平成24年司法試験論文式
民事系第2問の感想と参考答案

試験問題は、こちら

書けるところに絞って書く

司法試験では、難問が出題される。
基本書や予備校のテキストでは、到底対応できない。
一見すると、そんな感じがする。
しかし、実は難しい部分には、答える必要がない。
基本書や予備校本に書いてある部分。
それから、見え見えの問題点。
これらをきちんと答えていれば、合格答案になっている。
それは、配点が、そのような部分に極端に偏っているからである。
出題趣旨や採点実感等に関する意見、再現答案等の分析から、そうしたことが明らかになってきた。
(詳細は司法試験平成22年採点実感等に関する意見の読み方(商法)を参照。)

本問も、難問である。
基本書や予備校のテキストに書いていないことが、問われている。
しかし、そこに答える必要はない。
書けるところを書いていけば、十分合格答案になる。
今回は、そのような視点から、どう書けばいいかを考えてみる。

累積投票との違いがポイント

設問1は、選任手続の当否を問う問題である。
アイは、議案提出の適法性や決議の効力まで論じる必要はない、という意味である。

設問1を見た時に、まず考えるべきこと。
それは、典型論点はない、ということである。

では、論点以外の基本事項はないか。
ある。
それは、取締役の選任手続である。
取締役の選任は、通常の選任決議と、累積投票による場合とがあった。
通常の選任決議の場合には、個別に賛否を問うから、全員多数派から選出される。
他方、累積投票だと、候補者数と同数の議決権を有し、特定候補者に集中して投票することもできる。
そして、最多得票順に選出されるから、少数派からの選出の余地がある。
これは、基本書や予備校テキストに記述のある基本知識である。
このことは、ウロ覚えでも、現場で条文を引けば、思い出せる。

(会社法、下線は筆者)

341条  第三百九条第一項の規定にかかわらず、役員を選任し、又は解任する株主総会の決議は、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(三分の一以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)をもって行わなければならない。

342条  株主総会の目的である事項が二人以上の取締役の選任である場合には、株主(取締役の選任について議決権を行使することができる株主に限る。以下この条において同じ。)は、定款に別段の定めがあるときを除き、株式会社に対し、第三項から第五項までに規定するところにより取締役を選任すべきことを請求することができる。
2  前項の規定による請求は、同項の株主総会の日の五日前までにしなければならない。
3  第三百八条第一項の規定にかかわらず、第一項の規定による請求があった場合には、取締役の選任の決議については、株主は、その有する株式一株(単元株式数を定款で定めている場合にあっては、一単元の株式)につき、当該株主総会において選任する取締役の数と同数の議決権を有する。この場合においては、株主は、一人のみに投票し、又は二人以上に投票して、その議決権を行使することができる
4  前項の場合には、投票の最多数を得た者から順次取締役に選任されたものとする
5  前二項に定めるもののほか、第一項の規定による請求があった場合における取締役の選任に関し必要な事項は、法務省令で定める。
6  前条の規定は、前三項に規定するところにより選任された取締役の解任の決議については、適用しない。

なお、施行規則66条1項1号イは、候補者ごとに賛否を問うことの根拠になる。

会社法施行規則66条1項)

 法第三百一条第一項の規定により交付すべき議決権行使書面に記載すべき事項又は法第三百二条第三項若しくは第四項の規定により電磁的方法により提供すべき議決権行使書面に記載すべき事項は、次に掲げる事項とする。

一  各議案(次のイからハまでに掲げる場合にあっては、当該イからハまでに定めるもの)についての賛否(棄権の欄を設ける場合にあっては、棄権を含む。)を記載する欄

イ 二以上の役員等の選任に関する議案である場合 各候補者の選任
ロハ略。

2号以下略。

ただ、この条文は、気付きにくい位置にある。
現場で引けなくても、合否には影響しないだろう。

上記の知識から本問をみる。
とりわけ、問題文5の得票数に注目する。
甲社では、定款上、累積投票によらないことになっている。
従って、最多得票順ではなく、個別に過半数を獲得しているか。
その点を、確認することになる。
すなわち、出席議決権の半数は、77万÷2=38万5千個である。
これを超える数の得票を、得ているか。
取締役に選任されたBCDPについてみると、過半数の得票を得ている。
だから、問題ない、ともいえそうだ。
しかし、よくみると、QRも、過半数の得票を得ている。
しかも、Bより得票数が多い。
それなのに、QRが取締役になれなかったのは、なぜか。
それは、Hが会社提案の候補者から採決したためである。
そうすると、問題点は、この採決順序にありそうだ。
そう気付くことができる。

