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最高裁判所第二小法廷判決平成23年07月15日

【判旨】

 消費者契約法10条が憲法29条1項に違反するものでないことは,最高裁平成12年(オ)第1965号,同年(受)第1703号同14年2月13日大法廷判決・民集56巻2号331頁の趣旨に徴して明らかである(最高裁平成17年(オ)第886号同18年11月27日第二小法廷判決・裁判集民事222号275頁参照)。

 

最高裁判所第二小法廷判決平成23年07月15日

【事案】

1.本件本訴は,居住用建物を上告人から賃借した被上告人Xが,更新料の支払を約する条項(以下,単に「更新料条項」という。)は消費者契約法10条又は借地借家法30条により,定額補修分担金に関する特約は消費者契約法10条によりいずれも無効であると主張して,上告人に対し,不当利得返還請求権に基づき支払済みの更新料22万8000円及び定額補修分担金12万円の返還を求める事案である。
 上告人は,被上告人Xに対し,未払更新料7万6000円の支払を求める反訴を提起するとともに,連帯保証人である被上告人Zに対し,上記未払更新料につき保証債務の履行を求める訴えを提起し,この訴えは,上記の本訴及び反訴と併合審理された。

2.事実関係の概要等

(1) 被上告人Xは,平成15年4月1日,上告人との間で,京都市内の共同住宅の一室(以下「本件建物」という。)につき,期間を同日から平成16年3月31日まで,賃料を月額3万8000円,更新料を賃料の2か月分,定額補修分担金を12万円とする賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)を締結し,平成15年4月1日,本件建物の引渡しを受けた。
 また,被上告人Zは,平成15年4月1日,上告人との間で,本件賃貸借契約に係る被上告人Xの債務を連帯保証する旨の契約を締結した。
 本件賃貸借契約及び上記の保証契約は,いずれも消費者契約法10条にいう「消費者契約」に当たる。

(2) 本件賃貸借契約に係る契約書(以下「本件契約書」という。)には,被上告人Xは,契約締結時に,上告人に対し,本件建物退去後の原状回復費用の一部として12万円の定額補修分担金を支払う旨の条項があり,また,本件賃貸借契約の更新につき,@ 被上告人Xは,期間満了の60日前までに申し出ることにより,本件賃貸借契約の更新をすることができる,A 被上告人Xは,本件賃貸借契約を更新するときは,これが法定更新であるか,合意更新であるかにかかわりなく,1年経過するごとに,上告人に対し,更新料として賃料の2か月分を支払わなければならない,B 上告人は,被上告人Xの入居期間にかかわりなく,更新料の返還,精算等には応じない旨の条項がある(以下,この更新料の支払を約する条項を「本件条項」という。)。

(3) 被上告人Xは,上告人との間で,平成16年から平成18年までの毎年2月ころ,3回にわたり本件賃貸借契約をそれぞれ1年間更新する旨の合意をし,その都度,上告人に対し,更新料として7万6000円を支払った。

(4) 被上告人Xが,平成18年に更新された本件賃貸借契約の期間満了後である平成19年4月1日以降も本件建物の使用を継続したことから,本件賃貸借契約は,同日更に更新されたものとみなされた。その際,被上告人Xは,上告人に対し,更新料7万6000円の支払をしていない。

3.原審は,上記事実関係の下で,本件条項及び定額補修分担金に関する特約は消費者契約法10条により無効であるとして,被上告人Xの請求を認容すべきものとし,上告人の請求をいずれも棄却すべきものとした。

【判旨】

1.本件条項を消費者契約法10条により無効とした原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

(1) 更新料は,期間が満了し,賃貸借契約を更新する際に,賃借人と賃貸人との間で授受される金員である。これがいかなる性質を有するかは,賃貸借契約成立前後の当事者双方の事情,更新料条項が成立するに至った経緯その他諸般の事情を総合考量し,具体的事実関係に即して判断されるべきであるが(最高裁昭和58年(オ)第1289号同59年4月20日第二小法廷判決・民集38巻6号610頁参照),更新料は,賃料と共に賃貸人の事業の収益の一部を構成するのが通常であり,その支払により賃借人は円満に物件の使用を継続することができることからすると,更新料は,一般に,賃料の補充ないし前払,賃貸借契約を継続するための対価等の趣旨を含む複合的な性質を有するものと解するのが相当である。

