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東京地裁民事第2部判決平成22年03月30日

【事案】

(前回からの続き)

イ.争点(2)イ(本件規制の憲法適合性)について

(原告らの主張の要旨)

 以下のとおり,インターネット販売に対する規制と,薬局,店舗販売業及び特例販売業の規制との間にはおよそ不合理な不均衡があり,本件規制は不合理な法システムである上,一般用医薬品のインターネット販売による副作用の危険は,対面販売による副作用の危険と比べて有意に高いことはなく,しかも,情報提供の方法をきちんと義務付ければ,想定されるインターネット販売に伴う問題は回避されるので,インターネット販売自体を禁止する必要性・合理性はないというべきであり,本件改正規定は憲法22条1項に違反する。

(ア)a 本件規制は,医薬品の販売方法の禁止であり,その性質に照らせば,その必要性と合理性について統制密度を高めるべき事案であり,しかもインターネット販売という職業の人格的価値を否定するものであり,原告らが努力しても克服できない客観的条件による規制であるから,職業選択の自由に対する最も過酷な制限であり,必要最小限度の手段でなければ合憲性は認められないとの判断基準が採られるべきである。そして,本件は消極目的によるであるから,「対面販売」とは何なのか,それで医薬品の副作用を防げ,インターネット販売では防げないのかという点について,立法事実に立ち入った判断が行われるべきである。

b 職業選択の自由に関する規制の合憲性の判断は,単に形式的に許可制なのかどうかによるのではなく,具体的な規制内容,それにより制限される職業選択の自由の程度を比較考量して判断されなければならない。本件規制は,インターネット販売に着目すれば,例外を許さない新規の禁止であり,職業選択の自由そのものに対する強力な制限である。医薬品販売に関する許可は配置販売業など販売方法により分類された業態ごとに行われているところ,インターネット販売は,それ自体が一つの業態であり,本件規制も,インターネット販売を対面販売から区別して,情報提供方法のいかんを問わず,これまで許されていたインターネット販売の方法による第一類・第二類医薬品の販売を禁止しようとしているのであるから,許可制を超える厳しい規制である。そして,職業選択の自由は人格的価値と密接にかかわるものであり,本件規制はインターネット販売を行ってきた販売業者の人格権を著しく制限する。被告は,本件規制は販売方法の禁止にすぎないと主張し,現行法の体系に照らせばそのような仕組みになってはいるものの,許可制とするか販売方法の規制とするかは立法者の選択であって,規制の強弱の問題ではないから,販売方法の禁止という仕組みが採られているからといって,その司法審査の基準を当然に緩めてよいというものではなく,実質的に制限される権利の内実に着目すべきである。本件規制の内容は,インターネット販売という職業選択の自由を直接に害するもので,原告らのように,インターネット販売に大きな比重を置いている販売業者にとっては,事業の存続に重大な影響を及ぼす職業の不許可処分に等しく,また,インターネット販売のみを差別的に規制するものであるから,合憲性の判断には,より厳格な基準を用いるべきである。

c 被告は,本件規制については立法府の広い裁量が認められると主張するが,本件規制は消極目的による規制であり,その合憲性の判断に当たっては,いわゆる明白性の原則は採り得ず,規制の理由とされた立法事実を詳細に審査し,重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であるとの厳格な合理性の要件を満たすと判断されることが必要である。なお,被告が立法事実に踏み込んで判断することが適当でない事情として主張する「現在の医薬品を取り巻く環境をどのような形であるととらえ,その環境に合わせた政策としてどのような対策を講ずべきかといった判断」は,本件の争点となっていないし,「医薬品販売状況,販売者数の推移や販売業態の変化等の様々な事実から推認されるセルフメディケーションの進展状況の判断とその是非等」も,医薬品のインターネット販売を禁止することの立法事実とは関係がない。
 そもそも,本件では,国会においてインターネット販売を禁止することについての立法事実が明らかにされておらず,改正法案がインターネット販売を禁止する趣旨であることの説明はなかったのであり,国会において論点が明示され,議論の上で合理的な考慮がされたわけではなく,国会が立法裁量権を行使した場合とはいえないから,合憲性の推定が及ぶ前提を欠く。

d 仮に,本件規制が職業内容及び態様に対する規制であるとしても,国家権力の行使である以上,比例原則により,過大な規制は許されず,その規制が重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であるかどうかという厳格な合理性の基準により個別的にその適否が判断されなければならない。