この問題点は、基本論点ではない。
しかし、票数は目立つから、誰もがここには気付くだろう。
従って、ここは、書くべきだ。
もっとも、基本事項は、上記の選任の手続である。
とりわけ、累積投票との異同。
すなわち、一括採決でなく、個別の賛否によること。
それから、最多得票順でない、ということは書きたい。
この、入り口の部分の理解が、合格答案の要件となるだろう。
ここを理解していないと判断される答案は、厳しい評価になる。

他に、明らかな論点があるかというと、見当たらない。
定款には6人まで選任できる、とあることとの関係も、気にはなる。
設問1が「4名が」ではなく、「4名だけが」となっていることから、論点はあるのだろう。
(なお、任期中のHがいるので、追加で選任できるのは、1名だけである。)
ただ、採決順序と比べて、現場で問題点を明確にするのが難しい。
基本事項との絡みで書ける論点でもなさそうだ。
単に、あと1人までは選任できたのにしなかったのは不当、というだけでは、書く意味がない。
なので、上記採決順序に絞って書く。
そう判断してよかった。
(厳密には、議題に選任員数が明示されていたかどうかで場合分けが必要になる事案と思われる。)

では、採決順序の当否をどう考えるのか。
ここは、試験の合否という観点からは、どうでもよいところである。
基本事項ではないからだ。
だから、当たり障りのないことを書いて、無難に収める。
法は、こういう場合を予定しているはずだから、やむを得ないのだ。
乙社はいきなり提案したのだから、後回しにされてもやむを得ない。
だから、正当だ。
いや、会社提案から先に議決すること自体について、賛否を問うべきであった。
だから、不当である。
そういったことを、適当に書いておけばよい。
一番良くないのは、強引に基本事項をねじ曲げることである。
例えば、乙社の提案を考慮すると、公平の観点から累積投票によるべきである、とする答案である。
こういうものは、厳しい評価になるだろう。

条文を正確に当てはめる

設問2は、全体の5割の配点がある。
内容的にも、多くの人が書ける。
従って、ここは、しっかり書きたい。

小問(1)は、違法行為差止請求を訊いている。
設問は、「阻止することができるか」ではなく、「会社法上の権限」となっている。
これは、仮処分まで踏み込む必要はない、という意味だろう。

内容的には、条文を正確に指摘して当てはめる作業である。
Aによる場合には、「回復することができない損害」(360条3項)を要すること。
これを指摘できているか。
ここが、一つの分かれ目である。

それから、違法事由を明示できているか。
小問(2)との兼ね合いから、利益相反は指摘したい。
他方、重要な財産の処分も気になるが、これは書く必要がないだろう。
なぜなら、取締役会の承認があるし、内容的に利益相反と重なるからである。
この辺りをたくさん拾ったから、評価が上がる、というものではない。

注意したいのは、明示的には356条1項違反にはなっていないことである。
取締役会の承認を得ているからだ。
現場では、重要な事実の開示がないから違法、とした人が多かったようである。
Fが、説明が不十分だと異議を述べたことから、そう考えたということである。
しかし、重要な事実は開示されたが、なお説明が不十分であることは、あり得る。
すなわち、Fの異議だけでは、重要な事実の開示がない、とは断定できない。
はっきりしないから、場合分け、というのは、一つの考え方ではある。
ただ、それは紙幅を考えると、できない。
こういう場合、他の設問との兼ね合いも考える必要がある。
小問(2)をみると、423条3項各号該当性が問われていることがわかる。
この条文は、356条1項自体には違反しない場合の規定である。
直接の法令違反(356条1項違反)があれば、推定を待つまでもなく、任務懈怠を構成するからである。
すなわち、同項は、356条1項に違反しない場合に、なお善管注意義務違反を問う場合の推定規定である。
そうすると、小問(2)で3項各号を論じるなら、356条1項違反は生じないことが前提となる。
だから、小問(1)でも、356条1項違反はない、という前提で解答すべきだ。
そう判断できる。

