最新最高裁判例

最高裁判所第三小法廷判決平成23年10月25日

【事案】

1.第1審脱退被告(以下「本件あっせん業者」という。)の加盟店である販売業者(以下「本件販売業者」という。)との間で宝飾品の売買契約を締結し,本件あっせん業者との間で購入代金に係る立替払契約を締結した被上告人が,本件あっせん業者から事業の譲渡を受けた上告人に対し,上記売買契約が公序良俗に反し無効であることにより上記立替払契約も無効であること又は消費者契約法5条1項が準用する同法4条1項1号若しくは同条3項2号により上記立替払契約の申込みの意思表示を取り消したことを理由として,不当利得返還請求権に基づき,上記立替払契約に基づく既払金の返還を求めるとともに,本件あっせん業者がその加盟店の行為について調査する義務を怠ったことにより本件販売業者の行為による被害が発生したことを理由として,不法行為に基づき,上記既払金及び弁護士費用相当額の損害賠償を求め,他方,上告人が,被上告人に対し,上記立替払契約に基づき,未払割賦金の支払を求める事案。なお,上記の不法行為の成立を否定し,弁護士費用相当額の損害賠償請求を棄却した原審の判断については,不服の申立てがなく,原判決中,同部分は当審の審理の対象ではない。

(参照条文)消費者契約法

2条 この法律において「消費者」とは、個人(事業として又は事業のために契約の当事者となる場合におけるものを除く。)をいう。
2 この法律(第四十三条第二項第二号を除く。)において「事業者」とは、法人その他の団体及び事業として又は事業のために契約の当事者となる場合における個人をいう。
3 この法律において「消費者契約」とは、消費者と事業者との間で締結される契約をいう。
4 略。

4条 消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対して次の各号に掲げる行為をしたことにより当該各号に定める誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。
一 重要事項について事実と異なることを告げること。 当該告げられた内容が事実であるとの誤認
二 略
2 略。
3 消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対して次に掲げる行為をしたことにより困惑し、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。
一 略。
二 当該事業者が当該消費者契約の締結について勧誘をしている場所から当該消費者が退去する旨の意思を示したにもかかわらず、その場所から当該消費者を退去させないこと。
4 第一項第一号及び第二項の「重要事項」とは、消費者契約に係る次に掲げる事項であって消費者の当該消費者契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきものをいう。
一 物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの質、用途その他の内容
二 物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの対価その他の取引条件
5 第一項から第三項までの規定による消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消しは、これをもって善意の第三者に対抗することができない。

5条1項 前条の規定は、事業者が第三者に対し、当該事業者と消費者との間における消費者契約の締結について媒介をすることの委託(以下この項において単に「委託」という。)をし、当該委託を受けた第三者(その第三者から委託(二以上の段階にわたる委託を含む。)を受けた者を含む。以下「受託者等」という。)が消費者に対して同条第一項から第三項までに規定する行為をした場合について準用する。この場合において、同条第二項ただし書中「当該事業者」とあるのは、「当該事業者又は次条第一項に規定する受託者等」と読み替えるものとする。

7条1項 第四条第一項から第三項までの規定による取消権は、追認をすることができる時から六箇月間行わないときは、時効によって消滅する。当該消費者契約の締結の時から五年を経過したときも、同様とする。

 

割賦販売法35条の3の19(現行のもの。平成20年法律第74号による改正前の割賦販売法30条の4第1項に相当)

 購入者・・略・・は、・・略・・支払の請求を受けたときは、当該契約に係る個別信用購入あつせん関係販売業者・・略・・に対して生じている事由をもつて、当該支払の請求をする個別信用購入あつせん業者に対抗することができる。

2.事実関係の概要等

(1)ア.被上告人は,平成15年3月,電話で勧誘を受けて,同月29日に本件販売業者の女性販売員と会い,同販売員に勧められて,同日,本件販売業者との間で,指輪等3点(以下「本件商品」という。)を代金合計157万5000円で購入する売買契約(以下「本件売買契約」という。)を締結した。
 本件売買契約の締結に至るまでの間,上記販売員が,長時間話し続け,被上告人の手を握ったりするなどの思わせぶりな言動をしながら,宝飾品の購入を勧め,その間に,上記販売員の仲間数人が集まってきて,威圧的な態度で購入を迫るなどしたため,被上告人は,帰宅を言い出すことができないまま,本件売買契約を締結するに至った。なお,本件商品については,後日,複数の宝石・貴金属取扱店において,併せて10万円程度であるとの査定がされた。