(イ) 本件規制の目的は,国民の生命及び健康への危害防止という消極目的である。仮に,被告がその目的の中に対面販売まで含めるのであれば,それは本件規制の目的として相当ではない。

(ウ)a 医薬品には効用と副作用があり,いかにして効用を最大限に引き出し,副作用リスクを最小限に低減するかが課題である。リスクマネジメントの観点からすると,世の中のリスクをすべて除去することは不可能であり,十分に注意して使用しても生ずるかもしれない全く稀なリスクを事前に予防することは,かえって社会に過大な負担を課すものであり,事後の対策に待つしかない。薬事法でも,医薬品の購入時に防止できなかったリスクは,相談応需という事後の対応や医師の診断・治療によって対応することになっている。したがって,法的規制に当たっては,インターネット販売の禁止によって防止できる副作用被害があるのかどうか,仮にあるとした場合にどれだけあるのか,副作用を防止するのにインターネット販売の禁止が必要かつ合理的な規制であるのかを吟味しなければならない。

b まず,立法事実については,情報提供の不十分さによる単なる医薬品副作用被害が生ずる抽象的危険ではなく,インターネット販売による副作用被害が問題になるのであって,それが対面販売であれば防げるものであるか,また,インターネット販売の利便性をも減殺するほどのものであるかが問題とされるべきである。
 実際,インターネット販売で購入された医薬品の使用により副作用が生じたことが報告されている事例は1件のみであり,しかもその事例についてはインターネットを通じた販売方法に起因するものか否かの調査が行われていない。適切な情報提供がされていれば副作用を予防できた可能性がある例とされているものも,ごく稀なケースであり,しかも,インターネット販売を禁止することによって防げる件数は不明であり,これが規制の根拠になるとはいえないし,添付文書が分かりにくいというアンケート結果もインターネット販売を禁止することの根拠とはならない。そして,販売段階での情報提供があっても発症が避けられない副作用も多く,対面販売によりどれだけの副作用が防げるかについてまともな分析はされていない。そもそも,本件規制の対象は,一般用医薬品であるから,副作用が発生してもそれほど深刻なものではないことが前提とされ,副作用のリスクは決して大きくはない。
 なお,被告は,立法事実の不存在を原告らが論証すべきであると主張するが,これは,消極目的の規制については妥当しない。仮に,原告らが論証すべきであるとしても,インターネット販売の販売方法に起因する副作用被害の事例が報告されていないというだけで,立法事実が存在しない論証としては十分である。
 これらによれば,本件規制を基礎付ける立法事実は存在しない。

c 被告は,対面販売の優位性を強調するが,前述のとおり,そもそも,対面の原則の定義・根拠が,明確に確立されておらず,改正法及び改正省令の立案の過程で十分に議論された形跡もない。
 また,以下のとおり,情報提供手段として,インターネット販売と対面販売にはそれぞれ長短があり,一方的にインターネット販売のみにマイナス点があるというわけではなく,インターネット販売が対面販売と比較して情報提供において劣るとはいえない

(a)(T) 対面で医薬品を購入する際でも,対面販売の特徴である柔軟で双方向的な会話をすることによって情報提供が行われることが常に必要なわけではなく,実際の販売の際にはそのような会話・説明は行われないのが普通である。同様に,対面販売の特徴とされる,対面により購入者側の情報を的確に把握して適切な対応を採ることができることについても,それが可能なのは例外的な事例に限られる。
 インターネット販売では,インターネット等を通じて薬剤師が組織的に丁寧な質問をし,情報を収集して販売することができる。この際,丁寧に質問項目を作り,チェックボックスを用いるなどして,質問に答えなければ購入できないようにすれば,口頭で行うよりも正確かつ統一的であり,購入者のすべての情報を把握できるようにすることができ,確実に履行される。また,インターネット販売では,質問への回答を通じて,店舗での販売よりも多くの副作用情報を得ることができる。インターネット販売では,いわゆる指名買いにより不適切な医薬品を購入する危険性が高いという点は観念的な憶測にすぎず,むしろ,同種の医薬品を比較検討でき,電話や電子メールを利用して薬剤師からの助言を得てより適切な医薬品を選択することが可能である(なお,テレビ電話を使えば,対面で双方向的なやり取りも可能となる)。また,インターネットを通じて医薬品を購入しようとする者は,もともとそれなりに理解力の高い者であり,高齢者であっても理解力があるので,高齢者に繰り返し説明をする必要があるような場合は想定し難い。
 さらに,インターネット販売では,視覚障害者,聴覚障害者,対人恐怖症その他の理由で他人と向き合うことが困難な消費者に対しても,分け隔てのない情報提供が可能である。
 対面販売では,製品や添付文書を示しながら説明が行われるとされるが,箱を開けて箱の中の添付文書を示すことは通常行われず,外箱を示すだけでは余り意味がない。これに対し,インターネット販売では,店舗では見られない医薬品の箱の中に入っている添付文書をインターネットの画面に購入前に表示させることもでき,購入後に注意事項を何度でも閲覧することも可能である。
 対面販売において丁寧な情報提供のために時間を掛けることは,販売者と購入者に過大な負担を課すことになり,現実には困難であると考えられるし,理解力に問題のある例外的な人を基準に必要以上に詳しく情報提供がされることになれば,かえって,重要な点を聞き損なうおそれがある。これに対し,インターネット販売では,使用者が,自分の時間のあるときにじっくりと必要な情報を得ることができ,情報収集に積極的であると考えられる。

