最新下級審裁判例

東京地裁民事第2部判決平成22年03月30日

【判旨】

3.争点(2)ア(委任命令としての適法性)について

(1) 憲法22条1項は,狭義における職業選択の自由のみならず,職業活動の自由としての営業の自由を保障する趣旨を包含していると解すべきところ,本件改正規定の適用の結果として第一類・第二類医薬品について郵便等販売の方法による販売はこれを行うことができなくなることからすれば,改正省令中の本件改正規定は,これらによって憲法22条1項において保障される営業の自由に係る事業者の権利が制限されるものであるということができる。
 本来,国民の権利を制限するには法律の根拠が必要であるが,制限される権利の種類及び制限の目的によっては,専門的・技術的な判断を要する事項等に応じて制限の範囲・内容を定める必要がある場合も考えられるところ,そのような事項及び制限の細目をすべて法律で定めることは,実際上困難であり,かつ,事情の変化に柔軟に対応していくことも困難になることから,法律による委任があり,かつ,その委任の範囲内であれば,省令を始めとする行政立法によって国民の権利を制限することも許されると解すべきである(国家行政組織法12条3項)。
 したがって,改正省令中の本件改正規定の適法性を判断するに当たっては,本件改正規定により設けられた新施行規則中の本件各規定が,法律の委任(授権)に基づくものであるか,法律の委任に基づくものであるとして,その委任の範囲内で定められたものであるかについて検討する必要がある。

(2) 本件改正規定により設けられた新施行規則中の本件各規定に対する法律の委任(授権)の有無について,被告は,新施行規則中の本件各規定のうち,15条の4は新薬事法36条の5及び36条の6,159条の14は新薬事法36条の5,159条の15第1項1号は新薬事法36条の6第1項,159条の16第1号は新薬事法36条の6第2項,159条の17第1号及び第2号は新薬事法36条の6第3項の規定の委任をそれぞれ受けたものであって,本件各規定にはいずれも法律の授権規定が存在すると主張する。
 まず,(a)新薬事法36条の5は,販売に従事する者に関しては,1号において第一類医薬品について薬剤師と,2号において第二類医薬品及び第三類医薬品について薬剤師又は登録販売者と,それぞれ明確かつ一義的に定めていることに加え,同条柱書の全体の文脈を併せ考えれば,同条柱書の「厚生労働省令で定めるところにより」という文言は,販売に従事する者の定めを委任する趣旨ではなく,「販売させ,又は授与させなければならない」にかかるものであることは明らかであり,したがって,同条は,その文理上,一般用医薬品の販売(第一類医薬品の薬剤師による販売並びに第二類医薬品及び第三類医薬品の薬剤師又は登録販売者による販売)における販売の方法・態様についての定めを厚生労働省令に委任したものと解するのが相当である(原告らは,同条は,販売に従事する者についての定めを委任したものであると主張するが,以上のとおり,失当である。)。また,(b)新薬事法36条の6第1項ないし第3項の「厚生労働省令で定めるところにより」という文言は,同各項の全体の文脈からすれば,それぞれ,「情報を提供させなければならない」又は「情報を提供させるよう努めなければならない」にかかるものであることは明らかであり,したがって,同各項は,いずれも,その文理上,一般用医薬品の販売又は相談応需における情報提供(第一類医薬品の販売に係る薬剤師による情報提供,第二類医薬品の販売に係る薬剤師又は登録販売者による情報提供並びに一般用医薬品の相談応需に係る薬剤師又は登録販売者による情報提供)の方法・態様についての定めを有資格者(医薬品の販売に必要な専門的知識又は資質について所轄行政庁の免許又は確認を受けた薬剤師又は登録販売者をいう。以下同じ。)の関与の在り方を含めて厚生労働省令に委任したものと解するのが相当である。
 そして,上記(a)及び(b)を踏まえて本件各規定の文言及び内容についてみるに,新施行規則中の本件各規定のうち,(ア)@159条の15第1項1号は,同項柱書の引用に係る新薬事法36条の6第1項の規定による情報提供の方法(有資格者の関与の在り方を含む。後記A及びBも同様)について定め,A159条の16第1号は,同条柱書の引用に係る新薬事法36条の6第2項の規定による情報提供の方法について定め,B159条の17第1号及び第2号は,同条柱書の引用に係る新薬事法36条の6第3項の規定による情報提供の方法について定めていることから,文理上,それぞれ新薬事法の上記各規定の委任に基づくものであるということができ,(イ)159条の14は,各項とも「法第三十六条の五の規定により」と明記した上で,@第1項において,第一類医薬品について,薬剤師自ら又はその管理及び指導の下で登録販売者若しくは一般従事者をして,当該薬局等において,対面で販売させるべき旨を規定し,A第2項において,第二類医薬品又は第三類医薬品について,薬剤師又は登録販売者自ら又はその管理及び指導の下で一般従事者をして,当該薬局等において,対面で販売させるべき旨を規定しており,いずれも,一般用医薬品の販売における具体的な販売の方法・態様(有資格者の関与の在り方を含む。)を定めたものといえるから,各項の規定の文言及び内容並びに上記(a)の委任の趣旨にかんがみ,新薬事法36条の5の規定の委任に基づくものであるということができ,(ウ)15条の4(142条において準用する場合を含む。)は,薬局開設者又は店舗販売業者が一般用医薬品の販売方法として郵便等販売を行う場合について,@第1項において,その販売方法を採るに当たっての遵守すべき事項(1号及び2号)及び情報提供の方法(3号,別表第一の二)を規定し,A第2項において,所要の手続として届書の提出を定めるものであり,一般用医薬品の販売における具体的な販売及び情報提供の方法・態様(有資格者の関与の在り方を含む。)を定めたものといえるから,各項の規定の文言及び内容並びに上記(a)及び(b)の委任の趣旨にかんがみ,新薬事法36条の5及び36条の6の委任に基づくものであるということができる。

