平成23年司法試験予備試験論文式行政法
出題趣旨検討と参考答案

【問題】

 Aは,甲県乙町において,建築基準法に基づく建築確認を受けて,客室数20室の旅館(以下「本件施設」という。)を新築しようとしていたところ,乙町の担当者から,本件施設は乙町モーテル類似旅館規制条例(以下「本件条例」という。)にいうモーテル類似旅館に当たるので,本件条例第3条による乙町長の同意を得る必要があると指摘された。Aは,2011年1月19日,モーテル類似旅館の新築に対する同意を求める申請書を乙町長に提出したが,乙町長は,同年2月18日,本件施設の敷地の場所が児童生徒の通学路の付近にあることを理由にして,本件条例第5条に基づき,本件施設の新築に同意しないとの決定(以下「本件不同意決定」という。)をし,本件不同意決定は,同日,Aに通知された。
 Aは,本件施設の敷地の場所は,通学路として利用されている道路から約80メートル離れているので,児童生徒の通学路の付近にあるとはいえず,本件不同意決定は違法であると考えており,乙町役場を数回にわたって訪れ,本件施設の新築について同意がなされるべきであると主張したが,乙町長は見解を改めず,本件不同意決定を維持している。
 Aは,既に建築確認を受けているものの,乙町長の同意を得ないまま工事を開始した場合には,本件条例に基づいて不利益な措置を受けるのではないかという不安を有している。そこで,Aは,本件施設の新築に対する乙町長の同意を得るための訴訟の提起について,弁護士であるCに相談することにした。同年7月上旬に,当該訴訟の提起の可能性についてAから相談を受けたCの立場で,以下の設問に解答しなさい。
 なお,本件条例の抜粋は資料として掲げてあるので,適宜参照しなさい。

〔設問1〕

 本件不同意決定は,抗告訴訟の対象たる処分(以下「処分」という。)に当たるか。Aが乙町長の同意を得ないで工事を開始した場合に本件条例に基づいて受けるおそれがある措置及びその法的性格を踏まえて,解答しなさい。

〔設問2〕

 本件不同意決定が処分に当たるという立場を採った場合,Aは,乙町長の同意を得るために,誰を被告としてどのような訴訟を提起すべきか。本件不同意決定が違法であることを前提にして,提起すべき訴訟とその訴訟要件について,事案に即して説明しなさい。なお,仮の救済については検討しなくてよい。

 

【資料】乙町モーテル類似旅館規制条例(平成18年乙町条例第20号)(抜粋)

(目的)

第1条 この条例は,町の善良な風俗が損なわれないようにモーテル類似旅館の新築又は改築(以下「新築等」という。)を規制することにより,清純な生活環境を維持することを目的とする。

(定義)

第2条 この条例において「モーテル類似旅館」とは,旅館業法(昭和23年法律第138号)第2条に規定するホテル営業又は旅館営業の用に供することを目的とする施設であって,その施設の一部又は全部が車庫,駐車場又は当該施設の敷地から,屋内の帳場又はこれに類する施設を通ることなく直接客室へ通ずることができると認められる構造を有するものをいう。

(同意)

第3条 モーテル類似旅館を経営する目的をもって,モーテル類似旅館の新築等(改築によりモーテル類似旅館に該当することとなる場合を含む。以下同じ。)をしようとする者(以下「建築主」という。)は,あらかじめ町長に申請書を提出し,同意を得なければならない。

(諮問)

第4条 町長は,前条の規定により建築主から同意を求められたときは,乙町モーテル類似旅館建築審査会に諮問し,同意するか否かを決定するものとする。

(規制)

第5条 町長は,第3条の申請書に係る施設の設置場所が,次の各号のいずれかに該当する場合には同意しないものとする。

(1) 集落内又は集落の付近

(2) 児童生徒の通学路の付近

(3) 公園及び児童福祉施設の付近

(4) 官公署,教育文化施設,病院又は診療所の付近

(5) その他モーテル類似旅館の設置により,町長がその地域の清純な生活環境が害されると認める場所

(通知)

第6条 町長は,第4条の規定により,同意するか否かを決定したときは,その旨を建築主に通知するものとする。

(命令等)

第7条 町長は,次の各号のいずれかに該当する者に対し,モーテル類似旅館の新築等について中止の勧告又は命令をすることができる。

(1) 第3条の同意を得ないでモーテル類似旅館の新築等をし,又は新築等をしようとする建築主

(2) 虚偽の同意申請によりモーテル類似旅館の新築等をし,又は新築等をしようとする建築主

(公表)

第8条 町長は,前条に規定する命令に従わない建築主については,規則で定めるところにより,その旨を公表するものとする。ただし,所在の判明しない者は,この限りでない。

2 町長は,前項に規定する公表を行うときは,あらかじめ公表される建築主に対し,弁明の機会を与えなければならない。

(注)本件条例においては,資料として掲げた条文のほかに,罰則等の制裁の定めはない。

【出題趣旨】

 行政訴訟の基本的な知識,理解及びそれを事案に即して運用する基本的な能力を試すことを目的として,旅館の建設につき条例に基づく町長の不同意決定を受けた者が,訴訟を提起して争おうとする場合の行政事件訴訟法上の問題について問うものである。不同意決定の処分性を条例の仕組みに基づいて検討した上で,処分性が認められる場合に選択すべき訴訟類型及び処分性以外の訴訟要件について,事案に即して説明することが求められる。

解き易い問題

選択科目廃止以降、旧司法試験では、行政法は試験科目ではなかった。
そのため、旧試験組の多くは、ゼロから勉強することになる。
ローで勉強しているはずの新試験ですら、行政法の出来は他科目より悪い。
だとすると、予備試験で難しい問題を出しても、まず解けない。
そういうことは、考査委員もある程度わかっているはずだ。
そのため、当初から、行政法は基本的な問題が出るだろうと予測されていた。
本問は、その予測どおり、基本的な、解き易い問題である。

何を書けばよいかは明らか

設問1では、解答の対象と、その際の留意点を明示してくれている。
処分性を書け。
その際は、後続の措置とその法的性格に留意せよ。
ならば、そのとおりに構成して書けばよい。
何を書いていいかわからなかったという人は、いなかったはずである。

新司法試験では、資料における登場人物のやり取りの中に、ヒントを挿入することが多い。
そのやり取りに明示されたとおりの構成をすれば、ほぼ合格答案の構成になる。
本問は、より露骨に、設問自体にその指示を入れてきた。
予備試験では新試験ほど試験時間がない
そのため、長文の資料は不適当だと判断されたのだろう。

