能額算定の基準時を一義的に規定する必要がある。
その際に、各行為について効力発生日と規定された日を基準とする。
そういう趣旨に過ぎない。
従って、各行為が無効な場合には、表見的に成立した当該行為の効力発生日として規定された時点が、「その効力を生じた日」ということになる。
このことが、よりはっきりする用例として、組織に関する行為の無効の訴えの出訴期間を定めた828条1項がある。

(会社法828条1項、下線は筆者)

 次の各号に掲げる行為の無効は、当該各号に定める期間に、訴えをもってのみ主張することができる。
一  会社の設立 会社の成立の日から二年以内
二  株式会社の成立後における株式の発行 株式の発行の効力が生じた日から六箇月以内(公開会社でない株式会社にあっては、株式の発行の効力が生じた日から一年以内)
三  自己株式の処分 自己株式の処分の効力が生じた日から六箇月以内(公開会社でない株式会社にあっては、自己株式の処分の効力が生じた日から一年以内)
四  新株予約権(当該新株予約権が新株予約権付社債に付されたものである場合にあっては、当該新株予約権付社債についての社債を含む。以下この章において同じ。)の発行 新株予約権の発行の効力が生じた日から六箇月以内(公開会社でない株式会社にあっては、新株予約権の発行の効力が生じた日から一年以内)
五  株式会社における資本金の額の減少 資本金の額の減少の効力が生じた日から六箇月以内
六  会社の組織変更 組織変更の効力が生じた日から六箇月以内
七  会社の吸収合併 吸収合併の効力が生じた日から六箇月以内
八  会社の新設合併 新設合併の効力が生じた日から六箇月以内
九  会社の吸収分割 吸収分割の効力が生じた日から六箇月以内
十  会社の新設分割 新設分割の効力が生じた日から六箇月以内
十一  株式会社の株式交換 株式交換の効力が生じた日から六箇月以内
十二  株式会社の株式移転 株式移転の効力が生じた日から六箇月以内

「効力が生じた日」との文言から、当該行為が有効に確定するとすれば、上記は矛盾した条文である。
上記文言は、各号の行為の有効性を前提とする趣旨でないことは、明らかである。
上記は、表見的に成立した各号の行為につき効力発生日と規定された日を起算点として、各号所定の期間を出訴期間とする趣旨に過ぎない。
立法技術上、「当該行為が有効である場合に効力が生ずる日として規定された日」とせず、単に「効力が生じた日」と表現しているだけである。
このように、効力発生日を基準時とする文言をもって、有効説の重要な論拠とするのは、誤っていると思われる。
(828条1項については、訴えがあるまで有効であるとか、将来効(839条)だから効力は発生している、との反論はあり得る。
しかしいずれにせよ、このような形式的水掛論は、不毛である。)

仮に有効説を採る場合、注意したいのは決議内容の法令違反との関係である。
分配可能額超過の自己株式取得を認める決議内容が法令違反だとすれば、決議無効事由となる(830条2項)。
そうなると、分配可能額超過自体を有効と解しても、結局決議無効によって、自己株式取得が無効となる。
有効説からも、会社と譲渡株主は不当利得関係ということになる。
その場合、有効説からは不当利得の特則でないとする462条以下の適用があるのか。
有効説は、不当利得構成では同時履行を認めざるを得ないとするが、この場合はどうなのか。
そういった問題が生じうる。
従って、有効説からは、内容の法令違反には当たらないとするのが自然である。
(無効説からは、どちらにしても無効なので、どう考えても不都合はない。)
すなわち、461条1項の制限は、決議の効力とは無関係とするのである。
これは、他人物売買も契約としては有効であるというのと似ている。
すなわち、効力発生日までに分配可能額を確保して自己株式取得をせよという趣旨である。
言い換えれば、決議の効力として、取締役等は、効力発生日に分配可能額を超過しないよう財源を確保する義務を負うということになる。
こう考えれば、分配可能額を超過する自己株式取得をするという内容の決議とはならない。
よって、決議内容は法令違反とはならないことになる。

また、細かい論点として、株主平等原則との関係がある。
特定株主からの取得が株主平等原則に反しないのは、特別決議があるからである。
ここでは、他の株主にも参加の機会(160条2項3項)があり、当該特定株主は議決権を行使しない(160条4項本文)ことが前提となっている。
しかし、他の株主の参加の機会が奪われ、しかも、当該特定株主の議決権行使が決め手となって上記特別決議が通った場合は、この前提が崩れる。
その結果、当該特定株主からの取得が、株主平等原則に反することになる。
その場合には、内容の法令違反となる。
(手続的担保が崩れた結果、内容の法令違反に発展するという理解になる。)
従って、決議無効事由となると考えられる。
有効説を採る場合、この点も結論に影響するから、触れたいところである。
もっとも、無効事由を認めると法律構成が難しくなる。
否定する論理を思いつかなければ、書かない方がよいかもしれない。
他方、無効説からは、いずれにしても結局無効なのだから、ここまで踏み込む必要はなさそうである。