(3) 以上によれば,改正省令中の本件改正規定により設けられた新施行規則中の本件各規定は,それぞれ,改正法により設けられた新薬事法の授権規定(同法36条の5及び36条の6)の委任に基づくものであるということができるので,以下,本件各規定がその委任の範囲内で定められたものかどうかについて検討する。

ア.前記(2)(a)及び(b)に説示したところによれば,<A>新薬事法36条の5は,一般用医薬品の販売(第一類医薬品の薬剤師による販売並びに第二類医薬品及び第三類医薬品の薬剤師又は登録販売者による販売)における販売の方法・態様についての定めを厚生労働省令に委任したものであり,<B>新薬事法36条の6は,一般用医薬品の販売又は相談応需における情報提供(第一類医薬品の販売に係る薬剤師による情報提供,第二類医薬品の販売に係る薬剤師又は登録販売者による情報提供並びに一般用医薬品の相談応需に係る薬剤師又は登録販売者による情報提供)の方法・態様についての定めを厚生労働省令に委任したものであると解されるところ,(ア)薬事法の目的には医薬品の安全性の確保のために必要な規制を行うことが掲げられ(1条),新薬事法36条の6において提供又は提供の努力が義務付けられる情報は一般用医薬品の「適正な使用のために必要な情報」とされており,新薬事法36条の5及び36条の6は改正法により併せて新設された規定であること,(イ)改正法案の可決時の参議院本会議への同院厚生労働委員会の報告において,改正法案は,「医薬品の適切な選択及び適正な使用に資するよう,一般用医薬品をその副作用等により健康被害が生ずるおそれの程度に応じて区分し,その区分ごとに,専門家が関与した販売方法を定める等,医薬品の販売制度全般の見直しを行う(中略)こと等により,保健衛生上の危害の発生の防止を図」ることを改正の目的とするものとされ(事案6(5)キ。衆議院本会議への同院厚生労働委員会の報告も同旨である(同コ)。),参議院の附帯決議においても,政府に対し,「医薬品の適切な選択及び適正な使用の確保のため,新たな一般用医薬品の販売制度が実効あるものとなるよう十分留意すること」,「新たな一般用医薬品の販売制度について,国民が,医薬品のリスク分類によって,販売者,販売の在り方等が異なることを理解し,適正に販売がなされていることを容易に確認できるよう必要な対策を講ずること。また,制度の実効性を確保するよう薬事監視の徹底を図ること」及び「一般用医薬品のリスク分類については,安全性に関する新たな知見や副作用の発生状況等を踏まえ,不断の見直しを図ること」を求める旨の決議がされていること(事案6(5)キ)等にかんがみると,新薬事法36条の5及び36条の6の規定は,一般用医薬品のリスク分類並びにその区分に応じた販売及び情報提供の方法・態様の在り方については,医学的・科学的な知見・検証等に基づく専門的・技術的な検討を必要とし,新たな知見や副作用の発生状況等の事情の変化に柔軟に対応する必要もあることから,一般用医薬品の安全性の確保(副作用等による健康被害の防止のための適切な選択及び適正な使用の確保)のため,36条の5において,その確保のために必要な販売の方法・態様について,36条の6において,その確保のために必要な情報提供の方法・態様について,それぞれ一般用医薬品のリスク(副作用等により健康被害が生ずるおそれ)の程度に応じた区分ごとにどのような方法・態様の販売及び情報提供の在り方(有資格者の関与の在り方を含む。)が適切であるかという観点からの専門的・技術的な検討を経た上で具体的に定めることとして,その定めを厚生労働省令に委任したものと解するのが相当である。そして,このように,新薬事法36条の5及び36条の6の授権規定による省令への委任の趣旨が,一般用医薬品の安全性の確保(副作用等による健康被害の防止のための適切な選択及び適正な使用の確保)を目的として,一般用医薬品のリスク(副作用等により健康被害が生ずるおそれ)の程度に応じた区分ごとに販売及び情報提供の適切な方法・態様の在り方(有資格者の関与の在り方を含む。)を専門的・技術的な判断に基づき定めることにあることにかんがみると,新薬事法の委任に基づき,省令において一定の区分の一般用医薬品について有資格者が関与する販売及び情報提供の方法・態様を具体的に定めることにより,その結果,当該区分の一般用医薬品につき一定の販売方法を採ることができなくなることがあるとしても,それは,上記のとおりの新薬事法の委任の趣旨に沿った規制に必然的に随伴する結果として,当該法律の委任の範囲に包含されており,その範囲を超えるものではないと解するのが相当である。
 しかるところ,新施行規則中の本件各規定は,(ア)新施行規則159条の15ないし159条の17において,一般用医薬品のリスク分類の区分に応じた情報提供の方法・態様(有資格者の関与の在り方を含む。)を,(イ)新施行規則159条の14において,一般用医薬品のリスク分類の区分に応じた販売の方法・態様(有資格者の関与の在り方を含む。)を,(ウ)新施行規則15条の4において,一般用医薬品のリスク分類の区分に応じた販売及び情報提供の方法・態様(有資格者の関与の在り方を含む。)をそれぞれ具体的に定めており,このように,@上記(ア)において,第一類・第二類医薬品についての薬剤師又は登録販売者による情報提供は対面で行うべきこと等を,A上記(イ)において,一般用医薬品についての薬剤師又は登録販売者による販売は第三類医薬品を郵便等販売する場合を除き対面で行うべきこと等をそれぞれ定めたのは,新薬事法36条の5及び36条の6の授権規定の委任に基づき,新薬事法の委任の趣旨に沿った規制として,省令において一定の区分の一般用医薬品について有資格者の関与する販売及び情報提供の方法・態様を具体的に定めたものであり,これらの規制に伴う帰結として,B上記(ウ)において,一般用医薬品の郵便等販売を行う場合は,第一類・第二類医薬品の販売を行わないこと等を定めていることについては,上記(ア)及び(イ)の具体的な定めに必然的に随伴する結果として,当該法律の委任の範囲に包含されており,上記@ないしBの本件各規定のいずれの定めも,その委任の範囲を超えるものではないというべきである。そして,法律の委任に基づき定められる省令が,専門的・技術的な検討及びその時々の事情の総合的な勘案等の上で定められることからすると,省令において法律の委任を受けた事項についてどのような定めを設けるかについては,法律の委任の趣旨を逸脱しない範囲内において,所管行政庁に専門的・技術的な観点からの一定の裁量権が認められているものと解するのが相当であるところ,第一類,第二類及び第三類の医薬品の各区分のいずれについて有資格者による対面の販売及び情報提供を義務付けるかについては専門的・技術的な検討及び事情の変化に応じた柔軟な対応が必要となる事項であると考えられる(なお,事案6(3)ネのとおり,第二類医薬品については,厚生科学審議会の審議結果である検討部会報告書でも結論は留保されていた。)ことからすると,新薬事法の授権規定が当該事項の定めを所管行政庁の専門的・技術的な観点からの裁量的判断にゆだねたことには一定の合理的な理由があり,前記のとおりの新薬事法の委任の趣旨にかんがみ,上記@ないしBの本件各規定の定めは,その内容の実質においても,当該法律の委任の趣旨(上記の裁量権の範囲)を逸脱するものではなく,その委任の範囲を超えるものではないというべきである。

