最新下級審裁判例

東京地裁民事第2部判決平成22年03月30日

【事案】

(前回からの続き)

(7) 第二次検討会における議論等及び再改正省令の制定に至る経過等

ア.平成21年2月13日,改正法に基づく新薬事法の全面施行を同年6月1日に控え,新制度の下,国民が医薬品を適切に選択し,かつ,適正に使用することができる環境作りのために国民的議論を行うことを目的として,厚生労働大臣の指示の下に検討会を開催するとして,第二次検討会の開催が決定された。第二次検討会の主な検討事項は,@薬局・店舗等では医薬品の購入が困難な場合の対応方策,Aインターネット等を通じた医薬品販売の在り方等であり,その構成員は,医薬品販売に関する有識者,都道府県の関係者,インターネット等通信販売事業者及び一般用医薬品にかかわる団体の代表で構成するものとされた。

イ.平成21年2月24日,第二次検討会第1回会議が開催された。第二次検討会の座長にもP10座長が選出された(以下,第二次検討会との関係でも「P10座長」という。)。第二次検討会第1回会議では,P13大学総合政策学部教授のP59委員,原告P1代表者,P5株式会社(以下「P5」という。)代表取締役会長兼社長のP60委員,P12委員,P58協議会のP61委員,P16委員,P50委員から,それぞれ提出資料についての説明があり,その後,質疑が行われた。
 P59委員からは,移動困難等の理由により,インターネット販売を必要としている顧客が多いこと,医薬品の安全確保のための方策として対面販売は本質ではなく,インターネットは真の安全を確保する上で有効な道具であること,規制をすることによって健全な業者の営業が制限されれば,違法な業者の活動が活発になり,より危険が増すおそれがあること,世界的なインターネット利用の進展の流れに逆行し,日本の医薬品業界や流通業界の国際競争力を失わせる危険があることといった内容の説明がされ,原告P1代表者からは,インターネット販売の継続を希望している多数の消費者の意見を聞くべきであること,インターネット販売に対する不安を払拭するための安全性確保の方策が国民から求められていることに関しては,インターネットの無限の可能性を活用して,副作用のリスクを極力抑制するための安全性確保の方策を策定したこと等の説明がされ,P60委員からは,近隣に薬局がないなどの理由からインターネット販売を含む通信販売に頼らなければならない消費者は相当多数いるのであって,現に相当多数の消費者からこれを規制する改正省令案に対して反対意見が寄せられていること,法律ではなく省令による権利の規制であるという点でも問題があること,パブリックコメントの内容が十分に開示・反映されていないこと,P4とも協力して業界をしっかりまとめて,安全なインターネット販売を実現していきたいと考えていること等の説明がされ,他方で,P12委員からは,薬の扱い方や副作用をよく知らない人が多く,そのことも考慮した制度設計が必要であり,それも考慮して改正省令の結論が採られていること,薬の入手に困難があるという人たちというのは,薬に対するリスクが高い群の人たちであると考えられ,そのような人たちが医薬品を購入する際にはなおさら医療や専門家と接点を持つべきであること,インターネットの危うさとして,サイトの中で間違った情報を次々と載せていくことによって,医薬品の適正な扱いが行われなくなり,それが助長されることにもなりかねない点がある上,最も危うい点として,インターネットにおいては,一部の悪質な業者がいた場合に,そのような業者を規制することが困難であり,一部の業者がいい加減なことをやると,そこで薬物被害が出てしまうという問題があること等の指摘がされた。
 原告P1代表者が第二次検討会第1回会議に提出した資料には,「一般用医薬品のインターネット販売における安全策について(業界ルール案)」と題する業界ルール案(P4のP5との提携による策定に係るもの)の説明資料が含まれており,その内容は,@違法販売サイト,個人輸入サイトとの区別や専門家が実在することにつき,薬局・店舗のサイト上で,都道府県等への届出済みであることを確認できるようにし,対応する専門家の情報も掲示し,公のサイト(厚生労働省の資格検索システムなど)でも届出済みである旨を掲示して実在することを確認できるようにすること,A薬局・店舗において掲示しなければならない事項(薬局・店舗の管