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最高裁判所第三小法廷判決平成23年09月13日

【事案】

1.東京証券取引所に上場されていた被上告人Y1の株式(以下「Y1株」という。)を取引所市場において取得した者等である上告人らが,A社等の少数特定者が所有するY1株の数の割合が東京証券取引所の定める上場廃止事由に該当するという事実があったにもかかわらず,被上告人Y1が有価証券報告書及び半期報告書(以下「有価証券報告書等」という。)に虚偽の記載をして上記事実を隠蔽し,また,A社がY1株の大量保有報告書に過少な数を記載するなどして上記事実の隠蔽に協力したことにより,損害を被ったと主張して,被上告人Y1,A社を吸収合併した被上告人Y2並びに被上告人Y1及びA社の代表取締役であったY3に対し,不法行為等に基づく損害賠償を求める事案。上記の不法行為により上告人らに生じた損害の額が争点となっている。

2.事実関係の概要

(1) Y1株は,昭和24年に東京証券取引所に上場され,昭和40年8月から平成16年12月16日まで継続して市場第一部に上場されていた。

(2) 東京証券取引所においては,遅くとも昭和57年10月1日には以下の上場廃止事由が定められ,これは平成16年まで継続されていた(株券上場廃止基準2条1項,昭和57年10月1日改正付則3項,5項)。

ア.少数特定者持株数(所有株式数の多い順に10名の株主が所有する株式及び役員が所有する株式等の総数をいう。)が上場株式数の80%を超えている場合において,1年以内に80%以下とならないとき(以下「少数特定者持株数基準」という。)

イ.上場会社が財務諸表等又は中間財務諸表等に虚偽記載を行い,かつ,その影響が重大であると東京証券取引所が認めた場合(以下「財務諸表等虚偽記載基準」という。)

ウ.公益又は投資者保護のため,東京証券取引所が当該銘柄の上場廃止を適当と認めた場合(以下「公益等保護基準」という。)

(3) 被上告人Y1は,関東財務局長等に対して提出した昭和32年3月期から平成16年3月期までの有価証券報告書等において,A社が所有するY1株の数につき,A社名義で所有する株式(以下「A社名義株」という。)の数のみを記載し,他人名義で所有する株式(以下「他人名義株」という。)の数を記載せず,また,A社名義株と他人名義株を合わせればA社が被上告人Y1の発行済株式総数の過半数を有する会社であったにもかかわらず,その旨の記載もしなかった(以下,被上告人Y1の有価証券報告書等における上記の内容の虚偽記載を「本件虚偽記載」という。)。

(4) 他方,A社は,平成2年の証券取引法の改正により提出が義務付けられた大量保有報告書及びその変更報告書において,その所有するY1株の数を過少に記載し,後記(7)の公表までの間,正確な数を記載した大量保有報告書及びその変更報告書を提出しなかった。
 また,A社は,平成7年以降,その所有するY1株の一部を他人名義株も含めて売却した。

(5) 被上告人Y1の代表取締役であった被上告人Y3(昭和40年11月就任,平成16年4月14日退任)は,上記の在任期間中,本件虚偽記載の事実を認識しながら,その訂正を指示等することなく,これを継続することを容認し,また,A社の代表取締役(昭和32年10月就任,平成16年10月13日辞任)としても,A社が所有する他人名義株の存在や本件虚偽記載を認識しながらこれを公表しなかっただけでなく,上記(4)の本件虚偽記載の隠蔽に積極的に関与した。

(6) 被上告人Y1の少数特定者持株数は,少数特定者持株数基準が施行された昭和57年10月1日以降,平成16年3月末まで継続して上場株式数の80%を超えていた。しかし,本件虚偽記載のある有価証券報告書等の記載の上では,少数特定者持株数は,常に上場株式の80%以下にとどまるものとされていた。また,A社の所有するY1株の数が被上告人Y1の発行済株式総数に占める割合は,昭和32年3月末以降,常に過半数であったが,本件虚偽記載により,有価証券報告書等の記載上の上記割合は,常に半数以下にとどまるものとされていた。

(7) 被上告人Y1は,平成16年10月13日,関東財務局長に対し,A社等の所有する他人名義株の存在が判明したとして,公衆縦覧期間中である平成12年3月期から平成16年3月期までの有価証券報告書等につき,A社等の所有するY1株の数及び所有割合を訂正し,A社の表示を「その他の関係会社」から「親会社」に訂正するなどした訂正報告書を提出し,その旨を公表した(以下「本件公表」という。)。

(8) 東京証券取引所は,平成16年10月13日,Y1株を少数特定者持株数基準に係る猶予期間入り銘柄(その期間は同年4月1日から1年間)としたことを公表するとともに,Y1株について,財務諸表等虚偽記載基準及び公益等保護基準に該当するおそれがあるとして,その該当の有無を認定する日まで監理ポストに割り当てることを決定し,その旨を公表した。
 東京証券取引所は,同年11月16日,Y1株について,財務諸表等虚偽記載基準及び公益等保護基準に該当するとして,同年12月17日に上場廃止とする旨を決定し,上記決定内容及び同月16日までY1株を整理ポストに割り当てる旨を公表した。
 Y1株は,同月17日,上場廃止となった。

(9) Y1株の東京証券取引所における終値は,本件公表の日(なお,本件公表前に同日の取引は終了していた。)である平成16年10月13日が1株1081円,上場廃止決定のあった同年11月16日が1株268円,最終取引日である同年12月16日が1株485円であった。
 その後,平成18年2月に被上告人Y1の会社分割など関係企業の再編が行われ,その際,Y1株は1株919円と評価されて譲渡されるとともに,被上告人Y1は,会社分割に反対する株主からの株式買取請求にこれと同一の価格で応じた。

(10) 上告人らは,平成8年3月から平成16年10月13日までの間に取引所市場においてY1株を取得し,本件公表後上記上場廃止までの間にその保有していたY1株を取引所市場において全部売却した機関投資家,又は上記機関投資家から被上告人らに対する損害賠償請求権の譲渡を受けた者である(以下,同請求権の譲渡前の事実をいうときは,上記の市場取引を行った者を指して「上告人ら」という。)。

(11) A社は,平成18年2月1日,被上告人Y2に吸収合併された。

3.上告人らは,本件虚偽記載により上告人らに生じた損害の額について,要旨次のとおり主張している。

(1) 主位的主張

 本件虚偽記載がなければ上告人らがY1株を取得することはなかったにもかかわらず,上告人らは,本件虚偽記載によりY1株を取得させられ,かつ,本件公表後にこれを売却することを余儀なくされたから,取得価額と処分価額との差額が損害額である。

(2) 予備的主張1

 本件虚偽記載がなければY1株はすぐにでも上場廃止となり得る株式としての価額(想定価額)で市場に流通していたはずであるから,取得価額と想定価額との差額に相当する額が損害額となる。

(3) 予備的主張2

 本件虚偽記載がされた結果,Y1株の市場価額が本件公表後に急落し,上告人らは急落した株価でこれを売却することを余儀なくされたから,本件公表の日の終値と処分価額との差額が損害額となる。

4.原審は,前記事実関係の下において,被上告人らの不法行為責任を肯定した上で,本件虚偽記載により上告人らに生じた損害の額について次のとおり判断して,上告人らの請求を一部認容し,その余の請求を棄却した。

(1) 主位的主張について

 上告人らは,上場株式として流通するY1株を通常の方法で取得したのであり,上告人らの取得行為自体に瑕疵はない。また,本件虚偽記載が株主の構成に関するものであって,会社の収支や資産価値に直接関わるものではなかったこと,本件公表までは,本件虚偽記載の影響を受けることなく,取得したY1株を処分することが可能であったことからすると,Y1株の取得自体を損害とみることはできず,主位的主張は理由がない。

