平成23年新司法試験論文式
刑事系第2問の感想と参考答案

超多論点問題

第1問の刑法と同じく、当てはめ重視の多論点問題である(問題はこちら)。
ただ、論点の数が多すぎる。
設問1は、別件逮捕勾留、通常逮捕・現行犯逮捕・勾留・勾留延長の各要件の当てはめ、別件逮捕勾留後の本件での逮捕勾留と再逮捕との関係。
設問2は、実況見分調書の証拠能力、電磁的記録を出力した書面の供述証拠性、写しの証拠能力、再伝聞、共同被告人の供述の証拠能力(付随して共同被告人の証人適格)、黙秘又は証言拒絶が供述不能事由に当たるか(供述不能事由は例示列挙か、制限列挙か)、精神状態の供述、各伝聞例外規定の当てはめ、伝聞と非伝聞の区別等、非常に多い。
極端にコンパクトな論述が必要だ。
また、まとめ切れないと思ったら、重要性の低そうなものは敢えて落とす。
そういう決断が、必要だった。

設問1について

設問1では、別件逮捕勾留の論点があることが明らかである。
結論的には、いつもどおり自説からコンパクトに書けばよかった。
ただ、多くの人が、書いていて気持ち悪いと思ったはずである。
その理由は、普段とは逆の問題設定になっていることにある。
通常、別件逮捕がされる場合、逮捕時には捜査機関の意図はわからない。
これが、議論の出発点である。
別件基準説は、わからないのだから仕方がないという立場。
本件基準説は、余罪取調べ等も考慮して、事後的に判断すればよいとする立場。
実体喪失説は、別件の身柄拘束として必要な範囲と、そうでない部分で区別する立場。
(別件の身柄拘束として不必要な部分は、本件を意図した過剰な身柄拘束になると考える。)
荒っぽくいえば、そういうことになる。
すなわち、捜査機関の意図は不明であるが、客観的事情からそれを認定しようという発想が、根底にある。

しかし本問では、捜査機関の意図が当初から明らかである。

(問題文より引用、下線は筆者)

4 その一方,司法警察員Pは,V女に対する殺人,死体遺棄事件を解明するため,甲及び乙を逮捕したいと考えたものの,まだ,[メール@]だけでは,証拠が不十分であると判断し,V女に対する殺人,死体遺棄事件以外の犯罪事実により甲及び乙を逮捕するため,部下に対し,甲及び乙がV女に対する殺人,死体遺棄事件以外に犯罪を犯していないかを調べさせた。

(引用終わり)

一方、具体的な取調べの態様等をみると、どの説からも適法になりそうである。

(問題文より引用、下線は筆者)

6 甲に対する取調べは,司法警察員Pが担当し,乙に対する取調べは,司法警察員Qが担当していたところ,司法警察員P及びQは,いずれも,同月15日,甲及び乙に対し,「他に何かやっていないか。」などと余罪の有無について確認した。
 すると,甲は,同日,「V女の死体を『一本杉』付近に埋めた」旨を供述したため,司法警察員Pは,同日及び翌16日の2日間,V女が死亡した経緯やV女の死体を遺棄した経緯等を聴取した。これに対し,甲は,[メール@]の内容に沿う供述をしたものの,上申書及び供述録取書の作成を拒否した。そのため,司法警察員Pは,同月17日から,連日,前記強盗事件に関連する事項を中心に聴取しながら,1日約30分間ずつ,V女に対する殺人,死体遺棄事件に関する上申書及び供述録取書の作成に応じるように説得を続けた。しかし,結局,甲は,この説得に応じなかった。なお,司法警察員Pは,甲の前記供述を内容とする捜査報告書を作成しなかった
 一方,乙は,同月15日に余罪がない旨を供述したので,司法警察員Qは,以後,V女に対する殺人,死体遺棄事件に関連する事項を一切聴取することがなかった

(引用終わり)

すなわち、本問は捜査機関の別件逮捕の意図がわかっているが、客観的にはそう認定できない事例である。
現実には、ちょっと考えにくい設定である。

Pは結果的に本件の殺人、死体遺棄事件の逮捕(逮捕BC)に成功している。
別件の身柄拘束中の取調べでは、本件について何らの証拠も得られていない。
(甲のメール@に沿う供述は、結局証拠化されていない。)
にもかかわらず、本件で逮捕できたのは、なぜか。
それは、逮捕@A以降に新たな物的証拠を発見した。
すなわち、甲の携帯電話と乙のパソコンからメールA−1、A−2を発見できたためである。
(メール@だけでは証拠不十分だったのであるから、上記によって初めて逮捕できたと考えるべきである。)
このようにみると、Pの手口は巧妙である。
取調べで露骨に本件を取り調べると、別件逮捕として違法となりかねない。
そこで、取調べは任意の範囲にとどめ、別件に係る物的証拠収集名目で、本件に係るメールを取得する。
そのメールを疎明資料として、本件の逮捕を実現したのである。
(なお、犯罪事実を認定する場合ではないから、逮捕の疎明資料には伝聞証拠も用いることができる。)

そうか、だとすれば、本問の真の論点は、別件捜索差押えではないか。
そう思って、別件捜索差押えを大展開する。
それは、評価を落とすだろう。
本問は、別件捜索差押えを書かせないための工夫が、随所にある。

(問題文より引用、下線は筆者)