イ.なお,以上に説示したことは,(あ)参議院・衆議院における改正法案の主務大臣である厚生労働大臣の趣旨説明において,「国民の健康意識の高まりや医薬分業の進展等の医薬品を取り巻く環境の変化,店舗における薬剤師等の不在など制度と実態の乖離等を踏まえ,医薬品の販売制度を見直すこと」が求められているとした上で,「今回の改正では,医薬品の適切な選択及び適正な使用に資するよう,医薬品をリスクの程度に応じて区分し,その区分ごとに,専門家が関与した販売方法を定める等,医薬品の販売制度全般の見直しを行う」との説明がされ(事案6(5)イ),この説明は,前記の参議院本会議に対する同院厚生労働委員会の審議結果の報告内容と同旨であること,(い)改正法案の主務官庁である厚生労働省が内閣法制局における審査時に提出した説明資料に,(T)新薬事法36条の6第1項及び第2項の原案に相当する条文案(当時の36条の4第1項及び第2項)について,「改正後については,薬剤師又は試験合格者(引用注・登録販売者に相当)の隣接空間内に限り,購入者に対して医薬品を販売し,情報提供を行うことができることとすることが適当である」,「安全性を確保する観点からは,購入者の質問に十分に答えられない場合や間違った情報を伝えないようにするため,薬剤師又は試験合格者が適切に管理することが求められる」,「よって,当該省令において,そのような管理下販売の方法について規定する予定である」との解説が記載され,(U)新薬事法36条の5の原案に相当する条文案(当時の36条の3第1項)について,省令への委任につき「厚生労働省令で定めるところにより,販売させ,授与させ(中略)ること」との標題の下に,上記(T)と同様の適切な情報提供及び相談応需の確保のための管理下販売の方法の定めを委任する趣旨と解される解説が記載されており,(V)同説明資料の添付資料として検討部会報告書(正式の部会での決定前の報告書案で,報告書と実質的に同じ内容のもの。以下,この添付資料としての報告書を指すときは,同じ。)が添付されていたこと(後記(う)参照)にもかんがみ,これらの条文案の解説等を全体的にみれば,新薬事法の授権規定は,一般用医薬品について,上記(T)の条文案の文言から一見して明白な情報提供の方法・態様のみならず,有資格者の管理の下における販売の方法・態様についても省令に委任することを前提として立案されたものと解されること,(う)厚生労働省による改正法案の立案作業の基礎とされ,上記(い)の説明資料にも添付された厚生科学審議会の審議結果である検討部会報告書には,医薬品の販売については,対面販売が原則であることから,情報通信技術を活用した医薬品の販売には慎重に対応すべきであるとした上,第一類医薬品については,対面販売とすべきであり,情報通信技術を用いた販売を認めることは適当ではない旨,第三類医薬品については,一定の要件で通信販売を認めざるを得ない旨記載され,医薬品のリスク分類による各区分のいずれについて対面販売を義務付け,その結果として郵便等販売が認められないものとするかが,法令改正の対象事項として掲記される一方で,第二類医薬品についてはその結論が留保されていたこと(事案6(3)ネ),(え)国会審議において,薬害被害を二度と発生させないために安全性を第一に考えてほしいという議員の質問に対し,厚生労働省の医薬食品局長が,改正により消費者の安全性がより確保される仕組みが構築される旨の答弁をし(事案6(5)エ(ア)),また,厚生労働大臣が,医薬品の安全体制の充実強化に積極的に取り組んでいく旨の答弁をし,議員からも,規制改革の流れの中で信頼,安全,安心をどのように作っていくかについてはぬかりなく油断なく対応してほしい旨の指摘がされた(事案6(5)カ(イ))という状況の下で,@(T)薬害・副作用被害の防止の観点からインターネット販売の規制を強化すべきではないかとの質問に対し,医薬食品局長は,医薬品の販売における対面販売の重要性を強調した上,インターネット販売について検討部会報告書を踏まえて慎重な対応が必要である旨答弁し(事案6(5)エ(イ),同ケ),指定第二類医薬品についてオーバー・ザ・カウンターの販売形態を義務付けるべきではないかとの質問に対し,法案成立後に検討する旨答弁しており(同エ(ア)),(U)厚生労働大臣も,第一類医薬品のインターネット販売を制限すべきではないかとの質問に対し,法改正後については,改正後の薬事法において,第一類医薬品を販売する場合には,省令で定めるところにより,薬剤師が所要の情報提供をしなければならないものとされていて,これに基づき対面販売により情報提供することを求めるという方向性になっており,その定めの違反は行政処分による強制力のある取締りの対象となり,従来は通知に基づく行政指導がされてきたインターネット販売はその取締りの対象となる旨答弁し(同カ(ウ)),指定第二類医薬品についても,上記(T)と同旨の質問に対して医薬食品局長の上記(T)と同旨の法案成立後に関係者の意見を詰めていきたい旨の答弁をしている(同エ(ア))上,A参考人であるP10部会長は,改正法案は検討部会での議論及び検討部会報告書を十分に踏まえたものであると説明し(同オ(ア)),質疑において対面販売が望ましい旨の見解を表明しており(同オ(エ)),BP11のP44参考人からは,インターネット販売の規制について政省令で定めるべきである旨の意見陳述がされているところ(同オ(ウ)),前記(あ)の趣旨説明を踏まえた上記@ないしBの答弁及び説明・意見等に対し,議事録上,特に異論が出たことは認められず,郵便等販売の具体的な規制を法律に規定すべきである旨の質疑等もされることなく,改正法案が原案どおり可決されていることからすれば,販売方法の規制に関しては,一定の区分の医薬品について,対面販売の義務化及びこれに伴う郵便等販売の制限が法案成立後に行政立法等によって具体化される方向で検討されていることを前提として改正法案の審議が進められたことがうかがわれることからも,裏付けられるものということができる(なお,対面の原則の定義・根拠に関する改正法案の立案過程における議論の状況等については,後記4(5)イ参照)。