従って、ここでの違法事由は、善管注意義務違反である。
ここは、地味ではあるが、微妙に評価に影響するところである。

なお、Pは上記取締役会に出席し、本件貸付けの提案をしている。
しかし、その審議に参加したとは、書いていない。
従って、特別利害関係取締役は審議に参加できるか、の論点は書くべきでない。
そもそも、この論点は細かく、明示されていても、書くべきか迷うべき論点である。
(予備校基準では、Bランク程度の論点である。)
本問では、明示がない以上、こんな論点を拾いにいくべきでない。

損害の当てはめは、無難に書いてあれば結論はどうでもよい。
金銭賠償になじむ、と考えれば、著しいが回復不能とまではいえない。
そう考えうる。
他方、15億は事後的な賠償によって回収できる額ではない。
そう考えれば、回復不能という余地がある。

それから、監査役会が問題視しない方針を採っている。
このこととの関係で、390条2項柱書ただし書は指摘したい。
ここは、知らなくても、現場で条文を確認すれば、気付くことができる。
他の人も、気付けば書いてくるだろう。
しかも、触れるのは1、2行程度で済む。
そうである以上、これは書くべきである。
これは、小問(2)でも同様である。

小問(2)は、主として423条の当てはめである。
入り口の代表訴訟権は、Aが847条1項3項。
Fが、386条1項である。
ここは、あっさり書きたい。
メインは、423条の当てはめだからである。
細かい論点が気になっても、敢えて省略すべきである。

例えば、847条1項には、ただし書がある。

(会社法847条1項、下線は筆者)

 六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き株式を有する株主(第百八十九条第二項の定款の定めによりその権利を行使することができない単元未満株主を除く。)は、株式会社に対し、書面その他の法務省令で定める方法により、発起人、設立時取締役、設立時監査役、役員等(第四百二十三条第一項に規定する役員等をいう。以下この条において同じ。)若しくは清算人の責任を追及する訴え、第百二十条第三項の利益の返還を求める訴え又は第二百十二条第一項若しくは第二百八十五条第一項の規定による支払を求める訴え(以下この節において「責任追及等の訴え」という。)の提起を請求することができる。ただし、責任追及等の訴えが当該株主若しくは第三者の不正な利益を図り又は当該株式会社に損害を加えることを目的とする場合は、この限りでない

本来は、Aがこれに当たらないことを当てはめるべきだろう。
しかし、問題文に、これに対応する事実はない。
積極的に当てはめることは、求められていないと判断すべきである。

また、小問(1)で回復不能な損害を認めた場合、847条5項が気になる。

(会社法847条5項、下線は筆者)

 第一項及び第三項の規定にかかわらず、同項の期間の経過により株式会社に回復することができない損害が生ずるおそれがある場合には、第一項の株主は、株式会社のために、直ちに責任追及等の訴えを提起することができる。ただし、同項ただし書に規定する場合は、この限りでない。

ただ、これから貸付けをする場合と、貸し付けた後の責任追及とでは、場面が違う。
これから貸し付ける場合、貸してしまうと取り戻すのが難しい。
だから、回復不能だと説明し易い。
他方、既に貸し付けた後の責任追及の場合、同じ説明はできない。
既に費消されている場合、さらに時間が経過しても、状況はあまり変わらない。
だから、小問(1)で回復不能な損害を認めても、当然に5項が適用されるとは限らない。
従って、ここは敢えて触れる必要はないと思う。
変に触れると、あまり意味のない内容を長々論じることになりかねない。

それから、AとFの訴えの優先関係も、思いつけば、気になる。
しかし、これは訴訟法上の問題である。
Aが提訴すると、Fが相手方になり得る(386条2項1号)こととの関係もある。
ここまでは、とても書いていられない。

