最新下級審裁判例

東京地裁民事第2部判決平成22年03月30日

【事案】

(前回からの続き)

5.争点に関する当事者の主張の要旨

(1) 争点(1)(本件無効確認の訴え及び本件取消しの訴えの適法性)について

(原告らの主張の要旨)

ア.原告らは,改正省令(本件改正規定)に処分性が認められることを前提として,@本件無効確認の訴えについては,改正省令(本件改正規定)が無効であることの確認を求める抗告訴訟である処分の無効確認の訴え(行政事件訴訟法3条4項)として提起するとともに,A本件取消しの訴えについては,改正省令(本件改正規定)が違法であるが無効とまではいえないと解される余地があり得ることから,そのような場合に備えた抗告訴訟の予備的な訴えとしての処分の取消しの訴え(同条2項)として,改正省令(本件改正規定)の取消訴訟を提起するものである。
 法令は,一般には一般的・抽象的なものであるから,処分性は認められないが,それ自体で具体的な権利義務に直接の法律的な変動をもたらす性質を有する法令は,処分性を有すると解すべきである。
 改正省令(本件改正規定)は,これまで許可を得た上で適法に行われてきた営業行為(第一類・第二類医薬品のインターネット販売)を,何らの行政処分を介在させることなく,直接全面的に禁止するものであるから,上記営業行為に対する許可を取り消したものと同視でき,行政の外部にいる者の権利義務を直接に定めるという行政処分の要素を有する。また,本件規制は,実質的には上記営業行為を行ってきた限られた業者を対象とするものであり,一般的な規制とはいえない。したがって,改正省令(本件改正規定)には処分性が認められるべきである。
 また,対世効や仮の救済の手続において当事者訴訟では不十分な点があることからも,抗告訴訟が認められるべきである(後記イ参照)。

イ.無効等確認の訴えの要件に関する行政事件訴訟法36条の解釈についてのいわゆる二元説に立てば,「当該処分又は裁決に続く処分により損害を受けるおそれのある者」については,「現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することができないものに限り」との要件は必要とされないと解すべきであるから,本件無効確認の訴えは,行政事件訴訟法36条の要件を当然に充足することは明らかである。
 また,この点を措くとしても,無効等確認の訴えの判決には対世効があると解すべきであること,当事者訴訟における仮の救済の手続の存否が不明確であることからすれば,当事者訴訟では効果が不十分な場合があり,裁判所の各審級において各訴訟類型の適法性に関する判断が分かれた場合等の救済を図る観点からも,当事者訴訟が適法とされる場合であっても,「現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することができない」場合に当たると解され,この補充性の要件の要否にかかわらず,当事者訴訟と抗告訴訟としての無効等確認の訴えの両方が適法とされるべきである。したがって,本件地位確認の訴えと本件無効確認の訴えを単純併合して提起するものである。

(被告の主張の要旨)

ア.原告らが無効確認及び取消しを求めている省令は,立法行為としての性質を有し,国民の法律上の地位に対して直接具体的な影響を及ぼすものではなく,特定の者の具体的な権利義務ないし法律上の利益に直接的な影響を及ぼすものでもないから,処分性は認められない。

イ.なお,本案訴訟が適法でなければ仮の救済の手続は問題とならないのであるから,本案の適法性を判断するに当たり,仮の救済制度について考慮する余地はない。

(2) 争点(2)(本件改正規定の適法性・憲法適合性)について

ア.争点(2)ア(委任命令としての適法性)について

(被告の主張の要旨)

(ア) 法律による行政の原理によれば,行政の内容はそのすべてをあらかじめ法律で詳細かつ具体的に規定しておくことが望ましいが,実際には複雑で専門・技術的な現代行政の諸施策の内容を法律で細部まで規定しておくことは困難であるため,法律自体には,実施すべき行政施策の目的や要件・内容等につき大綱的な定めを置くにとどめ,細目的な事項や技術的な事項は,それぞれの担当行政部局がその専門的な知見に基づいて定めるよう,行政権に命令の定立を委任する行政立法が行われてきた。そして,行政立法の専門性・技術性等にかんがみると,委任を受けた行政機関が,どの時点において,どのような内容の省令等を制定するかについては,法律の委任の範囲を逸脱しない範囲において,その専門的・技術的な判断にゆだねられているのであって,行政機関には省令等の制定について一定の裁量権が与えられているというべきである。そして,その委任の範囲は,授権法の文言だけではなく,当該制度の制定の経緯やその沿革等を考慮して,授権法の趣旨を解釈して判断すべきであり,本件においても,新薬事法が何をどの範囲で省令に委任する趣旨であるかは,当該規定の制定経緯,医薬品販売に関するその他の規定とその趣旨,さらには新薬事法全体の趣旨・目的を総合して判断されるべきである。

