平成23年司法試験予備試験論文式民事実務基礎
出題趣旨検討と参考答案

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【出題趣旨】

 設問1は,貸金債権を譲り受けて請求する場合の請求を理由付ける事実の説明を求めるものである。訴訟物である権利の発生,取得及び行使を基礎付ける事実について,条文を基礎とする実体法上の要件の観点から説明することが求められる。
 設問2は,時効の援用に関する考え方の相違が消滅時効の抗弁事実に及ぼす影響を問うものであり,実体法上の効果発生のための要件という観点から検討することが求められる。
 設問3は,要件事実が民事訴訟の動態において果たす機能の理解を問うものである。時効完成前の催告(小問1)と時効完成後の債務承認(小問2)について,実体法上の効果,攻撃防御方法としての意味,相手方の認否といった観点から検討することが求められる。
 設問4は,私文書の成立の真正に関するいわゆる二段の推定の理解を問うものである。
 設問5は,弁護士倫理の問題であり,弁護士職務基本規程第52条に留意して検討することが求められる。

シンプルな問題

法律実務基礎では、どのような出題がされるのか。
予想が難しく、出題形式も含めて、注目されていた。
蓋を開けてみると、シンプルな問題。
勉強していれば、そのまま実力を発揮できる問題だったと思う。
ただ、設問が5つもある。
1つの設問に、1ページも割けない計算になる。
そのことを事前に認識した上で、書き出す必要があった。
そのため、論証を十分にすることはできない。
実務の処理をコンパクトに書くしか、書きようがない。
結果的に、思考のプロセスよりも、結論がどうなるか。
すなわち、「正解」を書いたかどうかで、評価が分かれる。
そんな印象である。
その意味では、論文式というより、記述式。
そういう意識で、解くべきだった。

設問1について

消費貸借及び債権譲渡の要件事実を問う問題である。
設問の「請求を理由付ける事実」とは、広義の請求原因を指す。
(狭義の請求原因とは、規則53条1項かっこ書の「請求を特定するのに必要な事実」を指す。)

民事訴訟規則53条1項、下線は筆者)

 訴状には、請求の趣旨及び請求の原因請求を特定するのに必要な事実をいう。)を記載するほか、請求を理由づける事実を具体的に記載し、かつ、立証を要する事由ごとに、当該事実に関連する事実で重要なもの及び証拠を記載しなければならない。

要は、普段テキスト等で用いている「請求原因」について書けばよい。

内容的には、知識があれば難しくない。
ただ、個々の要素を細かく説明する紙幅がない。
そのため、うまくまとめて書く工夫が必要となる。
例えば、日時や金額等の特定の必要性については、諦めて書かない。
そういう決断も必要だったのではないか。
ポイントとしては、貸借型理論を説明できているか。
対抗要件としての通知の摘示が必要である、と書いていないか。
その辺りで、評価が分かれているかな、という感じである。
要件事実を勉強していないと、貸借型理論は書けない。
また、「おっと対抗要件が抜けてる、危ない危ない」などとして、通知の摘示が必要と書いてしまいがちだ。
ここは、端的に知識で差が付いている。

後者の通知については、権利抗弁説から不要であることを論証したい。
しかし、その紙幅はない。
権利抗弁であることを前提に、簡単に説明する程度でやむを得ないだろう。
なお、否認説や第三者抗弁説からは、摘示が必要となる。
(債務者対抗要件の場面では、第三者抗弁説は、「債務者抗弁説」と表記すべきかもしれない。
ただ、ここでは対抗要件一般の呼称として、「第三者抗弁説」と表記する。)
しかし、その論証をする余裕はない。
特に、第三者抗弁説では、せり上がりについても書くことになる。
とても、書けない。
理由を特に示さずに摘示が必要であるとすれば、単なる知識不足として減点されるだろう。
こういう場合は、実務の採る説で書かざるを得ない。

