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最高裁判所第二小法廷判決平成23年10月14日

【事案】

1.被上告人が,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(平成17年法律第102号による改正前のもの。以下「情報公開法」という。)に基づき,経済産業大臣から権限の委任を受けた中部経済産業局長に対し,エネルギーの使用の合理化に関する法律(以下,後記の改正の前後を通じて「省エネルギー法」という。)の規定により各事業者が各工場における燃料等及び電気の使用の状況等に関する事項を記載して同局長に提出した平成15年度の各報告書の一部の開示を請求したところ,一部の工場に係る上記各報告書のうち燃料等及び電気の使用量等に係る第1審判決別紙1「不開示とした部分」欄記載の部分(以下「本件記載部分」という。)に記載された情報(以下「本件数値情報」という。)が情報公開法5条2号イ所定の不開示情報に当たるとして,本件記載部分等を不開示とし,その余を開示する旨の決定(以下「本件決定」という。)を受けたため,本件決定のうち本件記載部分を不開示とした部分(以下「本件不開示決定部分」という。)の取消し及び本件記載部分の開示決定の義務付けを求める事案。なお,上記の「工場」とは,工場又は事業場をいい,上記の「燃料等」とは,燃料及びこれを熱源とする熱をいう(以下同じ。)。

2(1) 平成17年法律第93号による改正(以下「平成17年改正」という。)前の省エネルギー法によれば,燃料等又は電気の年度の使用量が政令で定める数値以上である工場であってそれらの使用の合理化を特に推進する必要があるものとして指定された工場(以下,これらの工場のうち,燃料等に係る指定を受けたものを「第一種熱管理指定工場」,電気に係る指定を受けたものを「第一種電気管理指定工場」という。)を設置している者(以下「第一種特定事業者」という。)は,毎年,第一種熱管理指定工場にあっては燃料等の,第一種電気管理指定工場にあっては電気の,それぞれ使用量その他使用の状況等に関し,経済産業省令で定める事項を主務大臣に報告しなければならず(平成17年改正前の11条。以下,この報告に係る文書を「定期報告書」という。),この義務に違反した場合には罰金に処せられることとされている(同改正前の29条3号)。
 エネルギーの使用の合理化に関する法律施行規則(平成18年経済産業省令第19号による改正前のもの)によれば,第一種熱管理指定工場に関する定期報告書の第1表には,燃料等の種類(原油,灯油,軽油,A重油,液化石油ガス,液化天然ガス,原料炭,一般炭,石炭コークス,コールタール等,その他の燃料等)ごとに,当該工場における使用量及びこれを熱量に換算した値を「使用量」の「年度」欄及び「熱量GJ」欄に,この「熱量GJ」欄の値を合計した値を「合計GJ」欄に,この値を原油に換算した値を「原油換算kl」欄に,この値の対前年度比を「対前年度比(%)」欄にそれぞれ記載し,販売副生燃料等(販売された及び自らの生産に寄与しない燃料等)についても同様に記載することとされ(10条1項,11条1項1号,様式第4第1表),第一種電気管理指定工場に関する定期報告書の第1表には,当該工場における電気の使用量について,「昼間買電」,「夜間買電」,「上記以外の電気」及びそれらの合計の各値並びにそれぞれの対前年度比を記載することとされている(10条2項,11条1項2号,様式第5第1表)。

(2) 平成17年法律第61号による改正後の地球温暖化対策の推進に関する法律(以下「温暖化対策推進法」という。),地球温暖化対策の推進に関する法律施行令(以下「温暖化対策推進法施行令」という。)及び温室効果ガス算定排出量等の報告等に関する命令(以下「報告省令」という。)には,上記(1)の報告事項に関連する事項に関する報告並びにその公表及び開示について,次のとおりの定めがある。

