平成24年司法試験・予備試験
短答式試験の感想(5)

刑法について

傾向は、概ね例年どおりである。
ただ、若干論理問題、読解問題が増えたかな、という印象だ。
その分、難易度は少し下がっている。
とはいえ、基本は知識である。
比較的新判例が問われやすいのも、刑法の特徴である。

新試験第2問、予備試験第4問は、形式上はかなり難しい。

(新試験第2問、予備試験第4問)

 次のアからオまでの各記述を判例の立場に従って検討し,甲に( )内の犯罪の共同正犯が成立する場合には1を,教唆犯又は幇助犯が成立する場合には2を,間接正犯が成立する場合には3を選びなさい。

ア.甲は,甲の所属する暴力団事務所にVを連行し,同事務所において3日間,Vを逃走できないように見張って監禁し,その後,同じ暴力団に所属する乙に対して「お前が俺に代わって見張れ。」と言った。乙は,これを了承し,4日目から前記事務所においてVを逃走できないように見張って監禁した。5日目に乙が居眠りをした隙に,Vは,前記事務所の窓から外に飛び降りて逃げ出したが,飛び降りた際,右足首を骨折した。(監禁致傷罪)

イ.甲は,乙が自宅で賭博場を開張して利益を得ていることを知り,乙の役に立とうと考え,乙に連絡することなく,乙の開張する賭博場にA及びBを誘引し,賭博をさせた。(賭博場開張図利罪)

ウ.甲は,常日頃暴行を加えて自己の意のままに従わせていた実子の乙(13歳)に対し,Vが管理するさい銭箱から現金を盗んでくるように命じ,乙は,是非善悪の識別能力及び識別に従って行動を制御する能力を有していたが,甲の命令に従わなければまた暴力を振るわれると畏怖し,意思を抑圧された状態で,前記さい銭箱から現金を盗んだ。(窃盗罪)

エ.甲は,知人乙から,交際相手であるVを殺害したいので青酸カリを入手してほしいと依頼され,自らもVに恨みを抱いていたことから,青酸カリを準備して乙に交付した。乙は,甲から青酸カリを受領した後,実行行為に出る前にV殺害を思いとどまり,警察署に出頭した。(殺人予備罪)

オ.甲は,乙から,乙がV方に強盗に入る際に外で見張りをしてほしいと頼まれ,利益を折半する約束でこれを承諾し,乙と共にV方に赴いた。甲がV方の外で見張りをしている間に,乙はV方に侵入した。その後,甲は,不安になり,携帯電話で乙に「やっぱり嫌だ。俺は逃げる。」と告げた上,その場から逃走した。乙は,甲の逃走を認識した後,V方内にいたVを発見し,同人に包丁を突き付けてその反抗を抑圧した上,現金を強取した。(強盗罪)

5つの肢につき、1から3までを正確に解答しなければならない。
でたらめに選ぶと、3の5乗すなわち、243分の1の確率である。
偶然に正解するということは、まずない。
とはいえ、本問は、できれば正解したい問題である。

まず、アは、監禁から生じた傷害といえるか。
そういうことを考えた人は、時間をロスしている。
監禁致傷が成立することは、当然の前提である。
単に、共同正犯か、狭義の共犯か、間接正犯かだけを考えればよい。
また、上記のいずれでもない、という選択肢はない。
従って、消去法で2つの可能性を排除できれば、答えがでる。
アについて言えば、乙は、「見張って『監禁した』」と書いてある。
だとすれば、教唆でも幇助でも、間接正犯でもないだろう。
従って、すぐに1が正解になるとわかる。

次に、イは、乙と意思の連絡がない。
だとすれば、共同正犯はない。
また、乙を道具としたわけでもないから、間接正犯でもない。
従って、すぐに2が正解とわかる。

ウは、巡礼事件(最決昭58・9・21)を思い出すはずである。
すぐに、3が正解であるとわかる。

最決昭58・9・21より引用、下線は筆者)

 被告人は、当時一二歳の養女Aを連れて四国a等を巡礼中、日頃被告人の言動に逆らう素振りを見せる都度顔面にタバコの火を押しつけたりドライバーで顔をこすつたりするなどの暴行を加えて自己の意のままに従わせていた同女に対し本件各窃盗を命じてこれを行わせたというのであり、これによれば、被告人が、自己の日頃の言動に畏怖し意思を抑圧されている同女を利用して右各窃盗を行つたと認められるのであるから、たとえ所論のように同女が是非善悪の判断能力を有する者であつたとしても、被告人については本件各窃盗の間接正犯が成立すると認めるべきである。

(引用終わり)

※上記のように、判例の事案では、養子で、12歳だった。
本肢では、実子で、13歳になっている。
しかし、この違いが、結論に影響を及ぼすとは思われない。

エは、名古屋高判昭36・11・27を正当とした最決昭37・11・8であり、1が正解となる。

名古屋高判昭36・11・27より引用、下線は筆者)