4 ・・その後,司法警察員Pは,この供述録取書等を疎明資料として,前記強盗の被疑事実で甲に係る逮捕状の発付を受け,同月11日,同逮捕状に基づき,甲を通常逮捕した【逮捕@】。そして,その際,司法警察員Pは,逮捕に伴う捜索を実施し,甲の携帯電話を発見したところ,前記強盗事件の共犯者を解明するには,甲の交遊関係を把握する必要があると考え,この携帯電話を差し押さえた。なお,この際,甲は,「差し押さえられた携帯電話については,私のものであり,私以外の他人が使用したことは一切ない。」などと供述した。・・(略)

5 ・・乙は,司法警察員Qの取調べに対し,犯罪事実について黙秘した。そこで,司法警察員Pは,乙の万引きに関する動機や背景事情を解明するには,乙の家計簿やパソコンなど乙の生活状況が判明する証拠を収集するよりほかないと考え,同日,窃盗の被疑事実で捜索差押許可状の発付を受け,部下と共に,乙が単身で居住する自宅を捜索し,乙のパソコン等を差し押さえた。
 その後,司法警察員Pは,同日中に,H県警察本部内において,差し押さえた乙のパソコンに保存されたデータの内容を確認したところ,Bと乙との間におけるメールの交信記録が残っているのを発見した。そして,その中には,[メールA−1]及び[メールA−2]と同様のBがV女の死体を遺棄したことに対する報酬に関するメールの交信記録が存在した。

 (中略)

〔設問1〕【逮捕@】ないし【逮捕C】及びこれらの各逮捕に引き続く身体拘束の適法性について,具体的事実を摘示しつつ論じなさい。

(引用終わり)

捜索差押えにおける捜査機関の主観が、すでに認定されている。
これも、ちょっと現実にはありえない設定である。
その趣旨は、殺人、死体遺棄(本件)の解明の目的で捜索差押えをした。
そのような認定をして別件捜索差押えを議論する余地を、封じる点にあるのだろう。
(そのため、事例4冒頭で逮捕の目的は殺人・死体遺棄の解明と明示されているのに、いざ逮捕すると今度は急に別件の強盗、窃盗の解明を目的に動くという、不自然な問題文になっている。この点も、本問の解きにくさ、気持ち悪さの要因である。)
また、設問1は身柄拘束の適法性を訊いており、捜索差押えの適法性は訊いていない。
結果的に、細かいことを気にせず、いつもどおり書いた者が、上位になる。
事例4冒頭で捜査機関の意図が書いてあっても、知らないフリをして客観的事情から当てはめれば足りる。
多くの受験生が、そうやって書くことが予測できるからである。
捜査機関の別件逮捕の意図が明らかなのだから、それだけで違法だ。
そのような立場も、理論的にはあり得る。
(客観的事実から認定できない以上、主観的意図を断定できるはずがないという批判があるだろうが、そういう問題文だから仕方がない。)
しかし、そんなことを答案に書けば、大きく評価を下げるだろう。

なお、乙宅の捜索は、別件捜索とは無関係に、違法の疑いがある。
現認のある軽微な万引きについて、重ねて証拠収集をする必要がなさそうだからである。
とはいえ、適式に令状に基づいて行われている。
令状審査の段階で、軽微な現行犯事例でありながら、捜索の必要性があると判断されたのだろう。
(しかし、その理由は全く不明である。)
また、「乙の万引きに関する動機や背景事情を解明するには、乙の家計簿やパソコンなど乙の生活状況が判明する証拠を収集するよりほかない」という判断が、全く不合理とも断定できない。
なぜそのような判断に至ったのか、その過程が全く不明だからである。
従って、乙の勾留や、捜索により発見された乙のパソコンのメールを疎明資料とする逮捕B及びCの適法性には、影響しないと考えておいてよいだろう。

他には、解釈論らしいものはない。
逮捕、勾留、勾留延長につき、実体要件を淡々と当てはめていけばよい。
(手続要件については、問題になりそうなところがない。)
とはいえ、一つ一つ書こうとすると、かなりの量になる。
全てを丁寧に書く余裕はないから、個々の論述は雑になってもやむを得ないだろう。
例えば、逮捕@では、逮捕の理由の当てはめでWの供述録取書を使う。
問題文では、面割りの状況がある程度書いてある。
できれば、それも引用、評価して当てはめたい。
しかし、ちょっと余裕がないという印象である。
現場では勇気がいるが、省略して書かざるを得ないだろう。

本問の事実関係は、曖昧な部分が多い。
例えば、甲が強盗事件の犯人の一人に酷似しているとされる。
しかし、いかなる証拠に基づいてそう判断されたのかは、書いていない。
防犯カメラに映っていたのか、その他の物証・証言があるのか。
まったくわからない。
また、店員Wは、直接の目撃者なのか。
(強盗の被害者には、直接暴行脅迫を受けた者だけでなく、犯行当時に現場にいなかった被害品の管理責任者も含まれる。)
そうだとして、目撃状況は、どうだったのか。
(サングラスにマスクであったのか、素顔だったのか、犯人との距離や店内の明るさ等。)
「複数の写真」とあるが、具体的に何枚だったのか。
甲以外の写真は、どんな容ぼうの人物だったのか。
(甲のみ男性で、他の写真が全て女性であれば、Wにおいて甲の容ぼうにつき何らの記憶がなくても、当然甲の写真を選ぶだろう。)
Wは、なぜ甲の写真を選んだのか。
(単に髪型が似ている程度であるのか、複数の特徴点が一致しているのか、あるいは顔に際立った傷跡等があり、それが一致していたのか。)
さらに、疎明資料は、「供述録取書等」となっている。
この「等」とは何であるのか。
この辺りが、全く不明である。
(逮捕BCについては、そもそも疎明資料すら不明である。
もっとも、この点は、メールA−1、A−2の発見が逮捕につながったことを読み取れるか。
それを試すために、敢えてボカした可能性もある。)
本来であれば、これでは結論の出しようがない。
しかし、それでは本試験で点が取れない。
ごまかしながら、書いていく必要がある。