ア.事業活動に伴い相当程度多い温室効果ガスの排出をする者として政令で定める者(以下「特定排出者」という。)は,政令で定める規模以上の事業所(以下「特定事業所」という。)を設置している場合,毎年度,報告省令で定めるところにより,当該特定事業所ごとのエネルギーの使用に伴って発生する二酸化炭素(以下「エネルギー起源二酸化炭素」という。),それ以外の二酸化炭素,メタンなど温室効果ガスである物質の区分に応じた温室効果ガス算定排出量(以下「事業所単位各物質排出量」という。)等に関し,報告省令で定める事項を当該事業を所管する大臣(以下「事業所管大臣」という。)に報告しなければならないこととされている(温暖化対策推進法21条の2第1項,3項,報告省令4条3項等)。そして,エネルギー起源二酸化炭素の温室効果ガス算定排出量は,燃料,電気又は熱の使用量(燃料又は熱にあっては,その種類ごとの使用量)にそれぞれ一定の係数を乗ずる方法により算定される排出量を合算して算定すべきものとされている(温暖化対策推進法21条の2第3項,温暖化対策推進法施行令6条1項1号)。なお,上記の「エネルギー」とは,省エネルギー法2条1項に規定するエネルギー(燃料並びに熱及び電気)をいう(温暖化対策推進法21条の10)。

イ.また,事業所管大臣は,上記アの報告を受けた事項について,報告省令で定めるところにより,事業者及び業種ごと又は都道府県ごとに温室効果ガス算定排出量等を集計した結果とともに環境大臣及び経済産業大臣に通知し(温暖化対策推進法21条の4第1項,3項,4項,報告省令8条),環境大臣及び経済産業大臣は,事業所管大臣から上記通知を受けた事項について電子計算機に備えられたファイルに記録するとともに,当該事項のうち上記の集計結果を環境省令・経済産業省令で定めるところにより更に集計してその結果を公表するものとされ(同法21条の5第1項,3項,4項),主務大臣は,上記ファイルに記録された事項について開示請求があったときは速やかにこれを開示しなければならないとされている(同法21条の6,21条の7)。
 他方,特定事業所を設置している特定排出者からの請求があった場合において,当該特定事業所に係る事業所単位各物質排出量の情報が公にされることにより当該特定排出者の権利,競争上の地位その他正当な利益が害されるおそれがあると事業所管大臣が認めるときは,事業所単位各物質排出量に代えて,当該特定事業所ごとの全ての温室効果ガスである物質の温室効果ガス算定排出量を合計した量(当該量によることが困難であると認められる特別な事情がある場合においては,当該特定排出者に係る温室効果ガス算定排出量を物質ごとに合計した量等)をもって環境大臣及び経済産業大臣に対する通知をすることとされており(温暖化対策推進法21条の3第1項,3項,報告省令7条1項2号,5項等),これが上記公表及び開示の対象となる。

(3) 省エネルギー法と温暖化対策推進法との関係については,平成17年改正により,省エネルギー法においても,同改正後の15条1項に基づく報告書(同改正前の11条に基づく定期報告書に相当するもの)の報告事項にエネルギー起源二酸化炭素の排出量に係る事項が含まれることとなり,特定排出者から上記報告書による報告があったときは,当該報告のうち上記排出量に係る事項に関する部分は,温暖化対策推進法に基づくその排出量についての報告とみなすものとされている(同法21条の10)。また,省エネルギー法における工場単位のエネルギーの使用量等についての報告が義務付けられる者は,温暖化対策推進法における事業所単位のエネルギー起源二酸化炭素の排出量についての報告が義務付けられる者に含まれるものとされている(温暖化対策推進法施行令5条の2第1号,エネルギーの使用の合理化に関する法律施行令2条の2,6条,エネルギーの使用の合理化に関する法律施行規則17条,様式第9)。

3.事実関係等の概要

(1) 本件数値情報は,鉄鋼等を製造するA株式会社のa 製鉄所,苛性ソーダ等を製造するB株式会社のb 事業所,石油化学製品等を製造するC株式会社のc 事業所d 工場及び同事業所e 工場の各定期報告書の第1表に記載された前記2(1)の数値に関する情報の全部又は一部である(以下,これらの事業者を総称して「本件各事業者」といい,これらの工場を総称して「本件各工場」という。)。本件各事業者は,第一種特定事業者に当たり,本件各工場は,第一種熱管理指定工場及び第一種電気管理指定工場のいずれにも当たる。

(2) 被上告人は,平成16年8月9日,中部経済産業局長に対し,情報公開法に基づき,本件各事業者を含む多数の事業者に係る平成15年度の定期報告書(燃料等,電気ともに第2表以下を除く。)の開示を請求した。
 中部経済産業局長は,上記開示請求につき,定期報告書1055通を特定してこれらを提出した各事業者に意見書の提出を求めた上,意見書において開示に反対しなかった事業者及び意見書を提出しなかった事業者に係る定期報告書884通について,その第1表等を開示する旨の決定をしたが,本件各事業者を始めとする開示に反対する事業者に係るその余の171通については,平成16年12月8日付けで,当該各定期報告書の第1表に記載された情報の全部又は一部が情報公開法5条2号イ所定の不開示情報に当たるとして,これらを不開示とする旨の決定をした。本件決定及び本件数値情報は,このうちの8通に係るものである。

