平成24年司法試験論文式
民事系第1問の感想と参考答案

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基本と応用の区切りのはっきりした問題

論文合格のために必要なことは、基本事項を漏らさず書くこと。
すなわち、誰もが書ける部分をしっかり書く、ということに尽きる。
従って、普段の勉強は、誰もが書ける部分の理解、記憶の質を高める。
そういう方向でなければならない。
そして、問題文を見たときに、どこが基本で、どこが応用か。
それを見分ける必要がある。

本問は、比較的その判断が容易な問題だった。
設問1(1)は、177条の「第三者」、共同相続と登記。
設問1(2)は、長期取得時効の成立要件。
設問2は、制限種類債権の性質、債権の競合の処理、共有物分割。
設問3は、無償寄託の注意義務、416条論である。
これらが無難に書けていれば、合格レベル。
基本を落とさないという発想があれば、これらに気付くのは容易だった。
他方で、これらを落として、細かい議論やその場の思いつきを書き始めると、評価を落としていく。

基本論点は理由付けを書く

設問1(1)は、二つポイントがある。
まず、甲土地のうち、D相続部分と、E相続部分。
これらを、分けて考える必要があること。
それから、甲土地の登記が、現在どうなっているのか。
それが、明示的には示されていない点である。

甲土地の登記については、事実1で、C名義とある。
しかし、その後、特に記述がない。
だから、Cのままなんだろう。
そう考えた人が、多かったのではないか。
基本的には、それで問題はない。
ただ、それを当然の前提として解いて欲しい場合は、そう明示がある。
「いまだ、登記はC名義のままである」等の記述が、問題文上明示される。
それがない場合は、一応登記を具備する可能性について、念頭に置くべきである。
すなわち、Fが登記を具備する場合と、具備しない場合の両方を一応考えてみる。
(常に答案上場合分けをする、という意味ではない。)

Dの相続部分については、Fが共有持分を承継取得する。
D→B→A→Fという流れで、これは問題がない。
では、これをEに主張できるか。
登記があれば、当然主張できるだろう。
ならば、登記がない場合は、どうか。
EはDの相続部分については無権利だから、主張できる。
これは、177条の「第三者」論である。
言われれば、誰もが書ける部分である。
だから、これは書く、と判断する。

Eの相続部分については、Dが勝手に譲渡している。
Eは、これを登記なくしてFに対抗できるか。
Fの側からすれば、甲土地全体の登記を具備して、Eに優先できるか。
そういう問題ということになる。
これは、共同相続と登記の問題だ。
これも、誰もが知っている基本論点である。
だから、これも書く。

最近では、基本論点であるのに、理由付けをしない人が多い。
これで、随分損をしている。
(最近では、予備校の模範答案すら理由付けがないので、驚かされる。)
基本論点は、それがメインで訊かれているのであれば、論証すべきである。

ここで差が付くのは、この論点を拾ったか。
拾ったならば、理由付けがされているか。
この2点である。

入り口の基本で稼ぐ

設問1(2)は、現場ではとまどう問題である。
ただ、議論の前提となる長期取得時効の要件。
これが、基本に属することは、容易に判断できる。
短答の知識としても、ほとんどの人が知っているだろう。
だから、ここは正確に、条文を挙げて書きたい。
慌てていると、こういうところを雑に書いて、やられることになる。
入り口で稼ぐというのは、論文ではよくある。
例外要件を問う問題で、原則部分をしっかり書いて稼ぐ、というのも、同じ発想である。
なお、援用の要否は典型論点であるが、本問と直接関係がない。
従って、ここは論証せず、停止条件説を前提にしてよいだろう。

問題の下線部の意義であるが、当たり前の部分から考えていくとよい。
すなわち、Aが売買によって占有を開始したことを意味する。
これは、所有の意思(自主占有性)と、平穏公然性を基礎付ける。
ここは、もともと186条1項で暫定真実とされる。
とすれば、暫定真実とされる以上に、積極的に上記が基礎付けられるという意味になる。
この程度なら、誰でも書けるだろう。