(イ) 改正省令中の本件改正規定により設けられた新施行規則中の本件各規定のうち,15条の4は新薬事法36条の5及び36条の6,159条の14は新薬事法36条の5,159条の15第1項1号は新薬事法36条の6第1項,159条の16第1号は新薬事法36条の6第2項,159条の17第1号及び第2号は新薬事法36条の6第3項の規定の委任をそれぞれ受けたものであって,本件各規定にはいずれも法律の授権規定が存在する。

(ウ) 改正法の成立に至る経過は,次のようなものである。すなわち,@制度と実態の乖離が生じ,医薬品の適切な選択及び適正な使用が担保されるように機能していなかったという旧薬事法の下の実状を踏まえ,医薬品の販売主体,客体,販売方法等を全般的に見直すこととし,Aこれを出発点として,検討部会においても,医薬品の特質にかんがみると,専門家が対面で情報提供し,販売することが極めて重要であり,他方,すべての店舗に薬剤師を常駐させ,すべての医薬品について情報提供を義務付けることはかえって実効性をなくすおそれがあることから,新しい医薬品販売資格を創設し,医薬品もリスクに応じて分類し,その分類に応じた情報提供及び販売の規制を行うことで柔軟な対応をすべきこととされ,B改正法案も検討部会で集約された意見に沿った趣旨のものとされ,医薬品は対面販売によることが重要であるという基本的発想に立って制度の骨格が定められ,C国会においても,対面販売の重要性が指摘され,検討部会の部会長から,改正法案は検討部会報告書及び検討部会における議論の結果を十分に踏まえたものである旨が説明され,政府参考人はインターネット販売には慎重な対応が必要である旨の答弁をし,厚生労働大臣は改正法を受けて省令において対面による情報提供を義務付ける旨の規定を設ける旨の答弁をし,こうした答弁を前提に質疑が行われ,Dその上で,検討部会の取りまとめた意見を踏まえ,医薬品の販売主体,客体,販売方法という医薬品販売の全般についての規定を改正し,制度の骨格を定め,店舗販売業という新しい許可の種類を創設し,店舗販売業者については,店舗における販売に当たり,リスクの軽視できない第一類・第二類医薬品について専門家による積極的な関与を義務付けるとともに,制度全般につき具体的な定めを省令に委任する内容で改正法案が可決されたというものである。したがって,新薬事法25条,36条の5及び36条の6の規定の文言・内容のほか,こうした薬事法全体の改正経緯,立法者の意思,成立した新薬事法の医薬品販売に関する制度全体の仕組みやその趣旨などを総合的に考慮すると,新薬事法は,リスクの軽視できない医薬品については,専門家が店舗において購入者と対面し,その属性に応じて臨機応変に適切な情報を提供して販売することが重要であるとして,店舗販売業を,原則として「店舗において」医薬品を対面販売することが予定される業態と考えて創設したものであることは明らかであり,したがって,新薬事法が,店舗販売業者に対し,第一類・第二類医薬品について,来客との対面を前提に情報提供及び販売を義務付け,郵便等販売を原則として禁止し,その上で,個別具体的な販売方法等に関する諸規定についてはその定めを省令に委任する趣旨であることは明らかである。
 なお,改正法案が検討部会報告書に依拠した内容となっており,その内容・趣旨は国会審議において十分に審議されたことからすれば,新薬事法の趣旨・目的を検討する上で,検討部会報告書の内容は当然に考慮されるべきものである。
 そして,医薬品の販売方法に関しては,新薬事法に基づき,新施行規則において,医薬品の販売は第三類医薬品について郵便等販売を行う場合を除き対面で行う旨(新施行規則159条の14),情報提供の具体的な方法については対面で行う旨(新施行規則159条の15及び159条の16)及び郵便等販売については第三類医薬品に限って認める旨(新施行規則15条の4第1号)を定めたものであるところ,これらが対面での情報提供及び販売を基本とすべきとする立法者の意思あるいは新薬事法の趣旨に合致するものであることは明らかである。
 よって,改正省令(本件改正規定)は,新薬事法の委任の趣旨に沿うものであり,その委任の範囲を逸脱する無効なものではない。

