平成23年度新司法試験の結果について(3)

短答の寄与度

旧司法試験では、短答は合格点を超えさえすればよかった。
短答、論文、口述は、それぞれ独立の試験だったからである。
しかし、新試験では、短答と論文の総合評価で合否が決まる。
そのため、短答が総合評価にどの程度影響するのか。
それを知っておく必要がある。

以下は、短答の得点ごとに、合格のために論文で取る必要のある点数を、まとめたものである。
(少数点以下は切捨て。)

短答得点

論文合格
必要得点

論文
順位

順位
割合

210
(最低点)

378

1745

30%

219
(平均点)

375

1841

32%

241
(短答
合格者
平均点)

369

2022

35%

264
(上位10%)

362

2233

39%

314
(最高点)

348

2694

47%

今年の短答の合格点は、210点だった。
これ未満の者は、論文を採点してもらえない。
従って、論文採点対象者の最低短答得点は、210点である。
そうすると、総合で合格点の765点を超えるためには、論文で378点が必要である。
すなわち、

(210÷2)+(378×1400÷800)=766.5

他方、今年の短答での最高得点は、314点だった。
この場合、論文では348点取れば足りる。
すなわち、

(314÷2)+(348×1400÷800)≒766

この差は、論文の順位にすると、それぞれ1745位と2694位。
従って、949位分の差ということになる。
以前の記事で、概ね1000人分くらいだろうと書いた。
それなりに、当たっていたことになる。
短答合格者の数は、5654人である。
その最下位の者と、トップの者の差。
短答では、当然5000番以上の差である。
しかし、論文段階では、1000番未満にまで縮まっている。

これを、上位何%という目でみる。
短答最低点の者は、論文で上位30%に入らないと受からない。
他方、最高得点者は、上位47%、ほぼ真ん中でも合格できた。
最高得点を取れば、かなり有利、ということはいえるだろう。
しかし、最高得点を取るのは、相当のエネルギーを要する。
むしろ、短答がギリギリでも、論文で上位3割に入れば、ちゃんと合格できている。
そのことの方を、重視すべきだろう。

本試験は、一発勝負である。
従って、安定した実力を付けることが必要だ。
短答で安定してトップになるのと、論文で安定して3割に入る。
後者の方が、ハードルは低い。
仮に、短答で、トップではなく、上位10%に入ったとする。
今年で言えば、これは264点である。
それでも、論文では、上位39%に入る必要がある。
むしろ、短答は、全体平均点くらいでもよい。
これは、今年で言うと、219点である。
この場合、論文で上位32%に入れば、合格できる。
いずれにせよ、論文では、上位3割を目指していけばよい。
なお、短答合格者(論文採点対象者)の平均点は、241点だった。
この場合、論文は、369点必要だ。
これは、論文の順位でいくと、2022位である。
今年度の最終合格者数は、2063人である。
仮に論文だけで合否を決めると考えても、大体この水準が、合格点となる。

論文における「守り」の意味

上記のとおり、短答はギリギリでも、論文で上位3割なら合格できている。
問題は、どうやって上位3割を確保するかだ。
前記の表のとおり、上位3割にあたる得点は、378点である。
論文は800点満点だから、

378÷800=47.25%

すなわち、47.25%の得点率が、合格ラインということになる。
これを各科目でみると、以下のような水準となっている。
(各科目の得点は少数点以下切上げ、順位割合は少数点以下切捨て。)

科目

得点

順位

割合

公法

95

1842

32%

民事

142

1903

33%

刑事

95

1980

35%

倒産

48

524

33%

租税

48

120

34%

経済

48

205

35%

知財

48

243

35%

労働

48

574

33%

環境

48

102

34%

国公

48

18

29%

国私

48

145

36%

概ね、上位33%を確保すればよいことがわかる。
必須科目でいえば、1800番台を守れば、十分である。

新司法試験では、足切りがある。
最低ライン未満の科目が1つでもあれば、即不合格だ。
では、仮に足切りがなかった場合、総合でどの程度不利になるのだろうか。

これを考える場合、素点の最低ラインが、得点調整後の何点に当たるかを調べる必要がある。
これは、足切り該当者と、調整後の人員表を対照すればわかる。
以下は、得点調整後の最低ラインの水準をまとめたものである。
選択科目については、選択者の多い労働法について算出した。

