平成23年予備試験論文式試験の結果について

123人

法務省より、平成23年の予備試験論文の結果が公表された。
合格者数は、123人。
受験者ベースの合格率は、1.89%。
短答合格者ベースでは、9.45%だった。
300人、400人くらいは受からせるのでは。
そういう観測もあった。
当サイトでも、以前の記事で100〜500の幅を想定していた。
従って、今回の結果は、想定された中で最も厳しい水準といえる。

論文合格率は末期の旧試験並み

下記は、平成16年度以降の旧試験の論文合格率等の推移である。

年度

択一合格者数

論文合格者数

論文合格率

16

7438

1536

20.6%

17

7637

1454

19.0%

18

3820

542

14.1%

19

2219

250

11.2%

20

1605

141

8.7%

21

1599

101

6.3%

22

742

52

7.0%

末期の旧試験の論文合格率は、一貫して減少傾向であった。
年を追うごとに、過酷なものとなっていた。
今年の予備試験論文は、その旧試験に匹敵する論文合格率である。
短答合格者ベースの9.45%という数字は、平成19年と平成20年の中間にあたる。

旧試験は、合格すれば即修習に向かうことができた。
しかし、予備試験は、司法試験の受験資格を得るに過ぎない。
この程度の合格者数では、末期の旧試験よりも、うまみが少ない。
ハイリスク、ローリターンの試験といえる。
ただ、このことは、今回の結果が出る前から、ある程度織り込まれていた。
下記は、平成18年以降の旧試験の出願者数と、今年の予備の出願者数である。

年度

出願者数

18

35782

19

28016

20

21994

21

18611

22

16088

23

8971

旧試験は、合格者数が急減することがわかっていた。
毎年、受ける価値が小さくなっていっていた。
出願者数の減少は、それを考慮したものといえる。
もっとも、旧試験は最末期になっても1万6千人の出願者がいた。
しかし、予備では一気に9000人を割ってしまっている。
出願する側は、リスクとリターンを予測して、旧試験より受ける価値がない。
そう評価した、ということができる。
その予測は、それなりに当たったことになる。

また、予備の合格者は、新試験にも簡単に受かると思われている。
新試験は、低いと言われながら、受験者合格率は20%を超えている。
受験者合格率1.89%の試験をくぐりぬけた予備合格者なら、余裕だろう。
そういう発想から、言われていることである。
しかし、予備の出願を考える側は、そこまで簡単ではない、と思っているようである。
予備の合格者が、翌年の新試験で確実に合格できるとしよう。
そうであれば、末期の旧試験と同程度には、うまみのある試験となるはずである。
(旧試験との違いは、一年待たされる、ということに過ぎない。)
しかし、出願者は大幅に減った。
すなわち、予備合格=翌年の新試験合格という図式にはならない。
出願する側は、そうみていると考えることができる。

論文の出来はどうだったか

今年の予備論文の合格点は、245点。
平均点は、195.82点だった。
この数字は、どのような意味を持っているのか。

予備論文の採点基準は、新試験のものとほぼ同じである。

司法試験予備試験論文式試験の採点及び合否判定等の実施方法・基準についてより引用)

1.採点方針

(1) 白紙答案は零点とする。

(2) 各答案の採点は,次の方針により行う。

ア.優秀と認められる答案については,その内容に応じ,下表の優秀欄の範囲。
 ただし,抜群に優れた答案については,下表の優秀欄( )の点数以上。

イ.良好な水準に達していると認められる答案については,その内容に応じ,下表の良好欄の範囲。

ウ.良好とまでは認められないものの,一応の水準に達していると認められる答案については,その内容に応じ,下表の一応の水準欄の範囲。

エ.上記以外の答案については,その内容に応じ,下表の不良欄の範囲。
 ただし,特に不良であると認められる答案については,下表の不良欄[ ]の点数以下。

優秀

良好

一応の水準

不良

50点から38点
(48点)

37点から29点

28点から21点

20点から0点
[3点]

(引用終わり)

 

新司法試験における採点及び成績評価等の実施方法・基準についてより引用)

