平成23年度新司法試験の結果について(1)

2063人、23.5%

法務省より、平成23年新司法試験の結果が公表された。
合格者数は、2063人。
受験者ベースの合格率は、2063÷8765≒23.5%だった。
以下は、合格者数と合格率の推移である。

 

合格者数

合格率

18

1009

48.2

19

1851

40.1

20

2065

32.9

21

2043

27.6

22

2074

25.4

23

2063

23.5

合格者数は、前年よりやや減少。
合格率は、過去最低を更新。
一貫した低落傾向が続いている。

2000人基準が維持された

今年の合格点は、765点だった。
昨年の記事で、どうやら近時は2000人が基準になっているようだ。
5点刻みで、2000人を超えた点数。
これが、合格点となっている、と書いた。

以下は、平成21年以降の合格点前後の累計人員分布である。

平成21年

得点

累積受験者数

775

2240

780

2140

785

2043

790

1967

795

1884

 

平成22年

得点

累積受験者数

765

2263

770

2155

775

2074

780

1984

785

1886

 

平成23年

得点

累計受験者数

755

2231

760

2145

765

2063

770

1978

775

1903

今年も、5点刻みで2000人を超えた得点が、合格点になっている。
従って、今年も2000人基準が維持された、と考えることができる。
一定水準を満たす受験生が2000人を超えれば、その数を受からせる。
一定水準を満たす受験生が2000人未満であっても、2000人は受からせる。
今のところ、司法試験委員会はこのようなスタンスで判断しているように思われる。
2000人を割り込むと、旧試験時代の1500人とほとんど変わらなくなる。
そのため、どんなに出来が悪くても、ここは死守するということなのだろう。

なお、平成20年も、2000人に近い2065人が合格者数となっている。
(合格点は940点。)
しかし、これは2000人基準に従ったものではない。
2000人基準によれば、この年は945点の2008人となるはずだからである。

平成20年

得点

累計受験者数

930

2193

935

2131

940

2065

945

2008

950

1934

この年は、むしろ合格率33%を下限としたのではないかと思われる。
この数字は、修了生7割を守るために必要な最低限の合格率だった。
(詳細は、以前の記事参照。)
ただ、この合格率33%は、翌年の平成21年には、あっさり破られた。
その後は、2000人が基準になっている。
これは今のところ、まだ破られていない。
現状は、そういう状況である。

受験生の質、下げ止まりの傾向

近時、受験生の質の低下が指摘され続けてきた。
受験生の質をみるに当たって、参考になるのが、論文の全科目平均点である。
論文の採点は、「優秀」、「良好」、「一応の水準」、「不良」という感覚的なもので決まる(法務省資料参照)。
考査委員の直感的な印象が、反映されやすい。
難問であっても、食いついていれば優秀と評価されるだろうし、基本的な問題で出来が悪ければ、不良になる。
従って、各年の問題の難易度の影響を、それほど受けないという特徴がある。
そして、全科目平均点は、素点そのままの数字である。
これを基準にして、得点調整(採点格差調整)がされるからである。
(詳細は、得点調整の検討参照。)
すなわち、考査委員の採点時の印象が、ストレートに反映される数字である。

以下は、論文の全科目平均点の推移である。
なお、かっこ書は、最低ライン未満者を含む数字である。

年度

全科目
平均点

前年比

18

404.06

---

19

393.91

−10.15

20

378.21
(372.18)

−15.70

21

367.10
(361.85)

−11.11
(−10.33)

22

353.80
(346.10)

−13.30
(−15.70)

23

353.05
(344.69)

−0.75
(−1.41)

これまでは、毎年10点以上、平均点は下がっていた。
しかし今年は、昨年とほとんど変わっていない。
これは、新試験始まって以来の出来事である。
ついに、下げ止まった。
このことは、悲観的なニュースの多い最近では、明るい事実といえる。

来年以降も、この水準で安定するのか。
また、崩れてしまうのか。
それとも、反転上昇に向かうのか。
今後の注目点である。

正しく報道した毎日

これまで、マスコミは「修了生7割」の意味を、各年度の合格率70%のこととして報道してきた。
それが誤りであることは、当初から指摘されていた。

司法試験委員会会議(第12回)(平成16年11月9日)議事要旨より引用、下線は筆者)

上谷清委員長 ・・前回の委員会の審議が終わった直後に,朝日新聞に合格者数に関する記事が出て,それを切っ掛けにして,こういう新聞記事とか,記事を基にした意見が出ている。
 この朝日新聞の記事には事実と異なる記述がある。 (中略) もう一つは,新司法試験は3回受験することができるので,その間にどの程度合格するかということで考えなければいけないにもかかわらず,1回だけの受験で20パーセント台や30何パーセントといった数字が出ているとして,いかにもそれで司法試験の全体の合格率がそれと同じ数字になってしまっているというような議論をしている点。この点はちょっと確率の計算をすればすぐ分かる誤解だが,3回受験することができるわけだから,例えば1回の試験で仮に4割くらいの合格率になるとすると,3回受ければ80何パーセントが合格するという数になると思う。

(引用終わり)