技巧的ではない仕組み解釈

設問1を読んだ人の多くは、「これは仕組み解釈だな」と思っただろう。
出題趣旨も、「条例の仕組みに基づいて」となっている。
ただ、近時の判例(最判平17・10・25最大判平20・9・10)のようなアクロバティックなものとは異なる。
これらで問題になった措置は、明らかに行政指導や行政計画の性質を有する。
これらは、従来の理解からは、処分性を認め難い。

他方で、本問の場合はどうか。
本件条例3条は、モーテル類似旅館の新築等につき、町長の同意を要件としている。
すなわち、同意を得なければ、適法に新築等はできない。
言い換えれば、新築等は原則的に禁止されるが、同意があれば禁止が解除される。
このような、原則的禁止の解除は、講学上の許可である。
だとすれば、上記の性質を有する同意・不同意は、処分に当たる。

※講学上の許可に係る判断は、覊束裁量であると解されている。
通常、講学上の許可は、消極目的規制(警察許可)だからである。
(憲法論に流用される以前の、本来の意味での目的二分論である。)
同意・不同意の判断の違法性を考慮するに当たり、上記性質論がリンクする。
本問では、本案の違法性については問われていない。
しかし今後は、そのような問題も出題され得る。
一応、理解しておきたい。

このことは、後続の措置からも明らかである。
同意のない新築等を中止せよと命令できるのはなぜか。
それは、新築等が違法だからである。
また、ここでの公表が、制裁的なものであることは明らかだろう。
すなわち、中止命令の実効性を図る趣旨である。
そのような新築等の違法を基礎付けるのは、町長の同意・不同意の決定である。
従って、上記各措置は、同意・不同意の処分性を前提にした規定である。

なお、中止勧告違反だけでは、公表はできない(本件条例8条1項)。
これは、勧告が行政指導だからである(行手法2条6号、32条2項参照)。
行政指導に処分性がないということは、そのような意味でもある。

※厳密には、同意なき建築がそれ自体直ちに公表の対象となりうべき違法性があるとの理解の下に、その前段階として勧告をするとの位置づけであれば、勧告違反→公表という流れも考えられる。
この場合は、同意がないことが公表の根拠であり、勧告違反を直接の根拠とするわけではないからである。
本件条例の構造上は、同意がないというだけで直ちに公表の対象になるとはされていない。
中止命令違反があって、初めてその対象となる。
従って、公表は、中止命令の実効性確保の手段として規定されていると理解できる。

このように、本問の同意は、それ自体として、従来型の処分と解し得るものである。
その解釈に当たって、その後の手続を参照しているに過ぎない。
この点が、前記の判例で言われている仕組み解釈とは、異なっている。
(例えば、最判平17・10・25の事案では、病床数削減勧告違反を直接の理由として、病院開設の不許可等の不利益処分がされるわけではない。
本問の公表までの各措置は、同意を得ないことが直接の理由である。)

なお、Aは建築確認を得ているので、適法に工事を行いうるのでは。
そう思った人もいたかもしれない。
しかし、建築基準法上の要件を充たしていても、本件条例の要件を充たしていない。
だとすれば、本件条例に違反するから、適法に工事を行うことはできない。
建築確認とは別個に本件条例の要件があるから、そういうことになる。
(逆に、本件条例が同意を建築の要件としていないのに、同意がないと建築確認が事実上得られなくなる、という場合には、本来の意味での仕組み解釈が必要になる。)

実際の評価としては、法的効果との関係を意識して論じられているか。
それが、重要なポイントだったようだ。
不同意に法的効果はないが、公表後に争っても手遅れだから処分性がある。
または、不同意に法的効果はないが、公表が処分性を有するから不同意も処分である。
中には、単に条例を羅列して、「以上からすれば不同意に処分性がある」とするものもあった。
そのような理由付けは、評価を落としている。
不同意によって、最終的に公表を受けうる法的地位が発生する。
または、同意がなければ適法に建築する法的地位を取得できない。
上位の答案は、概ねそういった書き方をしていた。
これは、法的三段論法からいって、当然である。
処分の要件として、法的効果の発生を要求する。
それなのに、不同意に法的効果の発生がないが処分であるとする。
これは、論理矛盾だ。
また、仕組み解釈によって、一定の場合には、法的効果の発生は要件でないとする書き方。
これは、論理矛盾ではない。
しかし、仕組み解釈は、法の仕組みに着目して一定の法的効果を見出す考え方である。
法的効果の発生を全く不要とする考え方ではない。
しかも、本問の同意は、むしろ文言上法的効果を否定しにくいものである。
そのため、やはり評価を落としているという印象だ。
他方で、法的効果の中身やその理由付け。
これは、比較的ラフでも、評価されている。
前記のような、通常の仕組み解釈との違い。
これを全く意識していなくても、上位になっている。

モーテル類似旅館の新築等を条例で規制した事案については、下級審裁判例がある。
福岡高判昭58・3・7と、名古屋地判平17・5・26である。
いずれも、特に迷うことなく、当然に処分性があるものとしている。

福岡高判昭58・3・7で問題になったのは、以下の条例である。

(飯盛町旅館建築の規制に関する条例)

(目的)

第一条 この条例は、飯盛町地域内における旅館業を目的とした建築の規制を行うことにより、住民の善良な風俗を保持し、健全なる環境の向上を図り、もつて公共の福祉を増進することを目的とする。

(同意)

第二条 旅館業(旅館業法(昭和二三年法律第一三八号)第二条第二項、第三項及び第四項に規定するものをいう。以下同じ。)を目的とする建築物を建築しようとする者(以下「建築主」という。)は、当該建築及び営業に関する所轄官庁に認可の申請を行う以前(許認可を必要としない行為については、行為の着手前)に町長の同意を得なければならない。

(同意の基準)

第三条 町長は、建築主から前条に規定する同意を求められたときは、その位置が次の各号の一に該当する場合は同意しないものとする。ただし、善良な風俗をそこなうことなく、かつ、生活環境保全上支障がないと認められる場合は、この限りでない。

(1) 住宅地

(2) 官公署、病院及びこれに類する建物の附近

(3) 教育、文化施設の附近

(4) 児童福祉施設の附近

(5) 公園、緑地の附近

(6) その他町長が不適当と認めた場所

(旅館建築審査会)

第四条 町長は、建築主から第二条に規定する同意を認められたときは、旅館建築審査会(以下「審査会」という。)に諮り、決定するものとする。

第五条 審査会は、委員五人以内で組織し、委員は町長が委嘱又は任命する。

2 町長が特に必要と認めるときは、臨時委員若干人をおくことができる。

(委任)