(U) 対面販売では,どれだけの説明が行われるのかにつき,対応する薬剤師等により個人差があり,制度的な保障がなく,説明の一部をし落とす可能性もあるし,また,無数にある薬の副作用について適切に把握していない場合もある。さらに,実際の説明内容が,医薬品の外箱に記載された説明の繰り返しにとどまることが多く,大勢の薬剤師に真に的確なアドバイスをする能力があるかどうかは疑わしいし,登録販売者は,その資格取得のハードルは低く,的確な判断ができるほど有能な資格ではないはずである。これに対し,インターネット販売では,上記のとおり統一的な情報提供が可能であり,専門家の資質を問わず確実な情報提供が可能である。

(V) 自分の既往症を話したがらない人が多いことからすると,使用者の身体の調子を申告させ,発生する可能性のある副作用を注意喚起することは店舗では困難な場合が多いし,対人恐怖症,人に買っているところを見られたくない薬を買う消費者などは,対面販売では,情報提供を拒むことが予想され,安全性が確保されないことになる。また,このような場合にプライバシー侵害につながるおそれもある。これに対し,インターネット販売では,既往症等について他人に知られるおそれがないことから,プライバシーの問題も少なく,使用者に関する情報が確実に提供される。

(W) 新薬事法施行後においても,薬局や店舗による医薬品販売の状況や情報提供の態様に変わりはなく,ドラッグストアでは情報提供はほとんど行われていないのが実情である。

(b)(T) 購入者が虚偽の申告や誤った申告をする場合には,対面販売に当たる薬剤師や登録販売者であってもそれを見抜くことは困難である。

(U) また,医薬品に関する相談応需についても,夜間等には即時の情報提供が期待できないだけでなく,薬局や店舗に対面で相談できる余裕があるのは限られた場合であり,かつ,薬剤師や登録販売者に相談する場合でも,結局は医師の診察を求めるべきことになる。これに対し,インターネット販売では,夜間等の相談応需についても,ある程度の対応は可能である。

(V) そして,顔の色を見て購入者の情報を収集するのは診察行為になり,薬剤師がそのような行為を行うのは,医師法違反になるとも考えられる。

(W) さらに,対面販売では,情報提供のやりとりをすべて書面にすることは容易ではなく,書面としては簡単な説明書が交付されるにとどまり,後日,どのように情報提供が行われたかを検証することは困難である。これに対し,インターネット販売では交信の記録をきちんと保存させることにより,後日,問題が発生したときの検証もできるし,緊急連絡も容易であり,また,規制の実効性も高い。

(X) 被告は,資格を有している者が情報提供を行っていることの確認が容易かどうかという点を指摘するが,対面販売でも名札を偽ったりすることはあるので,情報提供を行っている者が実際に有資格者であるかどうかの確認は難しい。インターネット販売でも,情報提供のルールの作成者,注文に対してその薬を販売してよいかどうかを判断するポスト及び相談応需の担当者を薬剤師として社内の勤務体制を作らせれば,無資格者による対応を防ぐためのものとしては十分であると考えられる。

(c)(T) 新薬事法によれば,第二類医薬品はコンビニエンスストアで登録販売者による販売が可能であるが(新薬事法36条の5),第二類医薬品の販売の際の情報提供は努力義務にすぎない(新施行規則159条の16)ので,対面による情報提供がされるとは限らず,また努力義務の遵守を徹底させることは不可能であり,その実効性確保の方法はない。