また、Fにとって、提訴は義務なのか、任意なのか、という論点もある。
違法を認識しつつ、提訴しないという判断はできるのか、という論点である。
肯定すれば、提訴しないことがFの任務懈怠を構成することになる。
しかし、ここではそんなことを書く必要は、ないだろう。

さらに、そもそも、監査役の提訴権の根拠も、実は論点である。
386条1項は、「訴えを提起する場合」としか、規定されていないからである。

(会社法386条1項、下線は筆者)

 第三百四十九条第四項、第三百五十三条及び第三百六十四条の規定にかかわらず、監査役設置会社が取締役(取締役であった者を含む。以下この条において同じ。)に対し、又は取締役が監査役設置会社に対して訴えを提起する場合には、当該訴えについては、監査役が監査役設置会社を代表する

この条文を根拠に、監査役が提訴するか否か。
その決定権限まで認めているといえるのか。
一応、論点である。
しかし、これも肯定することを前提に、書いてしまってよいだろう。

他にも、429条(株主が第三者に当たるか)や、解任の訴え(854条1項)も思いつく。
こういったものは、たくさん挙げると評価が伸びる、と思われがちだ。
しかし、実際にはほとんど評価に影響していない。
敢えて紙幅と時間を割いてまで、書くようなことではない。
本問では、HDPが423条3項各号に対応している。
従って、423条がメインであることは、明らかである。
そうである以上、それに絞って書けばよい。

3項各号を正確に当てはめられるか。
これは、評価に影響する、
多くの人が、正確に答えられるからである。
各号該当性の検討を落としたり、間違えると、評価を落とす。
ただ、中身はそれほど難しくない。
Dは3号、Pは1号該当である。
これは、明らかだ。
ちょっと迷うのは、Hかもしれない。
結論的には、Hは2号該当である。
2号の「決定した取締役」とは、利益相反取締役と取引した際の会社側の代表者を指す。
すなわち、本問では甲社を代表するHと、乙社を代表する(または乙社と同一視できる)Pとが取引している。
本件貸付けの成否は、HとPの意思表示の合致による。
だから、Hは「決定した取締役」となるのである。

任務懈怠の推定や無過失の立証は、簡単に否定して構わないだろう。
そのような事情は、問題文上に挙がっていないからである。
なお、一元説や二元説を論じるのは、避けるべきである。
基本論点とは、いえないからである。
二元説を前提にして、淡々と当てはめていけばよい。

若干注意すべきは、Pに対する428条の適用の有無である。
同条は、無過失免責ができない場合を定めている。

(会社法428条、下線は筆者)

 第三百五十六条第一項第二号(第四百十九条第二項において準用する場合を含む。)の取引自己のためにした取引に限る。をした取締役又は執行役の第四百二十三条第一項の責任は、任務を怠ったことが当該取締役又は執行役の責めに帰することができない事由によるものであることをもって免れることができない

Pは、これに当たるのか。
それは、本件貸付けがどの類型の利益相反取引となるかによる。

(会社法356条1項)

 取締役は、次に掲げる場合には、株主総会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。

一  略。
二  取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をしようとするとき。
三  株式会社が取締役の債務を保証することその他取締役以外の者との間において株式会社と当該取締役との利益が相反する取引をしようとするとき。

3つの考え方があり得る。

1:乙社は取締役がP1人の機関設計である。
だから、取締役会設置会社ではない(331条4項)。
そうすると、取締役Pが乙社を代表する(349条1項本文)。
とすれば、取締役(P)が第三者(乙社)のために株式会社(甲社)と取引する場合に当たる。

2:乙社は、株主も取締役もPだけの会社である。
しかも、実際の事業はほとんど行っていない。
だから、乙社はPと同一視できる(法人格否認の法理)。
そうすると、取締役(P)が自己(P)のために株式会社(甲社)と取引する場合に当たる。