(3) 事業者が1年間に製品の製造に要した燃料等や電気の費用(以下「エネルギーコスト」という。)等については,定期報告書の第1表に記載される前記2(1)の数値に関する情報を基に次のような各種の手法を用いることにより推計することができる。
 エネルギーコストのうち,まず,工場全体のエネルギーコストについては,上記情報に公表資料等から推測される燃料等や電気の単価を乗ずる方法により推計することができる。また,製品当たりのエネルギーコストについては,工場においては複数の製品を製造しているのが通例であるから,各工場における主力製品等を代表製品として設定し,代表製品当たりのエネルギーコストを推計した上で,当該製品と当該代表製品とを対比した上で推計することができる。
 そして,製造原価については,エネルギーコスト,エネルギーコスト以外の原材料費,労務費及びその他の経費(機械設備等の減価償却費等)の合計であると整理することができ,エネルギーコスト以外の費用は,公表資料等から推計した数値を各工場に割り付け,更に各製品に割り付けるなどの方法により推計することができる。

(4) なお,定期報告書に関しては,省エネルギー法の一部改正を内容とする平成10年法律第96号に係る国会審議において,年間のエネルギー使用量,生産数量,具体的な設備の導入,投資の計画等の事項は,通常,企業の経営上の秘密に属するから一般に公開することはなじまず,仮にこれらの情報を公開することとすれば企業から国が入手できる情報が限定されかねない旨の資源エネルギー庁・新エネルギー部長の答弁がされている。

(5) 上告人は,本件数値情報が,情報公開法5条2号イ所定の不開示情報に当たるとする理由として,要旨,次のとおり主張している。

ア.本件数値情報は,企業秘密の性質を有し,次のイないしエのとおり,本件数値情報から一定の有意な情報を引き出すことが可能であり,本件数値情報が開示された場合,本件各事業者は開示されない場合と比べてより不利な立場に置かれる蓋然性がある。

イ.本件数値情報が開示された場合,エネルギーコストや製造原価を推計することが可能となるし,さらに,前年度以前の数値と比較することにより,本件各工場における省エネルギーの技術水準,取組内容及び進展状況を推測することも可能となる。本件各事業者と現在及び将来において競業関係に立つ者(以下「競業者」という。)が本件数値情報を入手した場合,上記の各点を踏まえ,製品の価格戦略,設備投資計画等において有利な情報を得ることができ,その反面,本件各事業者の利益が害されるおそれがある。

ウ.本件各事業者から本件各工場の製造する製品を購入している者(以下「需要者」という。)が本件数値情報を入手した場合,エネルギーコストや製造原価を推計することにより,価格交渉等においてこれらを根拠に値下げ等を要求し,その反面,本件各事業者は不利な立場に立つおそれがある。

エ.本件各事業者に本件各工場の使用する燃料等を供給している者(以下「供給者」という。)が本件数値情報を入手した場合,自らが本件各工場に供給している燃料等の量との比較をすることにより当該工場への自らの納入比率を高い精度で知り得るため,価格交渉等を行うに当たり有利な立場に立つことになり,その反面,本件各事業者は不利な立場に立つおそれがある。

4.原審は,上記事実関係等の下において,次のとおり判断して,本件決定のうち本件不開示決定部分の取消し及び本件記載部分の開示決定の義務付けを求める被上告人の請求をいずれも認容すべきものとした。