(U) 第一類医薬品についても,購入者が説明不要との意思を表明すれば,説明なしで販売することが認められている(新薬事法36条の6第4項)。この点につき,被告は,専門家が対面により購入者の状態を把握し,場合によっては説明を要しないとする理由等も確認した上で初めて情報提供義務が解除されると主張するが,そのような解釈は,法律の文言にない厳格な要件を追加するものであって,法治主義に反し,許されない。

(V) 医薬品の購入者が使用者の代理人であるような場合に,専門家が使用者の属性,状態等を把握して必要な情報を使用者に伝えることは不可能あるいは著しく困難である。家族や会社内で長期間かけて消費される置き薬の場合も,同様である。インターネット販売では,医薬品の使用者本人が,電話や電子メールで薬剤師と直接やりとりをすることができ,使用者以外の者が薬局や店舗に赴いた場合よりも的確で安全な情報提供が可能である。

(W) 旧薬事法35条の特例販売業の許可を改正法の施行前に得た業者が,同法附則14条により,本件規制を受けずに医薬品を通信販売しているが,上記附則では,「当分の間」,特例販売業の業務を行うことが認められており,終期が定められていない。また,厚生労働省は,このような通信販売を規制していない。

(X) 既存配置販売業者については,年間数百件の苦情,十数件の副作用報告及び重篤な副作用が発生した事実があったにもかかわらず,改正法附則10条において,第二類医薬品の配置販売を登録販売者の資格を要せず事実上無期限でできることとされている。また,新施行規則159条の18において読み替えて準用する同規則159条の17によれば,購入者等において何か疑問等があるたびに,配置販売業者が情報提供のために遠隔地まで逐一来訪することが想定されているが,そのようなことが現実に行われるとは考えられない。

(d) なお,すべての副作用を防止するためには,禁忌事項と使用上の注意を,すべての使用者に対し,説明して確認しなければ意味がないことになるが,それは,販売者と購入者に過大な負担を課すことになるし,現実的でもない。仮に,購入者が医薬品について自分で判断できないことがあれば,購入をやめるか,外箱をしっかり読んで判断するか,丁寧な説明を求めるかすればいいのであり,消費者にもその程度の主体性は求められる。情報提供の必要性の基準は,通常の消費者が誤解するおそれがあるかどうかでなければならない。理解が困難な一部の消費者のために,大部分の理解力のある通常の消費者に過大な負担を掛けるべきではない。

d(a) 離島や山村の住民,出歩くことが容易でない障害者・高齢者,要介護者の家族,子育て中の親,介護中の者,引きこもりの者(外見上の問題,対人恐怖症等)及びプライバシー上の問題のある者(周囲の人間に知られたくない疾患を抱えている者)等は薬局,店舗,配置販売業から適切な医薬品を購入することは困難であり,インターネット販売が禁止されると必要な医薬品が入手できず,生存権が侵害されることになる。また,インターネット販売業者では多種の品揃えを確保して,消費者の希望に適時・適切に答えることができるし,流行性の疾患の感染拡大防止のために外出が抑制される事態になったような場合もインターネットで買う方が安全であり,このような場合に,配置販売業者で対応できるとはいえない。さらに,配置販売よりもインターネット販売の方が消費者に便利であり,リスクもない。そして,インターネット販売を利用すると,薬局に行くよりも購入が便利であるので,早期に医薬品を入手して治療ができるメリットもある。

(b) 改正法及び改正省令により,一方では規制緩和がされて一般用医薬品の販売に多くの新規参入が検討されている反面,医薬品のインターネット販売を行う多くの業者の営業に重大な影響が出ることが予想され,これは明白な人権侵害であるが,この点に対する配慮はない。現に,新薬事法施行後,原告らは,第二類医薬品の購入申込みの多くを断らなければならず,売上額の減少等による大きな損害が生じている。