※ここで、要件事実を書きたがる人がいる。
相手方の反証は抗弁だ、下線部の主張は、その再抗弁だ、という感じである。
しかし、本問では、具体的な訴訟として示されていない。
であるのに、なぜ「抗弁」や「再抗弁」であると確定できるのか。
Fが原告でEが被告なら、取得時効の主張は請求原因になる。
だから、Eの反証は抗弁となる。
Eが原告でFが被告なら、取得時効の主張が抗弁となるだろう。
だから、Eの反証は再抗弁だろう。
また、争い方によっては、売買の事実が別の理由で顕れる場合もあるだろう。
具体的な訴訟にもなっていないのに、要件事実を云々するのは、適切でない。
また、本問で、要件事実の細かい知識は、基本事項ではない。
従って、こういうところを書きに行こうとする発想自体、問題である。

もう一つは、占有の承継(187条1項)を基礎付けるということである。

※占有の移転は引渡しによる。
売買によって移転するわけではない。
その意味では、売買は、占有の承継を直接基礎付けるわけではない。
ただ、本問のAは、甲土地を柵で囲っているが、これは勝手に土地を占拠したのか。
そうではない。
売買に基づいて現実の引渡し(182条1項)を受けたからである。
そのことが、売買の事実によって、明らかになるということである。

本問では、A独自の占有だけでなく、Dからの占有を併せて主張することが考えられる。
その場合には、売買の事実は占有の開始ではなく、承継を基礎付けることになる。
これも、気付けば誰もが書ける内容であるから、書く。
時効の起算点いかんによって、2面的な意義を持つことが、本問のポイントである。

なお、本問では、Dの認識やEの対応が明らかでない。
DがEの存在を認識し、またはEが異議を述べていた場合には、Dは他主占有となる余地がある。

最判昭47・9・8より引用、下線は筆者)

 共同相続人の一人が、単独に相続したものと信じて疑わず、相続開始とともに相続財産を現実に占有し、その管理、使用を専行してその収益を独占し、公租公課も自己の名でその負担において納付してきており、これについて他の相続人がなんら関心をもたず、もとより異議を述べた事実もなかつたような場合には、前記相続人はその相続のときから自主占有を取得したものと解するのが相当である。

(引用終わり)

その場合には、Dの占有の承継を主張しても、時効取得できない。
占有の承継を主張する場合には、瑕疵も承継するからである(187条2項)。
ただ、仮にそうであっても、占有の承継という性質に変化はない。
従って、取り立ててこの点を論じる必要はないだろう。

※不思議と、売買が185条の新権原だ、と誤解している受験生が多い。
これは、占有継続中の自主占有への転換と、固有の占有の主張との混同である。
すなわち、占有の性質は、占有開始の時点の態様によって決まる。
だから、途中で所有の意思を持つに至ったとしても、原則他主占有のままである。
ただ、185条の要件を充たす場合には、例外的に自主占有への転換が認められる。
これが、185条の存在する意味である。
しかし、本問のAは、売買によって占有を開始している。
占有開始当初から、自主占有であることが明らかである。
他方、D→B→A→Fの占有の承継を認める場合、確かに転換を論じる余地もありそうにみえる。
前記のように、Dの占有が他主占有となる場合があるからである。
しかし、その場合には、Aの占有のみを主張(187条1項)すれば足りる。
従って、新権原云々を論じる余地はない。

なお、他主占有者の相続人が自己の占有を主張する場合は、所有の意思を積極的に立証すべきとされる。
(すなわち、186条1項によって暫定真実とされない。)

最判平8・11・12より引用、下線は筆者)

 他主占有者の相続人が独自の占有に基づく取得時効の成立を主張する場合において、右占有が所有の意思に基づくものであるといい得るためには、取得時効の成立を争う相手方ではなく、占有者である当該相続人において、その事実的支配が外形的客観的にみて独自の所有の意思に基づくものと解される事情を自ら証明すべきものと解するのが相当である。けだし、右の場合には、相続人が新たな事実的支配を開始したことによって、従来の占有の性質が変更されたものであるから、右変更の事実は取得時効の成立を主張する者において立証を要するものと解すべきであり、また、この場合には、相続人の所有の意思の有無を相続という占有取得原因事実によって決することはできないからである。

しかし、これは相続による場合、外形上占有の態様に変更がないからである。
判例が、「所有の意思の有無を相続という占有取得原因事実によって決することはできない」ことを理由としていることからも、明らかだろう。
本問のように、売買の場合には、このことは当てはまらないと思われる。
また、そもそも、この判例は、誰もが知っている知識ではない。
これを書きに行くと、かえって失敗すると思っておいた方がよい。

短答では、この辺りの帰結は知識として知っている。
しかし、条文を引けない、という人は多い。
本問では、条文を引いて正確に説明できたかどうかが、評価を分けるだろう。