イ.被上告人は,本件売買契約を締結した際,上記販売員が用意した本件あっせん業者宛てのクレジット契約申込書にも署名し,割賦販売法(平成20年法律第74号による改正前のもの。以下同じ。)2条3項2号に規定する割賦購入あっせん(以下「個品割賦購入あっせん」という。)を業とする本件あっせん業者に対し,本件あっせん業者が本件販売業者に本件商品の代金を立替払し,被上告人が本件あっせん業者に上記代金額に分割払手数料を加えた218万9250円を平成15年5月から平成20年4月まで60回に分割して支払う内容の立替払契約(以下「本件立替払契約」という。)の申込みをした。
 本件あっせん業者は,平成15年3月30日,担当者が被上告人に電話をして,本件立替払契約の申込みにつき,その意思,内容等を確認した上,被上告人との間で,本件立替払契約を締結した。被上告人は,上記の確認の際,上記担当者に対し,本件売買契約や本件立替払契約の締結につき,特に苦情を述べることはなかった。

ウ.被上告人は,平成15年5月頃,本件販売業者から本件商品の引渡しを受け,本件立替払契約に基づく割賦金として,同月から平成17年9月までに合計106万0850円を支払った(以下,これを「本件既払金」という。)。

(2) 本件あっせん業者は,遅くとも平成14年頃から,本件販売業者と取引があり,平成15年1月23日頃,本件販売業者との間で,加盟店契約(以下「本件加盟店契約」という。)を締結した。
 本件販売業者の販売行為については,平成14年には,各地の消費生活センターに,購入者からの相談が年間70件ほど寄せられていたが,本件あっせん業者が本件販売業者との間の取引につき購入者から初めて支払停止の申出を受けたのは,平成15年4月15日であり,本件あっせん業者がそれまでに契約解除,取消し等をめぐって消費生活センター等から本件販売業者の販売行為に関する苦情,相談を受けたことはうかがわれない。

(3) 上告人は,平成16年5月頃,本件あっせん業者から個品割賦購入あっせん事業の譲渡を受けた。

(4) 被上告人は,上告人に対し,平成17年10月7日頃,「解約を強く祈願させていただきます」などと記載した書面を送付し,平成18年1月15日,「商品は返すから後はそっちで貸し倒れにしてほしい」などと告げた。
 被上告人は,平成17年10月以降,本件立替払契約に基づく割賦金を支払っておらず,上記割賦金のうち合計112万8400円が未払である(以下,これを「本件未払金」という。)。

(5) 本件販売業者は,休業又は廃業の状態にある。

(6) 上告人は,消費者契約法の規定による取消権については,被上告人が追認をすることができる時から6箇月以内に行使しなかったので,時効により消滅したと主張して,これを援用した。

3.原審は,上記事実関係の下において,本件売買契約は公序良俗に反し無効であるとして,上告人の本件未払金の支払請求を棄却し,かつ,被上告人の不当利得返還請求権に基づく本件既払金の返還請求について,次のとおり判断して,その部分に係る被上告人の請求を認容した。

(1) 個品割賦購入あっせんは,購入者と販売業者の二者取引である売買にあっせん業者を加えて三者契約としたもので,本来は一体的な関係にあったのであるから,売買が無効等になる場合には,代金の支払のための法律関係にもそれをできる限り反映させるべき要請がある。売買契約が公序良俗に反し無効である場合,割賦販売法30条の4第1項の規定により,あっせん業者からの未払金の支払請求は拒むことができるのに対し,あっせん業者に対し既払金の返還を求めることはできないという結果は,購入者にとって不均衡な感を否めない。

(2) 本件販売業者は,本件あっせん業者のために,本件立替払契約の締結の準備行為である申込手続を代行していること,本件あっせん業者にとって,本件立替払契約を締結した当時,本件販売業者について消費生活センターからクレームが付いていることを全くうかがえないわけではなかったこと,被上告人は,本件販売業者から本件既払金相当額の回収を図ることは実際上できないことなどの事情を総合すると,本件売買契約が公序良俗に反し無効であることにより,本件立替払契約は目的を失って失効し,被上告人は,上告人に対し,不当利得返還請求権に基づき,本件既払金の返還を求めることができるというべきである。