第六条 この条例の施行について必要な事項は、町長が別に定める。

本問の条例と違うのは、モーテル類似旅館の定義規定がなく、無限定なこと。
それから、中止や公表の規定がないことである。
上記条例2条の不同意は、処分として取消訴訟の対象となることが前提とされている。

福岡高判昭58・3・7より引用、下線は筆者)

 被控訴人が昭和五三年一一月九日控訴人に対し本件条例二条に基づき旅館建築の同意処分を求めたところ、控訴人が、同月一七日本件不同意処分をし、昭和五四年一月二九日これが被控訴人に通知されたことは当事者間に争いがない。

 (中略)

 以上の検討の結果によれば、控訴人が本件不同意処分をするにあたつて、その根拠とした本件条例三条の各号は、その規制が比例原則に反し、旅館業法の趣旨に背馳するものとして同法に違反するといわざるを得ない。
 してみれば、本件においては、その余の争点につき判断するまでもなく、本件不同意処分は違法であつて取消を免れない

(引用終わり)

上記福岡高裁は、中止・公表等の後続措置がなくても、当然に処分であると理解している。

名古屋地判平17・5・26で問題になったのは、以下の条例である。

(東郷町ホテル等建築の適正化に関する条例)

(目的)

第一条 この条例は、ホテル等の建築の適正化に関し必要な事項を定めることにより、町民の快適で良好な生活環境を保持し、併せて青少年の健全な育成を図ることを目的とする。

(定義)

第二条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。

一 ホテル等 旅館業法(昭和二十三年法律第百三十八号)第二条第二項に規定するホテル営業又は同条第三項に規定する旅館営業の用に供することを目的とする施設をいう。

二 建築 建集基準法(昭和二十五年法律第二百一号)第二条第十三号に規定する建築、同条第十四号に規定する大規模の修繕、同条第十五号に規定する大規模の模様替又は同法第八十七条第一項に規定する用途の変更をいう。

(建築主の責務)

第三条 ホテル等を建築し、又は建築しようとする者(以下「建築主」という。)は、ホテル等の構造、設備及び形態等が、この条例の目的を阻害するものとならないようにしなければならない。

(構造等の基準)

第四条 ホテル等は、次に掲げる基準に適合したものでなければならない。

一 客その他の関係者(以下「客等」という。)が、営業時間中必ず通過し、自由に出入りすることができ、かつ、外部から玄関の内部を見通すことのできる玄関を有すること。

二 玄関に接近し、客等が自由に利用することのできるロビー又は応接室若しくは談話室(以下「ロビー等」という。)を有すること。

三 ロビー等と一体で、開放的に客等と応接できるフロント又は帳場を有すること。

四 食堂、レストラン又は喫茶室(以下「食堂等」という。)及びこれらに付随する調理室、配膳室等を有すること。

五 会議、宴会又はその他催物の用に供することのできる施設(以下「会議室等」という。)を有すること。

六 ロビー等又は食堂等の共用部分付近に便所及び洗面所を有すること。

七 客室が、玄関、ロビー等の共用部分を通り、客室に入る構造になっていること。

八 総客室に対する定員別の客室の構成が、別に規則で定める割合を有すること。ただし、規則で定めるホテル等については、この限りでない。

九 建築物、広告物及び広告物を提出する物件の形態、意匠及び色彩は、付近の住環境を損なわないもので、かつ、都市景観上の配慮がなされていること。

2 前項第二号から第五号までに掲げる構造等については、業種及び収容人員に相応した規模及び態様のものとしなければならない。

(同意)

第五条 建築主は、あらかじめ町長に申請し、その同意を得なければならない。

2 町長は、前項の申請があったときは、速やかに第十二条に規定する東郷町ホテル等建築審議会の意見を聴かなければならない。

(同意の制限)

第六条 町長は、前条第一項に規定する申請にかかるホテル等が第四条に規定する構造等の基準に適合していないと認めるときは、当該ホテル等の建築について同意することができない。

(地位の継承)

第七条 第五条第一項の規定による同意を得た当該ホテル等の建築工事が完了するまでの間に、建築主の相続その他の一般承継を受けた者又は同項の同意に係る当該ホテル等を譲り受けた者は、被継承人又は譲渡人が有していた同項の同意に基づく地位を承継する。

2 前項の規定により地位を承継した者は、速やかにその旨を町長に届出なければならない。

(指導等)

第八条 町長は、第五条第一項の規定による申請をしようとする建築主に対して、当該申請に係る建築について必要な指導又は助言を行うことができる。

(計画の公開)

第九条 建築主は、規則で定めるところにより、当該建築物の敷地内の公衆の見やすい場所に、当該建築の計画の概要を表示しなければならない。

2 建築主は、当該建築の計画について、当該敷地付近の住民等から説明会の開催の要求があったときは、これに応じなければならない。

(中止命令等)

第十条 町長は、次の各号のいずれかに該当する者に対し、当該ホテル等の建築について中止その他必要な措置をを命ずることができる。

一 第5条第1項の規定に違反して、ホテル等の建築をし、又は建築をしようとする者
二 虚偽の申請によりホテル等を建築し、又は建築しようとする者
三 申請と異なるホテル等の建築をし、又は建築をしようとする者
四 前各号に規定する者の相続人その他の一般承継人及び前各号に規定する者から当該各号に係るホテル等を譲り受けた者

2 町長は、前項の規定による命令を受けた者がその命令に従わないときは、その旨を公表することができる。

(立入検査)

第十一条 町長は、必要があると認めるときは、建築主に報告を求め、又は職員にホテル等の建築物、その敷地若しくは建築現場に立ち入らせ、必要な調査を行わせることができる。

2 前項の規定により立入調査をする職員は、その身分を示す証明書を携帯し、関係者の請求があったときは、これを提示しなければならない。

(東郷町ホテル等建築審議会)

第十二条 第五条第二項に規定するもののほか、この条例の施行に関する事項を審議するため、東郷町ホテル等建築審議会(以下「審議会」という。)を置く。

2 審議会は、委員八人以内で組織する。

3 委員は、次の各号に掲げる者のうちから町長が任命する。

一 学識経験者
二 関係行政機関の職員
三 その他町長が適当と認める者

4 委員の任期は、二年とする。ただし、再任は妨げない。

5 委員が欠けた場合における補欠の委員の任期は、前任者の残任期間とする。

6 審議会は、必要があると認めるときは、関係者の出席を求め、説明又は意見を聴くことができる。

7 第二項から前項までに定めるもののほか、審議会の組織及び運営に関し必要な事項は規則で定める。

(罰則)

第十三条 第十条第一項の規定による町長の命令に違反した者は、六月以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。