(4)ア.これに対し,原告らは,(ア)@新薬事法36条の5は販売に従事する者についての規制を省令に委任したものであり,A新薬事法36条の6は情報提供の方法についての規制を省令に委任したものであって,いずれも,インターネット販売を禁止する省令の根拠とはなり得ない,(イ)店舗販売業の定義を定める新薬事法25条にいう「店舗において」とは,旧薬事法37条1項の「店舗による」と同義であり,郵便等販売を禁止する趣旨を含むものではないし,特に定めがない以上,薬事法36条の6第1項が電磁的方法による情報提供について規定していないからといってそれが認められない趣旨であると解すべきではない旨主張する(事案5(2)ア(原告らの主張の要旨)(以下「原告ら主張ア」という。)(ア)a)。
 しかしながら,上記(ア)@の主張に理由がないことは前記(2)(a)において,同Aの主張に理由がないことは前記(3)において,それぞれ既に説示したとおりである。また,上記(イ)の主張については,新薬事法25条が店舗販売業につき郵便等販売を禁止する趣旨を含んでおらず,新薬事法36条の6第1項が電磁的方法による情報提供について規定していないこと自体からそれが禁止される趣旨ではないことは所論のとおりであるとしても,そのことは,新薬事法36条の5及び36条の6が一般用医薬品のリスク分類の区分に応じた販売及び情報提供の方法・態様の定めを有資格者の関与の在り方を含めて省令に委任し,一定の区分の医薬品について有資格者の対面による販売及び情報提供を義務付ける結果として郵便等販売が販売方法から除外されることがその委任の範囲に含まれると解することの妨げとなるものではなく,上記主張は理由がない。