(1) 本件数値情報による工場全体や製品当たりのエネルギーコストの推計は,推計の過程を重ねるためその精度が粗くなるし,製造原価の推計も,製造業におけるエネルギーコストの製造原価に占める割合がそれほど大きいものではないことなどに照らせば,本件数値情報によってその推計が精密になる度合いはわずかなものにとどまると評価するのが相当である。
 そうすると,競業者が本件数値情報を入手した場合でも,より低価格の製品の販売を展開するなどの競争上の不利益が本件各事業者に生ずる可能性は少ないし,エネルギー効率化技術に関する水準や進展状況を推知して技術革新や投資状況等を推し量ることができるとしても,本件各事業者に不利益が生ずる可能性は相当小さい。また,需要者が本件数値情報を入手した場合でも価格交渉の際の値下げの要求などの不利益が本件各事業者に生ずる可能性は少ない。
 そして,供給者が本件数値情報を入手した場合でも,本件各工場における燃料等の種類別の年間使用量を知ることはできるが,現実に燃料等の調達に支障が生ずるかどうかは,本件各工場で用いている燃料等の種別及び量,従来の調達に関する経緯その他の諸要因によって左右されるものと解されるから,一般的に燃料等の調達に関する不利益が本件各事業者に生ずる蓋然性があるとはいえない。

(2) 上記(1)によれば,本件数値情報が開示されることにより本件各事業者に不利益が生ずる可能性は,本件各事業者の個別の事情を踏まえ検討しても,さほど大きいものではなく,抽象的な危惧感の域を出るものではない。したがって,本件数値情報は,情報公開法5条2号イ所定の不開示情報に当たるとはいえない。

【判旨】

1.原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

(1) 前記事実関係等によれば,本件数値情報は,本件各工場において特定の年度に使用された各種エネルギーの種別及び使用量並びに前年度比等の各数値を示す情報であり,本件各事業者の内部において管理される情報としての性質を有するものであって,製造業者としての事業活動に係る技術上又は営業上の事項等と密接に関係するものということができる。
 そして,事案2(2)及び(3)のとおり,平成17年法律第61号による温暖化対策推進法の改正によって定められた温室効果ガス算定排出量の公表及び開示に係る制度においては,事業所単位のエネルギー起源二酸化炭素の温室効果ガス算定排出量を算定する基となる本件数値情報に相当する情報が報告及び開示の対象から除外されており,かつ,この情報が情報公開法5条2号イと同様の要件を満たす場合には,各事業者の権利,競争上の地位その他正当な利益(以下「権利利益」という。)に配慮して,事業所単位各物質排出量に代えてこれを一定の方法で合計した量をもって環境大臣及び経済産業大臣に通知し,公表及び開示の対象とする制度が併せて定められている。すなわち,上記の関係法令の制度においては,本件数値情報に相当する情報よりも抽象度の高い事業所単位のエネルギー起源二酸化炭素の温室効果ガス算定排出量についてさえ,事業者の権利利益に配慮して開示の範囲を制限することが特に定められているのであって,このことからも,本件数値情報が事業者の権利利益と密接に関係する情報であることがうかがわれるところである(事案3(4)の国会答弁も,この趣旨をいうものと解される。)。
 ところで,省エネルギー法において所定の数値に関する情報を記載した定期報告書の提出が義務付けられた趣旨は,各事業者において自らエネルギーの使用の状況等を詳細に把握して整理分析することを促すとともに,国が適切な指示等(平成17年改正前の12条)を行うために各事業者におけるエネルギーの使用の状況等について各年度ごとに具体的な数値を含めて詳細に把握するということにあるものと解される。このような省エネルギー法の報告制度の趣旨に鑑みると,情報公開法による定期報告書の開示の範囲を検討するに当たっては,上記のような当該情報の性質や当該制度との整合性を考慮した判断が求められるところである。

(2)ア.前記事実関係等によれば,本件数値情報は,事業者単位ではなく工場単位の情報であるという点で個別性が高く,その内容も法令で定められた事項及び細目について個々の数値に何らの加工も施されない詳細な基礎データを示すものであり,本件各工場における省エネルギーの技術の実績としての性質も有するものである。しかも,定期報告書は毎年定期的に提出されるもので,前年度比の数値もその記載事項に含まれているから,これを総合的に分析することによって,本件各工場におけるエネルギーコスト,製造原価及び省エネルギーの技術水準並びにこれらの経年的推移等についてより精度の高い推計を行うことが可能となるものというべきである。
 これらによれば,競業者にとっては,本件数値情報が開示された場合,上記のような総合的な分析に自らの同種の数値に関する情報等との比較検討を加味することによって,上記の点についての更に精度の高い推計を行うことができるものというべきであり,本件各工場におけるエネルギーコスト,製造原価及び省エネルギーの技術水準並びにこれらの経年的推移等についての各種の分析に資する情報として,これを自らの設備や技術の改善計画等に用いることが可能となるものということができる。また,需要者にとっても,本件数値情報が開示された場合,上記のような総合的な分析によってエネルギーコスト及び製造原価並びにこれらの経年的推移等の推計を行うことにより,本件各工場におけるエネルギーコストの減少の度合い等を把握することができるものというべきであり,本件各事業者との製品の価格交渉等において,この点についての客観的な裏付けのある情報としてこれを交渉の材料等に用いることが可能となるものということができる。
 そして,前記事実関係等によれば,供給者にとっても,本件数値情報が開示された場合,本件各工場における燃料等の使用量と本件各工場への自らの供給量とを比較することにより,その供給量が本件各工場における燃料等の全使用量に占める割合等を正確に把握することができるものというべきであり,本件各事業者との燃料等の価格交渉等において,この点についての客観的な裏付けのある情報としてこれを交渉の材料等に用いることが可能となるものということができる。