(2) そこで,更新料条項が,消費者契約法10条により無効とされるか否かについて検討する。

ア.消費者契約法10条は,消費者契約の条項を無効とする要件として,当該条項が,民法等の法律の公の秩序に関しない規定,すなわち任意規定の適用による場合に比し,消費者の権利を制限し,又は消費者の義務を加重するものであることを定めるところ,ここにいう任意規定には,明文の規定のみならず,一般的な法理等も含まれると解するのが相当である。そして,賃貸借契約は,賃貸人が物件を賃借人に使用させることを約し,賃借人がこれに対して賃料を支払うことを約することによって効力を生ずる(民法601条)のであるから,更新料条項は,一般的には賃貸借契約の要素を構成しない債務を特約により賃借人に負わせるという意味において,任意規定の適用による場合に比し,消費者である賃借人の義務を加重するものに当たるというべきである。

イ.また,消費者契約法10条は,消費者契約の条項を無効とする要件として,当該条項が,民法1条2項に規定する基本原則,すなわち信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであることをも定めるところ,当該条項が信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであるか否かは,消費者契約法の趣旨,目的(同法1条参照)に照らし,当該条項の性質,契約が成立するに至った経緯,消費者と事業者との間に存する情報の質及び量並びに交渉力の格差その他諸般の事情を総合考量して判断されるべきである。
 更新料条項についてみると,更新料が,一般に,賃料の補充ないし前払,賃貸借契約を継続するための対価等の趣旨を含む複合的な性質を有することは,前記(1)に説示したとおりであり,更新料の支払にはおよそ経済的合理性がないなどということはできない。また,一定の地域において,期間満了の際,賃借人が賃貸人に対し更新料の支払をする例が少なからず存することは公知であることや,従前,裁判上の和解手続等においても,更新料条項は公序良俗に反するなどとして,これを当然に無効とする取扱いがされてこなかったことは裁判所に顕著であることからすると,更新料条項が賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載され,賃借人と賃貸人との間に更新料の支払に関する明確な合意が成立している場合に,賃借人と賃貸人との間に,更新料条項に関する情報の質及び量並びに交渉力について,看過し得ないほどの格差が存するとみることもできない。
 そうすると,賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料条項は,更新料の額が賃料の額,賃貸借契約が更新される期間等に照らし高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り,消費者契約法10条にいう「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」には当たらないと解するのが相当である。

(3) これを本件についてみると,認定事実によれば,本件条項は本件契約書に一義的かつ明確に記載されているところ,その内容は,更新料の額を賃料の2か月分とし,本件賃貸借契約が更新される期間を1年間とするものであって,上記特段の事情が存するとはいえず,これを消費者契約法10条により無効とすることはできない。また,これまで説示したところによれば,本件条項を,借地借家法30条にいう同法第3章第1節の規定に反する特約で建物の賃借人に不利なものということもできない。

2.以上によれば,原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな違法があり,論旨はこの趣旨をいうものとして理由がある。なお,上告人は,被上告人Xの定額補修分担金の返還請求に関する部分についても,上告受理の申立てをしたが,その理由を記載した書面を提出しない。

3.結論

 以上説示したところによれば,原判決中,被上告人Xの定額補修分担金の返還請求に関する部分を除く部分は破棄を免れない。そして,認定事実及び前記1に説示したところによれば,更新料の返還を求める被上告人Xの請求は理由がないから,これを棄却すべきであり,また,未払更新料7万6000円及びこれに対する催告後である平成19年9月19日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める上告人の請求には理由があるから,これを認容すべきである。なお,被上告人Xの定額補修分担金の返還請求に関する部分についての上告は却下することとする。

 

最高裁判所第一小法廷判決平成23年07月21日

【判旨】

 記録によれば,被告人は,本件事実と同一性のある住居侵入,強盗傷人の事実について,起訴前である平成21年12月11日,勾留状の執行を受け,その後第1,2審を通じて勾留を継続されていたものであるが,その間,第1審は,平成22年9月1日,被告人を懲役8年に処する旨の判決を言い渡し,これに対し,被告人が同日控訴を申し立てたところ,原審は,平成23年2月3日,上記控訴を棄却するとともに,「当審における未決勾留日数中100日を原判決の刑に算入する。」との判決を言い渡したことが明らかである。また,記録によれば,被告人は,平成21年9月3日宮崎地方裁判所都城支部において,覚せい剤取締法違反の罪により懲役1年6月に処せられ,同判決は平成22年4月28日確定し,同日から上記刑の執行を開始され,原判決の言渡し当時はいまだ上記刑の執行中であったことが認められる。
 そうすると,被告人に対する本件の原審における未決勾留は,その全期間が上記刑の執行と重複することが明らかであり,原判決中原審における未決勾留日数を本刑に算入した部分は,刑法21条の適用について,所論引用の判例(最高裁昭和29年(あ)第389号同32年12月25日大法廷判決・刑集11巻14号3377頁最高裁昭和33年(あ)第1514号同年11月7日第二小法廷判決・刑集12巻15号3504頁)と相反する判断をしたものといわなければならず,論旨は理由がある。
 よって,刑訴法405条2号,410条1項本文,413条ただし書により,原判決中「当審における未決勾留日数中100日を原判決の刑に算入する。」との部分を破棄する。

