平成24年司法試験論文式
公法系第2問の感想と参考答案

試験問題は、こちら

新判例の知識で差がつく

設問1は、行政計画の処分性である。

まず、必ず書くのは、処分性の判断基準だろう。
これは、判例をそのまま引いても構わない。
判例を正確に覚えた自信がない。
そういう人は、下記のように簡単に論証する方法もある。

 抗告訴訟とは公権力の行使に対する訴訟である(行訴法3条1項)から公権力性を要し、また、紛争の成熟性の観点から直接的法的効果の発生を要する。

さらに、本問では、後記のとおり、法的効果だけが問題になっている。
だから、公権力性を省いて、もっとコンパクトに書くという方法もある。

 抗告訴訟の対象となる処分というためには、直接的な法的効果の発生が必要である。そこで、本件計画決定が処分性を根拠付けるに足りる法的効果を有するかを検討する。

上記の書き方には、理由付けがない。
とはいえ、本問のメインは法的効果の中身の方にある。
本問では、誘導があるので、誰もがここを書いてくる。
だから、ここが勝負どころということになる。
だとすれば、一般論の論証は、省いてもよい。
中身の議論に、紙幅と時間を持っていく方がよい。
そういう判断も、可能である。

本問では、単に処分性の有無を問うのではなく、検討事項が指定されている。
これは、例年どおりの傾向である。
素直に、それに従えばよい。

(問題文より引用)

〔設問1〕

 本件計画決定は,抗告訴訟の対象となる処分に当たるか。本件計画決定がどのような法的効果を有するかを明らかにした上で,そのような法的効果が本件計画決定の処分性を根拠付けるか否かを検討して答えなさい。

 

【資料1 法律事務所の会議録】

弁護士S:そのとおりです。最高裁判所は,大法廷判決で,土地区画整理事業の事業計画の決定に処分性を認める判例変更をしましたね(最高裁判所平成20年9月10日大法廷判決,民集62巻8号2029頁)。ただし,都市計画施設として道路を整備する事業は,都市計画決定とそれに基づく都市計画事業認可との2段階を経て実施されるのですが,土地区画整理事業の事業計画の決定は,道路に係る都市計画でいえば,事業認可の段階に相当します。

弁護士T:そのためか,Q県の職員は,道路に係る都市計画決定は,この大法廷判決の射程の外にあり,事業の「青写真」の決定にすぎず,処分性はない,と解釈しているようなのです。

弁護士S:私たちとしては,この大法廷判決の射程をよく考えながら,道路に係る都市計画決定の法的効果を分析して,本件計画決定に処分性が認められるかどうか,判断する必要があります。都市計画決定の法的効果を分析する際には,その次の段階に位置付けられる都市計画事業認可の法的効果との関係も考慮に入れてください。綿密な検討をお願いします。

(引用終わり)

まとめると、以下を検討する必要がある。

1.本件計画決定の法的効果
2.1の法的効果が処分性を基礎付けるか
3.大法廷判決の射程
4.都市計画事業認可の法的効果との関係

まず、1は、都市計画法53条の建築制限である。
2を考えるに際して、3と4を検討する。
これについては、資料にヒントがある。

(問題文より引用)

弁護士S:そのとおりです。最高裁判所は,大法廷判決で,土地区画整理事業の事業計画の決定に処分性を認める判例変更をしましたね(最高裁判所平成20年9月10日大法廷判決,民集62巻8号2029頁)。ただし,都市計画施設として道路を整備する事業は,都市計画決定とそれに基づく都市計画事業認可との2段階を経て実施されるのですが,土地区画整理事業の事業計画の決定は,道路に係る都市計画でいえば,事業認可の段階に相当します

(引用終わり)

3の射程は4の事業認可に及ぶ。
だから、その前段階の2は、処分性を基礎付けない。
これが、素直な考え方だろう。

もっとも、ただそれを書けばいいということではない。
なぜそうなるのか。
その理由を、説明できなければならない。
すなわち、判例の理由付けが、事業認可には妥当するが、計画決定には妥当しない。
その点を、明らかにする必要がある。