 教唆犯、従犯は、自ら犯罪を実行するものではなく、他人の犯罪に加功する犯罪の一形式である。自ら犯罪を実行する者を正犯というのに対して、この正犯たるべき者を教唆して犯罪を実行させた者が教唆犯、正犯の犯罪の実行行為を幇助した者が従犯とされるわけである。そして、このような教唆犯、従犯が処罰されるのは、それらの行為が、いわゆる正犯の犯罪の実行行為に加功した点にあるのであつて、正犯の犯罪の実行行為が成立しない以上、教唆行為、幇助行為それだけを独立に処罰することはない。(いわゆる共犯の従属性)このように教唆犯、従犯は、抽象的にあるなんらかの犯罪の教唆、従犯とされるものではなく、正犯の特定の犯罪の実行を前提として、この正犯の犯罪の実行に対して、教唆犯、又は従犯といわれるわけである。刑法六一条、六二条は、このことを明文を以つて示している。教唆犯の場合は、当面の問題外におき、従犯に限つていえば、右六二条に「正犯ヲ幇助シタル者ハ従犯トス」とあるのは、論旨もいうように、正犯の犯罪の実行行為を幇助した者という意味であり、幇助行為それじたいとしては、正犯の犯罪の実行行為前に行われようとも、これを処罰するためには、正犯が犯罪の実行行為に着手することを要件とするわけである。(正犯の犯罪実行中に幇助する場合は、この関係は明らかである。)そして、その正犯が犯罪の実行行為に着手するというのは、正犯が刑法各本条の規定する各犯罪のいわゆる構成要件的行為の実行に着手することをいうものであることも論旨の指摘するとおりであるから、従犯か処罰されるのは、正犯の行為が、少くとも、特に未遂罪として処罰される場合であることを要するということになる。然し、このことは、刑法が正犯の既遂を処罰するのを原則とし、その未遂が処罰されるのは、あくまで例外であつて、刑法各本条に、特別に、未遂罪を処罰する旨の規定がある場合に限るという構造をとつていることからひき出される結論である。従つて、刑法が、特殊例外的にある犯罪の予備罪を処罰している場合には、特に、その場合に限つて、予備罪の従犯が認められるかどうかについて、やはり特別に考えてみなければならない。すなわち、未遂罪が処罰されるのも、このように例外であるが、刑法は、ある種の犯罪の危険性、従つて、その可罰性の著しく高いことに着目して、これを未然に防遏しようとする特殊の考慮に基いて、この種の犯罪については、特に、実行の着手前の段階、すなわち、実行の着手前において、実行行為を準備する行為をとらえて、これを予備罪として独立に処罰することとしているのである。本件の殺人予備の如きがまさにそれである。そして、刑法各本条の規定している当該各犯罪は、正犯の既遂としてこれを類型的に刑法が規定しているので、これを講字上基本的構成要件というならば、予備罪は、これらの基本的構成要件を離れて独立に、その犯罪の類型が定められるものではなく、ある犯罪の基本的構成要件を前提として、そこから初めてその犯罪の予備罪の類型が定められるのであるから、それは、前記基本的構成要件に修正加工を加えたもので、いわゆる基本的構成要件の修正形式として観念されるわけである。そして、このようにある犯罪の予備罪が独立に処罰される場合には、その予備罪を構成する行為も当然に考えられるわけで、それは、その予備行為が発展した場合のいわゆる犯罪の実行行為を基本として、その内容を限定されるものではあるが、予備罪そのものについていえば、その予備罪というある犯罪の基本的構成要件を修正する構成要件を充足する行為がそこに予定されていることは当然である。いま構成要件を充足する行為を実行行為というのであれば、予備罪が独立して処罰される場合の、いわゆる修正された構成要件を充足する行為も又実行行為とよぶことが許されるのである。(この意味で実行行為の概念も関係的、機能的な概念である、といわれる。)そして、このように、予備罪の実行行為というものを観念することは、予備罪の正犯を考え、あるいは、その共同正犯を考える場合に、文理解釈のうえで起る障害を取りのけることに役立つであろう。すなわち、共同してある犯罪の予備をした者、すなわち、予備の実行行為を共同にした者は、予備罪の共同正犯であるが、予備罪の実行行為を観念できない、とすれば、文理上予備罪の共同正犯も又あり得ないという奇怪な結論に達する。(二人以上の者が共同して殺人を計画し、その用に供するための兇器を共同して入手して準備した場合の如きを考えよ。)従つて、刑法総則の規定の適用において予備罪の実行行為というが如きものは観念できないという論旨は採るを得ないもので、予備罪の従犯の成立を考えるについて、実行行為の概念を固定のものとして文理解釈に依拠することは許されない次第である。この点に関する限り原判決の法解釈は正当というべきである。
 然らば、このように予備罪の実行行為を観念できるとして、刑法六二条の従犯の成立要件としての正犯の実行行為というのは、右に述べた意味における正犯=予備罪の正犯=のいわゆる実行行為をも含むものであろうか。
 すなわち、刑法総則の従犯に関する規定は、予備罪が独立に処罰される場合のその予備罪についても適用されるのであろうか。同法六四条によれば教唆犯、従犯が処罰されないのは、拘留又は科料にのみ処すべき特別の犯罪の場合(但し、その場合でも教唆犯、従犯を処罰する特別の規定がある場合は除かれる)に限られるもののようにも解される。もし、そうだとすれば、予備罪=本件では殺人予備罪=の実行行為を考え、それが独立して処罰される限り、予備罪の従犯も又処罰されるということになり、文理解釈上の支障も生じないわけである。然し、仔細に検討してみると、この解釈には賛成することができない。思うに、犯罪の予備行為は、一般に基本的構成要件的結果を発生せしめる蓋然性は極めて少なく、従つて法益侵害の危険性も少ないわけであるから、通常可罰性はなく、特に、法益が国家的、社会的にすぐれて高いものと評価される特殊の犯罪に限つて、これが準備行為、すなわち、右の犯罪の実行を準備する行為までを、法益侵害の危険性が看過できないものとして、刑法は、例外的にこれを処罰の対象としているのである。本件の殺人の予備罪の如きもそうである。然し、犯罪の予備行為というものは、実行行為に着手する以前の、犯罪の準備行為を含めて、犯罪への発展段階にあるすべての行為を指称するものであり、基本的犯罪構成要件の場合の如く、特に、それが定型的行為として限定されていないところに特色がある。従つて、予備罪の実行行為は無定型、無限定な行為であり、その態様も複雑、雑多であるから、たとえ、国家的、社会的にその危険性が極めて高い犯罪であつても、その予備罪を処罰することになれば、その処罰の範囲が著しく拡張され、社会的には殆んど無視しても差支えない行為、延いては又言論活動の多くのものまでが予備罪として処罰される虞れもないわけではない。そこで、刑法はこのように処罰の範囲が徒らに拡張されることを警戒して、広般な予備行為の範囲を限定して、予備罪を構成すべき行為を限定的に列挙する場合もあり(例えば、刑法一五三条、なお特別法として爆発物取締罰則三条の如きもそうである。)、更に又予備罪については、情状に因りその刑を免除することにもしているわけである。ところで、従犯の行為も又同様無限定、無定型である。従つて、もし、予備罪の従犯(正犯が予備罪に終つた場合の従犯)をも処罰するものとすれば、その従犯として処罰される場合が、前の予備罪の正犯の場合にもまして著しく拡張される危険のあることは極めて明らかである。かの助言従犯の場合の如きを考えれば、言論活動の多くの場合までが、直ちに予備罪の従犯として処罰される危険性が、高度である。従つて、予備罪の従犯を処罰するかどうかについては、特に厳正な解釈態度が要求されるのである。しかも又、従犯の刑は正犯の刑に照して減軽されているわけであり(刑法六三条)、従犯の違法性、可罰性は、正犯のそれに比し軽減されているものであることも又否定できない。してみると、予備罪が特に明文の規定をまつて処罰される場合においても、その刑は、既遂、未遂のそれに比し極めて軽いのであるから(殺人予備罪の場合も二年以下の懲役であり、情状に因りその刑が免除される。刑法二〇一条)、これより違法性、可罰性の更に軽減されるその従犯までを処罰するについては、これを解釈に一任することなく、法の明文を以つて特に明確にすべきである
 予備を独立に処罰する旨の規定があるからといつて、それを理由として、予備の背後関係にあつて、予備罪の正犯に比べその違法性、可罰性のより減少したその従犯までを処罰しなければならない必要性、合理性は少しも正当化されるものではなく、予備罪の従犯を処罰するかどうかは、やはり刑法全体の精神から論定すべきことがらである。ところで、刑法七九条は、内乱罪の予備罪について特に明文を設けてこれを処罰する旨を明らかにし、内乱の如く国の政治の基本組織を破壊するような国家の存在そのものに関する極めて重大な犯罪の予備罪については、特に、その幇助行為までを処罰する旨を成文上明定しているのであり(この意味で右刑法の条規は内乱罪の予備の従犯について特に刑を加重した趣旨とは解されない)爆発物取締罰則五条の如きも、特にその第一条所定の犯罪者のための特定の幇助行為のみを処罰し、その四条も、同条所定の予備行為の共謀者に限りこれを特に処罰することとし、そして又かの破壊活動防止法三八条ないし四〇条の各規定の如きも、同条所定の各犯罪の予備以外の背後行為が処罰される場合について、特に行為の種類を限定してこれを明定しているのである。これらのいわゆる政治犯罪とされる特殊の犯罪についてすら、刑法(広義の)は予備罪の従犯の処罰されることを特に明文の規定を設けてこれを明確にしているのであるし、そして又このような予備罪の従犯を処罰する法律の特別の規定がこれらのいわゆる政治犯罪に限つて設けられていることも看過してはならない。以上述べたいろいろの理由を綜合して考えてくれば、わが刑法は、予備罪の従犯を処罰するのは、特に明文の規定がある場合にこれを制限し、その旨の明文の規定のない場合は、一般にこれを不処罰にしたものと解すべきである。すなわち、総則規定としての刑法六二条の規定は、予備罪が独立に処罰される場合においても、当然にその適用があるものではない、ということになるわけである。してみれば、殺人罪の予備罪の幇助行為について、特にこれを処罰する法律の規定はないのであるから、被告人の原判示所為を殺人予備罪の幇助(予備幇助罪)として処罰した原判決は、既にこの点において法律の解釈を誤つた違法があるものというべきである。
 ・・そして右の誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決はすでにこの点において破棄を免れない。したがつて弁護人のこの点の論旨は理由がある。
 よつてその他の弁護人の控訴趣意の判断を省略し、刑訴法三九七条一項に則り原判代を破棄することとするが、本件は原裁判所において取り調べた証拠により当裁判所において、直ちに判決できるものと認められるので、同法四〇〇条但し書に従い当裁判所において被告事件について、更に判決することとする。