イ.原告らは,本件各規定の新薬事法上の授権規定に関する厚生労働省の説明が不正確かつあいまいであること,授権規定が明らかにされたのは改正法の成立よりかなり後であること等からすれば,薬事法の改正の際,厚生労働省担当者は,第一類・第二類医薬品のインターネット販売を禁止する意図を有していなかった旨主張する(原告ら主張ア(ア)a)が,前記(3)イ(え)(国会審議での厚生労働省の医薬食品局長及び厚生労働大臣の答弁内容等)並びに同(い)及び(う)(厚生労働省の内閣法制局における法案審査時の説明資料及びその添付資料とされた厚生科学審議会の審議結果の厚生労働大臣への報告である検討部会報告書の内容)に説示したところに照らし,採用することができない。なお,原告らは,厚生労働大臣は第一類医薬品についてインターネット販売を規制する趣旨の答弁をしたにとどまる旨主張するが,この答弁は,事案6(5)カ(ウ)のとおり,第一類医薬品についてインターネット販売が行われている現状についての対応をただす質問に対し,法改正後は第一類医薬品について対面販売が求められることからインターネット販売ができなくなる旨及び現状については行政指導によって対応するしかない旨を答弁したものであり,この質問と答弁との対応関係及び指定第二類医薬品に関する同エ(ア)の答弁内容に加え,上記(3)イ(え)@(T)及び(U)の第二類医薬品に関する厚生労働省の医薬食品局長の答弁を併せ考慮すれば,上記大臣の答弁は,第一類医薬品に対する質問に対応して第一類医薬品に関する規制についての答弁をしたものと解すべきであり,第二類医薬品についての郵便等販売を認める趣旨のものとは解されないので,上記主張も理由がない。

ウ.原告らは,立法者の意思は法律の条文として明確な形で現れるか,少なくとも提案理由又は附帯決議に現れていることが必要であり,単に国会における議論の過程や答弁に現れているだけでは足りず,対面販売を義務付けることやこれまで認められてきた第一類・第二類医薬品のインターネット販売を禁止することは法律の条文のみならず提案理由や附帯決議にも立法者の意思として現れていない旨主張する(原告ら主張ア(ア)b)が,前記(3)アのとおり,本件各規定が新薬事法の授権規定の委任に基づくものであることは,新薬事法の条文全体並びに国会の本会議における委員会報告及び附帯決議に示された立法者の意思から導かれるものであり,しかも,このことは,前記(3)イのとおり,上記報告内容と符合する衆参各院における厚生労働大臣の趣旨説明(提案理由説明)のほか,改正法案の立案過程の基礎資料(厚生労働省の内閣法制局における法案審査時の説明資料及びその添付資料とされた厚生科学審議会の審議結果である検討部会報告書)並びに国会審議における厚生労働省の医薬食品局長及び厚生労働大臣の答弁等からも裏付けられるのであるから,上記主張は理由がない。

