「司法試験平成23年最新判例ノート(詳細版)」
を出版しました

でじたる書房より、「司法試験平成23年最新判例ノート(詳細版)」を出版しました。
価格は、税込みで630円です。

本書は、平成23年に出された最高裁判例のうち、司法試験での出題可能性のあるものを掲載しています。
収録判例数は、憲法13、行政法8、民法20、商法2、民訴法7、刑法5、刑訴法6の計61です。
各判例ごとにAAからCまでの重要度ランクを付し、また、「学習上の留意点」の項目を設け、司法試験対策上、当該判例をどのように扱えばよいかという点について、コメントを付しました。
総ページ数は447ページで、PDF形式となっています。

詳細版の本書は、事案の詳細、最高裁の判断、個別意見のほぼ全文を収録しています。
そのため、全体の文量はかなりの量になっています。
いきなり全文に目を通すのは大変です。
そこで、要所に下線部を付し、下線部だけをつないで読めば、概要をつかめるように工夫をしています。
まずは下線部だけをざっと読み、必要に応じて下線部以外にも目を通していくと良いと思います。
詳細版は、主として理解のための教材です。
全部を覚えようとするのではなく、こんな判例があるのか、こんな問題点もあるのか。
そんな発想で、ざっと目を通していくと、それほど苦痛にならないと思います。

※でじたる書房では、一度購入したデータを繰り返しマイページからダウンロードできます。
 ダウンロードに失敗したり、ダウンロード後にデータが消えてしまっても、再度ダウンロードできます。
 PCを買い換えたりした場合であっても、再度購入する必要はありません。
 ダウンロード期間の制限もありませんので、安心してご利用ください。

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【本書の一部抜粋】

3:最高裁判所第一小法廷判決平成23年04月28日
重要度:AA

【論点】

1.新聞社が通信社からの配信に基づき自己の発行する新聞に掲載した記事による名誉毀損の事例につき、上記通信社には当該記事に摘示された事実を真実と信ずるについて相当の理由があると認められる場合に、上記新聞社においても上記の相当の理由があるといえるか。
2.上記記事において通信社からの配信である旨の表示がないときであっても、同様に解すべきか。

【事案】

1.上告人が、被上告人らの発行する各新聞に掲載された通信社からの配信に基づく記事によって名誉を毀損されたと主張して、被上告人らに対し、不法行為に基づく損害賠償を求める事案。被上告人らは、上記通信社が上記記事に摘示された事実を真実であると信ずるについて相当の理由があるから、被上告人らが同事実を真実と信ずるについても相当の理由があるというべきであって、被上告人らは不法行為責任を負わないなどと主張している

2.事実関係の概要等

(1) 上告人は、平成13年当時、a 大学附属b 研究所に勤務していた医師である。

(2) 被上告人らは、平成14年7月5日、a 大学病院において平成13年3月2日に行われた手術に関し、上告人が人工心肺装置の操作を誤ったことにより患者を死亡させたなどとする記事(以下「本件各紙掲載記事」という。)をそれぞれ自己の発行する新聞に掲載した。

(3) 被上告人らは、社団法人Z通信社の社員(加盟社)であり、本件各紙掲載記事は、被上告人らが同社から配信を受けた記事(以下「本件配信記事」という。)を、裏付け取材をすることなく、ほぼそのまま掲載したものであるが、本件各紙掲載記事には、これがZ通信社からの配信に基づく記事である旨の表示はない