(2) 予備的主張1について

 上告人らの主張する取得価額と想定価額との差額相当額の損害は,上告人らがY1株を取得した時点では余りに不明瞭なものであって損害が生じたとはいえない上,その主張に係る想定価額を認めることもできないから,予備的主張1は理由がない。

(3) 予備的主張2について

 本件公表によりY1株の市場価額が急落するという事態は,本件虚偽記載が判明することによって生ずべき減価が現実化したものということができる。
 しかし,本件公表後いつの時点でY1株を売却するかは当該株主が諸般の事情を考慮して決断すべき事柄であること,虚偽記載の公表直後はいわゆるろうばい売りが集中し,その市場価額が客観的株価より過大に下落する傾向が見られること,本件虚偽記載は被上告人Y1の財務状況や企業価値そのものに関するものではなかったことなどに照らすと,本件公表後のY1株の売却行為及びそれによる損失の発生が,全て本件虚偽記載から通常生じ得る結果であるとまではいえない。本件虚偽記載により上告人らに生じた損害の額は,本件公表後のY1株の市場価額の推移やその後の関係企業の再編の際におけるY1株の評価額等を総合勘案し,民訴法248条を適用して,本件公表の日の終値の15%相当額と認定するのが相当である。

【判旨】

1.原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

(1) 前記事実関係によれば,Y1株に関しては,昭和32年3月期以降本件虚偽記載が継続され,上場廃止事由として少数特定者持株数基準が定められた昭和57年10月1日以降継続して同基準に該当しており,現に,東京証券取引所は,本件公表後,同基準に係る猶予期間の経過を待つことなく,財務諸表等虚偽記載基準及び公益等保護基準に該当するとして本件公表後1か月余にして上場廃止を決定したというのであるから,仮に,被上告人Y1が上告人らによるY1株の取得より前に継続してきた本件虚偽記載をやめ,あるいは本件虚偽記載を訂正していた場合には,その後速やかにY1株につき上場廃止の措置が執られていた蓋然性が高く,少数特定者持株数基準に該当する事実の解消に向けた行動が取られたとしても,A社等の持株数に照らして上場廃止を回避するまでに至った可能性は極めて乏しかったとみるべきである。そうであれば,機関投資家であり,Y1株を取引所市場で取得した上告人らにおいては,本件虚偽記載がなければ,取引所市場の内外を問わず,Y1株を取得することはできず,あるいはその取得を避けたことは確実であって,これを取得するという結果自体が生じなかったとみることが相当である。その限りにおいて,上告人らの主位的主張は理由がある。

(2) このように,有価証券報告書等に虚偽の記載がされている上場株式を取引所市場において取得した投資者が,当該虚偽記載がなければこれを取得することはなかったとみるべき場合において,当該虚偽記載の公表後に上記株式を取引所市場において処分したときは,当該虚偽記載により上記投資者に生じた損害の額,すなわち当該虚偽記載と相当因果関係のある損害の額は,その取得価額と処分価額との差額を基礎とし,経済情勢,市場動向,当該会社の業績等当該虚偽記載に起因しない市場価額の下落分を上記差額から控除して,これを算定すべきものと解される。
 すなわち,上記投資者が上記株式を取得してからこれを処分するまでの間に上記株式の市場価額が種々の要因によって変動することは通例であるところ,機関投資家である上記投資者は,当該虚偽記載がなければ上記株式を取得することはなかったとしても,取得した株式の市場価額が経済情勢,市場動向,当該会社の業績等当該虚偽記載とは無関係な要因に基づき変動することは当然想定した上で,これを投資の対象として取得し,かつ,上記要因に関しては開示された情報に基づきこれを処分するか保有し続けるかを自ら判断することができる状態にあったということができる。このことからすると,上記投資者が自らの判断でその保有を継続していた間に生ずる上記要因に基づく市場価額の変動のリスクは,上記投資者が自ら負うべきであり,上記要因で市場価額が下落したことにより損失を被ったとしても,その損失は投資者の負担に帰せしめるのが相当である。したがって,経済情勢,市場動向,当該会社の業績等当該虚偽記載とは無関係な要因に基づく上記株式の市場価額の下落分は,当該虚偽記載と相当因果関係がないものとして,上記差額から控除されるべきである。
 以上の理は,虚偽記載の公表の前後を問わず当てはまるところであるが,虚偽記載が公表された後の市場価額の変動のうち,いわゆるろうばい売りが集中することによる過剰な下落は,有価証券報告書等に虚偽の記載がされ,それが判明することによって通常生ずることが予想される事態であって,これを当該虚偽記載とは無関係な要因に基づく市場価額の変動であるということはできず,当該虚偽記載と相当因果関係のない損害として上記差額から控除することはできないというべきである。

(3) 前記事実関係によれば,上告人らは,取引所市場においてY1株を取得した機関投資家であり,Y1株の市場価額が虚偽記載とは無関係な要因に基づき変動することを承知の上でこれを取得し,その後,開示された情報に基づきY1株を処分するか保有し続けるかを自ら判断することができる状態にあったものということができる。
 そして,上告人らがY1株を取得してから本件公表までの間のY1株の市場価額の下落については,一般的には,虚偽記載が公表されていない間には虚偽記載が市場価額に影響を与えることは少なく,虚偽記載とは無関係な要因に基づくものであることが多いと考えられるものの,前記事実関係によれば,本件公表前にA社が本件虚偽記載に係る他人名義株を売却するなどして本件虚偽記載が一部解消されていたというのであり,その頃本件虚偽記載に起因してY1株の市場価額が下落していた可能性がある。他方,前記事実関係によっても,本件公表後のY1株の市場価額については,上場廃止までの間に本件虚偽記載と無関係な要因による下落があったことはうかがわれない。
 そうすると,本件虚偽記載と相当因果関係のある損害の額は,取得価額と処分価額との差額から,本件公表時までの下落分のうち経済情勢,市場動向,被上告人Y1の業績等本件虚偽記載とは無関係な要因によるものを控除して,これを算定すべきである。以上のようにして算定すべき損害の額の立証は極めて困難であることが予想されるが,そのような場合には民訴法248条により相当な損害額を認定すべきである。

2.以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は,この趣旨をいうものとして理由があり,原判決中,上告人らの敗訴部分は破棄を免れない。そこで,本件虚偽記載と相当因果関係のある損害の額について更に審理を尽くさせるため,同部分につき本件を原審に差し戻すこととする。

【田原睦夫補足意見】

 原判決が主位的主張を採用していない点において破棄を免れないものであるので,本来は言及する必要はないのであるが,原判決が予備的主張2に関して判示するところは,機関投資家の投資活動に対する評価として見逃し難い点が存すると認められるので,若干の補足的な意見を述べておく。
 原判決は,予備的主張2についての損害を認定するに当たり,上告人らにおいて,その投下資本の回収が困難となることを回避するためにY1株(以下「本件株式」という。)を売却したことは不合理であるとはいえないとした上で,本件上場廃止が想定される事態に至ったことについて,「かかる事態への対処は,その株主において,その株価の一層の下落可能性を慮って損失の拡大又は利益の減少を防止するためにこれを早期に売却するか,あるいはその後の株価の反転,上昇を期待して保有し続けた上でいつの時点で株式を売却するか等を,自己責任の下に,諸般の事情を考慮して判断すべきである。」として,上告人らそれぞれの売却価格をもって,各上告人の損害額算定の基礎とすることを認めなかった。
 しかし,本件の上告人らは機関投資家であり,その運用指針として東京証券取引所市場第一部を構成するTOPIX を指標とする運用を行っていたのであるから,本件株式が上場廃止が想定される監理ポストに割り当てられることが明らかになれば,即売却の方針を採る以外選択の余地は原則として存しないのであり,監理ポストに割り当てられることが明らかになったにもかかわらず,反転,上昇を期待して株式を保有し続けることは,機関投資家としての善管注意義務違反が問われかねないのである。
 なお,本件株式は,虚偽記載の公表後一旦大きく下落し,その後反転していることが認められるが,被上告人Y1は,上場廃止決定がなされる前後に,ジャスダックへの再上場を目指す旨公表し(その後,上場されていない。),また中間決算短信で,業績の上方修正を公表する等しているのであって,反転した株価自体が市場における公正な株価と評価し得るものといえるか否かについても疑問の存するところである。
 これらの実態等を踏まえた判断がなされる必要があると考える。