正解を探すのではなく、書くべき基本事項を探って結ぶ

設問2は、応用だとすぐにわかる。
基本書をきちんと勉強している人は、混蔵寄託は詳しく書いていなかった。
すなわち、基本事項ではない、と判断できる。
これが、基本書を勉強する重要な意味の一つである。
予備校本だと、「俺は知らないけど、ひょっとしたら基本書には書いてあるかも」と不安になるようだ。
実際には、予備校本に書いてないと、大体基本書にも書いていない。
だから、予備校本でも、支障はない。
とはいえ、どうしてもそういう不安があるなら、基本書を使った方がよい。

そういうわけで、本問は混蔵寄託(混合寄託)を知らなくても解ける。
現場で、そう判断すべきである。
とはいえ、何をどう書いていいのか。
こういうときに、理論を軸にしてどんどん深く検討するのはよくない。
書くべき事柄から、どんどん離れていってしまう。
ヒントになるのは、触れるであろう基本部分である。
これらを、まずは断片的に拾ってみる。

例えば、「和風だし」は制限種類物であること。
すなわち、FとGのどちらの分が盗まれたのか特定できない。
また、Gに1000箱を渡すと他から調達できず、Fに対しては全部履行不能となる。
それから、共有関係に属すること。
すなわち、全部Gに引き渡すと、Fの共有持分が侵害されそうだ。
問題文が「Eの主張に留意」とあるから、ここは是非書きたい。
また、Gは、共有物分割請求(256条1項本文)ができそうだ。
こういったことである。
これらのことは、言われればそうだよな、というような基本事項である。
(共有物分割は、忘れていても、現場で条文を引けば気付く。)

上記をうまく結んで、一応の結論が出せれば、合格レベルだろう。
そして、入り口は、契約書6条の返還請求だということも、すぐわかる。
ここから、上記をうまく書ききるには、どういう構成がありうるか。
現場で、素早く考える。

一つの筋としては、上記を素直に書く方法がある。
すなわち、債権的請求(6条による請求)としては、1000箱全部請求できる。
Fとの関係では全部履行不能になるが、やむを得ない。
それは、二重譲渡の場合に早い者勝ちになるのと同じだ。
そういう理屈を立てる。
また、物権的請求として、共有物分割請求ができるとする。
この場合には、持分に応じて500箱までだ、ということになる。
おそらくは、これでも合格レベルだろう。

ただ、実際には、Hが1000箱全部の引渡しに応じるのは無理である。
500箱相当分は、Fの持分に属するからである。
この部分については、Hに処分権がないから、引渡しに応じることはできない。

※ここで、債権関係と物権関係は別だから、共有持分侵害は債権請求との関係では考慮すべきでない。
そう考えてしまいそうになる。
確かに、他人物売買も有効である(560条)。
売主は、他人物だから引渡義務がない、とは言えない。
しかし、それは飽くまで権利者から権利を譲り受けて引き渡す義務である。
買主は、他人物のまま引き渡してもらう権利までは有しない。
売主が、権利者から権利を取得できない場合、履行不能となる。
本問でも、同様に、Fの持分相当分である500箱は、引き渡せない。
その意味で履行不能だ、と構成することは可能である。
(履行不能部分はHの帰責事由によるから、損害賠償請求権に転化する。)
このように書いて、債権請求と物権請求の平仄を合わせる筋は、あり得るだろう。

そもそも、共有なのになぜ、6条は引渡しを認めるのか。
すなわち、通常、共有物は勝手に分離して他に処分できない。
これは共有物の変更であり、全共有者の同意を要する(251条)。
なのに、なぜ4条で共有を確認しつつ、6条は同意を要件としないのか。
この部分に気付けば、6条は共有物分割請求のことではないか。
そういう発想に行き着くことになる。
このように考えれば、債権関係と物権関係を整合的に説明できる。

※4条は、識別不能や主従の区別、価格を問わない点で、民法の特則ともいえる。

(民法、下線は筆者)

243条 所有者を異にする数個の動産が、付合により、損傷しなければ分離することができなくなったときは、その合成物の所有権は、主たる動産の所有者に帰属する。分離するのに過分の費用を要するときも、同様とする。