また、債権譲渡に関しては、債権移転行為の独自性の肯否という論点がある。
しかし、これも、論証する余裕はないだろう。
独自性否定説を前提に、書いていけばよい。

近時、司法研修所が貸借型理論を放棄した、と言われている。
これは、やや語弊のある表現である。
貸借型の契約において、貸した直後に返せというのはおかしい。
これが、貸借型理論の基礎となる発想である。
この発想自体は、変わっていない。
ただ、そこからの要件事実の構成の仕方に、変化が生じた。

上記の発想を基礎とする場合、要件事実的な解決法としては、2つある。

1つは、常に必ず返還時期の合意がある、とする構成である。
すなわち、返還時期の合意が、契約成立の要件である、と考える。
こう考えれば、常に返還時期の定めがあるから、貸した直後に返せと言われることはない。
これが、従来の研修所の説である。
ただ、この場合、返還時期の合意を当事者が定めないとどうなるか。
普通に考えると、契約不成立になりそうである。
しかし、それでは困る。
そこで、黙示の返還時期の合意があると考える。
すなわち、特に何も決めていないなら、言われたら返すということだろう。
つまりは、催告時を返還時期とする黙示の合意がある。
これが当事者の合理的意思だ、というのである。
では、その場合、催告されるとすぐ返還しなければならないのか。
そうではない。
民法591条1項があるからである。

(民法591条1項)

 当事者が返還の時期を定めなかったときは、貸主は、相当の期間を定めて返還の催告をすることができる。

同項は、催告時を黙示の返還時期とする場合の規定である。
催告時を返還時期とされていても、なお相当期間を要するとする趣旨だ。
そう解するわけである。

もう一つは、契約が終了するまでは返還請求権は発生しない、とする構成である。
この構成は、契約の目的は物(の価値)を利用させることにあるとみる。
だから、物の返還は、契約成立によって発生する履行義務とはならない。
従って、貸した直後に返せとは言えない。
契約が終了したことによって、初めて返還請求権が生じるということになる。
これは、賃貸借を考えると、しっくりくる構成である。
この立場からは、上記民法591条1項は、文字通りに読む。
すなわち、返還時期の合意がない場合に、催告後相当期間経過後に契約が終了する。
そのような趣旨の規定ということになる。
これが、改説後の研修所の説のようである。

上記からすると、本問の説明の仕方が変わってくる。
従来の説では、@は成立要件。
Bは行使要件であり、再抗弁となりそうである。
しかし、返還時期の合意が請求原因に顕れることから、請求原因での主張を要する。
(せり上がりに近いが、返還時期の合意は本来的に抗弁ではないとする立場であるから、せり上がりそのものではない。
せり上がりは、本来抗弁である事実がたまたま請求原因に顕れたことによって、再抗弁事実をも請求原因に書く必要が生じる場合である。)

新しい説からは、@のうち、返還合意と目的物交付が成立要件。
@のうち返還時期の合意とBが、返還請求権の発生要件ということになる。
参考答案は、この立場で書いている。
なお、返還時期の合意とその到来に代えて、平成21年頃の催告と相当期間の末日の到来を主張してもよい。
どちらの方が最小限ともいえないから、@とBが必要、という書き方でよいだろう。

設問2について

援用の摘示の要否について、確定効果説と不確定効果説との違いを問うものである。
これは、特に知識がなくても、前者が必要、後者は不要。
そう判断できたはずである。
あとは、それをただ書けばよかった。
ただ、あまりに簡単すぎるために、迷った。
そういう人も多かったのではないか。
本当にこれだけなのか、他に何かあるのではないか。
そんなことを考えて、余計なことを書くと、評価を下げる。

本問のように、実体法の理解によって、要件事実の骨格が変わる。
そういうものとして、解除における直接効果説と間接効果説。
安全配慮義務違反の事例における契約責任構成と不法行為構成。
目的物返還請求権における物権的請求権構成と不当利得構成。
転用物訴権における不当利得構成と債権者代位権構成等がある。
今後、同様の形で出題される余地があるので、一応確認しておきたい。
なお、平成18年の新試験民事系第2問では、将来債権譲渡担保の法的構成との関係が問われている。