(4) Z通信社は、全国の地方新聞社等を社員(加盟社)とする社団法人であり、国内及び国外のニュースを取材し、作成した記事を加盟社等に配信する事業等を行っている。加盟社は、Z通信社の定款及び同施行細則上、同社の配信する記事を受ける権利を有するものとされており、加盟社は、配信を受けた記事を自己の発行する新聞に掲載するか否かを自由に判断することができるが、掲載する場合には、原則としてこれをそのまま掲載すべきものとされている(5) 加盟社は、Z通信社の社員として、社費等の支払を通じて同社の運営費用を負担している。また、加盟社は、社員総会等の内部組織を通じてZ通信社の経営に参画しており、同社の理事及び監事の多くは加盟社の役員等から選任されている。Z通信社では、加盟社の担当者の出席を得て、経営企画担当者会議、編集局長会議等が開催され、Z通信社の業務運営等に関する報告や意見交換がされている(6) 被上告人らは、自社の新聞の発行地域において複数の支社ないし支局を有しているが、海外はもとより、同地域外においては、東京ないし大阪において支社を有しているほかは、原則として取材拠点等を有していない

 Z通信社から加盟社に配信される記事は、通常1日当たり約1500本であり、被上告人らの発行する新聞においては、全記事の5割から6割程度がZ通信社からの配信に基づいている。3.原審は、上記事実関係の下において、要旨次のとおり判断して、上告人の被上告人らに対する請求を棄却した

(1) 本件各紙掲載記事は、専門医である上告人が、自己の専門分野で単純な過誤を犯し患者を死亡させたとの事実を摘示するものであって、上告人の社会的評価を低下させるものであるが、公共の利害に関する事実に係るもので、その記事掲載は、専ら公益を図る目的に出たものである。本件各紙掲載記事に摘示された上記事実が真実であることの証明はないが、Z通信社がそれを真実であると信ずるについて相当の理由があった

(2) 被上告人らは、Z通信社から配信された記事については、取材をするに当たって報道機関に求められる注意義務が同社によって履行されることを期待し、これに依拠することができる法的地位にあるということができるから、被上告人らは、自己の発行する各新聞にZ通信社から配信された記事を掲載した場合、同社による取材活動の具体的内容をも含めて上記注意義務を尽くしたことを主張立証することができ、その結果、当該記事に摘示された事実が真実であると信ずるについて相当の理由があるといえれば、その事実摘示行為について必要な注意義務が尽くされたことになり、これによって故意又は過失が欠けて、不法行為は成立しないと解するのが相当である。本件では、Z通信社が本件配信記事に摘示された事実を真実であると信ずるについて相当の理由があるのであるから、被上告人らが本件各紙掲載記事に摘示された事実を真実であると信ずるについても相当の理由があったと認めることができる。

【判旨】

1.所論は、原審の上記3(2)の判断につき、名誉毀損の行為によって摘示された事実を真実であると信ずるについて相当の理由があるか否かは、行為主体ごとに判断すべきであるから、被上告人らが本件各紙掲載記事につき裏付け取材をしていない以上は、Z通信社が本件配信記事に摘示された事実を真実であると信ずるについて相当の理由があったとしても、被上告人らが本件各紙掲載記事に摘示された事実を真実であると信ずるについて相当の理由があるとはいえないというのである。

(1) 民事上の不法行為である名誉毀損については、その行為が公共の利害に関する事実に係り、その目的が専ら公益を図るものである場合には、摘示された事実が真実であることの証明がなくても、行為者がそれを真実と信ずるについて相当の理由があるときは、同行為には故意又は過失がなく、不法行為は成立しない(最高裁昭和37年(オ)第815号同41年6月23日第一小法廷判決・民集20巻5号1118頁参照)。

 新聞社が通信社を利用して国内及び国外の幅広いニュースを読者に提供する報道システムは、新聞社の報道内容を充実させ、ひいては国民の知る権利に奉仕するという重要な社会的意義を有し、現代における報道システムの一態様として、広く社会的に認知されているということができる。そして、上記の通信社を利用した報道システムの下では、通常は、新聞社が通信社から配信された記事の内容について裏付け取材を行うことは予定されておらず、これを行うことは現実には困難である。それにもかかわらず、記事を作成した通信社が当該記事に摘示された事実を真実と信ずるについて相当の理由があるため不法行為責任を負わない場合であっても、当該通信社から当該記事の配信を受け、これをそのまま自己の発行する新聞に掲載した新聞社のみが不法行為責任を負うこととなるとしたならば、上記システムの下における報道が萎縮し、結果的に国民の知る権利が損なわれるおそれのあることを否定することができない。