理及び運営に関する事項,一般用医薬品の販売制度に関する事項)は,サイトにも分かりやすく掲示すること,B各医薬品の注意事項等の説明につき,各医薬品の外包又は添付文書に基づき,名称,成分及び分量,用法及び用量,効能又は効果,使用上の注意等を明示し,掲載内容については各店舗の専門家が確認し,必要に応じて諸注意を追記し,その他医薬品全般に関する汎用的な注意事項を掲示するなど啓蒙に努めること,C使用者の情報や状態の把握について,使用者の状態を適切に把握し,問診の前に購入者が使用者であるかどうか確認し,購入者と使用者が違う場合には,使用者の立場に立って答えるよう明示的に促し,使用者の年齢・性別の申告を義務付け,使用者の状態について,禁忌事項に該当するか否かチェックボックス等で項目別に申告を義務付け,禁忌事項への該当があれば,医薬品の注文自体を受け付けず,使用上の注意を明示し,読んで理解した旨の申告を義務付け,その他気掛かりな点を気軽に相談できるよう様々な申告手段を設け,使用者の状況に即して,適切な情報を提供するための資料とすること,D購入者の質問等への対応につき,購入者の質問に対しては,専門家本人が回答し,電子メール,電話,ファクシミリ等状況に応じて適切な手段で双方向のやり取りを実現し,質問があった場合には販売前に回答し,市販薬を用いた処置が不適切と考えられる場合には受診勧奨を行い,回答に当たる専門家は氏名を明らかにし,実在することを確認できるようにすること,E注文に対する販売可否の判断につき,申込みに対しては,禁忌事項に該当する場合は注文を除外し,特に注意を要する注文は専門家が詳細に審査し,最終的には専門家が販売可否を判断し,同一顧客からの大量注文,同種の製品の複数注文等がないかを確認し,最終的に販売を可とした専門家は押印するなどして氏名を明示すること,F禁忌事項について,申告された購入者・使用者の適格性を判断し,当該製品の使用が不適切と判断される場合や申告内容に禁忌事項への該当がある場合には販売をせず,禁忌事項や注意書を理解しないままの申告を防ぐため,理解した旨の申告を義務付け,注文内容,申告情報,購入履歴等に気掛かりな点がないか,各注文の内容を個別に専門家が確認し,疑義があれば販売を保留し,専門家から購入者へ連絡し詳細を確認すること,G医薬品と他の商品の混同・誤用を防ぐため,サイト上では医薬品と一般の商品とは売場を別にし,各医薬品にはリスク区分を明示し,出荷の際,医薬品は内袋に入れるなどして他の商品と混同しないような措置を採り,販売可能と判断された注文伝票と出荷内容が一致しているかの確認を図り,医薬品の品質劣化,損傷を防ぐ梱包となっているかの確認を図り,気掛かりな点があれば使用を控え専門家に相談する旨の文書を同梱すること,H相談窓口の連絡先と対応時間を明記した紙を同梱すること,I不適切販売を行う店への対策として,各店舗の業務手順の明確化により販売状況の透明化を図り,各事業者等に通報窓口を設置し,業界全体で通報内容を共有し,保健所による監視,業界による自主調査,第三者機関による調査といった複数機関による監視・調査活動を行い,業界団体が自主的に調査を行い,不適切な店舗については当局に通報することなどといったものである。(以下,上記内容の業界ルール案を「P4業界ルール案」という。)
 第1回会議の議論においては,P59委員の説明資料にいうインターネットの方がより確実に情報提供ができる場合とはどのようなものかという趣旨のP36委員の質問に対し,P59委員から,画面を超えるような説明書がある場合に,全部スクロールして最後まで到達しないと読んだというボタンが押せず,かつ,それを押さなければ発注画面に移れないという方式や,文字だけでは説得力が足りないという場合に,音声や動画を入れることを想定しており,そのほか,購入者が過去に買った医薬品との飲み合わせを確認することや購入者の条件を確認することによって説明を変更することも可能であること,本当に危険なものについては,ビデオ会議で薬剤師を呼び出すことも技術的には可能である旨の発言があり,それに続いて,原告P1代表者からは,インターネット販売は,薬剤師が購入者と対面しているのと比べて,購入者と薬剤師の間にインターネットを介しているかどうかの違いしかなく,上記業界ルール案に沿っていけば副作用のリスクを最大限に減らしていくことができると確信している旨の発言があった。