乙の現行犯逮捕の当てはめは、さらに悩む。

(問題文より引用、下線は筆者)

5 同月13日,司法警察員Pの指示を受けた部下である司法警察員Qが,乙を尾行してその行動を確認していたところ,乙がH県I市内のスーパーMにおいて,500円相当の刺身パック1個を万引きしたのを現認し,乙が同店を出たところで,乙を呼び止めた。すると,乙が突然逃げ出したので,司法警察員Pは,直ちに,乙を追い掛けて現行犯逮捕した【逮捕A】。

(引用終わり)

突然、Pが登場する。
現場では、多くの人が下線部を「司法警察員Qは」の誤植と考えただろう。
問題文から、Pが現場に臨場しているとは読めないからである。
また、仮にPが現場にいて乙を追い掛けたとしよう。
だとしても、現認から身柄確保までの時間的場所的間隔がどの程度なのか。
PとQに、どの程度の連絡があったのか。
その辺りが明示されていないと、当てはめようがない。
現場の対応としては、現行犯逮捕はあっさり適法にする、とするよりないだろう。
この点につき、司法試験委員会は後日、以下のような文書を公表した。

平成23年新司法試験論文式試験刑事系科目第2問について、下線は筆者)

 平成23年新司法試験論文式試験刑事系科目第2問について,問題文に不適切な点がありましたので,以下のとおりの取扱いとすることといたしました。

 刑事系科目第2問の問題文においては,逮捕Aの逮捕者が司法警察員Pとなっていますが,同人が乙を現行犯逮捕した経緯についての情報が不足しており,また,そのため,逮捕者が万引きの現認者とは別人であるのか否かが読み取りにくい不適切な設問となってしまいました。採点に当たっては,逮捕者について,現認者と異なる司法警察員Pと読み取った者も,そうでない者も,いずれであっても,それぞれの事実を前提に適切な論述がなされているかどうかで評価します

 試験問題に不適切な点があったことを心からおわび申し上げます。

単純な誤植を除けば、このような謝罪の文書を出したのは、初めてのことである。
当初の意図としては、犯罪及び犯人の明白性は、逮捕者になければならない。
では、現認者Qと異なるPが逮捕した場合はどうか。
それを、問いたかったようである。
QとPを同一視できるほど緊密な連絡態勢があれば、現行犯逮捕として適法。
Pとの関係では現行犯ではないが、Qに追呼されていると考えれば、1号の準現行犯。
そういった感じになるのだろう。

問題は、これを論点とした人と、あっさり適法とした人。
その得点は、どうなるのか、ということである。
短答の場合には、全員正解として扱ったりする。
その発想だと、差をつけない、となりそうである。
だとすると、論点として書いた人は、損をしたことになる。
書いても差のつかない部分に、紙幅と時間を割いてしまったからである。
ただ、「それぞれの事実を前提に適切な論述がなされているかどうかで評価します」という表現は微妙である。
現認者は異ならないと考えれば、ほとんど書くことはない。
前記のとおり、時間的場所的接着性等に関する事実は、挙がっていないからである。
そのような論述をもって、「適切な論述」と評価されるのか。
よくわからない。
この点は、敢えてボカしている、という印象だ。
実際には、考査委員の裁量ということになっているのだろう。
結果として、どの考査委員に当たるかによって得点が変わる可能性がある。
これは、もう運である。
本試験というのは、こういうものである。
こういうことは、いつもある。
わざわざ謝罪文を出したことが、珍しいだけである。
前述のように、本問では、曖昧であったり不自然である等の不適切な部分は、他にもたくさんある。
それでも、受験生は、解かなくてはならない。
予備校答練では、模範解答例を出さなくてはいけない。
また、おかしな出題をすれば、受講生からクレームが来る。
だから、比較的素直な筋が簡単に想定できる問題が多い。
予備校答練における難問というのは、単に論点が多いか、論点がマイナー過ぎるか。
そのどちらかである。
しかし、本試験は、それとは異質の書きにくさがある。
「さすが、本試験」と言われる部分である。
上記は通常、本試験問題がよく練られている、考え抜かれた問題だ、という意味で使われる。
しかし実際には、多くの場合そうではない。
解く側のことを考えない、いい加減な出題によるところが大きい。
その点は、過去問を検討する際に、気をつけるべきことである。

設問2について

設問2は、主として伝聞法則を問う問題である。
前述のように、別件捜索差押えを問題にして違法収集証拠排除を論じるべきではない。

まず、捜査報告書は、一般に321条1項3号の書面とされる。
しかしそれは、通常捜査官が被疑者、被害者、目撃者等から聴取した事柄(供述調書にする前段階のもの、例えば、犯行直後の被害者や犯行現場付近住民への聞き取り調査の結果等)を含むからである。
捜査報告書であっても、単に捜査官が認識した事項を報告するに過ぎないものは、3号書面ではない。
その性質は、任意の検証(実況見分)の結果の記載である。