【判旨】

1.原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

(1) 個品割賦購入あっせんは,法的には,別個の契約関係である購入者と割賦購入あっせん業者(以下「あっせん業者」という。)との間の立替払契約と,購入者と販売業者との間の売買契約を前提とするものであるから,両契約が経済的,実質的に密接な関係にあることは否定し得ないとしても,購入者が売買契約上生じている事由をもって当然にあっせん業者に対抗することはできないというべきであり,割賦販売法30条の4第1項の規定は,法が,購入者保護の観点から,購入者において売買契約上生じている事由をあっせん業者に対抗し得ることを新たに認めたものにほかならない(最高裁昭和59年(オ)第1088号平成2年2月20日第三小法廷判決・裁判集民事159号151頁参照)。
 そうすると,個品割賦購入あっせんにおいて,購入者と販売業者との間の売買契約が公序良俗に反し無効とされる場合であっても,販売業者とあっせん業者との関係,販売業者の立替払契約締結手続への関与の内容及び程度,販売業者の公序良俗に反する行為についてのあっせん業者の認識の有無及び程度等に照らし,販売業者による公序良俗に反する行為の結果をあっせん業者に帰せしめ,売買契約と一体的に立替払契約についてもその効力を否定することを信義則上相当とする特段の事情があるときでない限り,売買契約と別個の契約である購入者とあっせん業者との間の立替払契約が無効となる余地はないと解するのが相当である。

(2) これを本件についてみると,本件販売業者は,本件あっせん業者の加盟店の一つにすぎず,本件販売業者と本件あっせん業者との間に,資本関係その他の密接な関係があることはうかがわれない。そして,本件あっせん業者は,本件立替払契約の締結の手続を全て本件販売業者に委ねていたわけではなく,自ら被上告人に本件立替払契約の申込みの意思,内容等を確認して,本件立替払契約を締結している。また,被上告人が本件立替払契約に基づく割賦金の支払につき異議等を述べ出したのは,長期間にわたり約定どおり割賦金の支払を続けた後になってからのことであり,本件あっせん業者は,本件立替払契約の締結前に,本件販売業者の販売行為につき,他の購入者から苦情の申出を受けたことや公的機関から問題とされたこともなかったというのである。これらの事実によれば,上記特段の事情があるということはできず,他に上記特段の事情に当たるような事実もうかがわれない。したがって,本件売買契約が公序良俗に反し無効であることにより,本件立替払契約が無効になると解すべきものではなく,被上告人は,本件あっせん業者の承継人である上告人に対し,本件立替払契約の無効を理由として,本件既払金の返還を求めることはできない。

2.以上と異なる原審の前記判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決中被上告人の請求に関する上告人敗訴部分は破棄を免れない。
 そして,前記事実関係によれば,被上告人が消費者契約法の規定による取消権を追認をすることができる時から6箇月以内に行使したとはいえないから,同法7条1項により,その取消権は時効によって消滅したことが明らかであり,被上告人の消費者契約法の規定による取消しを理由とする本件既払金の返還請求は理由がない。また,前記事実関係によれば,本件あっせん業者がその加盟店の行為について調査する義務を怠ったとはいえないから,被上告人の不法行為に基づく本件既払金相当額の損害賠償請求も理由がない。したがって,上記各請求をいずれも棄却した第1審判決は正当であるから,前記破棄部分につき,被上告人の控訴を棄却すべきである。
 なお,上告人は,原判決中上告人の本件未払金の支払請求に関する上告人敗訴部分についても上告受理の申立てをしたが,その理由を記載した書面を提出しないから,同部分に関する上告は却下することとする。

 

最高裁判所第二小法廷決定平成23年10月26日

【事案】

 被告人は,覚せい剤を外国から本邦に持ち込んだ上,税関の旅具検査場を通過しようとした行為について,当初,覚せい剤取締法違反の罪(営利目的輸入)で起訴され,その後,関税法違反の罪(輸入してはならない貨物の輸入未遂)の訴因が追加されて審理され,両訴因について有罪とする第1審判決が言い渡された。被告人は,これを不服として控訴を申し立てたが,控訴を棄却する旨の原判決が言い渡された。この間,1,2審では,上記関税法違反の罪について,告発の存在に関する証拠は提出されなかった。