1.採点方針

(1) 白紙答案は零点とする。

(2) 各答案の採点は,各問の配点に応じ,次の方針により行う。
 選択科目において傾斜配点をするときは,これに準ずる。

ア.優秀と認められる答案については,その内容に応じ,下表の優秀欄の範囲。
 ただし,抜群に優れた答案については,下表の優秀欄( )の点数以上。

イ.良好な水準に達していると認められる答案については,その内容に応じ,下表の良好欄の範囲。

ウ.良好とまでは認められないものの,一応の水準に達していると認められる答案については,その内容に応じ,下表の一応の水準欄の範囲。

エ.上記以外の答案については,その内容に応じ,下表の不良欄の範囲。
 ただし,特に不良であると認められる答案については,下表の不良欄[ ]の点数以下。

配点

優秀

良好

一応の水準

不良

200点

200点から150点
(190点)

149点から116点

115点から84点

83点から0点
[10点]

100点

100点から75点
(95点)

74点から58点

57点から42点

41点から0点
[5点]

50点

50点から38点
(48点)

37点から29点

28点から21点

20点から0点
[3点]

(引用終わり)

得点割合と、考査委員の印象との対応が、全く同じである。
そのことから、予備と新試験は、ある程度比較可能である。

以下は、新試験論文の平均点と合格点の推移である(少数点以下切捨て)。
得点割合とは、満点に占める当該得点の割合を示す。
なお、新試験では短答と論文の総合で合格点が決まる。
そこで、論文合格点は、短答合格者の短答平均点を基礎にして算出している。
また、平均点のかっこ書は、最低ライン未満者を含む数字である。

年度

平均点

平均点の
得点割合

合格点

合格点の
得点割合

18

404

50.5%

385

48.1%

19

393

49.1%

388

48.5%

20

378
(372)

47.2%
(46.5%)

385

48.1%

21

367
(361)

45.8%
(45.1%)

378

47.2%

22

353
(346)

44.1%
(43.2%)

372

46.5%

23

353
(344)

44.1%
(43.0%)

369

46.1%

予備の論文は、50点満点の法律基本科目が7科目。
これを合計すると、350点。
加えて、民事、刑事それぞれ50点満点の法律実務基礎。
これが、合わせて100点。
さらに、50点満点の一般教養がある。
司法試験予備試験に関する配点について参照。)
すなわち、全部で500点満点ということになる。
そうすると、合格点245点の得点割合は、49.0%。
平均点195.82の得点割合は、38.5%ということになる。

これと、上記表とを照らし合わせてみる。
そうすると、合格点は予備の方が高いが、平均点は予備の方がかなり低い。
新試験でも、平均点は例年低下し、出来がよくないと言われている。
これと比較しても、予備論文の全体の出来は、相当によくなかった。
考査委員としては、そういう印象だったと考えることができる。
一方で、予備合格者は、新試験でも十分合格水準にある。
これは、出来の悪い中でも最上位(1.89%)を採った結果である。
この数字をみる限り、予備組は新試験で上位陣に位置する可能性が高い。

予備と新試験とでは、考査委員の要求水準が異なる。
従って、単純比較はできないのではないか。
そういう疑問はある。
だが、予備の方が新試験の前段階の試験である。
だとすれば、予備の方が甘くなることはあっても、厳しくなることは考えにくい。
すなわち、予備はロー卒程度として十分な水準か。
他方で、新試験では、法曹として十分な水準かが問われるといえる。
そうすると、予備<新試験となっても、その逆は考えにくい。
にもかかわらず、予備の方が印象が良くないという結果になっている。
従って、要求水準の差は、予備全体の出来の悪さを補強しこそすれ、減殺はしない。
そう考えてよさそうである。
もっとも、予備には、新試験には存在しない科目がある。
すなわち、一般教養と実務基礎である。
実務基礎は、新試験で部分的に問われることがある。
しかし、問題をみる限り、新試験で問われるものより要求水準が高い。
これらの科目が、予備の平均点を下落させたとする考え方は、成り立つだろう。
この点は、各科目の素点段階の平均点がわかれば、確認できる。
しかし、そのような数字は、公表されていない。
仮にそうだとすると、合格者はそのようなハンデにもかかわらず、新試験合格以上の得点割合を取ったことになる。
すなわち、予備合格者は、新試験では相当上位ということになるだろう。