(参考)最判昭47・6・2より引用、下線は筆者

 本件「鑑識カード」を見るに、まず、被疑者の氏名、年令欄に本件被告人の氏名、年令の記載があり、その下の「化学判定」欄は、赤羽警察署巡査Aが被疑者の呼気を通した飲酒検知管の着色度を観察して比色表と対照した検査結果を検知管の示度として記入したものであり、また、被疑者の外部的状態に関する記載のある欄は、同巡査が被疑者の言語、動作、酒臭、外貌、態度等の外部的状態に関する所定の項目につき観察した結果を所定の評語に印をつける方法によつて記入したものであつて、本件「鑑識カード」のうち以上の部分は、同巡査が、被疑者の酒酔いの程度を判断するための資料として、被疑者の状態につき右のような検査、観察により認識した結果を記載したものであるから、紙面下段の調査の日時の記載、同巡査の記名押印と相まつて、刑訴法三二一条三項にいう「検証の結果を記載した書面」にあたるものと解するのが相当である。つぎに、本件「鑑識カード」のうち「外観による判定」欄の記載も、同巡査が被疑者の外部的状態を観察した結果を記載したものであるから、右と同様に、検証の結果を記載したものと認められる(もつとも、同欄には、本来は「酒酔い」、「酒気帯び」その他の判定自体が記載されるべきものであろう。もしその趣旨における記載がなされた場合には、その証拠能力は、別に論ぜられなければならない。)。しかし、本件「鑑識カード」のうち被疑者との問答の記載のある欄は、同巡査が所定の項目につき質問をしてこれに対する被疑者の応答を簡単に記載したものであり、必ずしも検証の結果を記載したものということはできず、また、紙面最下段の「事故事件の場合」の題下の「飲酒日時」および「飲酒動機」の両欄の記載は、以上の調査の際に同巡査が聴取した事項の報告であつて、検証の結果の記載ではなく、以上の部分は、いずれも同巡査作成の捜査報告書たる性質のものとして、刑訴法三二一条一項三号の書面にあたるものと解するのが相当である。
 以上のごとく、本件「鑑識カード」は、被疑者との問答の記載のある欄ならびに「飲酒日時」および「飲酒動機」の両欄の記載部分を除いて、刑訴法三二一条三項にいう「検証の結果を記載した書面」にあたるものと解するのが相当であり、また、このように解しても憲法三七条二項に違反するものではない。

実況見分調書については、最判昭35・9・8がある。

(最判昭35・9・8より引用)

 刑訴三二一条三項所定の書面には捜査機関が任意処分として行う検証の結果を記載したいわゆる実況見分調書も包含する。

(引用終わり)

実況見分結果の記載としての性質を有する捜査報告書も、321条3項の書面ということになる。
本問の捜査報告書は、Pがパソコンや携帯のデータを確認した結果の報告である。
従って、321条3項の書面である。

この部分は、丁寧に書くと以下のようになる。

 犯罪事実の認定は、証拠能力のある証拠によらなければならない(証拠裁判主義、317条)。公判廷供述に代えて書面を証拠とする場合、321条以下の伝聞例外に該当しない限り、証拠能力が認められない(伝聞法則、320条1項)。
 本問で資料1は「殺人及び死体遺棄に関する犯罪事実の存在」を立証趣旨とするから犯罪事実の認定に用いることが明らかである。資料2は、「死体遺棄の報酬に関するメールの交信記録の存在と内容」を立証趣旨とする。交信記録の存在及び内容自体は犯罪事実ではないが、そのような内容のメールの存在により、報酬の約束を推認させ、ひいては報酬発生の原因である死体遺棄の犯罪事実自体の存在をも推認させることになるのであるから、犯罪事実の認定に用いるものといえる。従って、Pの公判廷供述に代えて資料1、資料2を証拠とするには、伝聞例外に該当することを要する。
 本問の資料1、資料2の捜査報告書は、Pが任意処分として、乙のパソコン及び甲の携帯電話を五感の作用で認識した結果を記載した書面であるから、実況見分調書と同様の性質を有する。そこで、実況見分調書はいかなる規定により伝聞例外となりうるかを検討する。
 そもそも、伝聞法則の趣旨は、供述証拠には知覚、記憶、表現(叙述)の各過程に誤りが混入しやすく、反対尋問による吟味が必要であるところ、書面又は公判廷外供述を証拠とする場合には反対尋問の機会がないことから、証拠能力を否定する点にある。他方で、321条以下の伝聞例外を認めた趣旨は、事案の真相解明のためには上記危険を考慮しても書面又は公判廷外供述を証拠とせざるを得ない場合もあり得ることから、必要性と信用性の両面を考慮して証拠能力を許容した点にある。
 これを実況見分調書についてみる。実況見分とは、任意処分として行う検証である。検証とは、五感の作用によって対象の客観的な性状等を認識する処分である。その結果を証拠とする場合、口頭による説明よりも、書面を用いる方が理解が容易であり、かつ脱落等のおそれがない。従って、書面を証拠とすべき必要性がある。また、客観的な性状等を直接確認して記載するという処分の性質上、真正に作成される限りにおいて過誤の混入するおそれは一般の供述と比較して小さいから、信用性の情況的保障がある。そのため、321条3項は作成者の真正作成供述をもって伝聞例外を認めている。上記のことは、強制処分として行ったか、任意処分として行ったかによって、異なるところはない。従って、任意処分としての検証の結果を記載した実況見分調書についても、同項によって伝聞例外となると解される。
 以上から、本問で資料1及び資料2の証拠能力を認めるためには、321条3項により作成者Pの真正作成供述を要する。