(エ) 原告らは,新薬事法の文理から対面販売の趣旨は読み取れないとするが,これは,新薬事法の規定を個々に分断して硬直的に解釈したものであって相当ではない。上記(ウ)のとおり,新薬事法の主眼が専門家に積極関与させる対面販売を原則とすべきというところにあることからすれば,新薬事法25条の「店舗において」という文言は,店舗という場所における対面販売を原則として位置付けていることの表れというべきであり,新薬事法36条の6第1項が電磁的方法による情報提供を定めていないのは情報通信技術を利用した情報提供を許さない趣旨であることは明らかである。こうした条文相互の関係や立法経緯等を総合すれば,新薬事法25条,36条の5及び36条の6の規定が,店舗販売業者において,第一類医薬品及び第二類医薬品の店舗における対面での情報提供及び販売を義務付ける趣旨であり,これを前提として具体的な販売等の方法を省令により義務付ける趣旨であることも明らかであるというべきである。以上によれば,新薬事法25条,35条の5及び35条の6の各規定は,郵便等販売を許容するものではなく,改正法の立法経緯や上記の規定の趣旨によれば,新薬事法37条1項もまた,郵便等販売を許容するものではないと解すべきである。原告らは,新薬事法36条の5は販売従事者に関する規定であり,新薬事法36条の6は情報提供等に関する規定であって,インターネット販売を禁止する趣旨は読み取れない旨主張するが,販売時の情報提供に対面が要求されれば必然的に販売方法も対面販売になるのであり,販売時の情報提供の制限は,販売方法の制限に直結するので,この点に関する原告らの主張は失当である。なお,新薬事法36条の5は,販売従事者について規定した上で具体的な販売方法についても厚生労働省令に委任するものである。
 また,原告らは,第一類医薬品については,その購入の際に購入者が説明を不要と申し出れば,情報提供義務に関する規定が適用されなくなる点(新薬事法36条の6第4項),第二類医薬品については,新薬事法上,情報提供の努力義務が定められているにとどまる点,いずれも,使用者以外の者による購入が認められている点を指摘するが,新薬事法においては,専門家が店舗において対面で購入者の状態を直接確認し,医薬品のリスクに応じて情報を提供した上で販売することが基本的な理念として重要とされているといえ,これに対し,郵便等販売の方法では,そもそも専門家が購入者の状態を直接確認することすらできないのであるから,こうした前提を欠いたまま,上記の各点のみを取り上げて新薬事法が郵便等販売を禁止する趣旨を含まないと解することはできない。

(原告らの主張の要旨)

(ア)a 憲法で保障された国民の権利を制限し,国民に義務を課すには,法律の定めが必要であり,各省大臣が定めるにすぎない省令では法律の明確な委任がなければ義務を課し,権利を制限することはできないところ,新薬事法には,旧薬事法で認められていた第一類・第二類医薬品のインターネット販売を禁止することを省令に委任する趣旨の授権規定は見当たらない。本件規制は,これまで認められてきたインターネット販売を禁止するものであるから,法律の条文による明確な授権が必要である。被告は,本件改正規定の根拠となる新薬事法の規定は36条の5及び36条の6であると主張するが,新薬事法36条の5は,販売に従事する者についての規制であって,対面販売にも触れておらず,インターネット販売を禁止する省令の根拠とはなり得ないし,同法36条の6第1項は第一類医薬品についての薬剤師による情報提供の義務を課し,同条2項は第二類医薬品についての薬剤師等による情報提供の努力義務等を課し,同条3項は購入者からの相談に応ずる義務を課すものであるところ,これらの規定は,情報提供の方法を授権しているにすぎず,情報提供の方法にとどまらない販売方法の規制に該当するインターネット販売の禁止を授権しているとはいえない。新薬事法には対面販売の原則は規定されていないし,「対面」という言葉も用いられず,対面販売の定義はされていない。新薬事法25条は店舗販売業の定義を「店舗において」販売等することとしているが,これは,インターネット販売や電話注文による配達販売を違法としていなかった旧薬事法37条1項の「店舗による」と同義と解すべきであり,この文言が郵便等販売を禁止する趣旨を含むということはできず,新薬事法25条が許可したことを禁止するためには,同法36条の5及び36条の6により明確な規定が必要であるし,また,特に定めがない以上,薬事法36条の6第1項が電磁的方法による情報提供について規定していないからといってそれが許されないとの趣旨であると解すべきではない。新薬事法中の本件各規定の委任規定についての厚生労働省の説明は,不正確かつあいまいであって,確実な説明がされたのはかなり後になってからであることからすれば,厚生労働省が,薬事法の改正の際,第一類・第二類医薬品のインターネット販売を禁止する意図を有していなかったことがうかがわれる。