設問3について

本問は、民法の問題であれば、誰もが簡単に書けたはずである。
@は、6か月以内に提訴していないから、失当。
Aは、時効完成後の承認に当たり、相手方が否認しているから、証拠調べを要する。
しかし、実務基礎という科目なので、それだけでいいのか。
もっと難しいことを訊いているのではないか。
そういう疑心暗鬼から、普段書かないような変なことを書いて、沈む。
ここを間違えた人は、そういう自滅型の人が多い。

設問4について

これは、知識の有無で勝負がつく。
2段の推定(2段階推定)については、予備校等でも出題が予想されていた。
そのため、事前に知っていた人が多かっただろう。
また、短答の知識として知っていた人も多かったはずである。
最判昭39・5・12である。

最判昭39・5・12より引用、下線及び※注は筆者)

 民訴三二六条(※現228条4項)に「本人又ハ其ノ代理人ノ署名又ハ捺印アルトキ」というのは、該署名または捺印が、本人またはその代理人の意思に基づいて、真正に成立したときの謂であるが、文書中の印影が本人または代理人の印章によつて顕出された事実が確定された場合には、反証がない限り、該印影は本人または代理人の意思に基づいて成立したものと推定するのが相当であり、右推定がなされる結果、当該文書は、民訴三二六条にいう「本人又ハ其ノ代理人ノ(中略)捺印アルトキの要件を充たし、その全体が真正に成立したものと推定されることとなるのである。

(引用終わり)

知識のある人からすれば、コンパクトに説明すれば終わりである。
他方で、知らなかった人は、ちょっと書きようがない。
そういう感じだったのではないか。
ただ、その場合でも、民訴228条4項までは、現場でたどり着きたい。

設問5について

弁護士倫理からの出題である。
ただ、法曹倫理の知識は、全く不要である。
また、法曹倫理のテキストをみても、直接答えの書いてある事柄ではない。
結果的に、法曹倫理の勉強をした人は、報われなかった。

本問で、相手方本人との直接交渉が問題になりそうなことは、明らかである。
そこで、添付されている弁護士職務基本規程の目次をみてみる。
そうすると、第6章に「事件の相手方との関係における規律」とある。
これではないか。
そう思って、条文をみてみる。
すると、52条が関係ありそうだとわかる。

(弁護士職務基本規程52条)

 弁護士は、相手方に法令上の資格を有する代理人が選任されたときは、正当な理由なく、その代理人の承諾を得ないで直接相手方と交渉してはならない。

だとすれば、正当な理由の有無。
これを書けばよいのだろう。
このような場合、趣旨から要件の中身を明らかにしているか。
そこが、評価のポイントになる。
このことは、商法総則等のマイナー問題の鉄則である。
それに従って、書いていけばよい。
本条の趣旨は、何か。
それは、法律の素人たる相手方の利益保護だろう。
これは、現場で簡単に思いつくはずである。
だとすれば、その例外はどのような場合に許されるか。
それは、相手方の利益を考えてもやむを得ない場合ではないか。
これが、正当な理由の中身だろう。
本問では、そこまで緊急な事例ではない。
2週間、電話がつながらないというだけである。
他の連絡手段(Eメール等)を試したという事実もない。
また、2週間待てないという事情もない。
結論的には、当てはまらない、ということになるだろう。
以上を、コンパクトにまとめる。

今後も、法曹倫理がこのような現場思考型になるのか。
それは、ちょっとわからない。
とはいえ、現段階では、まだ本格的に勉強するような分野ではない。
そういう位置づけでよいのだろうと思う。