2 第十一条の規定による立入調査を正当な理由なく拒み、妨げ、又は忌避した者は、一万円以下の罰金に処する。

(両罰規定)

第十四条 法人の代表又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業員が、その法人又は人の業務に関し、前条の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対して、同条の罰金刑を科する。

(委任)

第十五条 この条例の施行について必要な事項は、規則で定める。

本問の条例と違うのは、モーテル類似旅館の定義を置くのではなく、4条の要件を置くことで対処していることである。

名古屋地判平17・5・26より引用、下線は筆者)

 本件条例は,・・ラブホテル等の顧客ができる限り他の者との接触を避けて密室的構造の客室を利用したいとの希望を有することに着目し,そのような希望に沿わない,いわば通常のホテル等が有する構造でない限り,建築について同意しないという規制手法を採用することによって,間接的にラブホテル等の建築を抑制しようとするものである・・。

(引用終わり)

また、罰金刑を規定している(13条)点も異なる。
この裁判例は、10条の中止命令処分の無効確認(主位的請求)と取消(予備的訴訟)の訴えがされた事案である。
不同意自体は、直接争われていない。
ただ、名古屋地裁は、判断の中で、不同意の処分性を認めている。

名古屋地判平17・5・26より引用、下線は筆者)

 当裁判所は,本件条例5条,6条に基づく被告の「不同意」は,これによって,10条所定の措置を受け得る地位に立たされるという法的効果を招来するものであるから,独立した行政処分と解する。

(引用終わり)

名古屋地裁の言い回しは、後続の措置との関係を意識している。
もっとも、後続の措置は、同意を得ない建築が違法であることに、その根拠がある。
従って、上記の「10条所定の措置を受けうる地位」とは、「適法に建築しえない地位」と同義である。
だとすれば、前述のとおり、後続措置の存在自体は、結論に影響しないように思われる。

上記各裁判例では、むしろ憲法の営業の自由や法律と条例の関係が問題となっている。
福岡高判昭58・3・7は、条例が法律の範囲を超えるものとした。

福岡高判昭58・3・7より引用、下線は筆者)

 旅館業法と本件条例とを対比すると、本件条例が飯盛町内における旅館業につき住民の善良な風俗を保持するための規制を施している限り、両者の規制は併存、競合しているということができる。
 ところで、地方公共団体が当該地方の行政需要に応じてその善良な風俗を保持し、あるいは地域的生活環境を保護しようとすることは、本来的な地方自治事務に属すると考えられるので、このような地域特性に対する配慮を重視すれば、旅館業法が旅館業を規制するうえで公衆衛生の見地及び善良の風俗の保持のため定めている規定は、全国一律に施されるべき最高限度の規制を定めたもので、各地方公共団体が条例により旅館業より強度の規制をすることを排斥する趣旨までを含んでいると直ちに解することは困難である。もつとも、旅館業法が旅館業に対する規制を前記の程度に止めたのは、職業選択の自由、職業活動の自由を保障した憲法二二条の規定を考慮したものと解されるから、条例により旅館業法よりも強度の規制を行うには、それに相応する合理性、すなわち、これを行う必要性が存在し、かつ、規制手段が右必要性に比例した相当なものであることがいずれも肯定されなければならず、もし、これが肯定されない場合には、当該条例の規制は、比例の原則に反し、旅館業法の趣旨に背馳するものとして違法、無効になるというべきである。
 そこで、更にすすんで前記本件条例の規制内容を検討すると、およそ飯盛町において旅館業を目的とする建築物を建築しようとする者は、あらかじめ町長の同意を得るように要求している点、町長が同意しない場所として、旅館業法が定めた以外の場所を規定している点、同法が定めている場所についてもおおむね一〇〇メートルの区域内という基準を附近という言葉に置き替えている点において、本件条例は、いわゆるモーテル類似旅館であれ、その他の旅館であれ、その設置場所が善良な風俗を害し、生活環境保全上支障があると町長が判断すれば、町におかれる旅館建築審査会の諮問を経るとはいえ、その裁量如何により、町内全域に旅館業を目的とする建築物を建築することが不可能となる結果を招来するのであつて、その規制の対象が旅館営業であることは明らかであり、またその内容は、旅館業法に比し極めて強度のものを含んでいるということができる。そして、・・旅館業を目的とする建築物の建築について、このような極めて強度の規制を行うべき必要性や、旅館営業についてこのような規制手段をとることについての相当性を裏づけるべき資料を見出すことはできない。・・本件条例は、いわゆるモーテル類似旅館営業の規制を目的とするというのであるが、規制の対象となるモーテル類似旅館営業とは、どのような構造等を有する旅館の営業であるかも明確でなく、本件条例の各条文につき合理的な制限解釈をすることもできないし(条例三条中の「附近」を旅館業法三条三項のおおむね一〇〇メートル程度と解する余地があるにせよ、本件旅館の建築予定地が最寄りの中学校から直線距離で約七〇〇メートル、保育園からは同じく約六〇〇メートル離れていることは当事者間に争いがないのである。)、また、一般に旅館業を目的とする建築物の建築につき町長の同意を要件とすることは、職業の自由に対する強力な制限であるから、これと比較してよりゆるやかな制限である職業活動の内容及び態様に対する規制によつては、前記の規制の目的を十分に達成することができない場合でなければならないが、そのようなよりゆるやかな規制手段についても、その有無、適否が検討された形跡は窺えない
 以上の検討の結果によれば、控訴人が本件不同意処分をするにあたつて、その根拠とした本件条例三条の各号は、その規制が比例原則に反し、旅館業法の趣旨に背馳するものとして同法に違反するといわざるを得ない。

(引用終わり)

通常、上記のような問題が論文で出題されれば、受験生の多くは分けて書くだろう。
すなわち、営業の自由との関係を書き、別の項目で法律と条例を書く。
しかし、問題によっては、そのような書き方では紙幅が足りない場合がある。
そんなときに、上記の裁判例のようなまとめた書き方は、参考になる。

本問のような事例は、今後憲法の方で出題される可能性がある。
このような論点が含まれていることは、一応知っておきたい。

名古屋地判平17・5・26でも同様の点が問題となったが、法律の範囲を超えないとされた。
この裁判例では、平成8年の旅館業法改正後であったため、主として風営法との抵触が問題になっている。

名古屋地判平17・5・26より引用、下線は筆者)