(参照条文)関税法140条1項

 犯則事件は、第百三十七条ただし書(税関職員の報告又は告発)の規定による税関職員の告発又は第百三十八条第一項ただし書若しくは第二項(税関長の通告処分又は告発)若しくは前条の規定による税関長の告発をまつて、これを論ずる。

【判旨】

1.本件関税法違反の罪は,同法140条所定の告発をまって論ずべきものとされているから,訴訟条件である告発の存在を確認しないまま審理,判決した1,2審の訴訟手続にはその調査を怠った法令違反があるといわざるを得ない。

2.しかしながら,記録によれば,原判決後,本件関税法違反の事件を告発した告発書の謄本を含む関係証拠が検察官から原審に提出され,被告人の上告申立てを受けて原審から当審に送付された記録中には,これら関係証拠がつづられており,上記謄本の写しは,当審から弁護人に送付された。
 訴訟条件である告発の存在については,当審において,証拠調手続によることなく,適宜の方法で認定することができるものと解されるところ,以上のような事情の下においては,記録中の上記謄本により,上記訴因の追加に先立って,本件関税法違反の罪について同法140条所定の告発があったことを認めることができる。そうすると,1,2審が告発について調査を怠ったという上記の法令違反は,結局,判決に影響を及ぼすべきものとはいえないことに帰する。

 

最高裁判所第一小法廷判決平成23年10月27日

【事案】

 長野県南安曇郡三郷村及び合併により同村を承継した同県安曇野市(以下「市」という。)が,同村が過半を出資して設立された株式会社に融資した複数の金融機関等との間で,上記融資によって上記金融機関等に生ずべき損失を補償する旨の契約(以下「本件各契約」という。)を締結したことにつき,市の住民である被上告人が,本件各契約は「法人に対する政府の財政援助の制限に関する法律」(以下「財政援助制限法」という。)3条に違反して無効であると主張して,上告人に対し,地方自治法242条の2第1項1号等に基づき,本件各契約に基づく上記金融機関等への公金の支出の差止め等を求める事案。

(参照条文)

財政援助制限法3条 政府又は地方公共団体は、会社その他の法人の債務については、保証契約をすることができない。ただし、財務大臣(地方公共団体のする保証契約にあつては、総務大臣)の指定する会社その他の法人の債務については、この限りでない。

地方自治法232条の2 普通地方公共団体は、その公益上必要がある場合においては、寄附又は補助をすることができる。

【判旨】

1.記録によれば,上記株式会社は原判決言渡し後に清算手続に移行しており,当該手続において,同社の債務のうち市が本件各契約によって損失の補償を約していた部分については,既に上記金融機関等に全額弁済されたことが認められるから,市が将来において本件各契約に基づき上記金融機関等に対し公金を支出することとなる蓋然性は存しない。そうすると,本件においては,地方自治法242条の2第1項1号に基づく差止めの対象となる行為が行われることが相当の確実さをもって予測されるとはいえないことが明らかである。
 したがって,被上告人が上告人に対し本件各契約に基づく上記金融機関等への公金の支出の差止めを求める訴えは,不適法というべきである。上記訴えに係る請求につき本案の判断をした原判決は失当であることに帰するから,原判決中同請求に係る部分を破棄し,同部分につき第1審判決を取り消し,上記訴えを却下すべきである。そして,上記訴えは,不適法でその不備を補正することができないものであるから,当裁判所は,口頭弁論を経ないで判決をすることとする。

2.なお,付言するに,地方公共団体が法人の事業に関して当該法人の債権者との間で締結した損失補償契約について,財政援助制限法3条の規定の類推適用によって直ちに違法,無効となる場合があると解することは,公法上の規制法規としての当該規定の性質,地方自治法等における保証と損失補償の法文上の区別を踏まえた当該規定の文言の文理,保証と損失補償を各別に規律の対象とする財政援助制限法及び地方財政法など関係法律の立法又は改正の経緯,地方自治の本旨に沿った議会による公益性の審査の意義及び性格,同条ただし書所定の総務大臣の指定の要否を含む当該規定の適用範囲の明確性の要請等に照らすと,相当ではないというべきである。上記損失補償契約の適法性及び有効性は,地方自治法232条の2の規定の趣旨等に鑑み,当該契約の締結に係る公益上の必要性に関する当該地方公共団体の執行機関の判断にその裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があったか否かによって決せられるべきものと解するのが相当である。

