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最高裁判所第三小法廷判決平成23年04月12日

【事案】

1.住宅設備機器の修理補修等を業とする会社である被上告人が,被上告人と業務委託契約を締結してその修理補修等の業務に従事する者(被上告人の内部においてカスタマーエンジニアと称されていた。以下「CE」という。)が加入した労働組合である上告補助参加人らからCEの労働条件の変更等を議題とする団体交渉の申入れを受け,CEは被上告人の労働者に当たらないとして上記申入れを拒絶したところ,上告補助参加人らの申立てを受けた大阪府労働委員会から被上告人が上記申入れに係る団体交渉に応じないことは不当労働行為に該当するとして上記団体交渉に応ずべきこと等を命じられ,中央労働委員会に対し再審査申立てをしたものの,これを棄却するとの命令(以下「本件命令」という。)を受けたため,その取消しを求める事案。

2.事実関係等の概要

(1)ア.被上告人は,親会社である株式会社C(以下「C」という。)が製造したトイレ,浴室,洗面台,台所等に係る住宅設備機器の修理補修等を主たる事業とする株式会社である。被上告人の従業員約200名のうち修理補修業務に従事する可能性がある者は,サービス長(平成19年当時の人員数は11名で,通常は全国に57か所あるサービスセンターの管理を行う。)及びFGと呼ばれる技術担当者(平成19年当時の人員数は16名で,難易度の高い修理やCEの研修等を担当する。)に限定されており,修理補修業務の大部分は約590名いるCEによって行われていた。

イ.上告補助参加人A一般労働組合B本部は,主に運輸業に従事する労働者によって組織された労働組合であり,上告補助参加人A一般労働組合D支部は,その下部組織である。A一般労働組合D支部E分会(以下,上告補助参加人らと併せて「本件各組合」と総称する。)は,CEによって組織された上告補助参加人らの下部組織である。

(2) 被上告人は,CEになろうとする者との間で,「業務委託に関する覚書」と題する文書に記載した内容で業務委託契約を締結していた。上記契約等の概要は,以下のとおりである。

ア.被上告人とCEとは,それぞれ独立した事業者であることを認識した上で契約を遂行し(1条),委託業務の内容は,C製品全般のアフターサービス(修理,点検),リフレッシュサービス及び販売・取付けその他関連業務である(3条)。被上告人は,Cのブランドイメージを損ねないよう,各CEがCE認定制度に定める基準に基づく資格要件を満たしていることを確認するとともに,能力,実績,経験等を基準に級を毎年定めるCEライセンス制度を導入する(2条)。

イ.被上告人は,CEが居住する地域等を考慮の上,管轄する営業所及びサービスセンターを決定し,CEは,善良なる管理者の注意をもって業務を直ちに遂行するが,業務を遂行することができないときはその旨及び理由を直ちに被上告人に通知する(4条)。CEは,業務遂行後,遅滞なく被上告人及び関係先に経過及び完了の報告を行い(5条),毎月5日までに翌月の業務計画(発注連絡を取ることができる日時)を被上告人に通知し(ただし,業務計画については,被上告人において諸事情を勘案して一部変更することがある。11条),被上告人から無償貸与される制服を着用する(8条)。

ウ.業務委託契約は,双方に異議がないときは,1年ごとに更新される(18条)。
 なお,業務委託契約には業務遂行の方法等について特段の定めは置かれていないが,同契約とは別に,被上告人は,Cのブランドイメージを損ねないよう,全国で一定水準以上の技術による確実な事務の遂行に資するため,CEに対し,業務マニュアル,安全マニュアル,修理マニュアル,新人研修マニュアル等,修理補修等の作業手順や被上告人への報告方法,CEとしての心構えや役割,接客態度等を記載した各種のマニュアルを配布し,これに基づく業務の遂行を求めていた。

(3) 業務委託手数料は,顧客又はCにCEがそれぞれ請求する金額に,ランキング制度において当該CEの属する級ごとに定められた一定率を乗ずる方法で支払うものとされていた。被上告人は,毎年1回,CEの能力,実績及び経験を基にCEを評価し,5段階ある級の昇格,更新及び降格の判定を行っていた。
 顧客等に対する請求金額は,商品や修理内容に従って被上告人があらかじめ全国一律で決定していた。CEは,修理補修等の難易度や別のCEを補助者として使用したこと等を理由にある程度割増しして請求することも認められていたが,これは被上告人の従業員であるサービス長等が修理補修等を行った場合においても同様であった。
 また,被上告人は,CEに対し,休日や委託時間帯以外の時間に業務を委託する場合には別途定める業務委託手数料を支払うとともに,移動距離に応じて出張料を支払っていた。