ウ.平成21年3月12日,第二次検討会第2回会議が開催された。第二次検討会第2回会議では,P60委員及び原告P1代表者を含む委員から提出された資料の説明及び質疑等が行われた。原告P1代表者は,P62神戸大学名誉教授(本件原告ら訴訟代理人)の意見書を提出した。

エ.平成21年3月31日,第二次検討会第3回会議が開催された。第二次検討会第3回会議では,事務局の作成した検討項目の説明並びにP60委員及び原告P1代表者を含む委員から提出された資料の説明があり,その後に議論が行われた。同会議の議論において,P60委員からは,P5やP4等が中心となって行っている医薬品の通信販売の継続を求める署名が約107万件に達している旨の説明があり,また,消費者のニーズにこたえていく体制を採るべきであるという趣旨の発言があったが,他方,P63会事務局長のP64委員からは,P60委員の上記発言につき,消費者が安全であることを最優先に考えるべきである旨の発言があった。

オ.平成21年4月16日,第二次検討会第4回会議が開催された。第二次検討会第4回会議では,一般消費者からのヒアリング,事務局の作成した検討項目に記載された論点に関する議論が行われた。なお,P60委員が新検討会第4回会議に提出した資料中には,「通信販売安全確保に向けた6月に向けた取組」として,@使用上の注意の確認等を注意喚起する画面の導入,A年齢認証機能の導入(18歳未満は医薬品の販売を禁止する予定),B各店舗が問診票の記載を行うという記述がある。また,同資料中には,「インターネット等を通じた医薬品販売の在り方」と題する部分があるが,具体的なインターネット販売のルールに関する内容は,P4業界ルール案及び上記@ないしBと基本的に同様である。

カ.平成21年4月28日,第二次検討会第5回会議が開催された。第二次検討会第5回会議では,事務局の作成した検討項目に記載された論点につき議論が行われた。その議論において,P36委員からは,チェックボックスによる申告では,本人がそれに該当するかどうか分からない事項については正しい情報を得ることができず,対面で専門家が本人と話をしてきちんとコミュニケーションを取りながら情報を引き出すことによって正しい情報を得る必要があること,そのような問題点があるため,改正法においては一般用医薬品をリスクの程度に応じて分類し,通信販売のできるものとできないものを区別したものである旨の発言がされた。P10座長からの禁忌事項等についてチェックボックスで尋ねて確認してから情報提供を行うということは現在行われているのか今後行おうとしているのかとの質問に対し,原告P1代表者からは,やっているところもあるし,まだできていないところもある旨の回答がされ,また,同原告代表者からは,インターネット販売等の通信販売について,安全性確保の方策を法令によって義務付けた上で認めることを含めて今後検討していくことを要望するとともに,そうした法令の整備がされるまで,当分の間,現状のとおり医薬品の通信販売ができるような措置を検討してほしい旨の提案がされた。その後,事務局から,特定の漢方薬等を継続して服用している者や離島居住者などの利便性に配慮した経過措置を設けるとすると改正省令の一部を再改正する必要があり,同年6月1日に迫った施行日に間に合わせるためにはパブリックコメント等の手続を行わなければならず,再改正の内容について第二次検討会の了承を得る前に先行してパブリックコメントの手続を行いたい旨の提案がされたが,そのような改正省令の再改正案(再改正省令案)があるのであれば,骨子だけでも第二次検討会に提示して議論すべきであるなどの意見が出され,次回の第二次検討会の会議において再改正省令案について議論することとなった。

キ.平成21年5月11日,第二次検討会第6回会議が開催された。第二次検討会第6回会議では,事務局から再改正省令案の内容が示され,議論が行われた。議論の結果,第二次検討会として再改正省令案を承認することはせず,厚生労働省の責任でパブリックコメントの手続を行うこととなった。