【宮川光治補足意見】

 財政援助制限法3条は,戦前の特殊会社に対する債務保証により国庫が膨大な負担を招いたという反省から,「未必の債務」や「不確定の債務」の負担を制限するため,保証(民法446条以下)という契約類型に限って,政府又は地方公共団体が会社その他の法人の債務を負うことを禁止する規定と理解すべきものである。立法者が保証と損失補償を区別していたことは,財政援助制限法制定の翌年である昭和22年に制定された地方自治法199条7項が監査委員の監査権限の対象として前段で損失補償を掲げ,後段で保証を掲げ,同法221条3項では普通地方公共団体の長が調査等をすることができる債務を負担している法人について保証と損失補償を掲げていること等からも明瞭である。そして,両規定は,地方公共団体が会社その他法人のために損失補償契約を締結し債務を負担することを予定しているとみることができる。確かに,損失補償契約は,附従性や補充性がないばかりか当然には求償や代位ができないのであるから,かえって保証責任よりも責任が過重になるという場合があり得るが,他方,保証債務は主債務と同一性を有するので利息・違約金・損害賠償債務等を含むが,損失補償契約では損失負担の範囲を限定することが可能である。そもそも,財政援助制限法3条はGHQの指令に基づいて緊急的に立法されたものであるところ,その後,国及び地方公共団体について個別の立法により保証契約の禁止が少なからず解除されてきており,後述の行政手法が一般化したこともあって,同条の存在意義は薄らいでいる。このような立法の経緯とその後の状況の下で,今日,公法上の規制法規(法人の経済的行為に対する禁止規範)である同条の適用範囲を類推解釈によって拡大することには相当に疑問があるといえよう。以上のとおり,損失補償契約について同条の規定を類推適用することは,同条本文による禁止の有無に係る実体的観点からの問題があるのみならず,同条ただし書所定の総務大臣の指定の要否に係る手続的観点からも,同条の適用範囲について明確性を欠くこととなるという問題があると思われる。
 基本的には,地域における政策決定とそこにおける経済的活動に関する事柄は,地方議会によって個別にチェックされるべきものであり,金融機関もそれを信頼して行動しているものと考えられる。保証以外の債務負担行為をどこまで規制するかは,そうした地方自治の本旨を踏まえた立法政策の問題であるというべきであろう。
 損失補償については財政援助制限法3条の規制するところではないとした昭和29年の行政実例(昭和29年5月12日付け自丁行発第65号自治省行政課長による回答)以降,地方公共団体が金融機関と損失補償契約を締結し信用補完を行うことで金融機関がいわゆる第三セクターに融資するということが広く行われ,地方公共団体も金融機関もそうした行為が財政援助制限法3条の趣旨に反するという認識はなく,今日に至っていると思われる。第三セクターには様々な問題があり,抜本的改革を推進しなければならないが,平成21年法律第10号による改正において地方財政法33条の5の7第1項4号が創設され,地方公共団体が負担する必要のある損失補償に係る経費等を対象とする地方債(改革推進債)の発行が平成25年度までの時限付きで認められるなど,その改革作業も地方公共団体の金融機関に対する損失補償が財政援助制限法3条の趣旨に反するものではないことが前提となっていると考えられる。この問題の判断に当たっては,法的安定性・取引の安全とともに上記の改革作業の進捗に対し配慮することも求められているといえよう。
 原審認定事実及び記録からうかがわれる事情によれば,本件損失補償契約は,平成15年,三郷村において農業活性化と就労機会の創造を目的としたトマト栽培施設整備事業が開始され,その施設の指定管理者である第三セクターに融資した金融機関等との間で,村議会の議決を経て締結されたのであるが,実際に三郷村に一定の雇用をもたらしている。このような事実関係の下では,本件損失補償契約を締結した当時の三郷村村長の判断に,その裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があったか否かは,それが「公益上必要がある場合」(地方自治法232条の2参照)に当たるか否かという観点から決せられることとなるのであり,本件では,そもそも違法であることをうかがわせる要素は特段見当たらないと思われる。

戻る