なお、なかには、予備の考査委員に予備を潰す(ローを温存する)意図があったのではないか。
そのために、わざと極端に厳しい評価をしたのではないか。
そういう疑いを持っている人もいるかもしれない。
確かに、予備合格者が増えれば、わざわざローに行く必要がないのでは。
そういう疑問を志望者に抱かせるだろう。
だから、予備合格者数を絞ってしまえ、というのも、理解できなくはない。
しかし、予備合格者を絞ることは、一方で予備の新試験合格率を上昇させる要因となる。
これはこれで、ローの存在意義に疑問を生じさせる。
従って、予備を厳しくすればローを温存できる、というわけでもない。
予備の考査委員が権限を濫用してまでそのような行動に出るというのは、考えにくいだろう。

口述試験について

論文合格者には、次に口述試験が待っている。
旧司法試験にも、口述試験はあった。
しかし、予備と旧試験とで全く違う点がある。
それは、再受験の機会の有無である。
旧試験では、口述で落ちた場合、来年は筆記を免除された。
すなわち、来年は、口述から受験できた。
2年連続で口述に落ちない限り、大丈夫だった。
しかし、予備には、それがない。
口述で落ちれば、一発でアウト。
また、短答から出直しである。

平成23年司法試験予備試験に関するQ&Aより引用)

Q5 旧司法試験のような筆記試験免除の制度はありますか?

A  司法試験予備試験においては,前年に論文式試験まで合格していたとしても,筆記試験免除の制度はなく,短答式試験からの受験となります。

(引用終わり)

おそらく、口述で落ちるのは、10人程度だろう。
しかし、それでも、一発不合格は怖い。
十分な準備をして臨むべきである。

また、試験科目は、法律実務基礎科目に限られる。

司法試験予備試験における出題範囲及び問題数等についてより引用)

第3.口述試験

 出題範囲は,論文式試験の法律実務基礎科目と同様とする。

(引用終わり)

論文式の法律実務基礎とは、民事訴訟実務,刑事訴訟実務及び法曹倫理である。

司法試験予備試験における出題範囲及び問題数等についてより引用)

第2.論文式試験

3.法律実務基礎科目

(1) 出題範囲

 民事訴訟実務,刑事訴訟実務及び法曹倫理とする。

(引用終わり)

従って、公法系は、出題されない。
旧試験の口述のように、憲法判例を覚える必要はない。
また、商法・会社法は一応民事に含まれるが、正面から問われることはないだろう。
もっとも、事案との関係で、付随的に問題になることはある。
例えば、サンプル問題では、部分的に商事時効が絡んでいる。

司法試験予備試験サンプル問題(法律実務基礎科目(民事)【口述試験のイメージ】)

【設例】

 Xは,個人で建築業を営んでいるYから事業資金の融資を頼まれたため,平成16年9月1日,返済期日を平成17年3月31日と定め,Zを連帯保証人として,2000万円をYに貸し付けたが,YもZも,Xに貸金を返済しようとしない。

 (図略)

 

予備試験サンプル問題検討メンバー(法律実務基礎科目(民事))に対するヒアリングより引用、下線は筆者)

 消滅時効の抗弁について問うことが考えられる。例えば,Xが平成22年4月1日に訴えを提起した場合に,Yの訴訟代理人として,抗弁としてどのような主張をすることが考えられるかを問うことで,5年の商事時効期間が経過しており,これが抗弁になることに気付くことができるかどうかを試すことが考えられる。

(引用終わり)

商事時効期間を知らないと、ここのやり取りの入り口でひっかかることになる。
とはいえ、ここまで短答・論文を乗り越えてきた力がある。
限られた時間の中で、敢えて商法・会社法の復習をする必要はないだろう。

民事・刑事で基本科目と重なる部分については、基本概念の定義を答えられるようにしておく。
冒頭で、軽い感じで訊かれる可能性が高い。
ここで動揺してしまうと、後に響く。
また、民訴・刑訴の細かめの手続につき、規則を含めて条文を確認しておきたい。
特に刑事系では、刑訴の手続の条文の比重が大きいので、注意を要する。

司法試験予備試験サンプル問題(法律実務基礎科目(刑事)【口述試験のイメージ】)