(罪となるべき事実)
 被告人は、昭和三五年三月上旬ごろ、従兄にあたるAから、同人がかねてから密通しているCとの関係を続けるため、同女の夫Bを殺害したいとの意図を打明けられたうえ、その殺害の方法等について相談をもちかけられていたが、当初は真剣こ右相談に乗る気持はなく、むしろ右Aの言動をからかいちよう弄しているうち、同人のB殺害の決意は固く、しかも、度び重ねてその殺害方法について相談をもちかけられるうち、これをあしらいかね、同年六月二五日ころに至り、Aから右B殺害の用に供するための青酸カリの入手方の以来を受けるや、同人にこれを手交すれば同人がこれを使用して右殺人の用に供することのあるべきを認識しながら、その青酸カリの入手方を承諾し被告人において知人Dから青酸ソーダを譲り受けたうえ、同月二七日ころの午後九時ころ愛知県西春日井郡a村大字b字cd番地のe村営住宅f号のA方こおいて、ビニールに包んだ青酸ソーダ杓三八瓦をAに手交し、もつて右Aと共同してBに対する殺人予備の行為をしたものである。

(引用終わり)
 

最決昭37・11・8より引用、下線は筆者)

 弁護人森健の上告趣意第一点は違憲をいうが、その実質は事実誤認、単なる法令違反の主張に帰し刑訴四〇五条の上告理由に当らない(被告人の判示所為を殺人予備罪の共同正犯に問擬した原判決の判断は正当と認める)。

(引用終わり)

※本肢も、上記判例とは若干事案が異なる。
もっとも、結論に影響するとは思われない。

これは、判例を知らないと、幇助かな、とも思う。
2を選んでしまっても、やむを得ないところだ。
なお、他人予備の単独犯を考慮してはいけない。
設問の選択肢には、単独犯はないからである。

オは、離脱の成否を検討してしまいそうになる。
しかし、本問ではそのようなことは問われていない。
甲が強盗についても罪責を負うことは、前提である。
強盗が成立しないという選択肢は、存在しない。
考えるべきは、共同正犯か、幇助か。
それだけである。
共謀の上で見張りをすれば、共同正犯となる(最判昭23・3・11等参照)。
これは、論文でも頻出の基本知識である。
従って、すぐ1が正解とわかる。

なお、本肢類似の事案における離脱の成否について、最決平21・6・30がある。
これは、司法試験平成21年最新判例肢別問題集で出題した。

最決平21・6・30より引用、下線は筆者)

1.原判決及びその是認する第1審判決の認定並びに記録によれば,本件の事実関係は,次のとおりである。

(1) 被告人は,本件犯行以前にも,第1審判示第1及び第2の事実を含め数回にわたり,共犯者らと共に,民家に侵入して家人に暴行を加え,金品を強奪することを実行したことがあった。

(2) 本件犯行に誘われた被告人は,本件犯行の前夜遅く,自動車を運転して行って共犯者らと合流し,同人らと共に,被害者方及びその付近の下見をするなどした後,共犯者7名との間で,被害者方の明かりが消えたら,共犯者2名が屋内に侵入し,内部から入口のかぎを開けて侵入口を確保した上で,被告人を含む他の共犯者らも屋内に侵入して強盗に及ぶという住居侵入・強盗の共謀を遂げた

(3) 本件当日午前2時ころ,共犯者2名は,被害者方の窓から地下1階資材置場に侵入したが,住居等につながるドアが施錠されていたため,いったん戸外に出て,別の共犯者に住居等に通じた窓の施錠を外させ,その窓から侵入し,内側から上記ドアの施錠を外して他の共犯者らのための侵入口を確保した。

(4) 見張り役の共犯者は,屋内にいる共犯者2名が強盗に着手する前の段階において,現場付近に人が集まってきたのを見て犯行の発覚をおそれ,屋内にいる共犯者らに電話をかけ,「人が集まっている。早くやめて出てきた方がいい。」と言ったところ,「もう少し待って。」などと言われたので,「危ないから待てない。先に帰る。」と一方的に伝えただけで電話を切り,付近に止めてあった自動車に乗り込んだ。その車内では,被告人と他の共犯者1名が強盗の実行行為に及ぶべく待機していたが,被告人ら3名は話し合って一緒に逃げることとし,被告人が運転する自動車で現場付近から立ち去った

(5) 屋内にいた共犯者2名は,いったん被害者方を出て,被告人ら3名が立ち去ったことを知ったが,本件当日午前2時55分ころ,現場付近に残っていた共犯者3名と共にそのまま強盗を実行し,その際に加えた暴行によって被害者2名を負傷させた