(4)ア.被上告人は,全国を7区分して各地域ごとに営業所を置き,その下に複数のサービスセンターを配置した。そして,CEの居住場所や過去の業務発生状況等に従って各サービスセンターの管轄区域を細分化し,CEの担当地域を決定していた(一つの地域に複数のCEを順位を付けて担当させることもあった。)。また,被上告人は,各CEと調整した上でその業務日及び休日を指定し,日曜日及び祝日の業務についても,各CEが交替で業務を担当するよう要請していた。

イ.被上告人は,顧客からの修理補修等の発注を全国に4か所ある修理受付センターで受け付けた後,顧客の所在場所を担当地域とするCEにこれを割り振って委託業務として依頼していた。その依頼は,原則として業務日の午前8時30分から午後7時までの間に,緊急を要する場合等には修理受付センターからCEに直接電話する方法で,それ以外の通常の場合にはCEに対してあらかじめ所持することが指示されている情報端末に修理依頼データ(訪問日時,顧客の氏名・電話番号・住所,対象となる商品の商品番号及びその取付け年月日,修理依頼内容等)を送信する方法で行われていた。
 依頼を受けたCEが応諾した場合には当該CEが修理補修等を遂行するが,当該CEが断った場合等には,被上告人は,順位が下位のCE又は別の担当地域のCEに依頼し,又はサービスセンターにいる被上告人の従業員にこれを遂行させていた。修理依頼データを送信する方法が採られる場合,CEが承諾拒否通知をする割合は1%弱であった。CEが承諾を拒否した理由がたとい業務の遂行とは無関係の事情によるものであったとしても,被上告人がそのことをもって業務委託契約の債務不履行であると判断することはなかった。

ウ.CEは,修理補修等の依頼を受けた後,直ちに顧客と連絡を取って修理補修等の日時を調整し,調整された時間に顧客先等を訪問して修理補修等の作業を行っていた。その際,CEは,Cの子会社による作業であることを示すため,被上告人の制服を着用し,その名刺を携行しており,場合によっては顧客先でC製品のリフォーム等の営業活動も行っていた。
 CEは,修理依頼データを受信し,かつ,承諾拒否通知をしなかったものの業務に対応することができない場合には,被上告人にその旨を報告した上で他のCEにこれを委ねることも認められており,発注件数の約6%はこの方法によりCEの変更手続がとられていた。

エ.CEは,修理補修等の業務が終了したときは,顧客に対し,被上告人所定の検査確認用紙に署名押印を求め,顧客の名前,住所,業務日,業務内容,所定の料金その他を記載したサービス報告書を被上告人に送付していた。また,CEは,顧客から代金を回収し,これを週1回程度被上告人に振込送金していた。その他,CEは,業務日ごとに行動の予定,経過,結果等を被上告人に報告することになっていた。

オ.平成16年7月当時,CEの作業時間は1件平均約70分,1日平均計3.7時間であり,被上告人からの平均依頼件数は月113件,平均休日取得日数は月5.8日であった。

(5) 本件各組合は,平成16年9月6日,被上告人に対し,連名で,CEが上告補助参加人らに加入したことなどが記載された労働組合加入通知書とともに,不当労働行為を行わないこと,組合員の労働条件の変更等は本件各組合と事前協議し,合意の上で実施すること,組合員の契約内容の変更や解除は一方的に行わず,本件各組合と協議し,合意の上実施すること,組合員の手当,割増賃金及び出張費等を支払うこと,組合員の年収の保障(最低年収550万円)をすること,その貸与する機材の損傷等に関しては被上告人において負担すること,CE全員を労働者災害補償保険に加入させること等を要求する書面(これらの要求項目を以下「本件議題」という。)を提出し,同時に,本件議題について団体交渉の申入れをした。
 被上告人は,本件各組合に対し,同月15日,CEは独立した個人事業主であることを確認の上で業務委託契約を締結しており,労働組合法上の労働者に当たらないので,被上告人には団体交渉に応ずる義務はなく,CEの要望は各地区ごとの会議で聴取する旨記載した回答書を交付した。
 その後も,本件各組合は,被上告人に対し,本件議題に係る団体交渉の申入れを3回にわたって行ったが,被上告人は,その都度,同様の理由により,本件各組合との団体交渉に応ずる義務はない旨回答した。