(前提事実1)
 警察官Pは,暴力団員Aの知人Bから,Aが覚せい剤の売人をしているらしいとの情報を入手した。

(前提事実2)
 警察官Pは,A方を捜索した結果,微量の覚せい剤を発見し,Aを,その場で,覚せい剤取締法違反(所持)で現行犯逮捕した。

(前提事実3)
 弁護人Qは,Aの内妻から,Aが逮捕されたことで相談を受けた。そこで,弁護人Qは,Aが逮捕された警察署を訪れ,接見を申し入れたところ,警察官Pは,「取調中なので,接見できない。」と言った。

(前提事実4)
 Aは,警察官Pに対し,自宅から発見された覚せい剤について,「覚せい剤ではなく,コカインであると思っていた。」と供述した。

(前提事実5)
 Aの逮捕勾留中,Aの尿から覚せい剤が検出されたが,Aは,覚せい剤を使用した事実はないと供述した。検察官Rは,所要の捜査を遂げた結果,Aの覚せい剤使用の嫌疑は十分であると判断した。

(前提事実6)
 S裁判所は,Aの覚せい剤使用事件の公判審理を行うこととなった。第1回公判期日において,A及び弁護人Qは,覚せい剤使用事実を否認した。また,弁護人Qは,検察官が証拠請求したAの知人Bの「Aが覚せい剤を使用しているのを見たことがある。」旨の検察官面前調書を不同意とした。

 

予備試験サンプル問題検討メンバー(法律実務基礎科目(刑事))に対するヒアリングより引用)

 前提事実1に関しては,例えば,令状による捜索差押えについて質問することが考えられる。質問事項としては,捜索差押許可状の発付要件に関連して,差し押さえるべき物の特定,被疑事実の記載など,あるいは,捜索差押許可状の執行に関連して,令状の提示・立会い,捜索に必要な処分,捜索場所,捜索場所にいる人の捜索などが考えられる。

 前提事実2に関しては,例えば,逮捕・勾留手続について質問することが考えられる。質問事項としては,逮捕・勾留の意義と「事件単位の原則」,逮捕後の手続・時間制限,勾留手続・勾留期間などが考えられる。

 前提事実3に関しては,例えば,起訴前弁護について質問することが考えられる。質問事項としては,弁護人の選任に関連して,弁護人選任権者,弁護人選任届,被疑者国選弁護など,あるいは,弁護人の任務に関連して,弁護人の誠実義務と真実義務など,あるいは,接見交通権に関連して,接見交通権の意義,接見交通権の制限と準抗告などが考えられる。

 前提事実4については,例えば,抽象的事実の錯誤について質問することが考えられる。

 前提事実5については,例えば,公訴の提起について質問することが考えられる。質問事項としては,公訴提起に関連して,公訴提起の方式,公訴事実,起訴状一本主義など,あるいは,訴因の特定に関して,訴因の意義,訴因の特定,否認事件における覚せい剤使用の罪の訴因などが考えられる。

 前提事実6については,公判手続について質問することが考えられる。質問事項としては,例えば,第1回公判期日における公判手続に関連して,冒頭手続,罪状認否,第1回公判期日の意味など,あるいは,証拠調手続の進行に関連して,検察官による証拠調請求,立証趣旨の明示,証拠調請求に対する意見,書証不同意の場合の訴訟指揮,あるいは,証人尋問に関連して,遮へいやビデオリンクといった証人の保護,主尋問,誘導尋問の禁止といった証人尋問の方法などが考えられる。

 これらは飽くまでも考えられる論点の一部にすぎないが,刑事訴訟法の解釈上の問題もあれば,実務を理解する上で押さえておくべき実務的な事項も含まれている。手続に関して補足すると,刑事手続について単に条文を知っているということではなく,手続の流れの中で,警察官や検察官,弁護士,裁判官がどのように活動するのかを理解しておく必要があるので,質問の仕方についても,例えば,「あなたが弁護士であれば,どのような手続を採るか」というように,自分がまさにその立場にあるとしたら,どのように活動するのかを考えさせるような発問をすることが適当であろうと考えている。

(引用終わり)

上記で、前提事実4が刑法総論であるが、他は全て刑訴である。
その中でも、手続がどうなっているか。
その知識を問うというものが多い。
これらは、条文の内容を知っていないと、答えられない。
どのような場合にどういう手続になるのか。
質問されれば即答できるよう、準備しておきたい。

実務基礎独自の部分としては、民事は要件事実と執行・保全である。
要件事実については、近時、問題研究の最新版 が出た。
それほど厚い本ではなく、今からでも十分読める。
この教材は、予備論文の要件事実の知識水準として想定されている。