2.上記事実関係によれば,被告人は,共犯者数名と住居に侵入して強盗に及ぶことを共謀したところ,共犯者の一部が家人の在宅する住居に侵入した後,見張り役の共犯者が既に住居内に侵入していた共犯者に電話で「犯行をやめた方がよい,先に帰る」などと一方的に伝えただけで,被告人において格別それ以後の犯行を防止する措置を講ずることなく待機していた場所から見張り役らと共に離脱したにすぎず,残された共犯者らがそのまま強盗に及んだものと認められる。そうすると,被告人が離脱したのは強盗行為に着手する前であり,たとえ被告人も見張り役の上記電話内容を認識した上で離脱し,残された共犯者らが被告人の離脱をその後知るに至ったという事情があったとしても,当初の共謀関係が解消したということはできず,その後の共犯者らの強盗も当初の共謀に基づいて行われたものと認めるのが相当である。これと同旨の判断に立ち,被告人が住居侵入のみならず強盗致傷についても共同正犯の責任を負うとした原判断は正当である。

(引用終わり)

 

司法試験平成21年最新判例肢別問題集より抜粋)

4:甲は、本件犯行以前にも、数回にわたり、共犯者らと共に、民家に侵入して家人に暴行を加え、金品を強奪することを実行したことがあったものであるが、本件犯行に誘われ、本件犯行の前夜遅く、自動車を運転して行って共犯者らと合流し、同人らと共に、被害者方及びその付近の下見をするなどした後、共犯者7名との間で、被害者方の明かりが消えたら、共犯者2名が屋内に侵入し、内部から入口のかぎを開けて侵入口を確保した上で、甲を含む他の共犯者らも屋内に侵入して強盗に及ぶという住居侵入・強盗の共謀を遂げた。本件当日午前2時ころ、共犯者2名は、被害者方の窓から地下1階資材置場に侵入したが、住居等につながるドアが施錠されていたため、いったん戸外に出て、別の共犯者に住居等に通じた窓の施錠を外させ、その窓から侵入し、内側から上記ドアの施錠を外して他の共犯者らのための侵入口を確保した。見張り役の共犯者は、屋内にいる共犯者2名が強盗に着手する前の段階において、現場付近に人が集まってきたのを見て犯行の発覚をおそれ、屋内にいる共犯者らに電話をかけ、「人が集まっている。早くやめて出てきた方がいい。」と言ったところ、「もう少し待って。」などと言われたので、「危ないから待てない。先に帰る。」と一方的に伝えただけで電話を切り、付近に止めてあった自動車に乗り込んだ。その車内では、甲と他の共犯者1名が強盗の実行行為に及ぶべく待機していたが、甲ら3名は話し合って一緒に逃げることとし、甲が運転する自動車で現場付近から立ち去った。屋内にいた共犯者2名は、いったん被害者方を出て、甲ら3名が立ち去ったことを知ったが、本件当日午前2時55分ころ、現場付近に残っていた共犯者3名と共にそのまま強盗を実行し、その際に加えた暴行によって被害者2名を負傷させた。以上の事実関係の下においては、甲は住居侵入のみならず強盗致傷についても共同正犯の責任を負う。

以上のように、本問は、エ以外は易しい。
おそらく、エを間違えても、部分点が付くだろう。
形式だけを見て本問を捨ててしまった人は、判断ミスである。

新試験第3問は、時折出題される読解問題である。

(新試験第3問)

 次の【事例】及び【判旨】に関する後記1から5までの各【記述】のうち,正しいものを2個選びなさい。

【事例】

 甲は,自動車内でVにクロロホルムを吸引させて失神させた上,約2キロメートル離れた港までVを運び,自動車ごと海中に転落させて溺死させようという計画の下,Vにクロロホルムを吸引させた。甲は,Vが動かなくなったので,計画どおりVが失神したものと考え,港に運んで自動車ごと海中に転落させた。Vの遺体の司法解剖の結果,甲の計画とは異なり,Vは溺死ではなく,海中への転落前にクロロホルムの吸引により死亡していたことが判明した。

【判旨】

 甲の殺害計画は,クロロホルムを吸引させてVを失神させた上(以下「第1行為」という。),その失神状態を利用してVを港まで運び,自動車ごと海中に転落させ(以下「第2行為」という。),溺死させるというものであって,第1行為は第2行為を確実かつ容易に行うために必要不可欠なものであったといえること,第1行為に成功した場合,それ以降の殺害計画を遂行する上で障害となるような特段の事情が存しなかったと認められることや,第1行為と第2行為との間の時間的場所的近接性などに照らすと,第1行為は第2行為に密接な行為であり,甲が第1行為を開始した時点で既に殺人に至る客観的な危険性が明らかに認められるから,その時点において殺人罪の実行の着手があったものと解するのが相当である。

【記述】

1.ダンプカーに女性を引きずり込んで数キロメートル離れた人気のない場所まで連れて行き姦淫しようという計画の下,抵抗する女性をダンプカーに引きずり込んだ上,計画どおり姦淫したが,引きずり込もうとした段階で加えた暴行により同女が負傷したという事例において強姦致傷罪の成立を認める見解は,実行の着手時期に関してこの判旨の考え方と矛盾する。

2.この判旨は,甲がVにクロロホルムを吸引させた場所と殺害計画を実行しようとしていた港との距離が約2キロメートルの距離にあったということを,実行の着手時期を決する上で考慮している。

3.この判旨が第1行為を開始した時点で殺人罪の実行の着手を認めたのは,第1行為自体によってVの死の結果が生じることを甲が認識・認容していたことを前提としている。

4.この判旨の立場に立てば,甲が第1行為によってVが死亡していることに気付き,自動車ごとVを海中に転落させる行為に及ばなかった場合でも,甲に殺人既遂罪が成立する。

5.この判旨の立場に立てば,第1行為を行ってもそれ以降の殺害計画を遂行する上で障害となるような特段の事情が存在していたような場合には,甲に殺人未遂罪と重過失致死罪が成立することになる。

素材は、最決平16・3・22である。
もっとも、判例の知識は全く不要である。
この種の問題には、コツがある。
それは、対応する文言から素直に判断することである。

まず、1の見解は、最決昭45・7・28である。
これを知っていれば、同じ判例で矛盾しているはずがない。
そう判断して、誤りと考えるのも実戦的にはあり得る。
また、上記判例の判旨を覚えていた人は、「客観的な危険性が明らか」という共通の言い回しがあることに気付く。
そこから、矛盾しないと判断してもよいだろう。
ただ、姦淫の結果自体は計画どおりである等、異なる点もないではない。
あまり自信がなければ、ここはとりあえず保留でもよい。

