平成23年司法試験予備試験論文式商法
出題趣旨検討と参考答案

【問題】

 次の文章を読んで,〔設問1〕から〔設問3〕までに答えよ。

1.Y株式会社(以下「Y社」という。)は,取締役会及び監査役を置く会社法上の公開会社でない会社であり,かつ,株券発行会社でない会社である。
 Y社は,昭和59年に設立された会社であり,その発行済株式総数は1000株で,A及びAの弟であるBがそれぞれ400株を,Aの長男C及びAの妻Dがそれぞれ100株を有していた。Y社の取締役にはA,B及びCの3人が,代表取締役にはAが,監査役にはDがそれぞれ就任している。

2.AとBは,平成16年頃から,Y社の経営方針についての考え方の違いが生じたため,互いに話をしなくなり,Bは,その頃から,Y社の取締役会に全く出席しないようになった。

3.Bは,平成23年1月頃,自らの有するY社の全ての株式を処分しようと考え,知人が経営するY社と同業のX株式会社(以下「X社」という。)に対してY社の株式の買取りを打診し,X社の承諾を得た。
 そこで,Bは,X社に対し,「譲渡等承認請求に関する一切の件をX社に委任する」という内容の委任状(以下「譲渡等承認委任状」という。)及び「株主名簿の名義書換請求に関する一切の件をX社に委任する」という内容の委任状(以下「名義書換委任状」という。)を交付した。

4.X社は,同年3月15日,Y社に対し,譲渡等承認委任状を添付して,X社がBからY社の株式400株を取得した旨及び取得についての承認を求める旨の通知をした(以下この通知による請求を「本件譲渡等承認請求」という。)。
 なお,本件譲渡等承認請求においては,Y社又は指定買取人による買取りについては,請求がされなかった。

5.Aは,同月25日,Y社の取締役会を開催した。この取締役会には,A及びCが出席したが,Aも,Cも,X社が株主となることを警戒し,取締役会は,X社の株式の取得を承認しない旨を決定する決議をした。
 なお,この取締役会の招集通知は,Bに対し,発せられなかった。

6.X社は,Y社から本件譲渡等承認請求に対する取締役会の決定の内容についての通知を受けなかったため,同年4月30日,Bに対して株式の譲渡代金を支払うとともに,Y社に対し,名義書換委任状を添付して,株主名簿の名義をBからX社に書き換えるように通知して請求した。

7.同年5月2日,Y社は,X社に対し,X社の株式の取得について取締役会で承認しない旨を決定したために名義書換請求に応ずることはできない旨を回答し,併せて,Aは,Bに対し,Bの有するY社の株式をAが買い取る旨を提案した。
 そこで,Bは,X社に対して受領した譲渡代金の返還を申し出た上でAの提案に応じようと考えたが,X社から拒絶されたため,Aの提案に応ずることができなかった。

8.Y社は,同年6月,取締役会決議に基づき,A,B,C及びDに対して定時株主総会の招集通知を発送し,A,B,C及びDが出席した定時株主総会において,この定時株主総会の終結の時に任期が満了するA,B及びCを取締役に選任する旨の取締役選任議案を決議した。
 なお,Y社は,定時株主総会に関し,定款に基準日に係る規定を置いておらず,また,基準日に係る公告もしていない。

〔設問1〕

 平成23年3月25日に開催された本件譲渡等承認請求に係るY社の取締役会の決議の効力について論ぜよ。

〔設問2〕

 Y社の定時株主総会の決議に関し,X社は,その効力を争うことができるか。

〔設問3〕

 仮に,BがAからの提案(上記7の提案)に応じてY社の株式400株をAに譲渡して代金を受領し,Y社がAの株式の取得を取締役会で承認するとともに,定時株主総会の招集通知の発送前までにA及びBの求めに応じてBからAに株主名簿の名義を書き換え,A,C及びDに対して定時株主総会の招集通知を発送していたとしたら,Y社の定時株主総会の決議に関し,X社は,その効力を争うことができるか。