予備試験サンプル問題検討メンバー(法律実務基礎科目(民事))に対するヒアリングより引用、下線は筆者)

 司法研修所が編集して市販されている「問題研究要件事実」という書籍が法科大学院の教科書として最も良く利用されていると思うが,基本的には,そこに出てくる知識を十分理解していれば書ける程度の問題としている

(引用終わり)

設例から事実整理ができるかを試すことで、問題集としても使用できる。
各設例をみて、頭の中である程度事実を整理できるようになっておきたい。
要件事実は、サンプル問題でも幅広く問うことが想定されている。

予備試験サンプル問題検討メンバー(法律実務基礎科目(民事))に対するヒアリングより引用、下線は筆者)

 第2に,訴えの提起について問うことが考えられる。すなわち,受験者がXの訴訟代理人として訴えを提起するという立場にあるとして考えさせるということである。例えば,訴訟代理人として訴えを提起する場合にまず考えなければならないことは何かを問うことで,訴訟物を意識しているかどうかを確認するとともに,訴状には何を記載しなければならないか,訴状に記載すべき請求原因とは何かを問うことで,請求の趣旨や請求原因についての基礎的な理解を確かめることが考えられる。その上で,XのYあるいはZに対する請求原因事実として具体的に何を記載することになるかを問うことが考えられ,併せて,受験生の理解度に応じて,例えば,Xが死亡し,Xの相続人AがYに対して訴えを提起する場合や,Xが,AのYに対する貸金債権をAから譲り受けたと主張して,Yに対し,その貸金の返還を求める訴えを提起する場合など,設例を変えて請求原因事実を質問したり,あるいは,例えば,主債務者Yと保証人ZがXに対する債務を連帯して負担することがZに対する請求において攻撃防御方法としてはどのように位置付けられるかについて質問したりしながら,更に理解度を確かめることも考えられる。また,どのような証拠を訴状に添付して提出することになるかを問うことも考えられ,関連して,証拠となるべき文書の写しで重要なものを訴状に添付しなければならないとされている趣旨について質問することも考えられる。

 第3に,請求原因等に対する認否について問うことが考えられる。すなわち,受験生が被告であるYから相談を受けた弁護士という立場にあるとして考えさせるということである。例えば,Yから訴訟の追行を委任された場合にYの訴訟代理人としてまず何をすべきかを問うことで,Yから事情聴取をして事実に対する認否を明らかにする,あるいは抗弁として提出できるものを考えるということを答えさせると同時に,請求原因に対する認否が必要とされるのはなぜかを問うことで,民事訴訟は,争いのない事実と争いのある事実を明らかにし,争点を明らかにした上で進めるものであるという基本的な理解を確認することが考えられるだろう。さらに,認否の態様にはどのようなものがあるか,裁判所は,認否の態様に応じて,認否された事実をそれぞれどのように扱うことになるかを問うことも考えられ,あるいは,Yが事情聴取で「借りた覚えがない。」,「受け取ったのは事実だが,選挙資金としてもらったものである。」,又は,「確かに借りたが,既に弁済した。」と述べた場合に,それが訴訟での陳述であったとしたら,それぞれの陳述がどのような意味を有し,何が争点となるかを問うことで,Yの訴訟代理人としてどのような認否をし,どのような抗弁を提出することになるのかといったことを具体的に尋ねることが考えられる。また,例えば,Xから本件消費貸借契約書について書証の申出がされていたところ,Yが「受け取ったのは事実だが,選挙資金としてもらったものである。」との陳述をした場合,裁判所は,当該契約書の証拠調べを行うに際して,何をする必要があるか,それはどのような理由によるものかを問うことにより,文書の形式的証拠力についての理解を試すことも考えられる。