3:乙社は、株主も取締役もPだけの会社である。
従って、貸付けの相手方は乙社だが、乙社の利益は、Pに帰属するといえる。
だから、株式会社(甲社)が取締役以外の者(乙社)との間において、株式会社(甲社)と当該取締役(P)との利益が相反する取引をする場合であるといい得る。

本命は、1か2だろう。
3だと、乙社の代表者は誰なのか、という問題が生じる。
従って、3は避けたい構成である。
(ただ、3でも、大きく減点されることはないと思われる。)
個人的には、本問の事情だけから法人格を否定するのは難しいような感じがする。
とはいえ、2の構成でも全く問題はない。

上記1だと、「自己のためにした取引」にはならない。
だから、Pの無過失免責の余地が生じることになる。
(とはいえ、乙社の実態から無過失立証を否定すれば、結論は同じである。)

2だと、「第三百五十六条第一項第二号」の「自己のためにした取引」である。
従って、無過失免責の余地はない。
3は3号該当だから、「第三百五十六条第一項第二号」の取引ではないことになる。
従って、無過失免責の余地があることになる。

ただ、ここは、間違えてもそれほど評価には影響しないだろう。

それから、因果関係については、乙社の倒産は特別事情である。
従って、本来は民法416条2項の予見可能性を論じる必要がある。
しかし、本問ではそれに対応する事実はない。
また、多くの人が、ここは落とすだろう。
だから、これも無視して構わないと思う。
単に、倒産して返済不能になったんだから損害発生も因果関係もある。
その程度で、よいのだろう。

見え見えのものだけ拾う

設問3は、決議取消事由を検討させる問題である。
ここも、基本論点は見当たらない。
ただ、見え見えの問題点はある。
それは、Fの意見陳述が妨げられた点である。
ここには、絶対に配点がある。
そう確信できるはずである。
他に、現場で確信が持てる明らかな論点は、なかったのではないか。
だから、これに絞って書く。
(実際には、監査役会の同意(343条1項3項)が得られない場合に取締役が株主の資格で選任議案を提出できるか(乙社を介在させている点も含む)、議案@、Aを別々の議案として、しかも、それぞれを一括して採決したことの当否(設問1の裏返しの問題)、社外役員を含む場合の選任決議のあり方(個別議案とすると社外役員の員数を確保できない場合が生じる)等の論点がある。)

ここでの基本は、監査役の意見陳述権(345条1項、4項)の趣旨である。
特に暗記していなくても、独立性の担保、という程度は思いつく。
この趣旨を、どこかで書く。
例えば、裁量棄却できるか、という所で書く。

また、株主が監査役の意見陳述権侵害を主張できるか、という問題がある。
これについては、類似の論点として、他の株主に対する手続の瑕疵の主張の可否があった。

最判昭42・9・28より引用、下線は筆者)

 株主は自己に対する株主総会招集手続に瑕疵がなくとも、他の株主に対する招集手続に瑕疵のある場合には、決議取消の訴を提起し得るのであるから、被上告人が株主たるEらに対する招集手続の瑕疵を理由として本件決議取消の訴を提起したのは正当であり、何等所論の違法はない。

(引用終わり)

これを想起して、AによるFの意見陳述権侵害の主張も正当、と書けそうだ。
その際に、意見陳述権の趣旨を書く。
監査役の独立性は、監査役個人の利益にとどまらないから、株主も援用できる。
そういった程度で、十分だろう。
これは、落としても大きな影響はないが、思いついたら書きたい論点である。
そうでないと、Fだけでなく、Aがいることの問題点が出てこない。

いずれにせよ、答案上うまく趣旨を書ければ、合格レベルだろう。

若干ややこしいのは、Fの原告適格である。
831条1項を一見しただけでは、はっきりしない。

(会社法831条1項柱書、下線は筆者)

 次の各号に掲げる場合には、株主等(当該各号の株主総会等が創立総会又は種類創立総会である場合にあっては、株主等、設立時株主、設立時取締役又は設立時監査役)、株主総会等の決議の日から三箇月以内に、訴えをもって当該決議の取消しを請求することができる。当該決議の取消しにより取締役、監査役又は清算人(当該決議が株主総会又は種類株主総会の決議である場合にあっては第三百四十六条第一項(第四百七十九条第四項において準用する場合を含む。)の規定により取締役、監査役又は清算人としての権利義務を有する者を含み、当該決議が創立総会又は種類創立総会の決議である場合にあっては設立時取締役又は設立時監査役を含む。)となる者も、同様とする。