2は、判旨の「場所的近接性」という部分と対応する。
従って、正しい。

3は、「甲は,・・Vが失神したものと考え」という部分と矛盾する。
従って、誤りである。

4は、文言上は、ややはっきりしない。
もっとも、第1行為に着手があって、死の結果が発生したなら、そこで既遂だろう。
すなわち、第1行為により、既に既遂に達する。
ならば、その後の事情は、結論を左右しない。
第2行為に及んだかどうかは、関係ないことになる。
従って、正しい、と判断できる。

5は、第1行為により重過失致死。
第2行為により殺人未遂(不能犯における具体的危険説)という趣旨だろう。
一見すると、ありそうにも思える。
だが、判旨の文言をよく読む必要がある。
「殺害計画を遂行する上で障害となるような特段の事情が存しなかったと認められること・・などに照らすと・・第1行為を開始した時点で・・客観的な危険性が明らかに認められる」となっている。
上記特段の事情が存在していれば、逆の結論。
すなわち、客観的な危険性がないということになる。
だとすれば、第1行為の重過失致死は、成立しない。
客観的危険性はあるが、殺意がない場合が、過失致死である。
従って、本肢は誤りということになるだろう。

新試験第5問は、すばやく解きたい問題である。

(新試験第5問)

 教授と学生A及びBは次の【会話】のとおり議論している。【会話】中の@からDまでの( )内に,後記アからケまでの【語句群】から適切な語句を入れた場合,正しいものの組合せは,後記1から5までのうちどれか。

【会話】

教授:犯人が被害者の住居に侵入した上で被害者を殺害した場合の住居侵入罪と殺人罪の罪数関係や,犯人が被害者の住居に侵入した上で被害者のお金を盗んだ場合の住居侵入罪と窃盗罪の罪数関係は,判例ではどうなるかな。

学生A:(@)です。

教授:それでは,犯人が被害者の住居に侵入した上で,被害者を殺害し,その後に被害者のお金を盗もうと思い立って,現実にお金を盗んだ場合の住居侵入罪,殺人罪,窃盗罪の罪数関係は,判例ではどうなるかな。

学生B:住居侵入罪と殺人罪が(@),住居侵入罪と窃盗罪が(@)となり,全体として(A)になります。

教授:そうだね。このような場合をかすがい現象と言っているんだ。それでは,犯人が路上で被害者を殺害し,その後に被害者のお金を盗もうと思い立ち,お金を盗んだ場合における殺人罪と窃盗罪の罪数関係は,判例ではどうなるかな。

学生A:(B)です。

教授:住居侵入罪の法定刑の上限は懲役3年,窃盗罪の法定刑の上限は懲役10年,殺人罪で有期懲役刑を選択した場合の法定刑の上限は懲役20年だけど,判例の立場によれば,前科のない犯人が被害者の住居に侵入した上で,被害者を殺害し,その後に被害者のお金を盗もうと思い立ち,お金を盗んだ事案における処断刑の上限は,それぞれの罪について有期懲役刑を選択した場合にはどうなるだろう。

学生B:(C)です。

教授:それでは,判例の立場で,前科のない犯人が路上で被害者を殺害し,その後に被害者のお金を盗もうと思い立ち,お金を盗んだ事案の処断刑の上限は,それぞれの罪について有期懲役刑を選択した場合にはどうなるかな。

学生A:(D)です。

【語句群】

ア.併合罪  イ.牽連犯  ウ.観念的競合  エ.科刑上一罪  オ.包括一罪
カ.懲役20年  キ.懲役25年  ク.懲役30年  ケ.懲役40年

1.@イAエBアCカDク
2.@イAエBアCカDケ
3.@イAオBイCケDカ
4.@ウAエBアCクDキ
5.@ウAオBイCケDク

穴埋めなので、一瞬読解問題かな、とも思う。
しかし、単なる1問1答式の知識問題である。
まず、@をみると、これはもうイの牽連犯しか入らない。
そして、Aはエの科刑上一罪しか入らない。
併合罪や包括一罪で悩んだ人は、知識不足である。
この時点で、正解は、1か2に絞られる。
そうすると、BCは、検討しても意味がないことに気付く。
さらに、Dの選択肢をみると、クかケの2択である。
しかし、ケの40年は、あり得ない。

刑法14条2項、下線は筆者)

 有期の懲役又は禁錮を加重する場合においては三十年にまで上げることができ、これを減軽する場合においては一月未満に下げることができる。

この時点で、1が正解と確定する。
従って、Dも実質的には検討する必要がない。
もちろん、一通り解き終わった段階で、見直しをした方がよい。
一応、BCDが合っているか、確認する。
思わぬ勘違いをしていた場合、ここで気付くことができる。
そのために、こういう解き方をした問題には、印をつけておくとよい。

新試験第8問の1は、最判平15・3・11である。

(新試験第8問)

 信用毀損罪又は名誉毀損罪に関する次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討し,正しいものを2個選びなさい。

1.甲は,スーパーマーケットVに嫌がらせをする目的で,誰でも閲覧できるインターネット上の掲示板に「Vで買ったオレンジジュースに異物が混入していた。」旨の嘘の書き込みをした。甲には信用毀損罪は成立しない。

 

最判平15・3・11より引用、下線は筆者)

 所論引用の大審院の判例のうち,大審院大正5年(れ)第2605号同年12月18日判決・刑録22輯1909頁及び大審院昭和8年(れ)第75号同年4月12日判決・刑集12巻5号413頁は,人の支払能力又は支払意思に対する社会的な信頼を毀損しない限り,信用毀損罪は成立しないとしたものであるから,原判決は,上記大審院の各判例と相反する判断をしたものといわなければならない。
 しかし,刑法233条が定める信用毀損罪は,経済的な側面における人の社会的な評価を保護するものであり,同条にいう「信用」は,人の支払能力又は支払意思に対する社会的な信頼に限定されるべきものではなく,販売される商品の品質に対する社会的な信頼も含むと解するのが相当であるから,これと異なる上記大審院の各判例は,いずれもこれを変更し,原判決を維持すべきである。

(引用終わり)

古いテキストでは、判例変更前の説明になっているから、注意を要する。

また、4は、最決平22・3・15である。

4.甲は,インターネット上の書き込みを信じ,特段の調査をすることなく,誰でも閲覧できるインターネット上の掲示板に「ラーメン店Vの経営母体は暴力団Xである。」旨の真実に反する書き込みをした。甲には名誉毀損罪は成立しない。

 

最決平22・3・15より引用、下線は筆者)