科目

得点調整ごの
最低ライン

公法

50点

民事

70点

刑事

40点

労働

16点

例えば、公法系が最低ライン未満の40点だったとする。
公法を除くと、残りの科目で600点満点となる。
そうすると、上位3割の378点を取るためには、

(378−40)÷600≒56.3%

すなわち、民事168点、刑事で112点、選択で56点くらいを取る必要がある。
これは、概ね上位11%から12%程度の水準だ。
残り全ての科目で上位1割程度に食い込まないと、挽回できない。

民事系の場合は、さらに厳しいことになる。
民事系が60点だったとする。
民事を除くと、残りの科目で500点満点。
そうすると、上位3割の378点を取るには、

(378−60)÷500=63.6%

すなわち、公法・刑事で126点、選択で63点くらい取る必要がある。
これは、概ね上位2%から4%の水準である。
残り全ての科目で、上位2%から4%に入るのは、至難の業である。

選択科目の場合は、どうか。
労働法で、10点を取ったとする。
選択科目を除くと、残りの科目で700点満点となる。
そうすると、上位3割の378点を取るには、

(378−10)÷700≒52.5%

すなわち、公法・刑事で105点、民事で157点くらい取る必要がある。
これは、概ね上位18%から20%の水準だ。
これなら、何とか挽回できそうな水準である。

このように、必須科目が最低ライン未満になると、挽回は難しい。
その意味では、足切りがなくても、あまり結果は変わらない。
他方、選択科目が最低ライン未満になっても、本来は挽回可能である。
それが、足切りによって一発不合格となる。
こう考えると、足切りに特に注意すべきは、選択科目ということになる。

逆の場合を考えてみよう。
特定の科目で、いわゆるホームランを打った。
例えば、上位5%に食い込むような好成績だったとする。

今年の公法で、上位5%の得点は120点である。
そうすると、他の科目は、

(378−120)÷600=43%

すなわち、民事で129点、刑事で86点、選択で43点取ればよい。
これは、概ね49%から50%、すなわち真ん中くらいの水準である。

民事を考えてみる。
今年の民事で、上位5%の得点は、184点である。
そうすると、他の科目は、

(378−184)÷500=38.8%

すなわち、公法・刑事で77点、選択で38点を取れば足りる。
これは、概ね上位65%から66%、真ん中よりかなり下の水準である。

選択科目では、どうか。
今年の労働法の上位5%の得点は、60点である。
そうすると、他の科目は、

(378−60)÷700≒45.4%

すなわち、公法・刑事で90点、民事で136点を取ればよい。
これは、概ね上位40%から43%程度の水準である。

もっとも、必須科目は、複数の科目が合わさった点数である。
民事で上位に入るためには、民法、商法、民訴の3科目全てが総合で上位でなければならない。
その意味では、一つの科目100点満点で考えた方がよいかもしれない。
そういう目でみると、上記の試算は、以下のように言い換えることができる。

通常

33%

1科目優秀

40%から43%

2科目優秀

49%から50%

3科目優秀

65%から66%

全科目を安定して33%以上を取る。
1科目上位5%を取り、その他を上位40%程度取る。
2科目上位5%を取り、その他を上位50%程度取る。
3科目上位5%を取り、その他を上位65%程度取る。