イ.他方,前記事実関係等によれば,本件各事業者は,製造業を事業目的とする一般の私企業であることが認められるところ,本件数値情報は,その内容が法令で事項及び細目を定められているため,本件各事業者としては,定期報告書を提出する際にこれが将来開示され得る可能性を考慮して表現に配慮するなどの余地がなく,報告についても罰則をもって強制されていることから,仮に本件数値情報が開示されるとすれば上記アのような不利な状況に置かれることを回避することは極めて困難であるものといわざるを得ない。

(3) 以上のような本件数値情報の内容,性質及びその法制度上の位置付け,本件数値情報をめぐる競業者,需要者及び供給者と本件各事業者との利害の状況等の諸事情を総合勘案すれば,本件数値情報は,競業者にとって本件各事業者の工場単位のエネルギーに係るコストや技術水準等に関する各種の分析及びこれに基づく設備や技術の改善計画等に資する有益な情報であり,また,需要者や供給者にとっても本件各事業者との製品や燃料等の価格交渉等において有意な事項に関する客観的な裏付けのある交渉の材料等となる有益な情報であるということができ,本件数値情報が開示された場合には,これが開示されない場合と比べて,これらの者は事業上の競争や価格交渉等においてより有利な地位に立つことができる反面,本件各事業者はより不利な条件の下での事業上の競争や価格交渉等を強いられ,このような不利な状況に置かれることによって本件各事業者の競争上の地位その他正当な利益が害される蓋然性が客観的に認められるものというべきである。
 原審は,事案4のとおり,本件数値情報による推計の精度の程度を主な理由として,本件数値情報は情報公開法5条2号イ所定の不開示情報に当たらないというが,上記の諸事情に照らせば,その精度の程度等をもって,本件数値情報の開示によって本件各事業者が上記のように事業上の競争や価格交渉等において不利な状況に置かれる蓋然性の有無の判断が左右されるものではないというべきである。
 以上によれば,本件数値情報は,これが公にされることにより本件各事業者の競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるものとして,情報公開法5条2号イ所定の不開示情報に当たるというべきである。
 なお,前記事実関係等によれば,本件数値情報は,その内容,性質に鑑み,人の生命,健康,生活又は財産を保護するために公にすることが必要であるとは認められず,情報公開法5条2号ただし書所定の開示すべき情報に当たるものでないことは明らかである。

2.以上のとおりであるから,本件数値情報が情報公開法5条2号イ所定の不開示情報に当たるとはいえないとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,以上説示したところによれば,本件不開示決定部分の取消しを求める被上告人の請求は理由がなく,本件記載部分の開示決定の義務付けを求める被上告人の請求に係る訴えは行政事件訴訟法37条の3第1項2号所定の訴訟要件を欠く不適法なものであるから,第1審判決のうち被上告人の上記各請求を認容した部分を取り消し,同部分のうち上記取消請求を棄却し,上記義務付けの請求に係る訴えを却下すべきである。

 

最高裁判所第三小法廷判決平成23年10月18日

【事案】

1.ブナシメジを所有する被上告人が,無権利者との間で締結した販売委託契約に基づきこれを販売して代金を受領した上告人に対し,同契約を追認したからその販売代金の引渡請求権が自己に帰属すると主張して,その支払を請求する事案。
 なお,上記の請求は,控訴審において追加された被上告人の第2次予備的請求であるところ,原判決中,被上告人の主位的請求及び第1次予備的請求をいずれも棄却すべきものとした部分については,被上告人が不服申立てをしておらず,同部分は当審の審理判断の対象となっていない。