エ.原告らは,(ア)改正法の制定過程において,(a)国会審議の過程での資料及び答弁のみならず,(b)厚生科学審議会(検討部会)での議論及び報告書の記述を通じて,新薬事法が第一類・第二類医薬品のインターネット販売を禁止する趣旨を省令に委任したことをうかがわせる事情は見当たらない(原告ら主張ア(イ)a及びb(a)),(イ)外国での通信販売の状況について,厚生労働省担当者が,@検討部会において誤った資料を準備し,誤った議論の方向を修正しなかった上,A国会審議においても事実と異なる想定問答を準備していた旨主張する(原告ら主張ア(イ)b(b))。
 しかしながら,上記(ア)について,(a)国会審議では,前記(3)イ(え)のとおり,@(T)薬害・副作用被害の防止の観点からインターネット販売の規制を強化すべきではないかとの質問に対し,厚生労働省の医薬食品局長は,医薬品の販売における対面販売の重要性を強調した上,インターネット販売について検討部会報告書を踏まえて慎重な対応が必要である旨答弁し,指定第二類医薬品についてオーバー・ザ・カウンターの販売形態を義務付けるべきではないかとの質問に対し,法案成立後に検討する旨答弁しており,(U)厚生労働大臣も,第一類医薬品のインターネット販売を制限すべきではないかとの質問に対し,法改正後については,改正後の薬事法において,第一類医薬品を販売する場合には,省令で定めるところにより,薬剤師が所要の情報提供をしなければならないものとされていて,これに基づき対面販売により情報提供することを求めるという方向性になっており,その定めの違反は行政処分による強制力のある取締りの対象となり,従来は通知に基づく行政指導がされてきたインターネット販売はその取締りの対象となる旨答弁し,指定第二類医薬品について,上記(T)と同旨の質問に対して医薬食品局長の上記(T)と同旨の法案成立後に関係者の意見を詰めていきたい旨の答弁をしている上,A参考人であるP10部会長は,改正法案は検討部会での議論及び検討部会報告書を十分に踏まえたものであると説明し,質疑において対面販売が望ましい旨の見解を表明しており,BP11のP44参考人からは,インターネット販売の規制について政省令で定めるべきである旨の意見陳述がされているところ,前記の趣旨説明を踏まえた上記@ないしBの答弁及び説明・意見に対し,特に異論は出されず,郵便等販売の具体的な規制を法律に規定すべきである旨の質疑等もされることなく,改正法案が原案どおり可決されていることからすれば,販売方法の規制に関しては,一定の区分の医薬品について対面販売の義務化及びこれに伴う郵便等販売の制限が法案成立後に行政立法等によって具体化される方向で検討されていることを前提として改正法案の審議が進められたことがうかがわれること,(b)@検討部会の議論では,多数の委員(P11のP12委員(事案6(3)カ),大学薬学部教授のP36委員(同ナ),大学医学部教授のP26委員(同ナ),P15のP16委員(同ソ),東京都福祉保険局のP34委員(同タ))及びP11の役員である講師(同ケ)により,副作用による健康被害の防止の観点から,一般用医薬品について有資格者の対面による販売及び情報提供を行うのが原則であり,対面によらないインターネット販売を認めることには消極である旨の意見が述べられ,また,多数の委員(大学薬学部教授のP30専門委員(事案6(3)ソ),大学フロンティア創造共同研究センター教授のP24委員(同ソ,ナ及びニ),大学経営学部教授のP32委員(同ソ),大学院経営管理研究科教授のP35委員(同チ),P19のP20委員(同ソ),P27協会のP28委員(同セ),P6協会のP25委員(同ソ)等)の発言及び事務局による論点整理の経過(事案6(3)エ,同セ,同チ,同ナ及び同ニ)によれば,違法な薬物の取引と薬局や店舗販売業の許可を得ている者が行うインターネット販売とを区別した上で,後者の利点と問題点を比較検討して議論が行われており,A検討部会報告書には,上記@の議論を踏まえ,医薬品の販売については,対面販売が原則であることから,情報通信技術を活用した医薬品の販売には慎重に対応すべきであるとした上,第一類医薬品については,対面販売とすべきであり,情