 そうすると、新聞社が、通信社からの配信に基づき、自己の発行する新聞に記事を掲載した場合において、少なくとも、当該通信社と当該新聞社とが、記事の取材、作成、配信及び掲載という一連の過程において、報道主体としての一体性を有すると評価することができるときは、当該新聞社は、当該通信社を取材機関として利用し、取材を代行させたものとして、当該通信社の取材を当該新聞社の取材と同視することが相当であって、当該通信社が当該配信記事に摘示された事実を真実と信ずるについて相当の理由があるのであれば、当該新聞社が当該配信記事に摘示された事実の真実性に疑いを抱くべき事実があるにもかかわらずこれを漫然と掲載したなど特段の事情のない限り、当該新聞社が自己の発行する新聞に掲載した記事に摘示された事実を真実と信ずるについても相当の理由があるというべきである。そして、通信社と新聞社とが報道主体としての一体性を有すると評価すべきか否かは通信社と新聞社との関係、通信社から新聞社への記事配信の仕組み、新聞社による記事の内容の実質的変更の可否等の事情を総合考慮して判断するのが相当である。以上の理は、新聞社が掲載した記事に、これが通信社からの配信に基づく記事である旨の表示がない場合であっても異なるものではない

(2) これを本件についてみると、前記事実関係によれば、Z通信社の加盟社は、社団法人であるZ通信社の社員としてその経営に参画しているのみならず、同社の経営や業務等について協議する重要な会議にも出席し、意見を述べるなどして同社の経営体制や取材体制に関与する機会を有しているというのであって、これらの事情によれば、同社とその加盟社とは組織上密接な結びつきを有しているということができる。

 このような関係を前提に、Z通信社は、加盟社等に記事を配信することを目的として取材を行い、記事を作成していること、他方、加盟社は、Z通信社から配信される記事を自己の発行する新聞に掲載するに当たっては、当該配信記事を原則としてそのまま掲載することとされていること、被上告人らのような加盟社の発行する新聞に掲載される記事のうち相当多くの部分はZ通信社からの配信に基づいているところ、同社から加盟社に配信される記事は1日当たり約1500本という膨大な数に達する上、被上告人らのような加盟社は、自社の新聞の発行地域外においてほとんど取材拠点等を有しておらず、その全てについて裏付け取材を行うことは不可能に近いことに照らすと、加盟社が配信記事について独自に裏付け取材をすることは想定されていないことが明らかである。

 そうすると、Z通信社の加盟社は、自らの報道内容を充実させるためにZ通信社の社員となってその経営等に関与し、同社は加盟社のために、加盟社に代わって取材をし、記事を作成してこれを加盟社に配信し、加盟社は当該配信記事を原則としてそのまま掲載するという体制が構築されているということができ、Z通信社と加盟社は、記事の取材、作成、配信及び掲載という一連の過程において、報道主体としての一体性を有すると評価するのが相当である。他方、本件配信記事について、前記特段の事情があることはうかがわれない。したがって、Z通信社が本件配信記事に摘示された事実を真実であると信ずるについて相当の理由があるのであれば、加盟社である被上告人らが本件各紙掲載記事に摘示された事実を真実であると信ずるについても相当の理由があるというべきであって、被上告人らは本件各紙掲載記事の掲載について名誉毀損の不法行為責任を負わないというべきである。

3.原審の前記3(2)の判断は、以上と同旨をいうものとして是認することができる。論旨は採用することができない。

【学習上の留意点】

 いわゆる「配信サービスの抗弁」と呼ばれる論点に関するものである。「配信サービスの抗弁」という用語は、判例上、「報道機関が定評ある通信社から配信された記事を実質的な変更を加えずに掲載した場合に、その掲載記事が他人の名誉を毀損するものであったとしても、配信記事の文面上一見してその内容が真実でないと分かる場合や掲載紙自身が誤報であることを知っている等の事情がある場合を除き、当該他人に対する損害賠償義務を負わないとする法理」(後記最判平14・1・29)として定義されている。