b 被告は,法律の省令への委任の範囲は,単に改正法の該当条文の文言・内容のみならず,当該規定の制定経過,医薬品販売に関するその他の規定とその趣旨,さらには改正法全体の趣旨・目的を総合して判断されるべきであると主張するが,これは,茫漠として広すぎるのであり,国会が唯一の立法機関であり,委任は白紙委任であってはならず,具体的でなければならず,少なくとも,権利自由を制限する場合には授権法は明確でなければならないという憲法原則からみて相当ではない。
 また,立法者の意思といえるためには,条文として明確な形で現れるか,少なくとも提案理由又は附帯決議で現れている必要があり,単に国会における議論の過程や答弁に現れているだけで,条文の形になっておらず,提案理由又は附帯決議にも現れていないものを立法者意思とするのは,法律の解釈の限界を超え,法律による行政の原理に反する。

(イ) 改正法及び改正省令の制定過程においても,新薬事法が第一類・第二類医薬品のインターネット販売を禁止する趣旨を省令に委任したことをうかがわせる事情は見当たらない。

a 国会の審議過程をみても,新薬事法が第一類・第二類医薬品のインターネット販売を禁止する趣旨であることは読み取れない。まず,法案の提案理由では,対面販売の義務付けへの言及はない。国会審議においても,平成18年4月13日の参議院(厚生労働委員会。以下この項において同じ。)の政府答弁でインターネット販売については慎重に検討すべきであるという認識を厚生労働省が有しているという説明はされているが,改正後の薬事法の規定においてインターネット販売が禁止されるという趣旨の説明はなく,厚生労働大臣も実効ある情報提供体制の整備が主眼であると述べるにとどまる。また,同月14日の参議院の議事では,厚生労働省は,インターネット販売禁止を法律の条文に書き込んだとは述べていない。同月18日の参議院の議事では,厚生労働大臣が,予定される省令の説明をしているが,インターネット販売を禁止できるとの説明はしておらず,インターネット販売業者が第一類医薬品を販売している事案について,実態を確認の上,注意喚起や指導を行うこととしたい旨述べるにとどまる。なお,同日の厚生労働大臣の「対面販売により情報提供することを求めることになっております」との答弁は第一類医薬品についてのものであり,そもそも,このような片言隻句を根拠に授権法の趣旨を読み取るのは強引である。また,同年6月7日の衆議院(厚生労働委員会)における答弁によれば,この時点では,厚生労働省は慎重な対応が必要であると考えていたというにすぎず,第二類医薬品のインターネット販売禁止は念頭に置かれていない。そうすると,少なくとも第二類医薬品のインターネット販売禁止を正当化するためには,省令制定の段階で,慎重に検討した結果,利便性やIT技術活用により対面販売に準じた対応も可能として規制を緩和すべきであるという意見を排斥した理由及びそれが薬事法の下の省令の立法裁量の範囲内であることが示される必要があるが,それは全くされていない。参考人の意見中に,インターネット販売の禁止に関するものがあるが,参考人の意見は立法者意思とは異なるし,参考人の意見も一致しているわけではないから,その一部のみを立法者意思とするのは相当ではない。厚生労働省が改正法成立後に作成した改正法の概要にもインターネット販売を禁止することに結び付く記載はない。

b(a) 厚生科学審議会における審議は立法過程そのものではないから,同審議会等の議論の有無や内容が法律による授権の有無に直結するわけではないし,検討部会において,インターネット販売の規制の在り方や規制の憲法上の根拠・限界に関するまともな議論はなかった。