報通信技術を用いた販売を認めることは適当ではないとするなど,医薬品のリスク分類による各区分のいずれについて対面販売を義務付け,その結果として郵便等販売が認められないものとするかが,法令改正の対象事項として掲記される一方で,第二類医薬品についてはその結論が留保されていたこと(事案6(3)ネ)が認められ,上記(a)及び(b)の改正法の立法過程における国会審議及び厚生科学審議会での議論等は,本件各規定と新薬事法の委任の範囲との関係に関する前記(2)及び(3)アの判断をむしろ裏付けるものということができるので,原告らのこれらの点に関する主張は理由がない(なお,上記によれば,国会審議の段階で厚生労働省においてインターネット販売の禁止が念頭に置かれていなかったことを前提として,省令制定の段階において新薬事法の委任の存在を基礎付ける禁止理由等の明示がされていない旨を論ずる原告らの主張は,その前提を欠くし,厚生労働省が作成した改正法の概要や国会における想定問答集にインターネット販売の禁止に結び付く記載がないことから厚生労働省が立法段階でインターネット販売を禁止する意図を有していなかったとする原告らの主張も,上記に照らし,理由がない。)。
 また,上記(イ)については,(a)そもそも行政命令の内容が法律の委任の範囲内のものであるかどうかは,国内の事情に応じて制定される法律の条文及び趣旨並びに行政命令の内容によって客観的に定まるものであるから,仮に法律の立法過程で参考とされた外国法制の認識に誤りがあったとしても,そのことによって直ちに当該法律の行政命令への委任の範囲の広狭の解釈に影響が及ぶものとは解されないところ,(b)上記(イ)@については,原告らの主張及び甲第122号証(厚生労働省の作成に係る海外情勢報告の資料)によっても,平成16年9月より前の時点で,ドイツにおける平成15年9月の法改正の情報を厚生労働省担当者が知り得たとは認められず,平成16年6月の第2回検討部会における資料においてドイツで郵送による販売が禁止されている旨の記載をしたこと(事案6(3)ウ)はその当時の国内の資料に基づく記載であったと推認される上,甲第122号証自体,ドイツの医療保険近代化法の成立について記述したものであって,同号証に記載された法律の改正点の多くは医療保険に関するもので,甲第124号証(ドイツ連邦憲法裁判所の2003年(平成15年)2月11日判決の抄訳)がワクチンの医師への配送についての判例であることも併せ考えれば,甲第122号証の記載は医療保険の対象となる医療用医薬品の通信販売が解禁された旨の報告である可能性も考えられ,この記載のみから直ちに一般用医薬品の通信販売が認められるようになったか否か及びこれを厚生労働省担当者が知り得たか否かを結論付けることはできず,また,平成17年2月の第9回検討部会では,諸外国におけるインターネット販売の状況について調査はしたものの調査結果の正確性について疑義があったため資料に載せなかったと事務局が回答しているのであり,かつ,その後のP16委員の発言もそのことを前提に独自の調査の結果を明らかにしたものであるから(以上,事案6(3)コ),これらの経緯をもって,事務局が殊更に議論を誤った方向に誘導したとか誤った議論を修正しなかったということはできず,また,上記(イ)Aについても,甲第123号証の想定問答に基づき国会答弁がされた事実は認められず,この想定問答の存在が国会審議に影響したとは到底いえない(なお,事案6(2)ケのとおり,甲第124号証のドイツ連邦憲法裁判所の判決は,医師に対するワクチンの配送の禁止がドイツの基本法に反するという趣旨のもので,甲第125号証のEU裁判所の2003年(平成15年)12月11日判決は,他国からの輸入となる医薬品の通信販売を国内法で禁止することがEU法に反するという趣旨のものであり,これらをもって,ドイツ又はEU加盟国において一般用医薬品の国内での通信販売の禁止が当該国の憲法に反するとの解釈が直ちに導かれるかどうかは定かでない。)から,いずれにしても,原告らの指摘する外国の立法・判例に係る情報いかんによって,新施行規則中の本件各規定と新薬事法の委任の範囲との関係に関する前示の判断が左右されるものではない。