 第4に,消滅時効の抗弁について問うことが考えられる。例えば,Xが平成22年4月1日に訴えを提起した場合に,Yの訴訟代理人として,抗弁としてどのような主張をすることが考えられるかを問うことで,5年の商事時効期間が経過しており,これが抗弁になることに気付くことができるかどうかを試すことが考えられるし,その場合の抗弁となるべき具体的事実は何かを問うことも考えられる。また,Yだけが消滅時効の抗弁を主張した場合,このYの主張は,XZ間の訴訟に影響を及ぼすかを問うとともに,これに関連して,保証人の時効援用権の有無等や,このような場合に裁判所としてはどのように対処すべきかについて質問することも考えられる。第5に,相殺の抗弁について問うことが考えられる。例えば,Xが訴えを提起し,受験者がYの訴訟代理人となった後,Yから,Xに対して平成17年5月1日付けで行われた土地の売買契約についての2500万円の売買代金請求権を有しているという話を聞いた場合に,抗弁として,どのような主張をすることが考えられるかを問うことで,反対債権を有しているのであれば相殺の抗弁を主張できるということに気付くことができるかどうかを試すことが考えられる。また,この場合,反対債権である売買代金請求権は,双務契約に基づく債権で,同時履行の抗弁権が付着しているケースであるので,自らの債務のうち移転登記手続を履行してその抗弁権の存在効果を消滅させていることが相殺の要件となる。そこで,相殺の主張をするために,Yの訴訟代理人として,あらかじめY本人に確認しておくべき事実としてはどのようなものがあるか,と問うことで,そのことに気付くかどうかという実体法上の知識を試すことも考えられる。

(引用終わり)

上記のうち、最後の存在効果説の部分は、問題研究では足りない。
現場で試験官に誘導してもらうという方法でも、何とかなることもある。
ただ、それでは不安だという人もいるだろう。
そういう人は、30講 などで補充をするとよい。
要件事実は、上記のように重視されている。
ある程度時間をかけても、よいところだろう。

執行・保全については、手が回っていない人が多い。
それでも、最低限手続の流れだけは押さえたい。
どのような場合に、どのような手続をしていくのか。
各段階で、どのような不服申立て制度があるのか。
それぞれの対応関係を、覚える。
ここはイメージだけでなく、手続の名前との対応できちんと覚えよう。
これは、覚えていないと答えられないからだ。
他方で、論点的な部分は、落としても構わない。
サンプル問題でも、事案を前提にどのような執行・保全手段があるか。
その程度の質問が想定されている。

予備試験サンプル問題検討メンバー(法律実務基礎科目(民事))に対するヒアリングより引用、下線は筆者)

 民事保全について問うことが考えられる。すなわち,受験者がXから相談を受けた弁護士という立場にあるとして,YとZに対して2000万円の支払を求める訴えを提起しようとする場合,貸金の回収のために訴えの提起に先立って検討しておくべき手続としてどのようなものがあるかを問うことが考えられる。

 (中略)

 民事執行について問うことが考えられる。例えば,XがYに対する勝訴判決を取得したものの,Yが貸金の返還義務を任意に履行しない場合,貸金を回収するために,Xはどのような手続を採ることが考えられるか,ということを問うことが考えられる。

 (中略)

 御説明では,民事保全を冒頭で聞くようなイメージだったが,訴えの提起から聞き始めて,最後に,この事案で民事保全を行うとすればどのような手続が考えられるかという形で,民事保全なり民事執行について聞くということも考えられるであろう。

 そのあたりは,考査委員がどのような出題方針で実際の試験に臨むかというところではないか。

(引用終わり)

ヒアリングでは、冒頭で訊くか、最後に訊くか。
両方の可能性が示されている。
仮に、冒頭で訊かれた場合、答えられないと動揺しやすいだろう。
通常、ここを答えられなくても、その後の質問の流れには影響しにくい。
現場で答えられなくても、気にしないことが重要である。

刑事実務特有の部分は、事実認定である。
論文でも正面から問われたから、これが問われる可能性はある。
ただ、これはガチガチに固めるような分野ではない。
まずは、最判平22・4・27の全文(個別意見も含めて)を読んでおこう。
これだけで、ある程度事実認定の基本的な考え方はつかめる。
あとは、余裕があれば薄めの本をざっと読んでおくとよい。
内容を覚えるというよりは、こんな感じで考えればいいんだな、という感覚をつかみたい。

法曹倫理は、民事で付随的に問われる可能性がある。

予備試験サンプル問題検討メンバー(法律実務基礎科目(民事))に対するヒアリングより引用)