(c) 加えて,本件規制により,医薬品の闇取引が横行するおそれもあり,そうなってしまった場合の取締りは困難である。

e 医師による処方を要するほどでもない医薬品であれば,薬剤師から十分に説明を受け,適切に判断して使用すれば問題はなく,説明の方法として,使用者が,薬局で薬剤師から面前で質問され,説明を受けるなら問題はないとされているところ,インターネット販売においても,薬剤師がインターネットを通じて購入者に質問をし,情報提供をすること,また,そのような方法を省令等で義務付けることは可能である。現に原告P1は,平成18年1月ころから,購入者が医薬品を購入する前に薬剤師からの質問にウェブ上で回答し,その回答内容に対して,薬剤師からの服薬説明をウェブ上で行うことによって,使用すべきでない医薬品の購入を防ぐとともに,購入者に対して適切な使用を促すための,インターネットによる服薬機能説明を導入し,また,NPO法人P4協会(以下「P4」という。)は安全な情報提供の在り方についての自主規制案を検討し,平成18年6月にはこれを厚生労働省に提出し,その後,平成20年11月及び12月にも内容を改訂した上で公表しているほか,より広く業界全体としての安全策を実現するため,P5株式会社と提携して策定した「一般用医薬品のインターネット販売における安全策について(業界ルール案)」を第二次検討会に提出し,同検討会においてインターネット販売と店頭での販売に共通した適切な情報提供の方法を定めるべきことを提案した。このように,情報提供等の方法を工夫して,省令ですべての一般医薬品の販売業者に義務付けるとか,副作用の表示を目立つようにし,かつ,説明書きを丁寧にするなど医薬品の外箱の表示の仕方を規制するとかいう方策を採った場合においても,薬局や店舗における対面販売より定型的に危険であり,医薬品の使用に伴う弊害を防止できないというのでなければ,一律にインターネット販売を禁止することは過大な規制である。改正省令(本件改正規定)は,上記のようなより制限的でない方法についての検討をすることなく,実証的な根拠なしにインターネット販売の一律の禁止を定めたものである。第一次・第二次検討会等の省令の検討過程においては,「インターネットは危険だから」といった漠然とした議論がされているにすぎず,インターネット販売における情報提供の義務付けの方法等について立ち入った議論は全くされていない。
 以上のとおり,対面での情報提供の義務付けが必要不可欠とされているのが本件規制の趣旨でありながら,実際には情報提供が担保されない法設計となっており,その矛盾は甚だしい。また,インターネット販売によって発生するリスクは考えられないばかりか,上記各事情によれば,仮に,インターネットによる販売方法が何らかの副作用を生ずると仮定しても,情報提供等の方法を工夫して義務付けるとか,医薬品の外箱の表示の仕方を規制するとかいうよりゆるやかな規制手段を採らず,第一類・第二類医薬品についてインターネット販売を全面禁止することは,到底,必要性・合理性のある規制とは考えられず,違憲である。

(エ) 再改正省令は,郵便等販売に関する経過措置(改正省令附則23条47ないし28条。以下「郵便等販売に関する経過措置」という。)を設けているが,これによっても,改正省令の違憲性・違法性が除去されるものではない。すなわち,離島居住者や継続購入者に限定した郵便等販売に関する経過措置に合理性はなく,インターネット販売を行っている業者に対する過度の規制であって,これらの業者や消費者に対する救済措置にならないことに変わりはない。
 さらに,上記継続購入者の経過措置の要件を満たさないにもかかわらず郵便等販売が行われている例があり,対面販売の原則が現実には守られていない。

(オ) 以上によれば,本件規制を定める本件改正規定は,いかなる審査基準を採ったとしても,憲法22条1項に違反し,違憲である。

ウ.争点(2)ウ(省令制定手続の適法性)について

(原告らの主張の要旨)

(ア) 改正省令は,改正省令案に対する意見公募手続(パブリックコメント)での反対意見が多かったにもかかわらず,それを公表せず,また,意見を何ら考慮することなく制定されたもので,行政手続法42条に反する。
 また,再改正省令は,やむを得ない理由がないにもかかわらず意見公募手続(パブリックコメント)の期間を短縮して行われ,期間短縮の理由も明示していない点で,行政手続法40条1項に違反して制定されたものである。なお,再改正省令の意見公募手続(パブリックコメント)においても,本件規制に反対する意見が圧倒的に多かったが,そのことが考慮された形跡もない。

(イ) 改正省令は,これまで許容されていたインターネット販売を,インターネット販売を行う事業者のみを対象として禁止するものであり,立案の過程で,当該事業者に対し,経過措置を設けたり,協議を行い,適切な指導をすることなどによって当該事業者の地位を不当に害することのないように配慮することが可能な場合にはそのような配慮がされるべき義務があるというべきところ(最高裁平成12年(行ツ)第209号,同年(行ヒ)第206号同16年12月24日第二小法廷判決・民集58巻9号2536頁参照),その制定に際しては,このような協議や配慮がされていないのであるから,違法である。