これだけで1138文字であり、2ページくらいはあるだろう。
とてもではないが、このようには書けない。
全体のバランスからすると、3、4行で収める必要がある。
そうなると必然的に、極めて不十分な論述になる。
しかし、それはやむを得ないことである。
これは1つの例であるが、他の部分でも同様の工夫が必要となる。

資料1、2に添付されたメールは、いずれもデータを印刷したものである。
その過程に伝聞法則の適用があるか、一応問題となる。
想起すべき類似論点は、現場写真の供述証拠性である。
この点については、最決昭59・12・21がある。

(最決昭59・12・21より引用、下線は筆者)

 犯行の状況等を撮影したいわゆる現場写真は、非供述証拠に属し、当該写真自体又はその他の証拠により事件との関連性を認めうる限り証拠能力を具備するものであつて、これを証拠として採用するためには、必ずしも撮影者らに現場写真の作成過程ないし事件との関連性を証言させることを要するものではない。

(引用終わり)

非供述証拠説は、機械的正確性を理由とする。
他方、供述証拠説は、撮影者の意図の介在を理由とする。
これらの理由付けは、データの印刷の場合にもあてはまるだろうか。
機械的正確性という点は、当てはまるだろう。
しかし、撮影者の意図の介在という点は、どうか。
写真は、撮影の仕方によって、印象が変わる。
撮影者が印象操作することは、可能だろう。
しかし、印刷は、どうやっても大体同じものが出力される。
そういうことからすれば、当てはまらない、ということになる。
もっとも、人為的要素に改ざんのおそれも含めて考える余地もある。
その場合には、印刷の場合も当てはまると考えることができるだろう。
ただ、それは原本との不一致を問題にしているに過ぎない。
すなわち、後述の写しの要件で考えるべき要素ということになると思われる。
いずれにせよ、印刷の過程には伝聞性はない、とするのが素直である。

次に、写しの問題がある。
電磁的記録を出力した書面は、電磁的記録を原本とする写しである。

※この場合、書面を原本とすべきという議論がある。
確かに、電磁的記録の存在それ自体を立証する場合は、出力した書面が原本となるだろう。
書面自体の証明力でもって、そのような電磁的記録の存在を立証するからである。
例えば、わいせつな電磁的記録の存在を立証する場合である。

(参考)刑法175条1項(下線は筆者)

 わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を頒布し、又は公然と陳列した者は、二年以下の懲役若しくは二百五十万円以下の罰金若しくは科料に処し、又は懲役及び罰金を併科する。電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布した者も、同様とする。

しかし、電磁的記録の内容から何らかの事実を証明しようとする場合。
その場合、出力した書面は、本来提出すべき電磁的記録に代えて証拠となる。
そうである以上、その性質は、認証があれば謄本、そうでなければ写しということになるだろう。

(参考)電子情報処理組織を使用して処理する場合等における計算証明の特例に関する規則(下線は筆者)

2条2項 この規則において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号の定めるところによる。
一  計算証明書類 会計検査院法第二十四条 の規定に基づき会計検査院に提出しなければならない書類をいう。
二  電磁的方式 電子的方式、磁気的方式その他の人の知覚によっては認識することができない方式をいう。
三  原情報 会計経理の過程において一定の内容を表示するため確定的なものとして電磁的方式により、作成し、取得し、又は利用した情報(当該情報の全部又は一部を電磁的方式により複写した情報を含む。)をいう。

14条1項 証拠書類に記載すべき事項が電磁的方式により記録されている場合における計算証明規則第五条第一項の規定の適用については、同項中「原本」とあるのは「原情報」と、「謄本」とあるのは「原情報を出力した書面」とする

 

計算証明規則(下線は筆者)

1条 会計検査院の検査を受けるものの計算証明に関しては、この規則の定めるところによる。

5条1項 証拠書類は、原本に限る但し、原本を提出しがたいときは、証明責任者が原本と相違がない旨を証明した謄本をもつて、これにかえることができる

もっとも、この点は、さして重要ではない。
仮に、出力した書面を原本と考えたとする。
その場合、出力した書面から同内容の電磁的記録の存在を推認し、そのことから、本来の要証事実を推認するということになる。
しかし、元の電磁的記録が存在しないか、書面と電磁的記録が内容において一致していなければ、当該書面と同じ内容の電磁的記録の存在を推認することはできない。
結局、写しに必要とされる要件を充たすことが、要求されることになるからである。

そこで、写しの3要件を充たすか、検討する必要がある。
すなわち、原本の存在、原本と写しとの内容的一致、原本の提出不能(困難)である。
提出不能については、電磁的記録は直接認識できないから、問題なく充たす。
問題は、原本との一致である。
ポイントになるのは、送信と受信の対応関係である。
メール@は受信者であるA女の供述から、一致が認められる。
メールA−1、A−2は、送信側のBのパソコンから同じメールが発見されたことが、一致の根拠となる。