【出題趣旨】

 本問は,公開会社ではなく,かつ,株券発行会社ではない取締役会設置会社において,株式の譲渡がされた場合に関し,@譲渡人である取締役に対する招集通知を欠いてされた譲渡等承認請求に係る取締役会の決議の効力,A株主名簿の名義書換えが拒絶された株式取得者の取扱いについて,問うものである。解答に際しては,取締役会の決議について特別の利害関係を有する取締役の意義,会社が譲渡等承認請求をしたとみなされる場合に関する規律の存在,株主名簿の名義書換えの不当拒絶の意義及び効果,名義書換未了の間にされた株主総会決議の効力,株式の二重譲渡において対抗要件を具備した第二譲受人との優劣等について,整合的に論述することが求められる。

多論点型問題

本問は、分類するとすれば、多論点型である。
論点を拾ったかどうかで、差が付いた。
とはいえ、評価を分ける主要な論点自体は、多くない。
出題趣旨にあるような、主要な論点に気付けたか。
そこがポイントだった。

設問1について

設問1は、取締役会の招集通知欠缺である。
出題趣旨の@の論点である。
これについては、最判昭44・12・2がある。

最判昭44・12・2より引用、下線は筆者)

 取締役会の開催にあたり、取締役の一部の者に対する招集通知を欠くことにより、その招集手続に瑕疵があるときは、特段の事情のないかぎり、右瑕疵のある招集手続に基づいて開かれた取締役会の決議は無効になると解すべきであるが、この場合においても、その取締役が出席してもなお決議の結果に影響がないと認めるべき特段の事情があるときは、右の瑕疵は決議の効力に影響がないものとして、決議は有効になると解するのが相当である(最高裁判所昭和三六年(オ)第一一四七号同三九年八月二八日第二小法廷判決、民集一八巻七号一三六六頁参照)。

(引用終わり)

これは、短答の知識である。
また、論文用の論証として用意している人も多い。
これを落とすと、下位の方に沈んでしまう。

当てはめでは、上記判例のいう特段の事情の有無を検討する。
Bが出席しても決議に影響がないといえるか。
ここで、Bが特別利害関係取締役であることを示す。
出題趣旨では、「特別の利害関係を有する取締役の意義」が挙がっている。
特別利害関係取締役の定義を示して、当てはめてもよい。
趣旨から、忠実義務との抵触を検討してもよいだろう。
書き慣れている書き方で、書いていけばよい。
コンパクトに書けるのは、後者だろう。
ただ、ここはメイン論点である。
紙幅に余裕があれば、じっくり書いてもよいところだ。
結論的には、特別利害関係があるとするのが普通である。
そうすると、Bは決議に参加できないから、決議結果に影響しない。
従って、決議は有効、ということになる。

設問1では、上記に触れていれば、上位になっている。
ただ、本問では、他にも検討すべき点がある。
それは、そもそも招集通知が必要か、という点である。
本問では、敢えて下記のような事情が付加されている。

(問題文より引用、下線は筆者)

2.AとBは,平成16年頃から,Y社の経営方針についての考え方の違いが生じたため,互いに話をしなくなり,Bは,その頃から,Y社の取締役会に全く出席しないようになった

(引用終わり)

平成16年頃から、Bはずっと出席していない。
設問の取締役会は、平成23年の話である。
だとすれば、7年間ずっと欠席が常態化していたことになる。
このような場合でも、招集通知をする必要があるのだろうか。
どうせ来ないのだから、呼ぶ必要がないのでは。
そんな問題意識が生じてくる。
前記最判昭44・12・2では、この点に関連して、以下のような判示をしている。

最判昭44・12・2より引用、※注と下線は筆者)

 取締役会を招集するにあたり、取締役全員に対してその通知を発しなければならないことは、商法二五九条ノ二(※会社法368条1項に相当)の規定に徴して明らかであり、所論のように、たんに名目的に取締役の地位にあるにすぎない者に対しては右通知を発することを要しないと解すべき合理的根拠はない

