平成23年度新司法試験の結果について(2)

全体の足切り状況

以下は、論文採点対象者に占める最低ライン未満者の割合(足切り率)の推移である。
全科目平均点のかっこ書は、最低ライン未満者も含む数字である。

年度

足切り率

前年比

全科目
平均点

18

0.71%

---

404.06

19

2.04%

+1.33%

393.91

20

5.11%

+3.07%

378.21
(372.18)

21

4.68%

−0.43%

367.10
(361.85)

22

6.47%

+1.79%

353.80
(346.10)

23

6.75%

+0.28%

353.05
(344.69)

平成21年を除けば、毎年、足切り率は増加している。
もっとも、今年は微増にとどまっている。
昨年と、ほとんど変わっていないといってよい。
これは、全体平均点の下げ止まりが影響している。

前回の記事でも述べたが、全体平均点は素点ベースで決まる。
従って、これが下がると、素点での足切り対象者が増えやすい。
真ん中の水準が下がれば、底辺の水準も対応して下がるのが通常だからである。
今年は、全体平均点がほとんど下がらなかった。
その結果、足切り率もほとんど増加しなかった。
(その意味では、平成21年は特殊な年である。)

科目別足切り状況

次に、科目別の動向である。
以下は、科目別の足切り率である。
ただし、平成18年については、足切り対象者が少ないため、省略した。
選択科目については、論文採点対象者のうち当該科目選択者に占める割合を示している。
(昨年までは受験者ベースで科目選択者数を算出していたが、今回は論文採点対象者ベースで算出している。)

  19 20 21 22 23
公法 0.82% 2.66% 2.35% 2.25% 2.97%
民事 0.13% 0.19% 0.08% 1.00% 2.59%
刑事 0.10% 0.33% 0.77% 2.77% 2.17%
倒産 2.00% 2.28% 0.28% 2.71% 0.63%
租税 0.00% 0.44% 0.00% 0.87% 0.00%
経済 0.30% 1.17% 1.74% 0.53% 2.58%
知財 0.35% 1.42% 1.71% 2.48% 2.59%
労働 0.08% 0.66% 0.18% 2.02% 0.70%
環境 1.15% 0.92% 0.41% 1.28% 1.36%
国公 0.00% 1.53% 0.00% 0.00% 0.00%
国私 1.40% 1.35% 0.66% 0.00% 0.75%

必須科目では、例年、公法だけが高いという傾向だった。
これは、憲法の採点における素点段階でのバラつきが大きいこと。
それから、行政法に手が回っていない受験生が多いということが原因である。
ただ、今年は民事、刑事も同じくらい高い数字になっている。
これは、新しい傾向変化である。
その原因は、まだはっきりしない。
仮説としては、旧試験組が減って純粋ロー組が増えてきたため、ということがある。
旧試験組は、民事・刑事は得意である。
他方で、予備校的な憲法の解法は新試験では得点しにくく、行政法は試験科目ではなかった。
そのため、公法で点を落としやすい。
他方、純粋ロー生は、絶対的な勉強時間が足りない。
そのため、勉強量が物を言う民事・刑事でもつまづくようになってきた。
そういうことではないか。
今後も、この傾向が続くのか、要注目というところである。

選択科目は、倒産法の足切り率が低いのが今年の特徴である。
例年、倒産法は足切りが多い科目だった。
今年は、一人も足切りの出なかった租税・国際公法の次に低い。
代わって、経済・知財が高い数字になっている。
知財は、年を追うごとに足切り率が上昇する傾向にある。
一貫して足切り率が低いのは、租税・国際公法・国際私法である。

得点調整(採点格差調整)との関係

最低ライン未満者の人数は、素点ベース、得点調整後ベースで異なる。
そのことから、得点調整の影響をうかがい知ることができる。
得点調整後ベースの最低ライン未満者数との比較表を示したのが下の表である。

 

素点
ベース

調整後
ベース

公法

168

190

民事

147

216

刑事

123

310

倒産

10

79

租税

16

経済

15

35

知財

18

39

労働

12

91

環境

20

国公

国私

19

平成21年までは、公法系だけ、他と傾向が違っていた。
素点ベースの方が、調整後ベースより、最低ライン未満者の数が多かった。
そのことから、公法は他科目より平均点が低いか、素点のバラつきが大きい。
他方で、他の科目は、公法より平均点が高いか、素点のバラつきが小さい。
(詳細は、司法試験得点調整の検討第4章参照。)