にもかかわらず、マスコミは一貫して、誤った報道を続けてきた。
これは、ほとんど意図的なものである。
昨年も、朝日はこれを単年度合格率であるかのように報じていた。

(asahi.com2010年9月10日配信記事より引用、下線は筆者)

学生「不安でいっぱい」 新司法試験、合格率最低に

 合格率が過去最低となった今年の新司法試験の合格発表があった9日、関西各地の法科大学院や法科大学院の学生らにも波紋が広がった。

 (中略)

 西地方の法科大学院に通う弁護士志望の女性(26)は「構想段階で7割程度と言われた合格率が現実は2割強。国にだまされたという感じが強い。新司法試験の可能性を信じ、一念発起して法科大学院に入ったのに今は不安でいっぱい」と話す。

(引用終わり)

しかし、今年は、この点を正しく報道したものがあった。

毎日jp 2011年9月8日19時31分(最終更新同日21時27分)配信記事より引用、下線は筆者)

新司法試験:合格率5回連続低下23.5% 過去最悪更新

 新司法試験の合格率の推移 法務省は8日、法科大学院の修了者を対象とした6回目の新司法試験の合格者を発表した。合格者数は2063人(男性1585人、女性478人)で昨年より11人減。合格率は23.5%と5回連続で低下し、過去最悪を更新した。

 (中略)

 受験資格は修了から5年間に3回。未修者コース1期生を含む06年度修了者は、資格を失う今回までに修了者の49.6%に当たる計2188人が合格。未修者に限ると39.5%だった。司法制度改革審議会の意見書(01年)は修了者の7〜8割の合格を目標としたが、これを下回った。新試験3回目で不合格になった受験者も1324人に上った。

(引用終わり)

一方、他のマスコミは、「修了生7割」という語自体を用いていない。
単年度合格率7割を主張して増員を誘導することに、無理を感じ始めたのかもしれない。
合格者数3000人すら破られた以上、単年度合格率7割を主張することには、現実味がない。

規制改革会議が消滅して以降、強力に増員を主張する組織がなくなった。
また、TPPと法曹人口問題の関係を理解するための資料(1)にも示したが、米国も、最近は増員を主張していない。
むしろ、外弁やADRの方をこじ開けることで、増員より手っ取り早く目的を達しようとしている。
そのような流れが、マスコミの報道姿勢にも影響を与えているのだろう。
とはいえ、マスコミは増員を諦めたわけではない。

asahi.com2011年9月5日(月)付社説より引用、下線は筆者)

法律家の養成―腰据え本題に取り組め

 約2千人の司法修習生に国庫から給料を払い続けるか、打ち切るか。この1年余、混迷した問題は「一律支給をやめ、希望者には月二十数万円を無利子で貸与する」という当初の方針に落ち着くことになった

 有識者や関係省庁の副大臣らでつくる政府の「法曹の養成に関するフォーラム」が取りまとめた。収入が低い人に対する返済猶予の措置も盛り込まれた。遠回りをしたが、妥当な結論に至ったことは歓迎したい

 (中略)

 給費制の見直しは、法律家の増員や法科大学院、法テラスの設立など、司法改革の一環として決まった。行政に比べて小さすぎた司法の機能を拡大し、人々が法の下で平等、対等に生きる社会を築く。それが改革の背骨を貫く思想だった。

 (中略)

 気がかりなのは、かつてあった改革への熱気が最近の経済界から感じられないことだ。国際競争を勝ち抜くためにも司法インフラの充実は欠かせない。その事実をもう一度確認し、前向きな姿勢で臨んでもらいたい

(引用終わり)

貸与制を強力に主張するのは、これが予算上増員の前提となっているからである。
(なお、修習が短縮されたのも、ローが充実した実務教育をするからではなく、単に収容定員の関係である。)

参院法務委員会平成23年04月26日より引用、下線は筆者)

○又市征治君 ・・そもそもこの修習資金の貸与制度・・の背景は、司法改革に伴う司法試験合格者数の増加を見込んだ、つまり財政的理由と言われているわけですが、改めて、そういうことであればそのとおりですというふうに言っていただければいいんですが、貸与制度その他の理由がありましたら、お伺いしたいと思います。

○国務大臣(江田五月君) これは、委員御承知のとおり、当時の司法制度改革審議会で議論をされたもので、私どももいろんな意見ございましたが、まあああいう結果になって、その理由というのは、今委員御指摘のその修習生を大幅に増やしていくというので、財政負担の問題が一つあります。まあ、財政負担です

(引用終わり)

マスコミでも、現場の記者は弁護士増員や貸与制の問題点を指摘し、記事にしている。
しかし、社説を書く論説委員のレベルになると、一貫して大幅増員・貸与制を主張する。
このあたりに、マスコミ内部のねじれ現象をみることができる。
ただ、上記社説自体が認めるように、経済界の熱意は冷めてきている。
前記のとおり、規制改革会議や米国という旗振り役を失ったということが大きい。
マスコミは、やや梯子を外されたような状態になりつつある。
貸与制については、財務省が絡むために、移行を阻止するのは難しい。
他方、増員そのものについては、財務省は関知しない事柄である。
他に、強力に増員を推進できる勢力は、どうも見当たらない。
むしろ、新たに就任した平岡法相は、3000人計画の見直しを示唆する発言をしている。