本問で厄介なのは、取得した自己株式が、既に乙社に処分されていることである。
後述のように、乙社には善意取得が成立するから、乙社に返還を求めることはできない。
そこで、無効説からは、給付利得において給付物が滅失した場合の危険負担類似の処理の問題となりそうである。
すなわち、双方共に返還債務を免れる(民法536条1項類推)。
または、甲社は株式の時価相当額(20億円)の金銭を返還する義務を負い、Bは25億円を返還する。
そして、上記は同時履行(民法533条類推)となる。
(ただし、462条は同時履行を排除する特則であるとして、これを否定する見解もある。)
しかし、これだと民法536条1項類推により現実の金銭の返還がないか、又は相殺によって返還される金銭が減殺される。
これでは、資本維持の原則に反するのではないか。
そこで、Bに株主の地位を回復させ、25億円を再度払い込ませるという構成を考えることになる。
例えば、不特定物が滅失しても調達可能な場合は危険負担とならないことと、同様に考える余地がある。
会社は新株を発行できるから、会社に対して新たに新株を発行して引き受けさせるよう請求できる(一種の引受権)と考えるわけである。
このような構成の場合は、むしろ同時履行を認める方が公平であるし、資本の強化につながるから、債権者を害することもない。
ただ、これは現場で考えるのは難しい。
思いつかなければ、素直に金銭的処理をするのがよいだろう。
他方、有効説からは、民法422条類推で処理する。
この場合、既に当該自己株式が処分された場合は、その対価に代位すると考えるよりないだろう。
従って、乙社の払込金額(16億円)の限度で甲社は返還義務を負うことになる。
そして、賠償者の代位は賠償して始めて可能になるのであるから、Bは先履行ということになる。
相殺もできない、ということになるだろう。

説明義務に注意

本件自己株式処分については、有利発行が問題になるとわかる。
有利発行該当性は、予備校等ではAAランクの重要基本論点とされている。
しかし、本問では、これをあまり論じるべきではない。
甲社において、有利発行を前提にした手続が採られているからである。

注意すべきは、説明義務との関係である。
多くの人が、199条3項の義務懈怠としたようである。
しかし、それは誤りである。

(会社法199条3項、下線は筆者)

 第一項第二号の払込金額が募集株式を引き受ける者に特に有利な金額である場合には、取締役は、前項の株主総会において、当該払込金額でその者の募集をすることを必要とする理由を説明しなければならない。

 

(問題文8、下線は筆者)

8.続いて第2号議案の審議に入り,Cは,株主総会参考書類の記載に即して,乙社に特に有利な金額で自己株式の処分をすることを必要とする理由を説明したが,再びDが,「処分価格を市場価格の80%と定めた根拠を明らかにされたい。」と質問したのに対し,Cが「企業秘密に関わるため,その根拠を示すことはできない。」と述べて説明を拒絶したことから,審議が紛糾した。その結果,多くの株主が反対したものの,乙社が賛成したため,Cは,出席した株主の議決権の3分の2をかろうじて上回る賛成が得られたと判断して,第2号議案が可決されたと宣言した。

 

(資料@より抜粋、下線は筆者)

(5) 乙株式会社に特に有利な金額で自己株式の処分をすることを必要とする理由

 当社は,……(略)。

199条3項は、「必要とする理由」を説明する義務を規定する。
そして、本問で、「必要とする理由」については、参考書類に記載があり、総会でもCが説明している。
また、説明の中身は、敢えて省略されている。
従って、説明の中身の合理性の議論(合理性を欠けば同項違反の余地がある)は、する必要がない。
よって、同項違反はない。

本問で問題となるのは、上記に加えて、さらに算定根拠の説明まで要するか。
すなわち、314条本文の問題。
及び、企業秘密を理由にその説明を拒めるか。
すなわち、同条ただし書の問題である。
後者については、企業秘密は一般に「株主の共同の利益を著しく害する場合」に当たるとされていることとの関係を考慮する必要がある。
なお、同ただし書は、その条文構造に若干の注意を要する。

(会社法314条ただし書、下線は筆者)