(6) 上告補助参加人らは,平成17年1月27日,大阪府労働委員会に対し,被上告人が上記(5)の各申入れに係る団体交渉に応じなかったことは不当労働行為に当たるとして,救済申立てをしたところ,同委員会は,被上告人の対応は不当労働行為に該当するとして,被上告人に対し団体交渉に応ずべきこと等を命ずる旨の救済命令を発した。被上告人は中央労働委員会に対し再審査申立てをしたが,同委員会は,これを棄却する旨の本件命令を発した。

3.原審は,上記事実関係等の下において要旨次のとおり判断し,CEは被上告人との関係において労働組合法上の労働者に当たらず,したがって,上告補助参加人らによる上記各申入れに対する被上告人の対応について不当労働行為が成立する余地はないとして,本件命令を取り消すべきものとした。
 CEは,被上告人と業務委託契約を締結しているものであるが,個別の業務は被上告人からの発注を承諾することによって行っており,上記契約とは無関係の理由によってこれを拒絶することが認められているなど,業務の依頼に対して諾否の自由を有しており,業務を実際にいついかなる方法で行うかについては全面的にその裁量に委ねられているなど,業務の遂行に当たり時間的場所的拘束を受けず,業務の遂行について被上告人から具体的な指揮監督を受けることもなく,その報酬も,CEの裁量による請求額の増額を認めた上でその行った業務の内容に応じた出来高として支払われており,独自に営業活動を行って収益を上げることも認められていた。したがって,CEの基本的性格は,被上告人の業務受託者であり,いわゆる外注先とみるのが実体に合致して相当というべきであって,被上告人との関係において労働組合法上の労働者に当たるということはできない。

【判旨】

1.原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 被上告人の従業員のうち,被上告人の主たる事業であるCの住宅設備機器に係る修理補修業務を現実に行う可能性がある者はごく一部であって,被上告人は,主として約590名いるCEをライセンス制度やランキング制度の下で管理し,全国の担当地域に配置を割り振って日常的な修理補修等の業務に対応させていたものである上,各CEと調整しつつその業務日及び休日を指定し,日曜日及び祝日についても各CEが交替で業務を担当するよう要請していたというのであるから,CEは,被上告人の上記事業の遂行に不可欠な労働力として,その恒常的な確保のために被上告人の組織に組み入れられていたものとみるのが相当である。また,CEと被上告人との間の業務委託契約の内容は,被上告人の定めた「業務委託に関する覚書」によって規律されており,個別の修理補修等の依頼内容をCEの側で変更する余地がなかったことも明らかであるから,被上告人がCEとの間の契約内容を一方的に決定していたものというべきである。さらに,CEの報酬は,CEが被上告人による個別の業務委託に応じて修理補修等を行った場合に,被上告人が商品や修理内容に従ってあらかじめ決定した顧客等に対する請求金額に,当該CEにつき被上告人が決定した級ごとに定められた一定率を乗じ,これに時間外手当等に相当する金額を加算する方法で支払われていたのであるから,労務の提供の対価としての性質を有するものということができる。加えて,被上告人から修理補修等の依頼を受けた場合,CEは業務を直ちに遂行するものとされ,原則的な依頼方法である修理依頼データの送信を受けた場合にCEが承諾拒否通知を行う割合は1%弱であったというのであって,業務委託契約の存続期間は1年間で被上告人に異議があれば更新されないものとされていたこと,各CEの報酬額は当該CEにつき被上告人が毎年決定する級によって差が生じており,その担当地域も被上告人が決定していたこと等にも照らすと,たといCEが承諾拒否を理由に債務不履行責任を追及されることがなかったとしても,各当事者の認識や契約の実際の運用においては,CEは,基本的に被上告人による個別の修理補修等の依頼に応ずべき関係にあったものとみるのが相当である。しかも,CEは,被上告人が指定した担当地域内において,被上告人からの依頼に係る顧客先で修理補修等の業務を行うものであり,原則として業務日の午前8時半から午後7時までは被上告人から発注連絡を受けることになっていた上,顧客先に赴いて上記の業務を行う際,Cの子会社による作業であることを示すため,被上告人の制服を着用し,その名刺を携行しており,業務終了時には業務内容等に関する所定の様式のサービス報告書を被上告人に送付するものとされていたほか,Cのブランドイメージを損ねないよう,全国的な技術水準の確保のため,修理補修等の作業手順や被上告人への報告方法に加え,CEとしての心構えや役割,接客態度等までが記載された各種のマニュアルの配布を受け,これに基づく業務の遂行を求められていたというのであるから,CEは,被上告人の指定する業務遂行方法に従い,その指揮監督の下に労務の提供を行っており,かつ,その業務について場所的にも時間的にも一定の拘束を受けていたものということができる。
 なお,原審は,CEは独自に営業活動を行って収益を上げることも認められていたともいうが,前記事実関係等によれば,平均的なCEにとって独自の営業活動を行う時間的余裕は乏しかったものと推認される上,記録によっても,CEが自ら営業主体となって修理補修を行っていた例はほとんど存在していなかったことがうかがわれるのであって,そのような例外的な事象を重視することは相当とはいえない。
 以上の諸事情を総合考慮すれば,CEは,被上告人との関係において労働組合法上の労働者に当たると解するのが相当である。