決議取消の訴えは、原則として「株主等」しかできない。
Aは株主だから、これに含まれるのは、明らかだ。
では、Fはどうなのか。
まず、「株主等」とはどういう意味なのか。
これは、828条2項1号に定義がある。

(会社法828条2項1号)

 前項第一号に掲げる行為 設立する株式会社の株主等(株主、取締役又は清算人(監査役設置会社にあっては株主、取締役、監査役又は清算人、委員会設置会社にあっては株主、取締役、執行役又は清算人)をいう。以下この節において同じ。)又は設立する持分会社の社員等(社員又は清算人をいう。以下この項において同じ。)

これを読んで、Fは監査役だから大丈夫、と一瞬思って、待てよ。
Fの選任議案は、否決されている。
だから、Fは、現時点では監査役ではない。
ちょっと大丈夫か、と気付いた人も、いたかもしれない。
そこで、もう一度、831条1項を見てみる。

(会社法831条1項柱書、下線は筆者)

 次の各号に掲げる場合には、株主等(当該各号の株主総会等が創立総会又は種類創立総会である場合にあっては、株主等、設立時株主、設立時取締役又は設立時監査役)は、株主総会等の決議の日から三箇月以内に、訴えをもって当該決議の取消しを請求することができる。当該決議の取消しにより取締役、監査役又は清算人(当該決議が株主総会又は種類株主総会の決議である場合にあっては第三百四十六条第一項(第四百七十九条第四項において準用する場合を含む。)の規定により取締役、監査役又は清算人としての権利義務を有する者を含み、当該決議が創立総会又は種類創立総会の決議である場合にあっては設立時取締役又は設立時監査役を含む。)となる者も、同様とする。

下線部の346条1項は、以下のような条文である。

(会社法346条1項、下線は筆者)

 役員が欠けた場合又はこの法律若しくは定款で定めた役員の員数が欠けた場合には任期の満了又は辞任により退任した役員は、新たに選任された役員(次項の一時役員の職務を行うべき者を含む。)が就任するまで、なお役員としての権利義務を有する

要は、後任が決まるまで、退任者が一応の権利義務者となる。
そういう規定である。

23年総会が取り消されると、議案Aによる選任が効力を失う。
そうなると、EFGが任期満了で退任したのに、新たに誰も選任されない状態。
すなわち、監査役が欠けることになる。
その結果、Fは監査役権利義務者となる。
だから、Fは原告適格を有する。
ああ、なるほどと、現場では思うだろう。
問題は、これを書くか、ということである。
気付いた以上は、書きたい。
ただ、うまくコンパクトにまとめることができるか。
「A及びFの主張」との対応で書くのは、難しいような気もする。
また、ここは誰もが書く基本、とまではいえない。
そういうことを考えると、書かなくてもいいのかな、という感じである。

以上を踏まえて答案化すると、下記の参考答案のようになる。
拾っている論点は少ないが、これでも、1行24文字で8ページになる。
(予備校の解答例等では、1行30文字や35文字の場合があるが、実際には書けない。)
現場では、この程度が限界だろう。
ああでもない、こうでもないと、思いついた論点を並べれば、肝心の部分が薄くなる。
しかも、ほとんどの思いつきの論述には、点が付かない。
説得的であれば、出題意図にない事項でも点が付く、と言われることがある。
しかし、そのようなことはない。
このことは、採点実感等に関する意見等から、わかることである。
司法試験平成22年採点実感等に関する意見の読み方(民法)参照。)
そういう書き方は、結果的に配点の集中する基本部分の点数を落とす。
実力があっても受からない人は、そのような書き方をしている。
確実に配点があると自信のある部分に絞って、きちんと書く。
そうすれば、特に無理をしなくても、無難に合格答案になる。
下記の参考答案程度でも、実際に書ければかなり上位になるだろう。
この程度でよい、ということに気付いているかどうか。
論文の合否は、実はその部分で決まっている。