どれを狙うべきか。
確実さという点からは、全科目上位33%を狙うべきだろう。
上位5%というのは、結果的にそうなればよい、という程度のものである。
最初から、得意科目を決めて、この科目だけは上位5%を狙う。
そういう戦略は、失敗しやすい。
また、前記のとおり、必須科目で最低ライン水準のものがあると、挽回は難しい。
仮に足切りを免れたとしても、逆転できない。
それから、上位答案があるからといって、後はボロボロでいいというわけでもない。
他の科目が下位答案(下から3割)だと、3科目上位でも不合格である。
そういう意味でも、安定して真ん中より上、すなわち上位33%に入る。
飛び跳ねはしないが、崩れもしない。
そういう戦略が、正しい。

よく、「守りの答案」などということが言われる。
その言葉の背後には、このような戦略がある。
無理に上位を狙って、結果として大きく外してしまう。
そういうリスクは、できる限り避ける。
必ず訊いている、誰もが書くような論点。
これを、無難にまとめておく。
そうすると、周りが勝手に崩れていくから、結果的に上位3割に入っていく。
こういう発想である。

論文は、短答と違って設問数が少ない。
そして、問題文を読んでも、理想の答案像が想像できない問題が多い。
この場合、何を書けば優秀答案になるのか。
現場では、判断がつかない。
また、仮に、一見して理想の答案像が想像できる問題だったとする。
この場合、ほとんどの受験生が、それを書いてくる。
その上で、上位5%になるには、どこに差を付ければよいのか。
これは、考査委員の採点傾向を知っていないと、判断できない。
仮に、特定の考査委員の採点傾向を知っていたとしよう。
しかし、自分の答案がその考査委員の採点に当たるかは、現場ではわからない。
しかも、同一の考査委員でも、採点の順序等によって、ブレが生じうる。
結局、現場で上位5%に入る答案だ、と確信を持って書くのは不可能である。

他方、受験生の多くがせいぜいこのくらいしか書けないだろうという水準。
これは、そういう意識を持てば、比較的よく想像できる。
その水準を、もう少し整理し、丁寧に書いた答案。
これが、安定上位の合格答案像である。
上位の再現答案などをみても、「俺と同じ構成だ」と思うことがあるだろう。
しかし、その中身が違っている。
論述が整理されているか。
すなわち、関係のない記述が混じっていたりしないか。
それから、丁寧に論述されているか。
すなわち、個々の主張にきちんと理由を付しているか。
そのあたりが、違っていたりする。
逆に言えば、その程度しか、差は付いていない。
しかし、その程度が、決定的な差となっている。

現場では、多くの受験生が、自分の知っていることを全力で書こうとする。
他の受験生の多くが、こう書くだろう、という発想を持っていない。
そのため、その場で思いついたことを全部書こうとして、余事記載が増える。
また、色々なことを書こうとするから、紙幅・時間をロスする。
その結果、慌てて書くことになり、理由付けを落としてしまう。
現場で自分一人が戦っていると思うと、上記のようになりやすい。
しかし、意識的に、他者の答案を想像してみると、案外冷静になれる。
「自分ならこう書く」ではなく、「多くの受験生はこう書くだろう」という構成。
そういう発想だと、思ったよりシンプルな構成が浮かぶはずである。
それをもう少し整理し、丁寧に書いてみる。

もっとも、普段の答練等で、最初からその程度を狙っていくのは、良くない。
これでは「どうせ他の人も書けないだろうし、この程度でいいや」という手抜きの発想になる。
それをやれば、本番ではそれ以下の答案しか、書けなくなる。
他の人の書く水準を想像するだけで、精一杯。
それをさらに整理し、丁寧に書く余裕などない。
結局、他の人と同じような答案を書き殴って、帰って来るハメになる。
これでは、本当に真ん中くらいで落ちる。
答練等では、上位合格答案を書けるよう頑張る。
それによって、自分の実力を伸ばしていく。
すなわち、普段の学習では、他の人を凌駕するレベルを意識すべきである。
他人より実力をつけてこそ、他人が書くとしたらどの程度のレベルかがわかる。
他の人より高い所に登って初めて、下界の人々を見下ろせる。
そして、本試験では、やや肩の力を抜いて、他の受験生よりちょっと良い答案を書く。
このくらいの心の使いかたが、丁度よい。

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