設問1は、この最大判平20・9・10を知らないと、厳しい。
問題文上、判決文が挙がっていないからである。
結論だけ知っていても、理由付けをきちんと覚えていないと、やはり書けない。
公法系第1問でも、同じく新判例(空知太神社訴訟)を素材にした出題がされた。
しかし、この問題は、空知太判例を無視して書くことができた。
(「平成24年新司法試験論文式公法系第1問の感想と参考答案」参照)
だから、空知太判例を知らなくても、全く問題はなかった。
一方、本問は、新判例を避けて解答することができない。
このような場合があるから、重要な新判例は覚えておく必要がある。

判例を説明する上で、注意すべきことがある。
そもそも、行政計画の処分性は、なぜ認められにくいのか。
これは、法的効果が全然発生しないからではない。
発生する法的効果が、一般的抽象的なものに過ぎないからである。

最判昭57・4・22より引用、下線は筆者)

 都市計画区域内において工業地域を指定する決定は、都市計画法八条一項一号に基づき都市計画決定の一つとしてされるものであり、右決定が告示されて効力を生ずると、当該地域内においては、建築物の用途、容積率、建ぺい率等につき従前と異なる基準が適用され(建築基準法四八条七項、五二条一項三号、五三条一項二号等)、これらの基準に適合しない建築物については、建築確認を受けることができず、ひいてその建築等をすることができないこととなるから(同法六条四項、五項)、右決定が、当該地域内の土地所有者等に建築基準法上新たな制約を課し、その限度で一定の法状態の変動を生ぜしめるものであることは否定できないが、かかる効果は、あたかも新たに右のような制約を課する法令が制定された場合におけると同様の当該地域内の不特定多数の者に対する一般的抽象的なそれにすぎず、このような効果を生ずるということだけから直ちに右地域内の個人に対する具体的な権利侵害を伴う処分があつたものとして、これに対する抗告訴訟を肯定することはできない

(引用終わり)

従って、論点としては、行政立法や条例の処分性と類似の位置づけとなる。
立法によって権利制限が生じても、これを取消訴訟で争うことは通常できない。
それと同じような問題、ということである。
すなわち、処分とは、通常相手方が特定されている。
「○○株式会社に対する営業停止処分」というような感じだ。
しかし、行政計画は、そのような特定の名宛人に対してするものでない。
だから、処分といえないのではないか、ということである。

ただ、通常の勉強では、直接的法的効果の発生、と覚えている。
試験現場で都市計画法をみると、計画決定の段階で、建築制限という効果が発生している。
なのに、なぜ処分性が否定されるのか。
現場で、疑問が生じてしまった人も、いたのではないか。
そのような疑問が生じてしまうと、説明が難しくなる。
この処分の個別性が、判断基準となることに気付けるか。
これが、ここでのポイントとなる。
これについては、一応問題文上ヒントがある。
問題文の資料には、都市計画法施行規則が挙がっている。

(問題文から引用、下線は筆者)

○ 都市計画法施行規則(昭和44年8月25日建設省令第49号)(抜粋)

第47条 法第60条第3項(中略)の規定により同条第1項(中略)の申請書に添附すべき書類は,それぞれ次の各号に定めるところにより作成(中略)するものとする。

一 事業地を表示する図面は,次に定めるところにより作成するものとする。

イ 縮尺50000分の1以上の地形図によつて事業地の位置を示すこと。
ロ 縮尺2500分の1以上の実測平面図によつて事業地を収用の部分は薄い黄色で,使用の部分は薄い緑色で着色し,事業地内に物件があるときは,その主要なものを図示すること。
 収用し,若しくは使用しようとする物件又は収用し,若しくは使用しようとする権利の目的である物件があるときは,これらの物件が存する土地の部分を薄い赤色で着色すること。

二 設計の概要を表示する図書は,次に定めるところにより作成するものとする。
イ 都市計画施設の整備に関する事業にあつては,縮尺2500分の1以上の平面図等によつて主要な施設の位置及び内容を図示すること。
ロ (略)

(引用終わり)