(引用終わり)

これも、短答知識である。
本問のBは、名目取締役そのものではない。
しかし、同様に考えることができそうだ。
招集通知は必要、という結論になるだろう。

また、特別利害関係取締役に対する招集通知の要否も問題となる。
前提として、決議のみならず審議にも参加できないのか、という論点がある。
これについて、審議にも参加できない。
そう考えれば、出席する意味がない。
だとすれば、招集通知も不要ではないか、という問題である。
この点については、それでも招集通知は必要と解するのが一般である。
当該取締役会で、利害関係のある事項以外の案件がある場合もある。
事前にその他の案件の予定がなくても、その場で提案、動議がされることもある。
だとすれば、特定議案に利害関係ある取締役も、出席を要する。
だから、招集通知が必要だ、ということである。

これらの論点は、細かい。
現場で気付いても、コンパクトにまとめたいところだ。
実際、ほとんどの人が、ここは書かなかったようである。
確認できる再現答案では、触れた人は一人もいない。
触れなくても、上位になっている。
従って、結果的には、この点は成績に影響していない。

それから、現場で気付くと迷ってしまうことがある。
それは、監査役Dとの関係である。
Dは、招集通知を受けつつ、欠席している。
明示的ではないが、そう読むのが自然である。

(問題文より引用、下線は筆者)

5.Aは,同月25日,Y社の取締役会を開催した。この取締役会には,A及びCが出席したが,Aも,Cも,X社が株主となることを警戒し,取締役会は,X社の株式の取得を承認しない旨を決定する決議をした。
 なお,この取締役会の招集通知は,Bに対し,発せられなかった

(引用終わり)

このことが、決議の効力に影響するだろうか。
そもそも、本問の監査役Dに、出席義務があるのか。
それは、職務範囲に業務監査が含まれるかによる。

(会社法)

381条1項 監査役は、取締役(会計参与設置会社にあっては、取締役及び会計参与)の職務の執行を監査する。・・略。

383条1項 監査役は、取締役会に出席し、必要があると認めるときは、意見を述べなければならない。・・略。

389条 公開会社でない株式会社(監査役会設置会社及び会計監査人設置会社を除く。)は、第三百八十一条第一項の規定にかかわらず、その監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨を定款で定めることができる。

2項から6項まで略。

7 第三百八十一条から第三百八十六条までの規定は、第一項の規定による定款の定めがある株式会社については、適用しない。

本問では、389条1項の定款の定めがあるとはされていない。
だから、業務監査が含まれる、となりそうである。
しかし、本問では、「昭和59年に設立された会社」とある。
そうすると、整備法の適用がある。

会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律

47条 ・・略・・旧商法の規定による株式会社であってこの法律の施行の際現に存するもの(以下「旧株式会社」という。)・・略。

53条 旧株式会社がこの法律の施行の際現に旧商法特例法第一条の二第二項に規定する小会社(以下「旧小会社」という。)である場合・・略・・における新株式会社の定款には、会社法第三百八十九条第一項の規定による定めがあるものとみなす。

 

(旧商法特例法1条の2、下線は筆者)

 この法律において「大会社」とは、次の各号のいずれかに該当する株式会社をいう。

一 資本の額が五億円以上であること。
二 最終の貸借対照表の負債の部に計上した金額の合計額が二百億円以上であること。

2 この法律において「小会社」とは資本の額が一億円以下の株式会社(前項第二号に該当するものを除く。)をいう。

3項以下略。

Y社が旧小会社に当たるか。
すなわち、資本金1億円以下かつ負債200億円未満であるか。
これによって、結論が変わってくることになる。
しかし、上記の数字は、挙がっていない。
Y社が会計監査人を置いていないので、大会社でないことはわかる。
(違法に置いていないという余地はあるが、それは無視してもよいだろう。)

(会社法328条)