 ただし、当該事項が株主総会の目的である事項に関しないものである場合、その説明をすることにより株主の共同の利益を著しく害する場合その他正当な理由がある場合として法務省令で定める場合は、この限りでない。

「A、Bその他C」とある場合、AとBとCは並列関係にある。
他方、「A、Bその他のC」とある場合、AとBはCの例示であり、Cに含まれる。
従って、「A、Bその他Cとして法務省令で定める場合」となっていれば、AとBは法務省令で定めるものではない。
すなわち、「A]、「B」、「その他Cとして法務省令で定める場合」という構造になる。
他方、「A、Bその他のCとして法務省令で定める場合」となっていれば、AとBも法務省令で定めることになる。
すなわち、「『A、Bその他のC』として法務省令で定める場合」という構造になる。
本問の場合は、「その他正当な理由がある場合として法務省令で定める場合」となっている。
従って、その前にある「当該事項が株主総会の目的である事項に関しないものである場合」。
及び、「株主の共同の利益を著しく害する場合」。
これらについては、法務省令で定めるものではない。
すなわち、規則71条は、「その他正当な理由がある場合」について定めたものである。

(会社法施行規則71条)

 法第三百十四条に規定する法務省令で定める場合は、次に掲げる場合とする。

一  株主が説明を求めた事項について説明をするために調査をすることが必要である場合(次に掲げる場合を除く。)

イ 当該株主が株主総会の日より相当の期間前に当該事項を株式会社に対して通知した場合
ロ 当該事項について説明をするために必要な調査が著しく容易である場合

二  株主が説明を求めた事項について説明をすることにより株式会社その他の者(当該株主を除く。)の権利を侵害することとなる場合

三  株主が当該株主総会において実質的に同一の事項について繰り返して説明を求める場合

四  前三号に掲げる場合のほか、株主が説明を求めた事項について説明をしないことにつき正当な理由がある場合

従って、例えば、上記規則71条各号のうちのどれかに該当するから、「株主の共同の利益を著しく害する場合」に当たるとするのは、誤りということになる。

説明義務違反は、一般に決議取消事由(手続の法令違反)になるとされる。
この点、報告事項についての説明義務違反は取消事由に当たらないとする下級審裁判例がある(福岡地判平3・5・14)。
しかし、本問では決議事項についての説明義務違反であるから、上記裁判例は関係がない。
本問でも、取消事由に当たるとしてよいだろう。

乙社の株式取得等

現場で迷うのは、乙社が株式を取得できるのか、という点である。
自己株式取得につき有効説を採れば、問題は生じない。
しかし、無効説を採った場合、甲社からの承継取得はできないことになりそうである。
一つの方法としては、相対無効の考え方を採り、乙社との関係では有効とする考え方がある。
もっとも、本問ではそのような考え方を採らなくても、振替株式の善意取得(振替法144条)を認めれば足りる。
甲社は上場会社であるから、振替制度を採用していると考えられるからである。

一般に、上場会社は振替制度が義務化されていると言われる。
しかし、社債、株式等の振替に関する法律(振替法)のどこを見ても、そのような規定はない。
では、どこにその根拠があるのか。
それは、各市場の上場要件である。

(東証「上場審査基準概要(一・二部)」より抜粋)

(11)指定振替機関における取扱い

 指定振替機関の振替業における取扱いの対象であること又は取扱いの対象となる見込みのあること

 

(東証「上場廃止基準(一部・二部)」より抜粋、下線は筆者)

 その他 銀行取引の停止、破産手続 ・再生手続・更生手続、事業活動の停止、不適当な合併等、支配株主との取引の健全性の毀損(第三者割当により支配株主が異動した場合)、有価証券報告書又は四半期報告書の提出遅延、虚偽記載、上場契約違反等、株式事務代行機関への不委託、株式の譲渡制限、完全子会社化、指定振替機関における取扱いの対象外、株主の権利の不当な制限、全部取得、反社会的勢力の関与、その他(公益又は投資者保護)

東証マザーズ大証(一部・二部)大証ジャスダック福証(本則市場・Q-Board)札証(本則市場・アンビシャス)名証(一部・二部)名証セントレックスも同様である。
すなわち、振替制度を採用しないと、上場できないことになっている。
厳密には、本問におけるP証券取引所が、同様の上場審査基準を規定しているかはわからない。
従って、甲社が振替制度を採用していない余地がないとはいえない。
しかし、一般に上場会社が振替制度を採用している現状の下では、問題文に特に記載がない限り同様に考えてよいだろう。