なんで、わざわざ細かい色分けの規定なんかが挙がっているのか。
現場で、疑問を持った人もいただろう。
これは、上記の処分の個別性に対応する規定である。
個別に、どういう扱いになるのか。
それが、明示されている、ということである。
この点は、最大判平20・9・10でも理由付けとして挙がっている。

最大判平20・9・10より引用、下線は筆者)

 土地区画整理事業の事業計画は,施行地区(施行地区を工区に分ける場合には施行地区及び工区),設計の概要,事業施行期間及び資金計画という当該土地区画整理事業の基礎的事項を一般的に定めるものであるが(法54条,6条1項),事業計画において定める設計の概要については,設計説明書及び設計図を作成して定めなければならず,このうち,設計説明書には,事業施行後における施行地区内の宅地の地積(保留地の予定地積を除く。)の合計の事業施行前における施行地区内の宅地の地積の合計に対する割合が記載され(これにより,施行地区全体でどの程度の減歩がされるのかが分かる。),設計図(縮尺1200分の1以上のもの)には,事業施行後における施行地区内の公共施設等の位置及び形状が,事業施行により新設され又は変更される部分と既設のもので変更されない部分とに区別して表示されることから(平成17年国土交通省令第102号による改正前の土地区画整理法施行規則6条),事業計画が決定されると,当該土地区画整理事業の施行によって施行地区内の宅地所有者等の権利にいかなる影響が及ぶかについて,一定の限度で具体的に予測することが可能になるのである。

(引用終わり)

計画決定の段階における建築制限は、区域内一般に対する規制である。
だから、個別の処分とはいえない。
他方、事業計画が認可されて施行される段階では、収用又は使用の対象が明らかとなる。
この土地は収用される、この土地は収用されない。
そういったことが、上記の色分け等で個別に明らかにされる。
しかも、認可後は、通常そのまま収用又は使用の段階へ進む。
だから、それぞれの対象土地の地権者等に対する個別の処分と観念できるわけである。

条文を探して当てはめる

設問2は、計画存続の適法・違法を問う問題である。
そもそも、何を根拠に違法となるのか。
そのことが、問題文上は明らかにされていない。
そこで、まずはその根拠条文を探す作業から始める必要がある。
資料の都市計画法を順にみていくと、21条1項が見つかる。

(問題文より引用、下線は筆者)

第21条 都道府県又は市町村は,都市計画区域又は準都市計画区域が変更されたとき,第6条第1項若しくは第2項の規定による都市計画に関する基礎調査又は第13条第1項第19号に規定する政府が行う調査の結果都市計画を変更する必要が明らかとなつたとき,(中略)その他都市計画を変更する必要が生じたときは,遅滞なく,当該都市計画を変更しなければならない

(引用終わり)

変更する必要が生じたときは、変更しなければならない。
だとすれば、変更する必要が生じたのに変更しなければ、違法だろう。
これが、違法の直接の根拠になる条文だとわかる。
他には、直接の根拠になりそうな条文はない。
従って、「変更する必要」の有無を検討することになる。

ただ、問題文には「都市計画法の関係する規定を挙げながら」とある。
21条1項だけ、ということはないだろう。
そこで、他に関係しそうな条文を探すと、13条がある。

(問題文より引用、下線は筆者)

(都市計画基準)
第13条 都市計画区域について定められる都市計画(中略)は,(中略)当該都市の特質を考慮して,次に掲げるところに従つて,土地利用,都市施設の整備及び市街地開発事業に関する事項で当該都市の健全な発展と秩序ある整備を図るため必要なものを,一体的かつ総合的に定めなければならない。(以下略)

一〜十 (略)

十一 都市施設は,土地利用,交通等の現状及び将来の見通しを勘案して,適切な規模で必要な位置に配置することにより,円滑な都市活動を確保し,良好な都市環境を保持するように定めること。(以下略)

十二〜十八(略)

十九 前各号の基準を適用するについては,第6条第1項の規定による都市計画に関する基礎調査の結果に基づき,かつ,政府が法律に基づき行う人口,産業,住宅,建築,交通,工場立地その他の調査の結果について配慮すること。