2.以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,前記事実関係等によれば,本件議題はいずれもCEの労働条件その他の待遇又は上告補助参加人らと被上告人との間の団体的労使関係の運営に関する事項であって,かつ,被上告人が決定することができるものと解されるから,被上告人が正当な理由なく上告補助参加人らとの団体交渉を拒否することは許されず,CEが労働組合法上の労働者に当たらないとの理由でこれを拒否した被上告人の行為は,労働組合法7条2号の不当労働行為を構成するものというべきである。したがって,本件命令の取消しを求める被上告人の請求を棄却した第1審判決は正当であるから,被上告人の控訴を棄却することとする。

【田原睦夫補足意見】

 本件では,被上告人は,CEは独立した事業者であり,被上告人とCEとの契約関係は,被上告人が行う業務の一部の業務委託であって一般の外注契約関係と異ならないと主張し,原審は,その主張を認めてCEは労働組合法上の労働者には該たらないと認定していることに鑑み,以下のとおり補足意見を述べる。
 原判決の認定によれば,被上告人は,Cブランドの住宅設備機器のアフターメンテナンスを主力事業とする会社であり,Cのブランドイメージを低下させないよう全国一律に一定水準の技術をもって確実に修理補修等を行うことを目的として,認定制度やランキング制度を伴うCE制度を導入した。
 上記制度の趣旨からすれば,本来,CE制度の対象者は,CE制度の求める技術者(以下「有資格者」という。)を擁して,その制度の求める業務を提供する能力を備えているならば,法人であるか個人事業者であるかを問わず,また,その者がCEとしての業務以外に主たる業務を有していても差し支えないことになる。また,その者が有資格者を複数擁しているときは,業務委託契約書に定める管轄営業所及びサービスセンターを複数選定することもなし得ることになる。このように,CE制度の対象者がCE制度の求める業務以外に主たる業務を行っていたり,CE制度の対象者が複数の有資格者を雇傭し複数の管轄営業所やサービスセンターを担当しているような場合には,少なくとも当該事業者と被上告人との契約関係は純然たる業務委託契約であって,一般の外注契約関係と異ならないものといえよう。
 ところが,本件では,記録上,被上告人のCE募集広告の一部に,「個人,法人共に可」との記載は見られるものの,被上告人と本件業務委託契約を締結しているCE中に法人が含まれるとの主張はない。また,本件で証拠として提出されている業務委託契約書(第1審判決・別紙4)の様式及びその内容は,専ら有資格者が自ら個人として直接の受託者となる場合を予定するものであり,過去においてもこれと異なる態様で本件業務委託契約が締結されたことをうかがわせる証拠は存しない。そして,法廷意見において指摘するとおり,本件業務委託契約の内容及びその委託業務履行の実態からして,CEがCEとしての業務以外に主たる業務を有していることもうかがわれない。
 さらに,それに加えて,被上告人がインターネットに掲示していたCEの募集広告では,「勤務地」,「勤務時間」,「給与」,「待遇・福利厚生」,「休日・休暇」等の項目の記載があり,それらの各項目からして,その募集広告は,被上告人が行う事業に係る外注業者を募集する内容とは到底いえず,また,本件業務委託契約の内容を補充する「CEライセンス制度」の説明文中には,「福利厚生及び功労的特典」として「健康診断」,「慶弔会」,「リフレッシュ休暇手当」(契約10年目以後5年ごとに金券を支給するもの),「休業保障」(忌引き)等,独立した事業者との契約内容にそぐわない事項が定められている。また,被上告人がCEに携行させていた名刺には,氏名の肩書きに「○○サービスセンター」と記載し,氏名の下部には被上告人の会社名のみが記載されており,平成14年ころまでCEに携行させていた身分証明書には,「上記の者は,当社従業員であることを証明します」と記載して,被上告人の会社名を記載して押印したものが発行されていた(その後「上記の者は当社が製品のメンテナンス業務を委託する者であることを証明します」との証明書に変更されていると認められる)のである。
 以上の事実関係からすれば,CEが労働組合法上の労働者に該当することは明らかであって,それを否定する余地はないというべきである。