メール@の中身については、Bの供述書ということになる。
供述書には、署名押印は不要である(最決昭29・11・25)。
録取の過程を経ないからである。
従って、ここで署名押印を問題にするのは、誤りである。
あとは、321条1項3号の要件を当てはめる。

メール@の甲乙の発言部分は、再伝聞ということになる。
再伝聞否定説を採ると、先の論点が出てこないし、当てはめができない。
従って、ここは肯定説を採るよりない。
本問では、さらに、共同被告人関連の論点が絡む。
甲の発言を、乙の有罪認定に用いる場合。
乙の発言を、甲の有罪認定に用いる場合。
この場合には、「共同被告人の公判廷外供述の証拠能力」という論点が出てくる。
322条説、321条説、併用説の対立がある。
判例は、321条説である(最決昭27・12・11)。
322条説以外の説に立つ場合、供述不能事由を巡り、さらに複雑になる。
まず、黙秘や証言拒絶が供述不能にあたるか、という問題がある。
規定上は、「その他」や「等」という文言がなく、限定列挙にも読める。

(刑訴法321条1項3号、下線は筆者)

 前二号に掲げる書面以外の書面については、供述者が死亡、精神若しくは身体の故障、所在不明又は国外にいるため公判準備又は公判期日において供述することができず、且つ、その供述が犯罪事実の存否の証明に欠くことができないものであるとき。但し、その供述が特に信用すべき情況の下にされたものであるときに限る。

だとすれば、黙秘や証言拒絶は供述不能に当たらない。
しかし、最大判昭27・4・9があり、供述不能に含むとするのが一般である。

(最大判昭27・4・9より引用、下線は筆者)

 憲法三七条二項は、裁判所が尋問すべきすべての証人に対して被告人にこれを審問する機会を充分に与えなければならないことを規定したものであつて、被告人にかかる審問の機会を与えない証人の供述には絶対的に証拠能力を認めないとの法意を含むものではない(昭和二三年(れ)八三三号同二四年五月一八日大法廷判決判例集三巻六号七八九頁以下参照)。されば被告人のため反対尋問の機会を与えていない証人の供述又はその供述を録取した書類であつても、現にやむことを得ない事由があつて、その供述者を裁判所において尋問することが妨げられ、これがために被告人に反対尋問の機会を与え得ないような場合にあつては、これを裁判上証拠となし得べきものと解したからとて、必ずしも前記憲法の規定に背反するものではない。刑訴三二一条一項二号が、検察官の面前における被告人以外の者の供述を録取した書面について、その供述者が死亡、精神若しくは身体の故障、所在不明、若しくは国外にあるため、公判準備若しくは公判期日において供述することができないときは、これを証拠とすることができる旨規定し、その供述について既に被告人のため反対尋問の機会を与えたか否かを問わないのも、全く右と同一見地に出た立法ということができる。そしてこの規定にいわゆる「供述者が……供述することができないとき」としてその事由を掲記しているのは、もとよりその供述者を裁判所において証人として尋問することを妨ぐべき障碍事由を示したものに外ならないのであるから、これと同様又はそれ以上の事由の存する場合において同条所定の書面に証拠能力を認めることを妨ぐるものではない。されば本件におけるが如く、Bが第一審裁判所に証人として喚問されながらその証言を拒絶した場合にあつては、検察官の面前における同人の供述につき被告人に反対尋問の機会を与え得ないことは右規定にいわゆる供述者の死亡した場合と何等選ぶところはないのであるから、原審が所論のBの検察官に対する供述調書の記載を、事実認定の資料に供した第一審判決を是認したからといつて、これを目して所論の如き違法があると即断することはできない。尤も証言拒絶の場合においては、一旦証言を拒絶しても爾後その決意を翻して任意証言をする場合が絶無とはいい得ないのであつて、この点においては供述者死亡の場合とは必ずしも事情を同じくするものではないが、現にその証言を拒絶している限りにおいては被告人に反対尋問の機会を与え得ないことは全く同様であり、むしろ同条項にいわゆる供述者の国外にある場合に比すれば一層強き意味において、その供述を得ることができないものといわなければならない。そして、本件においては、Bがその後証言拒絶の意思を翻したとの事実については当事者の主張は勿論これを窺い得べき証跡は記録上存在しない。それ故論旨は理由がない。

(引用終わり)

従って、共同被告人が黙秘した場合も、供述不能にあたることになる。
他方、共同被告人が供述した場合はどうか。
ここで、共同被告人の公判廷供述の証拠能力が問題となる。
全面否定説を採れば、併合審理する限り供述不能と同じことになる。
肯定説(最判昭28・10・27)を採る場合は、黙秘せずに供述すれば供述不能要件を欠くことになるだろう。
では、共同被告人が黙秘した場合、手続を分離すると、どうか。
今度は、共同被告人の証人適格という問題になる。
最決昭29・6・3は、手続を分離すれば証人適格があるとする。
証人には証言拒絶権(146条)はあるが、黙秘権はない。
だとすると、共同被告人が黙秘したならば手続を分離して尋問するという方法がある。
そのため、手続を分離して尋問しうるから、供述不能に当たらないと解する余地がありそうだ。
ただ、本問の場合、甲と乙の犯罪事実はほぼ重なっている。
従って、互いに相手の犯罪事実との関係で証言拒絶できる。
黙秘している共同被告人の手続を分離しても、やはり証言拒絶されるだろう。
結局、あまり意味はない、ということになる。