(引用終わり)

都市施設(道路を含む)の整備についての考慮事情である。
これは、変更する必要を判断する考慮事情として、考えることになる。

※なお、5条は都市計画区域の指定に関するものであり、直接関係がない。
本問で問題となっているのは、計画区域の変更ではなく、計画道路の区域の変更である。
都市計画法53条の制限は、「都市計画施設の区域」に生じる。
計画区域全域に生じるものではない。
都市計画に関するイメージが湧かないという人は、下記の国交省HPを参照するとよい。
(「みんなで進めるまちづくりの話」)

個別法の解釈適用については、裁量論が絡んでくる。
とはいえ、これに深入りするのは避けたい。
例えば、適法とする法律論は、自由裁量。
違法とする法律論は、覊束裁量。
自説は逸脱濫用の検討。
これでもよいが、どうしても形式的な議論になる。
一方で、当てはめが薄くなってしまう。
むしろ、逸脱濫用の問題を前提にして、当てはめ勝負にした方が書きやすい。

当てはめについては、まず、Q県のいう存続の理由を問題文から読み取る。
大きく分けて二つ。
将来の交通需要の推計と、基準道路密度である。
地元の主張は、交通需要の推計の根拠となっている。
(地元の主張があるから道路を作るべきだ、とは直接には言っていない点に注意。)

(問題文より引用、下線は筆者)

 Q県は,b地点とc地点の間の交通需要が2030年には2010年比で約40パーセント増加するものと推計し,この将来の交通需要に応じるために,本件計画道路の区間や幅員を縮小する変更をせずに本件計画を存続させている。もっとも,Q県が5年ごとに行っている都市計画に関する基礎調査によれば,R市の旧市街地に位置するc地点の付近において事業所及び人口が減少する「空洞化」の傾向が見られ,b地点とc地点の間の交通量は1990年から漸減し,2010年までの20年間に約20パーセント減少している。しかし,c地点の付近で営業する事業者の多くは,空洞化に歯止めを掛けて街のにぎわいを取り戻すために,本件区間を整備する必要があると,Q県に対して強く主張し続けている。こうした地元の主張に配慮して,Q県も,本件区間の整備を進めれば,c地点付近の旧市街地の経済が活性化し,それに伴いb地点とc地点の間の交通需要が増えていくと予測して,上記のように将来交通需要を推計している
 あわせて,Q県は,本件区間を整備しないと,本件区間付近において道路密度(都市計画において定められた道路の1平方キロメートル当たりの総延長)が過少になることも,本件区間について縮小する変更をせずに本件計画を存続させることの理由に挙げている。Q県は,道路密度が,住宅地においては1平方キロメートル当たり4キロメートル,商業地においては1平方キロメートル当たり5キロメートルは最低限確保されるように(これらの数値を,以下「基準道路密度」という。),道路に係る都市計画を定める運用をしている。本件区間付近は,住宅地及び本件土地のような商業地から成るが,いずれにおいても,本件区間を整備しないと,道路密度が基準道路密度を1キロメートル前後下回ることになるため,Q県は本件計画をそのまま存続させる姿勢を崩していない

(引用終わり)

従って、適法とする側は、この二つを強調することになる。
違法とする側は、逆にこの二つを攻撃する。
推計については、基礎調査にそぐわない点。
それから、地元の主張に配慮して推計した点の不当性を挙げる。
道路基準密度については、一般的な目安に過ぎない点。
それから、全体の密度の向上は、本件計画道路以外の道路の整備でも可能であること。
そういったことを主張することになる。

覚えなくてよい判例

設問3は、適法な場合だから、損失補償である。
ここは、判例(最判平17・11・1)がある。
予備校等では、上記判例と藤田補足意見を前提にして解答例等を出している。
しかし、これは後だしジャンケンである。
上記判例は、設問1の大法廷判決と異なり、覚えるような判例ではない。
このような判例まで追いかけるようになると、かえって受かりにくくなる。
むしろ、この判例を知らなくても、正しく解答できる能力を身につける必要がある。