 (1) 職業選択の自由について

 憲法22条1項は,「何人も,公共の福祉に反しない限り,居住,移転及び職業選択の自由を有する。」と定めているところ,職業選択の自由を保障するという中には,広く一般に,いわゆる営業の自由を保障する趣旨を包含していると解される(最高裁判所昭和47年11月22日大法廷判決・刑集26巻9号586頁同裁判所昭和50年4月30日大法廷判決・民集29巻4号572頁参照)。もっとも,狭義の職業選択の自由,すなわち自己の従事すべき職業を決定する自由は,人間が自らの意思でその能力発揮の場を選択するものとして,いかなる社会体制にあっても普遍的に保障されるべき自由権に属すると考えられるのに対し,営業活動の自由は,憲法29条の定める財産権の保障にも根拠を有する経済的自由権の性格が強いと考えられる。
 そして,職業選択の自由が公共の福祉による制約を受け得ることは,前記のとおりであるところ,憲法12条,13条の「公共の福祉」が,権利自体の内在的制約ないし人権相互間の調整原理として理解されるのに対し,憲法22条,29条のそれは,社会国家的見地から,その理念を実現するための政策的制約をも内容とすると考えられる。
 そうすると,本件で問題となっているホテル経営についても,公共の福祉の実現という観点から一定の制約を受けると解することは,憲法22条に何ら反するものとはいえない上,その制約の程度についても,必ずしも内在的制約ないし人権相互間の調整の範囲にとどまることが求められているわけではなく,社会国家的見地からする積極的,政策的なものであっても,その規制の程度が,その目的を達成するために合理的な関連性を有する範囲内である限り,許容されると解することができる。とりわけ,性的な営みを行う場所を提供することを目的とするラブホテル経営については,そのような利用客の出入り自体が周辺の生活環境,教育環境に悪影響を与え得るものと考えられる上,かかる場所における性犯罪等の発生の可能性も無視できないなど,公共の福祉の観点からする規制の必要性が高いことは否定できない。
 したがって,これらに対する規制は,それが合理的と解される範囲内である限り,憲法上の問題を生ずることはないというべきところ,後掲(6)で判示するとおり,本件条例が憲法22条,29条に違反するとはいえない。

(2) 条例制定権及びその限界について

 憲法94条は,「地方公共団体は,……法律の範囲内で条例を制定することができる。」と定めているところ,地方自治法14条1項も,「普通地方公共団体は,法令に違反しない限りにおいて第2条第2項の事務に関し,条例を制定することができる。」と規定して,その趣旨を確認している。
 ところで,地方公共団体の定める条例が,国の法令よりも厳しい規制を行う「上乗せ条例」であったり,その規制対象以外の事項について規制を行う「横出し条例」であることが許されるかについては,両者の対象事項と規定文言を対比するのみでなく,それぞれの趣旨,目的,内容及び効果を比較し,両者の間に矛盾抵触があるかどうかによって判断されるべきものであって,特定事項についてこれを規律する国の法令と条例とが併存する場合でも,後者が前者とは別の目的に基づく規律を意図するものであり,その適用によって前者の規定の意図する目的と効果を何ら阻害することがないときや,両者が同一の目的に出たものであっても,国の法令が必ずしもその規定によって全国的に一律に同一内容の規制を施す趣旨ではなく,それぞれの普通地方公共団体において,その地方の実情に応じて,別段の規制を施すことを容認する趣旨であると解されるときは,国の法令と条例との間には何ら矛盾抵触はなく,条例が国の法令に違反する問題は生じないと解される(最高裁判所昭和50年9月10日大法廷判決・刑集29巻8号489頁参照)。

(3) 風営法の趣旨,目的,規制手法について

ア 略。

イ 略。

(4) 本件条例の趣旨,目的,規制手法について

ア 本件条例は,「……ホテル等の建築の適正化に関し必要な事項を定めることにより,町民の快適で良好な生活環境を保持し,併せて青少年の健全な育成を図ることを目的とする」ものである(1条)。
 これを敷えんするに,本件条例は,ホテルや旅館等の建築全般の適正化を図るとの建前を取っているものの,後記のとおり,その内容に照らすと,その主たる目的は,東郷町における現状や将来的な展望にかんがみ,自然と調和の取れた生活環境,教育環境を維持すべく,これの妨げとなると考えられたラブホテル等のこれ以上の出現を抑制することにあり,かかる目的実現のために制定されたことが明らかである。

イ 本件条例の規制の手法は,ホテルを建築しようとする者は,あらかじめ町長の同意を得なければならないものとし(5条),町長は,4条の定める構造等の基準に適合しないと認めるときは,建築に同意できないものとすることにより(6条),建築そのものについて規制を加えるものである。
 そして,建物の構造等については,ラブホテルが,専ら性的営みを行う場所を提供するものであり,できる限り他人との接触を避けたいとの利用者の希望に沿った構造を有することにかんがみ,通常のホテルは備えているものの,ラブホテルとしての営業には支障となると考えられる設備,具体的には,外部から内部を見通すことのできる玄関(4条1項1号),玄関に近接した場所のロビー,応接室,談話室(2号。本件施行規則2条1項1号により,その床面積が定められている。),ロビーと一体化した応接用フロント,帳場(3号。本件施行規則2条1項2号により,その受付台の規模が定められている。),食堂,レストラン,喫茶室及びこれらに付随する調理室,配膳室(4号,本件施行規則2条1項3号により,その床面積が定められている。),会議室,宴会場,催物会場(5号。本件施行規則2条1項4号により,その床面積が定められている。),共用部分付近の便所,洗面所(6号),玄関,ロビー等を通って客室に入る構造(7号),本件施行規則で定める定員別の客室構成(8号。本件施行規則2条2項により,床面積15平方メートル以下のシングルルームが客室総数の3分の1以上と定められている。),住環境を損なわない建築物,広告物等の形態,意匠,色彩(9号)を要求することにより,実質的にラブホテルの建築を抑制しようというものである。

ウ 略。

(5) 本件条例と風営法との矛盾抵触について

 以上を前提として,本件条例と風営法との矛盾抵触の有無について判断する。

ア まず,風営法と本件条例の目的について検討するに,前者は,@「善良の風俗と清浄な風俗環境」の保持と,A「少年の健全な育成に障害を及ぼす行為を防止」するためのものであり,後者は,(a)「快適で良好な生活環境を保持」と,(b)「青少年の健全な育成を図る」ものであるところ,@と(a),Aと(b)は,若干の表現の違いはあれ,その趣旨においてほぼ重なるものというべきである。