しかし、平成22年になって、公法も調整後ベースの方が多くなった。
そして、今年も同じく、調整後ベースの方が多い。
公法の平均点が他科目と同水準になってきたか、素点のバラつきが小さくなったことを意味する。
憲法の採点が、以前ほど極端ではなくなってきた。
それから、受験生の行政法への対策が進んできた。
その要素も、ないではない。
しかし、その割には、公法系の足切りが減っていない。
だとすると、他の科目の平均点が下がってきたとみるのが妥当である。
すなわち、平成22年は、他科目の平均点が下がった。
これは、素点段階での公法の平均点が、全体平均点との関係で相対的に上昇することを意味する。
その結果、全体平均点と等しくなる調整後の公法の平均点が、従来より下がった。
そのため、調整後の足切り対象者が増えたと考えることができる。

平成22年に刑事系の足切りが増え、今年は民事も足切りが増えた。
両科目の素点段階での平均点の低下がその原因と考えれば、上記とつじつまが合う。
もっとも、今年は昨年と全体平均点がそれ程変わらないのに、民事の足切りが増えている。
昨年と比べて民事も平均点が下がったのであれば、全体平均点も下がるはずだ。
しかし、実際にはそうなっていない。
これは、選択科目の平均点が高かったためではないか、と推測できる。
今年の選択科目は、倒産と労働の足切りが減った反面、顕著に増えたのは経済くらいである。
選択者の多い倒産と労働の平均点が高かったことが、選択科目の平均点を押し上げている可能性がある。

以上の仮説を前提とすると、公法の素点段階のバラつきの大きさは、ある程度維持されているとみることができる。
調整後ベースの足切り増加幅が小さいことも、それを裏付ける。
すなわち、公法系は依然として、他の科目と異なる傾向を持っているといってよいだろう。

公法以外は、総じて調整後の増加幅が大きい。
これは公法以外の科目に共通してみられる現象だから、当該科目だけ平均点が高いという説明は難しい。
公法以外の科目が全て平均点が高ければ、全体平均点も高くなってしまうからである。
また、上記仮説によれば、むしろ公法以外の必須科目の平均点は、下がっているはずである。
従って、素点のバラつきが小さいと考えるべきだろう。
(民事だと標準偏差30未満、刑事だと20未満、選択科目は10未満ということになる。司法試験得点調整の検討28ページ参照。)
この傾向は、新試験始まって以来、一貫している。
旧試験は、そのような採点ではなかった。
司法試験得点調整の検討第3章参照。なお、同書でリンク切れとなっている旧試験の足切りに関する資料のリンクはこちら。)

なぜ、そのような採点の変化が生じているのか。
一つには、旧試験は40点満点だったということがある。
新試験では、例えば公法・刑事は200点満点である。
旧試験の10点は、概ね新試験の公法、刑事の50点に相当する。
しかし、考査委員の感覚では、そのような形式的な換算がされていないのだろう。
我々は、日常100点満点に慣れている。
そのため、10点差を付けることには抵抗がない。
他方で、50点差を付けることには抵抗を感じ易い。
すなわち、直感的な感覚では、何点満点ということが意識されにくい。
そのため、新試験では、旧試験の10点差が20点、30点くらいの感覚で換算されているのではないか。
結果として、旧試験と同じようなミスをしても、新試験では旧試験ほどマイナスにならない。
逆に、旧試験では跳ねるような論述をしても、新試験ではそれほどプラスにならない。
そういう現象が生じているのではないか。

それから、足切りが素点ベースになったということもありそうだ。
素点ベースだと、考査委員はどの答案が足切り対象になりそうかわかる。
自分の付けた点数が、最低ライン未満だとする。
すると、その答案だけで足切り。
直ちに、その受験生の不合格が確定しかねない。
自分の採点だけで、受験生の人生が決まる。
考査委員としては、これはやはり怖いはずである。
そのため、最低ライン未満の点数をつけることに躊躇を覚えるのではないか。
(厳密には複数の考査委員の採点結果の平均を採るし、同系統の他の科目との関係もあるので、100%わかるわけではない。)
他方で、新試験の問題は要求水準の高いものが多い。
考査委員の目からみれば、どれも出来がよいとはいえないはずである。
そのため、上方向にも差を付けにくい、ということになる。
結果、真ん中に点数が集中する。
そういうことなのではないか。

いずれにせよ、考査委員の感覚的なものが起因しているように思われる。
これは昨年も書いたが、素点で差が付かないと、運の要素が強くなる。
考査委員が大した差ではないと思っている、ささいな点数差。
これが、得点調整で大きな差となってしまうからである。
たくさんの答案を採点していると、感覚にブレが生じてくる。
最初は、「この程度なら60点かな」、と思っていた内容の答案。
しかし、採点が進むうちに、同じような内容の答案を、「70点だろう」と感じるようになったりする。
これは、短答と異なり、論文の点数が「優秀」「良好」「一応」「不良」といった感覚的なもので決まることから生じる。
素点段階では、これも10点程度の差で済む。
しかし、これに得点調整が加わると、30点、40点の差になったりする場合もある。
再現答案を検討する際に、この辺りは気をつけるべきである。
ほぼ同内容なのに、なぜか差が付いている。
その場合に、無理をして違いを探すことが、無意味な場合もある。
採点する順番や、採点時の考査委員の気分。
そういったものが、得点調整で大きな差になっただけかもしれない。
そういう可能性も頭に入れながら、検討すべきである。