 配信サービスの抗弁は、米国で広く認められているが、我が国では最近になって議論が活発になってきたという感がある。米国における配信サービスの抗弁は、故意過失、または公人に対する名誉毀損の場合に必要とされている現実の悪意(actual malice、なお、日本語の語感と異なり、重過失的なものも含む概念である。)を否定する際に援用される。すなわち、定評のある通信社から配信を受けている以上、原則としてその正確性を調査する注意義務を負わないとする法理である。配信を受けるメディアに一々調査義務を負わせるのは過大な負担であり、広範な情報伝達が不可能になるということが主な理由付けとされている。他方、我が国では、名誉毀損の違法性阻却3要件(刑法230条の2参照)が前提にあって、そのうちの真実性の証明に係る認識(判例は相当の理由の有無を問題にする)を否定する際に援用される概念となっている。すなわち、定評ある通信社からの配信であることをもって、確実な(証明可能な程度の)資料、根拠がある(相当の理由がある)と評価できる、と主張することになる。作用する場面が微妙に異なる。とはいえ、上記認識が欠ければ(相当の理由があれば)結局は故意過失がないとされるから、その点では共通している(もっとも、事実の公共性又は目的の公益性を欠く場合には、真実性の錯誤は問題にならないことに注意)。

 本判例を理解するに当たって重要なことは、本事案は通信社の責任が否定されている(相当の理由がある)ケースであるという点である。通信社が名誉毀損による不法行為責任を負う(相当の理由がない)事案については、最判平14・1・29と、これを引用した最判平14・3・8がある。この平成14年判例のポイントは、@配信サービスの抗弁という用語を用い、その定義を示したこと、A「私人の犯罪行為やスキャンダルないしこれに関連する事実」(以下便宜上「私人の犯罪行為等」という。)を内容とする分野における報道について、配信サービスの抗弁の法理の適用を否定したこと、の2点である。まず、@については、冒頭で示した。Aにつき、判例は「今日までの我が国の現状に照らすと、少なくとも、本件配信記事のように、社会の関心と興味をひく私人の犯罪行為やスキャンダルないしこれに関連する事実を内容とする分野における報道については、通信社からの配信記事を含めて、報道が加熱する余り、取材に慎重さを欠いた真実でない内容の報道がまま見られるのであって、取材のための人的物的体制が整備され、一般的にはその報道内容に一定の信頼性を有しているとされる通信社からの配信記事であっても、我が国においては当該配信記事に摘示された事実の真実性について高い信頼性が確立しているということはできないのである。したがって、現時点においては、新聞社が通信社から配信を受けて自己の発行する新聞紙に掲載した記事が上記のような報道分野のものであり、これが他人の名誉を毀損する内容を有するものである場合には、当該掲載記事が上記のような通信社から配信された記事に基づくものであるとの一事をもってしては、記事を掲載した新聞社が当該配信記事に摘示された事実に確実な資料、根拠があるものと受け止め、同事実を真実と信じたことに無理からぬものがあるとまではいえないのであって、当該新聞社に同事実を真実と信ずるについて相当の理由があるとは認められない
 ・・仮に、その他の報道分野の記事については、いわゆる配信サービスの抗弁・・を採用し得る余地があるとしても、私人の犯罪行為等に関する報道分野における記事については、そのような法理を認め得るための、配信記事の信頼性に関する定評という一つの重要な前提が欠けているといわなければならない」と判示している。