【寺田逸郎意見】

 私も,原判決中上告人らの敗訴部分を破棄すべきとする結論においては多数意見と考えを同じくし,また,多数意見が理由とするところに与することができる部分も少なくない。ただ,実質のある一部において多数意見とは見解を異にするので,これにつき論じておきたい。

1(1) 本件事実関係の下において,本件虚偽記載がなければ上告人らがY1株を取得することはなかったとみるべきこと,有価証券報告書等に虚偽記載がなければ投資者が株式を取得することはなかったとみるべき場合において,その投資者が当該虚偽記載の公表後,当該株式を取引所市場において処分したときは,当該虚偽記載と相当因果関係がある損害の額は,その取得価額と処分価額との差額を基礎として算定すべきこととすることなどの判断においては,多数意見と見解を同じくする。

(2) また,虚偽記載公表後の株式の市場価額の変動のうち,いわゆるろうばい売りが集中することによる過剰な下落による損失については,有価証券報告書等に虚偽記載がされ,それが判明することによって通常生ずることが予想される事態であることから,これを当該虚偽記載と相当因果関係がない損害とみてその分を損害額から控除することは相当でないとする点においても,多数意見の見解に異論はない。

(3) しかし,多数意見が,取得した株式の市場価額が上記(2)以外の経済情勢,市場動向,当該会社の業績等虚偽記載とは無関係な要因に基づき下落したことによって投資者に損失が生じた場合に,投資者はそのような価額の変動を市場参加者として想定しておくべきであり,そのリスクは自ら負うべきであるとして,これをすべて投資者の負担に帰せしめ,それらの要因に基づく株式の市場価額の下落分による損失一般につき相当因果関係を欠くものとして上記(1)の差額から控除されるべきであると結論付ける部分には賛成することができない。
 多数意見のこのような考え方は,虚偽記載がなければ投資者が株式を取得することがなく,これに要した資金が供出されることはなかったという前提の下で,資金が投資されている間のリスクをすべて免れてそのまま投資時の原状で回復されるべきこととするストレートな結論をとることへの違和感からくるものであろう。この違和感には共感できるところがなくはない。継続的株式投資という環境に置かれた運用資金に係る損害賠償としての性格に鑑みると,究極的には当該株式への投資を行った後(事実審の口頭弁論終結時まで)の事情を考慮に入れて損害額の算定を行うことがより実情に即した判断につながると考えられるからである。しかし,その具体的な内容については慎重に見ていく必要がある。

2(1) 上記1(1)の立論のとおり,実際には株式を取得した投資者が当該虚偽記載がなければこれを取得することはなかったとみて,本件虚偽記載の結果取得価額に相当する金員を支出して虚偽記載に係る株式を取得したことにより損害を被ったとし,取得価額と処分価額の差を損害額算定の基礎とすると考える場合に,「虚偽記載がなければ投資者が株式を取得することはなかった」という前提と矛盾なく理解できる次の範ちゅうの損失については,その額を,上記基礎損害額から相当因果関係を欠くものとして控除することを是認する余地があろう。

(ア) 投資者として,当該株式を保有していた期間中,仮にこれを取得することがなかったとしても受けたであろう損失

(イ) 虚偽記載の公表後も投資者が漫然と株式を保有し続けた結果生じた損失

 多数意見が上記1(3)で挙げる損失のうち,一般的な経済情勢,株式市場の動向により株価一般に下落が生じた場合に受けたであろう損失は,上記(ア)に当たることがあり得る。投資者が恒常的に市場で株式投資をしている投資家であることが認められるのであれば,虚偽記載のある株式への投資をしていなくてもその資金はそれ以外の株式を保有することに用いられていたに違いないから,市場における株式一般の価額下落による損失を被っていたはずであるといえるのであって,そのような証明ができるのであれば,その分については相当因果関係を否定されても不当とはいえないからである。また,例えば,当該投資者が継続的に鉄道株に限って投資を続けているなど特定の投資パターンがあると認められる場合には,その対象株に共通する価額の下落の影響を被ったはずであるといえるから,その下落による損失分についてもやはり相当因果関係がないものとして損害額から控除することが考えられる。このような処理は,「虚偽記載がなければあったであろう状態」を「原状」よりは広くとらえて,資金拠出後に免れるはずがなかった損失を資金拠出がなかったこととすると免れたことにしてしまう部分をも考慮に入れて判断することにほかならず,このようにすることによって損害額の算定の現実的妥当性が高まるように思われる。

(2) これに対し,会社の業績不振による株式価額の下落など当該株式に特有の価額下落による損失を相当因果関係なしとして損害額から控除することには無理があると思われる。投資者が当該株式を取得することはなかったとの前提をとって株式取得のために出捐した額を損害額の基本に据えながら,その株式に特有の下落分をそこから控除するのでは筋が通らないと考えるからである。多数意見は,この下落分につき相当因果関係を否定するのに,当該株式を取得した以上はその価額が変動することは当然想定すべきであると説くが,それは会社側の不法行為がなければ当該株式を取得することはなかったとされる立場の投資者にとっては受け入れ難い立論であろう。
 もとより,多数意見が説くとおり,会社の業績不振による下落額で,当該虚偽記載と直接関係がないものがあることは否定できない。そこで,会社の価値を持分的に表している株式は上場資格があろうがなかろうが本質的に同一のもの(ただ,上場ができなくなるリスクがあることによる減価があり得る。)であって,現に市場で取引が行われている以上本来上場資格を欠くものでもそれ相応の取引対象なのであるから,「虚偽記載がなければ投資者が株式を取得することはなかった」という前提から離れて相当因果関係による損害を求めることとするアプローチが許されないわけではなく(現に,本件においても,上告人らは予備的主張としてそのような構成を試みている。),もし,本件でも,そのように前提を別にとって損害の額を求めようというのであれば,当該虚偽記載と関係がある下落による損失かそうでない下落による損失かによって相当因果関係の有無を判定するとしても不相当ではないといえるであろう。しかし,いったん両者を別物と考え,「虚偽記載がなければ投資者が株式を取得することはなかった」という前提から出発することとした以上は,このような立論は無理ではないかと考えるのである。言い換えれば,いったん株式の取得価額と処分価額の差を基礎として損害額を算定するという立論をしながら,その差の間に存する当該株式の価額の下落につき分析し,ひとつひとつ虚偽記載がもたらしたものかどうかを検討し,関係がないとみられるものは除外していくというのであれば,もともと何を基礎とするかなどといった検討をとばして,虚偽記載と個々の株式価額の下落との関係をみて損害の範囲を決めるのと実体においては等しいのであって,多数意見のような構成は,「虚偽記載がなければ投資者が株式を取得することはなかった」との立場から株式の取得価額と処分価額との差を基礎として損害額を算定するとした意味を大きく損なうものであるといえるのではあるまいか。
 虚偽記載が公表されるまではそれなりの価額で処分することができたところ,その間に価額の下落が生じたとしてもその下落には虚偽記載による影響はないとし,あるいは,その間のリスクは投資者が負うべきと考えて因果関係を否定する考え方も,同様に,会社側の不法行為がなければ当該株式を取得しなかったとの立場にあると認められる投資者にとっては受け入れ難い立論であるように思われる。虚偽記載が公表されるまでに株式が処分された場合にその処分価額が損害額から控除されるのは,損害を減ずべき現実の利得があったからにすぎないと考えるべきものであろう。
 多数意見に沿った構造を有する規定が金融商品取引法に存する。証券発行市場において虚偽記載のある有価証券を取得し,その後処分した投資者に対する発行会社の損害賠償責任を定めた同法18条の規定を受けて賠償額につき定める同法19条は,@取得価額から処分価額を控除した額を賠償額としつつ,A投資者が受けた損害額の全部又は一部が虚偽記載によって生ずべき証券価額の下落以外の事情により生じたことを発行会社が証明した場合においては,その全部又は一部については,賠償の責めに任じない旨定めているのである。しかし,この規定は,虚偽記載がなければ投資者が有価証券を取得しなかった場合の損害賠償責任の追及という場面に焦点を合わせて置かれたものではなく,むしろ,損害填補と併せて不実開示の抑止による証券市場の公正さの確保を目的として発行会社に対して無過失責任を追及することを可能にし,その場合における投資者側の損害賠償額の立証の負担を軽減する趣旨でいわば政策的に規定されたもので,取得そのものを損害とすることを出発点にしつつ,様々な事情に応じてこれを減ずるという方式を採用することによって,多様な場面に対応しつつその目的を図ろうとする,新しい立法ならではの構造を有しているとみるべきものである。したがって,証券流通市場において虚偽記載のある有価証券を取得し,その後処分した投資者に対する発行会社の損害賠償責任については,賠償額についても虚偽記載の公表前後の有価証券価額の差を基準とする別のスキームの規定が置かれている(同法21条の2第1項,2項)。そして,上記の規定は,いずれも損害賠償を請求しようとする者にそれぞれ新たな選択肢を与えるものであって,これによらず一般の不法行為責任を追及することは妨げられないとされているのである。いずれにせよ,虚偽記載がなければ有価証券を取得することはなかったと認められる投資者が一般の不法行為責任として求める損害賠償の賠償額について,上記の規定がその立論のあり方を左右するものではないし,同様のスキームを民法の解釈で実現しようというのであれば,無理があるというほかない。