Bについて注意すべきは、甲社に対する責任に限定されている点である。
従って、対第三者責任(429条)は、検討する必要がない。
ここは、前述の手続の瑕疵を除けば、論点らしい論点はないように思われる。
因果関係や損害の有無に注意しつつ、淡々とあてはめていけばよいのではないか。

 

【参考答案】

第1.@について

1.本件自己株式取得の効力

(1)ア.本件自己株式取得は、取締役会決議による個別の取得価格等の決定(会社法(以下同法については条数のみ示す。)157条1項)に基づくものであるから、Bに対する対価総額は、効力発生日の分配可能額を超えてはならない(461条1項3号)。ところが、平成22年3月31日時点における正しい分配可能額は5億円であり(資料B)、同日から同年6月30日までの間、甲社には分配可能額に変動をもたらす事象は生じていないことから、本件自己株式取得がされた同日における分配可能額は、5億円であった。にもかかわらず、Bに対する対価総額は25億円だったから、分配可能額を超えている。

イ.分配可能額超過の自己株式取得については、461条1項柱書の「その効力を生じる日」及び463条1項の「その効力を生じた日」との文言を理由として、これを有効とする説がある。しかし、上記文言は、分配可能額の基準時を、表見的に成立した行為に係る効力発生日として規定された時点と定める趣旨に過ぎない。すなわち、上記文言は各行為の有効性を前提とする趣旨でない。このことは、同様の用例である組織に関する行為の無効の訴えについての828条1項各号からも明らかである。各行為の有効性を前提とするなら、無効の訴えはおよそ成立しえないからである。
 そもそも、461条1項が分配可能額による制限を設けた趣旨は、株式会社においては社員たる株主は出資額を限度とした間接有限責任しか負わず(104条)、会社債権者に対する責任財産が会社財産に限られることから、最低限度を超える会社財産の流出を防止して責任財産を確保する点にある(資本維持の原則)。上記趣旨からすれば、分配可能額超過の自己株式取得の効力は、これを認めることができないから、無効と解すべきである。

ウ.よって、本件自己株式取得もその対価総額が分配可能額を超過する以上、無効である。

(2)なお、本件自己株式取得に係る株主総会決議には、通知欠缺(160条2項3項)及びBの議決権行使(160条4項本文)という手続の法令違反がある。これらは決議取消事由(831条1項1号3号)に当たる。しかし、既に出訴期間(831条1項)を徒過している。
 また、分配可能額超過の自己株式取得を許容する内容が法令違反であるとして決議が無効になる(830条2項)とも思える。しかし、当該決議内容は、効力発生日までに分配可能額を確保して自己株式取得をせよというに過ぎず、当該決議があっても効力発生日に分配可能額が不足していれば自己株式取得をすることはできない。そうである以上、決議内容自体は法令に違反しない。従って、決議無効事由には当たらない。
 以上のとおり、決議の瑕疵は、本件自己株式取得の効力に影響しない。

2.甲社とBとの間の法律関係

(1)本件自己株式取得は無効であるから、甲社とBとの間には不当利得の関係が生じる。462条1項柱書は不当利得の特則を定めているところ、取得全体を不可分のものとして、株主の返還義務の範囲を対価全額としている。従って、分配可能額を超過しない部分も含め、本件自己株式取得全体が無効であり、Bは甲社に25億円を支払う義務を負う。

(2)他方で、甲社は株式返還義務を負う。この点、取得した自己株式は既に乙社に処分されている。これにより株式は返還不能であるとして、給付利得返還の場面における危険負担類似の考え方に基づいて金銭的解決を図ることも考えられる。しかし、その場合、対等額につき相殺の余地が生じ、しかも返還される金銭は純資産として払い込まれるわけではない。これでは資本維持の趣旨が果たされない。
 そもそも、株式は非個性的地位であり、甲社のような上場会社において一般に採用されている振替制度の下では各口座の保有持株数の記録がされるのみで、個々の株式の特定性は失われている。後記第2の2のように振替株式の善意取得があった場合であっても、会社は自ら株式を発行できる以上、特段の事情のない限り株式の返還不能は生じない。会社は、原株主に対して新株又は自己株式を引き受けさせる義務を負う。
 本問では、甲社において新たな新株の発行等が著しく困難である等特段の事情は見当たらないから、甲社は、Bに新株又は自己株式を引き受けさせる義務を負う。そうすると、Bの25億円の返還義務は、出資の履行の性質(208条1項)を帯びることになり、払込みにより株主の地位を回復する(209条)。従って、甲社とBの義務は同時履行類似の関係となる。この点、債権者保護の観点から同時履行を認めるべきでないとする説もあるが、自説からは現実の払込みによる資本の強化が期待できるから、債権者を害するとはいえない。なお、株主と会社の通謀ある場合等には民法295条2項類推適用により株主の返還義務を先履行として具体的妥当性を確保する余地もあるところ、本問はBの関知しない巧妙な粉飾により分配可能額超過となったのであるから、上記場合には当たらない。