1.原判決が認定した罪となるべき事実の要旨は,次のとおりである。
 被告人は,フランチャイズによる飲食店「ラーメン甲」の加盟店等の募集及び経営指導等を業とする乙株式会社(平成14年7月1日に「株式会社甲食品」から商号変更)の名誉を毀損しようと企て,平成14年10月18日ころから同年11月12日ころまでの間,東京都大田区内の被告人方において,パーソナルコンピュータを使用し,インターネットを介して,プロバイダーから提供されたサーバーのディスクスペースを用いて開設した「丙観察会逝き逝きて丙」と題するホームページ内のトップページにおいて,「インチキFC甲粉砕!」,「貴方が『甲』で食事をすると,飲食代の4〜5%がカルト集団の収入になります。」などと,同社がカルト集団である旨の虚偽の内容を記載した文章を掲載し,また,同ホームページの同社の会社説明会の広告を引用したページにおいて,その下段に「おいおい,まともな企業のふりしてんじゃねえよ。この手の就職情報誌には,給料のサバ読みはよくあることですが,ここまで実態とかけ離れているのも珍しい。教祖が宗教法人のブローカーをやっていた右翼系カルト『丙』が母体だということも,FC店を開くときに,自宅を無理矢理担保に入れられるなんてことも,この広告には全く書かれず,『店が持てる,店長になれる』と調子のいいことばかり。」と,同社が虚偽の広告をしているがごとき内容を記載した文章等を掲載し続け,これらを不特定多数の者の閲覧可能な状態に置き,もって,公然と事実を摘示して乙株式会社の名誉を毀損した(以下,被告人の上記行為を「本件表現行為」という。)。
 原判決は,被告人は,公共の利害に関する事実について,主として公益を図る目的で本件表現行為を行ったものではあるが,摘示した事実の重要部分である,乙株式会社と丙とが一体性を有すること,そして,加盟店から乙株式会社へ,同社から丙へと資金が流れていることについては,真実であることの証明がなく,被告人が真実と信じたことについて相当の理由も認められないとして,被告人を有罪としたものである。

2.所論は,被告人は,一市民として,インターネットの個人利用者に対して要求される水準を満たす調査を行った上で,本件表現行為を行っており,インターネットの発達に伴って表現行為を取り巻く環境が変化していることを考慮すれば,被告人が摘示した事実を真実と信じたことについては相当の理由があると解すべきであって,被告人には名誉毀損罪は成立しないと主張する。
 しかしながら,個人利用者がインターネット上に掲載したものであるからといって,おしなべて,閲覧者において信頼性の低い情報として受け取るとは限らないのであって,相当の理由の存否を判断するに際し,これを一律に,個人が他の表現手段を利用した場合と区別して考えるべき根拠はない。そして,インターネット上に載せた情報は,不特定多数のインターネット利用者が瞬時に閲覧可能であり,これによる名誉毀損の被害は時として深刻なものとなり得ること,一度損なわれた名誉の回復は容易ではなく,インターネット上での反論によって十分にその回復が図られる保証があるわけでもないことなどを考慮すると,インターネットの個人利用者による表現行為の場合においても,他の場合と同様に,行為者が摘示した事実を真実であると誤信したことについて,確実な資料,根拠に照らして相当の理由があると認められるときに限り,名誉毀損罪は成立しないものと解するのが相当であって,より緩やかな要件で同罪の成立を否定すべきものとは解されない(最高裁昭和41年(あ)第2472号同44年6月25日大法廷判決・刑集23巻7号975頁参照)。これを本件についてみると,原判決の認定によれば,被告人は,商業登記簿謄本,市販の雑誌記事,インターネット上の書き込み,加盟店の店長であった者から受信したメール等の資料に基づいて,摘示した事実を真実であると誤信して本件表現行為を行ったものであるが,このような資料の中には一方的立場から作成されたにすぎないものもあること,フランチャイズシステムについて記載された資料に対する被告人の理解が不正確であったこと,被告人が乙株式会社の関係者に事実関係を確認することも一切なかったことなどの事情が認められるというのである。以上の事実関係の下においては,被告人が摘示した事実を真実であると誤信したことについて,確実な資料,根拠に照らして相当の理由があるとはいえないから,これと同旨の原判断は正当である

判例の事案は、ホームページであるが、本肢は掲示板である。
また、書き込みの内容も若干異なる。
とはいえ、結論的には本肢も名誉毀損成立と考えてよいだろう。
上記判例は、司法試験平成22年最新判例肢別問題集で出題した。

司法試験平成22年最新判例肢別問題集より抜粋)

1:重要度:A
 判例は、インターネット上での表現行為の被害者は、名誉毀損的表現行為を知り得る状況にあれば、インターネットを利用できる環境と能力がある限り、容易に加害者に対して反論することが可能であるし、個人利用者がインターネット上で発信した情報の信頼性は一般に低いものと受けとめられていることからすれば、加害者が主として公益を図る目的のもと、公共の利害に関する事実についてインターネットを使って名誉毀損的表現に及んだ場合には、加害者が確実な資料、根拠に基づいてその事実が真実と誤信して発信したと認められなければ直ちに同人を名誉毀損罪に問擬するという解釈を採ることは相当ではなく、加害者が、摘示した事実が真実でないことを知りながら発信したか、あるいは、インターネットの個人利用者に対して要求される水準を満たす調査を行わず真実かどうか確かめないで発信したといえるときにはじめて同罪に問擬するのが相当であるとした。

なお、5は虚偽の風説でも、偽計にも当たらない場合である。

5.甲は,かつて甲をいじめたVが破産したことを知り,仕返しをするため,「Vは破産者である。」と書かれたビラを多数人に配布した。甲には信用毀損罪は成立しない。

内容虚偽でなければ、そもそも構成要件に該当しない点が、名誉毀損と異なる点である。

予備試験第8問のイは、最決平22・3・17である。

(予備試験第8問)

 次のアからエまでの各事例を判例の立場に従って検討し,成立する犯罪が【 】内の罪数関係にある場合には1を,【 】内の罪数関係にない場合には2を選びなさい。

イ.連日,駅前で募金箱を持ち,真実は募金を難病の子供のために使うつもりはなく,自己のために費消するつもりであるのにそれを隠して,「難病の子供を救うため,募金をお願いします。」と連呼し,多数回にわたり,不特定多数の通行人からそれぞれ少額の金員をだまし取った。【包括一罪】

 

最決平22・3・17より引用、下線は筆者)