(3) なお,上記(1)(イ)のとおり,投資者が虚偽記載の公表後も株式を長く持ち続け,いわゆるろうばい売りなど当該虚偽記載の公表による市場価額の変動が収束したとみられる時期以後も当該株式を処分しなかったときは,「公表があれば取得しなかった」という前提との一貫性から,もはやその後の価額下落による損失については当該虚偽記載と相当因果関係がないものとして扱うべきものとしてよいであろう。虚偽記載という事実を知らされたからには,以後は通常どおり投資者としてのリスクを負って株式を保有している状態とみてよく,あるいは,投資者に損害拡大回避義務があるということで説明することもできるところと考えられる。
 ただ,多数意見に示されたとおり,本件公表後のY1株の市場価額については,いわゆるろうばい売りなど当該虚偽記載の公表による市場価額の変動が収束したとみられる時期以後上場廃止までに更に株式価額の下落が生じたと認めるべき事情がないので,ここでは,これ以上論じない。

3.結論として,本件においては,本件虚偽記載と相当因果関係がある損害の額は,上告人らのY1株の取得価額とその処分価額との差額を基礎とし,上記2(1)で示した限度での株式価額の下落による損失についてはこの基礎損害額から控除すべき余地があるものとして更なる立証の機会を与える一方,上記2(2)で示した株式価額の下落による損失についてはこの基礎損害額からの控除の対象とはしない扱いをすべきものであると考えるのである。

 

最高裁判所第三小法廷判決平成23年09月13日

【事案】

1.東京証券取引所に上場されていた被上告人Y1の株式(以下「Y1株」という。)を取引所市場において取得した者又はその相続人である上告人らが,C社等の少数特定者が所有するY1株の数の割合が東京証券取引所の定める上場廃止事由に該当するという事実があったにもかかわらず,被上告人Y1が有価証券報告書及び半期報告書(以下「有価証券報告書等」という。)に虚偽の記載をして上記事実を隠蔽し,また,C社がY1株の大量保有報告書に過少な数を記載するなどして上記事実の隠蔽に協力したことにより,損害を被ったと主張して,被上告人Y1,C社を吸収合併した被上告人Y2,被上告人Y1及びC社の代表取締役であった被上告人Y3等に対し,不法行為等に基づく損害賠償を求める事案。上記の不法行為により上告人らに生じた損害の額が争点となっている。

2.事実関係の概要

(1) Y1株は,昭和24年に東京証券取引所に上場され,昭和40年8月から平成16年12月16日まで継続して市場第一部に上場されていた。

(2) 東京証券取引所においては,遅くとも昭和57年10月1日には以下の上場廃止事由が定められ,これは平成16年まで継続されていた(株券上場廃止基準2条1項,昭和57年10月1日改正付則3項,5項)。

ア.少数特定者持株数(所有株式数の多い順に10名の株主が所有する株式及び役員が所有する株式等の総数をいう。)が上場株式数の80%を超えている場合において,1年以内に80%以下とならないとき(以下「少数特定者持株数基準」という。)

イ.上場会社が財務諸表等又は中間財務諸表等に虚偽記載を行い,かつ,その影響が重大であると東京証券取引所が認めた場合(以下「財務諸表等虚偽記載基準」という。)

ウ.公益又は投資者保護のため,東京証券取引所が当該銘柄の上場廃止を適当と認めた場合(以下「公益等保護基準」という。)

(3) 被上告人Y1は,関東財務局長等に対して提出した昭和32年3月期から平成16年3月期までの有価証券報告書等において,C社が所有するY1株の数につき,C社名義で所有する株式(以下「C社名義株」という。)の数のみを記載し,他人名義で所有する株式(以下「他人名義株」という。)の数を記載せず,また,C社名義株と他人名義株を合わせればC社が被上告人Y1の発行済株式総数の過半数を有する会社であったにもかかわらず,その旨の記載もしなかった(以下,被上告人Y1の有価証券報告書等における上記の内容の虚偽記載を「本件虚偽記載」という。)。

(4) 他方,C社は,平成2年の証券取引法の改正により提出が義務付けられた大量保有報告書及びその変更報告書において,その所有するY1株の数を過少に記載し,後記(7)の公表までの間,正確な数を記載した大量保有報告書及びその変更報告書を提出しなかった。
 また,C社は,平成7年以降,その所有するY1株の一部を他人名義株も含めて売却し,さらに,平成12年以降,相対取引でY1株を売却した際,C社名義株を売却した上でその分の他人名義株をC社名義に書き換えるという処理をして,他人名義株を減少させた。

(5) 被上告人Y1の代表取締役であった被上告人Y3(昭和40年11月就任,平成16年4月14日退任)及びD(同月8日就任)並びに被上告人Y1の取締役総務部長を経て代表取締役となったY4(昭和51年6月取締役就任,平成8年6月代表取締役就任,平成16年4月8日代表取締役辞任)は,上記の各在任期間中,本件虚偽記載の事実を認識しながら,その訂正を指示等することなく,これを継続することを容認し,また,被上告人Y3は,C社の代表取締役(昭和32年10月就任,平成16年10月13日辞任)としても,C社が所有する他人名義株の存在や本件虚偽記載を認識しながらこれを公表しなかっただけでなく,上記(4)の本件虚偽記載の隠蔽に積極的に関与した。

(6) 被上告人Y1の少数特定者持株数は,少数特定者持株数基準が施行された昭和57年10月1日以降,平成16年3月末まで継続して上場株式数の80%を超えていた。しかし,本件虚偽記載のある有価証券報告書等の記載の上では,少数特定者持株数は,常に上場株式の80%以下にとどまるものとされていた。
 また,C社の所有するY1株の数が被上告人Y1の発行済株式総数に占める割合は,昭和32年3月末以降,常に過半数であったが,本件虚偽記載により,有価証券報告書等の記載上の上記割合は,常に半数以下にとどまるものとされていた。