 

最高裁判所第三小法廷判決平成23年04月12日

【事案】

1.年間を通して多数のオペラ公演を主催している財団法人である平成21年(行ヒ)第226号被上告人・同第227号被上告参加人X1(以下「被上告財団」という。)が,音楽家等の個人加盟による職能別労働組合である平成21年(行ヒ)第226号上告参加人・同第227号上告人X2(以下「上告組合」という。)に加入している合唱団員1名につき,毎年実施する合唱団員選抜の手続において,過去4年間は,原則として年間シーズンの全ての公演に出演することが可能である契約メンバーの合唱団員として合格とし,その者との間で期間1年の出演基本契約を締結していたが,次期シーズンについては上記の者を不合格としたこと及びこのことに関する上告組合からの団体交渉の申入れに応じなかったことについて,東京都労働委員会において,被上告財団が上記申入れに応じなかったことは不当労働行為に該当するが上記の者を不合格としたことはこれに該当しないとして,被上告財団に対し団体交渉に応ずべきこと等を命じ,上告組合のその余の申立てを棄却する旨の命令を発し,中央労働委員会において,被上告財団及び上告組合の各再審査申立てをいずれも棄却する旨の命令を発したため,被上告財団及び上告組合が,中央労働委員会の上記命令に関し,それぞれ各自の再審査申立てを棄却した部分の取消しを求める事案。

2.原審の確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。

(1)ア.上告組合は,職業音楽家と音楽関連業務に携わる労働者の個人加盟による職能別労働組合である。

イ.被上告財団は,新国立劇場の施設において現代舞台芸術の公演等を行うとともに同施設の管理運営を行っている財団法人であり,年間を通して多数のオペラ公演を主催している。

(2)ア.被上告財団は,毎年,主催するオペラ公演に出演する新国立劇場合唱団のメンバーを試聴会を開いて選抜し,合格者との間で,8月から翌年7月までの年間シーズンの全ての公演(ただし,被上告財団が当該シーズンの開始前にあらかじめ出演を指定しないものがある。例えば,男声合唱だけの演目には女性団員は出演しないし,他の合唱団が出演する演目もある。)に出演することが可能である契約メンバーと,被上告財団がその都度指定する公演に出演することが可能である登録メンバー(契約メンバーだけでは合唱団のメンバーが足りない場合等に合唱団に加わることになる。)に分けて,出演契約を締結していた。

イ.契約メンバーは毎年40名程度であり,メンバーは毎年入れ替わりがあった。被上告財団が主催するオペラ公演は,年間10〜12の公演があり,1公演につき2〜8回の上演が行われていた。

(3)ア.試聴会は,次期シーズンの契約を希望する合唱団のメンバー及び公募による参加者を対象に,新国立劇場のオペラ芸術監督や合唱指揮者らがオペラ・アリア等の歌唱技能を審査するものであり,被上告財団は,試聴会の審査結果等により,契約メンバー合格者及び登録メンバー合格者を選抜した。契約メンバー合格者の方が合格に要する技能等の水準が高かった。