オ.さらに,原告らは,改正法による医薬品の販売に関する規制において,第二類医薬品の販売については,情報提供が単なる努力義務とされており(同条第2項),法的な拘束力のない努力義務を根拠として,適切な情報提供の可能な郵便等販売を禁止するのは不均衡であるとして,このことをもって,本件各規定によるインターネット販売の禁止は法律の委任の範囲を超える旨主張する(原告ら主張ア(イ)c)。しかしながら,第二類医薬品に係る情報提供について法律の規制が努力義務とされていることを踏まえても,第一類・第二類医薬品について法律が本来予定する有資格者の購入者に対する十分な情報提供を確保するために有資格者の対面による販売を義務付けて郵便等販売を販売方法から除外することは当該法律の委任の範囲内に属すると解されるから,原告らの上記主張も理由がない。
 なお,原告らのその余の主張も,新施行規則中の本件各規定と新薬事法の委任の範囲との関係に関する前示の判断を左右するに足りるものとは認められない。

(5) したがって,改正省令中の本件改正規定により設けられた新施行規則中の本件各規定は,法律(改正法により設けられた新薬事法の授権規定)の委任に基づくものであり,かつ,その法律の委任の範囲内で定められたものであるといえるので,これらを法律の委任を欠き又はその委任の範囲を超えるものとして無効であるということはできない。

(次回へ続く)

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