 大会社(公開会社でないもの及び委員会設置会社を除く。)は、監査役会及び会計監査人を置かなければならない。

2 公開会社でない大会社は、会計監査人を置かなければならない。

すなわち、Y社は、資本金5億円未満かつ負債200億円未満である。

(会社法2条6号)

 大会社 次に掲げる要件のいずれかに該当する株式会社をいう。

イ 最終事業年度に係る貸借対照表(・・略・・。)に資本金として計上した額が五億円以上であること。

ロ 最終事業年度に係る貸借対照表の負債の部に計上した額の合計額が二百億円以上であること。

しかし、わかるのは、ここまでだ。
Y社の資本金が、1億円超5億円未満である可能性を否定できない。
仮に1億円以下であれば、Dに業務監査権はなく、出席義務がない。
1億円超であれば、Dに業務監査権があるから、出席義務がある。
後者の場合は、Dの欠席が単なる任務懈怠にとどまるのか。
それとも、取締役会決議の効力にまで影響するのか。
これが、問題になってきそうだ。
紙幅と時間が無限にあるなら、ここは場合分けをして書くことになる。

実際には、紙幅と時間に制限がある。
ここで、招集通知を受けた取締役の欠席の場合を考えてみる。
この場合、定足数を充たせば、当然決議は有効である(369条1項)。
定足数の規定は、逆に言えば一定数の欠席を予定しているといえる。
翻って監査役の場合には、定足数のような規定すらない。
だとすれば、監査役の出席は、議決の効力に全く影響がないということだろう。
そもそも監査役に議決権がないことからすれば、当然ともいえる。
そうすると、これは重要論点ではない。
これまで延々述べたことを書いてまで、触れる必要がないことは確かだ。
不用意に短く書くと、上記の定足数等の基本的理解を疑われかねない。
結論的には、これは無視すべきである。

※厳密には、Dが唯一の監査役である点を重視する考え方はあり得る。
ただ、これをコンパクトに書くのは、無理がある。
思いついても、書かない方がよい。

実際、再現等でこれに触れているものは確認できなかった。
気付きもしなかった、という人がほとんどではないか。
それは、正しい感覚である。
出題趣旨にも、全く触れられていない。
従って、結果的に全く触れる必要はなかった。
もっとも、出題者に全く問題意識がないなら、Dも出席させておけばよい。
なぜ、敢えて欠席させたのか。
DはAの妻であるなど、思わせぶりな事情もある。

原案は、監査役に対する招集通知欠缺も書かせる内容だったのかもしれない。
Aの妻だから、出席して意見を述べても決議結果に影響がない。
そういう当てはめを問う出題は、考えられる。
すなわち、当初は、Dにも招集通知がされない事案だった。
例えば、下記下線部の「Bに対し」を「B及びDに対し」にすれば、そういう事案になる。

(問題文より引用、下線は筆者)

5.Aは,同月25日,Y社の取締役会を開催した。この取締役会には,A及びCが出席したが,Aも,Cも,X社が株主となることを警戒し,取締役会は,X社の株式の取得を承認しない旨を決定する決議をした。
 なお,この取締役会の招集通知は,Bに対し,発せられなかった。

(引用終わり)

最終的には、そこは問わないことにされた。
仮に対監査役通知欠缺のみで無効になるなら、メインのBとの関係は論ずる必要がない。
そういう答案が出るのを、恐れたのかもしれない。
そこで、招集通知欠缺部分だけ部分的に修正した。
すなわち、「B及びDに対し」を、「Bに対し」に修正した。
その結果、中途半端にDに関する事情が残ってしまった。
そういうことなのかもしれない。

設問2について

設問2は、論点としては名義書換不当拒絶である。
出題趣旨のAで挙がっている論点である。
これ自体は、予備校でもAAとされる典型論点だ。
ただ、その前提として、会社法145条1号を引けたかどうか。
これに気付かないと、論点落ちになってしまい易い。
不承認の場合の譲渡の効力などを論ずることになりかねないからだ。
そうなってしまうと、不当拒絶は出てこなくなってしまう。
ここは、一つの分岐点だった。