【参考答案】

第1.設問1

1.問題の所在

 甲社の定款においては、取締役の選任決議は、累積投票によらないものとされ(問題文2(e))、取締役の選任決議は、議決権を行使できる株主の議決権の3分の1以上を有する株主が出席し、その議決権の過半数をもって行うこととされている(同(d))。上記定款の定めは有効である(341条かっこ書、342条1項「別段の定め」)。
 22年総会の取締役選任の決議は、議決権を行使できる株主の議決権の3分の1(約33万個)以上である77万個の議決権を有する株主の出席があり、B、C、D及びPは、いずれも出席した株主の議決権の半数である38万5千個を超える得票を得ている(問題文5)。従って、B、C、D及びPは、いずれも選任決議要件を充たしている。
 もっとも、各候補者の実際の得票数によれば、Q及びRも、出席した株主の議決権の過半数の賛成を得ている。仮に、乙社提案の候補者の採決を、会社提案の候補者の採決よりも先に行ったならば、Q及びRは、取締役に選任されることになったはずである。そこで、議長であるHがこのような採決順序を採ったことの当否が問題となる。

2.検討

 会社法上、累積投票による場合には、投票の最多数を得たものから順次取締役に選任される(342条4項)。これに対し、累積投票によらない場合には、選任の可否を直接議決する方式による(341条)。そうである以上、候補者の選任の可否を個別に採決する場合において、選任決議要件を充たす候補者が選任されるべき員数を超えるときは、採決順序によって結果が異なることになることはやむを得ない。
 また、本問では、総会当日になって乙社による候補者の追加がなされたのであるから、まずは当初予定されていた会社提案の候補者につき採決し、その後に乙社提案の候補者について採決をしたことをもって、恣意的であるとか、不合理であるとまではいえない。
 以上から、議長であるHが本問のような採決順序を採ったことは、不当とはいえない。

3.結論

 よって、22年総会の取締役選任は、正当である。

第2.設問2

1.小問(1)

(1)本件貸付けの違法性

 乙社は、株主も取締役もPだけの会社である(問題文4)から、乙社を代表するのはPである(349条1項本文)。そうすると、本件貸付けは、Pが乙社を代表して甲社と取引をする場合であるから、利益相反取引に当たる(356条1項2号)。従って、本件貸付けをするためには、取締役会の承認を要する(356条1項柱書、365条1項)。本問では、本件貸付けにつき取締役会の承認がある(問題文6)。従って、この点に違法はない。
 しかし、本件貸付けの相手方である乙社は、設立以来、株主も取締役もPだけの会社で、実際の事業活動はほとんど行っていない(問題文4)。このような乙社に対して、甲社の資本金の2分の1に相当する15億円もの資金を無担保で貸し付ける行為は、貸付けをすべき特別の理由が何らうかがわれない本問の事情の下では、甲社を害することが明らかである。そうだとすれば、本件貸付けを実行することは、たとえ取締役会の承認があったとしても、善管注意義務(330条、民法644条)に反する。
 以上から、Hが甲社を代表して本件貸付けを実行することは、違法である。

(2)差止請求

 取締役の違法な行為を事前に阻止する制度として、株主(6か月前から株式を有するもの)及び監査役には、差止請求の権限がある(360条1項、385条1項)。
 もっとも、監査役設置会社において、株主がする場合には、「回復することができない損害」(360条3項)の発生を要するが、監査役がする場合には、「著しい損害」の発生で足りる(385条1項)。これは、監査役設置会社においては、取締役の監視及び防止は、第一次的に監査役の職責とされているためである。
 そこで、本問において、上記損害の発生があるかを検討すると、15億円もの資金は、一度社外に流出すれば回収することは困難であるし、甲社の資本金の2分の1にも相当することからすれば、経営破たん等甲社の経営基盤に不可逆的な支障をきたすおそれがあると考えられるから、著しい損害のみならず、回復することができない損害をも生じるおそれがあるということができる。