 

最高裁判所第一小法廷判決平成23年07月21日

【事案】

1.9階建ての共同住宅・店舗として建築された建物(以下「本件建物」という。)を,その建築主から,Aと共同で購入し,その後にAの権利義務を相続により承継した上告人が,本件建物にはひび割れや鉄筋の耐力低下等の瑕疵があると主張して,その設計及び工事監理をした被上告人Y1並びに建築工事を施工した被上告人Y2に対し,不法行為に基づく損害賠償として,上記瑕疵の修補費用相当額等を請求する事案。なお,本件建物は,本件の第1審係属中に競売により第三者に売却されている。

2.第1次控訴審は,上記の不法行為に基づく損害賠償請求を棄却すべきものと判断したが,第1次上告審は,建物の建築に携わる設計・施工者等は,建物の建築に当たり,契約関係にない居住者等に対する関係でも,当該建物に建物としての基本的な安全性が欠けることがないように配慮すべき注意義務を負い,設計・施工者等がこの義務を怠ったために建築された建物に上記安全性を損なう瑕疵があり,それにより居住者等の生命,身体又は財産が侵害された場合には,設計・施工者等は,不法行為の成立を主張する者が上記瑕疵の存在を知りながらこれを前提として当該建物を買い受けていたなど特段の事情がない限り,これによって生じた損害について不法行為による賠償責任を負うというべきであって,このことは居住者等が当該建物の建築主からその譲渡を受けた者であっても異なるところはないとの判断をし,第1次控訴審判決のうち同請求に関する部分を破棄し,同部分につき本件を原審に差し戻した(最高裁平成17年(受)第702号同19年7月6日第二小法廷判決・民集61巻5号1769頁。以下「第1次上告審判決」という。)。
 これを受けた第2次控訴審である原審は,第1次上告審判決にいう「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」とは,建物の瑕疵の中でも,居住者等の生命,身体又は財産に対する現実的な危険性を生じさせる瑕疵をいうものと解され,被上告人らの不法行為責任が発生するためには,本件建物が売却された日までに上記瑕疵が存在していたことを必要とするとした上,上記の日までに,本件建物の瑕疵により,居住者等の生命,身体又は財産に現実的な危険が生じていないことからすると,上記の日までに本件建物に建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵が存在していたとは認められないと判断して,上告人の不法行為に基づく損害賠償請求を棄却すべきものとした。

【判旨】

1.原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

(1) 第1次上告審判決にいう「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」とは,居住者等の生命,身体又は財産を危険にさらすような瑕疵をいい,建物の瑕疵が,居住者等の生命,身体又は財産に対する現実的な危険をもたらしている場合に限らず,当該瑕疵の性質に鑑み,これを放置するといずれは居住者等の生命,身体又は財産に対する危険が現実化することになる場合には,当該瑕疵は,建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵に該当すると解するのが相当である。

(2) 以上の観点からすると,当該瑕疵を放置した場合に,鉄筋の腐食,劣化,コンクリートの耐力低下等を引き起こし,ひいては建物の全部又は一部の倒壊等に至る建物の構造耐力に関わる瑕疵はもとより,建物の構造耐力に関わらない瑕疵であっても,これを放置した場合に,例えば,外壁が剥落して通行人の上に落下したり,開口部,ベランダ,階段等の瑕疵により建物の利用者が転落したりするなどして人身被害につながる危険があるときや,漏水,有害物質の発生等により建物の利用者の健康や財産が損なわれる危険があるときには,建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵に該当するが,建物の美観や居住者の居住環境の快適さを損なうにとどまる瑕疵は,これに該当しないものというべきである。

(3) そして,建物の所有者は,自らが取得した建物に建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵がある場合には,第1次上告審判決にいう特段の事情がない限り,設計・施工者等に対し,当該瑕疵の修補費用相当額の損害賠償を請求することができるものと解され,上記所有者が,当該建物を第三者に売却するなどして,その所有権を失った場合であっても,その際,修補費用相当額の補填を受けたなど特段の事情がない限り,一旦取得した損害賠償請求権を当然に失うものではない。