平岡法務大臣初登庁後記者会見平成23年9月2日(金)より引用、下線は筆者)

司法制度改革に関する質疑について

【記者】

 野田総理の方から御指示があった重要課題の一つの司法制度改革についてなのですが,法曹養成のテーマで当初の検証の中にありました,3000人計画についてはどのような考えを持っているのかというのが一点と,それからもう一点,司法制度改革の関連で,給費制について,民主党のPTの方では,全体を見直すまでは維持すべきというような意見も出されていますけれども,その点を大臣はどのようにお考えになるのでしょうか。

【大臣】

 司法試験の合格者3000人とか,あるいは司法修習生に対する給費制か貸与制かという問題は,やはり貸与制にすることによって発する問題,また3000人にすることによって発生する問題というものがあることは事実だというふうに思っております。そういう意味では,どこにどういう弊害が生じているのかということをしっかりと検証していく,分析していく中で,どうあったらいいのかということは考えていきたいというふうには思います。今どちらだけではいけないという結論を持っているわけではなくて,その辺は検証しながら考えていきたいというふうに思っております。

(引用終わり)

 

時事ドットコム2011/09/09-11:38配信記事より引用、下線は筆者)

「3000人目標」引き下げも=司法試験合格者−平岡法相

 平岡秀夫法相は9日午前の記者会見で、司法試験の合格者を「2010年ごろに3000人」とした政府目標に関し、「当初は法的需要に対応できていないという認識が前提にあったが、必ずしも世の中はそうなっていない。(合格者が)司法修習を終えて社会に出ても働く場が十分整っていない」と述べ、目標引き下げもあり得るとの考えを示した。

(引用終わり)

もっとも、既に2010年は過ぎている。
厳密には、「ころ」とあり、その趣旨としては2015年くらいまでを含んでいる(以前の記事参照)。
しかし、実際には、もはや本気で3000人を目指そうという空気はない。
これを今、見直したからといって、直ちにどうなるものでもない。
現状を、追認するだけのことである。
合格者数については、当分の間、膠着状態が続きそうである。

三振者1324人

上記毎日の報道によると、今年の三振者は1324人だという。
合格者が2000人程度にとどまる一方で、三振者は1000人を超えている。
これが、今後毎年のように出るとすれば、累積で相当な数になる。
これらの者が、うまく撤退して第2の道を見つけることができればよい。
しかし、うまくいかない者も少なくないだろう。
そうなると、再度ローに入りなおすか、予備試験ということになる。
仮に、三振者の多くが予備試験の方で再挑戦することになると、厄介な問題が生じる。
三振者といえども、一応法科大学院修了者である。
その者が予備試験に合格しないということは、矛盾である。
予備試験は、法科大学院修了レベルを試す試験という建前だからである。

司法試験法、下線は筆者)

4条 司法試験は、次の各号に掲げる者が、それぞれ当該各号に定める期間において、三回の範囲内で受けることができる。
一  法科大学院(学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)第九十九条第二項に規定する専門職大学院であつて、法曹に必要な学識及び能力を培うことを目的とするものをいう。)の課程(次項において「法科大学院課程」という。)を修了した者 その修了の日後の最初の四月一日から五年を経過するまでの期間
二  司法試験予備試験に合格した者 その合格の発表の日後の最初の四月一日から五年を経過するまでの期間
2  前項の規定により司法試験を受けた者は、その受験に係る受験資格(同項各号に規定する法科大学院課程の修了又は司法試験予備試験の合格をいう。以下この項において同じ。)に対応する受験期間(前項各号に定める期間をいう。以下この項において同じ。)においては、他の受験資格に基づいて司法試験を受けることはできない。前項の規定により最後に司法試験を受けた日後の最初の四月一日から二年を経過するまでの期間については、その受験に係る受験資格に対応する受験期間が経過した後であつても、同様とする。

5条1項 司法試験予備試験(以下「予備試験」という。)は、司法試験を受けようとする者が前条第一項第一号に掲げる者と同等の学識及びその応用能力並びに法律に関する実務の基礎的素養を有するかどうかを判定することを目的とし、短答式及び論文式による筆記並びに口述の方法により行う。

しかし、三振者が予備試験を受験して全員が受かる、ということは、ほぼあり得ない。
すなわち、法科大学院修了者が、法科大学院修了者と同等の学識等がないと判定されることになる。
これは、ものまね大会に本人が出場したのに、「似てない」と言われるようなものである。

また、三振者の多くが参入すれば、予備試験は単なるロー生の敗者復活戦となりかねない。
一般教養を別にすれば、試験科目上ロー卒の方が、学生や社会人より有利である。
三振者は、一部の飛び級的な学生には、かなわないかもしれない。
しかし、一般の学生・社会人には、負けないのではないか。
そうなれば、ローに通えない人のための予備試験、という建前も、崩れることになる。
予備試験受験者に関するそのような属性情報を、法務省がどの程度公表するのか。
注目したいところである。

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