(7) 被上告人Y1は,平成16年10月13日,関東財務局長に対し,C社等の所有する他人名義株の存在が判明したとして,公衆縦覧期間中である平成12年3月期から平成16年3月期までの有価証券報告書等につき,C社等の所有するY1株の数及び所有割合を訂正し,C社の表示を「その他の関係会社」から「親会社」に訂正するなどした訂正報告書を提出し,その旨を公表した(以下「本件公表」という。)。

(8) 東京証券取引所は,平成16年10月13日,Y1株を少数特定者持株数基準に係る猶予期間入り銘柄(その期間は同年4月1日から1年間)としたことを公表するとともに,Y1株について,財務諸表等虚偽記載基準及び公益等保護基準に該当するおそれがあるとして,その該当の有無を認定する日まで監理ポストに割り当てることを決定し,その旨を公表した。
 東京証券取引所は,同年11月16日,Y1株について,財務諸表等虚偽記載基準及び公益等保護基準に該当するとして,同年12月17日に上場廃止とする旨を決定し,上記決定内容及び同月16日までY1株を整理ポストに割り当てる旨を公表した。
 Y1株は,同月17日,上場廃止となった。

(9) Y1株の東京証券取引所における終値は,本件公表の日(なお,本件公表前に同日の取引は終了していた。)である平成16年10月13日が1株1081円,上場廃止決定のあった同年11月16日が1株268円,最終取引日である同年12月16日が1株485円であった。
 その後,平成18年2月に被上告人Y1の会社分割など関係企業の再編が行われ,被上告人Y1の株主は,その所有していたY1株1株につきE社の株式(以下「E社株」という。)1株を所有することとなった。上記の企業再編の際,Y1株は,1株919円と評価されて譲渡されるとともに,被上告人Y1は,会社分割に反対する株主からの株式買取請求にこれと同一の価格で応じた。
 E社は,平成19年5月21日以降,単元未満株式の買取請求に対し,1株1175円で買取りに応じている。

(10) 上告人ら(ただし,本件訴訟係属中に承継が生じた者については第1審原告らを指す。以下,承継前の時点における事実をいうときは同じ。)は,一般投資家であり,平成4年12月10日から平成16年10月13日までに取引所市場において「持ち株数」欄記載の数のY1株を「取得価格」欄記載の1株当たりの価額で取得した(ただし,上告人X89〔同表記載の原告番号245〕が平成16年11月2日に売却した1000株を除く。)。
 上告人らは,本件公表の時点で,上記一覧表の「持ち株数」欄記載の数のY1株を保有しており,「売却時期」欄に年月日が記載されている株式(以下「処分株式」という。)については当該年月日に「売却価格」欄記載の1株当たりの価額でこれを売却し,また,「売却時期」欄に「保有」と記載されている株式についてはY1株に代わり同数のE社株(以下「保有株式」という。)を所有している。

(11) C社は,平成18年2月1日,被上告人Y2に吸収合併された。
 Dは,平成17年2月19日死亡し,その相続人である被上告人Y5は,限定承認をした。

3.上告人らは,本件虚偽記載により上告人らに生じた損害の額について,要旨次のとおり主張している。

(1) 主位的主張

 本件虚偽記載がなければ上告人らがY1株を取得することはなかったから,Y1株を取得させられたこと自体が損害であり,対価として支出した取得価額の全額が損害額となる。

(2) 予備的主張1

 上告人らは,本件虚偽記載によって,本来は上場を維持し得ない株式であるY1株を上場株式としての付加価値(以下「上場プレミアム」という。)が上乗せされた対価で取得させられたから,上場プレミアム相当分が損害であり,取得価額と取得時点での本来あるべき価額(想定価額)との差額が損害額となる。

(3) 予備的主張2

 本件虚偽記載がされた結果,Y1株は本件公表後に市場価額が大幅に下落して上場廃止となったから,本件公表後の株価下落分が損害となり,処分株式については本件公表の日の終値と処分価額との差額が,保有株式については上記終値と事実審の口頭弁論終結時の価額との差額が損害額となる。

4.原審は,前記事実関係の下において,@ 被上告人Y1,同Y2及び同Y3は,全ての上告人らに対し,A Y4は,同人が代表取締役を辞任した後に有価証券報告書が提出された日の前日である平成16年6月28日までにY1株を取得した上告人らに対し,B 被上告人Y5は,Dから相続した財産の限度において,Dが代表取締役に就任した後に有価証券報告書が提出された日である同月29日以降にY1株を取得した上告人らに対し,それぞれ本件虚偽記載につき不法行為責任を負うとした上で,本件虚偽記載により上告人らに生じた損害の額について次のとおり判断して,上告人らのうち本件公表後にY1株を売却した者の請求を一部認容し,その余の上告人らの請求を棄却すべきものとした。

(1) 主位的主張について

 上告人らの主位的主張は,取得したY1株が取得時点において無価値であったことを前提とするものと理解するよりほかはないが,Y1株は長年にわたって上場株式として流通し,多数の売買取引がされてきたものであり,これが客観的に無価値であったとはいえない。本件虚偽記載が株主の構成に関するものであって,会社の収支や資産価値に直接関わるものではなかったことなどからすれば,上告人らは,その取得時点で取得価額に相応した価値を有するY1株を取得したものといわざるを得ないし,また,上告人らの取得行為自体に瑕疵はないから,Y1株の取得自体を損害とみることはできず,主位的主張は理由がない。

(2) 予備的主張1について

 上告人らの主張する上場プレミアム相当分の損害は,上告人らがY1株を取得した時点では未発生といえなくもない上,その額を数額的に把握することは困難であり,その主張に係る額を認めるに足りる証拠もないから,予備的主張1は理由がない。

(3) 予備的主張2について

 本件公表によりY1株の市場価額が急落するという事態は,本件虚偽記載が判明することによって生ずべき減価が現実化したものということができる。
 しかし,上告人らのうち本件公表後にY1株を売却した者については,本件公表後いつの時点でY1株を売却するかは当該株主が諸般の事情を考慮して決断すべき事柄であること,虚偽記載の公表直後はいわゆるろうばい売りが集中し,その市場価額が客観的株価より過大に下落する傾向が見られること,本件虚偽記載は被上告人Y1の財務状況や企業価値そのものに関するものではなかったことなどに照らすと,本件公表後のY1株の売却行為及びそれによる損失の発生が,全て本件虚偽記載から通常生じ得る結果であるとまではいえない。本件虚偽記載により上記の上告人らに生じた損害の額は,本件公表後のY1株の市場価額の推移やその後の関係企業の再編の際におけるY1株の評価額等を総合勘案し,民訴法248条を適用して,処分株式1株につき160円と認定するのが相当である。
 他方,上告人らのうち本件公表後もY1株を売却せず,代わりにE社株を取得した者については,原審口頭弁論終結時において,その保有するE社株の価額が,Y1株の本件公表の日の終値である1株1081円を下回っているとは認められないから,株価下落による損害を被ったとはいえない。

【判旨】

1.原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

(1) 前記事実関係によれば,Y1株に関しては,昭和32年3月期以降本件虚偽記載が継続され,上場廃止事由として少数特定者持株数基準が定められた昭和57年10月1日以降継続して同基準に該当しており,現に,東京証券取引所は,本件公表後,同基準に係る猶予期間の経過を待つことなく,財務諸表等虚偽記載基準及び公益等保護基準に該当するとして本件公表後1か月余にして上場廃止を決定したというのであるから,仮に,被上告人Y1が上告人らによるY1株の取得より前に継続してきた本件虚偽記載をやめ,あるいは本件虚偽記載を訂正していた場合には,その後速やかにY1株につき上場廃止の措置が執られていた蓋然性が高く,少数特定者持株数基準に該当する事実の解消に向けた行動が取られたとしても,C社等の持株数に照らして上場廃止を回避するまでに至った可能性は極めて乏しかったとみるべきである。そうであれば,一般投資家であり,Y1株を取引所市場で取得した上告人らにおいては,本件虚偽記載がなければ,取引所市場の内外を問わず,Y1株を取得することはできず,あるいはその取得を避けたことは確実であって,これを取得するという結果自体が生じなかったとみることが相当である。その限りにおいて,上告人らの主位的主張は理由がある。