2.以上と異なる原審の判断には,法令の解釈を誤る違法があり,この違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。論旨は,上記の趣旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,上記1に説示した見地に立って,更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。

 

最高裁判所第三小法廷決定平成23年07月27日

【事案】

1.本件の経緯等

(1) 本件の本案訴訟は,産業廃棄物処分場の周辺地域に居住する相手方らを含む13名が共同原告となり,抗告人を被告として,同処分場において廃棄物の処理及び清掃に関する法律の定める処理の基準に適合しない産業廃棄物の処分が行われ,生活環境の保全上支障が生じ,又は生ずるおそれがあると主張して,主位的に,福岡県知事が同法19条の8第1項に基づき上記支障の除去又は発生の防止のために必要な措置(以下「支障の除去等の措置」という。)を自ら講ずべき旨を命ずることを求め,予備的に,同知事が同法19条の5第1項に基づき上記処分場の事業者に対し支障の除去等の措置を講ずることを命ずべき旨を命ずることを求めて,行政事件訴訟法3条6項1号所定の義務付けの訴えを提起した事案である。

(参照条文)廃棄物の処理及び清掃に関する法律

19条の5第1項 産業廃棄物処理基準又は産業廃棄物保管基準(・・略・・)に適合しない産業廃棄物の保管、収集、運搬又は処分が行われた場合において、生活環境の保全上支障が生じ、又は生ずるおそれがあると認められるときは、都道府県知事(・・略・・)は、必要な限度において、次に掲げる者(次条及び第十九条の八において「処分者等」という。)に対し、期限を定めて、その支障の除去等の措置を講ずべきことを命ずることができる。
一  当該保管、収集、運搬又は処分を行つた者(・・略・・)
2号以下略。

19条の8第1項 第十九条の五第一項に規定する場合において、生活環境の保全上の支障が生じ、又は生ずるおそれがあり、かつ、次の各号のいずれかに該当すると認められるときは、都道府県知事は、自らその支障の除去等の措置の全部又は一部を講ずることができる。・・略。
一  第十九条の五第一項の規定により支障の除去等の措置を講ずべきことを命ぜられた処分者等が、当該命令に係る期限までにその命令に係る措置を・・略・・講ずる見込みがないとき。
2号以下略。

同条2項 都道府県知事は、前項(・・略・・)の規定により同項の支障の除去等の措置の全部又は一部を講じたときは、当該支障の除去等の措置に要した費用について、環境省令で定めるところにより、当該処分者等に負担させることができる。

(2) 原審は,平成23年2月7日,上記各請求のうち,相手方らの上記予備的請求を認容する旨の判決をした。
 これに対し,抗告人は,本件上告を提起するとともに,本件上告受理の申立てをした。

2.原審は,要旨次のとおり判断して,本件上告及び本件上告受理の申立てをいずれも却下する旨の決定をした。
 地方自治法96条1項12号所定の「普通地方公共団体がその当事者である…訴えの提起」には,普通地方公共団体が被告とされた訴訟において敗訴した当該普通地方公共団体がする上訴の提起が含まれるところ,本件では,本件上告及び本件上告受理の申立ては,抗告人の議会の議決を欠いており,かえって,本件上告及び本件上告受理の申立てがされた翌日に同議会がこれらの取下げを求める旨の決議をしたことは公知の事実であり,本件上告及び本件上告受理の申立ては,いずれも不適法でその不備を補正することができない。

(参照条文)地方自治法96条1項(太字強調は筆者)

 普通地方公共団体の議会は、次に掲げる事件を議決しなければならない。

1号から11号まで略。

十二  普通地方公共団体がその当事者である・・略・・訴えの提起(普通地方公共団体の行政庁の処分又は裁決(行政事件訴訟法第三条第二項に規定する処分又は同条第三項に規定する裁決をいう。・・略。)に係る同法第十一条第一項(同法第三十八条第一項・・略・・において準用する場合を含む。)の規定による普通地方公共団体を被告とする訴訟(・・略・・)に係るものを除く。)、・・略。