本問では、まず、資料の都市計画法に、補償規定があるかをみる。
69条と70条が、なんとなくそれっぽくみえる。
しかし、これは事業認可段階の規定である。
そうすると、現段階では、法律上の規定はない。
従って、憲法29条3項の直接請求ということになる。
ただ、現場では、ある程度わかってきても、迷う。
行政法なのに、憲法でいいのか。
何か見落としているのではないか。
実は、土地収用法の方に、何か規定があるのではないか。
69条、70条がわざわざ挙がっているので、なんとなく迷ってしまう。
(実際には、これはむしろ設問1の検討で使う条文である。)
とはいえ、土地収用法は、司法試験用法文に登載されていない。
土地収用法を使うなら、資料として挙がっているはずである。
そういうことから、憲法29条3項を書けばいい、と判断してよかった。

憲法29条3項の直接請求は、憲法の論点として、論証を用意しているはずである。
ただ、本問では、論証する余裕はほとんどない。
設問3は、配点が全体の2割しかない。
しかも、設問3内部でも、当てはめがメインであることがわかる。

(問題文より引用、下線は筆者)

〔設問3〕

 Q県が本件計画を変更せずに存続させていることは適法であると仮定する場合,PのQ県に対する本件支払請求は認められるか。請求の根拠規定を示した上で,請求の成否を判断するために考慮すべき要素を,本件に即して一つ一つ丁寧に示しながら答えなさい。

 

【資料1 法律事務所の会議録】

弁護士S:そのような本件支払請求が可能かどうかを検討する場合,いろいろな要素を考慮する必要がありますね。Pに有利な要素も不利な要素も一つ一つ示しながら,検討してください。請求の根拠規定やごく基本的な考慮要素も,丁寧に挙げてください。当然ながら,箇条書にとどめないでください。税法に関わる問題もありそうですが,その点は考慮しなくて結構です。

(引用終わり)

従って、憲法29条3項論は、短く規範だけ書く。
軸になる規範は、特定人に対するものか、受忍限度を超えるか、という2点。
あとは、細かく事実を拾って当てはめる。
問題文を最初から読み返して、関連しそうなものをどんどん拾っていく。
ただ、その中には、重要度の高低がある。
重要な点は、基本判例(名取川(河川附近地制限令)事件)で示された論理を落とさないことである。

すなわち、一般的制限の場合、原則として補償を要しない。
しかし、例外がある。
それは、従来から資本を投入して事業を営んできたような場合である。

最大判昭43・11・27(名取川事件)より引用、下線は筆者)

 河川附近地制限令四条二号の定める制限は、河川管理上支障のある事態の発生を事前に防止するため、単に所定の行為をしようとする場合には知事の許可を受けることが必要である旨を定めているにすぎず、この種の制限は、公共の福祉のためにする一般的な制限であり、原則的には、何人もこれを受忍すべきものである。このように、同令四条二号の定め自体としては、特定の人に対し、特別に財産上の犠牲を強いるものとはいえないから、右の程度の制限を課するには損失補償を要件とするものではなく、したがつて、補償に関する規定のない同令四条二号の規定が所論のように憲法二九条三項に違反し無効であるとはいえない。
 ・・もつとも、・・被告人は、名取川の堤外民有地の各所有者に対し賃借料を支払い、労務者を雇い入れ、従来から同所の砂利を採取してきたところ、昭和三四年一二月一一日宮城県告示第六四三号により、右地域が河川附近地に指定されたため、河川附近地制限令により、知事の許可を受けることなくしては砂利を採取することができなくなり、従来、賃借料を支払い、労務者を雇い入れ、相当の資本を投入して営んできた事業が営み得なくなるために相当の損失を被る筋合であるというのである。そうだとすれば、その財産上の犠牲は、公共のために必要な制限によるものとはいえ、単に一般的に当然に受忍すべきものとされる制限の範囲をこえ、特別の犠牲を課したものとみる余地が全くないわけではなく、憲法二九条三項の趣旨に照らし、さらに河川附近地制限令一条ないし三条および五条による規制について同令七条の定めるところにより損失補償をすべきものとしていることとの均衡からいつて、本件被告人の被つた現実の損失については、その補償を請求することができるものと解する余地がある