(2) このように,有価証券報告書等に虚偽の記載がされている上場株式を取引所市場において取得した投資者が,当該虚偽記載がなければこれを取得することはなかったとみるべき場合,当該虚偽記載により上記投資者に生じた損害の額,すなわち当該虚偽記載と相当因果関係のある損害の額は,上記投資者が,当該虚偽記載の公表後,上記株式を取引所市場において処分したときはその取得価額と処分価額との差額を,また,上記株式を保有し続けているときはその取得価額と事実審の口頭弁論終結時の上記株式の市場価額(上場が廃止された場合にはその非上場株式としての評価額。以下同じ。)との差額をそれぞれ基礎とし,経済情勢,市場動向,当該会社の業績等当該虚偽記載に起因しない市場価額の下落分を上記差額から控除して,これを算定すべきものと解される。
 すなわち,上記投資者が上記株式を処分するまで又は事実審の口頭弁論終結時までに上記株式の市場価額が種々の要因によって変動することは通例であるところ,一般投資家である上記投資者は,当該虚偽記載がなければ上記株式を取得することはなかったとしても,取得した株式の市場価額が経済情勢,市場動向,当該会社の業績等当該虚偽記載とは無関係な要因に基づき変動することは当然想定した上で,これを投資の対象として取得し,かつ,上記要因に関しては開示された情報に基づきこれを処分するか保有し続けるかを自ら判断することができる状態にあったということができる。このことからすると,上記投資者が自らの判断でその保有を継続していた間に生ずる上記要因に基づく市場価額の変動のリスクは,上記投資者が自ら負うべきであり,上記要因で市場価額が下落したことにより損失を被ったとしても,その損失は投資者の負担に帰せしめるのが相当である。したがって,経済情勢,市場動向,当該会社の業績等当該虚偽記載とは無関係な要因に基づく上記株式の市場価額の下落分は,当該虚偽記載と相当因果関係がないものとして,上記差額から控除されるべきである。
 以上の理は,虚偽記載の公表の前後を問わず当てはまるところであるが,虚偽記載が公表された後の市場価額の変動のうち,いわゆるろうばい売りが集中することによる過剰な下落は,有価証券報告書等に虚偽の記載がされ,それが判明することによって通常生ずることが予想される事態であって,これを当該虚偽記載とは無関係な要因に基づく市場価額の変動であるということはできず,当該虚偽記載と相当因果関係のない損害として上記差額から控除することはできないというべきである。

(3) 前記事実関係によれば,上告人らは,取引所市場においてY1株を取得した一般投資家であり,Y1株の市場価額が虚偽記載とは無関係な要因に基づき変動することを承知の上でこれを取得し,その後,開示された情報に基づきY1株を処分するか保有し続けるかを自ら判断することができる状態にあったものということができる。
 そして,上告人らがY1株を取得してから本件公表までの間のY1株の市場価額の下落については,一般的には,虚偽記載が公表されていない間には虚偽記載が市場価額に影響を与えることは少なく,虚偽記載とは無関係な要因に基づくものであることが多いと考えられるものの,前記事実関係によれば,本件公表前にC社が本件虚偽記載に係る他人名義株を売却するなどして本件虚偽記載が一部解消されていたというのであり,その頃本件虚偽記載に起因してY1株の市場価額が下落していた可能性がある。他方,前記事実関係によっても,本件公表後のY1株の市場価額については,上場廃止までの間に本件虚偽記載と無関係な要因による下落があったことはうかがわれないし,また,その後保有株式の価額が原審の口頭弁論終結時までに更に下落したことはうかがわれない。
 そうすると,本件虚偽記載と相当因果関係のある損害の額は,処分株式についてはその取得価額と処分価額との差額から,保有株式についてはその取得価額と事実審の口頭弁論終結時の同株式の評価額との差額から,本件公表前の経済情勢,市場動向,被上告人Y1の業績等本件虚偽記載とは無関係な要因による下落分を控除して,これを算定すべきである。以上のようにして算定すべき損害の額の立証は極めて困難であることが予想されるが,そのような場合には民訴法248条により相当な損害額を認定すべきである。

2.以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は,この趣旨をいうものとして理由があり,原判決中,本件上告の対象となっている請求に係る上告人らの敗訴部分は破棄を免れない。そして,別紙3記載の上告人らの請求並びに別紙4記載の上告人らの被上告人A及び同Bに対する請求に関しては,本件虚偽記載と相当因果関係のある損害の額について更に審理を尽くさせる必要があるので,上記破棄部分のうち上記各請求に関する部分につき,本件を原審に差し戻すこととする。また,以上に説示したところによれば,上記各請求以外の請求に関しては,被上告人らの賠償すべき金額は,第1審判決が認容し,上告人らが不服を申し立てていない金額を下回ることはないと認められるから,上記破棄部分のうち同請求に関する部分につき,被上告人らの控訴を棄却することとする。

【田原睦夫補足意見】

 本件につき主位的主張を採用すべきことについては,全裁判官の意見は一致しており,多数意見と寺田裁判官の意見の相違点は,本件における損害の捉え方である。私は,多数意見に与する立場から,その点につき補足して意見を述べる。

1.虚偽記載公表までの株価の変動について

(1) 虚偽記載に関係しない株価の変動について

 証券市場に上場されている株式は,多数意見にて指摘するとおり,我が国全体の経済情勢,市場動向,当該会社を取り巻く業界の状況,当該会社の業績等虚偽記載とは無関係な経済要因に基づいて変動する。
 上告人らは,Y1株(以下「本件株式」という。)を株価が上記のように変動するものとして取引所市場を通じて取得したものであり,虚偽記載が公表されるまでは,虚偽記載がないものとしての市場株価でもって,随時市場で売却することができたのであり,それに伴い利益を得あるいは損失を被ることがある立場にあった。
 ところで,上告人らの主位的主張の論理をそのまま貫くと,本件虚偽記載がなければ本件株式を取得することはなかったのであって,取得価額に相当する金員を支出したこと自体が損害であり,事実審口頭弁論終結時までに本件株式を処分しているときには,取得価額と処分価額の差額が損害額となる。
 そうすると,本件虚偽記載公表までに,市場で取得した本件株式の全部を処分して損失を被った者も,本件虚偽記載がなければ本件株式を取得しなかった以上,その損失相当額を損害として主張できることとなる。また,仮に一部の上告人らが,市場で取得した本件株式の一部を本件虚偽記載公表までに市場で売却して売却損を被り,あるいは売却益を得ていた場合には,その売却損相当額も,本件虚偽記載公表後に処分したことに伴う損害に付加して請求することができ,他方売却益相当額については損益相殺すべきことになる。
 しかし,かかる結論が導かれることについては,大方の理解を得ることは困難であろう。多数意見は,主位的主張の論理を貫くことによる上記の不合理を是正する法律的説明として,相当因果関係の法理によったものと理解することができる。このように,虚偽記載公表までの市場株価での処分による損失相当額が,本件株式取得による損害との間に相当因果関係が認められない以上,その処分による損失の前提となる取得価格から虚偽記載公表直前の市場価格までの下落金額相当額についても,同様に相当因果関係が否定されてしかるべきである。
 以上述べたところを纏めると,上告人らが本件株式を取得した後,虚偽記載公表までの間に生じた虚偽記載に関係しない株価の変動を除外した上で算定される上告人らの損害額は,取得価額から処分価額を差し引いて算出した一応の損害額から,取得価格から虚偽記載公表直前の市場価格までの下落金額(ただし,市場価格が取得価格を上回るときは零になる。)相当額を差し引いた金額が,損害額として一応算定されることになる。
 以上述べたところは,上告人らが本件事実審口頭弁論終結時に本件株式を保有している場合には,処分価額に代えて同時点における評価額をもって算定されることとなるが,その算定手法は処分価額の場合と同様である。