ク.厚生労働省は,平成21年5月12日,同月18日を締切日として,再改正省令案の内容を示し,意見公募手続を行った。意見公募に当たっては,期間短縮の理由として,郵便等販売に関する経過措置を設けるため,改正省令の一部を改正して平成21年6月1日までに公布・施行する必要がある旨が示されている。

ケ.平成21年5月22日,第二次検討会第7回会議が開催された。第二次検討会第7回会議では,事務局から,再改正省令案(同第6回会議で提示されたものと同様のもの)及び上記クの意見公募手続の結果が説明され,議論が行われた。意見公募手続の結果は,経過措置に賛成とするもの42件,経過措置に反対とするもの1146件(うち,経過措置は不要とするもの692件,経過措置の内容に反対するもの454件),郵便等販売の規制をすべきでないとするもの8333件等であった。同会議の議論では,改正省令の再改正の在り方について,経過措置による規制の緩和に反対する趣旨で,P64委員,P53委員,P12委員及びP36委員から,更なる規制の緩和を内容とする経過措置の創設を求める趣旨で,P60委員101及び原告P1代表者から,それぞれ反対の意見が出され,委員全体の6割を超える他の委員らからは賛成の意見が出されたものの,最終的に共通の意見の取りまとめにまでは至らなかったため,P10座長の整理に従い,厚生労働省の責任において再改正省令を同案の内容で公布・施行することとして,第二次検討会を終えることとされた。

コ.平成21年5月29日,再改正省令(改正省令の一部を改正する省令)が平成21年厚生労働省令第114号として公布され,改正法及び改正省令の施行に先立ち同日から施行され,これにより,改正省令附則に前記2(2)イ(ア)ないし(カ)の郵便等販売に関する経過措置の規定等が加えられた。

(8) 改正法及び改正省令の施行後の状況等

ア.改正法及び改正省令(ただし,再改正省令による改正後のもの)は,平成21年6月1日から施行された。

イ.改正法及び改正省令の施行直後,本件規制を批判する立場でインターネットサイトに記事を公表した者が自ら薬局又は店舗で医薬品を購入して調査を行った結果をその記事に掲載した内容によれば,ある薬局では,第一類医薬品の購入時に情報提供がされず,ドラッグストアチェーン店の店舗2店では,第二類医薬品の購入時に情報提供がされないことがあったと記載されている。

ウ.改正法及び改正省令の施行直後の原告P1の調査結果によれば,平成21年7月ころ,漢方薬を取り扱う薬局において,@購入者が家族のためのものであることを明らかにして薬剤師と対面して購入した第二類医薬品につき,その後に当該購入者が再度電話で注文したところ,当該医薬品が郵送で販売された事例,A注文者が自己の症状を電話及びファクシミリで伝え,友人が代理人であることを明らかにして薬剤師と対面して購入した第二類医薬品につき,その後に注文者が再度電話で注文したところ,当該医薬品が郵送で販売された事例があった。

エ.熊本県における医薬品の特例販売業(旧薬事法35条)の取扱いについて定めた特例販売業取扱要領には,特例販売業は,薬局及び医薬品販売業の普及が十分でない場合,その他適正な医薬品の供給を図るため知事が特に必要と認める場合に限り,許可するものとし,適正な医薬品の供給を図るため知事が特に必要と認める場合とは,@駅の構内等の特殊な施設であって,容易に薬局等を利用し難い場合,A医療用酸素等通常薬局等において購入し難いガス性医薬品及び揮発性医薬品等を取り扱う場合であるとされている。熊本県内で一般販売業の許可を受けて漢方薬等の医薬品の通信販売を行っていた株式会社P65(以下「P65」という。)が,改正法の施行直前である平成21年5月22日付けで,上記「適正な医薬品の供給を図るため知事が特に必要と認める場合」に該当するものとして,特例販売業の許可(旧薬事法35条)を受けており,そのほか,10業者が,改正法の施行直前に特例販売業の許可を得ている。