イ 次に,規制の対象について検討するに,風営法は,「専ら異性を同伴する客の宿泊(休憩を含む。……)の用に供する政令で定める施設(中略)を設け,当該施設を当該宿泊に利用させる営業」(2条6項4号),すなわちラブホテル営業を対象とし,本件条例は,旅館業法2条2項,3項に定めるホテル等営業の用に供することを目的とする施設全体を対象とするが,建築不同意となるのは,このうち,4条の基準を満たさない(満たした場合,実質的にラブホテル等としての営業に支障を生ずる)ラブホテルである。
 そうすると,両者の規制対象は,「営業」と「施設」という点において異なっており,かつ風営法の規制対象となるのは,種々の形態のうち,性的な好奇心を高める設備等を有する典型的なものに限られるという違いはあるものの,いずれも実質的にラブホテルを規制対象とする点でかなり重なっていると解することができる。
 このことは,本件条例が制定されるに至った経緯や,本件条例の実質的な後継法令である新条例の趣旨,目的,内容によっても裏付けられるというべきである。

ウ さらに,規制の手法について,風営法は,公安委員会への届出によって営業することを認める一方,営業禁止区域等や禁止行為などを定め,これを遵守しない場合には,罰則や営業停止等の制裁を加えるという方法を採用しているのに対し,本件条例は,一定の基準(一般のホテルは備えるが,ラブホテルでは営業の支障となるような構造)を満たさない施設の建築に同意を与えず,これに反して建築しようとする者に対しては,公表や罰則によって強制力を担保している建築中止等の命令を発令するという方式を採用している。
 このように,風営法が,性風俗関連特殊営業の性格上,専ら事後的な規制手法を採用しているのに対し,本件条例は,施設の建築という営業前の段階における規制手法を採用している点で両者の規制手法はかなり異なっているといえる。例えば,既存の建物を利用してラブホテル営業を行おうとする者に対しては,本件条例によって何らの規制も及ぼすことはできない。もっとも,新たにラブホテル営業を開始しようとする者は,これに適した施設の建築を計画するのが通常であろうから,実質的に重なる部分もあることは否定できない。

エ ところで,広義の風俗営業なかんずく性風俗関連営業は,決して固定的なものではなく,時代の変遷によりあるいは地域的な事情によってその形態が変化し,あるいは新たな業種が出現してきたことは公知の事実である。本件で問題となっているようなラブホテル経営についても,風営法及び同法施行令は,誰が見てもラブホテルであることにつき疑いを容れない性的な好奇心を高める設備等を有するものを規制対象としているが,実際には,そのようなものを備えた形態でのラブホテル経営は必ずしも多くなく,風営法施行令が想定していない有線放送,ビデオデッキ,カラオケ等の娯楽設備を備えているものが多いといわれている。
 このような事態に対し,風営法がどのような立法態度を取っているかについては,風営法自体が,過去において,規制の対象を順次増加させてきたことなどにかんがみると,基本的には従来の規定では規制の及ばなかった新たな形態の性風俗営業が出現した場合には,これを規制の対象に取り込む必要があると考えていることが明らかである。ラブホテル経営に関していえば,上記のような性的好奇心を高める設備を有しなくとも,異性を伴う客の出入り自体によって,周辺の生活環境,教育環境に悪影響を与えることは否定できないが,現実には,法律改正は,社会における新現象の出現に遅れがちであることは,その性質上,避けられないことであって,法律改正が完了するまでの間,これについては何らの規制を加えるべきでないというのが風営法の趣旨であると解することはできない

オ 他方,普通地方公共団体は,地方自治法上,地域における事務及びその他の事務で法律又はこれに基づく政令により処理することとされるものを処理する(2条2項)が,とりわけ,市町村は,基礎的な地方公共団体として,都道府県が処理するとされているもの以外の事務を処理するとされている(同条3項)。そして,具体的な事務内容について,「地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律」(平成11年法律第87号)による改正前においては,地方自治法2条3項に例示されていたところ,その1号には,「地方公共の秩序を維持し,住民及び滞在者の安全,健康及び福祉を維持すること」が,さらに7号には,「……風俗又は清潔を汚す行為の制限その他環境の整備保全,保健衛生及び風俗のじゅん化に関する事項を処理すること」が挙げられていた。そうすると,もともと,市町村などの地方公共団体が,その地域の実情に応じ,生活環境,教育環境等に悪影響を及ぼすおそれのある風俗営業に対して適切な規制を講ずることは,本来的な公共事務(固有事務)と観念されていたと考えられる。

カ 以上を総合すると,風営法と本件条例とは,その目的及び規制対象についてはほぼ共通し,規制手法についてはかなりの程度異なる反面,重なる部分も存在しているものの,風営法は,それが規制の最大限であって,条例による上乗せ規制,横出し規制を一切許さない趣旨であるとまではいえず,かえって,地域の実情に応じた風俗営業への規制を行うことにより,良好な生活環境,教育環境の維持,発展を図ることが地方公共団体の本来的な責務であると考えられることに照らせば,本件条例が,風営法の規制の対象外となっている前記の性的好奇心を高める設備等を有しないラブホテル等をも規制の対象としているからといって,風営法の趣旨に反するとまではいえないと判断するのが相当である。

(6) 本件条例の規制と比例原則について

 この点について,原告は,条例によって風営法が定める構造基準よりも強度の規制を行うためには,それが必要最小限度の規制であることを要するところ,本件条例はかかる比例原則に違反する旨主張する
 しかしながら,憲法上,営業の自由が保障されているとはいえ,あくまでも公共の福祉に適合する必要があるところ,証拠及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められる。

ア 東郷町は,名古屋市の東方向やや南寄りに位置し,西側において同市緑区に,北側において日進市に,東側において愛知郡三好町に,南側において豊明市にそれぞれ接している。そして,町内の中央部付近を国道153号線が走るほか,県道名古屋岡崎線,同瀬戸大府東海線,同豊田東郷線などが走り,また,東名高速道路三好インターチェンジからも約10分程度の距離にあって,名古屋市,豊田市などの都市部へのアクセスは良好である。
 なお,人口は,漸増しつつあり,4万人に近づいている。

イ 東郷町は,全体的に起伏の多い緑の丘陵地帯から成り,その北東端には,長野県王滝村の牧尾ダムを水源とする愛知池が存在し,さらにここを源として南西方向に愛知用水が流れているほか,同町の南側境界に沿って,境川が流れており,流域は緑地公園として整備されている。このように,同町は,自然環境に恵まれ,愛知池にて第49回国民体育大会夏季大会漕艇競技が開催されたのを契機に,「水と緑とボートのまち」の標語をもって全国に発信しようとしている。
 もともと,同町は,田畑や林の広がる典型的な田園地帯であったが,昨今は,名古屋市を中心とする勤労者らのベッドタウンとしての性格を強めており,市街化区域(町全体の28.6パーセント)のうち圧倒的多数が住宅関連地域に指定されており,商業関連,工業関連の地域として指定されたのは,わずかな面積にすぎない。