修了年度別未修既修別合格率

以下は、各修了年度別、未修既修別の合格率である。

 

受験者数

合格者数

受験者
合格率

18未修

494

12

2.4%

18既修

164

5.4%

19未修

670

40

5.9%

19既修

181

25

13.8%

20未修

1032

139

13.4%

20既修

400

126

31.5%

21未修

1422

261

18.3%

21既修

873

304

34.8%

22未修

1810

429

23.7%

22既修

1719

718

41.7%

例年どおり、今年も、以下の二つの法則が成り立っている。

1:同じ年度の修了生については、常に既修が未修より受かりやすい。
2:既修者・未修者の中で比較すると、常に年度の新しい者が受かりやすい。

この法則は、試験の選抜の結果を反映している。
1については、既修者試験の結果。
2については、本試験の不合格又は受控えの結果である。
すなわち、既修者試験に受からない人は、本試験でも受かりにくい。
本試験で不合格となり、又は受控えをした人は、次の年も受かりにくい。
従って、前記のとおり、運の要素があるとは言っても、実力は確実に結果に反映している。
受かりにくい人は、何度挑戦しても、受かりにくい。
今年不合格になった人は、これまでと同じやり方だと、来年も厳しい。
不合格の原因を考えて、学習計画を組み直す必要がある。

さらに、上記法則にも濃淡がある。
前年度比、未修と既修の合格率の差をまとめたのが、下記の表である。

 

@既修合格率

前年度比

A未修合格率

前年度比

@−A

18

5.4%

---

2.4%

---

3.0

19

13.8%

8.4%

5.9%

3.5%

7.9

20

31.5%

17.7%

13.4%

7.5%

18.1

21

34.8%

3.3%

18.3%

4.9%

16.5

22

41.7%

6.9%

23.7%

5.4%

18.0

平成20年度以降の修了生と、平成19年度以前の修了生との間に、顕著な差がある。
平成20年度修了生の前年度比が他より大きいのは、ここに断絶があることを示している。
すなわち、平成20年度以降とそれ以前の修了生とでは、合格率の差が激しい。
これは、既修未修を問わない。
また、平成20年度以降とそれ以前とでは、既修未修の差(@−A)のつき方が違う。
前者は差が大きいが、後者は差が小さい。
この差の原因は、どこにあるか。
平成19年度以前の修了生は、必ず1度は受控えをしている。
3回連続で受験していたなら、既に受験資格を失っているはずだからである。
すなわち、受控えをした者は、かなり受かりにくい。
また、受控えをした既修は、受控えをした未修と同じくらい受かりにくい。
受け控えるような既修は、未修に対するアドバンテージを失っていると表現してもよいかもしれない。

(平成20年度、平成21年度の修了生の中にも、受控え経験者はいるだろう。
だから、平成19年度以前の修了生の特徴を、受控えのせいにするのはおかしいと思うかもしれない。
しかし、平成19年度以前の修了生は、全員が受控え経験者である。
その違いは、重視してよいだろう。
受控えの悪影響が、平成19年度以前の修了生については、顕著に現れるということである。

また、単に不合格又は受控えが重なったから、合格率が下がり、既修未修の差が縮まるという説明は難しい。
その要因だけなら、年度を追うごとに比例的に差が付くはずである。
平成19年度以前の修了生と、平成20年度以降の修了生との顕著な差を説明できない。)

このことからいえることは、既修者試験に受からないようでは厳しいということである。
その意味では、ローに入る段階で、勝負は決まっている。
まず、独学で(または予備校も使って)、既修者レベルになる。
それが無理なら、最初から諦めた方がよい。
ローに入った後も、基本は自学自習である。
ローが、自分を合格レベルまで引き上げてくれる、ということはない。
自力で既修者レベルになれない者は、ロー入学後に自力で合格レベルになることはできない。
そう思っておくべきである。
そして、受控えはしない。
3回受けて不合格なら、もう無理だと思うべきである。
平成20年度以降修了の既修は、合格率30%を超えている。
すなわち、既修で連続3回受験なら、修了生7割の水準である合格率33%をほぼ達する。
三振する可能性は、3割に過ぎない。
かつての旧試験と比べると、はるかに勝ちやすい勝負である。
(それでも3割のリスクがあって怖いというなら、初めから受験すべきでない。)

逆に、「既修で連続3回受験」という枠を外れると、急に勝ちにくくなる。
そのことを認識した上で、学習計画を立てるべきだろう。

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