1.本件は,被告人が,難病の子供たちの支援活動を装って,街頭募金の名の下に通行人から金をだまし取ろうと企て,平成16年10月21日ころから同年12月22日ころまでの間,大阪市,堺市,京都市,神戸市,奈良市の各市内及びその周辺部各所の路上において,真実は,募金の名の下に集めた金について経費や人件費等を控除した残金の大半を自己の用途に費消する意思であるのに,これを隠して,虚偽広告等の手段によりアルバイトとして雇用した事情を知らない募金活動員らを上記各場所に配置した上,おおむね午前10時ころから午後9時ころまでの間,募金活動員らに,「幼い命を救おう!」「日本全国で約20万人の子供達が難病と戦っています」「特定非営利団体NPO緊急支援グループ」などと大書した立看板を立てさせた上,黄緑の蛍光色ジャンパーを着用させるとともに1箱ずつ募金箱を持たせ,「難病の子供たちを救うために募金に協力をお願いします。」などと連呼させるなどして,不特定多数の通行人に対し,NPOによる難病の子供たちへの支援を装った募金活動をさせ,寄付金が被告人らの個人的用途に費消されることなく難病の子供たちへの支援金に充てられるものと誤信した多数の通行人に,それぞれ1円から1万円までの現金を寄付させて,多数の通行人から総額約2480万円の現金をだまし取ったという街頭募金詐欺の事案である。

2.そこで検討すると,本件においては,個々の被害者,被害額は特定できないものの,現に募金に応じた者が多数存在し,それらの者との関係で詐欺罪が成立していることは明らかである。弁護人は,募金に応じた者の動機は様々であり,錯誤に陥っていない者もいる旨主張するが,正当な募金活動であることを前提として実際にこれに応じるきっかけとなった事情をいうにすぎず,被告人の真意を知っていれば募金に応じることはなかったものと推認されるのであり,募金に応じた者が被告人の欺もう行為により錯誤に陥って寄付をしたことに変わりはないというべきである。
 この犯行は,偽装の募金活動を主宰する被告人が,約2か月間にわたり,アルバイトとして雇用した事情を知らない多数の募金活動員を関西一円の通行人の多い場所に配置し,募金の趣旨を立看板で掲示させるとともに,募金箱を持たせて寄付を勧誘する発言を連呼させ,これに応じた通行人から現金をだまし取ったというものであって,個々の被害者ごとに区別して個別に欺もう行為を行うものではなく,不特定多数の通行人一般に対し,一括して,適宜の日,場所において,連日のように,同一内容の定型的な働き掛けを行って寄付を募るという態様のものであり,かつ,被告人の1個の意思,企図に基づき継続して行われた活動であったと認められる。加えて,このような街頭募金においては,これに応じる被害者は,比較的少額の現金を募金箱に投入すると,そのまま名前も告げずに立ち去ってしまうのが通例であり,募金箱に投入された現金は直ちに他の被害者が投入したものと混和して特定性を失うものであって,個々に区別して受領するものではない。以上のような本件街頭募金詐欺の特徴にかんがみると,これを一体のものと評価して包括一罪と解した原判断は是認できる

これは、司法試験平成22年最新判例肢別問題集で出題した。

司法試験平成22年最新判例肢別問題集より抜粋)

2:重要度:A
 街頭募金の名の下に通行人から現金をだまし取ろうと企てた者が、約2か月間にわたり、事情を知らない多数の募金活動員を通行人の多い複数の場所に配置し、募金の趣旨を立看板で掲示させるとともに、募金箱を持たせて寄付を勧誘する発言を連呼させ、これに応じた通行人から現金をだまし取ったという街頭募金詐欺の事案について、判例は、上記所為に係る詐欺罪の罪数につき、これを一体のものと評価して包括一罪と解することができるとした。

新試験第13問、予備試験第10問は、個数問題である。

(新試験第13問、予備試験第10問)

 責任能力に関する次のアからオまでの各記述を判例の立場に従って検討した場合,誤っているものの個数を後記1から5までの中から選びなさい。

ア.犯行時に14歳未満であっても,公訴を提起する時点で14歳に達していれば,刑事責任能力が認められる。

イ.犯行時に成年に達していても,犯行時の知能程度が12歳程度であった場合には,刑事未成年者に関する刑法第41条が準用される。

ウ.犯行時に心神耗弱の状態にあったと認められれば,刑が任意的に減軽される。

エ.犯行時に事物の是非善悪を弁識する能力が著しく減退していても,行動を制御する能力が十分に保たれていれば,完全責任能力が認められることがある。

オ.飲酒当初から飲酒後に自動車を運転する意思があり,実際に酩酊したまま運転した場合,運転時に飲酒の影響により心神耗弱の状態であっても,完全責任能力が認められることがある。

1.1個   2.2個   3.3個   4.4個   5.5個

新試験になってからは、やや珍しい。
5肢の正誤を正確に判断する必要があり、部分点もない。
形式としては、厳しい出題である。
とはいえ、これは何とか取りたい。

アは、行為時判断であるから、誤りである(刑法41条。なお、少年法20条2項、51条参照)。

(刑法41条、下線は筆者)

 十四歳に満たない者の行為は、罰しない。

 

(少年法、下線は筆者)

20条2項 前項の規定にかかわらず、家庭裁判所は、故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件であつて、その罪を犯すとき十六歳以上の少年に係るものについては、同項の決定をしなければならない。ただし、調査の結果、犯行の動機及び態様、犯行後の情況、少年の性格、年齢、行状及び環境その他の事情を考慮し、刑事処分以外の措置を相当と認めるときは、この限りでない。

51条 罪を犯すとき十八歳に満たない者に対しては、死刑をもつて処断すべきときは、無期刑を科する。
2  罪を犯すとき十八歳に満たない者に対しては、無期刑をもつて処断すべきときであつても、有期の懲役又は禁錮を科することができる。この場合において、その刑は、十年以上十五年以下において言い渡す。

イは、画一的に一定の年齢で決する趣旨であるから、誤り。
本肢のような場合は、単に責任能力の有無の問題である。

ウは、必要的減軽だから、誤り。

(刑法39条2項)

 心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する。

これは、免除がないことも含め、基本知識である。

エは、事理弁識能力及び行動制御能力の両方が十分でなければ、完全責任能力とはいえない。
いずれかが著しく減退すれば、心神耗弱。
いずれかが欠ければ、心神喪失である。
従って、エは誤りである。

オは、最決昭43・2・27で、正しい。
判例を知らなくても、原因において自由な行為は知っているはずだ。
それだけで、オは正しいと判断できるはずである。

以上から、正解は4となる。

新試験第14問のオは、最決平21・7・13である。

(新試験第14問)

 住居侵入罪又は建造物侵入罪に関する次のアからオまでの各記述を判例の立場に従って検討した場合,正しいものの組合せは,後記1から5までのうちどれか。

オ.甲は,交通違反の取締りに当たる捜査車両の車種やナンバーをのぞき見るため,外部からの立入りが制限され,内部をのぞき見ることができない構造になっている警察署の高さ約3メートル,幅30センチメートルのコンクリート塀の上に登り,その上部に立って中庭を見たが,塀から降りて中庭に立ち入る意思はなかった。甲には建造物侵入罪が成立する。

 

最決平21・7・13より引用、下線は筆者)