(3)結論

 よって、A及びFは、本件貸付けをあらかじめ阻止するために、取締役の違法行為差止請求権を行使することができる。なお、監査役会は本件貸付けを問題視しない方針であるが、監査役の独任制から、上記Fの権限は妨げられない(390条2項柱書ただし書)。

2.小問(2)

(1)Aは株主代表訴訟(847条1項、3項)により、Fは監査役の代表権(386条1項)に基づき、本件貸付けに関し、会社を代表してH、D及びPに対し423条1項の任務懈怠責任(対会社責任)を追及する訴えをすることが考えられる。

(2)そこで、H、D及びPが423条1項の任務懈怠責任を負うかを検討する。

ア.損害の発生及び因果関係

 乙社は倒産し、甲社が本件貸付けの返済を受けられなくなったのであるから、本件貸付けによって、本件貸付けに係る15億円のうち未返済の部分について甲社に損害が発生したといえる。

イ.任務懈怠及び帰責事由

(ア)本件貸付けは、前記1(1)のとおり、利益相反取引であり、これにより損害が発生したから、423条3項の適用を検討する。
 Hは、甲社の代表取締役として、本件貸付けを決定した取締役であるから、任務懈怠が推定される(同項2号)。
 Dは、本件貸付けに関する取締役会の承認の決議に賛成した取締役であるから、任務懈怠が推定される(同項3号)。
 Pは、甲社と本件貸付けに係る取引をした取締役であるから、任務懈怠が推定される(同項1号)。

(イ)また、前記1(1)のとおり、本件貸付けが甲社を害することは明らかであるといえるから、H、D及びPにおいて、上記推定を覆し、又は帰責事由がないこと(無過失)を立証して免責される(428条1項反対解釈)余地はない。

(ウ)以上から、H、D及びPに任務懈怠が認められ、これにつき無過失による免責は認められない。

ウ.結論

 以上から、H、D及びPは、423条1項の任務懈怠責任を負う。

(3)よって、A及びFは、本件貸付けに関し、H、D及びPに対し423条1項の任務懈怠責任を追及することができる。なお、監査役会の方針は、Fの上記権限を妨げない(390条2項柱書ただし書)。

第3.設問3

1.A及びFの主張

 23年総会に出席したFは、議案@及び議案Aの審議の際に、監査役の選任について意見を述べようと、議長であるHに対して発言の機会を求めた。しかし、Hの制止により、Fは、意見を述べることができなかった(問題文12)から、23年総会の決議方法には法令違反がある。

2.主張の当否

(1)法令違反の有無について

 監査役は、株主総会において、その選任につき意見を述べることができる(345条1項、4項)。従って、議長は、正当な理由なく監査役の意見陳述を妨げてはならない。本問で、HがFの発言を制止したことに正当の理由があるとはいえないから、決議方法の法令違反(831条1項1号)として、決議取消事由に該当する。

(2)Aの主張適格について

 Aは株主に過ぎず、自らの意見陳述を妨げられたわけではないから、これを主張する利益を有しないとも思われる。しかし、監査役の意見陳述権は、監査役の個人的利益のためのものではなく、監査役の独立性を担保し、ひいては会社運営全体の公正性を確保するためのものである。そうであるとすれば、Aにおいても、これを主張できる。

(3)裁量棄却について

 裁判所は、決議方法に法令違反がある場合であっても、違反する事実が重大でなく、かつ、決議に影響を及ぼさないものであると認めるときは、なお請求を棄却することができる(裁量棄却、831条2項)。
 しかし、監査役の選任に係る意見陳述権は、監査役の独立性を担保し、ひいては会社運営全体の公正性を確保するための重要な権利である。また、本問では、議長のHにおいて、単に意見陳述の機会を与えるのを失念したのではなく、意見を述べようとしたFに対し積極的にこれを制止したのであるから、その態様も悪質といえる。
 そうである以上、違反は重大である。従って、たとえFの意見陳述が決議に影響を及ぼさないと認められる場合であっても、裁判所が裁量棄却をすることは許されない。

(4)結論

 よって、A及びFの主張は、正当である。

以上

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