オ.原告P1の医薬品の1か月当たりの売上げは,平成20年4月から平成21年4月にかけて,約4500万円から約7000万円の間でおおむね緩やかに上昇してきたが,同年5月に1億円を超える売上げを記録した後,同年6月から11月までおおむね3000万円から4000万円の間で推移している。原告P1は,平成21年6月2日,本件規制の影響により医薬品の売上げの減少が予想されることから,平成22年3月期の業績予想につき,同期の売上高を120億円,当期純利益を2500万円と下方修正した。これは,第二類医薬品のインターネット販売が認められることを前提とした業績予想よりも売上高で5億円低く,当期純利益で9500万円低い。なお,原告P1の売上高に占める医薬品の割合はその前期において約7%であった。
 また,原告P2の医薬品の1か月当たりの売上げは,平成20年12月から平成21年3月まで104万円から129万円の間で推移し,同年4月には176万円,同年5月には303万円を記録したものの,同年6月から11月まで58万円から90万円の間で推移し減少傾向にある。もっとも,原告P2の1か月当たりの総売上げは,平成20年12月から平成21年3月まで495万円から564万円の間で推移し,同年4月に614万円,同年5月に866万円を記録した後,同年6月から11月までは430万円から501万円の間で推移しており,同年6月から10月までは,前年同月の総売上げをいずれも上回っている。

【判旨】

1.争点(1)(本件無効確認の訴え及び本件取消しの訴えの適法性)について

(1) 行政事件訴訟法3条4項の処分の無効確認の訴え及び同条2項の処分の取消しの訴えの対象は,いずれも,行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為(以下「行政処分」という。)でなければならず,行政処分とは,公権力の主体たる国又は地方公共団体(法令に基づきその権限の委託を受けた機関を含む。)が行う法令に基づく行為のうち,公権力の行使として行われる行為であって,その行為によって,直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいうと解される(最高裁昭和37年(オ)第296号同39年10月29日第一小法廷判決・民集18巻8号1809頁参照)。

(2) 本件無効確認の訴え及び本件取消しの訴えの対象は,改正省令の一部としての本件改正規定であるところ,省令の制定は,法律の委任を受けた行政機関がその委任に基づいて行う立法作用に属するから,限られた特定の者に対してのみ適用される結果として行政庁の処分と実質的に同視し得るものといえる例外的な場合を除き,一般的には抗告訴訟の対象となる行政処分に当たるものではないと解するのが相当である(最高裁平成15年(行ツ)第35号,同年(行ヒ)第29号同18年7月14日第二小法廷判決・民集60巻6号2369頁最高裁平成21年(行ヒ)第75号同年11月26日第一小法廷判決・裁判所時報1496号7頁参照)。
 そこで,改正省令の一部である本件改正規定(改正省令のうち薬事法施行規則に本件各規定を加える改正規定)について,上記の例外的な場合に該当するか否かを検討するに,本件改正規定により加えられる本件各規定の主な内容は,薬局開設者又は店舗販売業者による一般用医薬品の販売又は授与(以下,単に「販売」という。)について,@新薬事法36条の6第1項ないし第3項の規定による情報提供は薬剤師又は登録販売者(第一類医薬品については薬剤師)が薬局又は店舗において対面で行うことを要すること(新施行規則159条の15第1項1号,159条の16第1号並びに159条の17第1号及び2号),A第三類医薬品の郵便等販売を行う場合を除き,薬剤師又は登録販売者(これらの管理・指導下の一般従事者を含み,第一類医薬品については薬剤師(その管理・指導下の登録販売者又は一般従事者を含む。)に限る。)が薬局等において対面で販売することを要すること(新施行規則159条の14),B郵便等販売を行う場合は第三類医薬品以外の一般用医薬品の販売は行わないこと(新施行規則15条の4第1項1号)であって,上記@及びAの規制が,一般用医薬品の販売を行う者全般に広く適用される規制であることに加え,上記Bの規制も,その規制の適用を受ける「郵便等販売」とは,薬局開設者又は店舗販売業者が当該薬局又は店舗以外の場所にいる者に対してする郵便その他の方法による医薬品の販売をいい(新施行規則1条2項7号参照),インターネット販売を行う業者のみならず,それ以外の郵便その他の方法による通信販売を行う業者全般が当該規制の対象となるのであって,特定の業者(特定の企業又は個人)のみを規制の対象とするものではないから,本件改正規定は,限られた特定の者に対してのみ適用される規定ではないというべきであり,当該省令の規定の制定行為をもって行政庁が法の執行として行う処分と実質的に同視することはできないので,改正省令中の本件改正規定の制定行為は,抗告訴訟の対象となる行政処分には当たらないというべきである。
 原告らは,改正省令中の本件改正規定は,実質的には第一類・第二類医薬品のインターネット販売を行っていた原告らを始めとする限られた者の権利を制限するものであるから,行政処分に当たる旨主張するが,上記@ないしBの本件改正規定の性質・内容に照らし,上記主張は採用することができない。
 なお,原告らは,対世効や仮の救済の手続において当事者訴訟では不十分な点があるから抗告訴訟が認められるべきである旨主張するが,まず,対世効については,仮に,当事者訴訟である本件地位確認の訴えに係る原告らの請求を認容する判決がされ,原告らと被告との間で原告らが本件各規定にかかわらず第一類・第二類医薬品の郵便等販売をすることができる地位を有することが確認されれば,原告らは,本件各規定による規制を受けずにこれらの郵便等販売をすることができ,その販売行為について被告の所轄行政庁から監督権限の行使等を受けることもなく,原告らの法的利益の保護として十分であるといえる上,原告ら以外の他の販売業者等にも対世効を及ぼして第一類・第二類医薬品の郵便等販売を認めなければ行政運営の対応に困難を来すといった事情は見当たらないことも併せ考えれば,対世効のある訴訟手続によるべき必要性は認め難い。また,仮の救済手続の点については,そもそも仮の救済手続の利用の可否やその容易性が行政処分性の有無の判断に影響を与えるとは解されないから,原告らの上記主張も,改正省令中の本件改正規定の行政処分性に関する前示の判断を左右するものとは認められない。