(b) 厚生労働省は,遅くとも平成16年9月の段階で,ドイツでは医療保険近代化法の成立により医薬品のインターネット販売が認められていたことを把握していたにもかかわらず,同年6月8日に開催された検討部会において,ドイツにおいて薬局からの医薬品のインターネット販売が禁止されている旨記載された資料を提示し,また,平成17年2月10日に開催された検討部会においては,インターネット販売が禁止されている旨の記載を資料から削除し,ドイツにおいて郵送による医薬品販売禁止の制度に変更があったことを認識していたはずであるにもかかわらず,インターネット販売が禁止されているかのように誘導する旨の委員の発言を是正せず,検討部会の議論を誤った方向に導いた。検討部会や国会で正しい情報が提示されていれば,議論の結果は異なっていた可能性が高い。さらに,内閣法制局における法案審査の際も,インターネット販売を禁止する措置の定めを省令に授権する趣旨は資料に記載されておらず,その前提で法案審査がされた形跡はない。また,厚生労働省が作成した国会における改正法案の想定問答集にも,インターネット販売が改正後の薬事法で禁止されるとか,これを省令で禁止するとかいう内容の記載はない。

c 改正法による医薬品の販売に関する規制において,第二類医薬品の販売については,情報提供が単なる努力義務とされており(同条2項),法的な拘束力のない努力義務を根拠として,適切な情報提供の可能な郵便等販売を禁止するのは不均衡である。

イ.争点(2)イ(本件規制の憲法適合性)について

(被告の主張の要旨)

(ア)a 経済的自由権の規制立法は,精神的自由権の規制立法とは異なり,憲法適合性の判断の在り方に関し,合憲性推定の原則が働く。そして,経済的自由権の規制立法に関する憲法適合性の判断について,規制目的により憲法適合性の判断の在り方に差が生じることに一定の合理性は認められるものの,規制目的が積極目的であるか消極目的であるかの判別が難しい場合があり,両目的が混在する場合やいずれかに割り切れない場合も十分に想定されることなどからすれば,規制目的の判別だけによって憲法適合性の判断の在り方が決定されると考えるのは不適切である。規制目的を判別することは,司法における憲法適合性の判断の在り方を決する上で,そうした規制目的に出た立法政策に対して司法がその判断能力の観点からどの程度立法事実に踏み込んで判断することができるかをみる要素として考慮することに意義があるが,経済的自由権の規制立法について合憲性が推定されるのは,健全な民主的手続を経て制定された経済的自由権の規制立法は,通常,規制により得られる利益と制約される利益との調整が合理的に図られたものと考えられるから,その判断を原則として尊重すべきとするところに本質的な理由があるのであって,裁判所の判断能力に限界があることに本質的な理由があるわけではない。
 そして,健全な民主的手続を経て制定された経済的自由権の規制立法は,規制により得られる利益と制約される利益との調整が合理的に図られた結果であると推定される以上,その判断は尊重されるべきであり,ただ,裁判所は,規制目的のほか,法律で明らかにされた規制の対象や規制の具体的な方法,制約される権利の内容・程度等からみて利益調整の合理性に疑義があるような場合には,合憲性が推定されるとしつつも,より慎重に憲法適合性を判断すべきことになり,これが尊重すべき立法府の裁量の幅を決する要素であり,同時に司法がどの程度立法事実に立ち入った判断をすべきかを決する要素であるというべきである。