2.事実関係の概要

(1) 被上告人は,Aの代表取締役であるBから,その所有する工場を賃借し,平成14年4月以降,同工場でブナシメジを生産していた。

(2) Bは,平成15年8月12日から同年9月17日までの期間,賃貸借契約の解除等をめぐる紛争に関連して同工場を実力で占拠し,その間,Aが,上告人との間でブナシメジの販売委託契約(以下「本件販売委託契約」という。)を締結した上,被上告人の所有する同工場内のブナシメジを上告人に出荷した。上告人は,本件販売委託契約に基づき,上記ブナシメジを第三者に販売し,その代金を受領した。

(3) 被上告人は,平成19年8月27日,上告人に対し,被上告人と上告人との間に本件販売委託契約に基づく債権債務を発生させる趣旨で,本件販売委託契約を追認した。

3.原審は,被上告人が,上記の趣旨で本件販売委託契約を追認したのであるから,民法116条の類推適用により,同契約締結の時に遡って,被上告人が同契約を直接締結したのと同様の効果が生ずるとして,被上告人の第2次予備的請求を認容した。

【判旨】

1.原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 無権利者を委託者とする物の販売委託契約が締結された場合に,当該物の所有者が,自己と同契約の受託者との間に同契約に基づく債権債務を発生させる趣旨でこれを追認したとしても,その所有者が同契約に基づく販売代金の引渡請求権を取得すると解することはできない。なぜならば,この場合においても,販売委託契約は,無権利者と受託者との間に有効に成立しているのであり,当該物の所有者が同契約を事後的に追認したとしても,同契約に基づく契約当事者の地位が所有者に移転し,同契約に基づく債権債務が所有者に帰属するに至ると解する理由はないからである。仮に,上記の追認により,同契約に基づく債権債務が所有者に帰属するに至ると解するならば,上記受託者が無権利者に対して有していた抗弁を主張することができなくなるなど,受託者に不測の不利益を与えることになり,相当ではない。

2.以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決中上告人敗訴部分は,破棄を免れない。そして,以上説示したところによれば,上記部分に関する被上告人の請求は理由がないから,同部分に関する請求を棄却すべきである。

 

最高裁判所第一小法廷判決平成23年10月20日

【事案】

 中華人民共和国(以下「中国」という。)から日本に留学してきた被告人が,(1) 中国人の共犯者らと共謀の上,来日直後の中国人留学生の居室に押し入り,中国人留学生2人から現金等を強取した住居侵入,強盗,(2)中国人の共犯者らと共謀の上,日本語学校の校舎内に侵入して,現金等を盗んだ建造物侵入,窃盗,(3) 中国人の共犯者らと共謀の上,中国人留学生の居室に侵入して,現金等を盗んだ住居侵入,窃盗,(4) 中国人の共犯者と共謀の上,他の中国人になりすまして,電器店から携帯電話機1台等をだまし取った詐欺,(5) 中国人の共犯者らと共謀の上,被害者方に押し入り,同人方の一家全員を殺害して金品を強取するとともに,その死体を海中に投棄して犯跡を隠ぺいすることを企て,一家4人を殺害してこれを実行した住居侵入,強盗殺人,死体遺棄,(6) 交際していた中国人女性に対し,暴行を加えて負傷させた傷害の事案。前記(5)の事実については,中国の捜査官が同国において身柄を拘束されていた共犯者である王亮及び楊寧を取り調べ,その供述を録取した両名の供述調書等が被告人の第1審公判において採用されている。

【判旨】

 所論は,上記供述調書等について,その取調べは供述の自由が保障された状態でなされたものではないなどとして,証拠能力ないし証拠としての許容性がないという。そこで検討するに,上記供述調書等は,国際捜査共助に基づいて作成されたものであり,前記(5)の犯罪事実の証明に欠くことができないものといえるところ,日本の捜査機関から中国の捜査機関に対し両名の取調べの方法等に関する要請があり,取調べに際しては,両名に対し黙秘権が実質的に告知され,また,取調べの間,両名に対して肉体的,精神的強制が加えられた形跡はないなどの原判決及びその是認する第1審判決の認定する本件の具体的事実関係を前提とすれば,上記供述調書等を刑訴法321条1項3号により採用した第1審の措置を是認した原判断に誤りはない。

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