イ.被上告財団は,契約メンバー合格者に対して,期間を1年とする出演基本契約の締結を申し出て,面談の上,契約メンバーになることとなった者との間で,同契約を締結し,その上で,各公演ごとに個別公演出演契約を締結していた。これに対し,登録メンバー合格者(契約メンバー合格者のうち,本人の希望又は面談の結果,登録メンバーになることとなった者を含む。)は,被上告財団との間で,その出演する公演ごとに出演契約を締結した。

(4)ア.被上告財団と契約メンバーとの間で締結されていた出演基本契約の主な内容は,次のとおりである。なお,同契約の内容は,被上告財団が一方的に決定しており,各メンバーにより出演対象となる公演が異なるほかは,全ての契約メンバーに共通である。

(ア) 被上告財団は,契約メンバーに対し,被上告財団の主催するオペラ公演に出演することを依頼し,契約メンバーはこれを承諾する。

(イ) 契約メンバーが出演する公演(以下「個別公演」という。)は,出演基本契約に係る契約書(以下「出演基本契約書」という。)の別紙「出演公演一覧」に記載のとおりとする(なお,同別紙には,年間シーズンの公演名,公演時期,上演回数及び当該契約メンバーの出演の有無等が記載されており,この記載は,各契約メンバーごとに異なっていた。)。

(ウ) 契約メンバーは,合唱メンバーとして個別公演に出演し,必要な稽古等に参加し,その他個別公演に伴う業務で被上告財団と合意するものを行う。

(エ) 契約メンバーが個別公演に出演するに当たり,被上告財団と契約メンバーは,契約メンバーの個別公演への出演を確定し,当該個別公演の出演業務の内容及び出演条件等を定めるため,原則として当該個別公演の稽古が開始される月の前々月の末日までに,個別公演出演契約を締結する。個別公演出演契約に係る契約書に記載されない事項については,出演基本契約に従うものとする。

(オ) 被上告財団は,契約メンバーに対し,出演業務の遂行に対する報酬を,個別公演出演契約締結の上,個別公演ごとに支払う。報酬は,出演基本契約書の別紙「報酬等一覧」に掲げる単価等に基づいて算定する(なお,同別紙には,報酬は公演出演料(1回当たりの金額が定められている。)及び超過稽古手当(超過時間により区分された金額が定められている。)等から成ること,稽古を欠席,遅刻又は早退した場合には報酬を減額すること等が記載されていた。)。

イ.出演基本契約書の条項には,被上告財団が契約メンバーに対して個別公演出演契約の締結を申し出た場合に契約メンバーにその締結を義務付ける旨を明示する規定や,契約メンバーが被上告財団以外の者が主催する公演に出演したり,個人公演を開いたり,個人レッスンをしたりすること等の音楽活動を禁止,制限する規定はなかった。

(5)ア.前記(4)ア(エ)に基づき締結される個別公演出演契約には,出演を確定する個別公演の公演日程等が定められたほか,当該個別公演の出演業務の内容及び出演条件等は,同契約に係る契約書に定める特記事項を除き,全て出演基本契約のとおりとすること等が定められた。

イ.被上告財団は,個別公演の稽古等の確定した日程を,その稽古等が行われる月の前々月の末日までに決定し,契約メンバーに提示していた。歌唱技能の提供の方法や提供すべき歌唱の内容については,合唱指揮者等の指揮があった。また,前記(4)ア(オ)のとおり,出演基本契約上,稽古を欠席,遅刻又は早退した場合には報酬を減額することが定められており,実際にも,契約メンバーは,稽古への参加状況について被上告財団の監督を受けていた。

(6)ア.実際の運用では,契約メンバーが,当該シーズンの一部の個別公演への出演を辞退し,個別公演出演契約を締結しないことがあった。もっとも,辞退の件数は,1シーズンにつき延べ数件程度とかなり少なく,また,辞退の理由の大半は,出産,育児によるものや他の公演への出演によるものであった。

イ.被上告財団は,個別公演への出演を辞退した契約メンバーに対しても,当該契約メンバー本人に特段の希望がある場合や当該契約メンバーが試聴会で不合格となった場合を除き,翌シーズンの出演基本契約の締結を申し出ており,再契約において特に不利な取扱いをしたことはなかった。契約メンバーが個別公演への出演を辞退したことを理由として被上告財団から制裁を課されたこともなかった。