【参考答案】

第1.設問1

1.@及びBについて

 消費貸借のような貸借型の契約は、一定期間目的物の価値を利用させる点に本質があり、借主の返還義務は、そのような利用関係が終了することによって生じるものである。従って、契約成立によって直ちに返還請求権が発生するのではなく、契約の終了(返還時期の到来)によって初めて返還請求権が発生する。
 従って、@及びBはAY間の消費貸借契約の成立(返還合意及び目的物の交付、民法587条)及び同契約終了に基づく貸金返還請求権の発生(返還時期の合意及びその到来)を基礎づける事実として、請求原因において主張することが必要である。

2.Aについて

 Aは、AY間の消費貸借契約に基づく貸金債権を目的物とする売買契約の成立要件事実である(目的物及び代金額の合意、民法555条)。従って、AY間の消費貸借契約に基づく貸金返還請求権の取得原因事実として、請求原因において主張することが必要である。

3.その他の事実について

 債権譲渡の債務者対抗要件である通知・承諾(民法467条1項)は、債務者による対抗要件の抗弁に対する再抗弁としてその具備を主張すれば足りる。従って、債権譲渡の通知をした事実は、請求原因として主張する必要はない。

4.よって、@からBまでの各事実の主張が必要であり、かつ、それで足りる。

第2.設問2

1.甲説からは、援用があって初めて債権消滅の効果が発生するのであるから、援用がされたことは、抗弁事実の主張として不可欠の事実となる。

2.他方、乙説からは、消滅時効期間の経過によって債権消滅の効果が発生するから、抗弁事実として援用を主張する必要がない。

3.よって、甲説と乙説とでは、援用を抗弁事実として主張すべきか否かという点で違いがある。

第3.設問3

1.@について

 @は民法153条の催告に当たる事実であり、6か月以内に同条所定の手段を採った事実をも併せて主張しなければ、時効中断の効果は生じない。本件訴えの提起が@の6か月経過後にされた本問では、@のみの主張は失当である。
 よって、裁判所は、@を立証対象として証拠調べをする必要がない。

2.Aについて

(1)時効完成後の債務の承認は、相手方に時効を援用しないとの信頼を生じさせるから、信義則上、当該承認をした債務者は時効援用権を失う(判例)。

(2)Aは、上記時効完成後の債務承認に当たり、消滅時効の抗弁事実と両立し、その効果を消滅させる再抗弁事実となる。

(3)そして、Yは平成22年中にAともXとも話をしたことはないとしてAを否認している。

(4)よって、裁判所は、Aを立証対象として証拠調べをする必要がある。

第4.設問4

1.文書を証拠とするには、成立の真正の証明を要する(民訴法228条1項)。押印については、印鑑を重用する我が国の慣習上、印影が本人の印章によって顕出された場合には、本人の意思に基づくものと事実上推定され(判例)、同条4項と併せて当該文書につき成立の真正が推定される(2段階推定)。

2.本問で、JがQに質問した理由は、A名義の印影がAの印章によって顕出されたという事実によって上記の推定が生じることから、上記事実の存否を争う意思があるかを確認するためである。

第5.設問5

1.Pが、Qの承諾を得ないでYに架電し、和解交渉をすることは、弁護士職務基本規程52条の代理人の承諾を得ない相手方との直接交渉に当たる。そこで、正当な理由の有無を検討する。

2.同条の趣旨は、法的知識に乏しい相手方の利益が害されることを防止する点にあるから、上記正当な理由とは、上記相手方の利益を考慮しても必要やむを得ないと認めるに足りる特段の事情をいう。

3.本問では、相手方代理人Qは海外出張のため2週間不在であっただけで、直接交渉の必要性が大きいとはいえない。他方、和解は判決によらずに訴訟を終結させる重大な訴訟行為である(民訴法267条、55条2項2号参照)。直接交渉による相手方の不利益は大きい。そうすると、相手方の利益を考慮しても必要やむを得ないと認めるに足りる特段の事情があるとはいえない。

4.よって、正当な理由は認められないから、PがYに架電して和解交渉をすることは弁護士職務基本規程52条に抵触する。

以上

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