(引用終わり)

本問でいえば、本件建築制限は、一般的制限である。
では、従前からの事業ができなくなる場合なのか。
確かに、Pは従来から営んでいた商店をやめようとしている。
しかし、その原因は、本件建築制限にあるのではない。
持病の悪化と、本件建物の老朽化が原因である。

※本件建物は鉄骨2階建てであるから、都市計画法54条3号の許可要件を充たす。
従って、同じような建物を建てて、営業を継続することも可能である。
そういうことからすれば、主な原因は、持病の悪化にあるといえる。

そういうことからすれば、生業を奪われるような場合ではない。
これは、補償を否定する事情である。
この点は、一番挙げたい基本的要素である。
予備校等の解答例では、前記最判平17・11・1に引きずられて、この点を落としているものが多い。
瑣末な新判例に振り回されると、こういうことになる、という良い例である。
上記の観点からすると、マンション経営ができない点。
これは、新たな事業ができないだけだから、特別の犠牲ではない、ということになるだろう。

それから、鉄骨2階建てのバリアフリーの住宅というものが、わざわざ出ている。
これは、都市計画法54条3号をみると、許可要件を充たしそうである。
だとすれば、生活の本拠は奪われないから、特別の犠牲でない、といえる要素になる。
(わざわざバリアフリーであるのは、持病があっても生活に支障はない、という意味なのだろう。)
これも是非、挙げたい基本的な要素である。

※なお、同号ロには、「主要構造部(中略)が木造,鉄骨造,コンクリートブロツク造その他これらに類する構造であること。」とある。
「木造,鉄骨造,コンクリートブロツク造その他これらに類する構造」以外の構造とは何か。
疑問に思った人も、いたかもしれない。
これは、鉄筋コンクリート造の場合である。
だから、Pの作ろうとした鉄筋コンクリート8階建てのマンションは、ロの要件も充たさない。
(コンクリートブロック造とは、ブロック塀のようなものを想起するとよい。)

問題文では、「箇条書にとどめないでください」とされている。
ただ、紙幅のことも考えると、ある程度箇条書的になるのはやむを得ない。
それでも、単に事実の羅列とするのではなく、きちんと評価を付す。

また、「有利な事情」「不利な事情」を示せ、となっている。
これに対応して、項目を立てることも考えられる。
その方が、意識して双方の事情を挙げられるという利点はある。
ただ、そうすると、どうしても箇条書的になってしまう。
それから、コンパクトにまとめるのが難しい。
そういうことからすると、本問の場合には、まとめて書いた方が書きやすい。

配点からすると、設問3に割ける紙幅は1ページ強だろう。
だとすると、かなりコンパクトに書かないと、おさまらない。
構成段階で、そのことを意識し、一般論は短くする。
そういう判断が、必要だった。

本問は、書くべき事項自体は、わかりやすい。
そのため、ほとんどの人が、大筋を外さない答案を書いてくる。
こういう場合、安心してしまう人が多い。
「そこそこ書けたから、悪い点は付かないだろう」
そう考えてしまうからである。
しかし、得点調整後は、必ず一定の標準偏差で差が付く。
行政法だけ差が付かない、ということはない。
また、平均点は全科目平均点と等しくなる。
だから、平均点が他科目より上がるということもない。
(詳細は、「司法試験得点調整の検討」参照。)
結果的に、予想外の低い点数になることもある。
主観と客観のズレは、こういうところで生じている。

【参考答案】

第1.設問1

1.抗告訴訟の対象となる処分というためには、国民に対する直接的な法的効果の発生を要する。そこで、本件計画決定が処分性を根拠付けるに足りる法的効果を有するかを検討する。

2.処分性を根拠付ける法的効果というためには、処分の個別性、具体性及び個別の国民が自己の主観的利益を基礎として提訴する抗告訴訟の性質から、立法に準ずるような一般的、抽象的効果では足りず、個別の国民に対する具体的な法的効果でなければならない。