(3) したがって,本件無効確認の訴え及び本件取消しの訴えは,いずれも,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たらないものを対象として提起されたものといわざるを得ず,その余の点(行政事件訴訟法36条の要件該当性等)について判断するまでもなく,不適法であり,却下を免れない。

2.本件地位確認の訴えの適法性について

(1) 本件地位確認の訴えは,公法上の当事者訴訟のうちの公法上の法律関係に関する確認の訴えと解することができるところ,原告らは,改正省令の施行前は,一般販売業の許可を受けた者として,郵便等販売の方法の一態様としてのインターネット販売により一般用医薬品の販売を行うことができ,現にこれを行っていたが,改正省令の施行後は,本件各規定の適用を受ける結果として,第一類・第二類医薬品についてはこれを行うことができなくなったものであり,この規制は営業の自由に係る事業者の権利の制限であって,その権利の性質等にかんがみると,原告らが,本件各規定にかかわらず,第一類・第二類医薬品につき郵便等販売の方法による販売をすることができる地位の確認を求める訴えについては,前記2のとおり本件改正規定の行政処分性が認められない以上,本件規制をめぐる法的な紛争の解決のために有効かつ適切な手段として,確認の利益を肯定すべきであり,また,単に抽象的・一般的な省令の適法性・憲法適合性の確認を求めるのではなく,省令の個別的な適用対象とされる原告らの具体的な法的地位の確認を求めるものである以上,この訴えの法律上の争訟性についてもこれを肯定することができると解するのが相当である(なお,本件改正規定の適法性・憲法適合性を争うためには,本件各規定に違反する態様での事業活動を行い,業務停止処分や許可取消処分を受けた上で,それらの行政処分の抗告訴訟において上記適法性・憲法適合性を争点とすることによっても可能であるが,そのような方法は営業の自由に係る事業者の法的利益の救済手続の在り方として迂遠であるといわざるを得ず,本件改正規定の適法性・憲法適合性につき,上記のような行政処分を経なければ裁判上争うことができないとするのは相当ではないと解される。)。

(2) したがって,本件地位確認の訴えは,公法上の法律関係に関する確認の訴えとして,確認の利益が肯定され,法律上の争訟性も肯定されるというべきであり,本件地位確認の訴えは適法な訴えであるということができる。
 そこで,以下,本件地位確認の訴えの本案の争点として,争点(2)(本件改正規定の適法性・憲法適合性)について検討する。

(次回へ続く)

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