244条 付合した動産について主従の区別をすることができないときは、各動産の所有者は、その付合の時における価格の割合に応じてその合成物を共有する。

245条 前二条の規定は、所有者を異にする物が混和して識別することができなくなった場合について準用する

従って、箱の製品番号等の記載や保管の位置関係等でFのものかGのものかを厳密には識別可能でも、共有になる。
他方、本問の契約では対象が「和風だし」に限定されている(1条)。
すなわち、主従の区別は生じようがない。
また、価格も同一だから、結局数量に応じた共有となる。
その意味では、この部分は注意規定ということになるだろう。

なお、6条が共有物分割だとすると、請求した寄託者のみについての一部分割ということになる。
そんなことが、できるのか。
できるとする判例が、実は、憲法で有名な森林法事件判例である。

最大判昭62・4・22(森林法事件)より引用、下線は筆者)

 共有者が多数である場合、その中のただ一人でも分割請求をするときは、直ちにその全部の共有関係が解消されるものと解すべきではなく、当該請求者に対してのみ持分の限度で現物を分割し、その余は他の者の共有として残すことも許されるものと解すべきである。

(引用終わり)

6条は、このような分割方法を指定する特約、ということになる。
(この点は、基本事項を外れるので、指摘できなくても問題ない。)

微妙な論点は短く、典型はきちんと書く

設問3は、帰責事由の認定と、416条論である。
帰責事由の認定の段階で、気になる部分がある。
それは、「山菜おこわ」の寄託は、「和風だし」の寄託に付随するものではないか。
すなわち、契約書2条2項により「山菜おこわ」についても、善管注意義務となるのではないか、という点である。
しかし、この点は、典型論点ではない。
正面から訊いている、という感じでもない。
だとすれば、簡単に書けば足りる。
1条に「和風だし」と書いてあること。
5条で、保管料を払うと書いてあること。
このことから、別個の無償寄託だ、と認定すれば足りるだろう。
他方、「和風だし」の寄託を受けて丙建物が有効活用されていることが、無償の理由だった。
すなわち、「和風だし」の寄託が主で、「山菜おこわ」が従の関係にある。
だから、前者の寄託契約に後者も含まれる。
そういったことを簡単に指摘して、善管注意義務を肯定してもよいだろう。
なお、無償寄託の注意義務が軽減されている(659条)ことは、基本事項である。
従って、地味にみえるが、これを落とすと評価に影響するだろう。

後は、施錠を忘れたことが注意義務違反となるか。
これは、自己物と同一の注意すら欠いているといえるだろう。
自宅や自分の倉庫ですら、普通は施錠するからである。
従って、注意義務の程度をどう考えても、債務不履行は成立することになる。

416条論は、典型論点である。
だから、理由付けも含めて、通説の立場を論証し、当てはめる。
結論的には、否定が自然だろう。
ただ、特別事情の予見可能性を否定するのか。
予見可能性は肯定した上で、特別事情から通常生じる損害でないとするか。
これは、どちらもあるだろう。
施錠忘れという不履行から、直ちに盗難→交渉打切りとなることまで予見できるか。
微妙である。
しかも、たまたま訪れた際に、雑談的に話したに過ぎない。
これをもって、予見せよというのもどうなのか、という気はする。
こういったことを指摘して、予見可能性を否定してもよいだろう。
ただ、一方で、全く予見しえないか、というと、そうでもない。
管理が不十分で盗難にあえば、取引が破談になることもあり得る。
その程度のことは、予見できそうだといえば、そうだという感じもする。
受験戦略的には、後述の通常生じる損害かを検討したい。
そういう意味では、ここは肯定しておく方がよいといえる。

予見可能性を肯定した場合には、次に、損害発生の通常性。
すなわち、交渉打切りから、全店舗の取扱いにより得られる利益を失った損害は、通常生じるか。
これを検討することになる。
全店舗の取扱いは、評判が良ければ、という条件付きのことである。
本来当然得られたはずの逸失利益、とはいえないだろう。
この点は、否定するのが素直である。
そうでないと、盗難されたことで、Fは労せずして全店舗展開分の利益を得られることになる。
さすがにそれはおかしい、という感じだ。
とはいえ、全店舗に展開する可能性を奪われた部分につき、何ら賠償は要らないのか。
その疑問が残ることは、確かである。
その点を捉えて、賠償範囲に含むとした上で、過失相殺的に調整する。
そういう余地も、ないわけではないだろう。
しかし、答案上は、そのように踏み込むのは、かえって危険である。
無難に否定しておけば、足りるだろう。