以上のようなことを、コンパクトにまとめる。
ただ、手続の分離については、無理をしてまで触れなくてもよいだろう。
この部分まで書く人は、ほとんどいないはずだからである。
要は、黙秘又は証言拒絶の場合に、供述不能となることを示せば足りる。

なお、犯罪事実の主観的要素(故意・共謀等)については、精神状態の供述の問題を含む。
とはいえ、ここは問題文に何の手がかりもないから、書く人は少ないだろう。
従って、落としてもよいし、書くとしても数行に収めるべきである。

資料2については、伝聞、非伝聞の区別である。
仮に、謝礼の金額が100万円であることを立証しようとするなら、内容の真実性が問題となる。
従って、伝聞法則が適用されることになる。
しかし、謝礼は死体遺棄の犯罪事実ではないから、金額の特定は不要である。
では、何が要証事実となるのか。
謝礼を払えと催促するメールがあるということは、謝礼の反対給付である死体遺棄があったのだろう。
また、このような具体的なやり取りの存在は、甲とBとの共謀を示すものである。
すなわち、このようなメールの存在それ自体から、死体遺棄の犯罪事実を立証しようとするものである。
(立証趣旨の「死体遺棄の報酬に関するメールの交信記録の存在と内容」は、死体遺棄を推認する間接事実を指すということになる。)
そうだとすれば、非伝聞である。
資料2については、これを示すだけで足りるだろう。

【参考答案】

第1.設問1

1.逮捕@関係

(1)逮捕@の被疑事実は強盗である。もっとも、証拠不十分なV女に対する殺人・死体遺棄事件(以下「本件事件」という。)の解明のためともいえる(事例4第1文)。実質上の被疑事実は本件事件ではないか。
 専ら逮捕要件を欠く事件の取調べを目的として逮捕要件を具備する他事件の被疑事実で逮捕することは、違法な別件逮捕である。なぜなら、実質上要件を欠く事件を被疑事実とする逮捕であって、令状主義を潜脱するからである。もっとも、逮捕の目的を推知することは令状審査の段階では困難であるから、適法性の判断は刑の軽重、関連性の程度、取調べの態様、事前の捜査状況等を事後的にみて決すべきである。
 本問では、本件事件と被疑事件とされた強盗には何らの関連性もない。また、強盗につき事前の積極的捜査がされた形跡もうかがわれない。しかし、強盗も重罪である。逮捕後の取調べは、連日強盗事件を中心に聴取し、本件事件については1日約30分程度である。それも、上申書及び供述録取書の作成に応じることの説得にとどまる。しかも、本件事件につきメール@の内容に沿う重要な供述があったのに、それに係る捜査報告書も作成されなかった。以上からすれば、専ら本件事件を取り調べるために逮捕@がされたとは認められない。
 よって、実質上の被疑事実が本件事件であったとはいえない。

(2)そして、逮捕状記載の強盗の被疑事実については、Wの供述録取書により甲の犯人性を一応推認できるから、逮捕及び引き続く勾留の理由(199条1項本文、207条1項、60条1項柱書)がある。また、共犯者が未検挙であり、逃亡及び罪証隠滅のおそれがあるから逮捕及び勾留の必要性(199条2項ただし書、207条1項、60条1項2号3号)もある。

(3)よって、逮捕@及び引き続く勾留は適法である。

2.逮捕A関係

(1)逮捕A自体は、Qの現認があることから、現行犯逮捕の要件(211条1項)を充たす。現行犯においても不要な身柄拘束は許されないから、逮捕の必要性を要するが、乙は逃走したのであるから、これを充たす。

(2)もっとも、専ら本件事件を取り調べるための違法な別件逮捕ではないか。逮捕Aの被疑事件は、極めて軽微であり、本件事件と何らの関連性もない。しかし、余罪がない旨の乙の供述以降、取調べにおいて本件事件に関する供述の聴取は一切されていない。これでは、専ら本件事件を取り調べる目的で逮捕Aがされたとは、認めることができない。違法な別件逮捕には当たらない。

(3)逮捕Aに続く勾留については、Qの現認があるから勾留の理由がある。また、乙は単身者で、同種前歴があり、逃走のおそれもあることに加えて、起訴・不起訴の判断には被害弁償等状況の推移を見守る必要があったから、勾留の必要性も認められる。

(4)以上から、逮捕A及び引き続く勾留は適法である。

3.逮捕B及びC関係

(1)甲の携帯電話からメールA−1及びA−2が発見され、乙のパソコンからも同様のメールが発見された。これらは、本件事件につき現実に甲乙B間にやり取りがあったことをうかがわせるから、メール@の信用性を補強する。これにより、本件事件の存在並びに甲及び乙の犯人性が一応推認できる。従って、逮捕・勾留の理由を認めうる。なお、乙のパソコンを発見した乙宅捜索は、現行犯かつ微罪であることから必要性(218条1項)を欠き違法であると疑われる。しかし、適式に令状を得てなされた以上、令状主義を没却する重大な違法があるとはいえない。従って、上記判断には影響しない。
 また、甲及び乙には口裏合わせ等罪証隠滅のおそれがあるから、本件事件の重大性をも考慮すれば逮捕・勾留の必要性もある。