ウ 東郷町においては,@昭和45年ころ,A昭和46年ころ,B昭和57年ころに,それぞれワンルーム・ワンガレージ形式のモーテルが建築され(@は平成3年ころ,Aは平成10年ころに,ホテル形式に変更された。),実質的なラブホテルとして経営が行われてきたところ,平成5,6年ころ,さらに上記三好インターチェンジからの幹線道路である上伊保知立バイパス付近の諸輪地区において,ラブホテルの建設が始まり,生活環境等の悪化を憂慮する周辺住民らの反対運動にもかかわらず,営業が開始されたことから,それ以上の建築を抑止すべく,平成6年12月の町議会において,本件条例が成立した。
 なお,同町議会における審議では,議員から,遅きに失したとの意見とともに,地域指定や定義された構造などに関連して,規制が実効性を有するかとの懸念が表明されたが,町当局からは,風営法や旅館業法などに比べて構造等の基準を強化しており,実効性を有すると考えているとの答弁がなされている。

 上記認定事実によれば,東郷町は,町内全域が田園的雰囲気を残し,宅地化された地域も,生活のための居住空間がほとんどであって,都会化された地域と比較して,性的な営みの場所を提供することを目的とするラブホテルの存在による生活環境,教育環境への悪影響は相当なものがあると推認できることに照らすと,東郷町が,その全域において,良好な生活環境,教育環境を維持すべく,ラブホテル経営に用いるのに適した建物の建築を抑制することを企図して,本件条例を定めたことには相応の合理性があるといわざるを得ない。
 そして,本件条例は,前記のとおり,ラブホテル等の顧客ができる限り他の者との接触を避けて密室的構造の客室を利用したいとの希望を有することに着目し,そのような希望に沿わない,いわば通常のホテル等が有する構造でない限り,建築について同意しないという規制手法を採用することによって,間接的にラブホテル等の建築を抑制しようとするものであるが,もとより本件条例の定める構造基準を満たすホテル等を,あえてラブホテル等として使用すること,すなわち性的な営みをする場所として提供すること自体を禁ずるものでなく,また,既存の建物をラブホテル等として利用することも禁ずるものでないことを考慮すると,その規制の手法,内容が比例原則に反するとまではいえない

(7) 本件条例と旅館業法について

 旅館業法1条は,「この法律は,旅館業の業務の適正な運営を確保すること等により,旅館業の健全な発達を図るとともに,旅館業の分野における利用者の需要の高度化及び多様化に対応したサービスの提供を促進し,もつて公衆衛生及び国民生活の向上に寄与することを目的とする。」旨定め,その規制手法として,旅館業を経営しようとする者は,都道府県知事(又はこれに代わる市長,区長)の許可を受けなければならないとする(3条)ほか,安全及び衛生の水準の維持・向上,サービスの向上などについての営業者の責務(3条の4),宿泊者の衛生に必要な措置を講ずる義務(4条),宿泊をさせる義務(5条),宿泊者名簿を備え,官吏等の求めがあったときに提出する義務(6条)を定め,さらに都道府県知事に対し,報告要求・立入検査権(7条),構造設備に関する必要な措置をとるべき旨の命令権(7条の2),営業者が違反行為を行った場合に,営業許可を取り消し又は停止を命ずる権利(8条)を与え,さらに一定の行為に対して罰則を加えることにしている(10条以下)。
 ところで,平成8年法律第91号による改正前の旅館業法は,その目的に,善良な風俗が害されることがないように必要な規制を加えることを挙げていたため,風営法や本件条例と共通する部分が存在したことは否定できないが,上記改正によって,その目的は,利用者の需要に対応したサービスの提供を促進することによって公衆衛生や国民生活の向上を図るものとされ,善良な風俗の確保という観点が後退したことから,上記の共通する部分は解消されたと解するのが相当である。現に,その規制内容は,宿泊者の安全及び衛生の確保を目的とするものが中心を占め,善良,静穏な風俗環境の確保を目的とするものはほとんど存在しない(わずかに8条各号がこれに関する規定を置いているにすぎない。)。
 そうすると,旅館業法が,ラブホテル経営ないしこれに用いられる建物の建築について,同法に定める以上の規制を禁止する趣旨のものであると解することはできない

(8) 本件条例の規制内容の明確性について

 略。

(9) 小括

 よって,本件条例は,憲法22条,風営法,旅館業法のいずれの観点からも,矛盾抵触しているとまでは解されず,また,その規制内容も不明確であるとはいえないから,結局,無効なものではないと解するのが相当である。

どちらの裁判例が正しいというより、それぞれの考え方を理解し、自分で使いこなせるようにしたい。

条文を引けるかどうか

設問2は、まず、取消訴訟と義務付け訴訟の併合提起という点に気付くか。
これが、最大のポイントである。
単に取消訴訟にしてしまった人は、当然だが、それだけで評価を落としている。
本問の場合、他にポイントになる部分が少ないので、ここを落とすと痛い。
ここに気付いてしまえば、後は条文を引いて訴訟要件を当てはめるだけである。
とはいえ、行政法の勉強が進んでいないと、意外と現場で条文を引くのは難しい。
基本書で出てきた条文は、丁寧に引く習慣をつけておきたい。

問題文、出題趣旨には、「事案に即して」とある。
訴えの対象や原告適格、被告適格等を、事案に当てはめて示す必要がある。
単に、「取消訴訟と義務付け訴訟の併合提起」、「行政庁の所属する国又は公共団体」だけでは足りない。
何を取り消し、何を義務付けるのか。
「行政庁」とは何か、「所属する国又は公共団体」に当たるのは何か。
これらを、具体的に示す必要がある。
とはいえ、それほど難しい内容ではない。
問題文上、条文の当てはめで考えさせるような部分は、ほとんどない。

本問では、具体的な日付が挙がっている。
こういう場合、時効や出訴期間などに気をつける必要がある。
本問では、出訴期間を検討することになる。
起算日は、本問では不同意決定の通知があった2月18日となる。
そして、そこから6か月後は、8月18日。
AがCに相談に来たのは、7月上旬である。
とすれば、相談に来た時点では、出訴期間は経過していない。
しかし他方で、Aが提訴した、という事実もない。
このような場合、出訴期間の経過はないから訴訟要件は充たす、とするのが通常である。
「提訴期間内にAが提訴しなかった」という事実を付け加えて解くのは、余事記載になりやすい。
ただ、本問では、他に書くことが少ない。
そこで、仮に提訴が遅れて8月18日を経過した場合、どうなるか。
それを検討する余地がある。
そう思わせるのは、問題文の下記の部分である。