※特別事情における予見可能性の対象は、損害ではなく、当該事情である。

(民法416条2項、下線は筆者)

 特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見し、又は予見することができたときは、債権者は、その賠償を請求することができる。

また、特別事情から生じた損害は、全て賠償の範囲になるのではない。
当該事情から通常生じる損害だけが、賠償の範囲となる。

(民法416条、下線は筆者)

 債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。

2 特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見し、又は予見することができたときは、債権者は、その賠償を請求することができる。

上記1項の「損害」に、特別の事情によって生じた損害も含まれる場合を示したのが、2項である。
(1項の「これ」は、文理上債務不履行を指すから、通常事情とは債務不履行そのものともいえる。
つまり、債務不履行だけからは通常生じないような損害が、特別事情による損害である。)
だから、予見可能性がある場合には、1項に「特別の事情によって」を代入できる。
そうすると、

 債務の不履行に対する損害賠償の請求は、特別の事情によって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。

となる。
従って、「通常生ずべき」が特別の事情によって生じる損害にもかかる。
だから、特別事情による損害でも、当該事情から通常生ずべきものでない場合には、賠償の範囲に含まれない。

当てはめについては、多くの人が同じようなことを書く。
他方、416条論は、結論だけしか書かない人が多いだろう。
従って、ここは理由付けを書いたかどうかで、差が付くことになる。

【参考答案】

第1.設問1

1.小問(1)

(1)問題の所在

 甲土地は、C死亡時において、D及びEが、それぞれ1:1の割合で相続した(882条、887条1項、896条本文、900条4号)。その後、Fは、甲土地について、Dを相続したBから買い受けたAを相続した。不動産に関する物権の得喪・変更を第三者に対抗するには登記を要する(177条)ところ、甲土地のうち、Dの相続部分は、その持分を承継取得したFが、登記なくしてEにこれを対抗できるかが問題となり、他方、Eの相続部分は、Fにおいて先に所有権移転登記を具備すれば、Eに優先できるかが問題となる。

(2)Dの相続部分について

 177条の趣旨は正当な権利者間の調整にあるから、「第三者」とは、登記の欠缺を主張する正当な利益を有する者をいう。
 Eは、Dの相続部分については無権利者であるから、これを承継取得したFに対して登記の欠缺を主張する正当な利益を有しない。
 よって、Fは、甲土地のうちDの相続部分につき、Eに対して、登記なくしてその所有権(共有持分)が自己にあることを主張できる。

(3)Eの相続部分について

 共同相続人の1人が、自己の持分を超えて第三者に相続不動産を譲渡した場合、他の共同相続人は、自らの持分については、登記なくして譲受人に対抗することができる。なぜなら、持分を超える部分については当該相続人は無権利であるし、遺産分割までの間に登記を要求するのは酷だからである。
 本問では、共同相続人のDを相続したBが、その持分を超えて甲土地全体をAに売り渡したのであるから、他の共同相続人であるEは、Aを相続したFに対し、登記なくしてEの共有持分を対抗できる。
 よって、Fは、甲土地のうちEの相続部分については、たとえ所有権移転登記を具備したとしても、所有権が自己にあるとは主張できない。

2.小問(2)

(1)長期取得時効の要件

 長期取得時効が成立するには、20年の占有継続のほか、所有の意思及び平穏公然性(162条1項)並びに援用(145条、停止条件説)を要する。
 もっとも、所有の意思及び平穏公然性は暫定真実とされ(186条1項)、占有の継続については、前後の両時点の立証があれば、その間の占有継続が推定される(同条2項)。

(2)事実3下線部の意義

ア.A及びFの占有を基礎とする場合

 事実3下線部は、Aが、売買によって甲土地の占有を開始したことを示すから、上記暫定真実としての意味以上に、積極的に所有の意思及び平穏公然性を基礎付ける法律上の意義を有する。

イ.D、B、A及びFの占有を基礎とする場合

 事実3下線部は、Aが、Bから甲土地の売買に基づいて現実の引渡し(182条1項)を受け、占有を承継したことを示すから、Fにおいて、187条1項によりD及びBの占有をも併せて主張しうることを基礎付ける法律上の意義を有する。

第2.設問2

1.Gは、「和風だし」1000箱をHに寄託したから、同量の返還を請求できるとして、別紙契約書6条に基づき、その返還を求めている。
 これに対し、Eは、1000箱全部を引き渡せば、Fの共有持分を侵害するとして、これを拒んでいる。