b これを本件規制についてみると,@本件規制の規制目的は,購入者における医薬品の適切な選択及び適正な使用を確保して国民の健康被害を防止する必要があること及びセルフメディケーションの進展といった医薬品販売を取り巻く環境にかんがみ,医薬品に関する適切な情報を提供して知識の普及を図るというものであり,積極・消極の二分論では割り切れず,また,現在の医薬品を取り巻く環境をどのような形であるととらえ,その環境に合わせた政策としてどのような対策を講じるべきかといった判断は,医薬品の販売状況,販売業者数の推移や販売業態の変化等の様々な事実から推認されるセルフメディケーションの進展状況の判断とその是非等に基づいて議論され,国民的合意の下でその方向性が決定されるべき性質のものであるから,その限度では,司法において,立法事実に踏み込んで判断するにはなじまない性質も含まれていること,A本件規制の対象は,既存業者にもこれから新規に許可を得て医薬品を販売しようとする者にも等しく及ぶもので,新規参入予定業者にのみ及ぶような旧薬事法の適正配置規制とはその性質を異にするものであること,B本件規制の方法が,一部の医薬品について対面販売を義務付け,郵便やインターネットという手法での販売を許さないとする態様のもので,医薬品販売という職業の選択そのものを許さない規制ではなく,選択した医薬品販売という職業に関して郵便等販売という一つの販売方法を規制するものにすぎないから,旧薬事法の適正配置規制のような狭義の職業選択の自由そのものに対して強い制約を課すものではないこと,C本件規制の手段は,専門家が購入者と対面して情報を提供しながら販売することを義務付け,これができない郵便等販売を許さないとするもので,医薬品の適切な選択及び適正な使用を確保するという本件規制の目的の達成に直結することからすると,本件規制は,立法府において規制により得られる利益と制約する利益との調整が合理的に図られた結果であるとの推認が十分に維持されるものといえるから,改正法の憲法適合性を判断するに当たっては,立法府の広い裁量が認められるべきであり,対面の重要性を認め,対面が確保できない郵便等による方法での医薬品販売を一部規制することについての必要性及び合理性を認めた立法府の判断は十分に尊重されるべきである。
 このような前提に立つと,改正法の憲法適合性を判断するに当たっては,規制目的が公共の福祉に合致しないことが明らかであるか,又は規制手段がその目的を達成するための手段として必要性若しくは合理性に欠けていることが明らかでない限り,違憲とはならないものと解すべきである。

c 原告らは,インターネット販売という一つの独立した業態を想定すべきであると主張するが,新薬事法は,郵便等販売を,医薬品販売業という職業を選択した者が採り得る販売方法の一つとしてとらえていることは明らかであり,また,仮に原告ら主張のような理解をすると,職業選択に対する制約と職業遂行における態様等の制約を区別する意味がおよそなくなるのであるから,相当でない。
 また,原告らは,本件規制は原告らが努力しても克服できない客観的条件であるとするが,医薬品販売という職業選択の可否という観点から見た場合,原告らが努力しても職業選択それ自体が不可能となるようなものではない。

(イ) 新薬事法は,専門家による積極的な関与の下に,購入者に対し,対面での情報提供を行って医薬品を販売することによって,適切な知識の普及に努めつつ,医薬品に伴う副作用を未然に防止するなどして国民の健康被害を防止することを目的としており,こうした規制目的が国民全体の身体・健康の安全に直接かかわるものであることからして,これが重要な公共の利益に合致することは明白である。

(ウ)a 経済的自由権の規制の場合は,現実的・具体的危険がある必要はなく,原告らにおいて,抽象的危険もないことを立証しなければならないが,次のとおり,本件では,抽象的危険のみならず,現実的・具体的危険も十分に認められる。

b 医薬品の適切な選択及び適正な使用に関しては,次のような事情がある。すなわち,@一般用医薬品の副作用が報告された事例の中で,専門家による適切な説明があれば,副作用の発生を未然に防止できた可能性が高い事例が存在すること,A購入者が医薬品の適切な選択及び適正な使用を確保するために必要な情報を有していない場合も多いこと,B医薬品の適切な選択及び適正な使用を確保するために必要な情報の内容や提供の方法は,購入者の年齢によっても大きく異なること,Cそもそも医薬品の服用方法に関する常識的な知識すら普及していない可能性があることにも配慮しなければならない状況にあること,D購入者側でも医薬品の安全性や副作用に関する情報が不足していると感じ,適切な情報提供を望む声が多く,求める情報提供の内容からして,詳しい説明を薬剤師等の専門家に期待していることは明らかであることといったものである。
 このような事情からすると,現時点では,医薬品の適切な選択及び適正な使用を購入者の自発的な情報収集に期待することには無理があり,また適切でもないという実情にあるといわざるを得ず,医薬品の適切な選択及び適正な使用を確保するために求められる情報提供及び販売の方法については,購入者の属性等に応じて真に必要な情報を抽出したり,専門用語をかみ砕くなどの工夫をこらして分かりやすく情報を提供すること,様々な観点から質問をして事情を聞くことにより提供すべき情報の内容や量を決めること,購入者の年齢や購入態度等,購入者側の属性等により臨機応変に対応することが必要である。
 そして,医薬品の適切な選択及び適正な使用を確保すべく,実効性のある情報提供方法が必要であるとする改正法の趣旨・目的を達成するためには,購入者の属性,状態,購入態度等を把握して,双方向の柔軟な意思疎通を行うことが必要不可欠であり,これは,対面による情報提供及び販売という方法によって初めて実践可能なものである。なお,使用者と異なる者が購入しようとする場合も,専門家は,購入者以外の者が使用することを前提に,慎重に使用者の事情を聞き,提供すべき情報の内容を変えるなど,臨機応変の対応をすることができるから,このような場合でも,対面での情報提供及び販売を義務付けることの必要性・合理性は認められる。