※承認を欠く譲渡の効力として、最判昭48・6・15がある。

最判昭48・6・15より引用、下線は筆者)

 商法二〇四条一項但書は、株式の譲渡につき、定款をもつて取締役会の承認を要する旨定めることを妨げないと規定し、株式の譲渡性の制限を許しているが、その立法趣旨は、もつぱら会社にとつて好ましくない者が株主となることを防止することにあると解される。そして、右のような譲渡制限の趣旨と、一方株式の譲渡が本来自由であるべきこととに鑑みると、定款に前述のような定めがある場合に取締役会の承認をえずになされた株式の譲渡は、会社に対する関係では効力を生じないが、譲渡当事者間においては有効である

(引用終わり)

相対的無効説である。
しかし、会社法では、上記説明は不要である。
会社法では、134条が「取得した」とするとおり、譲渡自体は有効である。
ただ、会社に対しては、これを対抗する手段がない。
承認がない限り、名義書換ができないからである(134条)。
その結果、譲受人は、会社に対抗できない(130条1項)。
株券不発行会社の場合は、第三者に対しても同様である(同条2項参照)。
本問で相対的無効説を論証するのは、その意味でも不適切である。

同様に、「X社は145条1号の適用によって株主となる」とするのも不適切である。
承認は、名義書換請求の要件に過ぎないからである(134条)。

145条1号を引いて、不当拒絶を論証し、当てはめる。
これだけで、ここは上位になっているという印象だ。

ただ、他に書くべき論点がないわけではない。
本問では、明示的に委任状方式が採られている。

(問題文より引用、下線は筆者)

3.Bは,平成23年1月頃,自らの有するY社の全ての株式を処分しようと考え,知人が経営するY社と同業のX株式会社(以下「X社」という。)に対してY社の株式の買取りを打診し,X社の承諾を得た。
 そこで,Bは,X社に対し,「譲渡等承認請求に関する一切の件をX社に委任する」という内容の委任状(以下「譲渡等承認委任状」という。)及び「株主名簿の名義書換請求に関する一切の件をX社に委任する」という内容の委任状(以下「名義書換委任状」という。)を交付した

4.X社は,同年3月15日,Y社に対し,譲渡等承認委任状を添付して,X社がBからY社の株式400株を取得した旨及び取得についての承認を求める旨の通知をした(以下この通知による請求を「本件譲渡等承認請求」という。)。

 (中略)

6.X社は,Y社から本件譲渡等承認請求に対する取締役会の決定の内容についての通知を受けなかったため,同年4月30日,Bに対して株式の譲渡代金を支払うとともに,Y社に対し,名義書換委任状を添付して,株主名簿の名義をBからX社に書き換えるように通知して請求した

(引用終わり)

譲受人からの譲渡承認請求及び名義書換請求は、株券不発行会社では、共同申請によってする。

(会社法、下線は筆者)

137条 譲渡制限株式を取得した株式取得者は、株式会社に対し、当該譲渡制限株式を取得したことについて承認をするか否かの決定をすることを請求することができる。

2 前項の規定による請求は、利害関係人の利益を害するおそれがないものとして法務省令で定める場合を除き、その取得した株式の株主として株主名簿に記載され、若しくは記録された者又はその相続人その他の一般承継人と共同してしなければならない

 

133条 株式を当該株式を発行した株式会社以外の者から取得した者(当該株式会社を除く。以下この節において「株式取得者」という。)は、当該株式会社に対し、当該株式に係る株主名簿記載事項を株主名簿に記載し、又は記録することを請求することができる。

2 前項の規定による請求は、利害関係人の利益を害するおそれがないものとして法務省令で定める場合を除き、その取得した株式の株主として株主名簿に記載され、若しくは記録された者又はその相続人その他の一般承継人と共同してしなければならない