ウ.契約メンバー合格者は,出演基本契約締結のための面談の際,被上告財団から,全ての個別公演に出演するために可能な限りの調整をすることを要望された。もっとも,契約メンバーとして同契約を締結するに当たって,全ての個別公演に確定的に出演することができる旨の申告や届出が要求されることはなく,1,2の個別公演には出演することができないという者でも,被上告財団の意向により契約メンバーとなる者がいた。他方,契約メンバー合格者であっても,本人の希望により登録メンバーとなる者や,出演することができる公演が限られることから被上告財団の意向により登録メンバーとなる者がいた。

(7)ア.Aは,上告組合に加入している者であり,新国立劇場合唱団の契約メンバーとして,平成11年8月から同15年7月までの4シーズンにわたり,毎年,被上告財団との間で出演基本契約を締結した上,各公演ごとに個別公演出演契約を締結し,公演に出演していた。Aは,その間,被上告財団から,年間約300万円の報酬(超過稽古手当を含む。)を受けていた。

イ.Aは,平成13年1月から同年3月まで文化庁在外派遣研修員としてウィーンに派遣され,その間,予定されていた公演への出演を辞退したが,翌シーズンも契約メンバーとして出演基本契約を締結した。

ウ.Aが公演への出演や稽古への参加のため新国立劇場に行った日数は,平成14年8月から同15年7月までのシーズンにおいて,約230日であった。Aは,その間,個人でリサイタルを開いたり,生徒に個人レッスンをするなどの音楽活動も行っていた。

(8)ア.Aは,被上告財団から,平成15年2月20日,同年8月から始まるシーズンについて,試聴会の審査の結果,契約メンバーとしては不合格であると告知された(以下,被上告財団がAを不合格としたことを「本件不合格措置」という。)。

イ.上告組合は,平成15年3月4日,被上告財団に対し,文書により,「Aの次期シーズンの契約について」を議題とする団体交渉の申入れ(以下「本件団交申入れ」という。)を行った。これに対し,被上告財団は,同月7日,「A氏と当財団との関係が雇用関係にないので,これを前提とする団体交渉申し入れは受諾出来ない」などと文書で回答した。

(9) 上告組合は,平成15年5月6日,東京都労働委員会に対し,本件不合格措置及び本件団交申入れに対する被上告財団の対応が不当労働行為に当たるとして,救済申立てをしたところ,同委員会は,本件団交申入れに対する被上告財団の対応は不当労働行為に該当するが本件不合格措置はこれに該当しないとして,被上告財団に対し団体交渉に応ずべきこと等を命じ,その余の申立てを棄却する旨の命令を発した。同命令に関し,被上告財団は救済を命じた部分につき,上告組合は申立棄却部分につき,中央労働委員会に対しそれぞれ再審査を申し立てたが,同委員会は,これらの再審査申立てをいずれも棄却する旨の命令を発した。

3.原審は,上記事実関係等の下において要旨次のとおり判断し,契約メンバーであるAは労働組合法上の労働者に当たらず,したがって,本件団交申入れに対する被上告財団の対応及び本件不合格措置について不当労働行為が成立する余地はないとして,被上告財団の請求を認容し,上告組合の請求を棄却すべきものとした。
 契約メンバーは,被上告財団と出演基本契約を締結しただけでは個別公演に出演する法的な義務はなく,個別公演出演契約を締結する法的な義務はないというべきであるから,契約メンバーには,労務ないし業務を提供することについて諾否の自由がないとはいえない。また,契約メンバーは,個別公演出演契約を締結しない限り,業務遂行の日時,場所,方法等について被上告財団の指揮監督を受けることはない。さらに,契約メンバーは,出演基本契約を締結しただけでは報酬の支払を受けることはなく,他方で,出演することが予定されている公演はあらかじめ決まっており,予定された公演以外に随時出演を求められることはないから,被上告財団との間の指揮命令,支配監督関係は相当に希薄というべきである。したがって,契約メンバーが被上告財団との間で出演基本契約を締結したことによって,労務ないし業務の処分について被上告財団から指揮命令,支配監督を受ける関係になっているとは認められず,契約メンバーであるAは労働組合法上の労働者に当たるということはできない。