13号以下略。

【判旨】

1.原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 地方自治法96条1項12号は,「普通地方公共団体がその当事者である…訴えの提起」について,その議会の議決を要する事項と定めており,この「訴えの提起」には,控訴若しくは上告の提起又は上告受理の申立てが含まれるものと解される。その一方で,同号は,この「訴えの提起」のうち,普通地方公共団体の行政庁の処分又は裁決に係る当該普通地方公共団体を被告とする抗告訴訟に係るものについては,取消訴訟の被告適格を定める行政事件訴訟法11条1項の規定が同法38条1項により取消訴訟以外の抗告訴訟に準用される場合を含めて,抗告訴訟の類型の種別を問わず,その議会の議決を要する事項から除外している。
 したがって,普通地方公共団体の行政庁の処分又は裁決に係る当該普通地方公共団体を被告とする抗告訴訟につき,当該普通地方公共団体が控訴若しくは上告の提起又は上告受理の申立てをするには,地方自治法96条1項12号に基づくその議会の議決を要するものではない。本件の本案訴訟は,行政事件訴訟法3条6項1号所定の義務付けの訴えに係る訴訟であり,上記の抗告訴訟の一類型であるから,抗告人が本件上告及び本件上告受理の申立てをするには,その議会の議決を要しない。
 なお,上記の抗告訴訟につき当該普通地方公共団体が適法な控訴若しくは上告の提起又は上告受理の申立てをした場合には,その議会がこれらの取下げを求める旨の決議をしたとしても,これらの効力が左右されるものではない。このことは,本件上告及び本件上告受理の申立てについても同様である。

2.これと異なる原審の前記判断には,裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,その余の抗告理由について判断するまでもなく,原決定は破棄を免れない。

 

最高裁判所第一小法廷決定平成23年08月24日

【事案】

 被告人は,いわゆる出会い系サイトを利用して遊客を募る形態の派遣売春デートクラブを経営し,男性従業員と共謀の上,女性従業員を遊客に引き合わせて売春をする女性として紹介したものであるが,出会い系サイトに書き込みをして遊客を募る際には売春をする女性自身を装い,遊客の下には直接女性従業員を差し向けるなどして,遊客に対し被告人らの存在を隠していたため,遊客においては,被告人らが介在して女性従業員を売春をする女性として紹介していた事実を認識していなかった。

(参照条文)売春防止法6条1項

 売春の周旋をした者は、二年以下の懲役又は五万円以下の罰金に処する。

【判旨】

 売春防止法6条1項の周旋罪が成立するためには,売春が行われるように周旋行為がなされれば足り,遊客において周旋行為が介在している事実を認識していることを要しないと解するのが相当である。

 

 

最高裁判所第三小法廷決定平成23年08月31日

【事案】

 本件証拠開示に関する裁定請求は,弁護人において,刑訴法316条の26第1項に基づき,裁判所に対し,検察官が弁護人に証拠開示することを命じる旨求めた事案であるところ,同証拠開示命令請求を棄却した原々決定の謄本が,被告人本人には平成23年6月25日に,主任弁護人には同月27日にそれぞれ送達され,同決定に対して弁護人から同月30日に即時抗告の申立てがされたことが明らかである。原決定は,本件即時抗告の提起期間は被告人本人に原々決定謄本が送達された日から進行すると解し,同申立ては提起期間経過後のものであって不適法であるとして,これを棄却した。

(参照条文)刑事訴訟法

316条の26 裁判所は、検察官が・・略・・開示をすべき証拠を開示していないと認めるとき・・略・・は、相手方の請求により、決定で、当該証拠の開示を命じなければならない。・・略。
2  略。
3  第一項の請求についてした決定に対しては、即時抗告をすることができる。

358条 上訴の提起期間は、裁判が告知された日から進行する。

422条 即時抗告の提起期間は、三日とする。

【判旨】

 本件証拠開示に関する裁定請求においては,請求の主体は弁護人であり,裁定請求が認められた場合に証拠開示を受ける相手として予定されているのも弁護人であったものであって,このような請求の形式に加え,公判前整理手続における証拠開示制度の趣旨,内容にも照らすと,弁護人において上記の証拠開示命令請求棄却決定を受けたものと解されるから,同決定に対する即時抗告の提起期間は,弁護人に同決定謄本が送達された日から進行するものと解するのが相当である。したがって,本件即時抗告の申立ては,同法422条に定める即時抗告の提起期間内にされたものであって,適法であり,これを不適法とした原決定には,同法358条,422条の解釈適用を誤った違法がある。
 もっとも,原決定は,そのなお書において,原々決定の内容を実質的に判断して本件即時抗告は理由がないとも説示しており,その判断に誤りがあるとはいえないから,本件につき,いまだ同法411条を準用すべきものとは認められない。

 