 これに対して、本判例では、@配信サービスの抗弁という用語を用いておらず、A私人の犯罪行為等を内容とする分野の報道かどうかを問題にしていない、という点が上記最判平14・1・29と異なる。その理由は、本事案が本来の配信サービスの抗弁が問題となる事例とは異なるという点にあると考えることができる。本事案では、配信元の通信社において真実性の錯誤につき相当の理由があると認められている。にもかかわらず、配信を受けた新聞社だけが独自の裏付け取材をしていないという理由で責任を負うことになるのか。本事案での問題点は、その点にある。すなわち、通信社が取材を怠った場合に、それを信頼していた新聞社が免責されるかという問題ではない。通信社が取材を尽くした場合に、新聞社がその結果を援用できるかの問題である。だから、通信社に高い信頼が確立されている分野の報道であるか否かは問題とされず、むしろ、通信社と新聞社が一体であるか(通信社の取材を新聞社の取材と同視できるか)が問題とされたのだろう。通信社が責任を負う事案においては、上記一体性は免責の根拠とならない。実際、通信社が責任を負う事案における前記最判平14・1・29において同一性論(本判例の一体性論とほぼ同旨)を展開した北川弘治意見では、「共同通信社に配信記事について相当の理由があり、名誉毀損行為について共同通信社の過失が否定される場合には、その配信記事を掲載した加盟社も、共同通信社の相当の理由を援用することにより、損害賠償責任を免れることができる・・。以上の点を本件についてみると・・共同通信社と被上告人との間には、・・配信記事に関しては、報道主体としての実質的同一性があるということができる程度に密接な関係があった。・・しかしながら、本件配信記事に摘示された事実が真実ではなく、共同通信社には相当の理由が認められないとする判決が当審において確定している・・から・・、被上告人が本件記事について共同通信社の相当の理由を援用することによって損害賠償責任を免れる余地はないといわなければならない」と述べている。通信社の責任の有無によって、一体性ないし同一性の帰結するところが異なってくる点に注意したい。

 なお、本事案は、医師の医療過誤に関する記事が問題となっている。仮に本事案が通信社に責任を認める事案であれば、これが私人の犯罪行為等に当たるかが問題となり得る。「私人」の概念が「国家」に対するものであれば、医師も私人である。しかし、ここでいう「私人」を、「公人」に対するものとみる余地もある。その場合、医師の社会的地位に照らして「公人」であるとすれば、「私人」ではないとも解し得る。他方で、私人の犯罪行為等に配信サービスの抗弁を認めない理由を前記最判平14・1・29のように「報道が加熱する余り、取材に慎重さを欠いた真実でない内容の報道がまま見られる」ことに求める場合、医師の医療過誤にこれが当てはまるか、という観点から考えることができる。評価は分かれるかもしれないが、当てはまると考えるのが自然なように思われる。

 もう一つの重要な論点は、通信社からの配信に基づく記事である旨の表示(クレジット)の要否である。本判例は、「以上の理は、新聞社が掲載した記事に、これが通信社からの配信に基づく記事である旨の表示がない場合であっても異なるものではない」として、明示的にクレジットを不要とする。他方、前記最判平14・1・29は、クレジットについて言及していない。しかし、同判例を引用した最判平14・3・8に付された個別意見において、この点が争われている。福田・亀山意見は、「掲載記事に通信社から配信を受けた記事に基づく旨の表示(以下「クレジット」という。)が付されていない場合には、記事を掲載した新聞社は、掲載記事が通信社から配信を受けた記事に基づくものであることを理由とするいかなる抗弁も主張することができない」と強力な必要説を説く。その理由を、やや長いが、クレジットに関する事実関係も含めて理解するために必要であるから、以下に引用する。

 「報道の自由は、民主主義国家において、国民が多様な情報を入手し、国政に関する的確な判断と意見を形成するために不可欠のものであるからこそ、表現の自由を規定した憲法21条の保障の下に憲法上優越的地位が認められているのである。

 報道のそのような機能は、国民が、当該報道記事がいかなる社の責任によって作成されたものであるかをきちんと認識できて初めて十分に発揮される。クレジットは、そのような要請を端的に満たすものであり、その存否は、上記のように報道の自由について高度な保障が要請される根幹にかかわっているといえる。