(2)なお、逮捕@及びAが実質上本件事件を被疑事実とするものでないことは前記1(1)及び2(2)のとおりであるから、再逮捕・再勾留の問題は生じない。

(3)そして、勾留中、甲及び乙は一切の質問に黙秘し、甲及び乙の自宅を捜索しても本件事件に関する証拠物を発見できなかった。すなわち、捜査は難航していた。また、Bのパソコンにおけるメールの復元・分析を待つ必要もあった。本件事件の重大性をも加味して考えれば、勾留延長につきやむを得ない事由(208条2項)があったといえる。従って、勾留延長も適法である。

(4)よって、逮捕B及びC並びに引き続く勾留及びその延長は、全て適法である。

第2.設問2

1.資料1について

(1)資料1は、Bのパソコンにつき任意処分として行った検証の結果を記載したものである。従って、作成者Pの真正作成供述を要する(321条3項)。

(2)ア.添付資料は、Bのパソコン内の電磁的記録を原本とする写しである。印刷は、機械的かつ自動的である。Pがこれを知覚、記憶して再現したわけではない。従って、この部分に伝聞法則(320条1項)の適用はない。

イ.もっとも、原本が存在せず、又は原本と一致しない写しには最低限の証明力(自然的関連性)が認められない。また、証拠は原本によるのが原則である(最良証拠主義、310条参照)。従って、原本の存在、原本との一致及び原本提出が不可能又は困難であることが、写しを証拠とするために必要である。
 本問で、PはBのパソコン内のメール@を印刷して資料1に添付したのであり、受信メールとの同一性を認める旨のA女の供述がある(事例2)。従って、原本たる電磁的記録の存在及び添付資料との一致が認められる。また、電磁的記録は直接認識できないから、原本提出は不可能である。以上から、上記要件を充たす。

ウ.添付されたメール@の作成者は、A女の供述(事例2)からBと認められる。そうすると、メール@はBの作成した供述書としての性質を有するから、321条1項3号の要件を充足する必要がある。
 そこで検討すると、Bは死亡し、かつその供述は本件事件の全体にわたる唯一の直接証拠であるから犯罪事実の証明に不可欠である。当該メールは第三者への開示が予定されておらず、当時婚約者であるA女に敢えて虚偽の犯行を伝える理由もないことに加え、事例1のA女の発言内容、V女の発見状況、メールA−1及びA−2等と符合することから、特信性がある。
 よって、同号の要件を充足する。

エ.もっとも、被告人甲及び乙の発言に係る部分は、再伝聞である。上記ウのとおり、Bの供述は321条1項3号の要件を充足するから、公判廷供述と同等の証拠能力がある(320条1項参照)。従って、被告人以外の者の公判廷供述中に被告人又は被告人以外の者の供述を含む場合を規定した324条を準用できる。

(ア)甲との関係における甲の発言部分及び乙との関係における乙の発言部分については、同条1項の準用により、322条1項の要件を充たす必要がある。
 そこで検討すると、発言内容は犯罪事実の承認に当たるから不利益供述である。発言は自発的なもので、任意性は疑われない。
 よって、同項の要件を充足する。

(イ)甲との関係における乙の発言部分及び乙との関係における甲の発言部分については、相被告人に対する反対尋問(質問)の余地があるから、同条2項の準用により、321条1項3号の要件を充たす必要がある。
 そこで、検討する。本件事件の犯罪事実は、甲及び乙に共通するから、甲及び乙は、被告人質問に対し黙秘(311条1項)できることはもちろん、手続を分離した場合の他方事件に係る証人尋問に対しても有罪判決のおそれを理由に証言拒絶(146条)ができる。供述不能事由は証拠の必要性をいう趣旨であるから例示列挙であるところ、黙秘又は証言拒絶による場合は、帰国の余地のある国外にいる場合よりも証言を得る可能性は低いから、供述不能事由に含まれる。当該発言は殺人の犯罪事実に係るほぼ唯一の直接証拠であるから、犯罪事実の証明に不可欠である。また、死体遺棄の依頼における経緯の説明として自然なもので、友人であるBに敢えて虚偽の犯行を告げる理由もないことから、特信性がある。
 よって、甲又は乙による黙秘又は証言拒絶の場合には、同号の要件を充たす。

(ウ)なお、故意及び共謀を証明する場合には、前記(ア)(イ)の要件の充足を要しない(非伝聞)。なぜなら、上記は知覚、記憶の再現に係る事実ではないからである(精神状態の供述)。

(3)以上のとおり、Pの真正作成供述があれば、資料1の証拠能力が認められる。ただし、甲との関係での乙の発言部分及び乙との関係での甲の発言部分を故意及び共謀以外の罪体の立証に用いる場合であって、乙及び甲の黙秘又は証言拒絶がないときは証拠能力は認められない。

2.資料2について

(1)資料2は、甲の携帯電話につき任意処分として行った検証の結果を記載したものであるから、作成者Pの真正作成供述を要する。

(2)ア.添付されたメールA−1、A−2は、いずれもその内容の真実性を基礎として犯罪事実を立証しようとするものではなく、メールの存在自体から死体遺棄に係る報酬の約束、ひいては死体遺棄の犯行及びその共謀があったことを推認させるものである。従って、この部分に伝聞法則の適用はない(非伝聞)。

イ.また、Pは甲の携帯電話からパソコンを用いて印刷し、送信者Bのパソコンにも同じメールが保存されていたから、原本の存在及び原本との一致があり、電磁的記録自体は原本として提出できない。よって、写しの要件を充たす。

(3)よって、Pの真正作成供述があれば、資料2の証拠能力が認められる。

以上

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