3.本件計画決定の効果として、Pは、本件建築制限を受けている。これに違反した場合、監督処分等の対象となり(都市計画法(以下「法」という。)81条)、これに従わなければ刑事罰(法91条)を受けるおそれがある。しかし、これはPを直接の名宛人として個別に生じたのではなく、本件計画道路の区域内に建築物を建築する場合に、一般的に知事の許可を要する(法53条)ことによる。このような一般的、抽象的な効果のみでは、処分性を根拠付けることはできない。

4.他方、道路に係る都市計画事業認可の段階では、建築等の制限(法65条)が生じるだけでなく、対象事業地が定められ、収用又は使用の別が具体的に色分けされた図面でもって明らかにされる(法60条2項1号、3項1号2号、法施行規則47条1号)。そして、事業の施行が認可されれば、特段の事情のない限り、対象区域内の土地の収用又は使用が当然に行われることになる(法69条、70条)。
 以上からすれば、事業の施行が認可されることによって、対象事業地として直接に示された土地の地権者等は、個別に収用又は使用を受けるべき地位に立たされるから、上記認可によって具体的な法的効果が発生するということができる。従って、上記認可には処分性がある。

5.この点、土地区画整理事業の事業計画の決定について、資料1記載の大法廷判決は、具体的な法的効果の発生を認めている。これは上記事業計画の決定につき、上記4で述べた都市施設に係る都市計画事業認可と同様の規律がされていることによる。従って、その射程は、当然に事業施行の前段階である都市計画決定には及ばない。
 また、上記大法廷判決は、事業計画の決定後の換地処分等を争ったとしても、事情判決(行訴法31条1項)がされる可能性が高く、救済として不十分であることも理由としている。これを道路に係る都市計画決定についてみると、上記4のとおり、道路に係る都市計画の事業施行の認可には処分性を認めることができ、都市計画決定後の事業計画認可の段階で争う場合には、いまだ事業に着手していない以上、事情判決の可能性が高いとはいえないから、都市計画決定の段階で争わせる必要性に乏しい。

6.以上からすれば、本件計画決定は、抗告訴訟の対象となる処分には当たらない。

第2.設問2

1.問題の所在

 Q県は、本件計画を変更する必要が生じた場合には、遅滞なく本件計画を変更しなければならない(法21条1項)。従って、上記変更の必要があるのに本件計画を存続させれば、同項違反の違法があることになる。
 上記変更の必要性の判断には、専門的、技術的知見を要するから、Q県に裁量がある。しかし、その裁量権の行使が、事実の基礎を欠き、又は著しく妥当性を欠く場合には、裁量権の逸脱・濫用として違法となる。
 従って、問題は、本件計画の存続が事実の基礎を欠き、又は著しく妥当性を欠くといえるかという点である。

2.適法とする法律論

 本件区間を整備すれば、b地点とc地点の間の交通需要が2030年に2010年比で約40パーセント増加するとの推計及び本件区間を整備しないと、道路密度が基準道路密度を1キロメートル前後下回ることになるという事実を踏まえれば、本件区間の道路整備はなお必要であると考えられるから、本件計画の存続が著しく妥当性を欠くとはいえない。

3.違法とする法律論

 都市施設の配置は基礎調査に基づくことが必要である(法13条1項11号、19号)のに、これを軽視し、地元の主張を過度に重視して将来の交通需要を推計し、基準道路密度を過度に重視して本件計画の存続の基礎としたことは、事実の基礎を欠き、著しく妥当性を欠く。