 

※なお、株券発行会社では、株券提示で足りる。

会社法施行規則、下線は筆者)

24条2項 前項の規定にかかわらず、株式会社が株券発行会社である場合には、法第百三十七条第二項 に規定する法務省令で定める場合は、次に掲げる場合とする。
一  株式取得者が株券を提示して請求をした場合

2号以下略。

 

22条2項 前項の規定にかかわらず、株式会社が株券発行会社である場合には、法第百三十三条第二項に規定する法務省令で定める場合は、次に掲げる場合とする。

一 株式取得者が株券を提示して請求をした場合

2号以下略。

上記の委任状による請求が、共同申請といえるか。
出題者としては、これを問う趣旨なのだろう。
論点にするつもりがなければ、抽象的に「Bと共同して」等とすれば足りるからである。
(監査役Dの出欠と異なり、相当の字数を使って明示している。)
とはいえ、結論的には、肯定ということで疑いはない。
書くとしても、コンパクトにまとめるところである。

再現をみても、ここは誰も書いていない、という感じだ。
落としても上位になっている。

設問3について

設問1と設問2を順当に書いていれば、だいたい真ん中以上の成績になる。
上位と真ん中を分けたのが、設問3の処理である。
Aへの譲渡により、B→X社、B→Aの二重譲渡が生じる。
出題趣旨では、「株式の二重譲渡において対抗要件を具備した第二譲受人との優劣」という部分である。
この点に、気付いたかどうか。
ここで、差が付いている。

ここに気付いてしまえば、信義則等での修正は誰でも思いつく。
理論的には、背信的悪意者排除論と同様の構成になるだろう。

ただ注意したいのは、設問2と設問3とで、対抗要件の意味が異なる点である。
設問2は、対会社対抗要件の問題。
設問3は、第三者対抗要件の問題である。
従って、制度趣旨も、両者で異なることになる。
また、設問3で、Y社の信義則違反等を理由にしてはいけない。
X社は、Y社に対抗できないのではない。
それは、設問2の問題である。
Aに対抗できない反射として、権利を失うのか。
(不動産の二重譲渡の劣後譲受人と同じである。)
これが、設問3の問題である。
従って、第2譲受人であるAの信義則違反等を、問題にすべきである。

メイン論点をしっかり拾う

上位答案はメイン論点だけを書き、細かい論点は捨てている。
この点は、予備試験で他の科目にもみられる傾向である。
これは新試験でも同様であるが、よりその傾向は強い。
現場では、細かい論点ほど、しっかり書いて差を付けたいと思いがちだ。
そういう気持ちをぐっと抑えて、メイン論点をしっかり書く。
余裕があれば、細かい論点は数行にまとめて書く。
書き出す前に、上記も踏まえて練った構成をする必要がある。
初学者は、自然に上記を踏まえた構成になりやすい。
細かい論点は、そもそも書けないからだ。
今回、短答合格の大学生の論文合格率は、24.7%にものぼる。
平成23年司法試験予備試験口述試験(最終)結果について」参照)
その理由は、こういうところにある。
しかし、勉強が進んでしまうと、その部分が歪む。
そういう自覚のある人は、意識的に訓練する必要がある。

【参考答案】

第1.設問1

1.Bへの招集通知(会社法(以下条数のみ示す。)368条1項)の欠缺により、設問の決議は無効となるか。

2.まず、Bへの招集通知の要否を検討する。

(1)Bは平成16年頃から約7年にわたり取締役会に出席していないが、取締役全員による相互監視という取締役会制度の趣旨からすれば、なお招集通知は必要である。

(2)もっとも、Bは、本件譲渡等承認請求の譲渡人であるから、特別利害関係取締役(369条2項)に当たり、招集通知を要しないのではないか。

ア.同項の趣旨は、議決参加が忠実義務(355条)と抵触する点にある。139条1項の決議において、株式譲渡人が、会社の利益を考慮して譲渡に反対することは期待できない。だとすれば、忠実義務と抵触するから、譲渡人である取締役は、上記決議において特別利害関係を有する。
 従って、Bは特別利害関係取締役に当たり、議決に参加できない。