第2.Aについて

1.本件自己株式処分は、株主割当て(202条1項から3項まで)によらず、市場価格の80%という特に有利な払込金額でされたから、特別決議を要する(199条2項3項、201条1項、309条2項5号)。本件自己株式処分に係る株主総会においては、決議要件を充たしており、下記のような問題点はあるが、いずれも本件自己株式処分の効力を左右しない。

(1)Cは、乙社に特に有利な金額で自己株式の処分をすることを必要とする理由(199条3項)については説明したものの、処分価格の算定根拠については、企業秘密を理由に説明を拒絶している。処分価格の算定根拠は、有利発行の当否に係る合理的判断に必要と認められるから、説明を要する事項(314条本文)に含まれる。一般に、企業秘密に係る事項は同条ただし書の株主共同利益を著しく害する場合に当たるとされるが、有利発行価額の算定根拠は通常企業秘密に密接に関わるとは思われないところ、本問でCが企業秘密との密接性につき何らかの説明をしたとの事実はないから、同条ただし書の適用はない。
 よって、Cが算定根拠の説明を拒んだことは、314条本文に違反するものとして決議取消事由となる(831条1項1号)。しかし、既に出訴期間を徒過しているから、本件自己株式処分の効力には影響しない。

(2)乙社は特に有利な払込金額で引き受ける者であるから、決議における特別利害関係株主(831条1項3号)に当たる。もっとも、発行済株式総数の4分の1の株式を市場で売却すれば大幅な株価の下落を招くことが予測されること及び乙社との資本関係強化による甲社の販売力強化という処分の目的に一定の合理性があることからすれば、市場価格の80%の価格で引き受けることを認める決議が著しく不当であるとはいえないから、831条1項3号に該当しない。

2.なお、乙社は本件自己株式処分に応じる条件として「Bに甲社株式を手放させ、創業家の影響力を一掃してほしい」旨を明示している。ところが、前記第1の2(2)のとおり、Bが甲社株式を回復することから、乙社は表示された動機につき錯誤があったとして無効を主張する余地がありそうである。しかし、乙社は既に50万株の甲社株式を市場で売却しており、これが212条2項の権利行使に当たる(なお、民法125条5号も参照)と解されることから、錯誤無効を主張できない。
 また、前記第1の1(1)ウのとおり、本件自己株式取得は無効であることから、乙は株式の承継取得ができない。もっとも、巧妙な粉飾が原因であったことから、乙は善意無重過失であり、株式を善意取得する(社債、株式等の振替に関する法律144条)。よって、乙が株式を取得できないことによる解除の問題は生じない。

3.以上のとおり、本件自己株式処分は、有効である。

第3.Bについて

1.本件自己株式取得に関する責任

(1)分配可能額超過の原因につきCに過失はない(問題文11)から、Cは462条1項柱書の責任を負わない(同条2項)。

(2)期末に欠損を生じた点につき、Cが465条1項柱書の責任を負うかが問題となるが、同条の責任は効力発生日には分配可能額を超過しない場合につき、期末の欠損が生じたときになお一定の責任を発生させる趣旨の規定であるから、効力発生日に既に分配可能額超過が生じていた場合には462条の責任が問題となるにとどまり、重ねて465条の責任が発生するものではない。よって、Cは465条1項柱書の責任を負わない。

(3)前記第1の1(2)のとおり、本件自己株式取得に係る株主総会決議には手続の法令違反があり、これは議長であるCの任務懈怠(423条1項)に当たる。しかし、本件自己株式取得の無効原因はCの過失によらない分配可能額超過であって、上記手続の法令違反によって生じたと認められる損害はないから、Cに423条1項の責任は発生しない。なお、買取りの相手方に自己を加える機会(160条3項)を奪われたことによる損害は各株主に発生するものであって、甲社に発生するものではない。

2.本件自己株式処分に関する責任

 前記第2の1(1)のとおり、本件自己株式処分に係る株主総会決議について、Cには説明義務を怠った違法があり、これは423条1項の任務懈怠に当たるものの、上記説明義務懈怠により甲社に発生したと認められる具体的な損害はないから、Cは同条の責任を負わない。なお、処分価額が適正価格を下回ることによる損害は、既存株式の経済的価値の低下によって既存株主が被るものであって、甲社が被る損害とはいえない。

以上

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