(ウ) 本件規制が検討された検討部会,第一次検討会及び第二次検討会(以下,両検討会を「第一次・第二次検討会」と総称する。)においては,インターネット販売の規制の在り方や規制の憲法上の根拠・限界に関するまともな議論はなく,特に検討部会及び第一次検討会では,構成員の選定に問題があり,偏った議論がされた。
 検討部会には,インターネット販売を行っている業者は参加しておらず,インターネット販売禁止の議論が初めて行われた平成16年6月23日の検討部会では,インターネット販売禁止についてはほとんど検討されなかったのみならず,個人輸入の問題や未承認医薬品等の違法販売などと,適法な薬局・店舗による医薬品のインターネット販売とを混同した発言が頻繁にされ,その後の検討部会においても,重大な事実誤認に基づく議論やずさんな議論が繰り返された。
 第一次検討会の構成員となった医薬品販売事業者は,通信販売とは潜在的に競合する関係にある医薬品販売団体の関係者に限られ,P4は,第一次検討会への委員としての参加を求めたが,認められなかった。第一次検討会は,厚生労働省からの天下りを受け入れている団体や多額の政治献金をしている団体など通信販売と競合する業界団体の利権確保の場であった。また,第一次検討会には,憲法・行政法に関する専門家の参加もなかった。第一次検討会の議論はあいまいで,結論先取りで,まともな理由が付された議論はされていない。第一次検討会第5回会議で,原告P1がP4の自主規制案について策定中であると返答したのは,法令にのっとる形でのルールは策定中という意味であり,原案はその当時に完成していて,厚生労働省にも提出しており,公開も検討したが,同省担当者から公開は慎重にするように勧められ,公開を取りやめたという経緯がある。
 第二次検討会は,座長が意見をまとめることができず,厚生労働省が既定方針どおり押し切ったものであり,インターネット販売については禁止ありきで,情報提供はどうあるべきかという議論はなかった。
 以上の点において,検討部会及び第一次・第二次検討会における議論にはその過程での手続的な瑕疵に起因する不備があるから,改正省令中の本件改正規定の制定手続は違法である。

(被告の主張の要旨)

(ア) 行政手続法42条に定める「考慮」とは提出意見の内容をよく考え,定めようとする命令等に反映すべきかどうか,反映するとしてどのように反映すべきかについて適切に検討することであり,当該提出意見の内容を定めようとする命令等の内容に反映しなければならない義務までが課されるわけではないから,改正省令の公布は,行政手続法42条に違反しない。
 また,再改正省令案に関する意見公募手続(パブリックコメント)については,その開始日から30日以上の意見提出期間を設定すると,改正法の施行日である平成21年6月1日に間に合わなくなることを勘案して,意見募集期間を1週間に設定したものであるから,やむを得ない理由に当たり,行政手続法40条1項に違反しない。なお,行政手続法42条の提出意見の考慮は,提出意見の内容に着目して行われるものであって,その多寡に着目するものではないから,反対意見の数や割合の多さをもって行政機関に命令等を見直す義務が課せられるものではない。

(イ) 原告らの主張に係る条例の制定過程における関係業者との協議及び配慮の義務に関する最高裁判決(前掲最高裁平成16年12月24日第二小法廷判決)は,本件とは明らかに事案を異にする。

(ウ) 検討部会は,様々な専門分野出身の委員20名により構成され,議論においては,対面販売による情報提供の必要性が指摘され,対面販売の優位性が示されている。また,取りまとめられた意見にも,販売方法については対面販売の原則が挙げられ,対面販売の原則が必要とされる理由についても,インターネット販売に対する優位性を含め,明確に示されている。
 第一次検討会においては,情報提供等の内容・方法や情報提供等を適正に行うための販売体制等について検討が行われ,原告P1代表者及びP4役員からのヒアリング等も行った上で,第一類医薬品については,情報通信技術を活用した情報提供による販売は適当でないとされ,第二類医薬品については,販売時の情報提供の方法について対面の原則が担保できない限り,販売することを認めることは適当でないとされた。そして,この検討結果に基づき,改正省令案は作成された。
 第二次検討会においては,薬局・店舗等では医薬品の購入が困難な場合の対応方策等,インターネット等を通じた医薬品販売の在り方等が検討事項とされ,その議論を踏まえて,再改正省令案が策定された。

(次回へ続く)

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