イ.もっとも、利害関係のない議案、報告、提案、動議等につき出席を要するから、特別利害関係取締役に対しても招集通知は必要である。

(3)以上から、Bに対する招集通知は必要である。

3.では、招集通知が必要であるのにこれを欠いた場合、取締役会決議の効力はどうなるか。

(1)取締役会制度の趣旨は取締役全員による相互監視にあるから、その機会を奪う招集通知欠缺は、原則として決議無効事由である。もっとも、当該取締役が出席しても決議結果に影響がないと認めるべき特段の事情がある場合には、無効とすべき必要に乏しく、法的安定性を重視すべきであるから、決議は有効となる。

(2)本問では、上記2(2)アのとおり、Bは議決に参加できない以上、決議結果に影響しえない。すなわち、上記特段の事情がある。

4.よって、設問の取締役会決議は有効である。

第2.設問2

1.X社は、設問の定時株主総会において自らが株主として取り扱われなかった手続の違法があるとして、株主総会決議取消しの訴え(831条1項1号)をもって争うことが考えられる。もっとも、X社は名義書換未了であるから、Y社にこれを対抗できない(130条1項)のではないか。

2.株主名簿が対会社対抗要件とされた趣旨は、多数株式の画一的処理のために会社の事務処理の便宜を図る点にある。会社が名義書換を不当に拒絶した場合には、信義則上、上記便宜を享受しうる地位にない。従って、上記場合には、名義書換未了株主も会社にその地位を対抗できる。

3.本問で、Y社が名義書換を不当に拒絶したといえるか。

(1)Y社は非公開会社(2条5号参照)であるから、名義書換をするには承認等を要する(134条)。Y社は、本件譲渡等承認請求につき取締役会で不承認としている。同業のX社との競業を考慮したもので、これ自体は不当でない。しかし、上記請求の日から2週間以内に139条2項の通知をしていない。そのため、譲渡を承認したものとみなされる(145条柱書本文)。従って、X社は、名義書換請求をなしうる。

(2)また、X社のした本件譲渡等承認請求及び名義書換請求は、Bの委任状を添付してされているが、委任状によってBの譲渡意思が表示されているから、共同申請(137条2項、133条2項)によるものといえる。

(3)Y社は取締役会不承認を拒絶の理由とする。しかし、上記(1)のとおり、本件譲渡等承認請求につき承認があったとみなされるから、名義書換拒絶には理由がない。

(4)従って、Y社が名義書換に応じなかったことは不当拒絶である。

4.以上から、X社は、Y社に対して株主の地位を対抗できる。

5.よって、X社は、設問の定時株主総会について、株主総会決議取消しの訴えをもって争うことができる。

第3.設問3

1.設問2と異なり、Bの株式はAにも二重に譲渡され、先にAが名義書換をした。これにより、対象株式は確定的にAに移転し、X社が反射的に株主の地位を失うのではないか。

2.そもそも、株券不発行会社において株主名簿が第三者対抗要件とされた趣旨は、株券所持という形式的資格が存在しないことに鑑み、株主名簿を公示として、正当な譲受人間の権利を調整する点にある。従って、130条1項の「第三者」とは、名義書換未了を主張しうべき正当な利益を有する者に限られる。

3.本問で、Aは、Y社の代表取締役であり、Y社を代表して不当拒絶(前記第2の3)を行ったと評価できる。その後に、AはBから株式を譲り受けたから、不動産登記法5条2項の登記申請義務者と同様の地位にあり、名義書換未了を主張しうべき正当な利益を有しない。
 よって、AはX社に対して名義書換未了を主張し得ない結果、X社がY社の株主となるから、設問2同様、X社は、設問の定時株主総会について、株主総会決議取消しの訴えをもって争うことができる。

以上

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