【判旨】

1.原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 前記事実関係等によれば,出演基本契約は,年間を通して多数のオペラ公演を主催する被上告財団が,試聴会の審査の結果一定水準以上の歌唱技能を有すると認めた者を,原則として年間シーズンの全ての公演に出演することが可能である契約メンバーとして確保することにより,上記各公演を円滑かつ確実に遂行することを目的として締結されていたものであるといえるから,契約メンバーは,上記各公演の実施に不可欠な歌唱労働力として被上告財団の組織に組み入れられていたものというべきである。また,契約メンバーは,出演基本契約を締結する際,被上告財団から,全ての個別公演に出演するために可能な限りの調整をすることを要望されており,出演基本契約書には,被上告財団は契約メンバーに対し被上告財団の主催するオペラ公演に出演することを依頼し,契約メンバーはこれを承諾すること,契約メンバーは個別公演に出演し,必要な稽古等に参加し,その他個別公演に伴う業務で被上告財団と合意するものを行うことが記載され,出演基本契約書の別紙「出演公演一覧」には,年間シーズンの公演名,公演時期,上演回数及び当該契約メンバーの出演の有無等が記載されていたことなどに照らせば,出演基本契約書の条項に個別公演出演契約の締結を義務付ける旨を明示する規定がなく,契約メンバーが個別公演への出演を辞退したことを理由に被上告財団から再契約において不利な取扱いを受けたり制裁を課されたりしたことがなかったとしても,そのことから直ちに,契約メンバーが何らの理由もなく全く自由に公演を辞退することができたものということはできず,むしろ,契約メンバーが個別公演への出演を辞退した例は,出産,育児や他の公演への出演等を理由とする僅少なものにとどまっていたことにも鑑みると,各当事者の認識や契約の実際の運用においては,契約メンバーは,基本的に被上告財団からの個別公演出演の申込みに応ずべき関係にあったものとみるのが相当である。しかも,契約メンバーと被上告財団との間で締結されていた出演基本契約の内容は,被上告財団により一方的に決定され,契約メンバーがいかなる態様で歌唱の労務を提供するかについても,専ら被上告財団が,年間シーズンの公演の件数,演目,各公演の日程及び上演回数,これに要する稽古の日程,その演目の合唱団の構成等を一方的に決定していたのであり,これらの事項につき,契約メンバーの側に交渉の余地があったということはできない。そして,契約メンバーは,このようにして被上告財団により決定された公演日程等に従い,各個別公演及びその稽古につき,被上告財団の指定する日時,場所において,その指定する演目に応じて歌唱の労務を提供していたのであり,歌唱技能の提供の方法や提供すべき歌唱の内容については被上告財団の選定する合唱指揮者等の指揮を受け,稽古への参加状況については被上告財団の監督を受けていたというのであるから,契約メンバーは,被上告財団の指揮監督の下において歌唱の労務を提供していたものというべきである。なお,公演や稽古の日時,場所等は,上記のとおり専ら被上告財団が一方的に決定しており,契約メンバーであるAが公演への出演や稽古への参加のため新国立劇場に行った日数は,平成14年8月から同15年7月までのシーズンにおいて約230日であったというのであるから,契約メンバーは時間的にも場所的にも一定の拘束を受けていたものということができる。さらに,契約メンバーは,被上告財団の指示に従って公演及び稽古に参加し歌唱の労務を提供した場合に,出演基本契約書の別紙「報酬等一覧」に掲げる単価及び計算方法に基づいて算定された報酬の支払を受けていたのであり,予定された時間を超えて稽古に参加した場合には超過時間により区分された超過稽古手当も支払われており,Aに支払われていた報酬(上記手当を含む。)の金額の合計は年間約300万円であったというのであるから,その報酬は,歌唱の労務の提供それ自体の対価であるとみるのが相当である。
 以上の諸事情を総合考慮すれば,契約メンバーであるAは,被上告財団との関係において労働組合法上の労働者に当たると解するのが相当である。

2.以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そこで,Aが被上告財団との関係において労働組合法上の労働者に当たることを前提とした上で,被上告財団が本件不合格措置を採ったこと及び本件団交申入れに応じなかったことが不当労働行為に当たるか否かについて更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。

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