1.原判決の認定及び記録によれば,本件の事実関係は,次のとおりである。

(1) 被告人は,交通違反等の取締りに当たる捜査車両の車種やナンバーを把握するため,大阪府八尾市所在の大阪府八尾警察署東側塀(以下「本件塀」という。)の上によじ上り,塀の上部に立って,同警察署の中庭を見ていたところ,これを現認した警察官に現行犯逮捕された。

(2) 大阪府八尾警察署は,敷地の南西側にL字型の庁舎建物が,敷地の東側と北側に塀が設置され,それらの塀と庁舎建物により囲まれた中庭は,関係車両の出入りなどに利用され,車庫等が設置されている。同警察署への出入口は複数あるが,南側の庁舎正面出入口以外は施錠などにより外部からの立入りが制限されており,正面出入口からの入庁者についても,執務時間中職員が受付業務に従事しているほか,入庁者の動静を注視する態勢が執られ,庁舎建物から中庭への出入りを制限する掲示がある。
 本件塀は,高さ約2.4m,幅約22pのコンクリート製で,本件庁舎建物及び中庭への外部からの交通を制限し,みだりに立入りすることを禁止するために設置されており,塀の外側から内部をのぞき見ることもできない構造となっている。

2.以上の事実関係によれば,本件塀は,本件庁舎建物とその敷地を他から明確に画するとともに,外部からの干渉を排除する作用を果たしており,正に本件庁舎建物の利用のために供されている工作物であって,刑法130条にいう「建造物」の一部を構成するものとして,建造物侵入罪の客体に当たると解するのが相当であり,外部から見ることのできない敷地に駐車された捜査車両を確認する目的で本件塀の上部へ上がった行為について,建造物侵入罪の成立を認めた原判断は正当である。

(引用終わり)

これは、司法試験平成21年最新判例肢別問題集で出題した。

司法試験平成21年最新判例肢別問題集より抜粋)

5:甲は、交通違反等の取締りに当たる捜査車両の車種やナンバーを把握するため、A警察署東側の塀(以下「本件塀」という。)の上によじ上り、塀の上部に立って、同警察署の中庭を見ていたところ、これを現認した警察官に現行犯逮捕された。A警察署は、敷地の南西側にL字型の庁舎建物が、敷地の東側と北側に塀が設置され、それらの塀と庁舎建物により囲まれた中庭は、関係車両の出入りなどに利用され、車庫等が設置されている。同警察署への出入口は複数あるが、南側の庁舎正面出入口以外は施錠などにより外部からの立入りが制限されており、正面出入口からの入庁者についても、執務時間中職員が受付業務に従事しているほか、入庁者の動静を注視する態勢が執られ、庁舎建物から中庭への出入りを制限する掲示がある。本件塀は、高さ約2.4m、幅約22pのコンクリート製で、本件庁舎建物及び中庭への外部からの交通を制限し、みだりに立入りすることを禁止するために設置されており、塀の外側から内部をのぞき見ることもできない構造となっている。以上の事実関係の下において、甲には建造物侵入罪が成立する。

新試験第16問は、判例読解問題である。
今年は、この形式の問題が増えたな、という印象だ。

(新試験第16問)

 次の【事例】及び【判旨】に関する後記アからエまでの各【記述】を検討し,正しい場合には1を,誤っている場合には2を選びなさい。

【事例】

 甲は,友人乙及び丙女と深夜歩道上で雑談していたところ,通り掛かったVから因縁を付けられ,Vが丙女の髪をつかんで引きずるなどの暴行を加えたため,乙と共に,丙女への暴行をやめさせるためにVの顔面を殴るなどした(以下,甲と乙が共にVの顔面を殴るなどした行為を「第1行為」という。)。Vは,一旦丙女への暴行をやめたものの,その後も甲らに悪態をついたため,更に乙においてVの顔面を殴ったところ(以下,乙がVの顔面を殴った行為を「第2行為」という。),Vが転倒して重傷を負った。第2行為の際,甲はVに対し暴行を加えることも,乙の行為を制止することもなかった。

【判旨】

 相手方の侵害に対し,複数人が共同して防衛行為としての暴行に及び,相手からの侵害が終了した後に,なおも一部の者が暴行を続けた場合において,侵害現在時における暴行が正当防衛と認められる場合には,侵害終了後の暴行については,侵害現在時における防衛行為としての暴行の共同意思から離脱したかではなく,新たに共謀が成立したかどうかを検討すべきであり,共謀の成立が認められるときに初めて侵害現在時及び侵害終了後の一連の行為を全体として考察し,防衛行為の相当性を検討すべきであるところ,甲に関しては,第1行為については正当防衛が成立し,第2行為については乙との間に新たに共謀が成立したとは認められないのであるから,第1行為と第2行為とを一連一体のものとして総合評価する余地はない。

【記述】

ア.この判旨は,甲らによる第1行為が正当防衛に当たることから,第1行為と第2行為とを一体のものとして考慮するためには,第2行為についての新たな共謀が必要だと考えている。

イ.この判旨は,甲らによる第1行為が正当防衛に当たることから,甲が乙による第2行為を防止する措置を講じなかったにもかかわらず,甲に共謀関係からの離脱を認めたものである。

ウ.共同正犯について「構成要件に該当する違法な行為を共謀することによって成立する」と考える見解に立つと,この事例における甲の罪責について,この判旨と結論において一致することはない。

エ.この判旨の立場からは,甲に第2行為についての新たな共謀が認められる場合には,甲に過剰防衛が成立する余地はない。

素材は、最判平6・12・6であるが、知っている必要はない。
アは、「侵害現在時における暴行が正当防衛と認められる場合には・・新たに共謀が成立したかどうかを検討すべきであり,共謀の成立が認められるときに初めて侵害現在時及び侵害終了後の一連の行為を全体として考察し,防衛行為の相当性を検討すべき」としているから、正しい。

イは、離脱を検討すべきでないという判旨と矛盾するから、誤り。

ウは、本肢見解からは、第一行為は違法でないから、共同正犯が成立しない。
従って、判旨と同じ結論になり得る。
よって、誤りである。

エは、新たな共謀があれば、一連一体のものとして量的過剰の問題となる。
従って、過剰防衛が成立する余地がある。
よって、誤りとなる。

今年は、比較的易しい問題が多かった。
新試験では、やや難しい問題は6問(14点)。
2、4、10、13、17、20である。
これを半分取って、7点。
残りの14問(36点)は、どれも取りたい。
3〜4問程度落として、28点。
合計35点は、取りたい。

予備試験では、やや難しい問題は7問(16点)。
3、4、5、8、9、10、11である。
これを半分取って、8点。
残り6問(14点)は、取りたい問題である。
1問落としても、12点。
合計20点は、取りたいところである。

戻る