(2) 虚偽記載に関係する株価の変動について

 虚偽記載が公表されるまでの株価の変動のうち,公表前に有価証券報告書等の記載に変更を加えて虚偽記載を一部解消させたり,虚偽記載の解消目的等をもって大量の株式を売却するなどすることにより,株価が通常の市場変動以上に下落することがあるが,これらの行為による株価の変動に関しては虚偽記載により投資家に正確な情報が開示されていないのであるから,それによる下落金額相当額につき会社が責めを負うべきことは当然である。
 そして本件では,多数意見にても指摘するとおり,C社は平成7年以降本件虚偽記載に係る他人名義株を売却するなどし,また,平成12年以降に相当量の本件株式を売却しているのであって,それに起因して本件株式の市場価格が下落していた可能性が認められる。しかし,かかる下落について,市場における一般的な株価変動の影響と分離してその下落への寄与部分を算定することは著しく困難であると推認されるから,民訴法248条により相当な損害額を認定すべきである。

(3) 小括

 以上述べたところは,多数意見5(3)にて述べているところを解析したものであるが,それを算式で表すと以下のとおりとなる。

損害額={取得価額−処分価額(又は,事実審口頭弁論終結時評価額)}−取得時から虚偽記載公表直前までの虚偽記載に起因しない下落額

2.虚偽記載公表後の本件株式処分について

 前項に述べた損害額の算定に当たり,株式の処分が適正になされているべきことはいうまでもない。そして,上場株式を市場で処分することは,原則として適正な処分方法であるといえる。
 また,多数意見にて指摘するとおり,虚偽記載公表後の株価の変動のうち,明らかに経済情勢の変動や市場動向等によると認められる変動部分は,本件虚偽記載との相当因果関係が否定されるが,そうでない限り,いわゆる狼狽売りをも含めて,本件虚偽記載の公表を踏まえた会社に対する市場の評価によってもたらされた変動と解されるのである。
 そして,上告人らの本件株式の処分は,何れも市場で行われたものであり,その処分方法につき不適切な点は認められず,また,本件虚偽記載公表後上告人らが処分するまでの間に,本件株価に変動をもたらすような経済情勢の変動等は認められない。したがって,上告人らの損害額は,上告人らが実際に処分した価額を,上告人らが本件株式を取得した価額から差し引いた上で,1につき検討した方法によって算定するのが相当である。
 なお,本件株式を処分した上告人らのうち,本件上場廃止後事実審口頭弁論終結までの間に本件株式を処分した者は存しないが,仮に上場廃止後に本件株式を処分する場合においても,それは適正な価額でなされるべきことは当然である。
 そして,上場廃止後は,株価の適正さを担保する市場は存しないから,実際の処分価額が適正であるか否かは,次項で述べる上場廃止後の処分見込額の算定と同様の方法に基づいて算定すべきものである。

3.保有株式の評価について

 上告人らが事実審口頭弁論終結時に本件株式を保有している場合,多数意見にて指摘するとおり,その評価額を取得価額から差し引いた上で,1で述べたところに従ってその損害額を算定することになる。
 その評価額は,事実審口頭弁論終結時までに処分した場合の価額に対応するものであることからして,事実審口頭弁論終結時に処分するとした場合の適正な評価額(処分見込額)であり,清算に伴う評価額ではない。
 原判決は,事実審口頭弁論終結時に株式を保有していた上告人らについては,本件株式の上場廃止後のY1グループの企業再編時に,被上告人Y1が会社分割に反対する株主からの株式買取請求に応じていた金額やDCF法あるいは修正純資産法による評価額,また企業再編後のE社が単元未満株の買取りに応じている金額等と対比して,同上告人らには損害がないと判示するが,原判決は,事実審口頭弁論終結時の処分見込額を算定することなく,同上告人らに損害が生じたことを否定している点において相当ではない。
 上記の処分見込額は,原判決が本件株式の口頭弁論終結時の評価額の算定に用いた手法を含む,一般的に非上場株式の財産としての評価の際に用いられている方法に基づいて算定した上で,非上場株式としての一般的な換価の難易(困難性)及び本件株式固有の換価の難易(困難性)を考慮して,その評価をなすべきである。

【寺田逸郎意見】

 私も,原判決中本件上告の対象となっている請求に係る上告人らの敗訴部分を破棄すべきとする結論においては多数意見と考えを同じくし,また,多数意見が理由とするところに与することができる部分も少なくない。ただ,実質のある一部において多数意見とは見解を異にするので,これにつき論じておきたい。

1(1) 本件事実関係の下において,本件虚偽記載がなければ上告人らがY1株を取得することはなかったとみるべきこと,有価証券報告書等に虚偽記載がなければ投資者が株式を取得することはなかったとみるべき場合に,当該虚偽記載と相当因果関係がある損害の額は,その投資者が当該虚偽記載の公表後,当該株式を取引所市場において処分したときはその取得価額と処分価額との差額を,また,当該株式を保有し続けているときはその取得価額と事実審の口頭弁論終結時の当該株式の市場価額との差額をそれぞれ基礎として算定すべきこととすることなどの判断においては,多数意見と見解を同じくする。

(2) また,虚偽記載公表後の株式の市場価額の変動のうち,いわゆるろうばい売りが集中することによる過剰な下落による損失については,有価証券報告書等に虚偽記載がされ,それが判明することによって通常生ずることが予想される事態であることから,これを当該虚偽記載と相当因果関係がない損害とみてその分を損害額から控除することは相当でないとする点においても,多数意見の見解に異論はない。

(3) しかし,多数意見が,取得した株式の市場価額が上記(2)以外の経済情勢,市場動向,当該会社の業績等虚偽記載とは無関係な要因に基づき下落したことによって投資者に損失が生じた場合に,投資者はそのような価額の変動を市場参加者として想定しておくべきであり,そのリスクは自ら負うべきであるとして,これをすべて投資者の負担に帰せしめ,それらの要因に基づく株式の市場価額の下落分による損失一般につき相当因果関係を欠くものとして上記(1)の差額から控除されるべきであると結論付ける部分には賛成することができない。
 多数意見のこのような考え方は,虚偽記載がなければ投資者が株式を取得することがなく,これに要した資金が供出されることはなかったという前提の下で,資金が投資されている間のリスクをすべて免れてそのまま投資時の原状で回復されるべきこととするストレートな結論をとることへの違和感からくるものであろう。この違和感には共感できるところがなくはない。継続的株式投資という環境に置かれた運用資金に係る損害賠償としての性格に鑑みると,究極的には当該株式への投資を行った後(事実審の口頭弁論終結時まで)の事情を考慮に入れて損害額の算定を行うことがより実情に即した判断につながると考えられるからである。しかし,その具体的な内容については慎重に見ていく必要がある。

2(1) 問題となる虚偽記載の公表後,投資者が保有していた株式を取引所市場において処分した場合につき検討するに,上記1(1)の立論のとおり,実際には株式を取得した投資者が当該虚偽記載がなければこれを取得することはなかったとみて,本件虚偽記載の結果取得価額に相当する金員を支出して虚偽記載に係る株式を取得したことにより損害を被ったとし,取得価額と処分価額の差を損害額算定の基礎とすると考える場合に,「虚偽記載がなければ投資者が株式を取得することはなかった」という前提と矛盾なく理解できる次の範ちゅうの損失については,その額を,上記基礎損害額から相当因果関係を欠くものとして控除することを是認する余地があろう。