 国民の側からみると、クレジットが付されていない報道は、客観的にみれば、記事の出所が読者に対して明確にされていないというだけではなく、通常の読者であれば、それが当該報道機関自らの責任において取材作成されたものであると受け取るのはごく自然なことであって、読者に対して誤った情報を伝えることにもなるのであり、国民の「知る権利」に十分に奉仕しているとはいい難い

 なお、付言すれば、当該記事について名誉毀損の問題が生じた場合のことを考えると、クレジットが付されていない場合には、記事を作成した加害者として責任を負うべき者が明らかでないことから、被害者に不必要な負担を掛けることになり兼ねないことはいうまでもない。

 被上告人は共同通信社の加盟社であるところ、記録によれば、同社の定款施行細則10条には、「社員が本社から供給を受けたニュースを新聞紙に掲載し、有無線で放送し、または通信に使用するときは、ニュースごとに『共同』のクレジットを付けなければならない。」との明確な規定がある。記事の配信を受ける加盟社に対するこのような義務付けは、クレジットに上記のような重要な機能があることに照らすと、合理的なものであるということができる。他方、通信社から記事の配信を受けた新聞社にとって、クレジットの表示を要求されることが特段不当な負担を強いられることになるものでないことは、本来、上記のように共同通信社の加盟社にはクレジットを付することが定款施行細則で義務付けられているのみならず、契約に基づいて共同通信社から記事の配信を受ける報道機関等も、契約条項によって、ニュースごとに「共同」のクレジットを明記しなければならないとされていること、国外ニュースについてはクレジットを付する実務が支障なく行われていることが記録によりうかがわれることなどから、明らかである。

 掲載記事が通信社から配信された記事に基づくものであることを理由とする抗弁の存在が肯定されるためには、先決問題として、配信記事を掲載した報道機関の行為が外形的にも実質的にも正当な行為として認められるものでなければならない。一方では紙面が煩雑になるなどとの理由を述べて定款や契約によって義務付けられたクレジット表示をしないでおきながら、他方では、国民の知る権利を標榜し、記事が通信社から配信を受けたものであることを理由とする抗弁を主張するというのは、いかにもフェアでなく、そのような記事掲載は、到底名誉毀損行為の違法性を阻却するに足りる正当な行為とはいえない。要するに、当該報道機関は、クレジットのない、自社の独自取材記事と誤解され兼ねない記事を掲載することによって、営業上の便益を享受しつつ、自社の従来の実績に基づく読者の信頼を通じて名誉毀損の損害を拡大したともいえるのであって、このような立場にある者が、報道の自由の名の下に配信記事であることを理由とする免責を主張することは、被害者との関係において著しく公正を欠くものであるのみならず、国民一般の報道に対する信頼感をも傷付け兼ねない

 確かに、国内ニュースについては、クレジットを付さないのが長年の慣行となっており、共同通信社の側にあってもこれを定款違反の問題として取り上げていないのであるが、クレジットを付することの意味が上記のように、報道の自由が優越的地位を有することの根幹に関係し、また、国民の知る権利にとっても重要な意味を持つことからすると、そのような慣行があることによって、通信社から配信を受けた報道機関がクレジットを付していない場合でも損害賠償義務を免れることができるとする見解には、賛同することができない。」