2.「和風だし」は、種類及び品質が同一であり、包装も均一であることから、その個性は問題とならない。従って、丙建物にはいまだ1000箱の「和風だし」が現存する以上、Hは、Gにその引渡しをしなければならないようにも思われる。
 他方で、「和風だし」は、既に製造した2000個以外に存在しないから、Eは新たに調達できない。従って、Gに1000箱を引き渡せば、Fに対する引渡義務は全て履行不能となる。
 別紙契約書6条の請求を純粋な債権的請求と解すると、上記の帰結もやむを得ないという余地がある。なぜなら、債権には排他性はないから、債権が競合する場合には、事実上先履行を受けた者が優先するのもやむを得ないからである。

3.もっとも、丙建物の「和風だし」は、契約上各寄託者の共有に属することが確認されている(別紙契約書4条、なお民法245条参照)。他方で、6条は寄託物の返還を認めている。引渡しは、共有物の変更(民法251条)に当たり、他の共有者全員の同意を得なければできないはずである。にもかかわらず、別紙契約書6条は、他の寄託者の同意を要件とすることなく、その返還を認めている。その趣旨は、当該返還請求が共有物分割請求(民法256条1項本文)の性質を有することを前提に、その分割方法として、各寄託者による一部分割によるものとする点にあると解される。従って、別紙契約書6条にいう「寄託者の寄託に係るもの」とは、当該寄託者の共有持分をいうと解すべきである。

4.そうすると、FとGは、それぞれ1000箱をHに寄託したから、Gの持分は5割である(別紙契約書4条)ところ、現に丙建物に存在する「和風だし」は1000箱であるから、「寄託者の寄託に係るものと同一数量のもの」とは、500箱の「和風だし」ということになる。

5.よって、Gのする「和風だし」1000箱の引渡請求は、500箱の引渡しの限度で認められる。

第3.設問3

1.債務不履行の成否

(1)「山菜おこわ」に係る寄託契約は、保管場所が「和風だし」に係る寄託契約と同一の丙建物であるが、「和風だし」に係る寄託契約は、有償であり(別紙契約書5条)、その目的物は「和風だし」に限られる(同1条)から、「山菜おこわ」に係る寄託契約は、「和風だし」に係る寄託契約とは別個の無償寄託である。

(2)無償受寄者に要求される注意義務は、自己の財産に対するのと同一の注意にとどまる(659条)。しかし、本問で、盗難の原因となったのは、Hが倉庫の施錠を忘れたことにある。たとえ自宅であっても、施錠はするものである。そうである以上、倉庫の施錠を忘れたことは、自己の財産に対するのと同一の注意義務にも違反したといえる。

(3)よって、Hには帰責事由があり、債務不履行(415条)が成立する。

2.賠償の範囲

(1)債務不履行による損害賠償の範囲に含まれるのは、通常事情による通常損害(416条1項)及び当事者の予見可能な特別事情による通常損害(同条2項)である。

(2)事実16下線部の事情は、倉庫の施錠を忘れたことから通常生じる事情ではない。従って、特別事情である。そこで、当事者にとって予見可能といえるかを検討する。

ア.特別事情につき予見可能性が要求された趣旨は、予見可能であるのに敢えて不履行を行った債務者には、そこから生じた損害も負担させるべきであるとする点にある。従って、「当事者」とは債務者をいい、判断基準時は、債務不履行時である。

イ.本問で、債務不履行とは、施錠を忘れたことであるから、債務不履行時は、平成24年1月24日である。
 Hは、上記の2日前に、FからQ百貨店本店での「山菜おこわ」の取扱いの決定及び全店舗での取扱いの可能性について告げられている。従って、施錠を忘れて「山菜おこわ」が盗取されれば、事実16下線部の事態に至りうることは、債務不履行時には予見可能であったといえる。

(3)もっとも、Q百貨店全店での取扱いは、本店での取扱いと異なり、いまだ決定していたわけではない。「評判が良ければ」という不確定な条件付きのものに過ぎない。そうである以上、全店での取扱いにより本来得られるべき利益の喪失は、事実16下線部の事実によって通常生じる損害とはいえない。

(4)よって、Fは、Hに対して、Q百貨店の全店舗で「山菜おこわ」を取り扱ってもらえなくなったことについての損害の賠償を請求することはできない。

以上

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