4.私見

(1)将来の交通需要を推計する趣旨は、現状で対応できるかを判断するためである。現状で対応できない需要の増加は、新たな整備の必要性を基礎付ける。ところが、Q県は本件区間の整備があった場合の交通需要を推計している。これは、上記趣旨からすれば、推計として意味がない。
 また、推計の根拠も明らかでない。地元の主張に配慮したというだけである。道路整備により道路需要の増加が見込めるのは、激しい渋滞等未整備により利用をためらわせる要因が存在する場合である。しかし、b地点からc地点までの区間は、もともとa地点からb地点までの区間のような渋滞緩和の必要性があったという事実はなく、上記要因の存在はうかがわれない。道路整備によって、2030年には2010年比で約40パーセント増加するとの推計は、事実の基礎を欠いている。
 そもそも、法は、都市施設の配置は、基礎調査の結果に基づくことを定めている(法13条11号、19号)。また、都市計画の変更の基本的な判断要素として、基礎調査の結果が例示されている(21条1項)。基礎調査の結果は交通量の減少を示しているのにこれを軽視し、地元の主張を重視して上記のような推計をすることは、上記法の趣旨にも反し、著しく妥当性を欠く。

(2)基準道路密度は、住宅地であるか商業地であるかという区分のみによって一定の道路密度を設定しており、個々の地域の交通需要等を反映していない。また、飽くまで一定の区域における道路の必要性を示すに過ぎず、当該道路の必要性とは無関係である。なぜなら、当該道路でなくとも、別の場所に道路を整備することによっても、道路密度を向上させることは可能だからである。
 本件計画につき、1970年から現在まで、事業施行の具体的準備や検討さえ一切行われず、将来的にも財政上施行はますます困難であって、実現可能性がないのみならず、上記(1)のとおり、現在では本件計画道路の必要性を基礎付ける事実を欠く以上、基準道路密度のみを理由として、本件計画の存続を基礎付けることは著しく妥当性を欠く。

(3)よって、本件計画の存続は、裁量権の逸脱又は濫用として違法である。

第3.設問3

1.本件計画の存続が適法であれば、国家賠償請求はできない。また、いまだ本件土地の収用又は使用が行われていない以上、土地収用法に基づく損失補償もできない。そこで、直接憲法29条3項に基づく損失補償請求を検討する。

2.公共のために必要な制限によって特別の犠牲を被った者は、憲法29条3項を直接の根拠として、損失補償を求めることができる(名取川事件判例参照)。特別の犠牲の判断に当たっては、特定人を対象とするか、受忍限度を超える犠牲であるかという点から判断すべきである。

3.本件支払請求につき、これを検討する。

(1)公共のために必要な制限

 本件建築制限は、いまだ公的収用とはいえない。しかし、本件計画道路の整備を目的とするものであって、公共のために必要な制限であるといえる。

(2)特定人を対象とするか

 本件建築制限は、Pのみを対象とするものではなく、本件計画道路の区域内の者に一般的に生じるものであるから、特定人を対象とするものとはいえない。もっとも、それがPに対しては格別に受忍限度を超えるものとして作用する場合には、なお特別の犠牲と解する余地がある。

(3)受忍限度を超える犠牲であるか

ア.本件建物は既に老朽化しているから、建替えの必要性が高い。持病が悪化して商店の営業が困難なPにとって、マンション経営ができないとなると、老後の生活を維持することが難しい。さらに、本件土地の地価は、本件建築制限により低落するから、客観的な損失も生じている。しかも、この制限は、1970年以降長期にわたって受けている。以上からすれば、それなりの犠牲が生じている。

イ.しかし、Pが考える鉄骨2階建てのバリアフリーの住宅であれば、法54条3号の許可要件を充たすものとして建築可能であるから、Pが生活の本拠を失うといった事態は生じない。また、Pが商店の営業をやめようとした原因は、持病の悪化と本件建物の老朽化にある。すなわち、Pは、本件建築制限によって従前の生業を奪われたわけではない。新たにマンション経営ができないことは、従前の生業をはく奪する場合と比べれば、軽微である。確かに、地価の下落は生じるが、本件土地の転売を予定していないPにとって、強度の犠牲とはいいにくい。さらに、Pは1970年以降、継続して本件建築制限を受けたといっても、マンションへの建替えを検討し始めたのはごく最近であるから、継続的に損失を被ったとはいえない。これらの要素からすれば、受忍限度を超える犠牲であるとまではいえない。

(4)結論

 以上から、Pには特別の犠牲があるといえない。

4.よって、本件支払請求は認められない。

以上

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