 この口述試験のイメージを基に,法曹倫理について問うことも考えられる。例えば,複数の訴訟当事者から依頼を受けた場合の利益相反の可能性について問うことが考えられる。具体的には,受験者がYとZから訴訟追行の委任を受けることになった場合,弁護士倫理上,どのような点に留意すべきかを問う,すなわち受任に当たっての留意事項について問うことが考えられる。あるいは,受験者がYとZの訴訟代理人となった訴訟で,XのYとZに対する請求を認容する判決が確定した後,Zから,Xに全額を弁済したのでYに対して求償したいとの依頼があった場合,受験者がこの事件を受任することに弁護士倫理上の問題はあるかを問う,すなわち,敗訴判決を受けた以降に被告の一方から他方に求償する訴訟の訴訟代理人を受任していいのかを問うことも考えられる。

(引用終わり)

ただ、現場で問題点を指摘できれば、十分といった感じではないか。
対策するとしても、薄めの本をざっと読む程度だろう。

口述の事例は、通常シンプルなものであることが多い。
現場で長文を読ませる時間が、ないからである。
サンプル問題も、そうなっている。
ただ、民事、刑事いずれも、事前に長めの問題文を読ませるという形式がありうる。

予備試験サンプル問題検討メンバー(法律実務基礎科目(民事))に対するヒアリングより引用、下線は筆者)

 平成20年11月12日の司法試験委員会に当時の検討メンバーが報告した,実務基礎科目の出題の在り方についての検討結果に,「試験の実施方法として,受験生にあらかじめ(考査委員との面接の前に)事例を示して分析をさせる方法は検討に値するのではないか。」と記載されており,この方法については,なお十分検討に値すると考えている。しかし,受験者の人数その他の関係でその方法を採れるかは,現時点では分からないので,今回のイメージは,事前に事例を読ませるという前提ではなく,受験者にその場で図を示しながら設例を読み聞かせ,その設例に基づいて質問するという方法を前提とした。

(引用終わり)

 

予備試験サンプル問題検討メンバー(法律実務基礎科目(刑事))に対するヒアリングより引用、下線は筆者)

 口述試験については,受験者数が未定であり,現時点では一人に掛けられる時間が想定できないので,事前に書面を読ませる形式を前提としない形でのイメージをお示しすることとした。ただし,口述試験の時間が十分確保できるのであれば,平成20年11月12日の司法試験委員会に当時の検討メンバーが報告した,実務基礎科目の出題の在り方についての検討結果にあるとおり,事例問題をあらかじめ検討させた上で,口述試験を実施するという方式も十分考えられる

(引用終わり)

一応、そういう場合もあるという心の準備をしておきたい。

口述の現場で重要なことは、「すぐに、訊かれたことだけに答える」ということである。
口述は、時間が限られている。
沈黙は、それだけでロスになる。
とはいっても、すぐに思い出せない、ということがあるだろう。
その場合は、思い出した部分だけ断片的に答える。
そうすると、試験官がヒントを出す等して補ってくれる。
それに乗って、答えればよい。
また、訊かれていないことに答えることも、同様に時間をロスする。
受験生は、論文で理由→結論という書き方に慣れている。
そのため、つい理由から答えてしまいがちだ。
しかし、口述では結論だけ答えればよい。
理由は、「どうしてそう考えるの?」というように訊かれたときでよい。
1問1答の原則を、きちんと守るのが大事である。

それから、口述の試験官は、いわゆる圧迫面接的な雰囲気を出すことが多い。
挑発に乗ってケンカしたり、泣きそうになって沈黙したりしてはならない。
精神的には辛いが、淡々と対応するよう努めるべきである。
また、重要なテクニックとしては、「撤回」ができることを知っておきたい。
前の発言が間違っていると思ったら、「先ほどの○○は撤回します」と言って訂正できる。
試験官に前言の問題点を指摘された場合に、強情に間違いを認めない人は、落ちやすいと言われている。
一度発言した以上、絶対に筋を通さないといけない。
そういう思い込みがあると、間違いを訂正できなくなってしまう。
実際には、撤回するよりも、頑なに撤回しない方が落ちやすい。
これは、意識しておきたい。
安易に撤回するのはよくないが、間違いに気付いたら素直に撤回しよう。
口述は、旧試験でも、基本的には落ちない試験だった。
細かいミスを取り繕うために、大きな人格的欠陥を晒すことのないよう、注意する。
それさえ心がければ、まず大丈夫である。

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