(ア) 投資者として,当該株式を保有していた期間中,仮にこれを取得することがなかったとしても受けたであろう損失

(イ) 虚偽記載の公表後も投資者が漫然と株式を保有し続けた結果生じた損失

 多数意見が上記1(3)で挙げる損失のうち,一般的な経済情勢,株式市場の動向により株価一般に下落が生じた場合に受けたであろう損失は,上記(ア)に当たることがあり得る。投資者が恒常的に市場で株式投資をしている投資家であることが認められるのであれば,虚偽記載のある株式への投資をしていなくてもその資金はそれ以外の株式を保有することに用いられていたに違いないから,市場における株式一般の価額下落による損失を被っていたはずであるといえるのであって,そのような証明ができるのであれば,その分については相当因果関係を否定されても不当とはいえないからである。また,例えば,当該投資者が継続的に鉄道株に限って投資を続けているなど特定の投資パターンがあると認められる場合には,その対象株に共通する価額の下落の影響を被ったはずであるといえるから,その下落による損失分についてもやはり相当因果関係がないものとして損害額から控除することが考えられる。このような処理は,「虚偽記載がなければあったであろう状態」を「原状」よりは広くとらえて,資金拠出後に免れるはずがなかった損失を資金拠出がなかったこととすると免れたことにしてしまう部分をも考慮に入れて判断することにほかならず,このようにすることによって損害額の算定の現実的妥当性が高まるように思われる。

(2) これに対し,会社の業績不振による株式価額の下落など当該株式に特有の価額下落による損失を相当因果関係なしとして損害額から控除することには無理があると思われる。投資者が当該株式を取得することはなかったとの前提をとって株式取得のために出捐した額を損害額の基本に据えながら,その株式に特有の下落分をそこから控除するのでは筋が通らないと考えるからである。多数意見は,この下落分につき相当因果関係を否定するのに,当該株式を取得した以上はその価額が変動することは当然想定すべきであると説くが,それは会社側の不法行為がなければ当該株式を取得することはなかったとされる立場の投資者にとっては受け入れ難い立論であろう。
 もとより,多数意見が説くとおり,会社の業績不振による下落額で,当該虚偽記載と直接関係がないものがあることは否定できない。そこで,会社の価値を持分的に表している株式は上場資格があろうがなかろうが本質的に同一のもの(ただ,上場ができなくなるリスクがあることによる減価があり得る。)であって,現に市場で取引が行われている以上本来上場資格を欠くものでもそれ相応の取引対象なのであるから,「虚偽記載がなければ投資者が株式を取得することはなかった」という前提から離れて相当因果関係による損害を求めることとするアプローチが許されないわけではなく(現に,本件においても,上告人らは予備的主張としてそのような構成を試みている。),もし,本件でも,そのように前提を別にとって損害の額を求めようというのであれば,当該虚偽記載と関係がある下落による損失かそうでない下落による損失かによって相当因果関係の有無を判定するとしても不相当ではないといえるであろう。しかし,いったん両者を別物と考え,「虚偽記載がなければ投資者が株式を取得することはなかった」という前提から出発することとした以上は,このような立論は無理ではないかと考えるのである。言い換えれば,いったん株式の取得価額と処分価額の差を基礎として損害額を算定するという立論をしながら,その差の間に存する当該株式の価額の下落につき分析し,ひとつひとつ虚偽記載がもたらしたものかどうかを検討し,関係がないとみられるものは除外していくというのであれば,もともと何を基礎とするかなどといった検討をとばして,虚偽記載と個々の株式価額の下落との関係をみて損害の範囲を決めるのと実体においては等しいのであって,多数意見のような構成は,「虚偽記載がなければ投資者が株式を取得することはなかった」との立場から株式の取得価額と処分価額との差を基礎として損害額を算定するとした意味を大きく損なうものであるといえるのではあるまいか。
 虚偽記載が公表されるまではそれなりの価額で処分することができたところ,その間に価額の下落が生じたとしてもその下落には虚偽記載による影響はないとし,あるいは,その間のリスクは投資者が負うべきと考えて因果関係を否定する考え方も,同様に,会社側の不法行為がなければ当該株式を取得しなかったとの立場にあると認められる投資者にとっては受け入れ難い立論であるように思われる。虚偽記載が公表されるまでに株式が処分された場合にその処分価額が損害額から控除されるのは,損害を減ずべき現実の利得があったからにすぎないと考えるべきものであろう。
 多数意見に沿った構造を有する規定が金融商品取引法に存する。証券発行市場において虚偽記載のある有価証券を取得し,その後処分した投資者に対する発行会社の損害賠償責任を定めた同法18条の規定を受けて賠償額につき定める同法19条は,@取得価額から処分価額を控除した額を賠償額としつつ,A投資者が受けた損害額の全部又は一部が虚偽記載によって生ずべき証券価額の下落以外の事情により生じたことを発行会社が証明した場合においては,その全部又は一部については,賠償の責めに任じない旨定めているのである。しかし,この規定は,虚偽記載がなければ投資者が有価証券を取得しなかった場合の損害賠償責任の追及という場面に焦点を合わせて置かれたものではなく,むしろ,損害填補と併せて不実開示の抑止による証券市場の公正さの確保を目的として発行会社に対して無過失責任を追及することを可能にし,その場合における投資者側の損害賠償額の立証の負担を軽減する趣旨でいわば政策的に規定されたもので,取得そのものを損害とすることを出発点にしつつ,様々な事情に応じてこれを減ずるという方式を採用することによって,多様な場面に対応しつつその目的を図ろうとする,新しい立法ならではの構造を有しているとみるべきものである。したがって,証券流通市場において虚偽記載のある有価証券を取得し,その後処分した投資者に対する発行会社の損害賠償責任については,賠償額についても虚偽記載の公表前後の有価証券価額の差を基準とする別のスキームの規定が置かれている(同法21条の2第1項,2項)。そして,上記の規定は,いずれも損害賠償を請求しようとする者にそれぞれ新たな選択肢を与えるものであって,これによらず一般の不法行為責任を追及することは妨げられないとされているのである。いずれにせよ,虚偽記載がなければ有価証券を取得することはなかったと認められる投資者が一般の不法行為責任として求める損害賠償の賠償額について,上記の規定がその立論のあり方を左右するものではないし,同様のスキームを民法の解釈で実現しようというのであれば,無理があるというほかない。

(3) なお,上記(1)(イ)のとおり,投資者が虚偽記載の公表後も株式を長く持ち続け,いわゆるろうばい売りなど当該虚偽記載の公表による市場価額の変動が収束したとみられる時期以後も当該株式を処分しなかったときは,「公表があれば取得しなかった」という前提との一貫性から,もはやその後の価額下落による損失については当該虚偽記載と相当因果関係がないものとして扱うべきものとしてよいであろう。虚偽記載という事実を知らされたからには,以後は通常どおり投資者としてのリスクを負って株式を保有している状態とみてよく,あるいは,投資者に損害拡大回避義務があるということで説明することもできるところと考えられる。
 ただ,多数意見に示されたとおり,本件公表後のY1株の市場価額については,いわゆるろうばい売りなど当該虚偽記載の公表による市場価額の変動が収束したとみられる時期以後上場廃止までに更に株式価額の下落が生じたと認めるべき事情がないので,ここでは,これ以上論じない。

3.以上,投資者が当該虚偽記載の公表後,その保有する株式を取引所市場において処分した場合について上記2で論じたところは,投資者が上記株式を事実審の口頭弁論終結時まで保有し続けた場合にも等しく当てはまるところである。したがって,結論として,本件においては,本件虚偽記載と相当因果関係がある損害の額は,上告人らのうち,虚偽記載の公表後,Y1株を取引所市場において処分した者についてはその取得価額と処分価額との差額を,また,上記株式を保有し続けている者についてはその取得価額と事実審の口頭弁論終結時の上記株式の評価額との差額をそれぞれ基礎とし,上記2(1)で示した限度での株式価額の下落による損失についてはこの基礎損害額から控除すべき余地があるものとして更なる立証の機会を与える一方,上記2(2)で示した株式価額の下落による損失についてはこの基礎損害額からの控除の対象とはしない扱いをすべきものであると考えるのである。

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