c これに対し,インターネットによる情報提供の方法は,現在のシステム環境の下では,まずは利用者(購入者)の自己責任を前提とせざるを得ない上,技術的にも購入者の属性等を把握したり柔軟な意思疎通を図ったりすることは極めて困難である。購入者を直接見て対応することで,様々な問いかけをすることができ,場合によっては販売を差し控えることができるということは,インターネット販売ではなし得ないことである。
 原告らは,対面販売を義務付けることに合理性が認められないことを主張するに当たって,購入者の理解力等に対する根拠のない過度の信頼・期待を基礎としているが,前記のとおり,購入者の実態は原告ら主張のようなものとは異なるものであり,原告らのこの点に関する主張は失当である。そして,新薬事法は,購入の手軽さや簡易さといった利便性は購入者にとって真の意味での利便性とはいえず,仮にこのような利便性に配慮するにしても,リスクの軽視できない医薬品については利便性よりも安全性を優先すべきとの考えに立っていることに加え,現在の購入者側における医薬品に関する知識の普及の程度や購入現場における実態をも考慮すれば,医薬品の適切な選択及び適正な使用を第一次的には購入者の自発性や自己責任にゆだねれば足りるといえる状況には全くないことによれば,インターネットによる情報提供で十分であるとする原告らの主張は理由がない。実際,業界団体によるルール案によっても,購入者の属性等の把握が購入者側による自発的な申告にゆだねられてしまうのに等しいこと,形式的,定型的,表面的,一方的な情報提供にとどまること,購入者側が説明を理解したかどうかの確認が困難であること等からすれば,インターネット販売による情報提供は,対面販売の際の情報提供とは本質的に性質が異なるものである。
 その他,対面販売とインターネット販売の間には,対面販売では製品や添付文書を示しながら説明ができるのに対しインターネット販売ではそれが困難である点,インターネット販売では購入者が虚偽の申告や誤った申告をした場合にそれを見抜いたり防止したりすることが対面販売に比して著しく困難である点,インターネット販売では,インターネットを通じた情報提供を実際に専門家が行っているかどうかを購入者が確認することが対面販売に比して困難である点,対面販売では購入者と専門家がその場で直接やりとりを行うことができ購入者の質問に即時に対応できるのに対し,インターネット販売では電子メールやファクシミリを利用するなど購入者が情報提供を求めた場合の対応に時間を要することになる点において,対面販売にはインターネット販売と比較して明らかな優位性が認められる。

d このように,インターネットを用いる手法は,対面による方法とは本質的に性質が異なっているのであるから,技術的な工夫によって対面と同様の効果を得ることは困難である。結局,インターネットの性質上の限界から,改正法の趣旨・目的を達成することは困難といわざるを得ず,インターネットは対面に代わるものということはできない。
 したがって,改正法が,前記(イ)の規制目的を達成するため,対面での情報提供及び販売を義務付け,これに郵便等による販売を禁止する趣旨を含め,その委任を受けた改正省令において,第一類・第二類医薬品につき郵便等販売を禁止する措置を採ったことについて,その必要性・合理性は明らかというべきであり,加えて,インターネットによる方法では,改正法の規制目的を達成することが困難である以上,インターネット販売を許容した上で具体的な販売方法を規制することによって改正法の規制目的を達成することもできないから,改正法の本件規制よりも制限的でない規制方法で規制目的を達成することはできない。