 他方で、不要説を唱えた梶谷反対意見は、「共同通信社の加盟社等が国内ニュースの配信記事にクレジットを付さないことは、長年の実務慣行となっており、共同通信社からも問題とされておらず、また、国内の地方新聞の紙面のかなりの部分に共同通信社の配信記事が用いられており、個別の記事にクレジットを付すことは紙面を煩雑にするだけであると考えられている。クレジットがないと、その記事によって名誉を毀損されたとして訴訟を提起しようとする者は、掲載紙に対して訴訟を提起してしまい、配信サービスの抗弁が認められて、記事を配信した通信社に対して更に訴訟を提起しなければならないときには、二重の負担となり、被害者の救済に欠けることになるのではないかという点については、被害者は訴訟を提起する前に掲載紙と何らかの交渉を行うのが常であろうから、その時点で当該記事が配信記事であり、訴えるべき相手方は配信をした通信社であることが判明することとなり、被害者の救済に欠けるところはないというべきである。したがって、配信記事にクレジットが付されているかどうかは、同抗弁の成否に関係する要素ではない。」とする。また、同一性論を採る北川意見は、「クレジットが付されていない場合であっても、記事の内容自体や記事を掲載した加盟社の規模等から、掲載記事が通信社からの配信記事に基づくものであると推認できる可能性があるときは、両者が実質的に同一性を有することを肯定して差し支えない」とし、飽くまで同一性判断の考慮要素の一つと位置づけている。本判例は、この点につき結論のみで理由付けをしていない。ただ、本判例の理論構成は北川意見の同一性論とほぼ同旨であることから、一体性の考慮要素の一つという程度に考えていると理解することが可能だろう。クレジットがなくても一体性を肯定できる本判例の事案においては、クレジットの有無は結論に影響しないということである。新聞社の通信社に対する信頼を免責の根拠とするなら、クレジットの有無で新聞社の通信社に対する信頼の程度は変わらない(クレジットは、飽くまで読者に対する表示である)から、クレジットの有無は免責の肯否に関係がないと解し得る。他方で、通信社と一体であることからその取材結果を援用できることを免責の根拠とする場合は、上記北川意見と同様の考え方になりやすい。この論理関係は理解をしておこう。

 以上のように、本判例は、最判平14・1・29及び最判平14・3・8との関係で理解する必要がある。

 本論点は、直接には民法709条の故意過失の解釈論であるが、論文で出題されるとすれば憲法の方で出題され易いテーマである。そのため、憲法で取り上げた。報道の自由と名誉権との調整という基本的かつ重要なテーマに関するものであるから、出題可能性は高い。出題された際には、「配信サービスの抗弁」という言葉に飛びつきたくなるが、むしろ、報道の自由と名誉権のそれぞれの保障の根拠から両者をいかに調整するかという実質論が重要である。名誉毀損の違法阻却3要件も、その観点から導出すべきものであり、いきなり所与の前提として論ずべきでない。憲法論の枠組みから3要件の論拠を示せるか、事前に考えておくべきである(単に刑法230条の2を示すだけでは足りない)。そして、配信サービスの抗弁についても、その流れの中で論述すべきである。原告、被告、自説の三者形式で問われた場合に、どのような構成があり得るか、考えてみるとよい。それから、前記のように通信社の責任の有無によって結論が異なり得ることから、その比較を問われても説明できるようにしておく。さらに、クレジットが無い場合も同様であるのか、これは一言で理由付けできるようにしておきたい。

 本論点は、あまり普段考えたことのない要素が多く、事前に準備しておかないと、試験現場で頭が真っ白になってしまいかねない。一度、頭を整理しておくべきである。また、配信サービスの抗弁は、通信社と配信を受けるメディアとの関係で問題となるが、メディアが配信したニュース等の記事を、一般市民がブログ等にそのまま引用した場合はどうか。この場合、一般市民によるインターネットを用いた名誉毀損(ただし刑事事件)に関する最決平22・3・15や、プロバイダ責任制限法に関する最判平22・4・13(いずれも平成22年最新判例ノートに収録)を絡めた出題も可能である。このような場合に配信サービスの抗弁において妥当した議論がどの程度まで妥当するのか、あるいは妥当しないのか。例えば、記事の正確性に対する信頼という点は妥当するが、一体性という点では妥当しないだろう。そういうことを一度考えておくと、いきなり出題された際に混乱しなくて済む。

 短答では、憲法・民法共に問われる可能性が高い。一般論を示していることから、肢にして正誤を問い易いからである。前記のように最判平14・1・29との関係での理解が重要であるから、両者を併せて規範、結論を覚える。

 以上のように、本判例は短答、論文共に極めて重要な判例である。しっかり理解、記憶しておきたい。

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