(問題文より引用、下線は筆者)

 Aは,本件施設の敷地の場所は,通学路として利用されている道路から約80メートル離れているので,児童生徒の通学路の付近にあるとはいえず,本件不同意決定は違法であると考えており,乙町役場を数回にわたって訪れ,本件施設の新築について同意がなされるべきであると主張したが,乙町長は見解を改めず,本件不同意決定を維持している

(引用終わり)

上記下線部分は、必要だろうか。
特になくても解答に影響はなさそうである。

※訴えの利益の根拠としてあげる答案もあった。
しかし、役場に行って交渉することは、訴えの利益の要件ではない。
そのようなことをしなくても、訴えの利益は認められる。
従って、不適切だろう。
本問では、特に訴えの利益を疑う要素はない。
(もはや同意を得ても建築できない等の事情がない。)
従って、原告適格と別個に検討すること自体、不要と思われる。

また、設問1の処分性肯定の根拠とするものがあった。
不同意を維持しているから、公表までされる蓋然性が高いとするものである。
しかし、制度上一般に後続手続に移行するか。
そのような一般的な蓋然性を問題にすべきである。
法の仕組みを離れた、その時々の具体的な町の態度。
それによって、処分になったり、ならなかったりするものではない。
従って、そのような書き方も、減点対象になるかは別として、不適切と思われる。
(試験上は、かえって「自分の頭で考えている」として、印象が良くなる場合もあり、難しい。)

あるとすれば、このせいでAの提訴が遅れた、ということではないか。
2月に通知を受けたのに、相談に来たのが7月だったのは、上記事情があったからである。
すなわち、出訴期間経過後の「正当な理由」(行訴法14条1項ただし書)該当性である。
もっとも、一般に、行政庁が誤った出訴期間を教示した場合等に限り、上記に該当すると解されている。
だとすれば、結論的に本問の場合は、これに当たらないということになるだろう。

上記のような正当な理由の検討が成績に影響したかは、わからない。
確認できる再現答案では、書いた人は一人もいなかった。

大雑把に言うと、設問1で条例の規定と法的地位とを結びつけて書いているか。
設問2で取消・義務付けの併合提起に気付き、条文を引いて訴訟要件を書いているか。
これが、上位答案の要件だった、という印象である。

【参考答案】

第1.設問1

1.まず、抗告訴訟は公権力の行使に関する不服の訴訟であるから、その対象たる処分には公権力性が必要である。
 本件不同意決定は、乙町長が本件条例4条に基づき一方的にしたものであるから公権力性がある。

2.次に、処分は取消し又は無効等確認の対象となることから、直接的な法的効果の発生を要する。

(1)本問で、Aが乙町長の同意を得ないで工事を開始すれば、その中止の勧告のみならず命令の対象となり(本件条例7条1号)、中止命令に従わない場合には、公表の対象となる(8条1項)。この公表は、中止勧告違反に対してはなし得ないこと(行手法32条2項参照)、2項で弁明の機会が付与されている(同法13条1項2号参照)ことからしても、中止命令の実効性確保のための制裁であることが明らかである。
 そうすると、本件条例は、3条においてモーテル類似旅館の新築等を原則として禁止し、その違反には最終的に公表の制裁をもって臨むものとし、町長の同意はその原則的禁止の解除、すなわち講学上の許可の性質を有するものと位置づけていると解される。
 以上からすれば、本件条例における町長の同意・不同意の決定は、建築主のモーテル類似旅館の新築等を適法に行いうる地位に係るものといえる。

(2)よって、本件不同意決定には、直接的な法的効果の発生がある。

3.以上から、本件不同意決定は、処分に当たる。

第2.設問2

1.Aは、乙町長に対し、本件条例3条に基づき本件施設の新築の同意を求める申請をしたところ、同条例5条各号に該当しないのにこれに当たるとして本件不同意決定がされたから、これが違法であるとして、乙町を被告として(行訴法11条1項1号、38条1項)、本件不同意決定の取消訴訟及び本件施設の新築に係る同意決定をせよとの義務付け訴訟を併合提起すべきである(行訴法3条6項2号、37条の3第3項2号)。

2.Aは、同意の申請をした者であり、本件不同意決定の相手方であるから、同決定の取消訴訟及び同意決定の義務付け訴訟に係る原告適格がある(行訴法9条1項、37条の3第2項)。

3.37条の3第3項2号の義務付け訴訟については、直接の出訴期間の定めはないが、併合提起の必要な取消訴訟の出訴期間が経過した場合には、取消訴訟が不適法となる結果、併合提起の要件を欠くに至るから、義務付け訴訟も不適法となる。
 そこで、本件不同意決定の取消訴訟の出訴期間につき検討する。

(1)取消訴訟の出訴期間の起算点は、処分又は裁決があったことを知った日である(行訴法14条1項本文)。
 本問では、本件不同意決定の通知が2011年2月18日にされており、他にAが同決定があったことを知った日が同日とは異なることをうかがわせる事実はないから、Aが同決定があったことを知ったのは、同日であると認められる。
 そうすると、同日から6か月後の同年8月18日が、出訴期間の最終日ということになる。

(2)Aが弁護士Cに相談したのは、同年7月上旬である。従って、Aが訴訟を提起するのであれば、1か月程度の期間内に提訴しなければ出訴期間を経過することになる。

(3)では、仮に上記出訴期間を経過してしまった場合、Aが提訴する余地はないのか。Aは、乙町役場を数回訪れ、同意を求めて交渉していたため、提訴が遅れたという事情がある。そこで、上記事情が「正当な理由」(行訴法14条1項ただし書)に当たり、出訴期間経過後も、なお提訴できないかを検討する。
 そもそも、出訴期間が設けられた趣旨は、提訴しようと思えばできたのにこれを怠った者は、その機会を失ってもやむを得ないといえることから、そのような者の犠牲の下に法的安定性を図ることにある。従って、「正当な理由」とは、提訴しようとしても提訴できなかったこと、すなわち、提訴を障害する客観的事由があったことをいうと解される。
 本問では、Aは乙町役場を訪れて交渉していたに過ぎず、乙町の担当者において、Aの提訴を妨げる教示をした等の事情もない。そうすると、上記事情は、Aの提訴を障害する客観的事由に当たらないから、「正当な理由」があったとは認められない。

(4)以上のとおり、Aは出訴期間経過後に提訴することはできないから、Cとしては、Aが提訴を希望する場合、すみやかに準備をし、出訴期間経過前に提訴することを要する。

以上

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