e(a) 原告らは,インターネット販売であることを原因として薬害が発生した事実やその危険性があるとの事実は説明されておらず,インターネット販売を規制すべき立法事実を欠いていると主張するが,本件規制における立法事実として重要なのは,不十分な情報提供を原因とする医薬品による副作用被害が発生する抽象的危険の存在であり,上記被害が相当数存在したことによれば,上記危険が存在したことは明らかであるところ,改正法及び改正省令は,上記危険を防止する観点から,適切な情報提供方法として,対面による方法の方がインターネット等の対面によらない方法に比較して明らかに優位性が認められ,後者によっては上記危険を防止できないという事情を踏まえて,第一類・第二類医薬品について郵便等販売を禁止したものであるから,何ら立法事実として欠けるところはない。

(b) 原告らは,夜間等の対応において対面販売には不十分な点があると主張するが,新薬事法は販売時における医薬品の情報提供が重要であるとの認識の下に,販売時の対面を義務付けているのであり,販売時の即時の応答・指導の可否が検討されなければならないのであって,対面販売であればこれが可能であるのに対し,インターネットの場合には即時の応答・指導ができる制度的環境にはなく,販売業者側の努力も常に期待できるものではないし,即時の応答・指導を法令上義務付けたとしても,応答が返ってくるのを待つかどうかの判断を購入者にゆだねるものであって,不適切といわざるを得ない。

(c) 新薬事法36条の6第4項については,専門家が購入者の状態を確認し,問題がないと判断されることを前提として,購入者の申出により説明を省略できるのであるが,インターネット販売では,購入者の状態を直接確認できないのであるから,その省略を認める前提を欠くものといわざるを得ないし,そもそも,このようなごく一部の例外的場合の存在を根拠に規制手段の合理性が失われるとはいえない。また,使用者以外の者が店頭を訪れた場合は,専門家は使用者の状況を聞き,店頭を訪れた者を通じて使用者に情報提供するのであるから,対面販売の必要性はより高まる。
 第二類医薬品の販売における情報提供の努力義務も,購入者が店舗で専門家と対面することを前提としており,このような前提を欠く郵便等販売と同列に論ずることはできない。また,努力義務であっても,義務として規定されている以上,無視しても許されるものではない。

(エ) 改正法附則又は改正省令附則に基づく経過措置は,それぞれ次の各理由に基づく特例として設けられたものであり,インターネット販売に対する本件規制の合理性を補強しこそすれ,これを否定する根拠となり得るものではない。

a 特例販売業については,特定の種類の医薬品に限り,必要やむを得ない場合に限って例外として認められた業態であったことを踏まえ,激変緩和措置として,当分の間,引き続き当該業務を行うことができることとし,新薬事法36条の5及び36条の6の規定は適用しなかったものである。

b 既存配置販売業者については,配置販売業が,旧薬事法において明確に医薬品販売業の一業態として規定され,長い間認められてきた販売形態であり,地域の実情もあるため,購入者や事業活動に無用の混乱を与えないよう経過措置が設けられたものであって,既存配置販売業者に関する経過措置が認められたことをもって,インターネット販売まで許容されるべきものということはできない。

c 離島居住者に関する経過措置は,離島居住者が地理的制約から薬局又は店舗において対面で医薬品を購入することが特に困難であることから,経過措置を定めることで,例外的に,一定期間に限り,第二類医薬品の郵便等販売を可能にしたものであり,また,継続使用者に関する経過措置は,改正省令の施行前に購入した医薬品を現に使用中の者が,改正省令の施行後に当該医薬品を引き続き購入できなくなる不便を考慮し,専門家が情報提供を要しない旨の意思を確認し,かつ,情報提供を行う必要がないと判断した場合に限るなどの一定の条件を付した上で,例外的に,一定期間に限り,継続使用者が同一の薬局等から同一の医薬品を郵便等販売により購入することを可能とした例外的な措置である。

(オ) これらの事情によると,改正法は,上記(ア)で述べた基準によれば憲法22条1項に反しないのみならず,いわゆる厳格な合理性の基準によっても憲法22条1項に反するものではない。

(次回へ続く)

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