最高裁判所第一小法廷判決平成23年09月08日

【事案】

1.京都市の住民である上告人らが,地方自治法(平成14年法律第4号による改正前のもの。以下「法」という。)242条の2第1項4号に基づき被上告人に代位して提起した住民訴訟(以下「別件訴訟」という。)において,被上告人の発注に係るごみ処理設備建設工事(以下「本件工事」という。)の一般競争入札に参加して落札した会社(以下「別件被告会社」という。)が他の業者らと談合を行った結果落札価格が不当につり上げられたと主張して,別件被告会社に対し,不法行為に基づく損害賠償の請求をしたところ,一部勝訴したことから,同条7項に基づき,被上告人に対し,別件訴訟において訴訟委任をした弁護士らに支払うべき報酬額の範囲内で相当と認められる額の支払を求めている事案である。

(参照条文)地方自治法(現行のもの)242条の2第12項

 第一項の規定による訴訟を提起した者が勝訴(一部勝訴を含む。)した場合において、弁護士又は弁護士法人に報酬を支払うべきときは、当該普通地方公共団体に対し、その報酬額の範囲内で相当と認められる額の支払を請求することができる。

2.原審は,別件訴訟の一部勝訴により確保された経済的利益の額を,被上告人が別件被告会社から回収した額(判決認容額の全額である24億0789万3028円。以下「本件回収額」という。)ではなく,本件工事の事業に関し被上告人が国から交付を受けていた国庫補助金のうち本件回収額の回収に伴い国に返還することとなった額(8億1638万7000円。以下「本件国庫補助金返還額」という。)を控除した額(15億9150万6028円)であるとした上で,その他の諸事情を併せ考慮し,上告人らの被上告人に対する請求を,不可分債権として上告人ら各自が5000万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で認容すべきものとした。

【判旨】

 法242条の2第7項にいう「相当と認められる額」とは,同条1項4号の規定による住民訴訟(以下「旧4号住民訴訟」という。)において住民から訴訟委任を受けた弁護士が当該訴訟のために行った活動の対価として必要かつ十分な程度として社会通念上適正妥当と認められる額をいい,その具体的な額は,当該訴訟における事案の難易,弁護士が要した労力の程度及び時間,認容された額,判決の結果普通地方公共団体が回収した額,住民訴訟の性格その他諸般の事情を総合的に勘案して定められるべきものである(最高裁平成19年(受)第2069号同21年4月23日第一小法廷判決・民集63巻4号703頁参照)。
 同条7項において,旧4号住民訴訟を提起した住民が勝訴した場合に上記「相当と認められる額」の支払を普通地方公共団体に請求することができるとされているのは,当該勝訴判決により当該普通地方公共団体が現に経済的利益を確保することになるという事情が考慮されたことによるものと解される。そして,当該普通地方公共団体は,当該勝訴判決で認められた損害賠償等の請求権を行使することにより本来その認容額の全額を回収し得る地位に立つのであり,他方,本件のような国庫補助金相当額の返還は上記請求権の行使とは別の財務会計行為によるものであるから,その返還に係る国庫補助金相当額が最終的には当該普通地方公共団体の利得とならないとしても,当該勝訴判決の結果現に回収された金員が,当該弁護士の訴訟活動によって当該普通地方公共団体が確保した経済的利益に当たるものというべきである。そうすると,国の補助事業における入札談合によって普通地方公共団体の被った損害の賠償を求める旧4号住民訴訟において住民が勝訴した場合の上記「相当と認められる額」の認定に当たり,勝訴により確保された経済的利益の額として判決の結果当該普通地方公共団体が回収した額を考慮する際には,その額は,現に回収された額とすべきであり,現に回収された額からその回収に伴い国に返還されることとなる国庫補助金相当額を控除した額とすべきものではないと解するのが相当である。したがって,原判決中,別件訴訟に関する上記「相当と認められる額」の認定に当たって,本件回収額から本件国庫補助金返還額を控除した額を別件訴訟の一部勝訴により確保された経済的利益の額とした部分は,相当ではないものといわざるを得ない。
 しかしながら,原審の適法に確定した事実関係等を踏まえ,別件訴訟における事案の難易,上告人らから訴訟委任を受けた弁護士らが要した労力の程度及び時間,別件訴訟の判決で認容された額,同判決の結果被上告人が回収した額,住民訴訟の性格その他諸般の事情を総合的に勘案すると,別件訴訟に関する上記「相当と認められる額」を5000万円と認定した原審の判断は,結論において是認することができるというべきである。

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